●リプレイ本文
●交渉
避難所担当の尉官と交渉する、ベル(
ga0924)と嵐 一人(
gb1968)、赤霧・連(
ga0668)が、他の9人のフォローもいれてアポを取り付け、ジェームス・ブレスト(gz0047)を呼んでの申請だった。
「‥‥アキラはフィアナさんがここにいると知れば、避難所自体が危険になりそうなのです‥‥。何とかフィアナさんを出して頂けませんでしょうか?」
「お願いします」
「ほむ、おねがいしますよ」
一人もこの時は敬語に、連もお辞儀をして頼み込む。
「とは言ってもねぇ。大尉?」
尉官は難しそうな顔をしているが、ジェームスは豪快に笑って、
「ほう。それはおもしろそうな話じゃねぇか‥‥いいぜ」
と答えた。
「しかし、それだけでは‥‥」
「この件については、俺が責任とる。フィアナやこいつらの熱意、それにファンとしてなら、生で聞いてみてぇな。わくわくしねえか?」
ジェームスはかなり単純であった!
「‥‥ではっ!‥‥」
ベルの目が輝く。
「ああ、OKだ。ただし、面倒な手続きで時間がかかるが良いか?」
「‥‥ありがとうございますっ!」
「サンキュ!」
「ほむ、ありがとうなのですよ!」
3人はお礼を言う。
話はまとまったようだ。
その後に、ベルは「‥‥コハルさんからこのCDを」とジェームスに差し出した。
「『Hope』じゃねえか! 売り切れで困ってたんだよ。その、嬢ちゃんにありがとって伝えてくれっ!」
ジェームスは豪快に、ベルの背中をたたいた。
「‥‥あははは‥‥」
シェルターの警備兵にも、フィアナを出すようにと言う通知がすぐにも届いた。しかし、少し時間がかかるらしい。
『他の避難民も出たいとか言うだろうから、その説得で忙しい』
と、兵士から返答が来た。軍からの呼び出し等色々な事を説明して、今は別の区画に移動したと通知が入った。
「できれば先に入りたいのだけど。私一人だけで」
六華は、皆に頼んだ。
「はてどうしてでしょうか? それは時間がかかりますね。すみませんが時間は一刻一刻迫っていますからね。全員で顔を出した方が良い」
鈴葉・シロウ(
ga4772)が肩をすくめて全員で行こうという事を言う。
「そうだね。早くフィアナをオタワまで連れて行かなきゃいけないしっ!」
葵 コハル(
ga3897)が頷いている。
「そう、わかったわ」
少し残念そうに、六華は答えた。
一方別の区画では、ベルと一人がダビングの手伝いをしていた。
「ダビングOKです」
「おし、そろそろ始めますか!」
「ほむ! こまったのです」
連は大将に進言した中尉を探したいため、通信のやりとりで、探してもらおうとフィアナファン部隊(仮称)に探してもらうようにお願いした。ファンの軍人から聞き出せればどこに所属しているかわかった。
「直訴をした尉官の人に、『あきらめちゃダメですよ』と、お伝えできませんか?」
メッセージを届けてもらうように軍の人にたのむと、「そうしておくよ」と彼女の声だけ録音したものをオタワに届けることにした。
●デトロイト
水上・未早(
ga0049)と椎野 のぞみ(
ga8736)は、高速移動艇でデトロイトに向かっていた。佐官ではあるが、現場好きであるウィルソン・斉藤(gz0075)を見つけるのは容易だった。彼は、ちょうど陣地内の一般兵が自由に出入りできるところで休憩しており、コーヒーを飲んでいた。
「お久しぶりです」
「お久しぶりです。リズさんいないけど掃除はしっかりしてますか?」
二人の挨拶に、斉藤はコーヒーを吹き出した。
「挨拶、初っぱなからそれか‥‥久しぶりだな、水上に椎野」
苦笑しながら、二人に顔を見た。
「「あの惨状は印象深いです」」
未早とのぞみのがユニゾンした。
「と、冗談はそのくらいにして頼みたいことがあります」
未早はすぐに話を切り替えた。
「いま、フィアナさんがロスにいるのですけど、『先の鹵獲戦艦の事から案件の重要性が増した為、アキラと深く関わっているフィアナから話を聞く。その為一時的にオタワで保護して貰いたい』というような口実を考えているんですが、斉藤さんの権限でどうにかなりませんか?」
「‥‥む、それは難しいな」
彼の顔は渋くなっていく。かなり厄介ではないだろうかと言うことをすぐに察した。考え込んで、頭を掻きむしっている。
「それか、何か良い案はありませんか?」
「一応、傭兵とフィアナが会見を申し出たいという話なら‥‥できないことはないだろうな。それに乗じて、フィアナも連れて行ける。しかし、うまくいくとはおもえないが‥‥5分位の会見ならできるだろう。大将は忙しいので、分刻みなんだ」
斉藤はずっと渋い顔になっていた。
「ありがとうございます。斉藤さん」
「話わかる人でよかったです」
「俺が出来ることはそれぐらいだ」
