タイトル:リズの社会適応4マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/12 02:52

●オープニング本文


 デトロイトの空港にて、ウィルソン・斉藤(gz0075)が養女のリズ・A・斉藤を送り出す姿があった。
「其れでは行ってきます!」
 可愛らしく敬礼する娘に斉藤は微笑み、頭を撫でた。
「ラストホープで、色々なことを学べよ」
「はい」
 希望を求めて彼女は旅に出ると固く誓っていた。そう、故郷を救うことを。デトロイトで気長に待つよりはよほどいい。必ずナシュビルを解放すると、斉藤に話していたのだ。それに、憧れる傭兵達と戦っていきたいと。
 とはいっても、まだまだ新米だ。しかるべき場所でエミタ移植手術とそのリハビリの後、基礎的な戦闘訓練を約1ヶ月でこなす。最終調整がラストホープである。この島に移住し、絆を深めようとしていたのだ。

 高速移動艇が飛び立ち、ラストホープに付いたリズは、UPCに向かった。書類上の手続きを済ませるためだ。
「はい、此に必要事項を書いてね」
 看板オペレーターのリネーア・ベリィルンド(gz0006)が丁寧に教えてくれる。1時間もたたずに書類は書き終わった。ありがとうと元気にリズはお礼を言うとリネーアは微笑んでくれた。リズはそのまま自宅に向かう。標識も沢山あれば、2回ここに来ているので、だいたい分かるのだ。
「でも、兵舎って結構多いなぁ。故郷は地平線が見えるけど‥‥あ、ここだ」
 鍵を開けて、中に入る。既に家財道具は揃っていた。
「お片づけ、お片づけ」
 一人で全てやった後、彼女はベッドに寝転がった。大きなぬいぐるみを抱えて、希望と不安を抑えている。
「皆さんに会える。それだけでも嬉しい」
 そのあと、しっかり目覚ましをかけて、シャワーを浴び、眠りにつく。


 リズの最終調整である戦闘訓練依頼が貼られたのは数日後のことだった。
 模擬戦であり、実戦ではない。それに生死に関しては彼女もよく分かっているし、どちらかというと、即戦力になるほどのサバイバル技術を持つ。しかしながら、エミタという力を得た彼女曰く「覚醒した後の自分が自分じゃないみたい」と不安なのだ。大きなパワーに驚いていると言うことである。猫のように動くとかだ。

 彼女の力量を測るより、不安を取り除くことが、この戦闘訓練の大きな目的だろう。

●参加者一覧

水鏡・シメイ(ga0523
21歳・♂・SN
不破 梓(ga3236
28歳・♀・PN
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
アヤカ(ga4624
17歳・♀・BM
ハンナ・ルーベンス(ga5138
23歳・♀・ER
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
風雪 時雨(gb3678
20歳・♂・HD
風雪 六華(gb6040
20歳・♀・ST

