タイトル:リズの社会適応マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/16 15:16

●オープニング本文


 轟音。悲鳴。怒号。銃声。
 音が周りを支配する。
 闇の中。光。そして、真っ赤に‥‥。
「きゃああ!」
 少女は跳ね起きた。
 枕元に何かを置いているように、何かを掴もうとするが、それは空を切るだけ。
「‥‥。ゆ‥‥夢?」
 少女は状況を把握する。
 あ、未だ生きてるんだ‥‥。安堵と恐怖、ない交ぜになった感情。
「あ、起きたか?」
 男が其処にいる。彼は火の付いていない煙草をくわえながら、新聞を読み、椅子に腰掛けていた。
「‥‥ウィルソンさん‥‥。おはようございます」
「ああ、おはよう」
 真っ白な天井と、ビル群が眺められる窓。
 此処は、病院の一室であることが分かった。
 ウィルソン・斉藤は(gz0075)は近くのタオルを少女に渡す。少女は其れを受け取り、汗でびっしょりになった顔を拭いた。
「‥‥夢‥‥みたのか?」
「はい‥‥」
 彼女はどれだけ地獄を見ていたのか、わかる。戦地に常時いると、常に緊張状態になるため、平穏な時間に適応出来ないことが多い。しかも、16歳ぐらいの少女が、その状態になっていた。
 彼女はリズ。前に風船を使って、斉藤に救助を願った少女。長い戦いから一時、解放されたのだが、今の精神状態ではこの先上手くやっていけるか、周りから見ても不安であった。前は、錯乱して、看護士や医者に飛びかかってきたぐらいである。今のはマシな方だ。
「煙草だめなんじゃないですか? 部屋では」
 落ち着いたリズが斉藤に注意する。
「だから火は付けてないだろ?」
「そうですね‥‥」
 リズは、其れ自体は別にどうでも良く、窓から遠くを眺めるだけだった。しかし、それは虚空を見つめているようで悲しいものだった。
(「このままじゃーだめなんだよな」)
 斉藤は、ぼさぼさの髪を掻きむしった。

「でー、あんたはなにしてんの?」
 ラスト・ホープのとあるバー。
「あー、そのことでこっちに来ているだけだ。おまえはなんだよ? 研究終わった後、冬に備えて冬眠じゃなかったのか?」
「なにいってんだい。あたしは熊か? 冬こそ祭りよぉ? その後ぶっ倒れるけど」
「‥‥だめだこいつ何とかしないと」
「アホで結構。あんた、ロスいかないの?」
「できるか、デトロイトで色々あるって言うのに。デスペアだのなんだのと」
 斉藤が吸い殻を灰皿でもみ消す。
「で、こっちに例の少女つれてきたわけ?」
「一般人であれば安全な場所が良いけどな、色々問題で避難させないといけねぇの」
「適合者ってわけ? あんたそう言うのみつけるの、うまいねぇ? 職間違えてない?」
「なにがある?」
「芸能人スカウト‥‥。いや、忘れて」
 エスティヴィア(gz0070)が此処にいるのは、原稿が仕上がり、年末年始なども休暇を取っているからだ。ウィスキーを飲む。おそらく、飲み終わったらフィアナの家でゲームをするのだろう。暢気な物だと斉藤は思った。
「『養子』は難しいとしてもまあ、此処でなら何か変わるかもねぇ」
 エスティヴィアの溜息。
「あっちでは、上手くカウンセリングできないからな。いきなり研究所はダメだろう」
「‥‥あんたは、世話焼きだね」
 そう、今はリズがここに来ている。
 あの危険な場所で助かった少女。
 安心できるまで世話をするつもりらしい。しかし、彼女が本当の笑顔が取り戻せるのか‥‥斉藤には分からなかった。
 平穏を取り戻すために、『戦いに身を投じる』のか、『待っているだけ』か‥‥。

●参加者一覧

ベル(ga0924
18歳・♂・JG
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
ハンナ・ルーベンス(ga5138
23歳・♀・ER
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
風雪 時雨(gb3678
20歳・♂・HD
アーサー・L・ミスリル(gb4072
25歳・♂・FT

