●リプレイ本文
●チケット販売より数日も前
UNKNOWN(
ga4276)となつき(
ga5710)がフィアナの事務所を訪れた。
「いらっしゃいませ。UNKNOWNさんお久しぶりです」
フィアナは笑顔で出迎えてくれた。
相変わらず事務所のほうはいろいろと修羅場になっているようだが。前の時より順調のようである。
「やあ、久しぶり。元気だったか」
「はい。おかげさまで」
お互い、西洋風の軽くだきしめてたがいの頬をつける挨拶を交わす。日本人であるなつきには、不思議そうに思える挨拶だ。しかし、ラスト・ホープに居れば、自ずとそれが挨拶だと分かる。ラスト・ホープ自体が国際的な島国であるのだから。
「そちらの方は?」
フィアナがなつきを見る。
「紹介しよう。なつきだ」
「なつきです。初めまして、フィアナさん」
「はい、初めまして」
お互い握手を交わして、軽く西洋風の挨拶をした。
「さて、打ち合わせの会議にはまだ時間はありますので、ゆっくりしてください」
「そうか? 忙しそうだが?」
「大丈夫です」
にこりと微笑むフィアナだった。
その笑顔が、なつきにとって驚くほど綺麗だとおもわせた。
1時間後。
事務所の扉を開けようかと迷う男が1人。
坂崎正悟(
ga4498)だった。
(「俺の様な中途半端な傭兵が、あの大規模作戦に参加して良い物かどうか‥‥」)
彼は悩んでいたのだ。
彼が能力者になった経緯が、深い。
何となくではなく決意としてあったが、今揺れ動いていたのだ。
(「フィアナのような、一般人がやれることをやろうとしている。なら、俺は、あの戦いに赴くべきだろうか?」)
――ただ、その勇気を、光を、前に出会った少女から分けて貰いたい。
その気持ちが強かった。
彼はドアを開けた。
「いらっしゃいませ。あ、お久しぶりです、坂崎さん」
フィアナの笑顔に救われる気がした。
●チケット
チケットの売れ行きは順調であったようだ。少しだけ、前のミニライブでの成功した結果と思われる。ただ、3人以外の能力者が事務所にやってくることはなかった。
「ちょっと、残念です」
「ああ、シカゴ解放で色々忙しいから仕方ないな。整備などで懐が寒くなるんだよ」
UNKNOWNはフィアナの肩をかるく叩いた。
KVの装備調達では数万クレジットもかかる。そして、ライヴ前日に大規模作戦。なると、流石にチケットは買えるわけはない。金銭的以上に、生き延びる事が出来るかと言うと、そうではないからだ。
●坂崎とパソコン
ある日のこと。
もう少しデザインのある今後の事もふまえて、ポスターなどを作ろうと言うことが、会議で持ち上がった。前に使ったアドカーもあるが、それも見る側からすれば、そろそろ飽きる頃で、新調する必要もある。前もって、企画するほうも運営が楽になる物だ。と、思いついたのは、色々会議をしてフィアナとそのスタッフである。
さて、そのポスターを作るに当たり、坂崎が担当になるわけだが、
「フィアナ、パソコンは新調したか?」
彼は恐る恐る、フィアナに尋ねた。
フィアナは一寸、固まった。
その固まり具合に、坂崎は何かを言い出しそうになる。
しかし、
「はい‥‥前のランペス号は、引退しました」
「そうか。って、アレに名前付いていたんだ」
前のPCに名前が付いていた事も一寸驚きだが、自作する珍しい女性なので、気にしない事にする。
「あたらしいパソコンスタッフの、すすむ君です」
名前はともかく、見ると確かに筐体自体が新調されている。色々シールが貼っているのはご愛敬と言うことで。
触ってみると驚きで、最新で云十万しそうなPCだった。高度なFPSなどオンラインゲームが出来るぐらいのスペックである。しかし、OSは使い慣れたバージョンに少し改良を加えた物だった。
「此は助かる。ああ、持って帰らなくて済んだ」
坂崎は安堵した。
もしも、前のままだったら、彼は自分のスタジオで作るつもりだったらしい。
「あんのんさん。いったい、何があったのでしょうか?」
「ああ、一寸な。前の仕事でデータが飛んだんだよ。苦戦をしていたようだ」
「あらぁ」
●ステージの打ち合わせ。
現在舞台となるステージの下見。
「前より広いな」
歩幅で舞台の距離を測るUNKNOWN。
「楽屋裏の方は、前とほぼ同じです」
「そうか」
なつきがステージから降りて、反対の観客席まで駆けていき、振り返って、
「ここで、皆と歌うんですね」
フィアナに尋ねた。
「はい」
「すごいなぁ」
まだ、小さいステージだが、なつきにとって大きな物に感じた。
「私は出来ればコーラスを担当したいです♪」
なつきはそう申し出る。
