●リプレイ本文
●コールサインDame Angel
こっそりとフィアナ・ローデン(gz0020)の護衛をするという依頼を受けた、アンジェラ・ディック(
gb3967)と鈴葉・シロウ(
ga4772)は、ローデン事務所に向かった。
「さて、コミレザというイベントは、ワタシには余り関わりの無いイベントであると見ただけで判るのは承知ですが、さりとて要人警護とはそれなりに神経使うものと、それが当人に知られない様にとは難しい処よね」
アンジェラが額に指を当てながら考えた。
「もとから、ゲームなどに興味のある子ですから。本当は自重して欲しいところですが、ストレス解消には‥‥と」
スタッフの甲斐さんが言う。
「そう、目の前に祭りがあるというのに束縛するのは行けないことですヨ。しかし、彼女はコミレザのヲタクには結構名が知られているわけですし。過去にライヴしましたからね」
シロウが、来るべき日に魂を暖めていた男の1人。
「まあ、お誘いメールが来なかったことは残念ですが」
シロクマの顔のまま、黄昏れるシロウ。しかし、直ぐに顔を甲斐さんに向けて、
「とにかく、彼女の人柄を聞きたいね。あと、誘われた人はどんな人かわかります?」
シロウは続けて、甲斐さんに訊ねた。
「たぶん、ベルさんにアヤカさん、マイアさんにシメイさんでしょうか?」
「おお、成る程」
シロウは、納得して頷いている。シロクマの顔のままで。
「知っているの?」
「ええ、私の知り合いですね。連絡を取り付けておきましょう」
「助かるわ」
こうして、こっそりと護衛する2名。
「コールサインは『Dame Angel』で」
「了解」
杞憂に終わればいいのだが、フィアナは名が知れている分、発見された時の騒ぎは想像できる。パニックは間違いない。
「さて、当日までに向こうと話は付けておきましょう」
一方、下準備のために、とある喫茶店でフィアナと待ち合わせする、誘われた4人。
「フィアナ! 誘ってくれてありがとう。当日、楽しく過ごせるといいな」
皐月・B・マイア(
ga5514)が嬉しそうにフィアナに挨拶する。
「マイア! 未だ腕だめ?」
「心配しないで。大丈夫だから」
マイアはウィンクする。フィアナはマイアを抱きしめる。
「フィアナちゃんニャー☆」
覆い被さるように、覚醒してネコミミを生やしたアヤカ(
ga4624)がフィアナとマイアに抱きつく。
水鏡・シメイ(
ga0523)とベル(
ga0924)が微笑んで其れを見守っている。
「お久しぶり」
「前はたすかったよ。又よろしくね」
と言った、挨拶が交わされる中、珈琲やパフェやらシュークリームやら頼んで、雑談を交えた作戦タイム。
「ふむ、コミレザというのは実際なんだ?」
マイアの言葉に、説明に困るのは言うまでもない。この場でシロウがいれば熱く語ってくれることだろう。フィアナもそこそこ熱く語れるが、其処は自重して、『既存の作品をアレンジもしくはファン創作として本などを売り出す、ジャパンの文化』と言うことにした。サードパーティ製品とか、アマチュアの出版・創作物のフリーマーケットと言う程度だ。アヤカのサポートも入る。コミレザに置いての重要な注意事項だ。
「フィアナちゃんもあたいも目立ったら駄目ニャ☆ 変装ニャ」
「‥‥しかし、前は其れで失敗したような」
「むむ、木を隠すには森というので良いかもしれません」
「なら‥‥」
そんな感じで話は進んだ。
一方、シメイとベルはシロウからメールを受け取り、『事務所側から依頼が出ている』ことが分かった。
「隠しておきますか」
「‥‥そうですね」
打ち合わせ終了後、シメイとベルはメールでシロウとアンジェラと密談をする。杞憂だからと思うのだが、別方向の護衛も必要だろう。
●開場
当日アスタリスク大阪に着いた一行。
「こ、これは‥‥凄い熱気だ。牛追い祭りを思い出す」
マイアが行列の長さと、ヲタクの熱気で気圧されていた。思わずフィアナの手を強く握ってしまう。フィアナは微笑んで「安心して」と言う。
「‥‥相変わらずなところですね」
1号館は一応広いのだが、其処にはおさまらず、会場周辺の駅まで人の行列。早く入れそうな順番だった。
「本当なら2時間待ちもあります」
「そだニ‥‥ね」
「‥‥すごいです」
徹夜キャンプはマナー違反ですよとかマニアックな言葉が出そうだが其処は堪える。
一方では、
「ロッタのペイント以外のKVペイントもあるとはね‥‥」
フィアナからかなり離れたところに、アンジェラが頭を抱えて呟いた。駐車場の他に、KVも停められる格納庫もあり、そこで、痛KVがずらりと立ち並んでいた。つい最近、遊技場でも景品にあるわけで加速しているようだ。
「鈴葉殿は何処? あ、いた」
シロウはかなり列の先にいるらしい。始発狙いで大阪入りしたに違いない。
