●リプレイ本文
●開けてみると
寒々とした廃空港。エスティヴィア(gz0070)がそこの管制塔に研究所と住居地を兼ねて住んでいる。近くに町ぐらいはあるが基本的に彼女は其処に買い出し以外の用事では行かない。
さて、コアーに助けを求められてここに来た傭兵一行は、魔境と思いながら恐る恐る入る。その1人はミイラ男に眼鏡をかけて松葉杖をつきながらだ。
「無理をするな」
「なに〜、我が輩はそれぐらいのこと大丈夫だよ〜」
話をしながら、埃っぽくすこし汚れた廊下を歩く。
研究室の隣にある作業場。そこに彼女はいるはずだ。しかし、やけに静かだ。
「もしかして、死んでないよね?」
若い男の声。
「これぐらいで死なないとは思いたいが‥‥。‥‥まともに食ってないと危ういか?」
別の男が、勇気を出して、ドアノブを握り‥‥開ける。
「これは‥‥まさに修羅場の惨状ね‥‥」
ドアを開いた部屋を見た女性がうめいた。
紙くず、トーンの切れ端、カロリーバーの袋の山。ビールの空き缶に、ドリンク剤と、混沌としている。意外にも原稿が置いてある場所は、整然としており、サイエンティストのミイラ男からすると、『彼女の本業』関連は全くないようだ。
「あれ、居ないよ?」
「‥‥たぶんあそこだ」
精悍な顔つきの好青年が、デスクの裏に回る。
其処に彼女が、机の下に丸まって眠っていた。白衣にはトーンの切れ端や消しゴムのカスが付き放題である。
「‥‥猫かハムスター?」
「‥‥此処の方が寝やすいのだそうだ」
女性の問いに好青年はため息を吐いた。
「内容的には問題ないようだが‥‥。ペン入れや背景などの本番がだめなのか」
水円・一(
gb0495)がネームと原稿を見ていた。一応半分ほど下書き、1/4はペン入れ、その半分は仕上げ作業に入っている。
「表紙を入れて24〜32ページとすると、修羅場として睡眠も入れても、ギリギリじゃないでしょうか?」
経験のある高苗 優女(
gb3944)が別の原稿を見た。
「ああ、怖気の走る内容でなくて良かったよぉ」
恐怖におののき、勇気を出して原稿を読む。そして、安堵するのは、ミイラ男のドクター・ウェスト(
ga0241)だ。
「そう言えば以前此処に来た時も冬場がどうとか言っていた気がしたが、‥‥この事か」
白鐘剣一郎(
ga0184)は、苦笑して、ため息を吐いていた。
コアーが形相を変えて懇願するにも納得がいく。しかし、何とか仕上がりそうなレベルまではある。エスティヴィアはドローム社に籍を置くほど優秀なのだから。とはいっても、もう少し情熱を別の方向にも向けるべきと、言うのは禁止である。彼女も趣味人なのだから。夢の中でも原稿を描いているようである。
「先に掃除を始めよう。彼女は暫く寝‥‥っておい!」
剣一郎が言うやいなや、水円が、エスティヴィアを起こす。女性扱いを最低限にするようで、蹴りはしなかった。
「起きろ。おい、締め切り間近だぞ」
「うにゃ? あうあー」
寝ぼけてます。
「コアー? そこかけ網‥‥、点描は6こまめね‥‥」
「おきろー」
脳天を割るようにチョップ。
「いったー! なんだ! コアーが野郎になった?!」
「未だ寝ぼけてる」
もう一発。
「きゃうー」
27歳独身女性がそんな声をだす。可愛いのかどうか分からない。
「あうあー」
どこかのちびっ子准将みたいな口癖をだしながら、全体を見渡した。
「やあ、ほはよう」
おはようと言いたかったのだが、『ほ』になってる。未だ寝ぼけているようだ。
