●リプレイ本文
●挨拶
彼女の事務所に顔を出して、迎えに行く者がいた。
ドイツ人とロシア人のハーフであるファファル(
ga0729)だった。
事務所の受付に話をし、フィアナがでてくる。
「初めまして、あたしがフィアナ・ローデン(gz0020)です。今回の護衛よろしくお願いします」
「ああ、貴女がフィアナか‥‥。よろしく」
と、握手を交わした。
「では、他の者は既に本部の会議室にいる。きてくれるか?」
「はい、勿論。と‥‥待ってください」
「?」
「それでは皆さん行ってきます!」
フィアナは元気に、事務所の人々に言うのだった。
「行ってらっしゃい! がんばってこい!」
返事が返ってくる。
「ではいこう」
「はい」
2人は、本部に向かっていった。
●準備万端
作戦会議は既に、現地入りしてからの追加作業から再確認のみとなった。
メディウス・ボレアリス(
ga0564)は、高速艇の一室で、テーブルに様々な書類と無線機を無造作に広げて、ロードマップを見、フィアナが教えてくれた情報のまとめのメモと比べ、高級煙草を弄っていた。何か思案しているらしい。既に作戦の大筋は決まっているので皆思い思いの行動を取っている。
「考えると、クリスマスにコンサートか。洒落たものだ」
と、つぶやき、個人的な計画を練る。
必ず成功させようと言う、信念を持って。
愛原 菜緒(
ga2853)とLaura(
ga4643)、UNKNOWN(
ga4276)、小川 有栖(
ga0512)、とファファルは、フィアナとともに、今のうちに大まかなセッションプログラムを立てている。移動状態になると護衛と先行、中継がわかれるため、うまくコンサートの運営が難しくなる。激戦区の名古屋に近い場所に向かうのだから、高速艇で可能な限りの事はするのだ。
「じゃ、こういう事で良いでしょうか?」
「ああ、それが良いな」
UNKNOWNが頷いた。
「司会進行は私に任せて♪」
愛原は可愛く力こぶを作る。
もっとも、彼女の行動がとても可愛いためか、フィアナは彼女を後ろから抱きしめた状態での打ち合わせだ。緊張感があるのかないのか。見ていると姉妹のような気がするので、そのままにしているわけだが。
「このジャズのあとに、少し落ち着いた感じのものはどうか?」
ファファルが提案する。
そういう、真剣みもありながらも、和やかなムードでコンサートのプログラムの組み立ては進んでいた。
「バンド名決めないと」
「?」
フィアナは首をかしげた。
「そうそう」
皆が頷く。
「『Beam Of Hope』ってどうでしょう?」
小川が言う。
「それは良いな!」
全員が賛同した。
「素敵な、名前ですね!」
フィアナもとても喜んでくれた。
鏑木 硯(
ga0280)と水鏡・シメイ(
ga0523)は、考えているメディウスのいる場所に向かい、こう話す。
「どうした? もうあとは現地での再確認だけで、自由のはずだが?」
「はい、それは知っています。ただ‥‥」
「ただ?」
「彼女のファイルを見てください」
「ふむ」
依頼主のフィアナの書類をみる。
12月7日。
察しの良い彼女は、
「なるほど、サプライズで彼女の誕生日を祝う訳か」
「その通りです。すでに、他の方も了承を得ています」
「驚く顔が楽しみですね」
鏑木が言う。
「ああ」
メディウスも興味深い顔をし、
「それは、舞台係が盛大にするだろう」
「愛原さんが打ち上げも盛り上げたいと言っていました」
水鏡が言うと、
「それもありだな。我(オレ)も賛成だ」
そのためには‥‥、
「何が何でも、彼女を送り届け、全員でラスト・ホープまで帰るぞ」
と、気合いを入れるように、メディウスは言うのであった。
●改造時間
まず安全圏に高速艇が降りる。どこかの空港のようだ。全員が降りると、大体昼時である。
「ロードマップや、情報をまとめると遠回りすることになるな。名神は途中までOKとしても、滋賀で一度おりるべきだな」
「そのようだ」
激しい戦いは何も名古屋だけではない。四方から来ているので、どこかで高速が破壊されている。幸い、大阪から滋賀の大津市付近までは生きているとの情報があり、かなり時間は短縮される。そこから国道や裏道をつかい、避難所に行くわけだが。
「色々準備、休憩をして‥‥、遅くて12時間。深夜に着くな‥‥。大丈夫か?」
UNKNOWNがフィアナに聞く。
「大丈夫です。間に合いますから」
「なら、それでいこう。始めるぞ」
丁度、借りられる車とバイクが運ばれてきた。
「おおう、これは!」
メディウスは一番お気に入りの車種をみて笑みを浮かべた、クロスカントリー用の車である。そのため悪路には強い。
「さて、ワゴンの改造もするぞー!」
サイエンティスト達が嬉々として、車2台を簡易ながら防弾仕様にしていく。しっかり、外部は取り外し可能にする。
1−2時間はかかっただろう。
「さて、皆でペイントだ!」
