タイトル:狙われる歌手マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/17 05:04

●オープニング本文


 ローデン事務所のファクスに怪文書が届いた。
『今すぐ歌を歌うのを止めろ。そうすれば命は助かる』
 脅迫文。
 スタッフ達は、青ざめていた。
 フィアナ・ローデン(gz0020)はそれをみて、ため息を吐く。
 手紙でもこういう物は貰っているため、本来なら大したことはないのだが、このごろラスト・ホープ外に出かけると、何者かに視られているような気がしてならなかった。
「これは、色々知れ渡っているからでは?」
「夏には、大きな所でやりたかったのに」
 スタッフ会議では、自粛しようという声も挙がっている。
「これぐらいのことで、めげては行けません。今回の慰問は決行します」
「‥‥しかし‥‥。わかったフィアナ‥‥。貴方はお母さんに似て頑固だったな」

 今回の慰問。競合区域の境界線に出来た難民キャンプだ。もし、彼女が歌えば、そこの人達は勇気が出るであろう。何かのきっかけが有れば、人は動ける。そして、フィアナは決して、諦めないのだ。
 そこには病院もあり、医師も不足しているという。音響機器などはほとんど持っていかない。その分、物資を詰め込んで行くのだと言うのだ。
「あたしは、木箱の上がステージでも歌います」
 と、フィアナは言うのだ。
 何かに監視されている中、彼女は慰問を続ける。決して挫けてはいけないのだ。相手が何者であっても。
「絶対、あたしは‥‥。こんな物で負けない」
 と、怪文書を握りしめた。


 ある日のフィアナを応援する、ボランティアからなる現地スタッフの事務所のひとつに、小包が届けられる。
「フィアナさん宛?」
「本人が来るまで開けない方が良いだろうか?」
「いや、このところ用心しないと行けない。フィアナさんには申し訳ないが、中身を確認しよう」
 現地スタッフが小包を開ける。
 開けると同時に、その事務所は爆発炎上してしまった‥‥。

 此処まで来ると、脅迫が激化する中でも、フィアナもスタッフも、慰問に行くことを決意していた。
「これは、嫌がらせではない。完全な脅し。しかしそれに屈しては行けない」
 犯人は一体誰か? 
 いや、それは二の次だ。
 今はフィアナを守り、彼女の想いを届けるために、慰問地に向かうのだ。

 この話を噂などやニュースなど聞いて、貴方は自らフィアナの護衛をかってでるのであった。

●参加者一覧

ベル(ga0924
18歳・♂・JG
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
皐月・B・マイア(ga5514
20歳・♀・FC
夜柴 歩(ga6172
13歳・♀・FT
旭(ga6764
26歳・♂・AA
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF

●リプレイ本文

●狙われる謎
 フィアナ・ローデン(gz0020)の事件を知り、急いで駆けつけた者達は今移動高速艇を背にフィアナとスタッフと共にいる。ジーザリオやバイクを搬入し、物資も移動高速艇に積んでいる間、フィアナを心配していた。
「フィアナ殿‥‥以前は‥‥いや、何でもない。大丈夫、きっと護ってみせるから」
 皐月・B・マイア(ga5514)が、少し遠慮気味に言葉を出してから、はっきりと誓いを立てる。其処には彼女の不安もあったようだ。
「ありがとう、マイア」
 フィアナは彼女を強く抱きしめる。温かかった。しかし、フィアナは震えている事に気付くマイアは、寛恕の背中をなでた。何があっても、自分の『何か』が失っても守るとマイアは誓う。
「このコースで、先行班が警戒に当たって慎重に向かいましょう」
「先行班の俺たちでしっかり守るよ」
 木場・純平(ga3277)がロードマップを広げて、ベル(ga0924)、小鳥遊神楽(ga3319)、鳥飼夕貴(ga4123)がコースを考える。最終的に先行班がその場の決めるのだが、打ち合わせ通りに難民キャンプまで向かうためには慎重にならなければならない。今回は確実にフィアナが狙われているのだ。何処でどうなるか分からない。
「ふん、こそこそと姑息な奴らめ。根性が腐っておるな」
 夜柴 歩(ga6172)が自分の背丈とほぼ同じ大きさのコンユンクシオを布で包んで、今回の事件に怒りをあらわにしていた。
 作戦の再確認が終わり、高速移動艇に乗り込む前に、ベルがフィアナを呼び止める。
「‥‥これ、お守りです‥‥」
 フリージアを渡した。
「これは?」
 本物の銃を渡されて驚くフィアナだが、
「‥‥弾は入っていません。あなたに、人を撃たせたくはないです」
 ベルは真剣に答えた。
 フィアナはフリージアを大事に受け取って、うなずき、握手をする。
「‥‥この約束だけは‥‥絶対に守ってみせます‥‥」
 握手と共に彼は言った。

