●リプレイ本文
●顔合わせ
フィアナ・ローデン(gz0020)の事務所を尋ねる一行。
「いらっしゃいませ。あ、あなたは」
「お久しぶりです。フィアナさん。前のライヴには顔を出せず済みません」
先にフィアナに声をかけたのは、水鏡・シメイ(
ga0523)であった。
メディウス・ボレアリス(
ga0564)も、
「久しぶりだな。ローデン君」
「お久しぶりです、水鏡さん、メディウスさん」
フィアナは顔見知りを見つけては笑顔にいっぱいになった。
「水鏡さん気にしないでくださいね」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げる水鏡。
「こんにちは、初めまして、アルフレッドと言います」
アルフレッド・ランド(
ga0082)が挨拶し、神無月 紫翠(
ga0243)、御影 柳樹(
ga3326)、風間由姫(
ga4628)、マーガレット・ラランド(
ga6439)もそれに倣った。
「皆さん、来てくださってありがとうございます」
フィアナは笑顔で答える。
「初めまして、葵 コハルです。ライディくんがやってるラジオ、よく手伝いに行ってるんだ。よろしくねっ」
葵 コハル(
ga3897)がにこりと笑って挨拶する。
「初めまして、葵さん。ランディさんとお知り合いなのですね。あの人にもよろしくお伝え願えませんか?」
「うん。いいよ♪」
フィアナは、全員に握手を交わした。
「さて、色々事情が重なって、こういう依頼になったが。主な目的は2つですね」
マーガレットが言う。
「フィアナさんの護衛は、経験者がいるので大丈夫として」
「牡丹鍋さぁ♪」
マーガレットの言葉に続けるかのように、御影がニコニコする。
「うむ、鍋は良い。しかし、どうやって倒すかだ」
メディウスが、頷く。
「ですね」
マーガレットがメディウスに頷いた。
「作戦はどうしましょう?」
アルフレッドが言う。
「スナイパー2人いますからね。しかも場所は山、標的を誘導して、狙い撃ちしましょう」
彼は地図を見る。
「雪は?」
メディウスは尋ねる。
「流石に頂上まで行くと、残っているでしょうけど、其処まで登る程ではないとか。そう積もらない場所なので」
「このへん‥‥ぐらい‥‥ですか」
神無月が地図を見て言った。中腹ぐらいらしい。
機動性のある、風間と御影、戦闘力のある葵にアルフレッドが囮と索敵し、無線で逐一報告、山に罠を作り、狙撃にて仕留めていく作戦になった。ただ、うり坊は、発見後すぐに戦闘する。
「萌えキメラは、侮るな」
メディウスは過去の依頼を思い出して遠くを見ていた。
「そんなに可愛いのですか。それだとお持ち帰りしたいですが」
「結局殺すことになるから意味ないとおもうよ」
葵は水鏡に言う。
「ですねぇ」
残念そうな水鏡であった。
高速艇に乗り、現地に向かう。その間にフィアナと楽しい会話がされていた。
「ねね、フィアナ!」
葵がフィアナを呼ぶ。
「はい?」
「CD出してる?」
「あ、まだなんです。ごめんなさい」
「残念」
「でも、3月以降に作りますよ」
「え、ほんと? 楽しみにしているよ!」
葵は、フィアナの手を握り、ぶんぶん振る。
和気藹々とした中で、現地に無事到着した。
●情報収集
現地で更に作戦を練るために、アルフレッドとメディウス、マーガレットが猟の会合場に訪れた。話を聞けば、ここでは猪はかなり珍しいと言う。
「全く謎のことをするな、バグアは」
メディウスは、首をひねる。
「儂らじゃ手に負えないんだ。しかし、つい最近ここに引っ越してきた、三郎のじいさんなら猪のことは詳しいな。呼んできてやるよ」
猟師の1人が言う。
「助かる」
村人が1人出て行く。
10分もして、三郎が来た。
「ん? あんたら、あの化け物を退治する人かえ?」
「私、マーガレット・ラランドと言います。 猪について色々訊かせて欲しいのです」
