●リプレイ本文
●集まってみた
想像を絶するほどの散らかりよう‥‥ではないが、綺麗とお世辞には言えない事務所になっていた。ファイルなど散乱しており、忙しさと、藤木の仲間のいい加減さがかいま見えた。
「うんしょっと」
フィアナ・ローデン(gz0020)が数少ないスタッフと掃除をしていた、ツナギに軍手、首にタオルという出で立ちだ。
「休憩してきて下さい」
「え。でも、まだ」
周りの散らかりように、不安そうな声。
「休んでないでしょ」
「‥‥うん」
流石に4人程度では仕事がはかどってない。スタッフがフィアナは休めと言う。
「うう、汗がべとつく」
「3時間後に再開しましょう。9時ぐらいには皆さんが来ますから」
「はい。じゃ‥‥着替えてくるね」
フィアナは居住区へ通じる階段を上っていった。
「あ、又遭難してそうにゃ」
「みゃ〜」
ウロウロしている不審な着物男を発見し、猫耳を生やしてピコピコ動かすのは、ビーストマンのアヤカ(
ga4624)。バスケットの中には、だいふくという白猫が居る。しかしその姿は、よく知る人物である。
「何とか自力でいければ良いのですが‥‥」
《LH遭難者》、水鏡・シメイ(
ga0523)だった。
「シメイさん、どっちいくニャ?」
「あ、これはアヤカさん。おはようございます」
「又、迷っていたのかニャ? ‥‥やはり‥‥」
ため息を吐くアヤカ。
「ははは、お恥ずかしい限りです」
シメイは苦笑いするしかない。
待ち合わせ場所はローデン事務所前と言うことで、一行が待っていた。だいたい15分前。
「皆さん、おはようございます」
「やっほー!」
「皆さん、初めまして〜」
「‥‥おはようございます‥‥」
「やあ、皆おはよう。今日は頑張ろう」
と、先について待っていた葵 コハル(
ga3897)、ベル(
ga0924)、小森バウト(
ga4700)と皐月・B・マイア(
ga5514)がアヤカとシメイに声をかけた。
「がんばろニャ〜」
アヤカ、シメイが着いた3分後に、小鳥遊神楽(
ga3319)が到着する。
「久々にこっち気来れたわ。えっと、バウトさん以外は、やっぱり顔見知りが多いわね」
「初めまして、小森バウトです」
「小鳥遊よ、よろしく。後々改めて挨拶しようかしらね」
挨拶を交わす。
「さて、あたしも頑張ろう」
彼女はバンダナ、合金軍手をつけていた。気合い十分である。
マイアは戦闘用メイド服にバトルモップという出で立ちなのだが、マイア自身、メイド服がデフォルトになっているため、違和感がない。むしろ当然。
その10分後に、
「遅れました! すみません!」
風雪 時雨(
gb3678)がリンドブルムをかっ飛ばしてきた。
「「最後だよー」」
「いえ、買い出しなどで。すみません!」
「指定時間に来たんだから、責めては行けませんよ」
バウトがフォローに入った。
●お約束?
「‥‥おはようございます‥‥。‥‥掃除、手伝いに来ました‥‥」
と、ベルがベルを鳴らして、返事を待つ。あと、ベルなだけに、とか言うの禁止。
ドアが開いて、スタッフが「おはようございます。よろしくお願いします」とお辞儀する。
ぞろぞろ中に入ろうにも狭いので、コハルとベルが先に入ってみると‥‥、
「いやぁ〜‥‥分かるなぁ‥‥この状況‥‥。あたしもIMPで営業に行ったり依頼で遠出したりすれば、こういう風になっちゃうよね〜‥‥」
コハルが「にはは」と苦笑いした。
まさしくもって、似た散らかりようなのだろう。
辛うじて足尾踏み場があるという、どこかの研究員のとは質が違う散らかり方だった。
「うーん、生ゴミのたぐいはないみたいだね」
神楽が辺りを見ていたら、臭いもそれほどしない。
「所でフィアナは?」
マイアがキョロキョロしている。
「居住区の方でお休みになってます。かなり遅くまで掃除をしていたので」
「そうか。もしかしたら眠っているのか」
マイアが一寸考える。
「にゃふふふー。フィアナの寝顔を拝見できるかも」
「そうにゃーコレはチャンスニャー」
コハルとアヤカが悪戯に微笑む。
「こらこら。彼女は約束を守る人だ。待とう」
マイアが制した。
「おまたせしました。皆さん、来てくれたのね」
ツナギに軍手姿のフィアナがやってきた。
(「うーん、やっぱり男の子が乙女の着替えを見ちゃうというイベントはなかったのか」)
と、フィアナは思っているのは秘密である。
●トラブル多し
「まずは、会議室や応接室、事務所関連から綺麗にしていきましょう」
時雨が指示を出す。
「女性陣は居住区担当ニャ〜。でも力仕事のときよぶニャよ。さて、あたいはゴミ分別担当ニャ」
と、さくさく始めていく。
「バウト殿と、私はスタジオだな」
「ですね」
