●リプレイ本文
女の子の声で集まった人は、結構居たようである。
「お姉さん達が探しますわ。だから泣かないで?」
上手く子供をあやすのは、ラピス・ヴェーラ(
ga8928)だった。彼女が優しく話しかけることで女の子はすぐに泣きやんだ。
その隣で、威風堂々とした青年が、母親と話をしていた。
「気付いたときには、か。人混みに揉まれたとするならば、落としても仕方ないことだろう」
その彼が白鐘剣一郎(
ga0184)は顎に手を当てて考える。
結構広い広場、色々な催しものや、露店、人が集まりそうなことがある。落とし物は多々あるに違いない。
「本当にこんなぬいぐるみなん?」
白鐘とは対照的なベクトルの好青年、クレイフェル(
ga0435)はメイと視線を合わせる為に膝を突いて、彼女にもう一度確認している。
「うん、とってもかわいい‥‥の」
メイは頷いた。
「そっかぁ。気になるなぁ。安心してな、うちが見つけ出すさかいに」
彼はそして彼女の頭をなでた。ピンクで血のように赤い涎、そして爪を立てており、つぶらな瞳という‥‥ことに、彼は興味を持たざるを得なかった。
「ひとりで歩いていったりは?」
瓜生 巴(
ga5119)はメイに訊ねる。
メイはきょとんとして、首を振るだけだった。
「大きさは、こんなものなのね(メイの体の1/3〜半分を手で測る)。鳴き声とか出る?」
鳴き声は出ないですよと母親がいう。
どうも、彼女は過去に『何か』と遭遇したことによる事を思い出しているようだ。それとだぶっている様子だ。
リュドレイク(
ga8720)が幼少のころを思い出して呟いていた。
「ああ‥‥そう言えば昔、弟もねこのぬいぐるみ無くして泣いていたことあったなぁ‥‥」
と。
隣には不機嫌な、音影 一葉(
ga9077)が立っているが、口には出さない。
(「ぬいぐるみ‥‥何で私が、そんな物探さなきゃいけないんですか‥‥」)
しかし、自分の大事な本が無くなったら、同じようなことになっていると思うわけで一寸だけ板挟みな彼女だった。
「ここは、俺たちがやりますから。そうだメイちゃん。此で暫く我慢してね」
魔宗・琢磨(
ga8475)がメイに、『あしゅらのぬいぐるみ』を手渡した。
彼は、この戦いの中で、子供の悲しい鳴き声は聞きたくないと常に思っていた。故に、笑顔にしたい一心であった。
それは、広場を周りを見ているレティ・クリムゾン(
ga8679)も同じ気持ちのようだ。
●シンクロ率と別の落とし物
「まずは」
「携帯番号を教え合おう」
8人同時に言う。
一瞬時間が止まったようだ。笑い出しそうな者もいたが、我慢している。
「考えていたことは一緒ですね」
瓜生が微笑む。
さっそく、番号を交換し、各自の範囲を決める。
「人混みに揉まれて無くなった‥‥とするなら、その周辺だろう」
「OKその辺をキョロキョロしながら回る」
そして各々が人混み周辺を目指して向かう。
ブツブツ言っている風な音影の背中を押しながら、リュドレイクが上方面の人混みに向かい、白鐘、ラピス、レティも別ルートで上の方の人混みに向かっていった。
クレイフェル、魔宗、瓜生、が反対側の人混み周辺を探す。
立ち際に魔宗がこういった。
「メイちゃんだっけ。待っててな、俺達が必ずクマの人形を見つけて見せる!」
1時間ぐらい経ったとき、クレイフェルから電話がかかってきた。全員にかけるので、メールにしてみる。
「あのさ、うち、財布、拾ったんやけど〜。どうしよか?」
