●リプレイ本文
●非凡か凡庸か?
高速移動艇の搭乗口にて、全員が揃った。
「今回はよろしく頼むぜ‥‥。噂に名高い奴がいっぱいだな」
ジェームス・ブレスト(gz0047)が傭兵達をみて、そう言う。
「よろしく‥‥お願いします。エースの実力とやらを、拝見させて頂きます」
「おう、終夜。任せろ」
終夜・無月(
ga3084)が握手を求めると、ジェームスはそれに応じた。
「あ、其れは我が取っておいたものなのにっ!」
漸 王零(
ga2930)が、先に台詞取られたことで、文句を言う。
「‥‥零、別にそう言う物‥‥じゃないでしょう」
無月は苦笑する。
「む、気を取り直し、俺は漸王零だ。エースとしての実力を見せて貰おう」
「ああ、期待してていいぞ」
王零とジェームスが握手を交わした。
各自、ジェームスに自己紹介を終え、乗り込む手続きを済ませていく。たしかに、今回エース級の傭兵が来ている。小隊長(というか天衝も月狼も中隊〜大隊規模であるが)もいる。縁の下の力持ち的な強者もいる。
「これだけ集まると壮観ですね。私の様な、ごく普通の傭兵には本当に頼もしい物に思えます」
着物美人の鳴神 伊織(
ga0421)が呟いた。
「「いやいや其れは、ナイナイ」」
その場にいる全員が彼女に突っ込んだ。
「え? そうなのですか?」
一寸目を丸くして、きょとんとする伊織であった。
「サラダは禁止な!」
九条・縁(
ga8248)が妙なテンションで高速移動艇に乗り込む。
「なんですか、それ」
誰かが首を傾げた。
「ああ、あれだ、確か、『戦い前に、「サラダ作って待ってろ」と恋人に頼む奴は、どちらかが死ぬ』という映画関係の死亡フラグだ」
水円・一(
gb0495)が解説する。
「其れは勘弁‥‥です」
仮染 勇輝(
gb1239)がため息を吐いた。
「冗談を言うのも其処までにしましょう。油断は禁物ですわ」
ロジー・ビィ(
ga1031)が縁に言った。
「危険だからこそ、ユーモアってのをな」
「あまり張りつめていると、十分な仕事が出来なくなるが、冗談はホドホドにな」
南雲 莞爾(
ga4272)が頷く。
「作戦会議にはいるときはジョーク入れるなよ」
ジェームスがきりっとした口調で言った。
全員が、彼の方を向き、「そろそろだな」と表情をかためた。
彼が言った作戦A班で侵攻を阻止、そのあいだにB班が車で移動し、挟み撃ちにする。その戦っている間に、C班が避難出来なかった一般人や負傷者を救助し、安全圏に移動と言うことだ。
「助け出すことを重要視しましょう」
C班のクラリッサ・メディスン(
ga0853)が言う。
「サイエンティストが私一人しか、戦場に向かえない構成ですからね」
そう、戦闘班に他者を回復させる余裕がないのだ。
「殲滅が理想だが‥‥」
「無駄に命を落とす行為をするのは、蛮勇だ」
白熱する作戦会議。
挟撃のB班を2つに分けて3方向からと言う案もあったが、敵の数と状況が居ると考慮すると、難しいので、ジェームスの基本作戦をメインに動くことになった。『現地で戦えるサイエンティストが4人いれば』可能だったろう。あくまで、サポートで入ってくれた2人は、負傷者や避難民が安全地帯に着いたときの治療などのバックアップである。