「まあ、長いこと猪を狩ってきたがねぇ」
「出来れば、そのコツと大物を捕ったときのこと話して頂けませんか?」
マーガレットが感動と関心の瞳で言うと、三郎は機嫌良さそうに、武勇伝を話し始める。それに釣られて、他の村人もわいわいと、狩りの武勇伝や狩りのコツ、この山が大好きだと言うことを、色々語ってくれた。
「嬢ちゃん達、この辺によく彼奴らが出没してるんじゃ。だから、その場所を探せばよいさ」
三郎と、村人は丁寧に教えてくれた。
「私は都会育ちだから、化学調味料ばかりの食品で、本当の自然の美味い食べ物を食べたことがないんですよ。猪の食べ方など教えてください」
「私も詳しく猪の調理法を教えて欲しいです」
アルフレッドも身を乗り出した。
「おう。教えてやるとも。まずはな、臭みをとるにはな‥‥」
ただ、老人達という者は話が長くなるし、酒も入るとさらに饒舌になるものだ。3人はしっかり彼らに捕まって、夜遅くまで宴会につきあわされてしまった。しかし、メディウスは、あとの宴に地酒の情報を手に入れ、アルフは様々な猟師の料理を教わる。つまり、マーガレットの活躍で、かなり友好的に情報を手に入れたわけである。
『すまん。宴会に誘われた。遅くなる』
このメールで、御影はフィアナが用意していたホテルで悶えていた。
幸い、猟師に飲まされた人は、酔いつぶれず、二日酔いにならなかった。
●出発
登山口。
今は『キメラ危険!』となって閉山されている。フィアナは可愛いコートとスカート姿で、近くの売店兼茶屋で待機すると言っている。
「いってきます〜」
「いってらっしゃい」
一行は出発していった。
登山道は、かなりしっかりしており、かなり楽に上れる。ただ、重装備だとそうは行かないが、それでも、凍結もなく、足を取られることはなかった。
「たしか、ここから数百m先が猟区域ですね」
アルフレッドが言う。
地図を見ている神無月が頷いた。その奥へと進む。
「よし、班分けして、待機地点に落とし穴を作ろう」
待ち伏せ地点に着く。
罠なども確認し、葵と御影とアルフレッドが、携帯シャベルを取り出し、穴を掘り、落とし穴を作る。常人なら一苦労の作業だが、覚醒してすればなんて事はない。
カモフラージュも出来て、準備万端だ。
「では、作戦開始!」
メディウスが言うと。皆は無線機をオンにした。
アルフレッドと御影、葵と風間の4人で猪を探す。
「いるかな?」
「足跡発見しました」
風間が皆を呼ぶ。
「というと、この先か?」
足跡の先を見ると、続いている。相手はキメラなので、周りは折れた木々、食い残しがあるので見つけやすい。
「邪魔する者は全て突進で排除って感じさぁ」
御影は苦笑する。
気を付けて、足跡をたどると、茨から、何か丸っこいものが転がってきた。
「ぷひ」
まるく、そして茶色い毛玉。背中に数本の黒っぽい線に、白い斑点のある可愛い生命体だった。
「‥‥これって」
「うん」
「これが‥‥うり坊。かわいいさぁ」
うり坊2匹が頼りなさげに歩いて、能力者達を見る。いなや、可愛い泣き声と共に、走ってやってくるのだ。ものすごいスピードで。
「な! うり坊キメラ発見! 今から迎撃するよ!」
葵が動いた。覚醒し、銀色の髪になり、獣のような耳に変わる。
「可愛いけど、キメラはキメラ! 倒す!」
相手より早く、間合いに詰め寄って、蛍火を袈裟斬り、其れはかわされたが、すぐに回り込み再び斬る。手応えがあり、うり坊はぷいっと鳴いて転がって離れていった。アルフレッドが別のうり坊を刀で突きを入れる! しかし、華麗に転がってかわされた。
「なにぃ!」
アルフレッドは驚いた。
「ああ! か、かわいい! 攻撃できないです!」
風間は、そのうり坊の姿に武器を持つ腕が震え、固まっていた。
「やはりかわいすぎるさぁ!」
御影も悶えていた。
「恐ろしい!」
『だから気を付けろと』
