タイトル:アラスカの白い悪魔マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 3 人
リプレイ完成日時:
2008/03/13 02:21

●オープニング本文


 アラスカ。
 北極圏がかかる極寒の地。ここも、バクアの侵略が散発的ながらも、起こっていた。偵察的な意味もあるのかそれとも何か目的があるのかは不明である。其処に、バグアの侵攻が『あるのだ』という事実しか今は分からない。シカゴ戦で「なぜ?」と言う声もあるが、いっさい謎である。
 ある時、かなり北の集落で、白熊の子供を保護し飼っていた家族が居た。クリス一家という。特にクマを好きだったのは子供のエリクである。両親のジェームスにジェニーは、小熊時代の白熊とエリクはまるで兄弟だと言うばかりに仲が良く、幸せを感じていた。
 流石に大きくなると、野生が芽生え、危険と言うこともあり檻に入れる。それでも、かなり特殊なクマだったらしく、大人しかった。しかし、危険と判断された存在には野生の凶暴さをむき出しに、追い払っていた。番犬ならぬ、番クマとして優秀だったと言える。分かりやすいように、このクマにはジャンと名付け、耳にタグ、赤い首輪が付いていた。そして集落では人気者であった。

 ところが、ある日、檻ごとジャンは消えてしまった。
「檻は固定した物なのにどうしてだ!」
「ジャン! ジャンはどこ?」
「誰かに盗まれた。人なつっこいから‥‥金になるのではと」
「そんな! ボクの兄弟が!」
 エリクは絶望する。
「警察にも報告しよう」
 捜索願を出したにも関わらず‥‥、ジャンが見つかる事はなかった。

 それから数ヶ月、数年か、長い月日が経ったように思われる。
 例の熊を飼っていた家族の居る集落周辺では、「白い悪魔」と言う危険なキメラが人々を襲っているという話で恐怖に陥っていた。吹雪に現れる赤い目と大きな黒い影。人々の命を周りの動物の命も奪われていく。
 成長した少年エリクは、村の見張りに立っている。
 望遠鏡であたりを見ると、その悪魔が居た。
 警報を鳴らす。しかし、彼は見た。
 巨体に白さ、何より耳のタグに赤い首輪。
「‥‥ジャン?」
 ジャンが戻ってきた。
「ジャン! ジャ――ン!」
 叫んでしまった。
 熊は、返事する。しかし、此は獲物を見つけた時の歓喜の声に近かった。
 歓喜とともに、絶望がくる。
 あのときの大人しい瞳のジャンではなく、キメラ特有の殺気だった目。
「そんな、ジャンが‥‥き、キメラになっているなんて‥‥」
 彼は泣いた。

 UPCにキメラ討伐退治依頼が飛んできたのもこのころであった。
『アラスカ北部の集落に巨大キメラ出現。退治を頼む』

 エリクはこの熊の再会を喜べなかった。きょうだいを殺すことなんて出来ない。しかし、このままだと‥‥。
 悩みに悩んでいてまだ答えを見つけられなかった。

●参加者一覧

クロード(ga0179
18歳・♀・AA
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM

●リプレイ本文

●約束
 高速艇が現地に着く。一行は外に出ると、身震いする。−30度もする極寒の地は、想像を絶する寒さであった。さらに、空は昼でも夜のような暗さであった。
「さて、クリス一家はどこですか?」
 全員があたりを見渡す。
「まずは、集落の代表者に会うことが先決だと思う。物資提供が欲しい」
 全員が、コートやダウンジャケットやマフラーを巻いても、寒さはきつかった。終夜・無月(ga3084)のサポート達、崔 南斗(ga4407)、北柴 航三郎(ga4410)、東野 灯吾(ga4411)によって、いくらかは防寒具をそろえた物の、ダウンジャケットだけは足りなかったようである。
「現地で‥‥、調達できれば、‥‥いいけど」
 クロード(ga0179)が言う。
 終夜が空を見上げた。
「まだ、荒れそうだな‥‥」
 
 作戦を練っていたとき、まずは雪上歩行用のスパイク、ロープの支給はされたのだが、ダウンジャケットなどはむりだった。現地での情報収集と物資調達交渉に当たる班と、エリクと話をする班に分かれて向かうことに。
「ではいってきますね」
 鈴葉・シロウ(ga4772)、南雲 莞爾(ga4272)、御影・朔夜(ga0240)と崎森 玲於奈(ga2010)が情報収集するために、集落の代表者宅に向かった。
「私たち‥‥で、話しましょう」
「ああ‥‥そうだな」
 クロード、終夜、緋室 神音(ga3576)、藤村 瑠亥(ga3862)は、エリクが住まう、クリス一家の家に向かった。

