●リプレイ本文
国王様が、2人の勇者を招集しました。
僧侶にして拳法家のデューク・ウェストと、元騎士の風雪 時雨です。
「デューク・ウェスト、馳せ参じました」
「風雪 時雨、再び王の元へ‥‥(でもなぜ自分なのでしょうか?)」
2人は跪いて、謁見しています。
かなりやる気のあるデュークに反し、元騎士の風雪はやる気がなさそうです。
「よくぞきた、勇者達よ。フィアナ姫を救い出すために、是非魔王を倒して貰いたい」
『はっ!』
「魔王は強大である。仲間をさがし、そして魔王を倒す術をしる隠者を捜すのだ」
「わかりました、王。この命かけても救い出して見せます」
そうして、2人の勇者は、旅に出るのでした。
「まずは酒場ですね」
「だね〜。人が集まっていそうだ」
2人は村にある、小さな酒場に向かいました。しかし、後ろから誰かが追いかけてきます。
「ま、待ってくれ!」
この国の近衛兵が着るプレートメールと、大きな剣を持った、女戦士でした。
「な、何だね? 君は? 私たちに何か伝えることでもあるのかね〜」
デュークが、息を切らしている女戦士に話しかけました。
「姫様が攫われたのは、この俺が不甲斐なかった故、頼む! 俺も一緒に連れて行ってくれ!」
「王の名に背いてでもでしょうか?」
今度は元騎士の風雪が尋ねました。
「そうだ」
女戦士の目には、強い意思を感じました。
その意思に、2人の勇者は少し考えて、こういいました。
「良いでしょう。ともに救いに行こう」
「ありがとう!」
3人は握手を重ねて、仲間になりました。
そして酒場には、仕事上がりで楽しいひとときを過ごす村人が騒いでいました。その中でひときわ目立つ、猫人族の軽戦士のアヤカが踊っています。舞うごとに可愛い猫耳がぴこぴこ、しっぽも振り振りとして可愛い踊りを踊っています。
「あ、勇者様ニャ」
軽やかにステップを踏み、デュークや時雨、綾に近寄ってきました。
村人はそれに気づいて、『勇者様! 姫をお救いください!』と懇願する。困った顔をする時雨ですが、デュークはうんうんと、わかりましたと答えていました。
「一緒に冒険ニャ! あたいもいくニャ」
アヤカは、時雨とは知り合いだったようです。
「助かります。隠者についてもよくわかりませんので」
「じつは、あたいもしらにゃいにゃ!」
彼女がそう言うと、デュークも時雨も豪快にずっこけました。
「にゃははは」
しかし、戦士が増えるのは良いことです。
奥の方で、音楽が聞こえます。
「ん、旅の詩人‥‥吟遊詩人が居るみたいですね〜」
デュークが耳を傾けて、音楽を奏でている人を捜します。それは、小さなステージに、一つだけの椅子。そこに草色を基調としたに赤と白などで綺麗な刺繍をした服装の女性が、小型のハープを奏でていました。綺麗な歌声とともに、音色が心を落ち着かせます。
「あなたは、旅の吟遊詩人ですか」
デュークが尋ねました。
女性は、リュートを引くのを止めて彼を見ます。
「‥‥はい、そうです。フィアナ姫の歌は、他の国でも絶賛されており、私も大ファンなのです」
ニッコリ微笑み、お辞儀をしました。
「私は、美環玲です。バードをしております。勇者の事を聞き及んでおりますので、是非仲間にして頂きたいです」
「‥‥ふむ、旅の詩人となれば色々知っていると聞きます。喜んで」
「ありがとうございます」
2人は握手を交わしたのでした。
