●リプレイ本文
●開場
石動 小夜子(
ga0121)は、フィアナのミニコンサート周辺の警備をしている。巫女装束に警備のクリムゾンレッド腕章をつけ、不審者が居ないか、もしくは問題はないか目を光らせていた。
彼女は欠伸をかみ殺す。
前夜まで、様々な打ち合わせもあるので、かなり寝不足になる。しかし、気合いで何とか押さえ込む。
「かなり、厳しい所ですね」
炎天下の中、良くここまで人が集まると思う小夜子。2〜4号館がコの字になっているため(1号館はせり出しているので実際は列用会館になる)、中央が広場になっているアスタリスク大阪。開場と共に、一気に其処が人だかりになった程だ。
小さな、最上 憐(
gb0002)が必死に列整理している。
「‥‥ん。何か。凄い。気迫が漂ってる。油断しない様にする」
とは、打ち合わせ時に言ってはいたが‥‥、いざ本番になると、圧倒されるのだ。
「‥‥ん。開場ダッシュは危険。禁‥‥きゃあああああ!」
言い終わる前に、欲望の塊となったヲタク達の蹂躙。流石に感情表現が控えめの憐も悲鳴を上げて‥‥流されていってった。プラカードを持っていても効果がなかったほどかもしれない。
「ゴスロリコスの女の子、はぁはぁ」
危ない声も聞こえている気がする。
持ち上げられて、ダイブ→連行状態の憐。浮遊感と恐怖が彼女を襲い泣きそうになるが、不意に別の方に引っ張られた。
「ほむ、大変なのですネ」
「大丈夫ですか? 憐さん」
連を助けたのは、黒髪になった赤霧・連(
ga0668)とアキト=柿崎(
ga7330)だった。覚醒して助け出したのだ。
「‥‥ん。ありがと。‥‥一般参加の人に助けて貰うのは、逆な気がする」
ションボリな憐。
「どんまいなのですヨ」
連は、微笑んで憐の頭を撫でた。そして、連は直ぐに覚醒を解き、少し離れた場所に避難する。
「さて、私はコスプレ登録を済ませていきますね」
アキトは一度離れることにした。
稲葉 徹二(
ga0163)は、ペットボトルで水を飲んでいた。トランシーバーから様々な情報が聞こえるが、今のところ問題はない。このコンクリートジャングルに集まる、この祭典を警備していた。
「暑いであります‥‥」
「全くだ‥‥、相乗効果を起こしている」
南雲 莞爾(
ga4272)も頷く。
今のところ、電波障害情報はなく、キメラが入ってきていることはなさそうだが油断は禁物だ。
『こちらホアキン。2号館異常なし』
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)の無線。
『スタッフの最上さんがモブに巻き込まれましたが、能力者の一般参加者に救い出されました』
別の警備からの連絡。
「‥‥」
その連絡で、徹二も莞爾も、小夜子もイヤな汗を掻く。能力者も巻き込むモブの力は恐ろしいものだった。それに、中に能力者が居ることも加味すると‥‥余計である。
●コスプレ
女堂万梨(
gb0287)のコスプレは少し目を見張る物であるが、目のやりどころに問題が生じる、と言うわけでもない程度の物である。女性格闘家の姿でコスプレ広場を歩いていく。
「色々ありますね」
コスプレ事情に疎くなっていた彼女は少し物見遊山になっていた。
「‥‥ん。凄く。不思議な所。混沌としてる」
憐も暇を見て、ここにいた。そう、ミニコンサートまで時間があるからだ。
「? 興味‥‥有るの」
「‥‥ん。ある」
2人はなんとなく一緒に歩いては、見物する。
「‥‥ん。魔法使い。宇宙人。ロボット。巫女。‥統一性が無い」
「ジャンル分け‥‥されている事じゃないですから‥‥」
感情を顔に出さないが、憐は興味をもって見ていた。
万梨はカメ子に頼まれ、被写体になり、一寸手が離せなくなっていく。
「‥‥ん。郵便ポスト。飛行機。テレビ。‥‥こすぷれじゃなくなってる気がする」
生き物以外のコスプレもあったので驚愕している(ようだ)。
「ファントム仮面が居るぞ!」
かつて大阪日本橋で局地的に話題となったファントム仮面がここにいると騒ぐ人。
「‥‥ん。これは‥‥混雑の予感」
「‥‥こ、こまりましたね」
ファントム仮面こと、アキトは、カプロイア伯爵のマント、レインボーローズを身につけ、颯爽と歩いていた。
「ファントム仮面! あのときお姫様抱っこしていた女性は誰?」
「こいびと?」
「カプロイア伯爵様のコスプレ!? 写真撮らせて!」
「鬼畜眼鏡という萌えシチュもあるよね」
なぜか人が集まってきてしまい、アキト自身は戸惑いを隠せない。
「‥‥ん。質問は順番に。‥‥ん。ファントム仮面こまってる」
「迷惑になるので固まらないでください〜」
ファントム仮面を知っている人は実は最初に騒いだごく一部だけだが、「人だかりではグッズが配布されているかもしれない」という、レアな配布物を求めるコミレザ独特の集団心理が働いてしまったのだ。
憐とアキトが説明すると、レアグッズの配布ではないと分かった集団は、程なくあっさり解散していった。
「ふう、大変でした‥‥」
汗を拭くアキト。未だ会場を回りきっていないので、同人販売スペースに移動する。
コスプレ会場ではそれほど、問題なく時が過ぎ‥‥。
『1時にフィアナ・ローデンコンサートが行われます。券を持って並んで下さい‥‥』
「‥‥ん。時間」
憐は、とことこと持ち場に向かうことにした。
●コンサート会場入り口。
通常警備の人も超警備の人も、ごった返す行列の整理に苦労している。
「ああ、こっちで走らないで!」
「ちゃんと券を見せて!」
「なにい、迷子だって? 親御さんは!?」
ホアキンも莞爾も徹二もへろへろだ。
小夜子も巫女服を脱ぎ捨てたいぐらい暑いと感じている。しかし、大和撫子なので、思うだけで止めている。
「一気に暴動レベルじゃないか?」
莞爾は苦笑する。
「こういう状態で、キメラが来たら大変であります」
徹二が辺りを警戒する。
「憐さんですネ。お疲れさまですよ」
連がまた憐をみつけていた。
「‥‥ん。しっかり並ぶ」
「はいな」
「‥‥ん。フィアナ逃げない。大丈夫」
何回か、フィアナ関連で列整理をしているため、手慣れた憐。
これと言って問題はなかったようである。
●災難は忘れた頃に‥‥
ホアキンは別の方に巡回をしている。裏の運送スペースである。
「なんだ? このトラックは?」
見慣れない、運送コンテナ付きトラック数台。牛印だった。
なにやら中でごとごと音がする。
「不審トラックが入っている中をあけ‥‥ぎゃああ!」
直ぐに能力者の警備班を呼ぼうとしたが、トラックの荷台が一気に開け放たれた!