急いで手続きに入る事ので、斉藤はぼろぼろの軍コートを羽織って、頭を掻きながら、オタワの通信回路での承認申請や書類を書き始めた。
●フィアナと会うこと
皐月・B・マイア(
ga5514)は悩んでいた。真っ赤に染まった手で、フィアナの手をとれるのか? 否だ。自分が許せないし、綺麗なフィアナを汚してしまう。個室にフィアナが居る。マイア、コハル、シロウ、ノーマ・ビブリオ(
gb4948)、風雪 六華(
gb6040)が部屋に入ってきた。
各々の挨拶をすませると、
「皆さん、来てくれてありがとう」
フィアナは見知った傭兵が多かったので、フィアナは嬉しくなって立ち上がり、全員をハグで出迎えてくれた。
「フィアナ‥‥」
「フィアナ、暖かい♪」
「歓迎感謝ですよ。うーん感激だ」
「ハグで挨拶なんて、光栄です!」
「‥‥あ、よ、よろしく。兄が世話になってるわ‥‥」
六華がとまどう。
「あの人の妹さん? はじめまして♪」
そして、今の状況に対し、傭兵たちがフィアナに説明すると、フィアナは少し驚く。
「どうしたの?」
「いえ、まさか大将とお話しすると言うことが、驚きで」
照れくさそうに笑うフィアナに、納得する。どうも外の実情はあまり伝わってなかったようなのだ。
「‥‥たしかにね。雲の上の人にだものねぇ」
実は大将の凄さとは、噂だけしか聞かないし、そう簡単に会えるわけではない人物だ。人の上に立っている人は、大抵そうなってしまう。
「でも、上の方にもわかって頂けるなら、あたし、がんばります」
UPC軍に完全協力を得られたなら、心強いものはないと彼女は思ったのだろう。
「じゃあ、決まりか」
その報告を受けた、ジェームスと、デトロイトの斉藤もすぐに動いた。
●副座は?
ジェームスの計らいにより、フィアナをKVに乗せて、オタワまで向かうことが可能となったわけだが、フィアナを誰の副座に乗せるかが問題だった。同時にマイア、六華、ノーマ、コハルと挙手したのだ。そこで、マイアが引き下がると、
「あたしはマイアのところに乗ります」
「!? フィアナ?!」
マイアは驚く。
「あちゃー。それは残念だ。でも、二人はつもる話もありそうだし。私はそれで良いよ。フィアナの意志が大事だし」
コハルは苦笑する。
「残念です。でも今度一緒にじっくりお話、したいですよ」
ノーマも同意する。
「そうね、ここはフィアナさんの意見が尊重されるべきだわ」
六華も渋々だったが了承する。
デトロイトでもすぐにオタワの空港へ入港許可が出されていることも再確認し、カナダのオタワに向かって、KV8機が飛んだ。
未早ものぞみも続いてオタワ入りをするため、移動を開始した。
巡航速度であれば、物理的な意味で一般人でも乗せることができる。しかし、戦闘状態や、ブーストなどSESを使用する際には、一般人は異常にかかるGに耐えかねて死亡するという事をジェームスから何度も聞かされた。確実に安全圏で飛べと言うことを注意し、全員は飛んでいる。カナダ空域や内陸はバグア自身が興味を持っていないようで、全く安全だ。
コクピットでマイアが副座に乗るフィアナに声を掛けた。
「‥‥フィアナすまない。横断‥‥いけなくて。でも横断成功、おめでとう」
マイアは、一線をおいたようにフィアナを祝った。
「いいのよ‥‥。それに、自分を許してあげてマイア」
その言葉で、マイアは仕舞っていた心に気づいた事に驚いた。
「フィアナ‥‥。私はもう、フィアナの‥‥手は握れないんだ」
想いと悲しさが、こみ上げてくる。一緒にいたいが、もう自分の手は汚れているから無理だという葛藤。
「傲慢だと思うけど、私がマイアを赦します。戦争がきれい事では済まされないことは私も充分わかっているつもりだから。マイアが潰れるのは、あたしは見たくないの」
「フィアナ、ありがとう」
それが、本当に救いになるかはわからない。ただ、マイアは泣くだけであった。
フィアナと一緒に居たいと思う、彼女の心が、癒されればいいのだが‥‥。
●大将
「何? 一般人が私と会見だと? まさか‥‥フィアナとかいう娘ではなかろうな?」
「はい‥‥」
ブーツの音を鳴らしながら、ヴェレッタ・オリム(gz0162)は厳しい声を出して側近をにらみつけていた。
「全く、お祭りではないのだぞ? しかし、もうこっちに向かう手はずができているのか?」
「5分だけと、ウィルソン・斉藤少佐から‥‥」
「そうか。わかった。本当の戦場をしらん者は‥‥」
オリムは機嫌が悪かった。
しかし、彼女は会見を渋々ながら承諾したのだ。現実をぶつけるためにも、一つ言わないといけないのだから。
代表として、連、シロウと、フィアナが会議室のドアに立っていた。他の者は、厳重な警備兵に囲まれて、待合室らしきところで待っている。
「ほむっ!」
さすがに大物に会うと言うことは緊張する。周りには兵士6人が取り囲んでいる。セキュリティは尋常じゃないほど厳しい。軍事都市になっているのだから仕方ない。
