●リプレイ本文
●紫色の浜辺
海開き前の浜辺。夏になれば、賑やかになるだろうと思われる海水浴場。
しかし、その一角は紫に包まれていた。
ウニ。ウニ。ウニ。もう、数えたくない。そう言う気分にさせる。
「さて、こうも多かったら‥‥落とし穴だけですみます?」
篠崎 美影(
ga2512)が旦那の篠崎 公司(
ga2413)の腕に自分の腕を絡めながら訊いていた。
「やってみなくては分かりませんね」
実際見ると、想像以上で驚くしかない。
「磯‥‥、いいえ、ウニ臭いわ‥‥」
桜塚杜 菊花(
ga8970)が怪訝な顔をする。
「よか根性の棘皮動物ですね‥‥」
双眼鏡で眺めるのは守原有希(
ga8582)である。
ウニ自体は小さい。しかし、こうも群がっていると怖い。不気味だ。色々オリジナルの生態を調べても、「なんだかよくわからない」生き物だ。それが今や、キメラ化して陸でも活動を可能にしている為に、混沌性を増している。もうなんだかよく分からない域を更に超えていくので比べる意味合いがなく、もう言葉に言い表せない謎さを感じさせる。
「淡水で内蔵ばとけると、皆で調べたけど‥‥」
「そんなことすると、海胆味噌が食べられないニャ! ウニ丼、食べたいニャ!」
アヤカ(
ga4624)が、猫耳を立たせて抗議する。覚醒するほど食べたいようだ。
「食う気満々?!」
漁網と地図を持っているレヴィア ストレイカー(
ga5340)が目を丸くする。
「様々な報告書で、食材キメラの発生があると言っても‥‥。この数は」
「だから食い放題ニャ☆ でも、このウニ食べられるのかニャ?」
食いしん坊である。
素体が元々食用に足るキメラは、基本的に食べても問題ないようだ。素体が美味であれば、キメラも美味しいようだが、戦闘用に造られているので筋肉質で筋張っているのと、でかい方は大味になってしまい、お勧めできないと報告されている。
「でもさ、食う食わないは別として、作戦通りでやろうぜ!」
刀魔 桜火(
gb0728)が皆を促した。
ここで、浜辺でうごめくウニを見てもウニは逃げることはないのだから。
●作戦
有る地点で直径10m、深さ3mの穴を掘りそこでスブロフ漬けの網などを置く。そこでウニを落として一気に燃やすのだ。
「栗のようにはねると怖いですね」
「フランベにする程度だから良いんじゃない? あくまで燃やすのは甲羅を弱らせることだから」
そう、情報によると、フォースフィールドはやたらと強い物らしい。
「ショベルカー借りられなかったニャ」
ションボリ気味で戻ってくるアヤカ。
おそらく壊されたのだろう。
「幸い、くみ上げ式の放水ポンプは借りられました」
桜塚杜が交渉して、なんとか使える物を借りられた。
「夏と言えば海に山にアウトドアと相場が決まっているが、海開きができないとは。由々しき問題だ。早急に手を打とう。俺は、体力に自身があるから、掘るよ」
木場・純平(
ga3277)が胸を叩く。
穴掘り班は2班に分けて、1班は刀魔、守原、篠崎夫妻。2班は、アヤカ、木場、桜塚守、レヴィアとなった。1時間交替で掘り、そして別の班は周りを警戒すると言うことになる。
浜辺でうろつくウニたちが、丘に進行してくることがあるのだ。そのための警戒である。
「この地点が良いな」
レヴィアが、地図と地元民の情報を元に、赤ペンで×印をつけた。
作戦決行である。
●気付くのが早い謎生物ウニ
掘って2時間ぐらい。8人で掘っていく作業は結構はかどった。土が軟らかいためだろうか。直径6m深さは一番深いところで1.5mまで掘れたのだ。効率よく覚醒しては掘っているからである。まあ、それでも愚痴を言う人はいるのだが。
桜塚杜である。
「腰が痛いわ‥‥。穴掘りって意外と重労働ね‥‥」
と。
周りは山側に一寸した茂みがあるだけで、ほとんど更地。地の利はこちらが有利な場所になっている。ウニは、奇襲をかけるようなルートはない、はずだ。
「そろそろこうたいかニャ?」
茂みに隠れて警戒している、アヤカが時計を見る。
しかし、頭に何かが落ちる。
「?」
地面を見る。
ウニだ。
「‥‥うに?」
周りを見る。
「う、うにゃああああ!」
気がつけばウニが居た。それも『沢山』
毬藻のように、積み上がっては転げると思いきや、トゲを動かしても音も立てずに移動していたのだ! 半径約7mを占領するウニの群! 穴掘り1班もすぐに武器に持ち替えて臨戦態勢に入った。
近くに居たレヴィアが、目を赤く輝かせ、青い髪をなびかせながら漁網を投げる!
