タイトル:【コミ】代理購入マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/25 02:50

●オープニング本文


 大阪南港・中ふ頭に建造された、国際展示場『アスタリスク大阪』。
 普段は各メガコーポレーションの見本市などが開かれている。
 ここで夏と冬の年2回、ある祭典が開催される。夏と冬の年2回と聞いて、察した者も少なくないだろう。
 国内最大の同人即売会『コミック・レザレクション』。通称コミレザだ。そのイベントの熱気は夏の夜の如く熱くなった。しかし、鉄が冷めるような勢いで会場は静けさに包まれ、日常にも大きな動きはなくなった。
 しかし、それは嵐の前の静けさでしかない。

 ――ヲタク達は、冬に向けて魂を暖めているのだ!

 冬は別の意味で過酷である。夏の敵は熱さと台風だが、気合いで何とか出来よう。しかし、熱に対抗して寒波と吹雪は永遠のライバルだ。しかし、ヲタク達はそんなことではめげはしない!
 気温氷点下前後でも、半袖、生足なコスだってするぜ? サイハイニーソックスでも寒い物は寒い。しかし魂は常に36度以上。真夏日のように燃えあがる(萌えあがる)!
 再び、南港にあるアスタリスク大阪にて、彼らが己の欲望を賭けた熱い戦いが始まろうとしている!

 
 ラスト・ホープで入院中のとある傭兵。仮名として鈴木宗治さん(21)。
「くそ、グラナダでへましたぁ」
 タバコを吸いながら病院内の公園で愚痴る。
「もうすぐしたら、コミレザだったのに‥‥、こんな怪我していたら行けないじゃないか」
 車椅子で項垂れる。しかし、いつも組んでいる小隊メンバーには自分の趣味を理解できる人はいない。
「ああ、確実にでるとかいう、リネーアさんの抱き枕セット‥‥あれだけは‥‥」
 ため息を吐く。
「‥‥変態」
 通りすがりの同じ重体を折った女傭兵が鋭い言葉と眼差しを向ける。仮名として大椙花子さん(19)で。
「おまえだっておかしいじゃねぇか!」
「なにがよ!」
「ジェームス×ジョンだって‥‥」
「ええ、ファンタジーだから良いのよ! カンパネラの寺田先生総攻めとかも!」
 入院先で知り合ったヲタク。しかしジャンル違いなら敵対するから、不干渉が暗黙のルール。おそらく共通したものが数個あったのだろう。傭兵ジャンルではおそらく自伝を面白可笑しく描いたモノもあるわけだし。‥‥まあ、実際懲りた構った場合は、ナノメートルでも違うとだめな場合がある。やおいなら、カップリングの組み合わせだけでちがうことになる。細かいことはさておき。

 お互い重体更に入院なので『戦場』に行けば、入院延期は確実だ。それだと、お金も困る。
「‥‥匿名では依頼OKだったよな?」
「ええ、確かに」
「‥‥健康な人に頼むか‥‥」
 既に、通販で(若干ラグはあったが未だ間に合う)、コミレザのカタログは入手して、チェックは付けている。あとは資金提供と報酬と支援だ。コツコツ貯めていたので問題ないはず。ああ、入院費は待って貰おう(まてよ)。


「『健康』な傭兵さん達に、冬のコミレザで以下の物を代理購入お願いします」
 と、モニターにコミレザのパンフのイラストも掲げて、依頼を出す。

 買う物は以下の通り
リネーア等身大抱き枕カバー(2号館)3個(保存、鑑賞、布教用)
『週刊冒険シリーズ』(3号館)2冊
KV少女化本『飛行戦姫』(4号館)2冊
寺田×カラス本『万能兵士の憂鬱』(5号館)5冊
寺田総攻め『カンパネラの夕日』(5号)2冊
魔法と少女と肉体言語本ひ『全力疾走』(6号館1F)6冊(保存、鑑賞、布教用)
『14時間の恋人』(6号2F)5冊(布教する)

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP
高苗 優女(gb3944
28歳・♀・SN
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