「ああ、おはよう、手伝いに来た」
「‥‥コアー‥‥逃げたか‥‥」
きつい目をして、舌打ちするような顔をする。
「今入院中だ。過労で、部下を大事にした方が良いぞ?」
「あ‥‥、入院しているなら仕方ないか‥‥。まえもって『ヤバイなら逃げろ』と言い含めていたから」
エスティヴィアが起きあがって、ぱたぱたスカートなどを叩き、『うーん』と背伸びをした。
「さて、原稿上げますか‥‥」
「‥‥」
何というマイペースだろう。
「手伝ってくれるんでしょ? って ウェスト君! いつ不死者に!? 聖水もって‥‥」
ぼけるエスティヴィアに水円がハリセンで叩く。今度は水平に。
「‥‥良いツッコミだよぉ」
ぴくぴくする女科学者。
「先の戦いで負傷してね〜」
苦笑するミイラ男科学者。
「まずは、主線がまだだと何も出来ないから‥‥お掃除洗濯。あと‥‥エスティヴィアさんをお風呂に入れないと」
優女が考える。
「そうだな。目に隈があるからな」
健一郎が同意する。
「修羅場だぞ?」
鬼がいた。
「あうあー」
「『あうあー』いいすぎです。エスティヴィア様」
鳥飼夕貴(
ga4123)が彼女の肩を揉んでいる。エスティヴィアは気持ちよさそうにしながら、リラックスして、皆からの差し入れのドリンク剤を一本開けていた。
「さて、俺は料理を作ります」
「ちゃっちゃと始めようかね〜」
5人は、色々掃除道具などを取り、作業を開始する。
「コアーのおかげで分別は出来そうだな。ゴミ拾いが終わったら作業場は後にして、先に仮眠室だ」
剣一郎は、苦笑しながらゴミを拾っていった。
そう、自分たちが寝る場所と言えば、其処しかない。
「いつ以来だろ?」
「そんなに掃除してないのですか?」
「わかんなーい」
「あんたは原稿を進める!」
水円がハリセンを振りかぶろうとする。エスティヴィアは近くにあった下敷きで受け止めようと必死だ。
「はいはい、水円さん、此処は私が!」
優女がエスティヴィアを引っ張って風呂場に直行させた。
「覗きに来たらだめだからね?」
と、一応、釘を刺して優女は去っていく。
「はぁ。大丈夫かねぇ」
水円は深いため息を吐いた。
「煤とりと、布団干し、一年の大掃除ぐらいで済みそうだな」
剣一郎はざっと見渡して言う。
コンペの時に一度綺麗にしているのかそれほど汚くない。コアーという存在が彼女にとって重要な人物だと分かるが、1人しか居ないのは問題だ。
「どうしてなんでしょうね?」
普通、扱い悪かったら助手は逃げる。
「何か深い絆でもあるのかな?」
詮索は其処まででとめて、掃除をする。仮眠室の掃除は半日もかからず済みそうだった。布団を干して、叩いてオシマイみたいな感じだ。
「明日に会議室だな」
時刻は15時。
原稿組の優女と鳥飼はアシスタント用の作業場の確保を完了。鳥飼は直ぐに食事の支度をする。
「BLだったら活き活き書けるけど」
「我が輩は、そっち系は無理なのだよ〜」
ミイラ男がさめざめと言う。
「ごめんねー。あたしはロボとか傭兵系なんよぉ」
シャワーを浴び終えたエスティヴィアが髪をバスタオルで拭きながら、着替えて帰ってきた。その姿に男性陣が一瞬硬直する。女性の風呂あがりは色っぽい物なので。
「安心した〜」
普通、突っ込まれないと魂が出ないのだが、安堵のあまり口から魂が出ている、ドクター。貴重なシーンである。
「さて、このマンガはどう思う?」
「うーむ、パロディにしては面白いと思うが‥‥此処とここはぬけ」
「ひっどーい」
鬼に文句を言う。