「いくぞ、数多のサークル達――お釣りの準備は十分か?」
魂を燃やすシロクマビーストマンが1人。
『お仕事はちゃんとこなしますね。大船にのった気でいてください』
彼はアンジェラに無線を入れた。
「氷山の角で沈没しなきゃ良いけど」
そう言いたくなるのも無理はない。
●エスティへ
開場のアナウンスがはじまる。
一気に走り抜ける参加者の中で、フィアナとアヤカとベル、そしてマイアはその波にながされないように、ゆっくりと歩いている。遠くの方にいるアンジェラはこの人混みをかき分けるのに必死だった。シロウは、その人混みを何も思わずすいすい進んでいる。
「うわああぁぁぁ」
大きな足音と共に誰かの悲鳴。
「‥‥あ、シメイさんが」
シメイが流されていく。このまま転ければ、能力者とは言え、危ないだろう。覚醒しなくても一般人の運動能力は高いのでベルが、辛うじてシメイを救出した。
「‥‥遭難するところでしたね」
「あはは、すみません。あと、慣れないスーツなので‥‥しかし、女性は着物の方もいるのですね」
流されながらさりげなくチェックしているシメイ。
「大丈夫ですか?」
フィアナ達が追いついてきた。
「ご迷惑おかけしました」
「ロープでも着ける?」
「其れは勘弁を」
「冗談☆」
なんとか、安全圏にたどり着く。マッタリと会話が出来る。時間も十分にあるし。
「水鏡殿が流されるとは」
目印にする人物が、一番危険と言うことに人選をミスったと思うアンジェラ。視認距離にいるが、其処を確保するのに人混みをかき分ける。それでもう汗だくだ。戦場の方が未だ良いと思う。
『こっちからは無事合流しているのは見えているね。では、先回りしておくよ』
「了解」
ベルのほうが目立つか、それともアヤカかマイアを考え直す。
そして、無事に4号館の傭兵・ロボ関連の開場。
「えっと、エスティのスペースは‥‥っと」
フィアナはメモを見ながら目的地へ向かった。
色々な本があるため、マイアが吃驚する程度だ。彼女はずっと、フィアナと手を繋ぎっぱなしである。
「あ、あったあった。こんにちは〜エスティ」
「おお、来たか。読んで読んで。連れもいるの?」
「ええ、友達呼んできました☆」
既に空気を読んでいるエスティヴィア(gz0070)が、『フィアナ』と言わずに挨拶する。
「はじめまして」
「交流場所では何度か‥‥」
と、挨拶を交わす。
「こんなに沢山。友達ならタダであげよう」
「え? いいのか?」
マイア達が驚く。
「いいわよぉ。売り上げは儲ければ御の字、赤字覚悟よぉ」
「わあ、ありがとう!」
「ありがとう!」
「‥‥ありがとうございます」
マイアや語尾にニャを入れないよう努力しているアヤカが喜んだ。
コアーの手から、本を渡されて礼を言う一行。
「どんな本ですか? ほほう」
シメイがぱらりとめくる。内容は熱いロボ物だった。
「なかなか面白そうですね」
『エスティヴィア女史のスペースで雑談中の模様、オーバー』
「こちらからも確認、オーバー」
「ところで、済みませんが、擬人化KVの美少女KV関連は何処で?」
シメイがエスティヴィアに訊ねた。
「ああ、それなら、あの島だよ」
と彼女は指差した。
「此処でお話しすると、色々迷惑になりますし、移動しますか」
「はい、姉さん」
「そうに‥‥、そうだね!」
「‥‥向かいましょう」
アヤカとベルがシメイを囲むようにして、その美少女KVの島に向かう。
それをしっかりアンジェラは見て追いかけている。付かず離れずで。シロウとはと言うと‥‥。
「念願の新刊ゲット! さて次はと‥‥」
ウキウキして、戦利品を物色していた。既に紙袋1個分はパンパンである。
「む、4号館から出るみたいですね」
フィアナ達が見えると、しっかりアンジェラに報告を忘れない。
●移動中トラブル
4号館から6号館に移動する途中、コスプレ広場になっているところを目にすることが出来る。マイアは周りにいるコスプレイヤーをみて、楽しそうだなぁと思っていた。しかし、単独行動は危険なので、ずっとフィアナにくっついている。フィアナは、マイアの腕を抱くようにしていた。
「ふぃ、姉さん?」
「♪」
照れるマイアに気にしないフィアナの構図。これは良い感じだった。
「!?」
マイアが急に振り向いた。視界に、シロクマ頭の男が紙袋を両手に持ってスキップしながら移動していたからだ。
「‥‥? 白熊ひーろー殿か? ‥‥気のせい?」
「?」
「イヤなんでもないよ」
まさかねと思うマイアだが、彼は『ここに居ても』おかしくない。
「‥‥あ」
「うにゃ!」
「「シメイさんがいない!」」
「えええ!?」
しっかり囲んでいても、シメイははぐれやすかった。
「ここはどこですかー?」
独りぼっちのシメイ。携帯はほぼ繋がらないので、連絡手段としては心許ない。
