●リプレイ本文
●はじまる賑やかさ
正午になる頃である。
全ての申し込みを済ませ、通りに屋台設置の作業音が聞こえる。トラックのバックする音に、テキ屋の声。そこかしこに既にコスプレと言う名の仮装の人もちらほらおり、カメラ小僧も集まっている、一寸した賑わいを見せていた。
火絵 楓(
gb0095)、大地守(
gb0745)、滝岡海(
gb0746)が借りた屋台を建てている。
「そのポールもって。そうそう!」
「よいしょー!」
「結構重いねぇ」
と、良いながら順調に屋台を設置する。
「ところで、これ何?」
守がイヤな汗を掻いて指差す物体。
虎の着ぐるみだった。今は夏じゃなくて良かったと思う。
「きぐるみ☆ きてね!」
「えええ‥‥」
仮装をしなければならない、ルールではないが、客寄せと言うことであるなら仕方ない。
「今は勘弁して‥‥」
「なら、クライマックスでね」
「あ、ああ」
海はと言うと、既に自分で以下の着ぐるみを調達して、着替えて来た。
「はずがしがらないようにー♪」
この人、ノリノリである。
「所でその花火危ないんじゃない?」
「大丈夫。大丈夫」
守や海が心配そうに火絵を見ていた。
ヴィンセント・ライザス(
gb2625)は1人でコツコツ屋台を作り既に準備を整えていた。中国の飲茶(軽食方面の)、英国の軽食を取り扱っている。中英混在の屋台だった。昨今中国食材は手に入れやすいとしても、これはこれで出費は凄いだろう。
「ハロウィンか‥‥。昔は良く、キャンディ取りに出たものだがな。今回は出す側でいこう」
店番が自分しか居ない。あと、限定メニューの仕込みがある。しばらくはかかりそうである。
●仮装パレード組・1
散策する人や、パレードに入る人も混み合って、ネットカフェ、メイド喫茶の更衣室、店舗のイベント会場を借りての臨時更衣室にて、参加者は着替えている。化粧など細かい作業も出来るようにしているわけだが、既に、家からそのままの格好だと問題もあるし、トイレで着替えられると困るのだ。
1人だけ覚醒すればコスプレしなくても良いような人物がいるけど、気にしない方が良いだろう。
その人の名は、鈴葉シロウ(
ga4772)。
「ヲタイベントと聞いて脊椎反射してきました。――歩くような速さで」
シロクマ顔で、きらりと目と歯を輝かせる。ローカルTVのインタビューにそう言ったようである。
「着替えの時間は未だあるから‥‥。まずは‥‥、開店同時に同人誌やグッツを買いあさりますよ」
と、水を得た魚ならぬ、シャケを得た熊のように、大阪日本橋界隈をスキップし、色々買いあさっていた。年齢指定モノも大丈夫という優越感に浸りながら。休憩はメイド喫茶でメイドさんに萌えている訳である。
長い緑髪の女性が遠巻きから、シロクマのマスクを着ているように見える人物をみて、ぽつりと言った。
「ふむ、彼は良い感じに楽しんでいるねぇ」
「あたし達の更衣室はあちらのようです」
「じゃ、着替えていこか。小悪魔で」
1人は黒ゴシックロリータの姿、もう1人は白ゴスである。暫く立って出てくると、魔女と猫の仮装姿になっていた。
昼ぐらいになると賑わい始める。普通にハロウィンにある悪魔、魔物、魔女などから、他のキャラのコスプレ等々、様々だ。パレード参加者も実行委員からうけて、出発時刻までに集まって貰うように言われ、後は自由行動となっていた。
「けひゃひゃ、エスティヴィアにあえるといいねぇ」
ドクター・ウェスト(
ga0241)は独り言を言う。
彼は、『フランケンシュタインの怪物』風でこめかみ辺りにボルト二つ埋め込まれている(様に見える)衣装だ。ただ、白衣には『魔法と少女と肉体言語』のメインヒロインと血煙上等という、痛さと暴走族的ノリが混在するケイオスを醸し出す。しかし、『魔女と魔法と肉体言語』で血煙上等は普通なのであるので問題ない。
「確かにあえると色々話が出来そうです‥‥。しかし、慣れというモノは怖いものですね」
アキト=柿崎(
ga7330)が相槌をうち、更に三度ここに来ることに苦笑していた。
彼は、かつてコミレザのコスプレとして、ファントムマスクとカプロイア伯爵のマント、ポケットにはレインボーローズを刺し、顔にファントムマスク。一夜にして大阪・日本橋の伝説(?)となったファントム仮面だ。ハロウィンと言うことなので牙のマウスピースを付けて、オールバックにて吸血鬼スタイルに変わった。
「ほほう、なかなか様になっているよぉ〜」
ドクターはアキトの姿を褒めた。
そして、朝から一駅距離をシロクマ顔の姿で行脚し、沢山の紙袋をコンビニに持っていった、シロウさんはというと。
「これ、ラストホープに宅配お願いします」
その時だけは覚醒を解いて、まともに宅配便を頼んでいた。流石に買いすぎたらしい。
仮装姿は、「超時空マーシナリィゴースロスF1 〜魔法少女とKVの空〜」というらしい、何かを一緒に入れたネタ衣装だ。KV用のパイロットスーツ(ツナギを改造したもの)、ちらほら見える『魔法と少女と肉体言語』のネタとKVのネタで気付いた余所の人達とネタで賑わうことになった。
「いやいや、魔法少女の肉体言語っぷりが」
「ロボ成分の密度と濃さが」
と、余所から見れば宇宙語であった感じで会話が弾むのだ。
未だパレードには時間がある。だから、各々は自由にヲタウェイを行脚し、屋台を回ったり、写真を頼まれると、ポーズをとってみたりしたのであった。
●商売繁盛?