「やるなら締め切りは守れ。それと死んでも描け」
「ゾンビはイヤー」
「きりきり描くんだ!」
「手伝いますからエスティヴィアさん」
優女が助ける。
「俺も腕を振るって食事作りますから!」
鳥飼がエプロン姿で言う。手には調理食材一色だ。
「ありがとー!」
夕食まで、カリカリ、シャッシャ、と黙々と原稿作成が進められた。
「ここのKVのデッサン狂ってる。書き直し」
水円の厳しい指摘に、
「えー! 嘘線でごまかしてもダメ?」
文句を言う。
「此処は何番?」
優女が仕上げ処理に入っているところで、
「60〜62がいいかな? あ、均一にお願い」
直ぐに答える。手元にはネームがあった。数字はトーンの番号である。
「紅茶が良いか? それともコーヒーか?」
「我が輩はコーヒーなんて嫌いだ!」
ドクターが反応。
「紅茶が良いわぁ」
エスティヴィアが答えた。
「やはり、君とは通じるところがあるねぇ」
包帯状態で、原稿にベタを塗ろうとするが危うく、インクをこぼしそうになった。
「あんたは無茶するな!」
ドクターはドクターで、常時覚醒しているようだが、重体の所為で動きが芳しくない。本人曰く超強化伊達眼鏡のおかげでまだまだ闘えるらしい。
「ごはんできたよー!」
鳥飼の言葉で一旦作業は停止した。
「にくくいたい、にくー!」
作業場がカレーまみれになるという最悪な事態になるのを避けて、別の所で食事。台所にも一応10人は座れるテーブルと椅子があるのだ。もとは空港の管制塔の一部だから、大人数用のオフィス家具はあるわけで。
ドクターやエスティヴィアは箸が使えない。なのでスプーンやフォークを使う食事である。初日はカレーだった。
「この後、休憩だねぇ」
「ドクター君は、アクションは無理そうだから、対戦型シミュレーションゲームかねぇ」
「三国志などは?」
「それっぽい文化ありよぉ。有名武将に似たのはあるかと」
「やってみようかなぁ」
こんな会話についていけるのは、ドクターと優女ぐらいしかないようだ。
「マイペースすぎるな」
「‥‥大丈夫なのか」
「大丈夫だと思う」
剣一郎と水円が心配そうだが、鳥飼だけはうきうきしているようだ。
作業場を少し綺麗にしてからゴミを出し、各自風呂に入ったり、アニメのDVD鑑賞を空中映像装置でみたり、エスティヴィアとゲームをしたりと、休憩する。
「ホントこれが兵装になるとは、すごいものだよ」
何度か関わっている人にとっては感慨深い。
最初は燃費の悪さでKV9機ほどのエネルギーを枯渇させた映像機器が、普通の電気供給で常時動いている事に驚きを隠せないわけで。元々その装置が温かいのか、季節はずれの羽虫が飛んできて、画面をすり抜けていった。羽虫はこの映像場所を壁と思って止まろうと思ったわけなので、勢い余って壁に激突して脳震盪を起こす。そこでハリセンの一撃で羽虫さんは昇天する。
「さて、続きをかくわよぉ! 眠い人は先に寝ても良いわぁ」
「お手伝い続けます」
「なら、俺たちは暫く手伝って、明日に備えて寝るか」
と、キビキビ動き始めた。
「何だ、案外、修羅場じゃないのか」
まだまだはじまったばかり、序章に過ぎないのだ。
●朝
優女と水円がエスティヴィアの原稿を徹夜で手伝っていた。水円の方はあまり背景などを塗ることは無理でもトーンは貼れる。しかし、ウトウトし始めると水円がハリセンで思いっきり叩くため、エスティヴィアのきーきー鳴く(鳥か?)。優女がなだめながら進めていくと、朝日を拝む時間になった。ちなみに、鳥飼、剣一郎、ドクターは仮眠室でお休み中。そろそろ朝なので鳥飼は起きて朝食を作るだろう。