「A班が壁になる。早く着いてくれよ」
「任せてください」
●現地
遠くの方で獣の叫び声が聞こえる。地響きでも聞こえてきそうだ。其れがキメラの群であるというのは直ぐに分かる。
「おー居る居る‥‥あれが全部キメラか。実際に見ると数字以上に感じるな」
双眼鏡を借りてブレイズ・カーディナル(
ga1851)が感心していた。
こっちに来るには時間はかかるだろう。幾らキメラでも、超高速で動く物は少ない。
「これは急がないと行けないな」
Mk(
ga8785)が無表情に言う。
一行は支給された物品を詰め込み、急いでジーザリオに乗り込み出発する。土煙をあげて車は走った。徐々に、キメラの群の不気味な音が大きくなり、コアトルの姿もはっきり確認できた。高さは2〜3階建ての建物程、雄叫びをあげ、発狂したように家屋を潰して前進している。
「計画通りに行うぞ、作戦開始!」
ジェームスが大きな剣を構えて、持ち場に駆け出す。続いて同じ班のブレイズ、王零、無月、縁が走る。
「こちらも急ぎましょう。くそ、KVが使えたらなぁっ‥‥」
井出 一真(
ga6977)がぼやきながら車を走らせる。
「ロジー、任せる」
「わかりました」
藤村 瑠亥(
ga3862)はロジーに頼み、彼女は頷いて車のアクセルを踏む。
「人を救うのはおいらに任せろ! 探しに行こう!」
火茄神・渉(
ga8569)がジーザリオに乗ったまま、A班とB班が所定の場所に向かうのを見送った。
「そうですね。迅速に見つけて助けましょう」
周防 誠(
ga7131)が少年の言葉に頷いた。
「水円さん、お願いします」
「分かった」
一は覚醒し、探査の目を使う。
「集合場所は此処です。捜索の方お願いします」
クラリッサが、髪の毛を後ろに結んだ。
●B班の遭遇
車で走っていると、目の前から狼と車が割り込んできた。
「なっ!」
急ブレーキをかけ、その場で止まった。
「向こうも予測していたということか!」
「はっ! 車の音がすればわかるってもんだ!」
車に乗っている男が叫び、銃を撃って来た。
莞爾たちは急いで車から降り、銃に持ち替え、応戦した。狼はジリジリにじり寄って、威嚇のうなり声をあげている。
「相手も馬鹿じゃない、と言うことですね」
伊織がスノードロップを構えて、確実に狼を撃ち殺していく。今は距離が距離、危険なのだ。狼から火はき出され、全体を覆い始める。ジーザリオが壁に役割を果たし、大やけどは免れる物の、熱い。苦痛に耐えながら、反撃をしていく。
「でます」
伊織が隙を見て動き、刀で狼を切り裂いた。
「蒸し焼きになっちまえ‥‥あ?」
「お前は油断したな」
莞爾と瑠亥が瞬天速で間合いをつめ、敵能力者に接近した。
「しまいだっ!」
2人の一斉攻撃を敵も全部かわすか片手爪で受け止める。
「そうやられるかってんだ!」
彼の後ろにも沢山の狼の群が居た。
「こっちは済みました。増援?」
ロジー達が駆けつける。
「向こうまで向かうのに一苦労ですね」
ジーザリオに乗ったまま一真がM−121ガトリング砲を構えて、一斉掃射する。狼は威嚇で炎を吐いたが、射程外だ。
「『飼い主』が無くなれば、単なる群になるな」
