●リプレイ本文
●囮
威龍(
ga3859)が漁港を見ている。徐々に復興している様に見えるが、未だ脅威は残っていることに怒りをあらわにしていた。
「まったく、鰹ミサイルに続いて、カジキキメラか? バグアの奴は何を考えてんだ? 頭かち割って中身を見てみたいものだな」
そう、今では15mのカジキキメラが海を荒らしているのだ。
トローリング用の船が一隻、夏でも黒服に黒い帽子というUNKNOWN(
ga4276)がその船を整備している。
「ふむ、此は動くか。壊れなきゃいいのだが、ね」
「釣り上げるの?」
「ああ、キメラ退治のあとに、な」
熊谷真帆(
ga3826)の問いに黒い男は答えた。
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は、雷電の調整をすましてこう言った。
「カジキは食ったことはないな」
と。
「カジキは、偶にマグロ扱いとして出るわね。寿司とかお刺身とか」
「ほんとうか!?」
緋室 神音(
ga3576)の答えに、ホアキンは驚く。
「確かに‥‥。そうだよな。味が似ている奴があるんだろう」
南雲 莞爾(
ga4272)が同意する。
「まあ、もし釣れたら食ってみるか。漁師さんにも聞いてみよう」
「しかし、思うのだが‥‥。KVで倒したキメラは無事に食えるのか? 食ってもいいと言われてもな」
呟く莞爾だった。
水中戦経験者から様々なレクチャーをして貰い、一応掴みかけているのだが、海は侮ってはならない。ほとんどが、通常のKVに水中用キットを装着して出撃するため、御山・アキラ(
ga0532)と威龍の戦力は重要になるが、危険が伴うだろう。
トローリング船を囮にし、その前方に凹の字の陣形を組む。大体30m間隔で、しばらくは御山がUNKNOWNを普通のワイヤーロープで牽引するが、敵との遭遇時には直ぐに切り離す。
「カプロイア機種が揃うのって、珍しいと思うな」
誰かが言った。
K−111とKF−14が有るという少しレアな状態だ。
「ふ、私の『けいいちさん』は海を行くか」
UNKNOWNが機体に滑り込むようにして乗った。漆黒の『けいいちさん』だ。
全員も愛機に乗っていく。
「行きましょう。空は私に任せて下さい」
熊谷がバイパーに乗って空に向かう。敵にヘルメットワームがいる。故に空から攻撃に備えるべきなのだ。
熊谷のバイパーは、凹の字陣形の水中班の上を、円を描きながら飛んでいる。水中班と同じ速度では飛べないからだ。飛行機・戦闘機という物はそう言う物である。熊谷の監視区域は直径70〜150m前後となるだろう。
懲りない連中を倒しに、7機が沖に向かう。
●15mの脅威
空と水中でデータのやり取り、無線をチェックするために、常に声がする。
「レーダー異常なし」
「前方グリーン」
「普通のカジキの群ね、音で散らすわ」
「了解」
「海流が強いな‥‥流されるな」
「ららら〜らら〜」
「おい、UNKNOWN、口ずさむなよ」
「いいではないか‥‥ふっふっふっ」
南雲も緋室もこの男が何を考えているか分からない。いや、緊張を解きほぐすための行動とは分かっているのだが。大阪・日本橋の件で見る目が普通と違っている。
索敵を続けて30分。熊谷が目視で海面から魚影を発見する。そのシルエットは未確認生物の不気味さを漂わせ、競泳ボートさながらのスピードで、トローリング船に向かってくるのだ!
「敵影補則! 距離は30〜50! 気をつけて、ものすごいスピードよ!」
「結構近いな! って見えたが、何だありゃ!?」
威龍が驚く。
TV等で観たカジキは確かに大きい。しかし、15mという鯨級にまで達した物を実物で観てしまうと、驚く。
全員が、戦闘陣形に展開するが、相手は勢いでアキラとUNKNOWN、威龍に襲いかかってくる。
「南雲よけろ!」
「無論!」
陣形的に、UNKNOWNの後ろに南雲がいる、巨大カジキはそのまま突っ込んで、K−111とディアブロを蹂躙しようとしていた。何とか2人は操縦桿を力一杯握って、相手の突進をよける。しかし、カジキは直ぐに旋回し、また突撃しようとしていた。
「巨体な割に素早すぎる! く、上手いようにうごかない!」
幾ら水中用シミュレートしても、実践では違和感がつきまとう。
「やっかいな敵だぜ!」
威龍が、先にいる普通のカジキキメラを確認する。
横に展開する、緋室とホアキンは、その群を威嚇射撃。真ん中に誘導させるのだ。
アキラの方に突撃したカジキキメラも大きく、アキラの機体ごと10m程度自分の体ごと突き飛ばす!