楓の焼きそば屋台はは大忙しで、抜け出せる余裕なんて無かった。
「うああああ! 暑い――! 熱い――!」
楓は必死に焼きそばを焼いている。
虎やイカの着ぐるみに群がるのは、7〜12歳の子供達で一寸賑わっている。
「はい、都合6? そちらサンは、3ですね! はい」
「‥‥イカさんですよ」
「‥‥手伝いに来ました」
「ああ、イスルさん、たすかる〜! わあ、かわいい!」
「‥‥う、ありがとう」
イスル・イェーガー(
gb0925)が猫又の仮装である。ネコミミに尻尾二本の赤い着物姿である。中性的故に、女性に見られそうなのは仕様のようだが、今は手伝いが先だ。着ぐるみ組が手伝えないのだから。
「‥‥いらっしゃいませ〜‥‥。‥‥3つですね、分かりました‥‥」
一方ヴィンセントの方は、順調にはけているようだ。10人かそのあたりでには特別商品プレゼントと言うことが目玉になっているようである。
「あ、いいなぁ」
「人数制だから、しかたないな」
と、客が言う。
「ふむ、良い感じなのだが、そろそろ在庫が切れるな‥‥」
そして、最後の客で一種類、在庫が切れた。
「すまない店じまいだ、沢山作る余裕が無くてな」
と、早速店じまいを始めた。
「‥‥パレードには間に合うようだ。ふむ‥‥行くのも一興だろう」
自由に行動しているシロウは、青のり系が塗されるモノは止めて、クレープや歯に付かない物を選んで食べている。
「屋台は格別ですね」
格好が格好なだけにだが。これも紳士のたしなみらしい。
●仮装パレード組・2
まだ、パレードまで時間はあるが、そろそろ集まった方が良いだろうという時間。
ナナヤ・オスター(
ga8771)は本場ルーマニア出身らしく(本場中の本場ではないが)、
「いやはや、今やどこもハロウィンで賑わってますねえ。良いことだ。うん、とても良いことだ」
吸血鬼(ドラキュラ)の黒いタキシード、裏地が真っ赤な黒マントと、牙のマウスピース、かなり本格的に仮装している。トマトジュースを常に携帯している辺りは、一寸した冗句と言うところだろう。怖さはなく、しかし、周りから「おお! 凄いコスプレだ」と賞賛の目であった。
イスルは屋台手伝いを終わらせ、走っていた。途中で知り合いの顔を見つける。柿原ミズキ(
ga9347)だ。
「‥‥ミズキ姉さん‥‥同じだね」
「イスルではないか、似合っておるな」
小悪魔的笑みを見せつつ、イスルを抱き寄せた。
「‥‥あわわ、ミズキさん人前で」
「かまわんじゃないか」
イスルがとても顔を赤らめていた。ミズキはくっくっくと笑う。からかいすぎたようだ。
ちなみに、ミズキの方も、ネコミミ猫尻尾の猫娘的姿。薄紫色に染めた髪の毛。そこかの元ネタの猫娘なのだろう。抱きしめているわけだが、イスルが『男の子』に見えないので、女の子同士がじゃれ合っているという感じにしか見えない。
「何という萌えシチュ!? すみません、写真一枚いいですか?」
「は、はい、いいですよ〜☆」
何かの誓いの格好をさせて写真に収まる2人。
ミズキもなかなかノリノリである。
(「本当は、なりきりってはじめてだから緊張してるんだけどねぇー」)
「おっと、そろそろパレードかな? 行かなくては」
ミズキが去ろうとするが、イスルが彼女の手を握って止めた。
「何?」
「僕も行くので‥‥一緒にいきましょう」
未だ顔を真っ赤にして言うのであった
弟的存在の願いを聞き届けなければと言う一寸お姉さんの気持ちを味わったミズキであった。
「かわいいやつめ、よしよし」
●パレードで出会えた人
色々見せ物をして、ゆっくり練り歩くパレード、一寸抜ける人もいれば、途中ではいる人もいるが、本筋の方は固定のようだ。おそらく、コスプレ主体で参加しているひとなのだろう。