●館内放送
「行列には覚醒して並ばないでください。お願いします行列には覚醒して並ばないでください」
 壁に位置する大手サークルの行列前では、スタッフが拡声器を使って注意を促している。最後尾の人がプラカード『此処が最後尾です』を持っていた。別の所では、違反した能力者ヲタクが、警備傭兵に取り押さえられて連行されていく。
 2号館を除く、各開館の真ん中にある島は酷い混雑は見られないのだが、大手サークルや誕生日席の壁側だとラッシュアワーのような混雑であった。こんな所で覚醒して突っ込めば(普通に歩くには構わないのだが)、一般人は怪我だけでは済まされない。
 まさに戦場。有明の其れより狭い所での祭典。そこはバグアより強敵かも知れない。

 少し時間はさかのぼる。1号館の行列整理場所で戦場に向かう戦士が居た。
 水円・一(gb0495)が、全員にパンフレットの地図のコピーとサークル番号とその位置を書き記したメモを渡していった。
「必要な品物の名前と必要数と場所を書いておいた」
「用意周到だ、な」
 UNKNOWN(ga4276)が言うと、
「少し出入りした事があってな」
 と、彼は答えるだけだった。
「鬼編集だものね」
「‥‥」
 高苗 優女(gb3944)が笑いながら言うと、水円は黙っている。
「さて、よく判らないが代わりに本を買ってくればいいのかな?」
「そう言うことだね〜。けひゃひゃひゃ! 話すと長くなるので控えるけどね〜」
「ふむ‥‥後学のためにも、一度は見ておこうか」
 ドクター・ウェスト(ga0241)が今は説明する時間はないと判断し、深くは説明しないことに。
「人がすごく多いので、危ないと思ったらなるべく避ける事。気分や調子が悪くなったら無理はせず切り上げる事、無理は禁物だ。覚醒も禁止、だが必要に応じて臨機に対応してくれ」
「了解」
「アーちゃんも了解だよー」
 鳥飼夕貴(ga4123)と、アーク・ウイング(gb4432)が頷いた。

 いざ、戦場へ。


●6号館
「ふむ、2Fは創作系、ココは相当な人気でも出ない限り物がなくなることは無いだろう〜。先に混みそうな1Fだね〜」
 地図を見ながら、6号館を眺めるドクターに、
「アーちゃんにとっては未知の体験だね。まあ、何はともあれ、依頼されたことはきっちり片づけないと」
 アークはこの周りの連中が理解不能というばかりの視線で眺めて、本音を呟いた。
 たしかに、奇妙なお祭りにしか見えない。何が必死にそうさせているのか、も‥‥。
 『魔法と少女と肉体言語』のメインヒロインのイラストに『血煙上等』とかかれた白衣、【OR】イタイ白衣と超強化の伊達眼鏡で挑むドクターだが、アークは至ってシンプルな服にコートを羽織っていた。
 アークは全く分からないので、ドクターに付いていくだけである。
 端から見れば親子連れか、危ない道に誘うおじさんに無垢な少女という構図だろう。しかし、ゲームスペースである1階では、それを気にする程の戦士は居ない。
「どういう内容なの?」
「マンガだから直ぐ分かるね〜。さっさと買ってしまおう」
「‥‥うん」
 1時間ほど並んで、魔法と少女と肉体言語本『全力疾走』3部購入に成功する。
「これは代理購入なのだがね、出来れば我が輩の分を取っておいて欲しいのだけど」
「あ、そうですか。わかりました。予約表どうぞ」
 購入制限が3冊になっているためその辺対応がよいサークルさんだった。
「No.108‥‥と」
「ありがとうございましたー! 午後には行列はないはずなので!」
「了解したね〜。またくるよ〜」
 ドクターがそのまま3冊もち、次に向かった。
「『14時間の恋人』‥‥って」
「創作だから我が輩も見ないことにはねぇ」
 肩をすくめる。
 どこかで聞いたようなタイトルなのだが‥‥。
 サークルには列はなく身内が雑談しているような雰囲気であり、断りを入れてから、購入し無事に指定数買い終えた。
「コチラ、アーク、ドクター。購入完了だね〜」
 無線機で、水円とそのほかの戦士に通信する。