「普通、主人公格、時雨じゃないのかニャ? 『元騎士、威厳取り戻すため』とかで」
「えー、たまにはいいですよ」
アヤカのつぶやきに苦笑する時雨に、
「わー、やるきないニャ、この勇者、相変わらずマイペースだニャ!」
彼女は溜息をつくのでした。
「魔王を知る、隠者についてですか?」
玲が何かを思い出そうとします。吟遊詩人であれば、世界の情報や噂などをよく耳にするのです。
「『魔界』との狭間。『魔の森』にいると聞いております。険しい道のりです」
「では、そこに向かいましょう。隠者が何者か分かりませんが‥‥」
『魔界』と言われる場所の、荒廃している山地に、漆黒にそびえるお城が建っていました。魔王様のお城です。常に曇っており、枯れた木にはカラスがとまって、不気味に鳴いています。
お城から悲しい歌声が聞こえてきました。
フィアナ姫の悲しみの歌です。
「‥‥人間界では、綺麗な歌声と聞いていたのですが、悲しみの歌とは‥‥」
風の魔法剣士・優は、表情を曇らせていました。
しかし、今の魔王様が王として座するまえから忠誠を誓い、今に至る彼女は、命の恩人である、彼に反論は出来ませんでした。もっとも、問題なのは、攫ってきた姫を取り戻す人間のことです。
「‥‥なに? やはりか?」
占術を持たせた偵察の使い魔と部下により、勇者達が来ると言うことを知りました。
「これは魔王様に報告せねばなりません‥‥杞憂であればいいのですけど」
彼女は、魔王の間に向かい、知らせることにしました。
魔王様もその事を予想していたようです。
「やはり来ましたか。こうでなくてはなりません」
「ご指示を」
「試練を乗り越えてこその、人間。踊らせてみればいいのです。この場所にやってくれれば、いいのです」
「それでは、魔王様の身にもしものことが‥‥」
「大丈夫ですよ、優。大丈夫です」
魔王様は優しい笑みを優に見せました。しかし目は、何かを目論んでいるかのようです。
「御意」
彼女は従うしかありませんでした。
しかし、それでも気になる彼女は、部下や魔法を使い、勇者一行を監視することにしたのです。
悲しみの歌を歌うフィアナ姫の部屋は、いつも住んでいるお城のお部屋とは違い、鉄の柵で閉ざされています。しかし、綺麗なベッドや家具、絨毯、魔法による空調調整で快適です。
「私はここにいる意味は何なのでしょうか?」
魔王様は、フィアナに自分のためにだけに歌えと、言いました。しかしフィアナは、それを断りました。
「歌は、皆にあるため。好きな歌を、独り占めにすることはできません」
と。
そういうと、魔王様は悲しそうに、去っていったのです。
「悲しい瞳でした」
姫は溜息をついていました。
部屋に誰か近づいてきます。石畳にヒールの音が聞こえるのです。カツーンと。
「まったく、人間界から人を攫ってきて、父様は何を考えているのでしょうか!?」
魔王様の姫君、白亜は怒りながら歩いていました。父親の魔王様の行動が謎めいていて分からないのです。
「ご主人様は深いお考えがあるからでしょう」
メイドの、マイアはそう言うだけでした。
「‥‥ま、気になる歌姫なのだから良いけど」
少し頬を染めて、別の方を見ている魔王のお姫様でした。
自分の、父が攫ってきた姫を知りたいと正直に思っていたのです。
「姫様‥‥入ります」
魔法の鍵がかかったドアが開き、恭しく白亜はフィアナ姫にお辞儀をしました。