2人はスタジオの方に向かう。
「水回りは任されたわ」
神楽が居住区に行く。フィアナも付いていった。
「衣装室‥‥かな? あれ? まてよ?」
コハルが「むむ」と考える。
「リビングが決まってないよ?」
「あ、ホントだ」
抜けている場所発見。
「衣装部屋より先にリビングだけど‥‥」
「先に上から掃除していって‥‥それにキッチンや水回りがあるし、最後が良いんじゃない?」
と、あーだこーだと話し合う女性陣。
「動線は最後が良いか。先に衣装部屋片づけよう」
コハルがそっちに向かうことになった。
シメイは頭に手拭い、体にエプロン、右手に箒、左手に塵取りを装備して気合いが入っていた。
「割烹着なら完璧だね!」
日本女性陣の感想。
「流石にそれは」
苦笑するシメイだったが、やたらと似合うのは凄いことだ。
「徹底的に綺麗にしますよ!」
能力者が本気を出せば重たい物など関係ない。会議室にはそれほど大きなゴミはないので、煤を取って、箒でゴミをあつめていったら残りはふき掃除だ。
一方、アヤカとベルが、事務所で悪戦苦闘している。
「コレ要るのかニャ?」
「捨てても良いです!」
「‥‥おおう、おもいー」
ベルが重いゴミを運び出している。
「みゃー!」
大人しくしていたはずのだいふくがバスケットから顔を出した。そして暇そうに欠伸をしては、雑誌の山を見る。
「だいふく!!」
「みゃ」
雑誌を見つけるアヤカは時間が止まってしまった。
「あーコレは、懐かしいバックナンバーの雑誌ニャ!」
「‥‥どれどれ? あ、コレは‥‥っ!」
ベルも興味を持つ雑誌があったようだ。
大掃除に良くある風景‥‥、懐かしい本を発見、読みふける事。
「‥‥!? あ、掃除ですよ、アヤカさん‥‥っ!」
「うっかりしてたニャ!」
慌てて掃除に戻る2人であった。
「ららら〜、春うらら〜♪」
バウトが踊りながら、楽器を弾いていた。
「こら、バウト殿」
「あ、すみません。懐かしいので」
マイアに怒られて、バウトは頭をかいて怖い笑みを浮かべてしまう。
「そうか、バウト殿も音楽をたしなんでいたのか」
「そうなのですよ」
その気持ちは分からないでもない。再び掃除を開始する。
マイアは覚醒してバトルモップ(SESのパワー自体はオフ)で思いっきり綺麗にしていった。
「懐かしいな。スタジオを掃除するのは‥‥」
「僕は音楽から離れていた時期が長かったね。この雰囲気は好きだよ」
「フィアナは頑張っている。だからそのために綺麗にしていこう」
「ですね」
シメイが直ぐに終わったので、ベルと一緒に順調に事務所区域を掃除していくと‥‥。
「きゃあああああ!」
悲鳴。
シメイとベルは何があったのか、急いで駆けつける。
登った瞬間。ベルは暗転した。
「‥‥へ?」
心地よいハリセンの音。
「うわっごめん!」
コハルがハリセンを振り回していたようだ。其れがもろにベルの顔面に当たったらしい。
「きゃーきゃー! いやああ!」
「落ち着いて! フィアナさん!」
フィアナは、泣き叫んで時雨に抱きついていた。
「そっちに向かってますっ! 殺虫剤!」
「こっちかぁ! うわとびかかるなぁ! きゃああ! 顔にいいっ!」
コハルがハリセンを振り回すも、何かの反撃をくらったので逆に青ざめ失神。
「ニャ!」
「だいふく! 其れは食べちゃだめにゃっ!」
白猫が何かを捕まえたが、アヤカが制してスリッパで何かを叩いた。
「何があったのですか!」
シメイがベルを抱えて訊く。冷静に判断して例のアレだろう。
「ゴキブリが‥‥こっくろぉ〜ちが」
涙目のフィアナが答えた。
神楽が水回りを徹底して洗って、台所の掃除を始めたとき、『一般家庭の最大の敵』と遭遇したのだ。生理的に受け付けない生きた化石である。徹底的に掃除をすれば出てくると分かり切っていた神楽、コハル、アヤカはそれなりの対応は出来るのだが、フィアナは条件反射的に怖がってしまったと言うことだ。時雨は居たのは既に応接室を終わらせており、台所の食料を確認しようと思ったからである。
「ああ、Gですか‥‥」
シメイが納得した表情を浮かべた。
「‥‥Gですね‥‥わかります」
ベルが顔を押さえて、理解していた。
「‥‥コハルさんが、ノックアウトっぽいですね‥‥」
コハル暫くリタイア。数分後に目を覚ますだろう。
「で、2人とも‥‥」
神楽がコホンと咳払い。
「ずっとそのままでいるつもり? 見せつけるわね」
苦笑まじりで、言う。
相手ははフィアナと時雨。
「ニヨニヨだニャ」
「‥‥ニヨニヨですねぇ‥‥」
「春ですねぇ」
割と(ネタ的に)交流があるアヤカとベルとシメイが言う。一気に2人は離れて真っ赤になって硬直した。瞬天速もビックリで。