困った様子である。
『警察に届けるのがいいだろう‥‥そういうのは』
白鐘が苦笑混じりを感じさせる返事がきた。
クレイフェルは中身を、「すんません」と呟きながらみると。
「うわ、仰山はいっとるでぇ!」
彼の驚きようが文字でも分かる。絵付きメールで送られてきたからだ。
『まあ中身確認は大事ですけど、どうしますか?』
瓜生のメール。
「持ち主、焦ってるはずやさかい。一応持っておく。途中で見つかったら御の字やし。そのあとに警察で照合や、先に微妙なクマさん探しや」
『わかりました』
其処から30分程度、白鐘が探したところでは何も収穫はなかった。途中で微妙な演技の大道芸があったが通り過ぎている。
「こちら収穫はない‥‥」
周りには家族連れや、この先にある人混み(中が何か気になるのだが)がみえる。遠目からすれば、何かのパフォーマンスで集まっているのであろうか。
『もう一寸探していきましょう』
ラピスの返事が来た。
「了解した」
レティは人混みの上を探すもそれらしい物は見あたらなかった。聞き込んでも人は知らないと言う。
「うーん、こちら収穫はない‥‥」
魔宗のほうも途中でアイスクリームを買って、その店員に
「ねえ、こんなクマのぬいぐるみ知らなかった?」
と、形を教えて訊ねると
「うーん、この辺では見てないですね。落とし物」
「そう、そう」
「ごめんなさい。‥‥なあ、見たか?」
奧にいる人にも尋ねていたが、全員知らないと首を振っていた。
「そうか、ありがとう」
魔宗は、アイスクリームを手に、道行く人に話しかけながら歩いていく。しかし上手く得られない。
ラピスは、必死の思いで人混みから出てきた。
「く、くるし〜い」
聞き込みをして約1時間半‥‥かなり混み合っていた。
クマの話は聞けず、ただ、個々に歌の上手い人が歌っていたと言うだけだった。
「みつかりませんでした」
メールを送る。
そして、次の所に向かうと、目の前に怪しい行動をしている人物が居た。
「?」
怪しいというのは語弊があるのだが、下を向いて物を探す姿は一瞬見ると怪しい物だ。
「あの、どうかされました?」
と、彼女は訊ねる。
その人物‥‥男はびっくりしたが、彼女のおっとりとした雰囲気に、すぐに落ち着く。
「あ、財布を落としてしまって‥‥あの中には‥‥」
「あら、大変ですわ」
ふと思い出す。
確かクレイフェルは、財布を拾ったのでは?
「一寸お待ち下さい」
メールでクレイフェルに確認。
『お、まさか持ち主? 発見?』
「ですです」
『もう一寸待ってくれって言っておいて。今手が離せないんや』
と、どうもおかしい雰囲気。
「?」
すると、クレイフェルがまたメールを出した。
『見つけた! クマはネコに誘拐されとる! 救助に向かうで!』
ラピスは、理解と納得はするのだが、偶然にも程があるかもと思わないでもない。
●ネコとおいかけっこ。
丁度ラピスとの連絡をやり取りしているクレイフェル。
「『お、まさか持ち主?」っと、もっとるけどまあ、確認で手間かかるやろうな‥‥ん?」
目の前に、黒と白の七三分けが印象的なネコが横切っていく。
「黒猫‥‥やったら縁起悪いけど‥‥う? あれは!」
その、ネコがくわえているのは、メイが言っていたぬいぐるみだ。それをくわえて、遊んでいる。
『見つけた! クマはネコに誘拐されとる! 救助に向かうで!』
と、すぐにメールを送り、クレイフェルは走り出す。
しかし、ネコが驚き、くわえて猛スピードで走り去っていく!