「あなたは誰ですか?」
「父が大変失礼なことをして申し訳ありません、フィアナ姫。わたしは魔王の娘、白亜と申します」
丁寧な挨拶に、フィアナ姫は少し身構えますが、
「大丈夫、あなたに危害は加えませんから」
白亜姫は微笑みで返すので、フィアナ姫はどうするか悩みました。
「余り、怒らないでくださいね。父は優しいところがあるのですが、行き過ぎなところが」
「‥‥そうですか。悲しい目をしておられました」
「お茶などいかがです? 皐月さんの淹れるお茶はおいしいのですよ。大丈夫何も心配はないですから」
白亜が、お茶を勧めます。
「‥‥はい」
フィアナ姫は、一緒にお茶を飲むことにしました。
マイアが、上手にお茶を淹れます。薫りが部屋に満ちると、安堵の溜息が零れてしまいそうでした。
「人間界について教えて頂けませんか? 実は少し興味がありまして」
白亜姫は笑顔でフィアナ姫に色々聞きました。
魔族は荒廃した世界に住んでいる事が当たり前。しかし、なぜこの荒廃した世界にいるのかが不思議です。本で調べることはあっても、この荒廃した世界だけにいる白亜姫は、人間界を知りたいのは当然でした。
紅茶を飲むフィアナ姫は、きょとんとした顔になります。
(「魔族といっても、なぜでしょうか?」)
「では、まず‥‥」
そうして、フィアナ姫と白亜姫は仲良しになっていきました。
「歌を聴きたいです」
「はい、でも、これは‥‥」
「お父様には内緒にしますから」
フィアナ姫は友達と、一緒に歌う事にしたのでした。それは、綺麗な花畑で、友達と遊ぶ楽しい明るい歌でした。優には聞こえます。
「ああ、これが彼女の歌なのか、心が洗われる」
勇者一行は、道なき道を進みます。モンスターと戦ったり、途中に困った人がいれば助けたりと、旅が続きました。
そこで、平和を考える元騎士、時雨も何か考えが変わってきたようです。
キャンプのたき火を囲んで、時雨は語り出しました。
「戦いを回避するために騎士になったのですが、騎士団長と折り合いが付かなくなり、騎士から剥奪された身ですが‥‥」
「戦いを回避する事は、良い考えだと思うけど。それだけではどうしようもない事があるのだよ」
デュークが、元騎士を諭します。
「それを貫く強い意志が大事なのです」
「‥‥強い意志」
「だな。騎士は国を守らないといけない。あんたはそれを棄ててしまったんだ。戦いを否定すると騎士の立場がなくなるとかそう言うモノではなくもっと精神的なモノだと思う」
綾が時雨に言いました。
「この探求で、しっかりと自分が見据える力と意思を持てと王は言いたいのだと、俺は考えるね」
そう、王様は時雨に真の意味で騎士として立ち直ってほしいとおもったからと、綾は考えていたのでした。
「‥‥自分にその資格があるかは‥‥」
元騎士は悩みました。
難しい話をしているので、アヤカはたき火を弄っては、旅の途中で買っておいた乾燥肉を上手に焼いていました。
「やけたにゃー」
そんなときです。
『ひぃぃぃぃ』
間の抜けている感じはしますが、確かに悲鳴が聞こえました。アヤカの猫耳がぴくんと立ちます。
「何かが襲われている?」
剣を抜いて、時雨と綾が向かいます。
かなり先の藪の先に、薄い赤と白の縦ストライプの槍をもった屈強なホブゴブリン数匹が、うす茶色の転がる『何か』に突き刺していました!
