●リプレイ本文
●食料になるのか?
キメラが暴れていることは困ったことであり、それを退治するのは仕事だが、食料となるのか? かなり半信半疑であった。
「鶏食い放題さぁ」
「いやまあ、楽しく遊ぼうか〜」
花火師ミック(
ga4551)はもう、退治以降のことで頭がいっぱいのようだ。
「まずはキメラ退治を成功しないとご飯にありつけないよ」
「へい、師匠!」
ラン 桐生(
ga0382)と師弟関係になっているようで、花火師ミックは彼女を師匠と呼んでいる。不思議な縁である。
あの依頼内容自体で、緊張感がないのは仕方在るまい。
「いつも退治されるだけじゃ可哀想だ。食べて供養やれるなら良いな」
神楽克己(
ga2113)が言う。
全くその通りだ。
「解せないのは、なぜバグアはご丁寧に鶏小屋に入れる手間何かするんださぁ」
御影 柳樹(
ga3326)が思う。
他の全員も、その『なぜ』が気になる。
「また、何かあると行けないから、夜は見張りだな」
冥姫=虚鐘=黒呂亜守(
ga4859)が無表情で言うのであった。
辰巳 空(
ga4698)は食糧問題を解決できるのかと考えているが、やはりそれは状況によるだろうという仮説がある。色々謎が深まるのだが、出来ることからやろう。
一方、大曽根櫻(
ga0005)とアヤカ(
ga4624)はラスト・ホープのショッピング街で、色々買っていた。
「アヤカさん、それはなんですか?」
「ニャ? お酒ニャ☆」
「未成年が飲んじゃいけません」
「あたいは未成年と違うニャあ!」
●気分はピクニック→そのあと結構苦労
高速艇で無事到着。早朝のことだった。
草原と、牧草地。御影には故郷を感じさせる既視感。
「やっぱ、大地ってこう広いと気持ちいいさぁ」
遠くで牛が鳴いている。至って平和な牧場地域。
耳を澄ませば、聞こえるのはそれ以外にあった。
養鶏小屋からもう、叫び声としか言えない音と、金属柵に筋肉がぶつかる鈍い音。
「あー、暴れてる、暴れてる」
皆がそれを眺めて確認する。
「挨拶してから仕事しよう。それが礼儀さぁ」
一行は、養鶏の主に挨拶しに向かった。
「しばらくお世話になります!」
8人の声が、アメリカの大地に響く。
このあとに、「チキン祭りだニャ!」や「さあ、おっぱじめるでぇ!」とか自由に会話している。気楽な仕事だからだろう。
「血を見るのが苦手なら見ない方が良いぞ?」
桐生がミックに言う。
「う、どうして?」
実はミックは血が苦手。
「まあ、こういうことさぁ」
御影が、おもむろに持ってきたのは普通の鶏。
そこで、さっくりと絞めた。ミックは青ざめる。
「‥‥」
「なので見ない方が良いさぁ。ミックさんは今のうちに野菜などを切ってくれればいいさぁ」
「‥‥ほな、そうするわ‥‥」
ミックは、野外調理をするための準備に取りかかった。
「あたいは大丈夫だニャ☆」
アヤカは猫としての本能を向きだし中。
桐生の狙撃と、餌巻きで確実に群れをバラバラにしてから1羽ずつ絞める方向に計画が進む。鶏は大丈夫としても、問題は七面鳥だ。若干巨体である。更にどう猛。鳥というのは種類かまわずどう猛である。キメラでその性質が顕著に顕れる。それに鶏は結構速かった。餌をまいたら、あっという間に群がって暴れ始める。よく見ると、取り合いで喧嘩している鶏キメラ。
このすさまじさの中にはいるのは、結構勇気が要るだろう。
「ええい! 俺も彼奴みたいに捕まえてやる!」
神楽が飛び込み鶏の首を狙う。しかしかわされた。
「ええ?!」
その後、群れに蹂躙される。
怪我はなさそうだが服や頭に、足跡やフンがまみれる。
「うううう」