莞爾が月詠を振るう。敵も片手爪で受け止める。瑠亥の花鳥風月はかわしながら、蹴りを入れて間合いを離そうとしている。
「‥‥む!」
「そう簡単にはやられねぇ」
敵の不敵な笑い。
恐らく相手はグラップラーなのだろうか。行動を読まれている気がする。
ガトリングの面攻撃が終わった直後に、伊織とMkが走り込み、次々と狼キメラを屠っていく。一真がリロードするときに敵に襲われないよう、ロジーが車をバックさせる。
一方、敵能力者と、莞爾と瑠亥は車から離れて、戦い続けていた。敵の爪が、南雲のフェイスマスクを砕き、顔に命中した。莞爾は小さくうめきながら、転がりながら体勢を立て直すが、血で周りが真っ赤だった。フェイスマスクがなければ、爪が目の奧まで到達していただろう。
「莞爾さん!」
伊織や瑠亥が叫ぶ。
「俺はいいから!」
瞬天速で間合いを取って離れる。しかし相手も手負いを逃すつもりはなく同じく瞬天速で迫ってきた。
「させません!」
走ってきた伊織が鬼蛍で横から突く。位置を予測し、そこに無想の一撃。
「はぁっ!」
莞爾も目にもとまらぬ突きを繰り出す。月詠は見事に心臓を貫いた。
「かはっ!」
それで、敵能力者は倒れた。
狼たちは、その場で『ボス』が死んだことを悟り、泣き喚きながら、その場から逃げていく。士気が崩壊したのだ。
「大丈夫ですか?」
「くっ油断した‥‥」
伊織は応急手当で莞爾の頭に包帯を巻く。
「急ぎましょう。車熱くないかな?」
炎で熱され目玉焼きが出来そうかもと、ジーザリオの鉄部分に恐る恐る触ってみる。熱くない。大丈夫だ。
「急いでポイントに向かおう」
●ロデオ
一方A班。
無月と王零のコンビネーションがさえ渡っていた。舞うように動くその様は綺麗だ。しかし、其れは死の舞である。無月は魔創の弓に弾頭矢をつがえ放つと、バッファローを怯ませる。そこで、王零が試作型機械剣で『切り裂く』。国士無双よりは知覚武器が有効らしい。
「しかし、エースはひと味違うな」
「‥‥ですね」
ジェームスの剣捌きは、狂戦士のような荒っぽい物に見える。しかし、その一撃一撃が必殺で別の意味で洗練されていた。堅い鎧など彼の剣の一撃にかかると、紙切れのようだ。それでいて、連携も直ぐに対応し、ブレイズが足止めした物を確実に仕留めていた。
「我たちも負けられないぞ」
「‥‥わかりました‥‥零、次が来ます」
王零は弾頭矢を受け渡し、王零が又剣を構え、さらにバッファローの群を片づけていった。
「ひゃほうっ!」
バッファローに上手く飛び乗った縁はロデオのように操ろうとする。しかし、バッファローは言うことを聞かなく不愉快な叫び声をあげてその場で暴れる。当然、急に止まれば、後ろから追突が来る。フォースフィールドの花火が上がるがロデオ中の縁は頑張ってしがみつく。追突に怒って仲間割れも起こしているので、群の突進に乱れが生じた。これにより、A班全体の攻撃もやりやすくなった。
「うわ、でも、毛がない分、難しい! うわわっ!」
毛皮ではなく、石のような鎧をつけたバッファローでロデオをするのは骨が折れ、案の定、手が滑って落ちる。上に乗っかられていたキメラが怒り、踏みつけようとするもギリギリで回避するが、別のラインからの猪キメラの突進が来た。避けられない!
