●リプレイ本文
●双眼鏡から
廃ビル群を眺める一行。確かに黒豹や人間がビルを取り囲んで、ウィルソン・斉藤(gz0075)達を追いつめようとしていることが明らかだった。
「殲滅できればいいけどな」
ヒューイ・焔(
ga8434)が呟いた。
「いや‥‥救出が優先事項だよ‥‥出来ればそれに賛成したいけど‥‥ね」
冷静な終夜・無月(
ga3084)に、南雲 莞爾(
ga4272)が頷いている。無月の妹という終夜・朔(
ga9003)が、無月から離れずにコクコク頷いている。
向こうは未だ気付いていないと思われる。臨時本部のテントは、荒野に適した色だ。見つかれば警戒される。今なら動くチャンスだろう。
正面突破班が切り込み、潜入班が隙を見てビルに潜入、斉藤達と合流し、治療・弾薬補充してから、正面突入班と合流、隠している車で逃走し、『ファウンダー』の後衛部隊が指定したポイントで落ち合うという事になった。
「……さて、助かるヤツは助けてとっとと仕事を片付けるぞ」
莞爾が動く。
全員が車に乗り込み、一定距離まで走った。ビル群の陰に止める。
「‥‥皆さん、‥‥行きましょう」
ベル(
ga0924)が車から降りてカバーを掛ける。次々に南雲に朔、ヒューイが降りる、別の車からセージ(
ga3997)
水円・一(
gb0495)、ヨネモトタケシ(
gb0843)や無月も降り、ベルと同じようにカバーを掛けたた。計3台。
「作戦開始」
2班に分かれて、素早く動く。
●正面突入
「敵だ! 応戦しろ!」
無月達が死角を走って、突っ込んでくるところを、敵が直ぐに発見。銃撃戦になる。物陰に転がりこんで、応戦し、徐々に詰める。36ヤードより遠いところからライフルの弾が掠めてきた。
「敵が一枚上手か!」
一の探査の目からも逃れられる、凄腕の見張りが居たことになる。苦戦は必至かも知れない。
「切り開きます‥‥」
無月が、魔創の弓に持ち替え、弾頭矢をつがえるも、銃弾が掠り、うまく狙えない。
「‥‥っ痛」
「俺が壁になる。その後ろから射れ」
一がリセルシールドをかまえ、自身障壁を展開し前面に立つ。盾が銃弾を弾く音の中、無月が後ろから弦を引き、矢を放った。地上にいた敵達の1人に当たっては爆発。爆音で身を怯ませる。その隙に、タケシ、セージが愛用の武器を持って、走り出す。2人に銃弾を掠めるが、それは能力者だろう。ほかは、素早くかわして、武器で切り伏せる。
タケシがセージの死角にスナイパーが居ることに気付くと、
「その距離‥‥迂闊です!」
ソニックブームで敵を吹き飛ばす。
「サンキュ」
セージは、一言言って、他の敵を倒していく。
「タケシ右!」
右から黒い陰が来ることを一が警告した。
情報にあった黒豹が、タケシにのし掛かる!
