●リプレイ本文
●もてもて?
「ジェームスさん、お久しぶりかなっ?」
小隊・【ラウンドナイツ】の制服を着た橘川 海(
gb4179)がジェームス・ブレスト(gz0047)に声を掛けた。
「おお、頼む助けてくれ」
本当に困り果てているジェームスに、海はくすくす笑っていた。
「ジェームスさんも、いろいろ巻き込まれやすい体質ですねっ」
「全くだ。バグア共を蹴散らすという問題なら歓迎だけどな‥‥これは俺に対して、何かの啓示なんだろうか? で、豚は大丈夫か?」
「うん、元気みたいだよ」
前のミニブタのことも気になったようだ。
「モテモテだな。動物か人か‥‥言わずともわかるか」
「はっはっはっー! それは、今はどっちかわからねぇな。ミスター。いまの現実を見ろよ。俺とクリス、お前だけ男っだって」
「む‥‥確かに‥‥」
水円・一(
gb0495)の言葉にジェームスは豪快に笑い飛ばした。今居る8人(ジェームス含む)でジェームスと一、クリスだけ男(クリスは男装なので今は気づかない事で)だった。一はそれで言い返せない。
「懐かしいな。忘れもしない、7年前のタイ。味方部隊と逸れて孤立無援となった僕は、負傷して死にかけていたベンガルトラに手当てをしてやってな。同じ飯を食い、時を過ごすうちに、妙な連帯感が‥‥いや、失敬。話が逸れた」
クリス・フレイシア(
gb2547)が、猫の親子の話を聞いて、昔を語り出していた。その感傷にだれも口を挟むことなく全部聞いていたのは優しさだろう。危険区域(大規模的な意味で)での事なので、皆武器の携帯をしている。どこかにキメラが潜んでいるか分からないためだ。
「初めまして私はダークファイターのアセット・アナスタシア。ジェームスさん今回はよろしくね‥‥?」
アセット・アナスタシア(
gb0694)が行儀よく挨拶する。
「ああ、嬢ちゃんよろしくな」
ジェームスは彼女と握手を交わすが、
「ジェームスさんは猫飼えないんだね‥‥独りだから?」
アセットがいきなり直球。
「そーなんだよ。って、初対面でそれはないぜ、お嬢ちゃん。このおませさんめ」
「ごめんなさいー」
普通の挨拶が、なぜか妙なじゃれ合いに変わっている様な気がするが気にしては負けだ。
「お久しぶりです。ジェームスさん」
鳴神 伊織(
ga0421)が挨拶する。
「伊織も来てくれたか、助かるぜ。【里親希望】で来たのか?」
「いえ、私は里親が出来る責任を持てませんので、【ペットショップの手伝い】を、と」
「そうか、残念だ。和服美人に猫という姿は凄くよかったと思ったんだが‥‥」
腕を組んで、本当に残念そうなジェームスを見て、
「そこで、趣味出しては駄目でーす」
海が突っ込んだ。
想像すれお分かりいただけるだろうか? 謙虚な彼女が縁側で猫を膝の上で抱いている姿を。さぞ美しいだろう。
「猫さんたちは今どこに?」
「時間ない‥‥だろ?」
霞倉 那美(
ga5121)とシルヴァ・E・ルイス(
gb4503)が心配そうに尋ねる。
「おお、そうだったな。えっと、今部下が遠巻きに見ている。逃げてはないな」
「那美は久しぶり、元気にしてたかな‥‥? 猫さん達はこっちだよ」
アセットが、那美を呼び、手招きしている。
「アセットちゃん、お久しぶり!」
アセットと那美は親友のようだ。
猫がいる場所に向かう一行。そこで、那美、海、アセットだけがのぞきこむ。
生後三週間。すこし、よちよち動いている毛玉達を守るように威嚇する親猫が居た。
「こわくないですよ」
と、那美が話しかけたが、「しゃー」と威嚇する。