●荒野を走る
 田園風景も何もない、荒れた大地。其処に土煙が舞う。隠れられる所と言えばワームかKVの残骸、風雨に曝された岩がある。しかし、この熱気と光で、影に隠れることが難しいのではないかと思う。
 前に夜柴が言っていた。
「キャンプでの混乱を狙っているのではないか?」
 なので、この場所で襲撃しても、相手の意図に意味はないかもしれない。爆発事件などを起こしている輩である。もう少し派手に行うだろう。
 先行班が用心深く進み、何もないことを確認して連絡し、移動するというゆっくりした行軍。
 車の中でフィアナはやはり震えていた。
 一緒に乗っている歩が、肩を置き、
「大丈夫じゃ。我らに任せろ」
 自分自身の背景に楽観的な彼女はLHで得た冗句話でフィアナを安心させようとする。それもうまく行ったようで。 無口なフィアナが、無意識に彼女に突っ込み始める。
「それはちがうよ?」
「なに!? そうなのか?」
「それを言うなら、歩殿‥‥」
 一寸間が空くと、車の中は笑い声で一杯になった。
 こうして何事もなく、現地にたどり着く。歩の推理が正しくなりそうだと、全員は更に気を引き締めるのであった。

●事前調査と説得。
 アメリカの大地。夏。以上に暑く、喉が渇く。しかしフィアナに対して毒殺がある恐れがあるため所持品から持ってきている。サルファ(ga9419)が水筒に入れていた珈琲を差し出した。
「どうぞ、フィアナさん」
「ありがとう。サルファさん」
 大事そうに飲んでいく。そのしぐさがとても可愛かった。
 他のメンバーも、ミネラルウォーター等を飲んで渇きを潤す。
 マイアが、鳥飼とサルファを呼んだ。
「ダンデライオンの本部はあそこだ。説得しに行こう」
「そうですね」
「いこうか」
 と向かう。
 フィアナも同行する。
 木場に旭(ga6764)、ベル、歩、小鳥遊は、難民キャンプ地図をみて、何処にないか有るかをしらべながら不審物を探し出す。
 ステージと言うには貧相な場所。しかし、此処が一番危険である。
「私とベル君、マイアさんがこの周りを守り‥‥ああ、斜め左に建物か‥‥」
 木場が考える。そして小鳥遊が感覚で距離を測ると一番狙いそうな場所を見いだした。
「其処が怪しいね。ほかの建物は‥‥50m離れてるから、そう‥‥届くことはないと思うけど‥‥手練れだと問題だな‥‥」
 しかし周りにはテントがある。難民キャンプのテント。何事かと周りに人は見ているが、彼らに近づかない。
 一方、マイアが熱心にダンデライオンやキャンプボランティアのリーダーなどに説得を試みていた。
「ここの人達全てに希望を与えたい。その為にも貴方達の力が必要なんだ!」
「そうか‥‥問題だな。皆楽しみにしていたのに」
 この地域の担当隊長らしき人が、腕を組んで考え込む。
「わかった、我々で出来ることなら協力しよう」
 今回は控えてくれと、言う雰囲気だったが、4人の熱意に、彼らは揺り動かされたのであった。
「良かったね、フィアナ」
「はい」

「此処にひとつ‥‥」
 おかしな木箱を見つけ、慎重に開けると爆弾であった。
 見つけたのはベル。
「こっちにもある」
 サルファも舞台裏にあった不審物を見つけた。
 しかし、これ以上探しても見つけられなかった。未だ不安が残る。
「此はダミーで本番はあるのかもしれない‥‥」
「‥‥かなり派手にやろうとしていますね‥‥」
 病院の屋上では、旭が、場所を確認し、ここからロープで降りられる様に準備をしていた。
 この病院自体が怪しく、その間誰も立ち入りを禁止する方向にしたかったが、重傷患者が寝ているのでそれは無理だった。
 持ち物検査をする、8人で可能なこと出来る限りやって、そろそろ彼女のステージが始まる。