●リプレイ本文

●広場
 晴れた日。依頼を受けた6人は広場で人を待っていた。戦いをするわけではないため、全員武装は解いている(うっかり持ってきていても、一旦兵舎に戻る余裕は幾らでもある)。
「ちょっと、落ち着きません‥‥」
「‥‥どうしてですか?」
 顔に傷のある巨漢に、大人しそうな少年が訊ねた。
「スーツというのはどうも慣れません」
「‥‥ふふふ」
「笑わないでください、ハンナさん」
 そんな会話をするのは鹿嶋 悠(gb1333)とベル(ga0924)、ハンナ・ルーベンス(ga5138)だ。色々と交流がある仲らしい。
「そろそろだな」
 セージ(ga3997)が腕時計を見た。
 スーツに薄汚れたコートの男と、16歳程度の少女がやってくる。
「ウィルソン・斉藤だ」
 ウィルソン・斉藤(gz0075)は6人に握手する。
「はじめまして」
「前の依頼はお世話に‥‥」
 初対面や前の依頼であった様々な挨拶をかわし、
「紹介しよう、リズだ」
 斉藤が、金髪に碧眼で白いブラウスに紺のプリッツスカート、黒い靴の少女を紹介した。
「リズ‥‥リズ・A(アリサ)・マキシムです。初めまして」
 礼儀正しく、お辞儀をした。しかし、緊張しているのか、ぎこちない。
「初めまして」
 6人が挨拶していく。
「‥‥お久しぶりです。リズさん」
「‥‥あ、あのときは」
 ベルの顔を見てから、リズは気付く。
「あのときはありがとうございます」
「‥‥俺は、当たり前の‥‥事を‥‥しただけです」
 顔見知りなのは実はベルだけである。
「初めまして、リズさん。ハンナ・ルーベンスです‥‥今日は、よろしくお願いします」
 ハンナが身を屈み、微笑みながら挨拶した。
 リズは修道女の姿を見て、祈るような格好をした。
「シスター、初めまして」
「ハンナでいいですよ」
 慈母に似たハンナの笑顔に、リズは微笑み返した。
「わかりました、ハンナさん」
「セージだ。今日はよろしく」
「初めまして、風雪 時雨と言います。よろしく」
 セージと風雪 時雨(gb3678)が手を差し出す。
「はい、よろしくお願いします」
 未だ緊張はしているようだが、全員に挨拶はできた。
 アーサー・L・ミスリル(gb4072)と、風雪、ベルがリズの周りで簡単な話をしている間に、セージと鹿嶋、ハンナが斉藤に話しかけていた。「鎮静剤や精神安定剤(トランキライザー)を分けて欲しい」とのことだ。
「ふむ、分かった。一寸待っていろ」
 錠剤を手渡す。
「マイナートランキライザーだが、これでも十分だろう。投与に注射器が必要な鎮静剤は、医師免許のない奴が扱うのは危険すぎるんでな、使わせられない」
「錠剤‥‥まさか、口移し?!」
 ハンナは何かとんでもない勘違いをし、真っ赤になる。
「そこで妄想しますか、あんたは!」
 セージは真っ赤になったハンナをハリセンで小突いた。
 非常に幸いなことに、そのおかしい話と小突いた音は、リズ達に聞こえなかったようだ。