「うおわ!」
全長6mの猛獣の突進は、流石の能力者でも立っていることは出来ない。なんとか、刹那をもって爪や顎を受け止めていても難しい。そこでセージが後ろに回った「無神流――『粋』」
手応えがあった。
悲鳴を上げる黒豹が、タケシから遠ざかる。其処に追撃の『寂』を振るうセージだが、全く手応えがない。
「な?」
黒豹がぶれて2頭に見えるのだ。
「こういう事かよ!」
直ぐに立ち上がるタケシは構え直し、活性化で傷を治す。
「‥‥手強いですね」
タケシとセージと背中合わせで呟く。
もう1頭現れて挟み撃ちになったのだ。
無月も加わりたいが、未だ見えぬ狙撃手の所為で前に進めない。一と共に銃で援護するしかない。
「こっちもやばいな」
「そのようです‥‥ね」
さらに1頭現れたのだ。
距離からすれば、まだ間に合う。無月がもう一度弾頭矢を使い、黒豹を射った。掠っただけでも矢は爆発し、黒豹を怯ませた。そこで、一がギュイターを連射。黒豹が立ち直ったところで、無月が肉薄し、月詠で切り裂く。相手も怯まず彼の左腕に噛み付いた。真デヴァステイターが落ちる。
「‥‥それでも。‥‥これなら‥‥確実に‥‥当てられる!」
月詠を逆に持って、脳天に突き刺した。インパクトの轟音と共に、黒豹は倒れた。
一がスナイパーの位置を特定し、走り込んで真デヴァステイターを拾って見事狙撃手に当てて無力化させた。
タケシとセージが各一体と対峙して斬る。しかし、うまいこと致命傷を与えられない。
「心眼の域までまだまだだって言うのになっ」
「今此処で、開眼(ひらい)てこそですよ!」
「だな!」
お互い武の道を行く者(タケシは若干違うだろうが)。2人は精神集中し相手の気配を察知する。そして、必殺の一撃を黒豹に見舞った。黒豹二匹はよろよろと歩きながら、彼らから名晴れたところで力尽きて爆発した。自爆型も居るようだ。かなり危険である。
「後は、雑魚だけか? 一?」
「おそらくな‥‥しかし、油断は禁物だ」
一が無月の左腕を止血し、包帯をまいている。
「手当もしよう」
直ぐに互いが応急処置をし、ビルに向かっていった。うまく、潜入班が斉藤達と合流していればいいのだが。
●潜入班
騒がしい表通りとはちがって、ごみごみした路地裏を進むベル。その少し後ろに朔がいる。
「‥‥大丈夫ですよ」
「‥‥はい‥‥なのです」
裏口には、2名警戒している。戦闘があるのはしっているが、行動を予測しているのだろう。待機しているのだ。しかし、向こう側が気になってしまってるため、ベルからすれば集中力は無きに等しい。
朔と一緒に接近し見張りを気絶させた。
「‥‥こっちです」
「普通の人間か?」
ヒューイが気絶した敵を見る。
「‥‥洗脳能力者のようです。でも、メンテしてなく‥‥機能不全‥‥だったようです‥‥」
エミタの痕跡を見つけて指差すベル。
「よし、先に進もう」
南雲が、ゆっくりドアをあけ‥‥、銃を構えて敵がいないかを確認する。いない。
素早く物陰に隠れて、敵が来るのをやり過ごしていく。こっちが暴れては、班分けの意味がないからだ。しかし、デスペアの指揮官は其れを、読んでいたようだ。大丈夫だと確信する時に。
「やはり、裏側から来たか!」
バグア兵のサブマシンガンが火を噴く。4人は急いで隠れた。数は見ただけでも6人か? サブマシンガンの面攻撃で先に進めない。
「くそ!」
これでは、斉藤達が危ない。
「これだけの兵力があれば斉藤を殺せるだろ? なぜ、そうしてない?」
南雲が毒吐く。
『ファウンダー』からの情報では、囲まれて身動きが出来ないだけ。弾倉が尽きているほどの長期戦だとすれば直ぐに殺しているはずだ。可能性とするならば‥‥憶測の域は出ないので、彼は考えるのをやめる。
「‥‥しかたありません‥‥閃光手榴弾を使います」
ベルが応戦しながら言う。
「OK」
徐々に近づいてくる敵。そこで、ベルが閃光手榴弾の栓を抜く。3人は目をつむる。
「とう!」
ぽいっと投げると、其れは炸裂した。相手は眩しくて怯む。そこで、南雲とヒューイ、朔が、全員を仕留めた。
「‥‥さて‥‥いきましょう」
そして、探し始めるが、3階には居なかったので上に登る。
その、一室で物音がするのを朔が気づき、猫耳がぴこんと動く。
「‥‥人が‥‥いるのです‥‥」
警戒して、全員武器を構え‥‥合図と同時にドアに蹴りをいれる。
額と額に、銃口。
「さ‥‥斉藤さん‥‥」
「ベル‥‥か」
お互い、人差し指は添えているだけだったために、同士討ちにならなかった。
「‥‥此処でしたか‥‥治療します」
「無事で‥‥というのは、変だな。怪我人は?」
「軽傷3、重傷2だな。助かった」
斉藤が答える。
「これはひでぇ‥‥」
ヒューイも他の負傷兵を助ける。
「お手当‥‥‥頑張りますの」
応急手当をし、銃弾と銃を渡す。
「向こうでもかなりドンパチしているな‥‥」
「無月さんです」
「お兄さま‥‥です」
「そうか‥‥」
装備の確認と、負傷者を運ぶことで、少し遅くなるが、進むことにした。幸い敵に襲撃がない。突撃班の功績が大きいようだ。
「お兄さま‥‥朔です‥‥斉藤さんをみつけましたの」
『‥‥了解。退路も確保したよ、朔』
「はいですの」
彼女の顔は朱にほてっていた。
●合流
ベルが先行し、斉藤が探査の目で待ち伏せを警戒しながら、降りていく。すでに建物内には誰も居ないはずだ。
2階の踊り場で、突撃班と合流する。
「手を貸そう」
「こっちへ‥‥気をつけ‥‥なに!」
退路に向かう瞬間だ。
しかし、猿と猫を混ぜ合わせたキメラが襲いかかってきた! 斉藤ではなく、重傷の兵に向かって襲いかかる!