『今日の餌だ! うひょお!』
「何か知らないけど助けないと!」
「そうですね」
いつの間にか後ろにいた玲が、歌から呪文を紡ぎ出して、ホブゴブリン共を朦朧とさせます。
「ハァ! 無銘の拳をくらえ!」
メルヘン風味から一転、劇画調にデュークが正拳突きで、ホブゴブリンを打ちのめし、関節技で腕を折ります。
「むっはー! タダの僧侶と思っていないことですよ!」
やせているのに何という身のこなしとすばらしい体術。色々ツッコミどころはあるが夢なので気にしないでくださいね(笑)。綾と時雨、アヤカは素早くホブゴブリンを斬り、退散させました。
「‥‥た、助けてくれてありがとうごじあます」
鳴いていた(?)ので噛んでいますが、うす茶色のものがてこてことお礼をいいました。
「‥‥俺はベルシューです」
奇妙な生き物でした。ホブゴブリンが持っていたのは鉄製の‥‥ストローでした。
「ジャガイモだとおもっぎゃーす!」
デュークはそう言うと、ベルシューに体当たりされます。
「失礼な、これでも立派なお菓子の国の王子様ですよ‥‥」
ふんぞり返るベルシューですが、威厳はありません。色々奇妙すぎてですが。
(「‥‥!? うまそう!」)
稜が、ベルシューを見て最初の思いはそうでした。まるで一目惚れです。
「‥‥俺、王子だけど‥‥、人間になりたくて、旅をしていたんです。どうか連れてってください」
ベルシューが勇者一行に、頼みます。
「多数決で決めましょう」
時雨が提案すると、
「面白いから良いんじゃニャい?」
アヤカは賛成しました。
「非常食として‥‥うぼぁ!」
デュークも賛同しているようです(またベルシューの体当たりで、魂抜けてしましましたが)。
「‥‥」
綾が黙ったままです。
「‥‥どうかしましたか?」
つぶらな瞳で、ベルシューが見つめてきます。シュークリームに4つの足に可愛い顔。
「じゅるり」
「ひぃぃ」
「お前を食‥‥いや、守るのは俺の役目だ。うん」
「‥‥こわいですが‥‥よろしくお願いします」
ベルシューは、時雨に張り付いてお礼を言いました。
こうして奇妙な非常‥‥げふんげふん‥‥仲間が出来たのでした。
「これでまた、主役を食いそうなキャラがふえたニャ」
「だから、どうして自分を見るのですか、アヤカさん」
「勇者として結構動いているのは‥‥デュークさんですね。マスコット的にはベルシューさんですか?」
「玲さんまでっ!」
彼らの旅は続きます。
「隠者がいる場所は、確かこの先です」
大きな崖を登りきれば、うっそうと生い茂る魔の森と言われる所にたどり着けるのです。
「ぎゃぁぁ〜」
崖で、ベルシューが落ちかけます。それを掴んだのは綾です。
「あ、ありがとうございます‥‥ひぃぃ」
頭をわしづかみされて、体がぶらんとなっています。
「あやうく、うまい‥‥いや、守ると誓ったことを忘れてないぜ!」
綾の目が笑っていませんでした。
「ひっぃぃ」
ちゃっかり、ベルシューを弄ると考えている人はホブゴブリンが持っていたストロー槍も回収していました。ベルシューの運命はどうなるのでしょうか?
登り切った勇者一行は、鬱蒼と生い茂り不気味な魔力を放つ森の前に立っていました。
「ここが、『魔の森』ですね〜。隠者に会いに行きましょう」
デュークが、勇気を出して入っていきます。皆も一緒について行きます。
綾の頭にはベルシューが乗っていました。
優が隠者・アーシュに会っていました。優は素顔のままで彼女に会っています。
「出来れば人間達と関わってほしくないです。逆に、こちら側についてほしいのですが、お願いできますか?」
「それは出来ない相談だね」
幼い顔をしているのですが隠者アーシュは、元魔王の娘です。
破壊の魔王として畏れられていたのですが、魔王様の計略により失墜したのでした。
「私が、父を殺されそれで、泣き寝入りすると思っているか? お前にとって恩人だが、あの剥奪者は、敵よ!」
アーシュは憎しみを込めた目でにらみ返します。優はそれでも怯みません。
魔族の世界は、憎しみと欲望、強さだけが求められる世界。弱肉強食なのです。
「‥‥わかりました」
優は悲しい顔をして、去っていこうとしましたが、しかし、2人は近くに魔王様がいると気づくと、身構えてしまうのです。
「魔王様が‥‥」
「あの、剥奪者‥‥。勇者に前に?」
「え?!」
「ここで会えるとは、好機なのか、大ピンチなのかわかりませんね〜」
冷や汗をかきながら、デュークは拳法の構えを解きません。
「まさか、魔王直々に出向いてくるとは!」
時雨も剣を構え、アヤカも短剣をもち、綾はベルシューを後ろにやって構えます。
「‥‥姫を返せ!」
「姫様を返すニャ!」
「ひぃぃぃ、魔王こわい」
今は身を守るのが精一杯だと、全員が確信しています。しかし、退くわけにはいきません。どうにかこの危機を乗り越えないと、姫を救い出せないのです。
「話があって、来たのです」
しかし、攻撃ではなく、魔王様は話をする為に来たのでした。
「信用できるか!」
「そう言うと思いました」
溜息をつく魔王様。
「私は、フィアナ姫野歌を自分のためにとおもって招待したのです。しかし彼女はいつも悲しみの歌ばかり。どうしてなのでしょうか?」
魔王様の目は曇っていました。
「それはお前が攫い、虐げたからだ! お前がいくら願ってもそれは届かない!」
綾が叫びます。
「‥‥教えてくれないのですね。しかたないです‥‥。消えてください!」
魔王様が指さすと、真っ黒い爆炎魔法が勇者達を襲います!