●本部案内
 広場から本部に向かうなかで、このストリートには美味しいお店の話をする。各地の建物の案内をする6人だが、リズは「そうですか」と、あまり感情は見せていなかった。
(「結構重症じゃないか?」)
 全員が不安になる。しかし、笑顔を努めていく。彼女の虚ろな瞳には何がうつっているのか分からない。
 本部に入るとベルと鹿嶋、風雪が簡単に説明していく。
「‥‥あ、すごい」
 リズは興味を示したのは、大画面のモニター群だ。近くに受付嬢もいる(今の担当は人気オペレーターではなかったようだが)。
「此処が本部です‥‥依頼で知り合った大切な仲間‥‥喜びも悲しみも分かち合った沢山の人達‥‥沢山の物語が此処から始まるのです。私達能力者にとって本部は『人生における駅』なのでしょうね‥‥」
 ハンナが説明する。
「そうなんですか‥‥。駅‥‥」
 興味を示す。
「ここでは様々な依頼がきて、たくさんの人たちと協力して依頼を解決ます。その一つ一つが大切な思い出で、自分が生きた証です」
 風雪が続けて説明した。
「‥‥生きた証‥‥ですか」
 リズはハンナに興味を持ったようだ。徐々に普通の女の子と変わらないような気がしてきた。
「やはり、男より、女性の方が良いのかもな」
 斉藤が煙草をくわえて言う。
「‥‥シスターですからね。‥‥其れと、‥‥確か此処は禁煙ではないでしょうか?」
 ベルが斉藤に言った。
「っく、愛煙家にとって其れは痛い。住みにくい時代だ‥‥」
「‥‥いっそ止めればいいのに」
「其れは嫌だ」
 斉藤はふて腐れた顔をしていた。
 斉藤の愛煙精神は放っておき、リズとの関わりを眺めて笑みをこぼすベルであった。
 ハンナには心を開きかけているようだが、アーサーやセージが話しかけると、緊張しどう答えるべきか困っているようだ。
「大丈夫ですよ‥‥」
 ハンナが囁く。
「そうだぜ? ずっと張り詰めてたらいつか切れちまうぞ? 適度に余裕を持たないと。それにそんな顔してるとせっかくの美人が台無しだ」
 セージが、にこやかに笑いながら言うので、リズは驚き、顔を真っ赤にしてしまった。そしてハンナの後ろに隠れてしまった。
「あ」
「‥‥あ」
「あ」
 はっきり言えば、ナンパに近い? 冷たい視線が彼を貫く。
「恥ずかしがっているという感情があれば大丈夫だな」
 其れも意に介さず、ハッハッハと笑うセージだった。
「‥‥うう」
 しかし、リズは睨んでいる、子供っぽい顔で。

●昼食に
 広場にある公園、展望台にレジャーシートを敷いて、ピクニック気分。ハンナが紅茶の入った水筒やサンドイッチの入ったバスケットを広げた。
「おお、美味そうだ」
「美味しそうです」
「さ、皆さんどうぞ」
「リズ、こっちにこい」
 しかし、皆は先にリズを座らせるために促す。
「あ、はい‥‥」
 彼女ハンナの隣に座るようだったが、しかし、いつでも立って戦闘できるような態勢だった。どう見ても座っているというのではない。
「此処では大丈夫ですよ」
 ハンナが微笑む。
 気が付いたリズは真っ赤になって、足を崩しちょこんと座った。お人形さんみたいで可愛いと、アーサーや風雪は思った。ハンナやセージと鹿嶋は、笑みを浮かべるだけであった。
「サンドイッチ美味しいですね」
 アーサーは上機嫌。手にはSFのペーパバックが見えている。
「紅茶は実は苦手だが、美味いな」
 セージはハンナの紅茶を褒めた。
「ありがとうございます」
「美味しい‥‥。紅茶なんて、あそこでは飲めなかった」
 米国ではコーヒーが主流だが、実際競合地区で紅茶や珈琲が出回ることはない。
「‥‥」
 重くなる。
「『人間だけ』の補給部隊を襲ってレーションで凌ぐとか‥‥そう言う日々が続いていた」
 ぽつぽつと語る。
「‥‥あ、ごめんなさい」
 暗い話をしたことに、罪悪感を感じ取ったのか謝るリズだが、
「いいのですよ」
「胸にしまうだけじゃないからな」
 セージやハンナは微笑んで答えた。
「‥‥このカツサンドは美味しいですね」
「はい‥‥ベルさん」
「サンド、紅茶どちらも美味しいですね。今度紅茶の入れ方を教えてもらってもいいですか?」
「喜んで」
 和やかな雰囲気になってきた。
 暫くすると、リズは斉藤を捜すように周りをキョロキョロし始めた。
「どうしたのですか?」
「斉藤さんが‥‥」
 不安になっているようだ。
「いますよ、あそこに」
 少し離れたところ、斉藤が柵にもたれてタバコを吸っていた。蒼い空に白い筋が浮かぶ。
「どうして、こっちにこないのですか?」
 リズは彼によって、不安そうに訊いた。
「ん? 煙草苦手な奴がいると困るからな。携帯灰皿があっても、迷惑になるのは困る‥‥。安心しろ、遠くには行きやしない」
 斉藤はリズの頭を撫でた。
「斉藤さんもこちらに」
 ハンナが促す。
「ああ、丁度吸い終わったし、ハンナの昼食をいただくか」
「ないです。僕が食べました♪」
 アーサーが手を挙げて言うと、
「なんだとー!」
 斉藤はショックを隠しきれなく、叫んだ。
「冗談です」
 アーサーの冗談に皆が笑った。
「これに手紙を書いてくれませんか?」
 鹿嶋がリズに羊皮紙と、羊皮紙用のインクとペンを差し出した。
「?」
 何故手紙を書くのか分からない顔をしていたが、こくりと頷いた。
「あとでいいですか?」
「はい」