無線で、メディウスが言う。
うり坊2匹は、反撃に転じる。攻撃してきた葵と、アルフレッドに体当たりをしてきた。
「きゃ!」
しかし、体が普通のうり坊と変わらないのか、逆に葵やアルフの胸に当たったまま撥ねて、転がる。
「いや、可愛いのは分かりましたから‥‥え? うわ!」
しかし、うり坊はまた飛びかかってきて、2人をはじき飛ばした。
「痛い!」
「やはりキメラか!」
2人は少し傷を負ったものの、構え直す。
立ち直った御影が、叫ぶ。
「可愛いけど、これ戦いなんださぁ! あと、鍋のためさぁ!」
と、うり坊一匹に瞬時に近づき、渾身の急所付き! それでうり坊は一匹倒れる。
アルフは3連続の斬撃をもう一匹に与えようとするが、可愛い転がり方で2撃共かわされる。
「ちょこまかと! しかし!」
最後の1撃は見事、うり坊の急所を捉え、倒すことに成功した。
丁度、葵と風間は別の方にむけて、警戒を解かない。遠くから、地鳴りのような、轟音がするのだ。
「これは‥‥本命がきたよ! 全員に通達。お鍋の具がきましたー!」
うり坊が転がり落ちてきたところを、二頭の猪キメラが猛突進で進んで来たのだ。
●おいかけっこ
二頭の猪キメラ。
普通の猪より数倍大きく、目が爛々と赤く光り、筋肉質であると言うことが一目で分かる。此は強敵だとアルフレッド達は確信した。
葵が石を猪に投げる。自分に気を惹かせるつもりであるらしい。
「気を付けて! うり坊でも危険だったから、作戦通りに」
「ほたほら! おいで〜! あたしと追いかけっこしようよ!」
御影も、同じように石を投げる。
「ほら鍋、僕の所に来るさぁ」
一頭が2人を睨み、雄叫びを上げ、走り出す準備をしている。
アルフレッドと風間も、
「侮っては行けないな。二手にわかれて、計画通りに合流だ」
「はい」
もう一頭に軽く石を投げて、気を向かせた。
「狙撃地点で会おう!」
と、全員は走り出す。
山の森の中、足場が悪いなかでも能力者と猪の追いかけっこは続く。
こちらは囮として、付かず離れず距離を取って逃げているが、すぐに追いついてくるのだ。
「何という速さだ」
しかし、猪は急な方向回転は出来ない。葵に突進してきたとき、葵は横っ飛びでかわす。後ろにあった木が、猪キメラの突進により、折られて倒れる。木が倒れる轟音が響く。
「うわあ、此に当たるとひとたまりもないよ」
もう一頭が風間にも猛突進するが、かろうじて彼女はかわした。先は一寸した草むらで、猪キメラは急ブレーキをかけて、ゆっくりと向きを変える。そして、獲物を狙おうと睨むのであった。
「うわぁ、猪と言うより、牛だなぁ」
「怖かったですよ」
そして、4人は猪を先にある、作戦の場所までおびき寄せるのであった。
●落とし穴
狙撃班の水鏡とメディウス、神無月とマーガレットはうまく物陰に隠れ、遠くでの戦闘の音を聞く。
「うまくやっているな」
と、メディウス。
「油断‥‥しないよう、早く終わらせて‥‥楽しみましょう?」
神無月が言う。
「きました!」
水鏡が報告する。
全員が覚醒し、雰囲気が豹変する。
「2頭か? すばしっこいが、逃がすかよ」
神無月の口調が変わった。
「援護は我とマーガレットに任せろ」
各自持ち場で、合図をおくり、機を待った。
落とし穴は3個あり、其れを飛んでかわす能力者。しかし、本当の落とし穴に気づいた一頭は、急に立ち止まる。
「うわ、意外に賢いんだぁ!」
葵と御影は急に立ち止まって、武器を構える。
その隙に猪は飛び出し葵に体当たりする。吹っ飛ばされる葵。
「痛い!」
そのまま追撃が来る! 刹那。
葵にそれ以上の怪我はなかった。
猪の眉間に矢が突き刺さった。悲鳴を上げる猪。水鏡の洋弓「アルファル」だ。
「いまだ! 観念して鍋になるんさぁ!」
御影が瞬天足ですぐに間合いを詰めて、全力攻撃をする。愛用のファングが猪の顔、足を切り刻む!