「つめたっ!」
その黒い炎は冷たく、恐ろしい物でした。
デュークの防御魔法で、かろうじて防ぐのですが、身が持ちません。玲が楽器を演奏しながら、魔法を唱えました。強化呪文の様です。それにより、皆は魔王の爆炎攻撃をかわしていきます。
「さすがに強いですね!」
「これをかわすとは。前魔王はこれで消し飛んだというのに。面白い。城で待っています」
魔王様はそのまま消えていなくなりました。
「強大すぎる‥‥」
心に絶望の二文字が浮かび上がろうとしているとき、
「まて、まだまだチャンスはあるわ」
女の子の声が聞こえました。
「あなたは誰ですか?」
「私か? 私はここで隠者をしている、アーシュよ。勇者達、よく生きていたな」
「そうか、剥奪者がそんなことを」
アーシュは、ふむと、考え込んでいます。
「しかし、運が良かったわ。私の計画も頓挫するところで困るとおもったから」
「計画?」
一行は首をかしげ、尋ねました。
「復権や再建よ。父上のやり方はひどかったのは承知しているけど、私は違う。不干渉であること以外、魔界の統治を任せろってことよ。悔しいけど私は今のままだとあの剥奪者に勝てないわ」
アーシュは溜息をついて、ストロー付きのジュースカップを持とうとしていましたが。
「ぎゃぁぁぁ」
「あ、間違えて、ストローをベルシューに」
「結局(夢の中でも)そうなるのですね‥‥ひいい」
大事な雰囲気をぶちこわしですが、それが幸いしてか、皆に笑みがこぼれます。
そう、柔軟に対応するゆとりが出来たのです。なぜかは深く聞かないようにしましょうね☆
「ここで修行を積みなさい。手伝ってあげるわ」
アーシュが、身軽な武術の稽古着を一瞬で着替えていました。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
マイアが魔王様を出迎えます。
「‥‥ご苦労様です。食事をとりたいので、そうですね、白亜と優、フィアナ姫と一緒に、ですね」
「かしこまりました」
恭しく、部下の妖精達を連れて、食事を作るため、厨房に向かいます。
「私の物になってほしい。なぜそれが出来ないのだろう」
魔王様はそればかり考えていました。
「魔王様がそんなことを?」
フィアナ姫は、白亜と優の口から聞いて、目を丸くしています。お食事に誘われることをです。
「はい、出来ればご一緒にと」
「うーん。わかりました」
少しとまどいましたが、応じるようです。
晩餐はそれほど豪勢ではなく、ごく普通でした。パンに鮭のムニエルや、サラダにオードブル等々です。
「魔界はいつも荒れ果てている。それはなぜか分かりますか?」
魔王様が言います。
「破壊、欲望、謀略、そして人より魔力が強く、存在自体が『悪』の魂である魔族のために、世界自体がその認識を景色に顕しているといった方が良いでしょう」
魔界のあり方を教えていきます。
そのときに自分の為に歌ってほしいとは言いませんでした。
「お父様は何を考えているのでしょうか?」
白亜は、晩餐が終わったと、フィアナ姫の部屋で考えて口にします。
「私も分かりません」
フィアナ姫も首を振っていました。
魔族と人が共存でいるという事は、魔の森という自然の壁が証明していると思っています。
特訓は、苦しく、時には死ぬかと思うようなものでした。
「ぎゃあああ!」
デュークが、アーシュに首を絞められています。