他の捕獲から絞める人も、同じ目にあった。
くちばしでつつかれ、突進され、挙げ句の果て、頭に乗っかられ‥‥鳴かれる。全員、結構必死に追っては捕まえる。桐生が小屋の外から狙撃して、徐々に機動力を失わせて、9羽全部を絞めることが出来た。
「いやーおもったより、苦戦したなぁ」
いい汗かいたと、男性陣はさやかな汗を見せた。
小屋自体は壊れてない。
残るは七面鳥。あれは、縄張りから一歩も出ていない。
それに、気が付けが昼だった。
「昼だ。腹が減っては何も出来ないさぁ」
まずは昼ご飯を食べる事に全員が同意した。
ちなみに昼ご飯は先ほど絞めた鶏での親子丼だった。
「あー、うー」
「ミック、まだ青ざめているの?」
「あー」
ミックはかなり血に弱いらしい。
アヤカが、既に絞めた鶏キメラの一部を切り取って火にあぶって食べてみた。
「うまいにゃ☆」
「つまみ食いはだめやで!」
「いやあ、やっぱかくにんしニャいと〜」
それも一理あるのだが、あまり深く考えないことに。
昼から気を取り直し、七面鳥を狩る。
こちらは、縄張りの範囲を確認してから個別撃破していく。しかし、流石に手強かったようで、仕留め組も怪我を負う。キメラもかなり傷は付いたが、食べる部位だけはしっかり残した。
「ふう、なんとか夕飯時には間に合った」
この後掃除班と、料理班に分かれて、夕飯の支度をする事になった。
「おつかれー。さてはじめるかぁ!」
「そうさぁ」
いったんシャワーを借りてから、着替え、カレーを作り始めるのであった。
●1日目
8人プラス農場の人がいるので、炊飯鍋もカレー鍋も2つずつ用意して各自自由に分かれて作り始める。御影が10kgのブランド米を何袋も自腹で買ってきたので、炊き出し様の釜は必須になるのである。
「師匠、ここは花嫁修業と言うことで、手伝ってくれへんかー?」
「え? ホントにいいのか?」
「カレー鍋を見てくれるだけでいいから」
「わかった」
レジャー用のコンロに鍋にはカレー鍋がある。
「私もお手伝いします」
「ほなたのむわ」
大曽根が色々、ミックの手伝いをする。
もう食うことしかできない人は見学か、馬をさわって楽しんでいる。
で、できあがったのはというと、大曽根の作ったカレーと桐生が見ていたカレーだが、桐生の見ていたカレーは何かが違う。
「焦げた。珍しい焦げカレーだよん♪」
桐生が汗をかいて、言う。
食べられないほどではないが、焦げ味が残っていた。焦げた匂いが鼻につく。
「師匠! 見てるだけじゃなく、ちゃんとでき加減を見てください!」
ミックの怒号が草原に木霊した。
大曽根の方は美味しかった。
冥姫は、マイスプーンでカレーを幸せそうに食べている。
「やはりカレーは美味しいです」
絞めたては臭みが残るのであるが、カレーのスパイスのおかげで、その臭みもなく、なかなか美味かったと好評であった。焦げた方は数に数えないことに。
そのあと、皆で色々くだらない話で盛り上がりながらビールを飲んで騒いでとにぎやかに過ごす。
ただ、数名だけは控えめに酒を飲み、
「この辺を警備してくる。また、バグアがキメラを入れてくる可能性があるから」
もっともな理由だった。
ほっかむりしたバグアを想像する人が多数で、大いに笑ったが、現実に遭遇するとあまり笑いにならないだろう。
夜。
ミックや桐生や御影、冥姫、辰巳は2:3で分かれて深夜警備する。しかし、これと言って手がかりになるようなものや、平穏な夜だった。
一度集合し、異常なしと報告を入れる。
「普通、ミステリーサークルがあっても不思議じゃないんだけど?」
「何もなければ平和ってことでいいさぁ」
「みな、空をみてや」
ミックが言う。