 ここにある防寒具などはキメラ戦で戦うには支障が出る程かさばるらしく、勧められないと言われ、結局サポートと含めて、全員の持ち合わせの物で何とか凌ぐしかない。試しに着てみて覚醒すると、確かに動きが鈍くなる。−30度まで一着でしのげる代物のかさばり方は予想以上だ。気休め程度ではあるが、懐炉などは提供と、仕事が終わったと、体を温めて休憩・治療場所の提供もしてくれることとなった。
「エマージェンシーキットで暖をとるか。アルコールストーブがある」
 御影が言う。
「こういう時のためにテントを用意している」
 南雲が提案した。
「其れは助かる」
 テントに大きな旗を掲げておけば遭難も防げるだろう。
 この地域は山ばかりではなく、平原部もあり、集落自体は平原よりだ。キメラ発見時は双眼鏡で見られる範囲だったので、山奥には居ないのだろうと、集落の人々は言う。すでに、あのジャンの爪によって殺された人もいるという話だ。
「本当に人のことを忘れてしまったのですかね? 兄弟」
 鈴葉は悲しそうに呟いた。

 エリクと話をしているのは、終夜とクロード、緋室、藤村だ。
 挨拶を交わし、リビングでお温かい飲み物を飲みながらエリクと話をする。
「ジャンのことを話してくれない?」
 緋室がエリクに尋ねた。
「ジャンは、こういう事が好きだったんだ」
 エリクは悲しそうにジャンのこと話す。
 其れを4人は黙って聞いた。
「でも‥‥今はキメラになった‥‥」
 彼は涙を堪えていた。
「お父さん達が、傭兵を雇ったんだ。でも、他に助ける道はないの?」
 エリクは願うように言う。
 クロードは首を振った。キメラ化した、存在はもう助からないのだと。
 エリクは項垂れる。
「ここに‥‥残る?」
 クロードが尋ねる。
 そこで、藤村が割って入った。エリクに目線を合わせるように屈んだ。
「確かに、お前は不幸だ、それは間違い無い。だが、選択肢があるだけ‥‥最悪ではない」
「‥‥そう‥‥なの?」
 少年は再び尋ねる。
 藤村は頷く。
「そう‥‥だよ」
 終夜が同じように話しかける。
「俺達と一緒に、‥‥ジャンに会いに行くかい?」
 エリクは悩んだ。助からないのなら‥‥『きょうだい』の最期は看取るしかない。
「ただ約束。‥‥もし来るならジャンの最後を必ず看取る事‥‥。戦闘時は俺達の指示に従う事‥‥。この二つを約束して欲しい‥‥。もし守れないならここに残っていて欲しいんだ‥‥」
「約束する」
「よし。男どうしの約束だ」
 終夜とエリクは指切りをする。そしてエリクは他の3人も見つめて。
「約束の指切り」
「‥‥いいよ」
 クロードが、
「ああ、OKだ」
 藤村が、
「いいわ。約束ね」
 緋室が、
 エリクと指切りをした。


●野営
 幸い吹雪いてはいなかった。しかし、あたりは暗い。此でも昼というのだから信じがたいが、北極圏に近いとなれば納得がいく。此が夏なら『夜』が拝めないだろう。
 一行は命綱をつけてエリクを中心に囲み、八方を固める所謂『八卦陣』で進軍する。命綱の付け方は、終夜と御影、クロードと崎守、緋室に南雲、鈴葉と藤村とエリクだ。戦闘時には外すことになっている。南雲の持っている暗視スコープは、温度感知タイプなので、急激な光による盲目の危険はないが、ゴーグルよりも曇りやすいのは欠点だ。今のところ、その心配はなさそうである。
 ただ、このところ気候の変化は激しいために、山に近づくにつれて荒れてくるだろう。
「頃合いになったら、ニット帽に変えておくか」
 南雲は言った。
 実は、南雲はダウンジャケットの中に、防具として成り立つ服を着ていなかったため、終夜のサポート3人から、ブレザーを手渡されている。此で、攻撃に耐えうることが出来るだろう。
 
 テントを張って、周りにアルコールストーブを点け、交代で中に入って暖をとり、此である程度の寒さを凌いでいた。
「エリク君。君の兄弟ジャンってどういう子だったか、もう一度教えてくれないか?」
 鈴葉がエリクに話しかける。
「‥‥いいよ。えっとね」
 楽しかったこと。毛皮の暖かい事、実は寂しがり屋で、良く泣いていたことなどをエリクは話す。
「そうか、良い兄弟だったんですね」
「でも、兄ちゃん。ジャンに興味があるの? 倒すから?」
「いやいや」
 鈴葉は首を振る。
「私も、白熊が好きなんですよ。兄弟と同然です」
「‥‥そうなんだ!」
 エリクは、目を輝かせていた。
「でも覚悟はいるよ。すでにジャンが悪魔と呼ばれているなら‥‥」
「うん‥‥」
 鈴葉はエリクの頭をなでた。