「ここで、負けるわけにいかない」
冷静に(いや感情がないのだが)アキラは操縦桿を思いっきり倒し、ブレーキもかけて、これ以上飛ばされるのを防ぐ。反撃にガウスガンを撃つ。赤い壁がより一層強く現れた。ガラスが割れるように砕け散り、体に銛が命中する。赤い血が水中で吹き出し、海面に煙のように昇っていく。
「強度の強いフォースフィールドだな。タフだとおもえ」
アキラが是認に通達する。巨大化すると、こうした物も強化されているようだ。
「一番二番、魚雷発射!」
神音のディアブロがゆっくりと向きを変え、UNKNOWNと南雲に襲いかかっている巨大カジキに魚雷を発射するが、巨体と思えぬスピードでかわされてしまう。
「っく、外した!」
「やってくれる、な。キメラ!」
UNKNOWNのK−111と南雲のディアブロは、機体から泡をだしながら少しだけ離れ、突撃してきた巨大カジキガウスガンで応戦。一方、ホアキンは、もうカジキ群に魚雷を放つ。水煙の中、何匹かが爆発したようだ。
さらに一匹の巨大カジキが、UNKNOWNに噛み付いた。
「うお!」
K−111はカジキに噛まれた場所からオイルが漏れる。不幸中の幸いにコクピットは無事である。助けに入る南雲のディアブロも、別の巨大キメラの尾ビレの攻撃で吹き飛ばされるた。
「南雲!」
神音が叫んだ。
「大丈夫だ! 堪えてみせる!」
操縦桿を強く握りとブレーキを思いっきり踏む、衝撃の苦痛はまだのこるものの、機体は安定したようだ。
「邪魔だ! どけ!」
南雲は、人型に変形しレーザークロウで切り裂くため近寄る。見事にカジキキメラを捕らえ、フォースフィールドごと頭部をえぐりとった。キメラは死亡し、海に沈んでいく。
「一頭撃破‥‥」
次の援護に向かう。UNKNOWNのK−111が苦戦しているのだ。
「神音! 助け出すぞ」
「わかった!」
巨大カジキに食われて身動きが出来なくなったUNKNOWNを助けるために動く。
「アグレッシブフォース!」
「――アイテール【アグレッシブフォース】起動‥‥ここで墜ちなさい!」
2人の渾身のダブル攻撃で、巨大キメラの吻と胴を切り裂く。そこでK−111は自由となった。
「UNKNOWNは! 一旦退け!」
「‥‥悪いがそうする」
イヤな汗をかいているUNKNOWNは、ブーストさせ戦線から距離をとった。
威龍とアキラも、他の巨大カジキに苦戦を強いられていた。
威龍は、変形してから水中用ディフェンダーで斬り、確実に相手を弱らせている。しかし、巨大なために吹き飛ばされたり、噛まれてしまったり負傷するが、上手く立ち回っていた。
アキラもキングフィッシャーで確実にダメージを与えていく。しかし、物は海の生物であるカジキキメラ故に若干押され気味であった。
「これでどうだ!」
威龍のテンタクルス改が、水中用ディフェンダーでカジキを仕留める。
同時に緋室と南雲の連携で、一番先頭にいた、カジキキメラを粉砕した。血の海となるので視界不良になった。
ホアキンはアクチュレーターを駆使し、キメラをよけて確実にレーザークロウで普通のカジキの大きさであるキメラを屠っていく。
水中船は徐々に彼らの流れになり、確実に、1頭ずつキメラを屠っていった。
●海上空戦
海面から赤い物と黒い物、そして泡がみえるなか、パイパーに乗っている熊谷は、別の存在を確認した。およそ300先か、小型ヘルメットワームである。
「あれですか! お仕置きしなくてはいけません!」
先に向こうがプロトン砲の大きな光を放つ。熊谷は操縦桿を右に倒して回避、衝撃だけが身に響く。
「8連螺旋弾頭、ホーミングミサイル発射!」
反撃にミサイルを発射するが、ヘルメットワームは真上に飛んでかわす。
「いつも不可思議な動きで!」