●リプレイ本文

●訓練場控え室
 リズ・A・斉藤(gz0227)が、迷彩服姿で椅子に腰掛けていた。かなり緊張している。
「そんなに肩肘張っていたら、上手く動けないぜ?」
 そんな彼女に声をかけたのは、幾度かあっている男、セージ(ga3997)だった。養父のウィルソン・斉藤(gz0075)の危機を救った一人でもある。
「セージさん‥‥」
「今回もよろしくな」
 セージは微笑みながら、リズに握手をもめるのだが、
「みゃあああ!」
「うわああ!」
 白い猫が飛びかかって、セージの顔に張り付いた。もがもが動くセージ。
「こら! だいふく! 大人しくしているニャ!」
「みゃー☆」
 飼い主が慌てて、セージの顔にへばりついている白い生き物を剥がした。
「うおお、いてぇ!」
「だ、大丈夫?!」
 リズは慌てる。
「だいふくは高いところが大好きニャのニャ。お久しぶりニャのニャ、リズちゃん」
 白猫の飼い主、アヤカ(ga4624)だった。
「お久しぶりですね! アヤカさん」
 リズはだいふくを撫でて、再会を喜ぶ。
(「うう、握手できなかったな‥‥」)
 セージはひっかき傷を抑えて、心の中でそう思った。
「結構賑やかだ、な」
 不破 梓(ga3236)が入ってくる。その後ろに水鏡・シメイ(ga0523)、ハンナ・ルーベンス(ga5138)、鹿嶋 悠(gb1333)、風雪 時雨(gb3678)と続く。梓以外、何らかの形でリズに会っている事のある者達だ。
(「やはり、そちらの道に目指しますのですね」)
 ハンナは悔やんでいた。彼女は能力者として珍しく、生身の武器を持たない。悠もリズが能力者になるというのは予想していたようだ。2人はリズには戦いを忘れて欲しかったのだが、彼女の意志を尊重する事にしていた。なら、出来ることを教えるまでだ。
「初めまして、不破 梓だ。よろしく」
「リズ・A・斉藤です。今回はよろしくお願いします」
 梓とリズは握手を交わす。
「ハンナお母さん! 悠さん!」
 リズはハンナと悠を見ると、ぱっと明るくなって、2人抱きつく。彼女がこの2人にとても懐いているのは直ぐに分かるだろう。
「よろしくお願いします!」
「はい、よろしくおねがいしますね」
「よろしく」
 ハンナは微笑み、悠もリズの頭を撫でた。
「‥‥親子みたいだニャ。ハンナさんとリズちゃん」
 アヤカが、にこにこ笑った。
「今回もよろしくお願いしますね」
 時雨も挨拶を済ませると、丁度訓練の教官が、やってきた。
「結構手練れが居るな、先に、射撃訓練と武器の使用方法の復習と言うことでリズに教える。そのあと、模擬戦と応急処置の研修だ。模擬戦のルールは鹿嶋の案を採用し、私が点を集計する。存分にやってくれ」

●射撃練習とか
「自分でなくなると言うが、そうじゃない。エミタを移植されても自分は自分だよ」
 と、全員がリズに言う。
「そ、そういうものですか?」
 覚醒して猫の目になっているリズが自分の姿に戸惑っている。
「能力者なら誰だって最初は戸惑うものですよ。今まで気付かなかった自分の一面と考えてはどうでしょうか? ま、何事も前向きに捕らえることが一番ですよ。子猫ちゃん」
「子猫じゃないです!」
 覚醒していると、猫の威嚇しているように怒っているような、雰囲気になっているが、
「ははは、今のままでは本当に子猫ちゃんですよ」
 悠が笑いながらリズの頭を撫でる。覚醒を解いたリズは、むくれ面になってじっとしていた。
「むー。悠さんは、いぢわるです」
 彼女は頬を染めていた。
「あまりいじめるなよ」
 セージが苦笑する。
「いじめてませんって」

 シメイが「もう分かっている事でしょうけど」と付け加えながらも、
「依頼では仲間との信頼関係が大事です。なので、挨拶は重要なことですよ」
「は、はい」
「だから、私をみて、真似てください。挨拶のしかたを」
「わかりました」
 リズは緊張する。
「水鏡シメイです。スナイパーをしております。よろしくお願いします」
 45度の角度のお辞儀。
「リズ・A・斉藤です! エキスパートをしております。よろしくお願いします!」
 彼女も倣って挨拶をした。
「元気は充分。あともう少し、こうして‥‥ですね」
 シメイはそうやってレクチャーしていった。

 射撃訓練にてハンナが、リズにSES搭載武器の銃器を教える。リズは、ショットガンかもしくはスコーピオンなどのSMG系を好み、近接はナイフ系らしい。
「一度、撃ってみてください」
 模擬銃を持ったリズが、標的を撃つ。猫背っぽくなるのは覚醒の関係のために矯正できないが、ハンナは過去の経験を生かし、リズに射撃方法を親切丁寧に教えた。
「右肩の力を抜いて‥‥そう。意識を自分と、銃と、目標に」
「え? そうなの?」
 リズの猫の目は綺麗にハンナを見ていた。ハンナは微笑みながら、アドバイスしていくと、リズはしっかり覚えていく。
「よく出来ました‥‥混乱と緊張の中でも、正しい構えで意識を集中すれば当ります。銃はそう出来ているの‥‥」
 ハンナはリズを褒めた。
 リズは、母親に褒められたような無垢な笑顔で「ありがとう」と答えた。しかし、ハンナの心はまだ複雑であった。