「吹雪いてきた」
 緋室、南雲がテントの出入り口を開けて、言う。
「ニット帽にかえよう。曇ってきた」
 吹雪の中では、帽子だけ取り替えはむりである。また、アルコールストーブの燃料の代わりにスブロクも使い始める。もっとも大人あたりは、暖をとる為の気付けに飲めるのだが、今は止めている。コーヒーが美味かった。
「気を付けてくだいね」
「ああ」
 全員、野営覚悟であったが、そうはならなかったようだ。ただ、全員が警戒していたのにもかかわらず、相手がかなり本能的に賢かったと言うだけであった。
 視界は、5フィート程しか見えない。ジャンはゆっくりと‥‥大きな影を現していた。


●驚異
「ジャンが来た!」
「危ないです!」
 とっさに対応できたのは幸運と言っても良い。メンバーはすぐに覚醒し、藤村と鈴葉はエリクを庇う。エリクは鈴葉の顔を見て驚くと共に理解をした。しかし、次に見たジャンの影に、その考えは吹き飛ぶ。
「ジャン!」
 エリクは叫ぶ。しかし前には出ないように我慢する。終夜達と約束したのだ。
「来るのが早かったな‥‥すぐに終わらせる!」
 南雲が動く。
 その太刀筋は速すぎて誰も見えなかった。かわしきれなく、腕で受けが出来なかったジャンは逆袈裟に斬られる‥‥はずだった。しかし、キメラ独特の赤い壁が堅く完全に中和していない! その為か傷は浅かった。
「な! 手応えが。こいつ‥‥フォースフィールドが他のやつより強いぞ!」
 南雲はもう一撃当てるも厚い毛皮で止められる。
 後ろから緋室が
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 と、つぶやき、すぐにペイント弾でジャンを撃つ。
 赤い壁はダメージ自体を無効化するだけらしいので、ペイント弾はそのままフォースフィールドと、ジャンの毛皮の両方を染められた。蛍光色は、予想以上に広がっている。ただ、彼女は装填と射撃、武器持ち替えに今回は留まる。
 クロードと崎森が、駆けて、斬る。クロードの最初の一撃が、大きな空降りに終わってしまう。
「なに! かわされた!」
 次の攻撃はうまく行ったが、やはり、フォースフィールドが強いために、大きな手応えはならない。
「こんな、キメラがいるとは!」
 崎森も同じように流し斬り発動で素早く後ろに回り、斬ろうとするも、ジャンは紙一重でかわしてしまう。
「しぶとい! フフ、ならばそれに相応しい地獄を見せてやる!」
「無月、さっさと終わらせるぞ!」
 御影が動く。きき手のシエルクラインで2発撃ち、次に二丁拳銃で連射する。それは、銃を撃ちながら踊るかのように。ジャンに対しては、半々で命中したようだが、やはり、フォースフィールドを完全中和出来なかったので、傷は浅い。ただ、弱っていると思われる。
「しぶといな」
 御影は舌打ちする。
 ジャンはクロードと目が合う。とたんに彼の筋肉が異常に隆起し、その姿はまさに悪魔だった。ジャンは彼女に向かって猛攻撃を仕掛けてくる!
「此はかわすより‥‥受けるべきか!」
 彼女は月詠で爪の二撃、噛み付きを受け流すも、その衝撃は彼女にかなりのダメージを与えてしまった。
「急いで、退け!」
 崎森と南雲が叫ぶ。
 クロードは転がりながら、距離を取る。
 終夜がそのまま連撃に持っていくのだが、ジャンはかわすか、強いフォースフィールドで全く手応えを感じさせなかった。
「あと一寸だと思ったのに! この俺が‥‥、手こずるのか?!」

 其処からは消耗戦になりそうだった。全員寒さで動きが鈍る。そして、ジャンの強い赤い障壁が攻撃を軽減している。このままだと、環境慣れしているジャンが有利だ。何名か怪我を負ってしまう。
「もともと動物は‥‥」
 鈴葉は呟く。
「危険になると、生命力以上の力を引き出す物です」
 と。
 
