タイトル:アヴェンジャーマスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/16 16:25

●オープニング本文


 親がキメラに殺された。恋人も。
 胸にかかっているロケットは、愛する人の写真。
 そして、奴らを倒すためいつも戦う。
 しかし、彼奴が見つからない。大事なやつを殺した……キメラ。
 眠っているのか? それとも誰かが殺したのか?
 フィスト・ザ・アヴェンジャーは、今日もキメラを殺す。
 英雄になるわけでもなく、ただ、復讐のために。
 人生を狂わせた、彼奴らのために。

 一つの仕事が来る。キメラを殺すことだ。
 その情報で、彼は、笑った。
「やっと、やっと見つけた。俺の人生を狂わせた、彼奴が!」
 歓喜にうちふるえている。
 その、興奮を抑え、着々と準備するフィスト。

 そのキメラは、まだ人が住んでいる、辺鄙なところを彷徨い襲っている。神出鬼没のキメラと噂されているのだ。
 一人でキメラと戦うことなんてムリ。
 ラストホープにも、このキメラ退治の依頼が来ているのは、言うまでもなかった。
「おそらく、あれを追い続けている能力者か先行している。彼を見つけて協力し、一緒にキメラを叩く方が良いだろう。これ以上、惨劇や悲劇を生み出さないために」
 かなり大きい村。繁栄が続けば、都市になるぐらいの‥‥。今は人々が怯え、その村の大きな建物にそのキメラは周りを見ていた。そう、次の獲物を食らうために。
「‥‥ギギギ‥‥」

●参加者一覧

シズマ・オルフール(ga0305
24歳・♂・GP
ヒカル・スローター(ga0535
15歳・♀・JG
ベル(ga0924
18歳・♂・JG
斗羽(ga1470
16歳・♀・FT
武田大地(ga2276
23歳・♂・ST
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
十六夜 紅葉(ga2963
10歳・♀・SN
レイニー・フォリュオン(ga3124
15歳・♀・SN

●リプレイ本文

●復讐者●
 フィストは、この町にいる敵を追っていた。既に緊急事態宣言が出され人々は避難している。彼は、歩き出した。
 目指すは、あの一番高いビル‥‥。あそこがおそらく彼奴の根城だと思い。

●傭兵達●
 会議室。
 漸 王零(ga2930)は地図と無線機を会議テーブルの上に置く。
「まずは、どうやるか考えましょう」
 と、言って。
「猿みたいなキメラって報告だったか? 猿みたいなやつと戦うのは二度目だな」
 シズマ・オルフール(ga0305)が、参加メンバーの前で言った。
「なら、対策が分かるちゅーんかい?」
 武田大地(ga2276)がシズマに尋ねる。
「しかし、千差万別だ、俺が戦っていたやつと同じとはかぎらねぇ。気を引き締める必要はあるな」
 つまり、一定の能力はあっても、何か隠し球があるのではという危機感だ。
「ま、そういうことなら、参考適度しかならんか。サンプルでもありゃ、解るって物だ」
 武田は肩をすくめた。
「ま、説得の方は任せた。ぐだぐだ言う場合、俺が殴る」
 シズマの答えはシンプルであった。
「それは私も賛同だ。あまり期待していない。共闘できることならいいけどな」
 ヒカル・スローター(ga0535)もその方向らしい。
 復讐鬼という物は頑固なものだ。言うことを聞かない。エミタを取り付けた為にその感情簿起伏が激しいという可能性がある。
「悲しい、事いっぱい。心の闇は分かるよ‥‥言葉に出来ないけど」
 斗羽(ga1470)はつぶやいていた。
 隣にいたベル(ga0924)が、それを聞き取っていた。
「大丈夫?」
 ベルが尋ねる。
「え? うん、大丈夫。でも、えっと‥‥」
 何か言いたかったようだが、
「悲しいこと止めよう」
「うん」
 歳が近いためか、何となく共感しているようである。いや、過去に同じような体験をしているからこそ感じ取れるものがあるのだ。
 心の闇を払うのは、難しい。凝り固まった考えを解きほぐすには何が必要なのか。それは、人それぞれの心の強さにある。それは、この時代を生きている人間において最も重要なことだった。
「まずは大きな街なのです。紅葉は班分けしたいとおもいます」
 十六夜 紅葉(ga2963)が言った。
「無線機は全員持っておくことにして、班分けはバランス良くが良いでしょう。相手は素早いと聞きますから、足止め役などは考えませんと」
 レイニー・フォリュオン(ga3124)が案を出してきた。
 そして、班分けもすすみ、状況によって最終的には合流し敵をたたくことに落ち着いていた。あえて、フィストを説得することにとやかく言うことはこの際しなかった。本人に会うまでは、対策も練ること出来ない。自分たちはカウンセラーでも何でもなく、エミタを身につけた、戦士なのだから。