「ぐあ! まぶし!」
エスティヴィアが朝日をみて固まる。そして、机の中に潜り込んで眠ろうとするところ、水円が又ハリセンで止める。エスティヴィアは手元にあった物差しでガードした。
「ねさせてー!」
「ねるなぁ!」
優女の目も真っ赤に充血している。
「うう、この後お洗濯に‥‥。久々だから、ちょっとやばいかもー」
「歳か?」
「歳っていうなー!」
水円の言葉で優女が叫ぶ。
「おはよう良い朝だ‥‥とはいかないか」
剣一郎が、爽やかな笑顔で言うが訂正する。
「ラジオ体操をしよう」
「えー」
「えー」
「そうだな」
優女とエスティヴィアが抗議。しかし、連行されて、5人で仲良くラジオ体操を始めた。ドクターは動けないので見学。
「うごかすのいやなのにー‥‥。妙に目が覚めたから続き描く‥‥」
とぼとぼとデスクに戻るエスティヴィア。
サンドウィッチを頬張り、フルーツ牛乳を飲みながら、黙々原稿を描く姿に、哀愁を感じずにいられなかった。
●修羅場
「はい、此処ホワイト」
「トーン何処!?」
「棚を探せ!」
「ドリンクちょうだい! 此処書き上げたら休憩はいる!」
「印刷所に予約取ったか?」
「取ってるわよ!」
一進一退の修羅場。
剣一郎が主体となっての大掃除と、水円が主体となっての原稿アシストの入れ替わり立ち替わり。洗濯物は優女に任せている。何せ女性用の下着は健全な青年衆には刺激が強い。洗濯は夕方に取り込むので、彼女は直ぐに仕事の手伝いをする。
それでも、作業場の喧噪は止むことはなく、トーンを削る音やペンを走らせる音が聞こえるのだ。
「‥‥うまくやっているのかな?」
大掃除中の剣一郎はその、声と音に不安を感じていた。
さて、昼時にはまたエスティヴィアが「にくくいたい、にくー」とじたばたし始めたので、鳥飼が麻婆豆腐を作る。べつにステーキが食いたいわけではなく、彼女の口癖のようだ。
「うーん、うまーい」
女科学者至福の顔。
幸いレンゲなどで食べるため、負傷しているドクターにも優しい。鳥飼のグッジョブなメニューだ。もちろん、作業場で、汁のでる食べ物なんか食えない。阿鼻叫喚になる。
「う、ダメだ。そろそろ、寝かせて貰う」
水円がフラフラ作業上から離脱。仮眠室に直行。
「解放されたー! あたしもねるー!」
エスティヴィアが自分のデスクの下で眠ろうとする。しかし他のメンバーに止められ、結局私室に連行された。
「ぐー」
それでも、ベッドにダイビングして2秒。直ぐに寝る。
「美しい‥‥」
鳥飼さん、其処萌えている状態じゃないです。
剣一郎が彼女に布団をかけてあげる。
「はいはい、息抜きと掃除と行こう」
彼が起きている人で大掃除をはじめた。
ときには、息抜きでDVD鑑賞。鳥飼が、フィアナ・ローデン(gz0020)のCDを持ってきているので其れで癒されるなど、次の修羅場時間(エスティヴィアが起きるまで)まで休息を取るのであった。
●修行足らず
男にはある悩みがあった。
それは、風呂なのだが。先に女性が入ってしまうと、女性の残り香でドキドキするのである。
「一回空気抜いた方が良いか‥‥」
「しかし‥‥それは、もったい‥‥。いや、寒くなるから‥‥」
「むむ‥‥」
「‥‥我が輩も流石に‥‥」
「うう、俺も修行が足りない」
明後日の方向に剣一郎は愕然とする。
「若さか! 若さ故の!」
男故の悲しい性でありました。
●修羅場は続く