「うわあ!」
しかし、彼にぶつかったのは、赤い血のシャワーと猪の首だけだった。
「無茶をするな!」
筋骨隆々のジェームスの怒号が縁の頭に浴びせされる。綺麗な横斬りのあと。つまりは猪を二枚おろしにしたのだ。縁は直ぐに起きて、次の獲物を斬り倒した。
「すまん! 調子に乗りすぎた」
直ぐに起きあがって、別のキメラを屠った。
「やっぱ、エースって違うぜ! 大尉さん、もう一丁!」
ブレイズは、もう一頭を足止めしている。
「‥‥わかった。ふんぬっ!」
ジェームスのグラファイトソードがバッファローの脳天をかち割った。
「まだか! くそ、無線が‥‥ノイズだらけだ」
しかし、ジャミングが酷いのか、無線が思うように使えない。そこで、54ヤード先‥‥コアトルが雷を呼び出し、A班に叩き付ける。轟音と共に、他のキメラは感電し、焼けた。
「きたか! 本命が」
まだ壁としてキメラの群が居る。
なんとか、持ちこたえて、キメラの群は突破されていない。しかし、このキメラの存在で立場が逆転しそうになっていた。
●救助
「落ち着いてください。もう大丈夫ですよ」
クラリッサが、パニックを起こしている要救助者を安心させる。渉もそれに倣い、「もう大丈夫だから!」と少年の笑みで安堵させた。クラリッサが一定ポイントで待機し、怪我の具合を観て治療を施し、渉と誠はクラリッサに救助者を託したら、急いで又別の所に向かう。
「後ろは安全だ。こっちだ」
水円が誘導先を指示し、数名の救助者を導き、また先頭に戻る。
『こっちには、誰も居ないようです』
誠が無線でメンバーに伝える。
「よし、もう少し先を進もう」
日本の住宅事情とは違い、家と家に間がある。中で怯えている一般人を捜すのはかなり骨が折れる。地下室に隠れているかも知れないので、把握するのに時間がかかる。ずっと覚醒していると水円は時計をみて、調整していかなければならない。常時スキル発動をすれば、かえって危ないのだ。
「一休み入れましょう」
勇輝が言う。
「そうは、いかんだろ‥‥」
『そうですわ。まだ探して10分。スキルをフル使用ではもたないですわ』
クラリッサがたしなめた。
「‥‥わかった」
家の壁にもたれ覚醒を解く。
『その間、自分や渉さんが見つけていきます』
『まかせろって!』
誠と渉が無線越しに水円に言った。
『勇輝さんはここで周りを警戒お願いします』
誠がそう告げて、各自仕事に戻る。
5分休憩後、一旦合流し、別の家に。
辺りが血の海になっていた。途中で、血の道が出来ており、ドアでとぎれるが、ノブもその回りも血でまみれている。
「これは酷い!」
勇輝は惨状を目の当たりに吐き気をもよおすが、我慢する。
「気をつけろ‥‥」
水円が探査の目で警戒する。危険な待ち伏せはない。
誠が蹴り上げ、水円が銃を構えて中に入る。
「うわあああん」
子供の泣き声が聞こえる。2人で兄弟のようだ。
獣のような体つきをした、巨体が子供達を抱きしめている。しかし、火傷や噛み傷、蹄の跡が酷かった。おそらくビーストマンだ。
「‥‥だれだ!」
狼のように威嚇するビーストマンが、爪を構えて警戒した。
「UPCだ、助けに来た」
「だ、だまされ。げほっ‥‥俺は此処で子供達を守るっ!」
「信じてくれ‥‥急がないと! あんたが危ない」
医者じゃなくても分かる。瀕死の重傷だ。それでも気力で戦っている。
「大丈夫。おいら達を信じて‥‥おじさん」
渉が武器を地面に置いて、近寄った。
「‥‥」
その姿に、ビーストマンは覚醒を解く。一気に血を流し倒れそうになった。急いで大人達が支える。
『今すぐ向かいますわ』
ジーザリオのエンジン音が聞こえてくる。
錬成治癒を直ぐに施し、全員で傷の手当てをする。渉は泣きじゃくる子供達をあやし、落ち着かせていた。
水円と勇輝は周りを警戒する。