フィアナがノックをした。
「入れ」
ドア越しなので少しくぐもった声だが、威厳のある声だ。ゆっくりドアを開けて、中に入る3人は、恭しく挨拶する。傭兵の方は敬礼をした。
「で、話を聞こう。事によっては認めない。時間をとらせるな」
「はい、まずは‥‥」
連が目を丸くして言おうとするが、シロウに止められた。自分に任してくれと言うことだろう。連はそれに従った。
「では、進言させて頂きます。では、こちらのフィアナの事ですが、まず、トリプル・イーグルの一人・アキラに狙われていることで、発覚したとき、避難民に逆に危険が起こること、または、こちらにフィアナが居ると言うことで、アキラをおびき出せることが可能かもしれません」
「また歌は人を癒し励まし、士気を向上させることがあります。彼女を連れてきたのは、そのためでもあります。可能なら彼女を歌わせてほしいのです‥‥」
「‥‥」
オリムは黙って聞いていた。
シロウは全員で考えた、いかにアキラをおびき寄せると言う作戦などを提案する。
「そして、これを聞いてほしいです」
連が続いて、ラジカセから実際あった音を鳴らす。フィアナが喧騒のなかで歌い穏やかにした部分だ。
しかし、オリムはそれを止めろと言う。連は、おびえてラジカセを止めた。
「おまえたちの言いたいことはそれだけか? フィアナをそういう理由で保護はできない」
「もしかすれば、アキラがこちらに向かうかも‥‥」
「その可能性は低い、否ゼロだ。敵としてもあいつは指揮官である。上官のリリアの命令は無視できまい。戦域が拡大するだけで混乱するだけの事をするわけもない」
「アキラが来た場合、我々傭兵達が出ます。信用たる戦果をあげて見せます」
「アキラと戦って、何とか生きている状況を棚にあげてか?」
シロウはその言葉に言葉を失った。
「それに、音楽や芸術が兵士に及ぼす効果くらい知っている。ただ、戦場に歌を流すのは非常識ではないかと言っているのだ。戦場に立って歌いたいという歌手は北米にも大勢いる。しかしだ、皆、周囲や敵への影響を考えて気持ちを抑えているのだ。そのことをわかっているのか、フィアナ・ローデン?」
オリムはフィアナに尋ねる。フィアナは大将の威圧的な目に少し退いたが、
「確かに‥‥私は‥‥力がありません。元気づけたいだけです」
勇気を出して口にした。
「守られている者の重責を歌で償うつもりか? それは独善だ。おまえはそれが当たり前のように感じているのか?」
「あたしは、あたしなりで戦場でも歌っていました! LHにたどり着くまで。そして、その後でも! 絶望は現場で見ています! 守って頂いてる感謝を忘れてもいません! 歌を広めることで何かが変わるならっ!」
フィアナは悔しくて、のどを詰まらせた。
「ならば勝手にするが良い。この件についてUPC軍は一切関知しない。おまえ達傭兵が根回ししたであろう、数名の人間の進言も却下する。以上だ」
オリムはそのまま部屋から出て行った。
「ほむ‥‥許可貰えなかったのですか?」
「協力は無理だったですね‥‥」
「‥‥責任。迷惑を掛けているの? あたし」
「大丈夫です。私たちが守りますよ。そして、あきらめちゃダメです」
フィアナが落ち込んでいるところに連が笑顔で答えた。フィアナは「ありがとう」とつぶやいて、それっきりだった。
傭兵とフィアナは、一度オタワの一角で、デモテープを配る。連には、直訴した中尉がやってきてありがとうとお礼を言われたようだ。
「おつかれさま、力及ばずごめんなさい」
のぞみが、フィアナに謝った。フィアナは「ありがとう」と言うだけで、無口になっている。
「では、オタワの方は無理でも、デトロイトならいけそうね」
六華が地図と放送局のリストを見て、ノーマとコハルと打ち合わせしている。
「通常のラジオ局に頼んで流すしかないでしょうか? 許可が降りている場所とか、傭兵関係?」
ノーマが提案していく。
「一応避難民に向けての状況放送はあるそうだし」
UPCからの協力を得られなかったことで、フィアナの無茶は出来ない。フィアナも遠慮しているようだ。結果避難所のラジオ、有志の通信を通して、フィアナの声を流すことにした。この地道な動きが人を動かすと信じて、デトロイトとロスでフィアナの歌が流された。
一度ロスに帰るKV組。まだ戦いは向こうにある。元気のないフィアナをマイアは心配な顔をして、操縦桿を握っていた。必ず守るとまた心に決めて。
●苦悩
フィアナはロスの空港で高速移動艇に乗り、そのままLHに戻ることを許されたが、全く元気がなかった。避難所に帰ると混乱が起こるからである。
「力のないあたし達に命を賭して守ってくれている人達に、あたしは本当に何ができるのだろう?」
自分に何ができるかを悩み、苦しんでいた。