優女がエスティヴィアの私室で睡眠を取っている間にも作業は続く。夕食を軽く取って、まだまだ続く。
どうも、食事のおかげでエスティヴィアの原稿速度が上がり、下書きは完遂、ペン入れは8割終わっていた。いまは仕上げと調整である。
「あけ網トーンは何処?!」
「あの棚の一番上から5段目!」
「ベタスラッシュなんかできません!」
「ならそれはあたしがする!」
「フリートークは?」
「いま、けんいちろーは‥‥」
「後だ! 先に原稿‥‥てリアルタイムな事書くなって! エスティヴィア!」
「原稿ぬれてしまったよ〜う」
『ドクター!』
1枚リセットの危機。
「む、これはリカバーできそうだ‥‥」
「何とか助かったかな?」
水円とエスティヴィアが唸る。
ドクターさんの魂は部屋の天井まで昇ってます。仮眠も含めて。
「此処を切り取って補修しよう!」
「了解!」
「なになに〜? どうしたの? 又大惨事!」
仮眠から戻ってきた優女が加わる。
「では、俺たちは寝かせて貰おう」
「はいおつかれー」
剣一郎と鳥飼が欠伸をして仮眠室に向かう。剣一郎も鳥飼はしっかり夜食も用意しくれていた。腹持ちの良い物で。
そして、3人で仕事にはいるのであった。
●3日目
カリカリ、シャッシャ、べたべた。
カリカリ、ぺたぺた、シャッシャ。
黙々と続く。コツや慣れもあるわけで。エスティヴィアがきーきー鳴くこともなく、静かであった。
そして、朝日。
「お肌の心配〜」
「あたしもー」
女性陣はお肌が荒れて悩みます。近くにある鏡を見て、肌の艶をチェックする。一寸ヤバイ。
「終わったら、充分、休めるだろ。続けろ」
「鬼がいる! 此処に鬼がいる! おにー! あくまー!」
女性の連携は時には素晴らしい。
「‥‥悪にでもなるさ‥‥原稿さえあげればいいのだからな」
遠い目をする水円。
あとは、ホワイト修正や表紙だけとなった。間に合いそうである。
「‥‥ギリギリか」
「ごはんできたよ〜」
鳥飼が呼びに来た。
「食べてから、午前に終わらせる!」
「うぃっす!」
エスティヴィア気合い入れた。
しかし安心は出来ないだろう。
●鳥飼のアプローチ
ご飯を食べているときに、鳥飼がエスティヴィアに話しかけた。
「エスティヴィア様」
「な〜に?」
「弟子にしてください!」
いきなり言われたので、エスティヴィアが緑茶を吹き出す。目の前にはドクターがいて、かかりそうになった。ギャグだったら噴水みたいに吹き出して、絶対かかっている。
「ヲタ方面で! あなた様の望みの格好をします!」
結構真剣だ。
「うーん、‥‥女装は良いけど、男の凛々しさも考えて欲しいねぇ」
エスティヴィアの感想はそうだった。
「薔薇ですか?」
「そうは言ってない」
完全否定。
「そう言う話を、しないでくれないか? 怖気がするよう〜」
ドクターが珍しく震えている。
「薔薇は嫌だけど‥‥、BLなら私は良いけどねぇ」
優女が言う。
「うわーやめてくれ〜」
優女の言葉でまたドクターが震える。
「‥‥だめだこいつら」
水円が眉間に手を当てて唸っていた。
「もう一寸考えさせて。というかあたしは島の末席な、名もない同人作家よ〜? 趣味丸出し」
そう、彼女は壁常連じゃない、只の末席なのだ。お誕生日席に当たった事なんか一度もない。
「BLは?」
「あたしの絵を見たら判るけどどっちかというと、男向けの萌え絵でしょぉ?」
「そうですねぇ。残念です」
ドクターが隅で恐怖しているが、とたんに安堵。