しかしお互いが苦しんでいるように見えます。
「アーシュ君、なにかしめられている‥‥ところ‥‥不快に‥‥かんじ‥‥がくり」
落ちました。
「やりすぎたわ‥‥」
アーシュは「やっちゃったわ」と苦笑し、『反省はしているが、後悔はしていない』表情を浮かべました。ベルシューがニヤニヤしながら、デュークの額をぺしぺしとたたき、
「死亡確認!」
「勝手に殺すんでない!」
機会魔法付与の回復魔法で気を取り戻したデュークが、ベルシューに裏拳ツッコミします。ベルシューはジャガイモや野菜が転がるようにころころ転がっていきます。
「きゃあああ」
一寸楽しそうでした。
「なるほど、悪には善の気を、善には悪の気を当てれば、魔族を倒せるのですね〜」
デュークは、体験して攻略法を覚えます。
時雨や綾、アヤカも隠者が秘蔵している魔道書や剣術書をもち、訓練にいそしみました。
勇者達はフィアナ姫を救出するために、必死に練習と訓練を重ね、新たな力を得ました。
デュークは、魔法格闘を更に磨き、時雨は、加速魔法の上達と剣術を、アヤカも加速魔法と演舞的ナイフ戦闘術を、綾は魔法攻撃と大剣のスキルのレベルアップ、です。
玲は様々な魔法の知識や歴史的なもの伝承を得ているようでした。(この世界のバードは、魔法も少々、剣術も少々、隠密も少々使えるので)。
そして、様々な魔法の武具を貰い受け、強くなっていきました。
「待っていてください、フィアナ姫」
こうして、訓練を終えた勇者一行は、アーシュの描いた魔法陣に立ちます。
「この陣で、城まで一直線よ。しかし、城内には入れないわ。結界が施されているからね」
内部に簡単に入れる訳ではないのです。
さあ、決戦の時です!
「勇者が城門前に?」
優が、マイアから聞き、立ち上がりました。
「まず、私が排除します。それが私の使命です」
淡々と、マイアが優に言います。
手はメイド道具のモップやティーセットではなく、剣になっていました。
「私も迎え撃とう‥‥。アーシュ様を師事していたなら、強くなっているはずだ」
城門の先が爆音と喧騒に包まれています。戦いが起こったようです。
「さて、ここからは私の出番です」
バードの玲は、マントを脱ぐと、一瞬にして目だけしか覗かせていない黒装束のニンジャになりました。そして軽やかに、隠密として先に進み、敵を翻弄します。しかしニンジャなので、この場の戦場にいる誰も彼女を認識できていません。
「ニャハハハ! 道は出来たニャ! 早くいくニャ!」
アヤカが短剣の踊りで魔族の雑魚を切り倒していきました。
「ありがとうだよー!」
「行くぞ! デューク、時雨!」
「はい!」
城門を抜けた先に‥‥、優とマイアが立ちはだかっていました。
「侵入者を排除します」
マイアが剣を構えました。優も構えて片手に魔法の印を結んでいます。
「‥‥魔法剣士がいるな‥‥そこの黒髪の剣士‥‥相手を願おう!」
綾が優を睨みました。
「分かりました‥‥相手致しましょう」
マイアの隣には赤い鎧のガーディアンが現れ、行く手を阻みます。
「先には進ませません」
勇者に襲いかかるガーディアン達。
「人造だねぇ。すこしこれは‥‥。人造を破壊する奥義はあるのですよ!」
魔法格闘技のデュークは、人の魂を持たない、偽りの魂を持つ人造を一撃で粉砕しました。
時雨の刀も、ガーディアンを一刀両断します!