しかし、操縦桿を下にし、上昇、接近し3.2cmレーザー砲とヘビーガトリング砲の射程内に入った。
「くらえ!」
ヘビーガトリングとの同時。ヘルメットワームは被弾したが、垂直横に逃げる。
旋回するように操縦桿を動かした追いつめようとする熊谷。距離を取りつつ、攻撃しようとするワームの追いかけっこが続く。タキオン砲やプロトン砲が吼える中でも、彼女は懸命に回避する。
しかし、何発目かのヘルメットワームの攻撃が、彼女のバイパーに命中する。
「きゃあああ!」
きりもみで墜ちそうになるところ直ぐに、操縦桿を強く引き、機器を安定させるために操作する。危うく、海面に激突というすれすれで安定した。海面は波立てて、バイパーは上昇する。
「あぶなかった、このお!」
彼女は接近する。リロードの隙を出さすに、ヘビーガトリングと高分子レーザーで反撃をする。ヘルメットワームから出た電撃の玉も回避し、休まず撃つ。
「此で終わりだ!」
空戦スタビライザーを起動して、フルバーストをし、ヘルメットワームを粉砕した。
煙をあげながら、海面に墜ちて爆発するヘルメットワームを確認しながら、無線が大丈夫か確認する。
「電波良好‥‥。大丈夫?」
ぐるぐる、回りながら、水中班に連絡を取る。
『‥‥ああ、カジキは倒した』
『大丈夫だぜ? しかしな‥‥』
ホアキンや威龍が返答する。
海面から浮かんでくる水中班のKV達と‥‥、なんだかよく分からない肉片だ。
「? ああ、そうね」
巨大のカジキは浮かんでいるのは2頭。どれも此も傷だらけで、いびつで既にカジキとは言えない姿となっていた。先述したようになんだかよく分からない肉片である。南雲と緋室の倒したカジキキメラに至っては、肉片どころじゃないレベルだったため、跡形もない。
「食べても良いとは聞いているが、どうやって料理するんだ?」
彼は、四散している、肉片を眺めて呟いたのであった。
●バカンス。
戦いが終わってから。
「では、もし肌を焼きたいというなら、私が君たちの背中にサンオイルを‥‥いや何でもない」
黒い男は、女性陣にジト目で見られ、殺気をかんじて距離を置いた。
「大阪・日本橋でやったあなたに、触られたくない。このセクハラ男」
神音は青筋を立てて、言った。
「ふ、冗談が通じないな、神音」
微笑む黒い男。しかし、笑っているのかよく分からない。
「よるな! 神音に触るな」
南雲が割って入る。この人も、彼の犯行を見た人だ。
「何をコントしているんだ」
ホアキンがため息を吐いた。
高速移動艇がこちらに来るのは明日か明後日らしい。なら時間があるのだから、バカンスをすることになった。南紀白浜にきて遊ばないのはもったいない。カジキキメラ騒動で、魚の出が悪い。が、レジャーで釣り上げる分には問題はないだろう。さらに(南紀白浜では元々なのだが)少ないクラゲが更に少なくなっていた。
「泳げるのは確かだな」
普通のカジキも戻ってきているようだし、遊ぼうではないかと。
ホアキンはカジキの塩焼きをする。残ったカジキの形はいびつだったが、食えないことはない。
「筋張ってはいるが美味だな」
威龍が言う。
「おいおい、塩焼きにマヨネーズかけるなよ」
「私まよらーだから、こだわりあんるんですよ!」
漁師さんから色々調理方法を聞きながらバーベキュー。香草焼きもあり、一寸贅沢じゃないかという状態だった。
そして次の日は、トローリング船でUNKNOWNは、昼寝をしながらヒットするのを待つ。
アタリが来たので釣り上げてみたら、50cmはするぐらいの大タコだった。
「カジキを期待していたのに、な」
彼の言葉に怒ったタコはUNKNOWNの顔に、墨を吹きかけた。
それをみた全員は大笑いしたのであった。