「お、あの猫の仮装はフィアナさんでは?」
「なんと、運がいいねぇ」
アキトとドクターが数m先にいる女性を発見。フィアナ・ローデン(gz0020)である。
猫コス(ネコミミ尻尾)であまり見分けが付かないのであるが、はやりフィアナと分かるあたり、オーラ(?)が違うようだ。アキトは、フィアナに声をかけた。
「あ、フィアナさん、こんばんは。ここで会うとは奇遇ですね」
「あら、アキトさんにドクターお久しぶりです」
「初めましてではなかったかねぇ?」
「いえ、深夜販売で一度。ご存じないですか?」
「な、なんだって〜!」
驚くウェスト。魂が抜ける顔になった。フランケンシュタインの怪物になっているので、余計に怖いというかコミカルだ。そう、起動する前みたいで。
「フィアナばかり声かけてまぁ」
と、聞き覚えのある声の魔女。
「‥‥あ」
「ひょえ!」
苦笑している魔女・エスティヴィア(gz0070)に今度はウェストの他にも、アキトも魂が抜けたような顔になった。驚きの方で。
「いえ、綺麗なお嬢さんで‥‥」
「あら、お世辞は良いわよぅ」
くっくっくと笑う、エスティヴィア。
「でもありがとう」
にこりと笑うエスティヴィアにアキトは安堵した。
「では、一寸芸をみせましょう。ビーチボール持ってくれませんか、ウェストさん」
「けひゃひゃ、いいよう」
レインボーローズのダートのようだ。
オーバーリアクションで投げるも‥‥、ボールではなく、ウェストの付けているボルトをかすめて飛んでいき‥‥、
「やあ! 皆さんたのしんで うぼあ!」
キス☆クマ‥‥シロウの額にあった。そして、彼はオーバーリアクションでぱたりと倒れた。
「‥‥」
「戦死したねぇ」
苦笑するエスティヴィアに
「ネタ合わせ?」
「いや‥‥そうではなくて‥‥実は‥‥」
真っ赤になるアキトなのだが、
「うむ、私の素敵衣装に嫉妬ですか」
シロウが割り込んで話す。しかし、額に吸盤付レインボーローズを付けて格好を付けているので、間抜けに見える。
「ふふふ、先に吸盤とろうね。あははは」
フィアナがツボにはまってお腹を押さえていた。笑いが止まらないようだ。
「今の、ネタあわせですよ」
シロウのフォロー。
「あ、そう、そうなんです」
今度は覚醒せずもう一度やってみて、命中した。
「やあ、お久しぶりフィアナさん。そして初めまして、私は鈴葉シロウです。エスティヴィアさん」
おでこに吸盤の跡が残ったまま親指を立て、改めて挨拶する、シロウであった。
屋台の方では、守が呟いた。
「楽しそうだな‥‥」
「もう、あたし1人で出来るから、あそんでおいでー!」
楓がそう言う守をみたので、ラムネを守と海に渡して、
「いってらっしゃい。片づけにはもどってきてねー!」
と、送り出した。
「守いこ!」
「‥‥うん」
パレードを見たり、屋台を回ったりして楽しんだのであった。
その風景を、ナナヤは静かに見守っている。しかし、彼はそれなりに楽しんでいた。
他様々な人の芸、パフォーマンスをみていたり、色々なヲタク話題で盛り上がったりと、まったり、ゆったり、そして賑やかな時間を過ごし、何事も事件がなくハロウィンパレードは終了した。
●二次会へ
「いやはや、ここでも対戦なのかね?」
フィアナ達のパレードが終わったので、二次会である。
エスティヴィアとアキト、ウェストとシロウ、フィアナが〈熱血亭〉のプレイスペースにある筐体の前にいた。筐体には『魔法と少女と肉体言語』が起動している。
「我が輩もやりたいのは山々なんだが、フィアナ相手では無理だねぇ。まだノーマルしかクリアしていないのだよ」
「アラ残念」
「まあ、彼女の家のスペックも凄いからね‥‥」