●5号館
「『万能兵士の憂鬱』と『カンパネラの夕日』を3冊ずつ、だな」
 UNKNOWNがメモを見ながら、行列に加わる。その隣に優女が並んだ。
 他人の振りは出来ないため、会話はする訳なのだが、余所から見ればどうなのだろうか?
「あの黒スーツの人の隣にだれがいいのかな?」
「あのひとがいい」
「あたしはこのひと」
 小声で、並んでいる女性達が話している。カップリングの話なのは優女には分かった。あのひとこのひととかは女性ではない。
 現在、並んでいるのは『万能兵士の憂鬱』である。寺田×カラス本だ。
「一体どういう本なのかね?」
「口で言うのは難しいなぁ」
 妄想が先に出そうなので自重する、優女。
「同性愛ファンタジーかしらね? フィクションなので現実じゃないから」
 と、あやふやにしておいた。
「ふむ‥‥」
 UNKNOWNがそれだけを聞いて専門書を開くが、直ぐに動くので「おおっと」躓きかける。読める状態ではない。
「意外にドジ?」
「ギャップもいいわねぇ」
 また、女性達の妄想。
 UNKNOWNは聞いてないことにした。
 無事、指定数と、優女の分を買い終えた。
 ダンディズムを崩さないように努めたUNKNOWNだが、周りの熱意に気圧され、汗だくであった。帽子を脱ぎ、ハンカチで汗をぬぐう。売り子さんは、彼の姿を見て、驚きながらもしっかり売り子をしていたのも印象的だ。
「待っているだけで、こうも汗をかくとは‥‥」
 女性の様々な香水もついているので、少し困る。多分困る。
「どういう内容なのか‥‥」
 優女の分を借りて、ぱらりとめくる。
 そこには、実物より数倍美形に描かれた寺田とカラスが‥‥という本で、現実からかけ離れていることと、常識というブレーキで彼はぱたんと本を閉じた。
 優女は楽しく読んでいる。「流石壁サークルね〜」などと、感心しながら。
「‥‥もう少し耐性がついてからだな‥‥」
 UNKNOWNは冷や汗がにじみ出ていた。
「あ、不明の人だぉ〜」
 聞き覚えのある声。25cmの緑の棒状の物体を振っている可愛い少女が、声をかけてきた。
「ミクか。売り子というのをしているのかね?」
「そだぉ〜。不明の人は一般参加? お隣の人に連れられて?」
「いや、代理購入だ、ね。‥‥依頼の」
「この女の子は?」
 優女がミクをみてからUNKNOWNに訊ねる。
「ミク・プロイセン(gz0005)。准将だ」
「ミクだぉ〜」
 可愛い少女が、緑色の物体を振って挨拶する。
「へぇ〜。はじめまして。って‥‥准将なの!?」
 こんな小さい子が准将なら誰でも驚く。交流場所とか依頼で見ないと判らないものだ。
「まさか、寺田総攻め『カンパネラの夕日』と言う本を売っているのは、ここなのか?」
 テーブルに置かれた、表紙をみてUNKNOWNが訊ねた。熱気で大分、思考回路が鈍くなっているらしい。
「だぉ? 買うぉ?」
 小首をかしげて訊ねるミク。
「ああ、買おう3冊を‥‥」
「あたしの分も貰おうかしら」
「ありがとだぉ〜」
 お金を払って、本を受け取った。
「まただぉ〜」
 ミクは又緑の棒のオモチャを、手を振るかわりに振っていた。
 優女の足取りは軽いが、黒服の男の足取りは重たかった。
「‥‥こちら、購入完了」
 近くの休憩できるベンチに腰掛けて、全員が来るのを待つ。流石に、他の友人知人にリサーチして貰った物を見る気力はなかったのだ。疲れを知られたくないように、ダンディズムに。しかし、背中からは、疲れがにじみ出ていた。