アヤカはすぐに飛び退き、ウニだけが網にかかった。ウニは邪魔になったことを認識したのか、
「ぎょえ――!」
奇声を発する。
「怖かったニャっ!」
「かなり、ホラーですよね‥‥」
シエルクラインで撃つが、あちこちから発する赤い壁の色が発生し、手応えをつかめない。
「堅いですね!」
すぐに守原がジッポライターを投げる。一気に網が燃え上がった。そこでまた奇声。耳をふさぎたい。しかし、フォースフィールドの赤い壁が熱などを遮断しているように見えた。
「ふん! いまだ!」
刀魔が、放水ポンプで一気に火を消す。そのあと武器を持ち替えた。
先ほど速く逃げたアヤカが、ダッシュしてルベウスで切り裂く!
微少の生物なので数匹をフォースフィールドごと切り裂く! 潰した殻から味噌が飛び散り、アヤカは全身にウニ味噌を浴びてしまった。ネコ耳が横に倒れる。
「うにゃあああ!」
不快指数上昇。
しかし、群は一向に逃げる気配も、堪えたそぶりを見せていない。そう、一個一個が個体なのだ。
落ち着いて木場が、スコーピオンを構えて撃つ。数匹がはじけ飛んだ事を確認したが、減った気がしない。
「群で来ると困ったな」
穴掘り班も既に銃弾などを装填し終え、公司が弓で射る。しかし、フォースフィールドで弾かれてしまう。
「堅いですね」
舌打ちする公司。
「なら、私の出番ですねぇ」
妻の美影が超機械γをかざして、電磁波をウニの群に放射する!
先ほど聞いた、奇声の音量が格段にアップし、反応があった。
「手応えあります!」
「美影さんをカバーして、叩きましょう!」
と、レヴィアが言う。
しかしウニの群はまだ動いている。残っているウニは一気にトゲをもぞもぞと動かす。おかしい行動だ。
「トゲミサイルが来るニャ!」
アヤカが警告すると同時に、トゲミサイルの弾幕が来た。
周りに紫の雨が降る。
何とかかわしたり受け止めたりするのだが、刀魔は不幸にも、盾を通り越して肩などにトゲが刺さってしまう。
「痛!」
「この!」
公司がまた射るが、赤い壁で弾かれてしまう。
「うにゃあああ!」
アヤカが又接近し、ルベウスを赤い光に輝かせながら、残りのウニを掻ききり、辺りを殻と味噌まみれにした。あと、アヤカもウニまみれ。
「うにゃあああああ! 此は酷いニャア! 食べることが出来ないニャ」
アヤカはションボリした。
守原は、焼け跡からジッポライターを見つけるが、ウニの圧力などで使い物ならなくなっていた。
「役に立ったけんど、一寸残念たい」
と、悲しんだ。
●作業は続く
直径10m、深さ3mの穴が出来た。
アヤカが先行して、敵を見に行く。
磯の方に洞窟を見つけた。野生のカンで中にいると、ネコの耳が動く。
「こちらアヤカ、怪しそうな洞窟を見つけたニャ」
『潜入して下さい』
レヴィアの声がする。
「了解ニャ」
忍び足で進む。
「潜入に成功したニャ。指示を求むニャ」
『何かいますか?』
「どれどれ?」
ネコのしなやかさで移動するアヤカ。まさしく潜入ネコ。
「いたにゃ。でかいにゃ‥‥」
『どれぐらいですか?』
「7mぐらいにゃ‥‥でかいにゃ」
そう、洞窟のたまりに、直径7mのウニが昼寝をしていたのだ。
「それはでかいってレベルじゃない。人型のKVぐらいじゃないか‥‥」
木場が驚いている。
『おびき出せそうですか?』
「いけるかもにゃ」
数の恐怖に、今度は大きい恐怖。
アヤカは適当な石を掴んでは、巨大ウニに投げてみる。トゲは激昂して動き始めた。しかし、ゆっくりとトゲを動かしながら、またはゴロゴロまわりながら‥‥。
「うごいたニャ。そっちの穴まで連れてくるニャ!」
『了解、迎撃体勢をとっておきます』
アヤカは付かず離れずに進む。
俊敏性はアヤカが格段に上だが、このウニもなかなかのもので、動きながら、アヤカにトゲミサイルを撃ってくる。
「ニャああ!」
思わず海にダイブして回避。しかし水着なので安心だ。あと、海胆味噌などが流れていく為に、一石二鳥だ。
