●リプレイ本文
●できるのか?
会議室。
「牛は肉の王様です」
ラン 桐生(
ga0382)が拳を握りしめて言った。
その通りである。牛は何となく高級感溢れる食材だ。
味、ジューシーさ、柔らかさなどを考えると、涎が止まらないだろう。ああ、そうに、違いない。
「でも、一寸可哀想なので安楽死作戦がいいのですけど」
軽井 羽澄美(
ga4848)が手を挙げて言う。
「どういう風に?」
アルフレッド・ランド(
ga0082)が尋ねる。
「テントを張って、練炭で窒息死を‥‥」
「あー」
ランが非常に疑わしい目で見ていた。
「できるかな?」
「やってみないことには、分からないよな。途中で起きるかもしれないし」
ヴァルター・ネヴァン(
ga2634)が肩をすくめた。
シリウス・ガーランド(
ga5113)も困った顔をしている。
「もしだめだったら、皆でフルボッコだ!」
潮彩 ろまん(
ga3425)が元気な声で言う。
「たぶん、ろまんの言うとおりになりそうだけどねぇ」
ランはため息を吐いた。
(「だって、これで始末できたら、能力者要らないよ?」)
「まず、料理すると言うことでは、優先事項として、あの肉だ!」
そう、あれだけの巨体、出来る可能性がある!
時代によっては、名前が変わっているようだが、かなり昔の漫画などで表現されてきたため、こう言われている。
『まんが肉』
これこそ食いしん坊や子供の頃の夢が叶うのだ。それはとてもおいしい話なのだ。まるまる再現は難しいとしても限りなく近い物は出来るだろう。
「ところで‥‥」
槇島 レイナ(
ga5162)が、女性陣に尋ねた。
「メイドする人はいるかしら?」
と。
自然に手を挙げたのは、彼女本人と、軽井だった。
「お肉も食べられて、メイドすることで特別ボーナス。これはやるしかないでしょ!」
ノリノリな2人であった。
「あ、わたしはお金がないからですけどね」
軽井は恥ずかしそうに答えた。
大きなテントと七輪などを持ち込み、依頼主の場所へ高速艇で飛んでいった。
「ボクのご飯、待ってねー♪ 美味しく戴くから〜♪」
潮彩は鼻歌まじりで、窓から景色を眺めていた。
●草原にある記念碑の如く
牧草地。それは草原である。北海道よりかはそれほど広くはない。しかし、牛が放し飼いにされているというならば、言葉は間違ってはないだろう。
「あ、あれかー」
桐生は双眼鏡で、視認する。
記念碑のようにその巨体はあった。
「象の剖検はどうしているのか気にはなっておざりましたが、これは血抜きなど色々苦労しますなあ」
ヴァルターは感心する。
今のところその場で眠っているだけなので実害はないが、いつ動き出すか分からないので、早急に片を付けなければならないだろう。
「さて、前もって決めたフォーメーションで‥‥良いか?」
シリウスが全員に確認をとる。
テントを張るために必ず5m以内は牛キメラの近くに近づかなければならない。テント設置を手伝うのがアルフレッド、軽井とヴァルターで、その間に練炭を熱しておく。遠くでフォローするのは、ラン、潮彩、シリウスは遠くで待機している。まず、軽井が羽で眠っている牛キメラの鼻をくすぐってみた。
「むううう」
「ひゃう!」
軽井は驚いて飛び退くが‥‥、
牛キメラは横に寝返りを打ってから、再び体勢を整えいびきをかき始めた。足は腹の下に折り曲げて眠っている。
「凄い眠ってるなぁ」
「だ、大丈夫のようです」
OKサインが出た。
ちなみに、クレーン車などで殴りつけても、フォースフィールドで昏倒までいくダメージは期待できないと、聞かされているし、逆にクレーンが壊れでもしたら、依頼料がパーになるので却下されている。
そして、テントを組み立てている時だった。流石に、静かに組み立てることは出来ない。規模がでかい。牛キメラの大きさは7m。車1台以上である。それを密閉レベルで囲むとなるには音が必ずするものだ。
「もう?」
牛キメラが起きる。
「あ、起きた!」
軽井と牛キメラの目が合う。
「‥‥もう、だめ」
軽井涙目。
「もおおおおおおおおお!」
「きゃあああああああああ!」
完全に目を覚ました牛キメラが信じられない素早さで立ち上がり、蹄で地を蹴っている!
これは軽井にむかって突撃する。危険だ!
「だから! ムリだって!」
ランがすぐに銃を構え2発全射撃!
一発は狙い通り足を打ったが、もう1発はあさっての方向に飛んでいく!
「焦りすぎた!」
「まかせて!」
髪の毛がリボンで結ばれた潮彩が駆け、一瞬にして、軽井と牛キメラの間に入る!
「ボクのご飯!」
叫んで剣をもって急所を突く!