エスティヴィアが遠い目をする。フィアナが一寸真っ赤になった。
「なんと! PCヲタクであるか」
魂抜けた顔になるウェスト。
「ふ、では、私が挑戦しましょう!」
シロウが、又格好良く決めるが、一瞬覚醒してクマになってしまったのでコミカルだ。
数分後‥‥。
燃え尽きたシロクマさんが、筐体のコントローラに顔を突っ伏していました。
「確か近くに良い感じのバーがあるはずなので、そこで二次会いいですか?」
アキトが誘う。
「それ、いいね」
「‥‥ふむ、酒も悪くないなぁ‥‥色々考えさせることがあってねぇ」
頭部に付けているボルトを回すウェストが言う。
「?」
皆が彼の方を向いた。
「我が輩はもう何を信じて戦えばいいか分からなくなっているよ‥‥」
どうも、人間がキメラを作っているという話を聞いたらしく、人間に対して不信感を抱いているようだ。
「場所は何処だい?」
一度生物学など関わっているエスティヴィアが、訊ねる。
「カンパネラだよ〜」
その言葉でエスティヴィアが考え、
「なら、そのカンパネラ独自の研究じゃないか? あたしの知る限りでは、人間にキメラを作る事は出来ない。捕獲された物が逃げただけとか、そういうオチじゃないか? 思い過ごしか、考え過ぎだろう」
「‥‥そうであればいいのだけどねぇ」
ウェストは苦笑する。又ボルトを回し始めた。
「ま、楽しみましょう」
「ですよ、ここは楽しくですよ」
アキトとシロウが間に入った。
「ふむ、暗い話をしてすまないねぇ。ところで、‥‥フィアナは飲める?」
ウェストがフィアナに訊ねた。
「乙女の秘密です☆」
ミズキが、イスルを待っている。
「‥‥お待たせしました‥‥」
イスルが着替え終わったようだ。
「ん、やっぱり、あのままが良かったような」
「‥‥着物は動きづらいです‥‥でも‥‥」
うつむいて真っ赤になっていく。
「赤くなるよ、かわいいやつめ」
「‥‥ミズキ姉さん‥‥、着替えなくて良いの?」
一瞬の間‥‥。
「し、しまったぁ!」
「もう何処の更衣室会場‥‥閉まっているよ?」
「うわああああ! このままラストホープに帰るの〜はずかしい!」
大阪日本橋の夜に彼女の声が木霊した。
●立つ鳥あとをにごしまくり
露店の片づけ。
朝までかかると言うこともあるのだが、早めにラストホープに戻りたい3人組は、急いでやっている。ミズキとイスルには丁寧に「気持ちだけでいいよ」と断ってからだった。
「火もとOK?」
「‥‥大丈夫はずだ」
「OKだよー」
と、3人いれば結構早く片が付くのだが‥‥。
火気厳禁である花火セットは実は熱気を帯びていた。あと、急ぎすぎたために、未だ鉄板や機材の一部が熱い。
「あ」
火絵のおしりがふと、片づけのために無造作に置いてしまった花火セットにあたってしまって‥‥未だ熱を帯びていた機材に落ちてしまう‥‥。
屋台を中心に大爆発と大音響。花火独特の『しゅぱぱぱぱぱぱ』や『しゅうううう』、『しゃああああ』と様々な音が鳴り響き、七つ以上の光が放出していく。
「に、にげろっ!」
「まて! 消化だろ! 水! 水!」
町内会や警備、消防車がきちゃって大騒ぎになった。
「全く大変な事をしてくれましたね! 弁償もしてもらいます!」
警察と町内会の代表が3人をしかりつけていた。消防が現場検証中。やはり花火が原因であった。
被害が彼女たちだけなのが幸いであった。
イスルとミズキが手伝わなくて良かったかもしれない。
●ドクターの呟き
「『地球』のためにがんばるかねぇ」
外したボルトを弄りながら、空港(高速移動艇は其処に着く)へ向かう電車に乗るウェストは誰にも聞こえないように呟きくのであった。
こうして、ハロウィンパレードは終わるのであった。