●アサシネーション
「皆を呼び込まないんだ?」
 サルファとマイアが首をかしげる。
「ただ、普通に歌って人が来るのを待つ方法なんです」
 ストリートミュージシャン風に歌うのだという。
 しかし、もう20人ぐらいは周りに集まっていた。フィアナの顔を知っているのか、物珍しさで来ているかは半々らしい。
 ただ、周りに警備などがいるので物々しい。しかし難民キャンプの人々なその光景に半分諦め気味だ。なにせ、競合地区が近いのだ。いつ何処で其処から何かが飛来してもおかしくはない。
 ステージは、大きな木箱だった。『危険』と英語で書かれているので元は弾薬の箱だったに違いない。見物人とステージの間に鳥飼達が用意した青いロープとポーンで仕切っており、侵入を防ぐ。そして周りをしっかりチェックしてから安全を確かめ、フィアナが登った。
「よいしょっと」
 ぺこりとお辞儀をしてから、彼女は歌い出す。
 伴奏もない、只声だけ。それでも、聞いている人は、聴き入っていた。

 しかし‥‥。この舞台からかなり離れたところで、爆発音と煙が上がる。
「見つけ損ねたか!」
 サルファが舌打ちする。
 木場とマイアがファイナを庇う。マイアの体は暗闇に覆われるようになった。
 歩は無線で「アレは囮のはずじゃ。ダンデライオンに任せろ!」と叫ぶ。屋上にいる旭はロープに力を込め、双眼鏡で全体を見る。そして、爆発した場所から離れた場所にある駐車場の車が不自然に動くところを発見する。
「小鳥遊さん! 車が向かってます!」
 旭が無線機で叫ぶ。
 車がものすごいスピードで向かってきている。人は乗っていない。なにかのリモートコントロールか?
「任せて!」
 観客側で警戒していた小鳥遊が銃を抜き‥‥、命中精度を高め、タイヤを撃った。バランスが崩れ、車は横転する。
「まだなにか‥‥」
『歌うなぁ!』
 この騒ぎに隠れ潜んでいたのか、ナイフを持った男達5人がステージに登ろうとする。鳥飼が機転を利かせ、ロープで正面から来る連中3人を転かし、当て身で気絶させる。しかし、もう2人はステージに登ってきた。木場がかわしてカウンターでつかみあげ、投げ飛ばす。マイアはもう1人にペイント弾で顔を命中させ、鳩尾を蹴り、吹き飛ばした。そこで歩と鳥飼が押さえつける。
 サルファとベルが、病院の窓が不自然に光るのを見る。
「‥‥危ない! フィアナさん!」
 叫ぶのが遅かった。
 相手に能力者が巧妙に隠れていたのか?!
 フィアナに何かが当たったかのように見えた。
 全てがスローモーションに見える。
「痛」
 しかし、必死に庇って怪我を負ったのは、マイアであった。2人の叫びに直ぐに反応したのは彼女だった。
「マイア‥‥マイア!」
「だ、大丈夫だ‥‥これぐらい!」
 木場が2人を抱きしめ、瞬天速で離れるが、定員オーバーで地面に転がるように100フィートを移動する。サルファとベルが、病院に走る!
 旭がロープを伝っており、窓ガラスを蹴り破って中に入り込む。転がり、直ぐに蛍火を構えようとするが、銀色の帯が彼の首筋を狙ってきた。紙一重でかわすが、彼の首に赤い筋が浮かび上がる。
「つう」
 瞳を金色に変えて、蛍火で相手の筋を切ろうと試みる。しかし、この相手もかなりの熟達者で、受け止め、いなして決定的な負傷を与えられない。
「なかなかやります‥‥」
 傷を受けたことで、相手は能力者だ。しかし、無いか此は違う‥‥。
 そう、人として意志がないのだ。
 サルファとベルがやってきたが、相手は、直ぐに対応して小銃で撃つ。サルファがうめいて転がった。
「サルファさん!」
「大丈夫だ! 抑えろ!」
 黒いオーラを纏うサルファ。腕の傷から弾が吹き出して、傷がふさがっていく。
 ベルが、腕に黒い霧を纏わせながら、無言で暗殺者に威嚇射撃しようにも旭がいるため。走って詰め寄った。狭い場所で銃は危険だ。
 殴る蹴る、投げ飛ばして、もつれ転がり、相手も自分たちも息を切らすまで‥‥2分かいや、5分かかったのだろうか‥‥。なんとか暗殺者を取り押さえることが出来た。
「はぁはぁ‥‥さあ、答えろ。バックは誰だ!」
 ベルが語調を荒げて暗殺者に尋問する。
「偉大なバグアにとって‥‥あの小娘の歌は危険だ。人間に希望など与える事叶わず‥‥デスペア‥‥の‥‥」
 最後まで言うまでに、暗殺者は気を失った。
「‥‥1人で戦っているとき、どうも機械的でした‥‥」
 旭が言う。
「‥‥洗脳なのか?」
 息を切らしてサルファが言う。
「‥‥目を覚ましたら‥‥分かるのかもしれません」
 爆発、車の横転、人の悲鳴が、激しくなっていることを今になって分かる。しかし、その中で、聞き覚えのある声が、聞こえてくる。