一寸肉が焼けた匂いがする。
「戦いながら調理するんか!」
誰か分からないが突っ込みが入った。
「あああ! ごめーん!」
急所突きで狙った箇所は脳天なので、今のところ問題ないが。あやうく、部位を台無しにするところであった。
ヴァルターが駆け寄って、すぐに牛キメラの後ろに回り込み、別の足を切る。牛キメラはそれで蹌踉めいた。空かさず、槇島が槍で足を狙う。ここで、牛キメラは膝を地に着いてしまう。
最後に、アルフレッドの強力な斧の一撃が、牛キメラの脳天を打ち砕いた。
ものの10秒。
潮彩の言ったとおりフルボッコだった。
ああ、牛キメラがのんびりしていて良かった。本当に。
しりもちをついている軽井は、我に返って、牛キメラの死体に手を合わせ拝んでいた。
「美味しく食べますから、成仏してください」
●下ごしらえと、熟成まで時間がかかる←暇
まずは解体。普通の刃物で、皮を剥いでから肉を捌く。これは農家の人のレクチャーなどで簡単に進んだ。
「お疲れでしょう。しばらくこの牛キメラを寝かせてから調理、お食事と言うことで」
「異論はないでおざりますよ」
と、後は自由時間。
農家にある厨房では‥‥槇島が胸を強調したメイド服で‥‥、ご飯を炊いていた。
「えーっと、それ何合?」
潮彩がその大きさに目を丸くしている。
「たぶん合じゃなく、1升」
「‥‥1人で? そうなんだ。よく食べられるね」
「大きくなるわよ? 胸が」
前に、とんでもないミスをしていたランは‥‥その言葉に何かを感じたようだが、
(「それは、何かが違う!」)
思いとどまった。
(「しかし、レイナも羽澄美もその辺、育ちすぎだよねぇ」)
一寸、自分の体のコンプレックスでいじけてみたラン桐生であった。
軽井もメイド服に着替えて、農家の家の手伝いをやっている。
他の人は武器の手入れ、田舎の空気を満喫したり下準備したり、そろそろであろう、晩餐に心躍るのであった。
「さて、晩餐だ!」
「お帰りなさいませ、ご主人様♪」
メイド2名が他の自由時間を過ごした5人を迎え入れた。
●あこがれのまんが肉
「まんが肉を作る」
「もう、霜降り肉の縦だか横だか分かんないステーキ! だめ?」
「すき焼きもいいですねぇ。後牛丼」
「ステーキはまず、叩いて、筋を切った『シャンピリアン・ステーキ』がいいよ」
「じっくり肉汁をかけて焼いた、ローストビーフはいかがでおざりましょうか?」
「タンは無事だったな。塩タンにするか」
「わーい」
大喰らいが居るから、食い尽くしてくれるだろう。
ちなみに、日本法律上で食べては行けない部位は農家の人が処分する。
下ごしらえして、出来た『シャンピリアン・ステーキ』と、もつ鍋、牛丼、ローストビーフ、そしてカレー、バーベキューともう豪華。流石に生で食すには筋がきつかったのでタタキなどは断念。
「みよ! 暗黒ステーキ!」
ランが焼いたステーキは‥‥黒こげだった。
「きみだけだよ? それ‥‥ちゃんと食べてね?」
「うわあああああ!」
ラン絶叫。
アルフレッドは元から料理趣味。シリウスは、サバイバル料理が得意であり、軽井はカレーしか作れないがなかなか美味しそうなカレーを作っている。良い香りがしていた。
「食べられるかな?」
軽井はその料理の種類、単品の量に、驚いていた。
「なに、農家の家族の分と我らの分しか作ってないし、後は薫製にして農家の人に分けたら済む」
シリウスが言う。
「ラスト・ホープに卸さないことを願うだけだよねー」
潮彩がトンデモナイことを言うが、まずそれはしないだろう。1頭しかいないのだし。
そして、牛肉づくしパーティが始まるのであった。
大喰らいの槇島開口一番、皆に突っ込まれる前に、また言った。
「食べると胸が大きくなる」
と。
そんな彼女は、丼3杯を軽く平らげた。並べられた肉料理で。
比率的には、『肉を食う』レベルであった。僅差であるが‥‥。
「日本人は米だから」
と、いう意見が強いのである。
実際、そのへん関係なしに皆は食べる。ランだけは、暗黒ステーキを何とか食べて、他の人が作った料理に手を出していた。
「うう、上手くなるべき?」
「それは焦ってなれるもんじゃないさ」
慰めは必要かもしれない。
一方、
「これが、あの憧れの!」
潮彩が目をきらきらさせて、超巨大霜降りダイスステーキを頬張っていた。ソースが口に付いているが、目が夢見る乙女である。軽井は、塩をかけすぎて、しょっぱいと泣いていた。涙の味かもしれない。
どんどんはしゃぎ始める。料理談義やら、今まであったことを話すとか、そう言う和やかなムードの中‥‥。
シャッターを切る音。
ランが、メイド姿2人の写真を撮っているだ。
「いいね! いいね!」
「こんなすがたはどお?」
ノリノリなのは槇島。恥ずかしがっているのは、軽井。
「おお、それは大胆だ! OKOK!」
「そ、そんな‥‥あたし、恥ずかしいです!」
「それ萌えだね!」
親指たてるラン。
あさっての方向で楽しんでいる人がいた。それもまた良しとして。
●終わりに
勢い余って、今回の牛キメラをほとんど食い尽くしたような、そんな感じだった。
特に、まんが肉を食べられた感動もあるし、思い思いの料理を幸せそうに食べる姿は、全員見ていると気持ちが良い物なのだ。
「でも」
誰かが言う。
「?」
「何で、こんな物おいていったのかな?」
大きな疑問。
でも、やっぱり異星人の考えていることは分からない。今考えるだけ、謎だけができるだけだ。
「ご馳走様!」
気が付けば夜。
後片づけをして、一晩泊まって、明日帰ろうと言うことになるが、
「メイドさんはお仕事なのよ」
「では、がんばってきます」
と、槇島と軽井は、夜遅くメイドの仕事をこなしていく。
「うん、これはこれで萌えだね!」
ランは親指を立てて、2人が働く姿を写真に収めていた。
翌日。
「おせわになりましたぁ!」
7人は、農家の人に挨拶する。
「こちらこそ助かったよ。また、アレが来たら頼むかもしれないが」
「あはは〜。かんがえておきます〜」
と、ずっと和やかなムードで、能力者はこの地を後にしたのだった。