毛玉達はみゃーみゃー鳴き始めると、親猫のお乳を吸い始めた。
「うーん、まだ無理かな?」
「お手伝いに向かいたいのですが、どこでしょうか?」
「ああ、この通りの2ブロック先だ」
「じゃ、私も行くから、後ろに乗りますか?」
海が伊織を誘うが、
「俺も行くから全員が良いだろう」
一がクリスとシルヴァの希望を纏めて、いた。
猫が逃げるかもしれない不安はあるが、結局7人でいくことになった。
●掃除
一行がペットショップに着く。周りには壊れた家具、潰れた袋が山積みされていた
「ごめんください〜。ジェームスさんに頼まれてきたのですけど‥‥って」
「うわ、これは‥‥ひどい散らかりよう‥‥」
ペットショップは、かなり散らかっていた。
「OH! ジェームスからの助っ人か!」
恰幅の良い中年が埃まみれになって店舗の奥から顔を出した。
「すまないけど、大きな荷物が多くてね‥‥話は聞いてるけど俺だけじゃ無理だ。手伝ってくれ」
「あ、はい! 手伝います!」
「さて、がんばりましょうか‥‥」
伊織が襷がけをする。
散乱したペットフードを箒で掃き、一人で持ち上げられない家具を覚醒して持ち上げていき、廃品処理しやすいように壊れた家具を分解する単純作業も、手際よく分担すれば、1時間でできた。
その間に、海は売り物にはならないが、使えるペット用具を戴き、那美と一緒に猫が居る場所に戻った。水円が払うというが、親父さんは断った逆にバイト代を貰ったほどである。
「なにか、申し訳ないです」
「なに、ロスを守ってくれたじゃないか。感謝してるよ」
黙々と仕事をしているクリスとシルヴァだが、クリスはやはり猫が気になっている。
「どうか‥‥した?」
「‥‥っ! いや な なんでもない」
シルヴァに言われて、驚くクリス。
(「硝煙とれてるかな?」)
まだ、自分の体に残っているかもしれない硝煙が気になっていた。怖がらせちゃ嫌だからと、出発前に、念入りにシャワーを浴びてお肌のケアをしていたのだ。それだけ、かなり猫が好きらしい。幸いそのことには、誰も気づいてないようだが。ゲリラ兵だった自分が可愛い物好き(特に猫)だとばれるのは恥ずかしいのだ。乙女心というやつである。
ペットショップとは言っても、ペット用の美容室も兼ね備えているため、そこの掃除もする。綺麗な毛布、ケージなどを貰って、親父さんにお礼を言い、荷物いっぱいになって猫のいる場所に戻っていった。
●勇気と優しさ
毛玉達はおなかいっぱいになったのか、その場で眠っている。白い毛玉だけは活発で、うろうろしている。しかし、まだ幼いために、遠くには行けないし、親猫の腹に乗ろうとしているぐらいだ。
那美は手のひらに乾いているキャットフードをのせて、
「怖くないよ」
猫に話しかけていた。
猫が威嚇だけして動かない。もちろん、それが不思議でならない。
「怪我しているのかな?」
アセットがのぞき込む。また威嚇する親猫。
「ふむ、それなら治療が‥‥」
クリスがエマージェンシーキットを取り出すが、一が救急セットをだした。
「エマージェンシーセットは遭難時の生存用だ。こっちならすぐに出来る」
「あ、そうか」
エマージェンシーキットは『遭難時に生き延びる』ための緊急用具であり、『怪我の治療』に一番効果的なものは、この救急セットである。
しかし、威嚇している所を無理矢理つかまえると、猫に嫌われるかもしれないのでクリスはとまどった。ここは那美に任すしかない。
「怖くないよ」
もう一度話しかけて、近づく‥‥。猫が危険を感じ、彼女をひっかいた!