●町●
「人っ子1人いねぇ」
 シズマはゴーストタウンのように静まりかえった町を見ていた。
「普通の人はキメラに太刀打ちできないことが、この風景を見て思い知らされます」
 シズマと斗羽、十六夜、ヒカルは北の方から、漸とベル、レイニー、武田は南から、探索を開始した。
「メインストリートに跡があるな。これは、ただキメラが暴れただけみたいだ」
 と、お互い逐一報告して跡を追う。
 
 シズマは、この人通りのない道に1人の男を見つけた。
「? この状況で、一人歩きは怪しいな」
 と言う。
 よく見ると、顔に特徴的な傷がある。写真も見たらおそらく、彼がフィスト・ザ・アヴェンジャーなのだろう。
「ちょっと、まった。フィスト! あんたフィストだろ?」
「?」
 サングラスをかけた男だった。
「なんだ? 私と同じ能力者か? 私は今忙しい。やっと見つけたのだ」
「そういうな。まだ時間もある」
「‥‥用件は?」
 フィストが尋ねると、シズマではなくヒカルが
「私たちもここに棲むキメラを追ってきた。できれば手伝いたい。いいですか?」
 と、訊く。
 フィストは、渋い顔をするが、レイニーの姿を見ると、背を背ける。
「若いのに‥‥こんなところにいるとはな」
 背中が悲しく感じる。
「ああ、いい。私1人でも‥‥倒せるかわからん」
 意外に話が分かる人間であった。
「こちらシグマ、フィスト発見。まず合流しよう」
 シズマは一寸拍子抜けするのだが、おそらく、レイニーを見てからの反応が変わった事に、意味があるのだと想うだけにした。それは一緒にいる、十六夜もヒカルも考えていたことだ。


●不意打ち!●
 いったん全員は合流する。
「あんたが追っている敵について知っている事を教えてくれ?」
「猿が凶暴化した物だ。怪力を使い、それに似合わないスピードを誇る。接近戦は難しいだろう」
「む。良く追いかけていたな」
「敵だからな」
 と、話は続いていた。
「ただ、やつには癖がある。獲物を狙うには、まずどこに向かうかわかるか?」
 フィストは全員に尋ねる。
「‥‥、まさか高いところ?」
 スナイパー陣が答えた。
「ああ。そこを根城にして上から見下ろす。そういう癖を持っている。上に気をつけろ」
「ところで、依頼には書いていないが、数はわかるのか?」
「私は一匹だけしかみていなかった。数匹いるかもしれないが、それはわからん。群れをなしている可能性もあるが‥‥」
 情報を聞いて、共に行動する事になる。
 ゴタゴタがあると思ったのだが、執着があるのかよく分からなかった。
「比較的冷静なのか、もう諦めかけているのかわからなくなったな」
「しかし、復讐をしようと言う意志は変わってない。微妙なところで理性を持っているのかもな」
 と、小声で話し合う。