スタジオは防音処理が為されているため聞こえなかったらしい。
●メシスタント
こっくろぉ〜ち事件から10分。
「ああ、三途の川みた気がするよ」
コハルが起きた。そして急いで顔を洗う。覚悟はしていても顔に当たるのはトラウマになる。
そして、各々が掃除を再開し、11時ぐらいになった。お昼前である。
「おにぎり、お願いするわ」
「私は、豚汁が良い」
神楽とマイアの注文で、時雨が作る炒飯は又の機会となった(具を応用出来る簡単さがあるし、やはりおにぎりという案が多かったためだ)。しかし、包丁を持つ手がぎこちなかった。隣でフィアナが料理を手伝ってくれているからだ。それに先ほどの『こっくろぉ〜ち』の件がある。コハルも一緒に手伝っている。
(「ねぇねぇ、フィアナ」)
(「なんですか?」)
(「彼のことどう思ってるの?」)
コハルが時雨を見て、ひそひそ話すると、フィアナの耳が真っ赤になった。
「あうあうあうあうあ!」
「ど、どうしましたっ!?」
時雨が驚いてフィアナに訊ねた。
「あ、なんでもないです」
(「もう、コハルちゃん!」)
(「満更でもなさそうだねぇ」)
ニヤニヤするコハルだった。
リビングで休憩中のアヤカや神楽、バウト、マイア、シメイ、ベルがお茶を飲んでいた。
「フィアナちゃん料理できるんだニャ」
ハタキでだいふくと遊ぶアヤカが言う。
「良い感じに綺麗になったよね」
と、他愛ない雑談。
「おまたせしましたーっ!」
時雨とコハルとフィアナがお盆を持ってきた。
「バウトさんにはトマトジュースですね」
「ありがとうございます」
そして、のほほんとした食事のあとに、残っている箇所の大掃除を再開した。
殆ど居住区は女性陣が何とかしたので、粗大ゴミの手続き、衣装部屋の掃除と使えない古着の発掘。機材の調整とやっていく。
衣装部屋では、様々な服装がある。しかし、それほど衣装が多いというわけではなく、あまり使われていないのか虫食い穴もあった。それらを処分することになっていく。
「お母さんの衣装だったの。再現した物ばかりだけどね」
「へぇ」
「あたしには似合わないけど良いよね」
神楽が言うと。
「えー。女の子なら似合うよ」
フィアナが笑った。
「いやいや」
「着てみればいい」
マイアが呟くように言った。
「‥‥マイアさんも着たいんですよね」
「‥‥っ!」
そう言う会話もしながらも、ワックスがけもし、綺麗さっぱり片づいた。
「夕飯の支度も‥‥買い出し、行ってきます」
時雨が言うと、
「‥‥フィアナさん誘わないのですか?」
ベルが時雨に訊ねた。
「お疲れでしょうから‥‥自分一人でいきますよ。それに、リンドブルムつかいますし」
「‥‥‥‥」
ベルのお節介失敗。
フィアナが、シャワーを浴びているとき、アヤカが悪巧みする笑みを浮かべ、
「今のうちに覗いて見ようかニャ‥‥」
「‥‥アヤカ殿。了承を得てからだ‥‥」
マイアに制止された。
「ニャ〜」
(「私も見たいけど、内緒で覗くのは親友としてっ!」)
マイアは心の中で誓っていた。
夕食も終わり、休憩のあと、夜になった。
「お疲れ様でしたっ!」
「ありがとうございますっ!」
と、お別れの挨拶。
「えっと、又何かあったら言って下さいね」
と言う言葉も頂き、フィアナは感激していた。
事務所にはフィアナだけ‥‥ではなかった。マイアがナイトキャップにパジャマ姿と、抱き枕として使っているぬいぐるみを抱きかかえて、フィアナの私室にいる。
「お泊まり許可してくれてありがとう‥‥フィアナ」
「うん。感謝でいっぱいだもの」
2人ともちょこんと座って、微笑み合っていた。しかし、マイアの顔がかげる。
「?」
「フィアナはどう? あの人と上手く行ってる?」
その言葉で、フィアナは真っ赤になった。色々トラブルがあったわけだし(良い意味で)。あと、時雨がこっそり置いていった、ぬいぐるみとラッピングされた菖蒲とストックが気になって仕方がないのだ。
しかし、マイアにとって重大なことだった。寂しい表情だった。
「あの人と近付いたら‥‥今度は私から離れてしまわないかって‥‥はは、ちょっと不安になっっちゃって」
マイアは涙を浮かべていた。
フィアナは、彼女を優しく抱きしめる。
「そんなこと無いよ、マイア。大丈夫だよ」
頭を撫でた。
「ありがとう。私はフィアナを護るよ。だって、約束したし、誓ったからね」
マイアは落ち着いた様だった。
●順調
綺麗な事務所での面接はほどよい成功となり、人も希望人数を満たしたようだった。これで、フィアナのやりたいことが出来るだろう。そう、北米横断慰問ツアーである。
「元気と勇気を歌で伝える旅がはじまります! 皆。がんばろうねっ!」
フィアナはスタッフと新スタッフに檄を飛ばした。