 記念撮影を撮る事になる。
「はいならんで、フレームにはいらない。でかいのは後ろ!」
 斉藤が指示する。
 セージは、さりげなくリズの肩に手を置いた。
(「あ!」)
 アーサーは勝負に負けた気分だが、顔に出さないように努めている。
 前方に、左からベル、リズ、ハンナ、アーサー、後ろに風雪、鹿嶋、セージと並んでいる。タイマーをセットし斉藤が駆けつけ、撮る。
 シャッターの音がかすかになった。フラッシュはたいていない。
「う、うああ‥‥」
 いきなりうめき始めるリズ。
 リズの様子がおかしい事に斉藤も鹿嶋もハンナも直ぐに気が付いた。
「リズっ!?」
 うずくまって、腰や足を触り、慌て始める。その仕草は『武器を取り出す』だと傭兵全員は気付いた。写真に何かトラウマでもあるのか? と全員が斉藤を見たが斉藤は首を振って直ぐにマイナートランキライザーを取り出す。鹿嶋は彼女が暴れ始める前に抱きしめる。リズは錯乱し悲鳴を上げて、彼を掻きむしる。顔に引っ掻き傷ができ、服が破れる音。しかし彼は離さなかった。巨体と筋力でリズはそんなに動けない。
 暫くすると、リズは徐々に我を取り戻しつつあるような行動に出た。何かを求めているように、手を伸ばしている。
「マイナートランキライザーはここだ」
 鹿嶋の言葉にセージが直ぐにマイナートランキライザーを手渡す。リズは、ハンナが急いで持ってきた水と一緒に飲む。30秒か1分‥‥。リズは深呼吸をし、安定したかのように見えたが、気を失った。
 鹿嶋はリズを抱き(お姫様抱っこと言った方が伝わりやすいだろう)、レジャーシートに寝かせた。
「大丈夫ですか?」
 皆が鹿嶋を心配する。
「これぐらい大したことはありません」
「でも、救急セットで治療をしましょう」
「ありがとうございます」
 絆創膏などで、傷をふさぐ。
 ハンナが簡単に鹿嶋のスーツを手直しし、リズが起きるまで待っていた。
「銃の撃鉄音と思ったのだろうか?」
 原因を考える男性陣。たしかに可能性はある‥‥。
「かなり重症だぞ。それは?」
「‥‥参りましたね」
「しかし、何とかなった」
「ああ。ずっと、あの調子でないことを祈るか」

「あ、わたしは‥‥」
 暫くしてから、リズは目を覚ました。
「起きましたか大丈夫ですよ」
 膝枕をしているのはハンナ。リズの髪の毛を梳くように撫でて安心させる。
「大丈夫か?」
 セージが顔を覗かせる。
「‥‥ご迷惑おかけしました」
「いいんです」
「‥‥あ、傷‥‥」
 リズは鹿嶋に気付いて、手を伸ばした。鹿嶋はその手を握る。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
 泣き出した。
 鹿嶋は首を振って「気にしないで」と表情で訴えた。リズは安心していく。そして、優しく彼女の頭を撫でる。だまって、優しく‥‥。