「いかせない!」
マイアは剣を振り上げ、時雨に襲いかかりますが、元から戦いを回避することを心情としている時雨は刀で受け止め、弾きます。そして、当て身で彼女を気絶させました。
「自分たちが倒すのは、魔王だけです」
勇者2人は走り出しました。
一方、アーシュは裏道を通り、奪われていた大鎌を手にして、ほくそ笑んでいました。
「やっと、これで対抗できるわ」
「言い度胸よね、盗人」
「‥‥あらいやだ。剥奪者の娘が居るとは‥‥」
アーシュに声をかけたのは白亜でした。
「破壊しか生まないあなた達が滅びるのは当たり前でしょ! 魔界も平穏がいいと」
「それで、父上を殺した罪が消えると思うか! バカ者め!」
白亜とアーシュは、大激突します。
魔界のドラゴンを呼び出し、ドラゴンのブレスでお城が大爆発。しかし、大鎌を持ったアーシュには効いていません。
「はははっ! 破壊の権化の一族に、勝てると思わない事ね!」
「くっ!」
綾と優の魔法剣術の戦いは熾烈を極めています。
魔弾と魔砲をぶつけ合い、相殺するという状態で、結局は剣技と気力、精神力の勝負になってきました。
「なかなかやるな! お前は人なのになぜ魔王に味方する!」
綾が優に問いかけます。
「お前には関係がない‥‥」
「俺は‥‥守れなかった姫を救い出したい! 覚悟しろ!」
仕えるべき相手に対する想いにお互い負けてはいけないと、剣を振るう女性達。
剣で交えることで、お互いの感情が交錯します。優が揺らぎ始めました。
(「この人は‥‥姫を大事に思っているのか‥‥」)
彼女の孤独感が、剣にこもると、鈍くなり‥‥。
「隙有り!」
綾の大きな剣が、優の剣を叩き折りました。衝撃で仮面もはじけ飛びます。
「くっ!」
「あんたも、思う人がいるのだな。魔王に忠義と家族を」
綾も、剣を交えることで優の悲しみを知ったのです。
「魔王!」
勇者2人が、魔王の間にはいると‥‥、玉座には漆黒の鎧に深紅のマントを羽織った魔王様が座っていました。
「ようこそ人間達‥‥鎮魂歌を聞きにきましたか?」
「姫を返して貰います! そのために倒します!」
時雨とデュークは構えて、走り出します。
「‥‥前の問いに答えればいいものを」
魔法の言葉が紡ぎ出されると、空間がゆがみ爆発しました。それを、2人は耐えて、デュークが、善の力を込めた拳を魔王の腹に当てます。
「ぐはっ!」
そのまま絞め技に入り、「このまま貫きなさい!」と叫びました。
しかし、時雨にはそれが出来ません。
「やっぱり、そんな、事出来るわけがない!」
「作戦でそうしたでしょ!」
「機会魔法での捨て身ですか!」
魔王様は、言葉も何も発生させず、デュークの魔法を一瞬にして解呪します。
「何という魔力!!」
「むん!」
魔王様はそのまま絞め技から脱出し、デュークを投げとばしました。デュークは上手く受け身をとったので、大怪我に至っていません。
「意志の強さですかね?」
お互い一歩も動けない状態になっていました。
「待ってください!」
あちこちで爆音と戦いの喧騒の中‥‥、フィアナ姫が叫びました。
「争いを止めてください!」
「フィアナ姫!」
時雨がフィアナ姫に駆け寄ろうとするのですが、魔王様がそれを阻むように動きました。
「邪魔です!」
「お前の方こそ! 邪魔だ!」
剣と剣が火花を散らします。
「やめてぇ!」
また大声。フィアナの悲しみの声は、魔王の城全体に響き渡り、一瞬にして戦いが止まりました。