 癒される声。何かを訴える。心に響く天使のような声。母に抱きしめられる温かさを感じる。

「‥‥フィアナさん‥‥」
 ベルが呟いた。
 マイアが、腕を三角巾で下げている。その隣で、フィアナが歌っていた。
 歩は混乱している難民を誘導しながらその歌に驚き、小鳥遊も鳥飼も、自分の仕事に対しての士気が高ぶるのを感じていた。幸運にも、難民自体に死傷者はいない。そして、襲ってきた人間も死んでいなかった。

 フィアナが歌い終わると、マイアが足から力が抜けるように‥‥膝をつく。そして、震え泣いた。
「良かった‥‥。本当に良かった。私は人を殺して‥‥な‥‥。う、ううわあ」
 フィアナは何も言わず優しく、マイアを抱きしめて、背中をなでた。
 能力者でも、マイアはまだ少女なのだ。キメラでも、銃を向けるのを本当は躊躇う、心優しい女の子なのだ。命を奪う悲しさを知る者にとって、誰が責められようか? 
 フィアナの歌は未だ余韻を残す。落ち着きを取り戻したキャンプ場は、全員の手によって、元に戻っていった。

 気絶した、暗殺者を尋問したのだが、いっさいの記憶がないと言う。
 そして身元の確認をすると、シカゴ解放戦で戦っていた傭兵の1人だと分かった。戦場で行方不明になったらしい。他に暴れていた人間にも聞くのだが、親バグア派で潜入してきた連中で、元からフィアナを嫌っていたところ、あの暗殺者に雇われたとかかなりいい加減で曖昧だった。彼らはULTへ送られることになるだろう。行方不明だった能力者が敵となって戻ってきたというのが理解できないと、全員は思った。
 もっとも、そう考え込むのは後々の話であり‥‥今は‥‥、
「フィアナさんが無事で良かったです」
 頭に包帯を巻いている、木場が言う。色々もみ合いで強く打ち付けてしまったようである。
「皆さんありがとう。マイア、もう大丈夫?」
「うん‥‥フィアナ殿」
「フィアナでいいよ」
「‥‥うん」
 落ち着いてきたマイア。
 舞台裏に戻ってきた、ベル、歩がくる。
「‥‥怪我もなくて良かった」
「はい。ベル君。あなたのお守りが役に立ちました」
 と、強く抱きしめた。
「‥‥あの、その、えっと、フィアナさん?!」
 こうした事に慣れていない彼は真っ赤になってあたふたしている。
「ウブな奴じゃな」
 歩はクスリと笑う。
 フィアナはベルから離れる。そして彼女は、皆が集まったのを見て、改めてお辞儀をした。
「皆さん、本当にありがとう」
 と。

●一方‥‥
 デトロイト。ファウンダー本部。しかし、この部署に固定本部というものは無いも同然だ。
 ウィルソン・斉藤(gz0075)はこの事件について調書をじっくり読んでいた。
「行方不明だった男が‥‥洗脳されて襲撃に荷担‥‥。似すぎている」
 先日にも内定者が誘拐される事件がある。
 いまは証拠となるものは数少ない‥‥。
「デスペア‥‥『絶望』か‥‥」
 煙草をすりつぶし、この言葉に何か意味があるかを考えていた。