「めいどすわあん!」
「みこすわあん!」
「ふぃあなたんはぁはぁ!」
噂に聞こえる人面牛が数頭、コスプレ会場とフィアナのコンサート会場にむかってくる!
「くそ! スクランブルだ!」
ホアキンは牛の蹄まみれでも起きあがり、製図入れから剣を取り出す。そして急いで追いかけていく。
直ぐに対応したのは、連に憐、莞爾、徹二。そして、小夜子だ。
「‥‥ん。牛‥‥カレーの具。でも、人の顔が気持ち悪い」
憐はタバールを持ち出して、走る。
「いくぞ!」
まだ、牛たちはコンサート会場に入っていない。それまでに倒さないとならない!
「闘牛士を舐めるな!」
牛一頭に追いついたホアキンは華麗な剣捌きで屠った。称号は伊達ではないのだ。
「めいどすわああん!」
断末魔が怖い。気持ち悪い。
連はスカートの中に隠していた真デヴァステイターを直ぐに取り出し撃つ。そこで一頭沈黙。さらに徹二のエネルギーガンが又一頭を仕留めた。
「ふぃあなたんはぁはぁ」
「キメラが、キメラがそう言うのは許せない!」
連は怒り、銃をリロードし、また人面牛キメラを屠った。
未だ何頭か居るようだが、一瞬のことなので確実な頭数は分からない。
「まず、並んでいる人に危害が加わらないようにしないとな!」
莞爾が瞬天速から、一気に牛にまたがって、月詠の一閃で態勢を崩させた。直後にブラッディローズを人面牛の口にぶちかますのであった。
しかし声にならない声で叫ぶので余計に気持ち悪い。
「フィアナの方には危害は?」
ホアキンが奥の方にいるガード担当に連絡する。
「そうか、うん、わかった。‥‥大丈夫だそうだ」
何頭か楽屋に入ってきたようだが、退治に成功したようである。
30分の遅れをお詫びするアナウンスの後‥‥、問題なくフィアナのコンサートが開かれた。
ステージでは、フィアナがマイクを持って、まずはお詫びのトークだった。
「皆さん一寸遅れてしまいました。ごめんなさい。でもその分、思いっきり歌いますね!」
歓声が上がる。
「きゃっほう! わふー!」
連は覚醒を解いて、ファンとして楽しんでいた。別の所で最上と小夜子もフィアナのコンサートを眺めていた。
「フィアナのコンサート、はじまったじゃないの! 30分遅れだけど」
エスティヴィア(gz0070)がアキトを引っ張って、走る。
「売り子も頼んで、付き合えッってこのことですか?」
「本もチケットもあげたでしょ!」
「いえ、まあ、そうですが!」
ゴスロリのエスティヴィアが間に合うのかと必死になっている。
アキトは、彼女のスペースで売り子をさせられたあげくに、こうしてエスティヴィアのつき合いに巻き込まれている様子であった。
ちなみに、今はコアーが店番をしている。
「はい、1000クレジットになります‥‥。ありがとうございました」
物がはけて、売り切れと看板を置いてから、一言。
「はぁ、私も行きたかった‥‥」
●コミレザが終わって
スタッフと警備系の軽い打ち上げ会が行われると言うことで、莞爾や徹二、小夜子と憐にホアキンはそちらに向かった。落ち着くような打ち上げ会ではなく、今回のイベントが有る程度無事に終わったことと余韻、普通に参加できなかった事での憂さ晴らしのような、混沌とした打ち上げである。
莞爾にすれば、こういう騒がしい事は苦手なのだが、スタッフ取り置きの同人誌を貰った時、何気なしにぱらぱらめくって、吹き出してしまった。
「何か当たりでもあったか?」
「いや、なんでもない!」
赤面する莞爾。
「君はメイド萌えとみたであります! たぶん」
「ちがう!」
手渡しで今回の依頼料を受け取ったし、この宴会騒ぎで戦闘の疲れは癒されたのであったわけで結果オーライだろう。
連、アキト、万梨は一般なので、直ぐに帰っていく。アキトだけはエスティヴィアの手伝いでべつのほうに飲みに向かうことになったようだ。
「たのしかったですネ!」
連は、未だ余韻に浸っていた。
フィアナと直に話せなかったのは残念だったが。いつか又じっくりお話しできればと彼女は思った。
熱い戦いは終わった。しかし、ヲタク達の熱い戦いはまだまだ続くだろう。