 苦戦を強いられながらも、八卦の陣の戦い方にて、徐々にジャンを弱らせていた。徐々に、足を狙い、前足を大けがさせ、動きを鈍くしていく。フォースフィールド自体は弱くなっていないが確実に、ジャンが弱くなっていた。
 ジャンは‥‥ふと、遠くにいるエリクの匂いを嗅いだ‥‥。すると、
 悲しい泣き声をだした。
「ジャン!」
 エリクが叫ぶ。
 ジャンは彼を見つける。そのまま突き進もうとする。そこに隙が出来た。
「危ない!」
 南雲が、蛍火を胸の急所に突き刺す。しかし、突進しているジャンは気にせず進むので、蛍火の刃が体に食い込んでいく。
 終夜も、別の急所を貫いていた。それでも止まらない。
「此で終わりだ!」
 御影のシエルクラインがジャンの脳天を貫く。
 3人の同時攻撃でキメラのフォースフィールドがガラスが割れるように飛散した。絶命したのだろう。
 しかし‥‥。

●奇跡か、虚しさか
 ジャンは生きていた。
 のそり、のそり、ゆっくりと、歩いていく。エリクの元へ。
「ジャン? 本当にジャンなの? あのころの?」
 エリクが駆け寄ろうとするところ、藤村と終夜が止める。
「まだ、危険‥‥だ」
 と。
 しかし、そこで鈴葉は、
「大丈夫だと思いますよ。兄弟が目を覚ましたんだと思います」
 と、厳しくも優しい声で言った。
「‥‥」
 2人は退いた。エリクに道を譲るために。
 戦って分かるが、もう、目の前のキメラは死んでいる。所謂『気』も感じない。しかし動くとは考えられない。
 キメラの発する電磁波による不調などもないからキメラとしての機能もない。なぜ生きているのか?
「絆‥‥?」
 誰かが言った。
 それに答えられる者はいない。今見ている、風景自体が不思議であるからだ。
「くううん」
「ジャン」
 ジャンは泣いた。
 エリクが、近づく。そして鈴葉も。
「ジャン、ご、ごめんね」
「もう、眠るんだ。兄弟」
「‥‥くう」
 毛皮はもう白くなく、血まみれで赤く染まっている。エリクが彼の頭部を抱きしめると、ジャンは「これで良いんだ」というような目をして、眠った。永久の‥‥眠りに。
 エリクは涙を流し、大声で泣いた。
 叫ぶように。
 何かに願うように。

●墓
 この件は奇跡だったのか? 可能性なのか? 其れは分からない。
 死の間際に、凶暴性を失うことなど。
 彼が住んでいた、檻が置いてあった場所に、ジャンの墓があった。

 エリクはもう泣いてない。覚悟を決めたからなのか、それは他の人には分からないが。少し少年が大きくなった気もする。
「‥‥辛い‥‥よね‥‥でも‥‥できれば‥‥早く笑える様に。‥‥貴方の知っているジャンも‥‥笑顔を望むと‥‥思います」
 クロードが花を添えた。すぐに凍ってバラバラになるため、造花である。
「うん。クロードさんの言うとおりだと思う」
 少年は、クロードの目をしっかり見て頷いた。
「強いね」
 クロードは笑う。
「兄弟、君の憎悪と怒りは私達が持っていきますのでね。後はゆっくりお休みなさい。ああ、たまになら手伝いに来てもいいですよ? 私あたりに」
 鈴葉は、かなり小さなお守りとして、ジャンの爪を貰ったのだ。


 墓より遠くで、崎森だけが居た。
「‥‥度し難いな。渇望を癒せなかっただけならず、虚しさまでも覚えるとは」
 崎森は、この戦いに、新たな苦しみを覚えて、苛ついていた。壁を殴る。
 渇望を癒すことが出来ない。戦闘の高揚感のみ‥‥。残ったのはなんとも後味の悪いものだったのだ。
 彼女の渇きは、潤すことは出来るのだろうか?


 この集落で手当をしている間に、高速艇が戻ってきた。
 その別れのとき。
 南雲がエリクに、こう言った。
「ジャンが昔の記憶を取り戻した事は、奇跡かはわからん。‥‥だがヤツは最期に、あんたが日夜を共にして来たジャンの生きた証を残した。あんたは絶対にそれを忘れてはならない、何があってもな」
 その言葉に対して、エリクの答えは、
「うん。ジャンのことは忘れない。そして、この理不尽に立ち向かうから」
 だった。手には、郵便物を持っていた。宛先は良く読めないがおそらく『UPC』らしい。
 南雲はその中身を察したのか、
「そうか、其れは苦しい道だが、‥‥それもあんたが決めた事だ。がんばれよ」
 彼は、表情はあまり変えなかったが、エリクの頭をなでた。
「ありがとうございます」
 集落の人々が、お礼を言う中、終夜は、去り際に一言った。
「必ず‥‥バグアを倒すから。約束する」

 全員が乗り込んだと確認し、高速艇が浮かび、飛び去っていった。
 エリクは高速艇が見えなくなるまで、ずっと、ずっと、見ていた。

 悲しみを乗り越えるために、彼が考えた道の様を見るように。