●予定は
 本来なら兵舎を回り、アーサーが管理している兵舎『スターゲイザーの部屋』のプラネタリウムに行くという予定だったのだが、リズの様態から考えるに無理ではないかと思われた。
 しかし、
「プラネタリウムとは何ですか?」
 リズのその一言で、行くことにした。
「プラネタリウムは室内で見られる夜の星座を映し出す場所なんだ」
 アーサーは説明する。
「‥‥」
 だいぶ落ち着いているリズはうんうんと頷いていた。
 何もないドーム状の空間だが、アーサーが操作ボタンを押すことで、機械的な音が鳴ってから暫くすると、薄暗くなっていき、ドームには星が煌めく人工的な夜空を映し出した。
「これはすごい‥‥」
 リズも全員感動していた。
「この星座はですね‥‥」
 ドーム状の天井に天の川や今の季節の星座が映し出され、アーサーはそれらについて説明していく。
 そして、冬の南天に見れる一角獣座のユニコーンを見せた。
「ユニコーンは、可能性の獣なんだよね。空想とわかっていてもそれに可能性を感じた‥‥だから皆は、ユニコーンの存在を信じた。そこにある可能性と一緒に」
 微笑みながらリズに説明する。
「そうなんだ‥‥綺麗‥‥」
 彼女は、今まで見たことが無いとはっきり分かる、『感動』のため、それしか言わなかった。ハンナは微笑みながら彼女を見ていた。そのリズの姿に誰もが黙って一緒にプラネタリウムを見ていた。


●風船
 広場に戻る。未だ時間はあるが夕日が綺麗だった。クレープを食べる時間はある。原因の写真も、人数分出来ているが。リズは受け取ってくれた。
「‥‥リズさんこれを」
 ベルが白い風船を持ってくる。
「あ、風船‥‥」
 宝物を見る瞳。本当に風船が好きなのだろう。
「‥‥先ほどの手紙を付けて、‥‥飛ばしてください」
 ベルはそう言う。リズは成る程と頷いた。
 そして、雪風がもう持っているのは皆の想いを込めた寄せ書きだった。
「寄せ書きです。受け取ってください」
 リズは「ありがとう」と、困惑したような顔で受け取る。
「きみは一人ではありません。自分達がここにいますから。困ったことがあればすぐに駆けつけます。だから、きみが前を見て踏み出してくれること待っています」
 彼はそう、彼女に囁くのだった。
 寄せ書きには様々な言葉が書かれていた。
『I Can Fly!』
『扉は常に目の前にある。必要なのは開く勇気と踏み出す覚悟だ』
『信じています。涙をこえて‥‥貴女が明日へと進む日がきっと来ると‥‥私がかつて‥‥そうであった様に‥‥今は辛くても、どうか‥‥悲しみに負けないで‥‥』
 等々。
 リズは泣きながら、寄せ書きを抱きしめる。
「ありがとう、ありがとう」

 夕日が穏やかに皆を照らしている中。あかね色の空に、ひとつの白い風船が飛んでいく。下には手紙が括られていた。
「なんて書いたのでしょう?」
 鹿嶋が訊く。
「お手紙は、受け取った人しか読んではいけません。でも、教えます」
「?」
「I am alive」
「よい言葉ですね」
 鹿嶋は、微笑んだ。

「今日は‥‥本当に、ありがとう」
 彼女は、少し何かが落ちたような顔になっていた。しかし、まだ改善したというとそうではないだろう。鎮痛剤や安定剤の副作用で少し眠たそうだ。
「今日は助かった。また、リズに構ってやって欲しい」
「はい。喜んで」
 別れの握手。リズはハンナに抱きつき別れを惜しんでいた。

 夕日の中での別れ。切なさが胸にこみ上げる。斉藤がリズを連れて帰る姿が消えるまでずっと其処に立っている6人。
「‥‥彼女はどの道を進むのでしょう?」
「分からないが、この調子だと大丈夫そうじゃないか?」
 ベルの独り言に、セージが答えていた。