鍔迫り合いをしている魔族の娘2人も、雑魚を蹴散らしていた玲やアヤカも。そして、今の魔王様に仕える魔族達も‥‥。
「フィアナ、なぜ泣くのです?」
魔王は困惑しています。
そこで時雨は、気づきました。
「フィアナに恋をしているのですか?」
「私が人間に恋だと?」
魔王様は、時雨の言葉に驚きを隠せません。
「何という禁断の恋だねぇ。私には余り関係はなさそうだ」
デュークは苦笑します。
「独占はいけないと、自分はおもいます」
時雨は膝をついて、呆然としている魔王様を諭しました。
「そうか、人を好きにか。私は、気づいていなかったのか」
何かから解放された顔つきになった、魔王様でした。
「しかし、私の父を殺した罪は消えないぞ!」
アーシュが怒りをあらわにして怒鳴って入ってきました。
「死んではいない、死んだように見せかけただけです」
「え?」
「彼は私との戦いに敗れた後、強くなるために別の『魔界』の支配権を得るために旅に出たのですよ」
「私に内緒で?」
「一緒に行くと、駄々をこねると思われたのでしょうね。私はここの魔王の座を、あなたに返します。立派になったあなたを見れば、あなたの父も喜びますでしょう」
「そんなのうそ‥‥。嘘だぁ!」
アーシュは泣き崩れました。
この魔界は、アーシュは魔王の座に座り、マイアを仕えさせ、魔界を再建すると魔界自体を閉ざしました。
白亜は、これを機に旅に出ると言います。
「世界を見て回りたいです」
と、言い残してです。
優は不機嫌な顔をしていました。綾が元・魔王様をお姫様抱っこして浮かれて歩いているからです。
「攫った罰として俺のモノになれ」
まるで、プロポーズです。
「魔王の座から抜けた後、魔力などが激減してしまうのですよ‥‥。これはこれで助かりますが‥‥恥ずかしいです」
魔王様照れています。
「それは、私がする役目です!」
優がやきもちを妬いて、反論していましたが、綾に負けたので彼女に逆らえません。
「いやー、色々貰ってしまったねー」
「色々大変だったけど楽しかったニャ」
財宝を沢山もらって、冒険者気分を味わっています。
元騎士の時雨はフィアナ姫をお姫抱っこして先を歩きます。三歩後ろで玲がハープを奏でていました。
「助けに来ていただき、ありがとうごじざいます」
「姫を救うためなら、当然のことです」
と、良い雰囲気で王国に凱旋するのでした。
お城にまた、フィアナの歌声が響き、王国は平和を取り戻しました。
めでたし、めでたし。
「ちょっとまったー!」
村の酒場で、ベルシューが叫びました。
「俺人間にもどってないですよ!」
酒場の隅っこで叫んでいました。人間になると言う願いは無理だったようです。
しかし、
「ベルシュー出番ですよ!」
「‥‥はい、わかりました」
戻っていなくても、酒場のマスコットとして、親しまれているようです。しかし、そのかわいがられ方はご想像にお任せします。
本当にめでたし、めでたし。
スタッフロール
僧侶にしてモンク:ドクター・ウェスト(
ga0241)
ベルシュー:ベル(
ga0924)
猫人の踊り子:アヤカ(
ga4624)
魔王のメイド:皐月・B・マイア(
ga5514)
風の魔法剣士:優(
ga8480)
隠者:アーシュ・シュタース(
ga8745)
元騎士:風雪 時雨(
gb3678)
近衛騎士:鹿島 綾(
gb4549)
吟遊詩人/ニンジャ:美環 玲(
gb5471)
魔王様の娘:上月 白亜(
gb8300)
歌姫:フィアナ・ローデン(gz0020)
魔王様:アキラ・H・デスペア(gz270)