「あぶない!」
身を挺して受け止めるのはタケシだったが、運悪く遅かった。庇った全員がそのキメラに吹き飛ばされ、負傷兵は運悪くそのキメラにかみ殺されてしまった。タケシは壁に頭をぶつけ意識が飛んでしまう。
この狭い中で、銃では無理だと直ぐに理解できる。一気に、刀で突き刺してキメラを始末した。
「‥‥くっ。全員助けたかったのに!」
苦虫をかみつぶす。
退路から直ぐに走り抜ける。まだ、敵は残っているようで、銃声が聞こえるが、どうも人間の撃つ物らしく、そう当たることはなかった。威嚇程度にしかならない。
すぐさま車のカバーをとり乗り込む一行。
「斉藤さん、差し入れだ」
セージが斉藤に投げてよこしたものは、煙草だった。
「‥‥サンキュ」
セージは斉藤と握手しようとするが、
「‥‥なにしてるんです‥‥はやく!」
ベルに急かされ、握手は出来なかった。仕方なくセージも斉藤も車に乗り込んだ。
「最終合流ポイントで!」
「わかった!」
追っ手は来なく、車は戦闘区域から脱出することに成功した。
斉藤の部下は1名犠牲になったが、斉藤を救えたことは大いに評価されるだろう。
●怒られる斉藤
デトロイトの病院。
タケシは重体に至らなかったもの、少し入院は必要らしい。黒豹との戦いと負傷兵を庇ったときに、頭を強く打ったために、精密検査などが居るようだ。
そこで、金髪碧眼の少女が必死に走っていた。
「斉藤さん!」
頭に包帯を巻いて、腕を三角巾でぶら下げている斉藤が面食らった。
「リズ!?」
「聞いたよ。危ないお仕事で‥‥。無茶しないでよ!」
「‥‥すまない」
リズは、斉藤に抱きついて、わんわん泣き出した。斉藤は自由な手で、頭を撫でた。
「ひとまず落着だな」
セージが斉藤は軽傷と言ったが、かなりやばかったらしい。無茶する人だと怒りたかったが、リズの前では流石に言えなくなった。
「‥‥大事な人‥‥いるのですね‥‥」
朔は、壁から覗くように、2人を見つめている。
「朔‥‥お手柄ですね。俺にとって、朔は大事な家族だよ」
無月は、妹の頭を撫でる。
「‥‥っ! 朔‥‥がんばったの。お兄さまと、初仕事なの‥‥」
彼女は照れて顔が真っ赤になり、猫耳が飛び出た。感情が高ぶると、覚醒してしまうのだ。
ベルは、あの場所にアキラが居ないことが気がかりだった。もしかしたら、高みの見物だったのだろうか。色々考える。しかし、アレの目的は未だ謎が多かった。
●一方
「捕獲に失敗しましたか‥‥仕方ないですね」
アキラは報告を聞いても、何も動じない返答だった。
「‥‥幾らでも、素体は得られます‥‥」
ナイフを、壁に投げる。その刺さった場所は、フィアナ・ローデン(gz0020)の写真だった。