上空の友軍が分かるようなマークと、赤と白をテーマにしたクリスマスデザインにペイントしていく。それは全員が手伝って、サインもこっそり入れる。
『Beam Of Hope』と、大きく、ワゴンのサンルーフに邪魔にならないよう、大きく目立つように書いた。もちろん、メディウスが乗る車にも。
結構派手な車のできあがりである。
バイクに乗るのはファファルとUNKNOWN。クロスカントリータイプを改造した車にメディウス、水鏡、愛原。改造防弾ワゴンに鏑木、小川、Laura、フィアナとなる。
バイクが若干離れて、先に危険がないかを確認し、中継車と護衛ワゴンに連絡を取り、移動していく。2時間はしって一時休憩のサイクルで進むのだ。見積もって、12時間となる。
「寒くなるから、しっかりココアや緑茶で温まろうね」
ココアが振る舞われる。
「歌手は喉が命ですからね。ありがとう」
「そうですね。ありがとう」
ファファルとLauraは、礼を言ってから飲む。
準備は整った。
UNKNOWNがバイクに乗って、煙草を取り出し、そして一本ファファルにあげた、自分の分も1本出して吸い出す。煙を吐きながら、
「行くとするか‥‥セッションの始まりだ」
ファファルに言った。
「ああ」
そして、ファファルは、
「さて、我々は先に出発しようか‥‥」
と、自分の担当バイクに乗り、エンジンをかけ、同時に走っていった。
その後をメディウスが運転する車、そして、Lauraが運転するワゴンが続いていく。
●目的地近くで‥‥
しっかり、地元の情報を手に入れ、それを吟味し、確実に前進する。遠くの方で爆撃の音がすれば回避するため、範囲から離れ、時には、道すがら出会った人に尋ねる。そうして、高速から国道、裏道を使い、目的地まであと2時間になった。時刻はおそらく20時だろう。周りは森を切り開いて出来た、裏道の様なところだ。
UNKNOWNとファファルが先行し、あたりを見渡す。殺気を感じる。
「この、殺気はキメラ独特のものだな!」
急停車し、気配を詳しく探る。
おそらく10〜20m、それでも分かる4つの光、そして獣の唸る声。
瞬間、ライトを当てる。
トラのような生物だが、この日本に野生の虎なんかいない。それに、異常なほど長い犬歯を見せている。良く百科辞典で見つかる過去の生物だ。しかし、かなり異形化している。
「あれは、サーベルタイガーじゃねぇか!」
UNKNOWNは、リアランプで後続の車に「キメラ遭遇」と信号を送る。
キメラもすぐに向かってくる。
これは逃げるより、一気に叩くほうが良い。
一番後ろのワゴンでは、
「キメラと出会ったみたい!」
Lauraがスピードを落とす。
「いつでも逃げるように準備を!」
鏑木が指示する。彼はフィアナを優しく抱きしめていた。
小川はロケットパンチβを持ち上げ、サンルーフを開きそこで構える!
「使わない方が良いけども、もしもフィアナさんに何かがあったらいけない!」
そう、彼女は真剣だった。迎撃態勢に入る。
ただ、先は闇夜なので、ワゴンから先の方がどうなっているか分からなかった。しかし、必ず守る。
UNKNOWNがまず壁になって、ハンドガンを構え、サーベルタイガーを撃つ。命中しひるむが、まだ襲いかかってくる。ファファルは、確実に仕留めたいために、いったん距離を置き、スナイパーライフルを構えるに留まった。キメラ2匹が、UNKNOWNに噛み付こうとする! しかし、彼のバイクテクニックで上手くかわす。
「ふう!」
丁度、横からメディウスの車がキメラ一匹を轢く! フォースフィールドで弾かれるが、改造したおかげで、車にも傷一つ無い。ただ、反動でキメラは少し押しやられている。そのキメラに向かって、ファファルがライフルでねらい撃つ。そこでキメラは倒れた。
箱乗りからの水鏡がもう一匹を狙撃する! キメラの目を貫いた! キメラは悲鳴を上げる! 続いて、車から降りた愛原が、可愛さの雰囲気が消え、瞳を深紅に変えながら‥‥、
「消えろ」
と、冷徹な口調で、サーベルタイガーを切り倒した。
もの20秒で、キメラを倒す。
全員は安堵するよりはやく周りを警戒する。他に気配はない。
覚醒をとくと、安堵したようにため息を吐き、無線でワゴンに向かって『通路確保、そのまま進む』と連絡するのであった。
●翌日がコンサート
やはりたどり着いたのは深夜だった。かなり広い学校である。
それより、暗くてよく見えないし、もう、全員、疲労と睡魔で倒れそうであった。
「ふぁああ」
愛原があくびをする。
小川にもそれがうつった。
大人達とフィアナが、色々避難所の軍とボランティア団体、フィアナの支援団体とのやり取りはかなり遅く続くようだが、フィアナが戻ってきて、
「お疲れのさまです。先に眠っていても良いですよ。まだ寝る場所もありますから」
「そ、そうなんだ。うん、寝かせて貰おうかなぁ」
ワゴンのシートを全部倒し、そこで可愛く眠る2人。