「うう、まだ北の海は冷たいニャ!」
海開き前だから、それは我慢して貰おう。
巨大ウニが、人1人を追っている浜辺、遠くから見てもかなりシュールであった。
そして、そう時間もかからず、穴の手前、数mまでおびき寄せる。他のメンバーは10〜20m先で隠れている。
「ウニさんこちら手の鳴るほうへニャ。って、ウニに手はないニャね☆」
鬼ごっこが終わりを告げる。
ウニは勢いよく転がり始め‥‥アヤカに体当たりを仕掛けてくる。
しかし、アヤカは上手く横っ飛びでかわし‥‥勢いを止められないウニは穴に見事にホールインする。しかし穴は3mと深くても、7mの巨体のウニ。残り4mがむき出しになった。
それも気にしないことにして、尽かさず公司が弾頭矢で、その穴めがけて射る。勢いよく底に敷き詰めたスブロフが燃え上がった。
「ごああああ!」
ウニが叫ぶ(普通のウニが悲鳴を上げるかはともかく)。
ほどよい熱し具合から、桜塚杜がくみ上げ式放水ポンプから放水。急激な加熱から冷却により、殻だけは焦げている。しかし、中身まで行き渡っているかは前の戦いで分かる。効いていないだろう。
「焼きウニ〜!」
桜塚杜は、うきうきと言う。
「ウニは生ニャ!」
そう言う問題ではない。
ウニは怒って、トゲを発射させる。まるでその場にいる全員を認識しているかのように!
「うわっ、あぶない!」
「痛ぅ!」
桜塚杜と刀魔にトゲが突き刺さった。ウニはそれ以上の行動は出来ないようだ。
木場がスコーピオンを連射して牽制、美影が先にウニを倒すことを優先、電磁波の戦力攻撃で巨大ウニにダメージを与える。2人の攻撃で殻が若干割れ、さらに動きが鈍くなった気がする。
「今です、守原さん!」
「は、はい!」
その声で、守原が駆ける。
仄かに赤く光る蝉時雨で急所突き! 殻が一気に割れていく。その穴に向けて、ミネラルウォーターの容器を詰め込む。
「賠償はその身でよかよ!」
彼が一気にその容器にめがけて蝉時雨を突き刺した。
内臓が一部溶けていく。
周りで赤く展開する、フォースフィールドが消えていく‥‥。
ウニキメラが倒れた証のようだ。
しかし、あたりは、ウニの殻や味噌だらけ。此は重機でもないと、穴を埋めて処分などが必要だろうか?
刀魔は呟く。
「ジーザス‥‥多すぎだぜ」
●さて、食う以前とかの問題
海の店。開店していないが、無事だった場所だ。有る程度治癒して、休憩中。
「結局食べられなかったニャー」
水着姿になって、テーブルに突っ伏している。結局洗い流すときは真水なので、どうしても溶けるそうだ。ウニまみれの服などは全部、干している。
桜塚杜は、
「あーウザイ、ウザイウザイウザイ! はやく帰って風呂入る!」
と、だだをこねて、移動高速艇が来るのを待っている。
シャワーよりお風呂と言う発想は流石日本人。
ちなみに、守原は、アヤカの水着姿を見たとたん、猛ダッシュでどこかに行ってしまった。
刀魔が気になって追いかけていくと、人気のないところで倒れていた。
「なぜ?」
守原は実は年上の女性に弱い。そのためである。ああ、哀れ。
木場は、サングラスの埃を払い、石場でゆっくり海を眺めていた。ウーロン茶を町内会から戴いたので飲んでいた。
「はやり、海は良い」
不思議と、海の波には倒したウニの残骸が流れていることはなかった。なので、かなり綺麗である。
篠崎夫妻は、新婚の様に仲が良く、海を眺めていた。
高速移動艇が来るのは夜ぐらいらしい。
「お昼ご飯を如何ですか?」
町内会の人が、お盆に丼を載せてきた。
「ああ! ウニ丼ニャ!」
アヤカは又ネコ耳を立てている。
「はい、実は此処は普通のウニも捕れるのです」
「バグア‥‥。人間の名産物もキメラにするとはゆるせん‥‥。しかし美味いな。ウニ丼」
「あなた、あーんして」
「人前でそんなことは‥‥」
「ウニ丼ニャ〜☆」
キメラウニではないが、ご当地ウニ丼を食べられたので、アヤカは満足したようであった。