「なに、見つかった? ってネコ? どういう事だ!?」
白鐘がその場所に、向かうため走る。
「よし、そっちに向かおう」
全員が駆け出す。
ネコの速さは異常だ。常人でも捕まえるのは難しい。
覚醒すればすぐだが、その身体能力を、ネコを捕まえるためだけに使うのは、些か、抵抗を感じる。
「このブロックでかまえるで!」
「このネコは何者だ! 俺の頭を踏み台に!」
「う、見失った‥‥どこ?」
「なに、段ボールに隠れて‥‥にげた! しかもそのままクマをくわえて!」
「あのでかいクマを持って逃げるとは何という運動神経と顎の力!!」
財布を捜していた人も交じって大捕物に。どこかの歌手も見たような気もするが、ネコを捕まえるのが先だと、8人は走る。
(「休日なのに、何で汗をかいているのだろう‥‥」)
全員が思う。
それはそうだ。広場にいたのはくつろいで戦いを癒すためだったはずだ。しかし、それも悪くはないと言う気持ちもあるし、何名かは、子供の笑顔が見たいからだ。だから、必死になるのだ。
そして、連携にてネコを取り囲んだ。ネコは、「かっはー」と言いそうな雰囲気をだしており、威嚇している。
「こわくないですよ〜」
言っても意味はない。
「ここは、猫じゃらしか?」
「マタタビ?」
「そんなものないぞ」
ネコとの距離1mがもどかしい。隙あらば逃げそうだ。
暫く、ネコが警戒を解くためにその場で待ってみた。近くにたこ焼き屋やクレープ屋もあるので買ってみる。
「にゃおおおおおおおおおおおおおお」
ネコの鳴き声がやたらと長い‥‥。
その時に、ぬいぐるみを落とす。
「にゃおおおおおおおおおおおおおお」
ぱっと見では、威嚇しているのかどうか分からないが‥‥、目線を見ると‥‥‥ネコの視線は屋台の食べ物に目を向けていた。
「ほしいの?」
レティや、リュドレイクがネコを見る。
あまり、人の食べ物をあげるのは良くないが、まあ、追いかけて驚かせたこともあるし、交渉手段として、有効かもしれない。
「ネギは猫によろしくないのでたこ焼きはダメですね。クレープですね」
「だよな‥‥。ほれネコ」
魔宗がクレープを一切れ差し出すと、
「にゃおおおお? ‥‥。」
警戒しながらも、ネコがそれをくわえて食べ始めた。
「うみゃ、うみゃ♪」
その隙に、ラピスがぬいぐるみをとる。
「一件落着だな。あとは、メイちゃんの所に戻ろう」
白鐘が言う。
「おっと、つきあわせてえろうすんません。此が落とし物ですか?」
クレイフェルが財布を、持ち主に確認をさせている。
「ああ、此は私のです! ありがとうございます」
「でも、確認などで警察に向かいましょうか」
瓜生とレティが言う。
まあ、ぬいぐるみも喪失届けでだしているのだ。最終的に警察に寄ることになるのだ。
こうして、慌ただしい休日は終わった。
●和やかに夕日を
ラピスからクマのぬいぐるみを受け取るメイ。
「お姉ちゃん達ありがとう!」
メイが笑顔でお礼を言う。
なかなか出来た娘だった。
「やっぱ笑顔は可愛いなぁ」
「大切なお友達だ、もう無くさないようにな」
白鐘が微笑む。
「見つかって良かった」
クマのぬいぐるみは、数人が予想していたように、微妙だった。所謂『こわかわいい』系で、凶暴なピンク熊のぬいぐるみだったのだ。ネコがくわえていたために、多少汚れてしまったが彼女は自分の元に此が戻るととても喜んでいる。さらに彼女は『あしゅらのぬいぐるみ』も大事そうに持っている。
「それもあげるよ、汚しちゃったお詫びだ」
魔宗がいうとメイが喜んだ。
「ありがとうお兄ちゃん!」
彼女は魔宗に抱きついて、頬にキスをした。
「!?」
その、微笑ましさに全員が笑う。
そのあと、クレイフェルとラピスは、財布の持ち主からから、お礼を言われて、気分が良いようだ。
「良いことすると、良い気分になりますねぇ」
「そやなぁ〜」
2人は、夕日を見て、満足な一日だと感謝していた。
もう夕日が綺麗にみえる。
「‥‥ぐるぐるぐる」
最後に引っかき回したネコは噴水の隅のほうで、丸くなっていた。