ちなみに、彼がいるところは5号館。
「‥‥新刊あるぉ。寺田先生総攻め本だぉ〜」
「ジェームス×ジョン本あります〜」
シメイはその声を聞こえないことにして、出口を探すが裏口に出ていた。
「迷子のお知らせなんてしたら、2人がばれるに決まっているし‥‥どうしようか、姉さん、ベル殿、アヤカ殿(小声っぽく)」
マイアが、残っている人に話す。
「‥‥困りましたね‥‥」
考えるベル。彼は、ふと考えると閃いた。
「‥‥俺が、探しに行きます」
「広場で待ってるね」
「‥‥はい」
移動予定を変更し、広場に向かうことになった。ベルは急いで探しに回る。勿論、アンジェラやシロウに連絡を入れるためだ。
『なんだってー!』
『流石、シメイさん』
『感心している場合!?』
「‥‥探すのを手伝ってください」
『全く困った人だ‥‥私が探そう』
アンジェラが向かうことになった。
「彼は背が高いからな‥‥」
別の仕事になっているような‥‥と思うアンジェラであった。
10分後、アンジェラがシメイを5号館で見つけ出し、『5号館に死んでも向かいたくない』とシロウが駄々をこねるので、目立つ所に外に出し、シロウとバトンタッチする。広場に合流することになる。お互い汗だくだく。
「‥‥あの異空間は何だ?」
「視線が痛かったですよ」
「もし男同士ではいるとおぞましいことに‥‥なる。男にとっては魔境なのだよ、シメイ君、アンジェラ君」
遠くを見つめるシロウがシロクマの顔で言うのであった。
ベルは、まさか5号館にシメイがいるとは思っておらず、2号館に足を向けていた。
「あの人のことだから‥‥って、‥‥心配なのは‥‥。‥‥俺のグッツもあるかどうかだ」
そう、彼は一度、メガコーポ協賛映画でメイド服を着ていた。着せられていたというのが正しい。あれは、人生の最大の屈辱だったそうだ。もし、企業ブースやそのほかの所で、売られていたらショックを隠し切れてないだろう。
「‥‥恥ずかしいし‥‥」
しかし、幟やPOPには、それらしい物はなく、安堵した。
「‥‥た、助かった」
安堵すると、無線が入る。
シメイが見つかったようであった。
「‥‥今から向かいます」
●コスプレ広場で
「あの、みんな。広場に着いたから。私は、『仮装』をしたいのだけど?」
マイアがもじもじとする。
「コスプレね? うん、いいよ」
あっさり承諾。
「では、れっつごー!」
3人とも入って、マイアの手伝いをする。
「ん‥‥‥どうかな? 変な所とか無いかな?」
「ううん、似合う!」
「かわいい!」
と、マイアを褒めるアヤカとフィアナ。
「あ、ありがとう」
すると、
「おお、メイドさん萌え」
「これは素敵なメイド殿でゴザル」
「え? え??」
ヲタクカメラマンが寄ってきて、写真を撮らせてくれと頼まれる。普通に立って笑顔で答えるマイアにフラッシュの嵐。
(「こ、こまったな‥‥これではフィアナがばれてしまいそうだ」)
「はいはい、ちゃんと並んで並んでー許可とってねぇ」
そこで救世主登場。普通の顔をしているシロウと、迷っていたシメイだった。
「‥‥白熊ヒーロー殿に、シメイ殿」
「ははは、マイアさんはコスプレ初体験ですか。此処はしっかりレクチャーしないと行けませんね」
フフリと笑うシロウ。簡単にヲタク達を誘導する。
2分もせずに、フラッシュも止んで、5人だけが残った。マイアと、フィアナ、アヤカにシメイ、シロウであった。
「やっぱり来ていたのですね」
フィアナが微笑む。
「はっはっは、私はこのときの為に魂を暖めていました。では、トーキングをしたいところですが、私を待っている新刊があるので、これにて!」
「ひーろー殿! 此度は本当にありがとう!」
「なに、初心者にも楽しんで貰うためのレクチャーも、先輩としての務め! はっはっは!」
シロウは、シロクマ頭になって、風のように去っていった。何となく格好いい。
「さすがヲタ☆クマですね」
フィアナが感心した。
遠くで其れを眺めていたアンジェラは、
「頭痛薬が欲しい」
と、呟くしかない。
その騒ぎのあとに、ベルと合流する。
「‥‥シメイさん‥‥見つかって良かったです」
「お帰りなさいませ、若旦那様」
「‥‥っ!」
マイアはなりきっていた。
●宴が終わり
会場周辺の人がはけるのを待って、近くのカフェで歓談するフィアナ達。終電に間に合えばいいだろうし、途中現地事務所に寄れば、何とかなるだろうという楽観的な考えだ。
アンジェラは疲労困憊で、先にLHに帰る。
シロウはコンビニで、段ボール2箱相当の戦利品をもちあげ、
「宅急便でお願いします」
意気揚々として頼んでいる。
別のトラブルはあったが、フィアナが人にバレないように済んだ。
「うん‥‥何だか凄く疲れた‥‥けど、楽しかったかな」
マイアはフィアナに微笑んだ。
「うん☆」