●模擬戦
 鹿嶋の案とは、各自は4点の所持点を持ち、命中する毎に点が減っていき、0点以下で退場となるものだ。
「決まりでは、SES武器の携帯は厳禁だったぞ。模造刀剣などは別だが」
 訓練教官がアヤカに言った。
 アヤカははっとなってしまう。機械剣「莫邪宝剣」、と副兵装 拳銃「黒猫」を装備したままだった。
「うにゃあ! うっかりにゃあ!」
 そのため、アヤカは模擬戦では参加出来なくなった。
 この場で訓練用武器に持ち替えればいいだけの話かもしれないが、決まりは決まりなのだから仕方がない。


 班分けは以下の通りだ。

 A班:水鏡・シメイ、不破 梓、鹿嶋 悠
 B班:セージ、ハンナ・ルーベンス、風雪 時雨

 数回ほど行うこととなり。その中でリズが加わるので4対3の構図となる。必ずリズがどちらかの班にはいる形になった。

 市街地の様に障害物の多い訓練場に、お互いチームで作戦を練り、どう狙うかを話し合っていった。
「こっちを囮にして、挟撃がいいかもしれない」
「それと‥‥有利になるように位置を素早く確保していきましょう」
 色々意見を出し合うが、肝心なことは忘れていない。リズの事だ。
「気を抜くな」
 梓がリズに言う。その声は厳しい。
「はい」
 スタートのアラームが鳴る。直ぐに配置に付き、暫く銃撃戦で、何名かが被弾する。シメイがハンナを直ぐに仕留めるし、セージと梓が、隙をうかがいながら近接している。時雨はドラグーンの機動戦闘を有利に導き、鹿嶋とそこそこの勝負をする。
「模擬戦とはいえ負ける気は無い‥‥本気でいかせてもらうっ!」
「望むところだ!」
 鬼気迫る模造刀剣相当の小太刀二刀流と刀の鍔迫り合い。2人とも歴戦の戦士なのでなかなか決定打を与えられない。
「これが能力者の‥‥戦い」
 遠くでマシンガンタイプの模擬銃を構えるリズはその戦いに驚くしかなかった。昔は何が起こっていたのか分からなかった。しかし、彼女の覚醒した猫の目が、有る程度みなの戦いを捕らえていた。後は彼女と、仲間が何をして欲しいかを理解してその行動に移る。
「手数はあっちが上かっ!」
 市街地戦を想定しているために、結構がらくたなどの障害物がある。梓は近くにあった、ボロボロのゴミ箱を蹴り上げ、セージの突進を妨害する。しかし、セージは気にせず剣でたたき落とし突進。思い通りの間合いまでは離れられない。しかし、絶妙なタイミングでリズが牽制射撃。セージが「ちっ!」と数秒の隙が生まれた。
「隙あり」
 見逃さない梓の模造刀剣がヒットした。セージからヒットした音が鳴る。
「迂闊だった」
「リズ、まだまだだぞ。近接時に銃撃は危険だ。流れ弾で、仲間が傷つくこともある」
 梓は少し厳しく、リズに注意した。
「あ、はい! ごめんなさい!」
 梓は、厳しくリズに接していた。リズは、少し怯えた感じになっていた。
「‥‥こわいかな‥‥」
 しかし、能力者になった今、彼女は甘えては行けないと思い、梓のアドバイス・忠告にしっかり耳を傾けて、積極的に行動していた。時にはサポート、そして先陣を切っての偵察などを行うのだ。
 勝敗はこの際どうでも良い。あくまで訓練で慣れるためだ。リズが入る班を入れ替え、再開。
「気をつけろ! SES武器の威力はでかいが射程は短いぞ」
 セージの大きな声、ハンナの「決して諦めない」というアドバイスをしっかりリズは教わり、訓練に打ち込んだ。
 数回もすると、リズの動きは徐々に緊張はなくなり、本当にしなやかな猫のように動いていた。覚醒にかなり慣れてきたようである。