「たあ!」
葵が態勢を立て直し、すぐに後ろに回り込んで、渾身の一撃を与える! それは急所を狙ったすばらしい攻撃で、猪キメラは沈黙させた。
メディウスは駆け寄って、怪我をしている葵に練成治療を施した。
「ありがとう。もう一頭は?」
「大丈夫のようだ」
アルフと風間が担当している猪は、1つの穴を飛び越えて、次の穴に落ちていった。もがく猪。
「やりましたね!!」
風間が喜ぶ。
「此で狙いやすくなった」
神無月が笑う。
マーガレットが風間とアルフに練成強化を与える。2人の武器は仄かに光っている。
「えい!」
風間がヴィアで穴に落ちた猪を突き刺して、傷を負わせる。かなり与えた感じがした。
しかし、猪は、すぐに穴から出てきて、風間に体をぶつけてくる。
「きゃあ!」
彼女は少し吹き飛ばされたが、持ち直してヴィアを構えている。
「穴が浅かったか。しかし、そのロスは貰った!」
神無月が、長弓「黒蝶」で眉間をねらい撃ち、見事命中。
悶える猪にアルフレッドの全力攻撃が、猪キメラを沈黙させた。
「ぷぎゃあ!」
猪は断末魔を上げて倒れていった。
完全に息の根を止めたことを確認してから御影は、
「ひゃっほう。鍋さぁ。たらふくくうさぁ!」
と、喜んだ。
「楽しみ‥‥ですね」
覚醒を解いた神無月は微笑んだ。
●鍋と歌
治療をし、御影が二頭を担いで、水鏡と葵がうり坊をもって下山してきた。
「わあ。すごいですねぇ」
フィアナはびっくりした。
その夜。アルフレッドの独り舞台になる。つまり、料理だ。根菜も少し入れて、スーパーで買った野菜もくわえ、まずは猪鍋を作り、うり坊は刺身にしてみた。大食漢がいるので、品数は少なめになった。ただ、薫製分だけは残している。
「あとで、桜チップで薫製にします」
そのあと、フィアナと囲んで、猪フルコースを食べる。やはりキメラなので筋肉質であり、筋ぼったいが、美味であった。メディウスは地酒の熱燗と猪の肉に舌鼓をうち、御影はマーガレットに「食い過ぎです」と止められるほど食べようとした。危うく、うり坊一匹分が彼の口に収まるところであったのだ。
「フィアナさん、コンサート、聴かせて‥‥くださいね」
「たのしみだよ!」
「私も楽しみです」
神無月と葵、水鏡はフィアナの歌が楽しみだった。
「はい、頑張っちゃいます♪」
こうして、鍋パーティの夜はふけていった。
そして、コンサート当日。
ちゃっかり水鏡は良い席に座って、フィアナの登場を待っていた。他の全員も思い思いに席に座っている。
「たのしみだねぇ」
ワクワクが止まらない。
ステージにフィアナが出てきた。彼女は礼をし、歌い始める。
その歌声は、とても綺麗で、心がこもっていて、勇気が湧いてくるものだった。本当にプロの芸能界などに属していないことがおかしい、と思うぐらいに。
「すごい‥‥綺麗‥‥」
葵はそれ以降黙っていた。
コンサートも終わり、今回の仕事は無事成功したことになる。
「絶対CDかうぞ!」
葵は、そう言った。