●2〜3
 水円と鳥飼は死線をくぐり抜けるルートであった。
 2号、3号、4号と、むかうのだから。3号館を先に進む。
「押しつぶされる〜」
「人の波に乗るんだ! って‥‥くそっ!」
 鳥飼が別のモブに押されている。水円が手をだすが、数センチ届かず。ヒロインと引き離されるというシーンになってしまった。人混みでもOK。
「あ〜れ〜」
「しかたない‥‥。此処は俺が買うか」
『ごめん〜。2号館で先に枕を買う〜』
「了解」
 鳥飼の謝罪が無線に入った。
 水円は、人間観察しながら、待つこと1時間。『週刊冒険シリーズ』を2冊無事購入。
「ふう‥‥。買えたが、向こうはどうなんだ?」
 3号館から、出てきた水円は、2号館に向かった。
 流されて、2号館に向かう鳥飼。ドローム社のブースに向かう。
「うわすげぇ!」
 と、口調を度外視できるようなほど、そんな出来映えのリネーア枕カバーのサンプル幟。『本当にそういうの作って良いのか?』と思うほどの過激さだった。
「本人、大丈夫なのかなあ」
 不安はあれ、今回は任務だ。しかし、行列のすごさに、目を見張る。いや、絶望する。
「えーっと、最後尾は‥‥。ええっ!」
 会場を抜けて、別開館の裏まで(5号館横)を横切り、もはや6号館まで届く長い長い行列だった。
「‥‥いや、大手ならそれぐらい当然だ。しかも、メガ・コーポのドローム社ならば、な」
 いつの間にか後ろにいた水円が言う。
「人気は知っているけど、此処まで? ありえない‥‥」
「‥‥そう言うところだ‥‥ここは‥‥」
 リネーア・ベリィルンド(gz0006)の人気は凄い。大阪・日本橋に偽物が出る騒ぎがあったぐらいだからだ。
 最後尾プラカードも『最後尾ですよ(はあとまあく)』とリネーアがウィンクしているイラストだ。
「時間大丈夫かな?」
「‥‥やばいな」
 水円が時計を見て、急いで通達。
「すまん、ドクター、アーク、UNKNOWN、高苗、2号館で苦戦。4号館で『飛行戦姫』を買ってきてくれ」
 待つこと1時間半‥‥。
「か、嵩張る〜」
 二人して、A2サイズのビニール袋に収められた枕カバーセットを持って、最大の難所をクリアした。
『こちら、ドクター。『飛行戦姫』はゲットできたよ〜既に我が輩の分もゲット済み〜』
 同時に無線が入った。
「あと30分! いそげ! 近くのコンビニだ」
 既に出入り口で待っている4人に向かって、水円と鳥飼は走っていった。
「宅配便、お急ぎで!」
 段ボールにしっかり詰めて、コンビニのカウンターに、荷物を置く6人。半分形相が怖い。UNKNOWNと鳥飼は疲労困憊だ。ギリギリ3時間。
 こうして代理購入は成功に収める‥‥。


●戦い終わって
「さて、今なら空いているか‥‥」
 UNKNOWNが通りの空き具合を見て、呟いた。どうも知人の話がある物は見つけられなかったからだ。暇をもてあそぶより、今は休息が必要だと体が訴えている。
「混み合うのは、あと1時間ぐらいかね〜」
 ドクターが言う。
「‥‥ふむ、私は先に帰ろう‥‥」
 UNKNOWNがフラフラと帰っていく。そこには、いつものクールでダンディズムは感じられない。よほど疲れているのだ。
「さて、エスティヴィアさんに会いに行こうか」
 鳥飼がいう。
「だねぇ〜。同人誌の出来も気になるし。我が輩はまず、取り置き分をもらってくるよ〜」
 また、戦場に向かう猛者が居た。
 鳥飼と水円、ドクターと優女がエスティヴィアと会話したり、祭りを楽しんだりする話は別のお話しにて。
 アークは、ぼうっとコスプレ広場でコスプレを眺めては、感心していたが、まだまだ5号館のジャンルには理解できなかった。
「うーむ、これも一つの文化なんだね。理解できない領域もあるけど‥‥腐女子とかねー」

●届いた荷物。
 宅急便が病院に届く。
 依頼主の鈴木宗治さんと大椙花子さんが、嬉々としてその箱を開けた。其処には(当人にとっては)お宝の山があった。
「やったキター!」
「これよ! これを待っていたの!」
 入院中の2人は大喜び。流石に宗治さんが抱き枕を使うのは、花子さんに止められたという。
「今度こそ、あの祭典に向かう! 夏に!」
 その前に怪我を治せと、突っ込んでは行けない。

 こうして、冬の祭りの一幕は終わりを告げる‥‥。