●応急手当とツッコミ
「応急処置の訓練だ」
 訓練教官が言った。
 リズは、激戦地で生き延びた元一般人。応急手当などは他の誰よりも上手い。なら、「教える」のではなく、「一緒に教わる」事が良案だ。
「包帯は、こうして巻きます。骨折した時は添え木を‥‥」
 救急セットの使い方から、消毒方法など、リズにサバイバル能力はあっても、流石に分からないことはある。
「ナシュビルにいたときは、殆ど荒治療ですから、毒抜きなどは口で吸い出したり、傷口を焼いたりしたこともありましたから。救急セットがこれだけ揃っていると、とても助かります」
 リズはそうこぼす。
「今ではこういう応急処置がありますよ」
 と、誰かが教えてくれる。
「はい」
 リズは最新鋭機材については分からない。それはみなが教える。AEDが最たる物だ。競合地区のナシュビルでそんなものはないのだ。比較的治安が良いところの各所で見られるのも、つい最近のことである。
「人工呼吸は何回かしてますね。でも、こう言うAEDは初めてです」
 AEDの存在にリズは感心する。とても便利だなと。
「AEDを使うのは『振り』だけにしておこうぜ。男が人形役をするのは斉藤さんに怒られそうだ。なので女性のハンナさんに『人形役』を‥‥おごぉ!」
 セージの案に、悠が裏拳で突っ込んだ。鳩尾にクリティカル。
「何を考えていますかあなたは‥‥」
「え、そんな‥‥いくら私が『お母さん』とはいえ! それは‥‥っ!」
 ハンナは真っ赤になる。リズは首を傾げるだけだった。
「ニャ? 真っ赤になってるニャ。妄想でもしたかニャ?」
 ニコニコ笑うアヤカにハンナはまた真っ赤になった。
「訓練で人形もあるのだったら、そっちを使うのが普通かとおもうんですけど。実践しようとかというのは、その無理があるんじゃないでしょうか?」
 リズは首を傾げて冷静なツッコミ。
「もっともな意見だな。遊びじゃないんだぞ」
 梓は頷いてから、ぴくついているセージをジト目で見ていた。
「良いツッコミだったぜ‥‥」
 セージが親指を立てて、悠を褒め、気絶する(振りかも知れないが深く考えないでおこうか)。悠はため息を吐いた。
「普通にしましょう普通に」
 時雨が言う。
「え、人形役は居ないのかニャ?」
 いないいない。しないしない。
 和やかな(?)雰囲気で、応急処置の訓練は順調に終わった。


●うちあげとリボン
「「おつかれさまでした!」」
 打ち上げは宴会場を貸し切ってのかなり豪勢であった。お酒にオードブル、和洋折衷の宴会風味。出資者はハンナと悠である。
 乾杯をやってから、和気藹々と話が進んだ。
「フライドチキン?」
 リズが、梓の持ってきた唐揚げを見て訊ねる。
「唐揚げだよ」
「日本の揚げ物ですか」
「久々に仕込みからやったので自信は無いが‥‥」
 梓の一寸、上手くできたのか不安な声だったが、リズは一口食べると、幸せな顔になった。
「おいしいです。今度教えてください♪」
「ありがとう。今度、教えてやろう」
 声は厳しいように聞こえるが、優しい。姉のような感じだった。
 打ち上げが進むことにはリズも、不安が無くなったようで、皆とうち解けている。梓以外は、全員一度は会っているわけだからそうなることも必然だろうか。
 リズはアヤカとだいふくと遊んで。大人達は酒を飲んで、リズを囲んで色々話をしていく。アヤカもお酒が入っても、色々食べ物を焼いてくれた。一寸した焼鳥屋か? と思えるようなような状態だが。

 解散となるときに、セージが、
「激しい動きで髪が乱れるだろうからな。これで纏めると良いぞ」
 と、リズにリボンを渡した。
「‥‥ありがとう、セージさん」
 リズは笑ってお礼を言った。
「私が、リズさんに教えられる事は全て教えました‥‥これからは、貴女自身が切り開く未来。困ったり、悩んだりしたら‥‥戻っていらっしゃい。『お母さん』は、何時でも貴女を見守っていますから‥‥」
「はい、お母さん」
 ハンナはリズを優しく抱きしめる。心の中では、恩師に『此で良いのか?』と悩んでいた。


 こうして、リズの新しい人生は開かれ、一歩踏み出すこととなるだろう。