「劇画調は書けるんだよねぇ?」
ドクターの問いに、
「オフコース!」
親指を立てて、目をキラキラさせるエスティヴィア。
「肉体言語それがいいのよね!」
「やはり、通じる物があるねぇ!」
「何か色々間違ってないか?」
話についていけない剣一郎。
ヲタの話はそう言う物だ。それが深みにはまるという物である。この世界は深く‥‥カオスだ。
エスティヴィアも加わってラジオ体操の後、息抜きに屋上で日向ぼっこ。
「ああ、灰になる〜」
「吸血鬼ですか!」
ジュースや珈琲を飲みながら、広大な平地を眺めている。
「さて、最後の行程だけど、気合い入れるよー」
「おー!」
掃除も一段落つき、あとは、ラストスパートだ。エスティヴィアと5人は最終作業に入る。風呂もさっさと済ましてから、作業場で怒濤の修羅場がはじまった。
「そこ効果線!」
エスティヴィアが指示を出す。
「背景は、森だから! 葉の部分はあけ網を!」
「表紙できたか!?」
水円が確認。
「できた! 一色印刷だから!」
「よし! ‥‥これなら大丈夫だ!」
「ドリンクが尽きた! 買ってくるから車つかう!」
剣一郎が飛び出すが、
「ついでに、フライも!」
「紅茶!」
「コーラ!」
「青汁!」
次々と注文が飛ぶ。
「青汁なんて、誰が飲むんだ!」
「罰ゲームの!」
「そんな暇あるか! 行ってくる!」
エンジン音が聞こえ、徐々に小さくなっていく。
この瞬間だけ、全員が一丸となって原稿を仕上げるのに集中していた。
気がつけば、4日目の朝。
「‥‥できた!」
原稿が完成した!
「急いで高速移動艇にのって、大阪・日本橋に行くぞ! 間に合え!」
どたどたと騒がしい中、エスティヴィアがドローム社研究員の特権を乱用してチャーターした高速移動艇に乗り、一路大阪・日本橋へ。
「おねがいしますー!」
「まにあったねー、ではつくっとくから当日に!」
無事に入稿を完了した。
●後片づけ
「これは、結構、惨状だな」
剣一郎の一言。作業場はかなり酷い。トーンや消しゴムのカス。ゴミ、籠もった匂い。
ここの主はもう私室で眠っている。終わった後、半分寝ており、歩きながら眠っていたので驚きだ。そのまま、机の下で眠りそうだったので、みんなで運んでいった。それと、ほぼ原稿アシストにつきっきりだった、優女も水円も眠っている。ドクターに至っては、魂抜けながらゴミ拾いだ。重体延期になりかけで怖い物である。
比較的規則正しい生活で対応した、剣一郎と鳥飼も、かなり疲労がぬぐえない。眠ればマシになるが一寸しんどい。
「今度からもちょくちょく通わないと、又とんでもないことになりそうだね」
「修羅場ってこういう物なのか‥‥」
一方、エスティヴィアと優女についてはだらしなく眠っており、男性が入れない状態である。
あらかた綺麗にいた後、暇つぶしをして、寝ているメンバーが起きているのを待つことにした。
「本当助かったわぁ!」
エスティヴィアは皆に握手で感謝する。
「本当に勘弁して欲しいけどな」
水円が苦笑する。
「鬼編集だったけどねぇ」
「‥‥」
「又来ますから!」
鳥飼はエスティヴィアを尊敬しているらしい。
エスティヴィアは困惑している様子だった。
「ああ、もう一寸考えさせて」
おそらく、弟子を取るなどは無理なのだろう。
こうして、5人は彼女に見送られてラスト・ホープに戻るのであった。
エスティヴィアがコアーを見舞いに行くために、ラスト・ホープに向かう。そこで、たまたま腐れ縁と出会うことになる。其れは別のお話で‥‥。