「未だ先に人が隠れている。この子達の親たちだ‥‥」
ビーストマンが位置を教える。
「助けに行こう‥‥」
「まってください。その位置はいま‥‥群がいっぱいじゃないですか?」
「地下室にいる。よほどのことがない限り‥‥大丈夫だが‥‥」
一が殺気に気付く。
「!?」
一が窓際に乗り出してギュイターを撃つ。狼が血の臭いを追ってきて、忍び寄ってきたのだ! 一は相手に傷を負わせるが、狼は怯まず、中に飛び込んできた。しかし、誠と渉と勇輝がビーストマンを庇って迎え撃ち、突き殺した。
「危なかった‥‥」
「こちらはOKですわ。担架持って」
「ああ、一旦戻ってください。家族の方は助けに行きます」
「まかせろって」
一と誠が先行し、渉と勇輝が担架で負傷者を運び出した。
●タイミング
コアトルは、既に他のキメラに用はないかの如く荒れ狂う。しかし、それほど高く飛ばないで、召雷弾や召炎弾で、あたりを焼き払おうとしていた。
「此処まで到達するまでにプロトン砲を撃たれたらかなわん‥‥叩くぞ!」
「ああ‥‥」
魔創の弓が唸る。丁度、お互い射程圏内だ。しかし、弾頭矢はフォースフィールドを上手く貫いていない。
「つよい‥‥ワーム級のことだけはある」
無月が悔しがる。
周りの牛はほぼ止まった。ヘルハウンドや他の群を作るキメラも彼らの前に出ない。
「‥‥弱まったところをガブリってやつか‥‥」
縁が警戒しながら、次の出方を待っている。
「ハイエナは実は賢い狩人ですからね。残飯あさりではないんですよ」
「ああ、そういうのは聞いたことがある。見た目で判断はしては行けないな‥‥」
無月と王零が余裕の会話をしているように思えるが、やせ我慢だ。連発して、雷や炎をあびると、火傷や感電で痺れが取れない。無月は弓に弾頭矢をつがえ動きに備えているが、王零が庇うようにして立っている。
群が二つに割れた。コアトルが大きく口を開ける。そこにはかつて無い光の粒子が集まっている。
「これは、くるぞ!」
ジェームスが飛び退く。
「はやい!」
しかし、無月達は光の中に消えた。プロトン砲が放たれたのだ。
B班とC班はその光の帯に、呆然とする。
「なんてこと‥‥」
A班の無事を祈るしかなかった。
地面は穿たれて、殆どの家屋が崩壊する。ガレキの中から出てきたのは、ジェームスと縁、無月であった。
「零? 零!?」
無月を庇って王零が彼の足下で倒れている。酷い火傷だ。
「零! 零!」
無月が急いでポケットを漁るが、救急セットを持ってきていない。
「アレを遠距離で倒せるのは、お前だけだからな」
気が付いた王零は、国士無双を杖にして、立ち上がった。
「無茶するな」
「なに、まだまだ行ける」
「ほう、根性で立ち向かうか? 俺はそう言うのは、好きだけどな。しかし、やせ我慢はホドホドにな」
ジェームスが、笑う。彼もかなり痛手を負っているが、未だ動けるようだ。
「なに、面食らっただけだ。そう死にはしない」
エースの言葉を王零は笑顔で返した。
そして、一斉に群が集まって突進してきた。武器を持ち迎撃使用とした刹那。
『面攻撃行きます』
一真のM−121ガトリング砲の銃撃音が、キメラの群の斜め後ろから響いた。
「なぁ!?」
コアトルの真下にいたらしい反逆者の一人は、不意を打たれて蜂の巣になった。次々とキメラが倒れていく。
「遅いぞっ。このやろう!」
ブレイズと縁が叫ぶ。しかし、笑みが零れていた。
次々倒される群のなかで、伊織、ロジー、瑠亥、Mkが一気にコアトルに詰め寄る。そして翼、を狙うために飛び込んで斬った。赤い壁が弾くがそのまま無理矢理切り伏せる。ロジーのソニックブームがコアトルに当たるが、強力な赤い壁に阻まれた。
「強いですね」
「‥‥オラオラ邪魔だぁ!」