 警戒を怠らず、この町の一番高い建物まで近づく。そこは、かなり荒れ果てていた。
「これはひでぇ」
 まだ、血痕や瓦礫がある。狩りの跡だろう。
「近くにいる」
「気をつけろ」
 20m先に何か影が見えた。
「そこか!」
 フィストが走り出す。既に覚醒し、赤髪の怒髪天になっていた。
「まて! おいおい! 落ち着いた態度が一変するって!」
「困ったな。ベル、ヒカル、レイニー援護射撃。武田は状況見て治癒たのむ!」
 シズマが指揮を執って、漸と斗羽はフィストを追いかけようとする。
「うらああ!」
 覚醒して、乱暴な口調となる斗羽。
 しかし、キメラは素早く身をかわす。
 シズマも漸も己の武器で猿を攻撃するが、あまり傷を負ってないように見える。
「!? 後ろ!」
 ベルが、叫んでとっさにフォルトゥナ・マヨールーで撃つ! 後ろから何かが襲ってきたのだ!
 それは傷を負って、すぐに逃げる。
「逃がした!」
 舌打ちする。
「二匹ですか?」
「うっ! 三匹です!」
 十六夜が、別の方向から向かってくるキメラに襲われかける。
 フィストが集中している相手の他に、もう二匹いる!
「どれが、群れのボスなんだよ!」
「どのみち殲滅だ!」
 不意打ちしてきた2匹のうちもすぐに合流し、フィスト、シズマ、漸にそれぞれ襲いかかってきた。
「く!」
「素早い!」
「足止めする!」
 十六夜、ベル、レイニーの援護射撃や前衛の攻撃が続く中、
「これで、止め!」
 ベルがフォルトゥナ・マヨールーで、キメラの頭を打ち抜いた!
「GJ!」
 シズマ達が、親指を立てて言った。
 危機を感じたのか、残り二匹は、散会し、姿を消した。逃げたのである。
「逃げ足も早いな!」
「すまない。あまり援護できなくて」
「なに、ある程度傷を負わせている。跡を追えるぐらいは弱くなっているだろう」
 さて、これからどうするべきか。
 まず、フィストの状態は‥‥、怒髪天のまま、声にならない怒号を発して、数秒には元に戻っていた。
「‥‥また、逃げられた。まだ追わないと」
 よく見るとフラフラであった。
「おい、その体で行けるのか?」
 怪我ではない、これは精神的な疲労だ。眠っていないのだろうか? 気力でまだ動いているにすぎない。
 どれだけ、追っていたのか‥‥。
「壊れてしまう‥‥」
 斗羽はつぶやいた。
「まって、フィストさん」
「追わないと行けない」
「休憩しよう。フィストさん」
 その言葉に、フィストは止まった。
「‥‥ああ、分かった。そうしよう」
 と、壁にもたれると、フィストは気を失うように‥‥、眠った。

●決戦前●
「不眠不休で追いかけていたのか?」
 シズマが呆れた声で言った。
「それにしても、聞き分けが良かった気もするが」
 ヒカルが首をかしげている。
「エミタの影響じゃないだろうか?」
 漸が推測する。
「ああ、なるほど」
 エミタ自体が、色々衝動的な物に変わる。それで激怒するというなら納得が出来る。疲労の所為で、長時間覚醒は出来ないようだ。
「このまま戻って、っていうのもフィストは聞かないだろう。一緒に叩く方がいいな」
 ヒカルが苦い顔をして言う。
 今のところ自分たちは疲労していない、武田がいまフィストを治療している。起きあがればまた動けるだろう。
「あ、私は‥‥?」
「目覚めたか、戦いが終わったときに死んだように寝てたぜ」
 武田が答える。
「動けますか?」
 斗羽が尋ねた。
「‥‥ああ、迷惑かけた」
「迷惑と思うならつっこまないで欲しい物だ」
 ヒカルがきっぱりという。
「‥‥」
 フィストは何も言えなかった。
「そんなひどいこと言っちゃダメだよ〜」
 十六夜が間にはいる。
「逃げたけど跡は追えるから、敵討ちいこう」
 と、ベル、斗羽が言う。
 キメラを倒す共通任務があるのだ。