(「痛っ!」)
しかし、彼女は痛いのを我慢した。手には、ひっかき傷ができ、血が垂れているが、それほど深いわけではない。
「那美‥‥」
その光景をずっと見守る7人。
「大丈夫‥‥だよ」
もう一度ペットフードを手に乗せて、近づく。今度は咬まれる。それでも那美は怯まなかった。
その、数分の沈黙のなか、猫はこの人は『敵じゃない』と分かると、威嚇するのをやめて那美を咬んだ手を舐め始めた。分かってもらえたようだった。那美が手を頭にやると、ぐるるとのどを鳴らし始める。
「よかった!」
皆から安堵の声が出た。
毛玉は、状況を知らない様子でみゃーみゃー鳴いていた。
那美がまず、子猫たちを毛布でくるみ、人の匂いをつけずに移動させる。母親は気にして、鼻をひくひくさせているが、那美のことを信じているようだ。
親猫の後ろ足が怪我をしている事が分かると、クリスがゆっくりと警戒されないよう近づく。確認した後、猫を抱っこする。抵抗しない。彼女は、幸せ絶頂になるまえに猫の怪我の手当をするのだが‥‥。
「にぎゃー!」
「きゃああ!」
後に彼(念のために言う。今彼女は男の格好だ)も救急セットのお世話になるものの、しっかり親猫の怪我を消毒、包帯を巻いて治療終了。
消毒用アルコール、ペット用のウェットティッシュなどで毛や目の回りを綺麗にしてから、餌をあげると、親猫と子猫は必死に食べ始めた。クリスはもう顔がにやけている。海も母親のことを思い出して、何か考えていた。
「可愛いね」
「可愛い‥‥」
シルヴァは猫が自分に懐くか不安だったので、目の前の親猫をなでてみる。不安そうな顔だった親猫だが、ぐるるとのどを鳴らして喜んでくれた。おそらく急に周りの環境が変化したので、驚いていたのだろう。
「ああ、可愛いな」
女性らしい笑顔であった。
●里親さがし
「里親になりたい人は?」
ジェームスが尋ねると、海と那美、アセットとシルヴァが手を挙げた。クリスはなぜかモジモジしている。
「どうした? 男なら、しゃきっとしろよ」
「いや、4人も居るなら‥‥いいかと」
「里親になりたかったの?」
海が屈託無く聞くと、びくっと怯む。
「いや、だ、だから‥‥僕は‥‥そう、誰もいなかったら‥‥仕方ないくだっ!」
真っ赤になって一生懸命言う彼女が可愛い。ここで、ほとんどが(「女性じゃないの?」)と気づき始める。
「じゃあ、5人ですね。ぴったりだけど‥‥やっぱり親猫とはぐれるのは‥‥かわいそうだよね」
海が確認(クリスも数に入れた!)するが、考える。
「生後三週間位だと、まだ親元から離すのは忍びないな‥‥」
「どうしようか?」
普通、ペットショップで売られるのは、3ヶ月だ。愛護団体による引き渡しも、3ヶ月ぐらいの子猫を渡している。これは子猫の健康上、動物社会適正の問題もあるそうだ。
「私、白猫をほしかったな」
アセットが残念がった。
そして、話合いの結果、3ヶ月後にアセットが白猫を引き取るという形が理想的ではないだろうかと落ち着いた。理由は、アセットと那美は親友同士であり、よく依頼をともにするからだ。海も親猫ともう一匹を引き取りたいと言うことだったが、親子全部を引き受けたい那美の意思を尊重することにしたのだ。シルヴァも「居なければ」と言う条件だったので、同意する。クリスはかなり残念そうだった。ここに来て照れ屋が祟ったみたいである。
「里親探しをしなくてすみそうだな」
一は、安堵した様子で、少女達を見ていた。
●ラスト・ホープに
大きめのケージに猫の親子が丸くなって眠っている。大事に抱える那美の笑顔はとても優しかった。
シルヴァは心の中で「幸せに」と願う。
「ね、那美さん、たまに遊びに来て良いかな?」
「うん、いいですよ」
海の言葉に那美は笑顔で答える。
「待っててね、『小雪』」
「みゃあ」
白猫にはすでに名前が付いていた。
「帰ったら、ちゃんと寝るところ準備しないと‥‥。飼い方もうろ覚えだから本買ってきて覚え直さないと‥‥ダメだよね」
那美は新しい家族を迎え入れる事で、胸がわくわくしていた。さぞかし、にぎやかなことになるだろう。
この猫たちに幸せが訪れることを願わない者はいなかった。
●一方
「ところで、クリスさんは?」
「あれ? いないや」
「ジェームスさんと飲むみたいで、ロスに残ると」
伊織が言う。
「ふーん、そっか」
一方、夕方のロスのとあるバーでは。
「本当は引きとりたかったんだ‥‥っ! 分かる? ジェームス君!」
「ああ、わかるぞ! クリス! 飲め! 飲め!」
大の猫好きだったが引き取れなかったため、失意のクリスに、誘われて飲むハメになったジェームスが居るのであった。
「猫って可愛いよな! ‥‥うわああん!」