フィアナ微笑んで、また打ち合わせに戻るのであった。
翌朝。
メディウス、鏑木、水鏡は、周辺警備に当たり、他の5名はステージの準備に入った。
「行うのは14時です。始めましょう」
てきぱきと働くスタッフと、一行。
不審物、不信人物が居ないか警備している者からも見えるように、ステージが徐々にできあがる。徐々に野次馬が出来ている。だいぶ形になったときに、まずは軽くリハーサルをこなす。
問題はない。
そして、時間が来るのを待つ。
何人かが見物客が集まってきた。
「さて、いくよ!」
愛原が言う。
フィアナと袖スタッフが頷いた。
愛原が、ステージに立つ。
「大変お待たせしたよ! 今回、フィアナ・ローデンさんのコンサート! 是非楽しんで聴いてください! では、フィアナさんどうぞ!」
可愛くも元気有る声が、ステージから聞こえる。
同時にフィアナと、サックスを持ったUNKNOWN、ピアノのファファル、ギターを持つLauraが出てきた。
「初めましてこんにちは! フィアナ・ローデンです! お集まり頂きありがとう!」
フィアナが喋る。
拍手が聞こえてくる。
「今はとても危険な時代です‥‥」
彼女は、この激動の時代と不安、悲しみ憎しみ、しかし、元気を出して、歩いていこう。笑顔をと、彼女の想いを訴える。
「でも、皆さん勇気を、希望をもって生きてください。まだ、人間は出来ることがあるのですから!」
その言葉に、喝采がおこる。
「まず、最初の曲は‥‥」
曲名を言ってから少し説明する。そのあとに、UNKNOWNがサックスを演奏し、ファファルがピアノを奏でる。フィアナが歌い出し、Lauraがコーラスに入る。ジャズだった。
そこからポップ、カヴァー、オリジナルと続くが、どれも良い歌であり、徐々に人々が集まってきた。
「歌が聞こえる。‥‥これは良い歌だ」
「いこう!」
「これはなんという神曲」
どんどん、あつまってくる。
メディウスの前に子供が走っていき、ぶつかってしりもちをついた。
「ごめんなさい!」
子供は謝る。
「大丈夫か? 元気なことは良いことだ。しかし気を付けるんだぞ」
彼女は子供を立たせて、埃を払って上げる。
「うん。じゃ!」
子供は走っていった。
避難所本部でも、
「あのコンサートの成り行きを動画に納めろと、連絡が入ってる」
「ああ、そうだと思ってやってるよ」
「なんでだろな?」
「ああ、車見ろよ」
「なるほど」
と、言う声も聞こえてきた。
「成功のようです♪」
鏑木は微笑んでいた。
そして、フィアナが最後にうたい、全ての行程が終わったと思ったが、サックスのUNKNOWNがサックスで「ハッピーバースデー」を奏でて、Lauraが歌う。
「え?」
「フィアナさん、誕生日おめでとう!」
愛原がマイクを持って言った。
「あ、ありがとう!」
観客も一緒に『おめでとう』コールで盛り上がった。
「ありがとう、皆さんありがとう。あたし、嬉しいです!」
フィアナは感激している。
「‥‥あ、では、お礼にですが‥‥、もう一曲歌います。それは今完成した、そしてここに来たときから考えていた、歌です。聴いてください!」
彼女は涙をぬぐい、観客を見渡し、仲間をみてから、もう一度観客を見、
『きっと未来に希望の光を』
と、言った。
それが、本当の始まりの歌。
●打ち上げ
コンサートが終了した後。
ステージ、演奏班は燃え尽きていた。
「つ、つかれたー」
2〜3時間ははやりつかれるものだ。
その分、歌手であるLauraは我慢できているようだが、少し休憩してから帰還するという事になる。運転などはローテーションで代わって、来た道を戻っていく。そして、無事にラスト・ホープまで帰ることが出来た。
フィアナの事務所の会議室のような質素な部屋で、かなりの大所帯でジュースやお酒、ピザやら料理を囲んで宴会ムードだった。
「改めて、フィアナさん誕生日おめでとう!」
愛原と小川、Lauraがフィアナを祝った。
たまに、疲れがピークになると、逆にハイテンションになる。そんな感じだと思われる。
「皆さんありがとうございます」
フィアナがお辞儀をする。
「なに、遠慮することはないのだ。キミを守れて本当に良かったし、良い歌も聴けた。避難所は大賑わいだったからな」
UNKNOWNが笑う。
水鏡と小川、Lauraがやってきて、プレゼントを渡す。
「気に入ってくれると、私は嬉しいです」
「加湿器をどうぞ!」
「特別のコーディネートのシューズと帽子です!」
「シメイさん、有栖さん、Lauraさん、ありがとうございます!」
プレゼントを貰って、更に笑顔になるフィアナ。
誕生会という名の宴会は続くが、
たけなわに、フィアナが言った。
「これからも、私は、がんばって歌っていきます! 皆さん応援してください!」
その言葉に、拍手が巻き起こった。
数日後。
彼女たちのニュースが流れた。
『Beam Of Hope』の事が。
これが一歩。確実な一歩である。