●決戦●
 血の跡を追えば、別の建物の中に入っている事が分かった。
「中に隠れてまた不意打ちで、攻めてくるのか」
「やっかいだ」
 気をつけろ。と確認し、中にはっいていく。ドアを蹴り、銃を構え、周辺を見るように。
 スーパーの廃墟のようになっている。パニックか何かで、物が持ち去られている跡も残っている。
 上下左右、安全を確認すると、中に入っていった。もちろん、裏口や、窓からも、
 死角から、キメラが襲ってくる!
 しかし、全員が警戒して不意打ちは免れる!
「私に喧嘩売る何か一億年はやいんだよ!」
 斗羽の筋肉が盛り上がり、武器も仄かに光る。そして、強烈な一撃を見舞った!
 それでキメラは吹き飛び、フィストの前で転がるが、受け身を取ってすぐに戦えるようになっていた。
「うおおお!」
 彼はバーサーク覚醒する。しかし、その雰囲気は、先ほどより違う。
「ベル! あぶない!」
 斗羽が、ベルを向いて叫ぶ。
「うあ!」
 ベルの真後ろに隠れていたキメラが襲ってきたのだ。
 体を丸めて、転がり、そのまま棚の商品の下敷きになるベル。怪我をしたようである。
 それをみたシズマが、赤い髪をなびかせ、瞬天速よりキメラとの間合いを詰め、思いっきりキメラを蹴り倒した。
 ボコっ!
 妙な声を出した後、胴体に穴が開く。
「!?」
 シズマは後ろを見ると、ベルが反撃していたのだった。フォルトゥナ・マヨールーで。
「ふー。倒せた」
「‥‥うまいところ持っていくな」
 良く動けた物だと感心するしかない。
 そして、フィストと残りのメンバーが最後のキメラを倒し、町の驚異を取り払ったのだった。


●新たなる道●
 覚醒を解いた斗羽は、足下をみる。ロケットが落ちていた。
「フィストさん」
「なんだ?」
「これ」
 ロケットを渡した。
「ありがとう。落としてしまうとは‥‥。大事な物なんだ」
 感謝し受け取る。
「あの、フィストさん」
「なんだね?」
 すべてが終わった彼の言葉はとても穏やかだった。
 今のフィストは、27歳に思えないほど窶れている。どれほど苦悩していたか誰でも分かった。さすがに、ここで辛らつな言葉は投げられない。
「これからは、自分のために生きてください」
「‥‥」
 その言葉に、フィストは黙っていた。いや、答えられなかった。
「フィストさん?」
 体を揺する。
「どうした?」
 治療を終え、皆が集まる。
「立ったまま、気を失ってる‥‥」
 その顔は、何もかも終わった顔だった。

 病院。
 廃人のようになっていたフィスト。ずっと戦い続けていたか、目標を失った為か、理由は今でも分からない。やり遂げた達成感の先にあったのは虚しさだけだったなら、それほど悲しいことはない。
 ただ、彼は失いかけた意識の中で‥‥彼らの声を聞いていた。
「大事なのは過去じゃなくて今でしょう? 失う悲しさを増やさないためにも前に進むべきです」
「確かに汝の思いなど我にはわからん。しかし、前を向いて生きていくことを願う。新たな仲間として、な」
「この力は復讐のためではなく、守るためにあるのですから」
「また新たな道を見つけられればいいが。今は休む方が良いのだろう」
 と、いう言葉。
 過去が夢で現れる。そして、自分は何を得たのか夢で考えた。
 彼は起きた。
 医者や看護士は驚きあわてている中、彼はずっと愛用していた爪を弄っていた。
 見舞いに来ていた、斗羽が目を丸くしていた。
「目を覚ましたのですか?」
「ああ、長い‥‥旅をしていた気分だ」
「これからは?」
「自分のために生きる。しかし」
「しかし?」
「私や君たちと同じ悲しい人のために、戦うよ。でも、深追いはしない。それは約束する」
「よかった、です」
 と、フィストは笑っていた。

 二人で見る空は、とても綺麗で青かった。

END