Mkが乱暴な口調で、カデンサで狼を串刺す。面攻撃で生き残った敵に対して、槍をブン回してなぎ払う。噛み付かれたら活性化で治し、両断剣で一気に屠った。
群は『飼い主』が居なくなったことで、戸惑うばかりで無害に近い。
「俺に続け!」
ジェームスが、無双で道を切り開くなか、縁とブレイズ、無月が後に続いた。
「――灼雷」
伊織の必殺技が、コアトルの翼を切り裂く。これで飛べないと思いたい。
「ええい、このまま進めると思ったのに!」
コアトルの頭に人が乗っていた。裏でよく分からなかったが籠があったらしい。
「逃げるぞ!」
形勢逆転から更に状況が悪くなったために逃げるようだ。
コアトルは叫んで、羽ばたき、牽制の雷を呼び起こしてその場から逃げていった。伊織の技の影響か、上昇速度は芳しくない。しかし、飛べるだけにどれだけ強いかを思い知らされる。無月が魔創の弓で矢を放つが、尻尾で跳ね返され、別の所で花火のように爆発した。
辺りには、ガトリングでやられたり、戦士達に斬られたりした死骸と、怯えて逃げまどうキメラの群。ボスのコアトルは逃してしまったが、危機は去ったと言うことだろう。
「伊織、王零の手当を頼めるか?」
「はい。分かりました」
「さてと‥‥」
ジェームスは辺りを見て‥‥。
「残ったキメラは正規軍に任せよう‥‥俺らの仕事は一旦終わりだ」
覚醒をとき、怪我人の心配を始めた。救急セットを取りだし、怪我人の手当をする。
「帰るまで根性で何とかなるか?」
など、訊ねる。
『C班、これより向かいます。そこの家屋に人が居るみたいです!』
「まじかよっ! どこだ? ‥‥この通りの125番? ってガレキだらけだからわかんねぇ」
「グダグダ言ってもはじまらねぇ。捜すぞっ!」
「‥‥ですね、手伝います」
ジェームスと、ロジーが動いた。ガレキ程度持ち上げるのはキメラより簡単だ。
幸い地下に入っているためその要救助者には怪我はあまり無かった。親子は再会でき、喜んでいた。
「ありがとうございます」
彼らは、傭兵達にお礼を言うのであった。
●エースは休暇無し。
今は西海岸のとある病院だ。無事避難民は別の安全圏に避難させており、あの重体のビーストマンも一命を取り留めたようだ。クラリッサや、現場待機をしていた、刃金 仁(ga3052)とリアリア・ハーストン(ga4837)が緊急オペを行ったからである。
無月が弓を持っていたときの連携で庇うことになる王零が重体である。装備等には幸い損傷はないが、入院は確実だった。他の者も、かなり傷を負っているので、治療中である。
「救急セットぐらい持ってきてくださいな」
クラリッサが、本当に不満を口にする。サイエンティストが少ないのに、救急セット持っていないのはどういう事だと怒る。それは道理である。つまりA班では、ブレイズとジェームス、縁しか救急セットを持っていなかったのだ。
「状況を見て自分で治療できる、もしくは仲間を治せるにはしよう」
と、救急セットをもつ面々が文句を言った。
「‥‥面目ない」
王零と無月は反省した。
ジェームスはと言うと、練力が回復したらすぐに又現地に飛んでいったらしい。陣頭指揮で、残ったキメラを倒しに言ったようだ。
「元気だなぁ。あの人」
渉が感心する。
「たしか‥‥こんな事を言って、出かけたようです」
伊織が顎に手を当てて、思い出す。
『俺はもう大丈夫だ。何、根性で怪我なんか治してやるよ』
「‥‥あの人‥‥って」
唖然とする。プロトン砲でかなり傷を負っているはずだ。タフなのか馬鹿なのか‥‥。
「でも、続きがあります」
伊織が続けた。
『‥‥でも、あの場所を掃討するまで、やり遂げなくちゃいけない。それが上からの命令じゃなくても、俺はそうする。俺の意志でな』
「ほう‥‥」
唖然が、感心に変わっていった。
軍に属していても、自分の意志で何かをする。ジェームスという男を知った。