天の川、そして冬の星座が綺麗に瞬く。
数年前なら、ネオンで消えていた星空達。皮肉なことに、今ははっきりと見える。
「都会じゃ見られんもんなー。こんな星空何年ぶりやろ‥‥」
既に家に入って休憩していた大曽根とアヤカ、神楽も、その夜空を眺めていた。
●二日目
残った鶏たちは熟成中。ぶっちゃければ、能力者には何もすることがない。
ミック、大曽根など料理好きは、いろいろ下ごしらえで忙しいが、御影は完全に眠っている。他の者は、農家の仕事を手伝っているか気ままに過ごしている。
厨房にこんな看板が掲げられていた。
『桐生立ち入り厳禁』
それをみた桐生は、
「み、ミッ―――クっ! これはどういう事!」
「師匠! あんなに焦がしてしまうんはあかんわぁ!」
「まあまあ、喧嘩はよしましょうよ」
外では、仕事の合間にロデオを楽しむ人もいるし、至って平和な日中。色々慣れてきたようである。
フライドチキンは、皆でキメラ肉を揚げていく。無理に参加した桐生は当然、豪快に入れようとして、油がかかり痛がる。
「あついー! やけどしたぁ!」
のたうつ桐生。
「ゆっくりいれんとあかんさぁ」
語尾がいつの間にか『さぁ』になっているミックがため息を吐く。
やけど治療をする気はさらさら無いようである。練力もったいないし。
まともに出来たフライとビール、そして、アメリカ基準の大容量なサラダなど用意し、またどんちゃん騒ぎ。
この日も平和であった。
●鳥肉パーティー
ここからは本番とも張り切る人が多い。
何より七面鳥を食べるのだから。
バーベキューのスタンドも用意し、さらにはキャンプ用の竈も用意。
「ここまでいくると、もうキャンプですねぇ」
「ねっからそのつもりさぁ」
「そだなぁ」
「私は、下ごしらえに鶏の中に野菜を詰めますね」
大曽根は、鶏の丸ごとを鍋に入れて煮込む料理を作るため丸一日厨房に居るみたいだ。
「あたいは、こじき鶏っていうのをしたいニャ〜!」
と、1羽鶏キメラを持っていく。
彼女曰く、下味付けて、野菜などを大きな葉っぱで丸ごとくるみ、粘土で固めて、穴に埋めて上のたき火から蒸し焼きする調理法らしい。
ついでに、七面鳥もそれで試すことにする。
ロースト用などと何とか分けられ他のそれほど問題ない。鶏キメラ以外も少し普通の鶏も入れて、各自調理の下ごしらえをし始めた。
出来た献立がまた豪華だった。
「鶏づくしさぁ」
七面鳥のローストとこじき鳥、それにフライ。
鶏料理は数えるのも面倒な状態だ。鶏飯もあり、主食も鶏が入っている。
近隣の人も呼び(だいたい3マイル離れていることもあるが、気にしない)、
「退治ありがとう。また、お招きありがとう」
と、お礼する人が多かった。
「では、鳥肉パーティー開催しましょう! 乾杯!」
「乾杯!」
あとはもう、ホームパーティーな雰囲気で、盛り上がる。
ミックは皆から離れて、花火をセットし、皆を楽しませていく。
食う人は食い、飲む人は飲んで、この地域の人々と仲良くなっていった。
ポーカーに一喜一憂したり、キメラ肉が食えることに驚きを隠せなかったりと‥‥。
楽しい日々はすぎていった。
●そして終わり
立つ鳥跡を濁さず。
綺麗に片づけし、帰るときだ。
「ほんとうに、ありがとう。助かったし楽しめたよ」
と、農家の人は、皆を順に抱きしめて、挨拶する。
「こちらこそ、ご馳走様でした」
8人そろって、礼を言う。
「また、来てくれて良いよ」
農家の人はそう言ってくれた。
そして、笑顔で別れをつげ、高速艇は飛び立っていった。
バグアの考えは謎だったが、美味しい思いをしたので深く考えない方が良いだろう。とは思う。
楽しく過ごせた息抜きだと‥‥。