「いいですよ! 皆さんで盛り上げましょうね」
フィアナは快諾した。
「はい! ありがとうございます!」
●当日
それほどトラブルもなく、当日になった。
なつき、UNKNOWNは、シカゴ解放から戻ってきてすぐに準備する。
客席には様々な人が入っている。まだ彼女が有名所ではないため、まずまずだろう。
メイクをし終えたフィアナとなつきの控え室に入ってくるのはUNKNOWNだった。
「準備は良いか?」
「はい」
「ばっちりですよ、あんのんさん」
フィアナとなつきは頷いた。
UNKNOWNは、いつも馴れたサックスを持ち、黒のフロックコート、ベストにスラックス、ルサリーノと革手袋で、やはりいつもの通りの白の立襟カフスシャツとロングマフラーと赤いタイにチーフだった。各種控え室は禁煙扱いだったので、煙草はくわえてない。ここは礼儀である。
「皆そろったんだな。んじゃ、写真撮るけど良い?」
「はい」
「かまわない」
「よろしくおねがいします」
坂崎が、3人をフィルターに納めた。
ライヴが始まった。
まずは、フィアナの挨拶の歌。そして、次々とリズミカルに楽しく、フィアナは歌う。UNKNOWNがサックスでバックを努め、スタッフが楽器を担当している。なじみ深いメンバーなので、フィアナのアドリブにもかなり対応していた。坂崎はその一つ一つの撮影好機を逃さない。
フィアナのトークも、かなりノリが入っており、
「では、サックス担当のUNKNOWNさんにサックスソロを演奏して貰います」
紹介する。
「よろしく、UNKNOWNだ。サックスを得意としている。効いてくれると嬉しい」
渋くお辞儀をする彼。
明かりがJAZZに相応しい雰囲気に染める。
ゆっくりと、そして徐々に、彼はサックスのテンポ、スピードを上げていく。
彼の演奏が終わると、拍手が湧いた。
さらに、間をあけて、新しい歌、UNKNOWNの作詞作曲を歌うことになった。
――まだまだ、シカゴは厳しい
だが‥‥傭兵はしぶといさ
奴らは帰ってくる
レディース&ジェントルメン
共に、歌おう‥‥
共に、踊ろう‥‥
‥‥ステージにこよう
共に、歌おう
共に、踊ろう
地平の彼方に響かせよう
フィアナがあわせて歌うようになっていく。なつきもコーラスに入る。
最後には、『希望の星』を歌い、全員コーラスで終わりをつげた。
「どうもありがとう!」
拍手で、皆に別れを告げて幕が下りる‥‥。
●おつかれさま
控え室には、坂崎となつき、UNKNOWN、フィアナとバンドスタッフが反省会なのか座談会なのかよく分からないまったりムードの会話になっていた。
「おつかれさま!」
「おつかれさまです〜」
挨拶からはいって、今日はここがどうだったとか、ステージの話で持ちきりであった。
全員がなつきの淹れた珈琲を飲む。
「あ、チョコの味がする」
フィアナが気づく。
「隠し味です」
「ありがとう。なつきさん」
女性同士、仲良く話が進む。
「2月14日だからですね! 忙しくて頭から抜けそうでした」
「だめですよ〜。トークでは忘れてなかったから良かったですけど」
笑い合う。
禁煙解除でUNKNOWNはくわえ煙草である。彼は疲れていないようだ。
「こう言うのが撮れたよ」
坂崎が、カメラに納めた色々なフィアナとなつきUNKNOWNの姿をみせて話が弾む。
「これポスターに良いかもしれません」
「わあ! この姿ははずかしいなぁ!」
と、女性2人の反応が楽しい。
3人はフィアナの笑顔が、とても明るくて、また明日にむかって進める勇気を貰った気がするのであった。
片づけもひとまず終わり、別れとなる。
「今日は、ありがとう。あとでしっかりした写真を送るから」
坂崎がフィアナとスタッフに伝えた。
「はい、楽しみにしていますね」
笑顔のフィアナ。
前は疲れて眠ってしまったが、いまはだいぶタフになっているようである。
「今日は本当に、本当に‥‥楽しかったです。ありがとうございました。フィアナさん」
なつきはフィアナを抱きしめて礼を言った。
「こちらこそ、楽しかったです」
そして、UNKNOWNがフィアナを抱きしめて、頬にキスをする。
「‥‥さて、私も再びシカゴだ。また逢おう、フィアナ」
「はい。生きて戻ってきてくださいね、皆さん」
フィアナは笑顔で答えた。
「お体、大事にしてくださいね〜」
なつきが手を振って別れを告げる。
3人の姿が見えなくなるまで、フィアナは手を振っていた。
UNKNOWNとなつきは一緒に、坂崎は別の通りで別れる。
「そうそう。まだ時間は14日ですね」
なつきは、UNKNOWNに小さな箱をわたした。
「?」
それは細長い箱。
「お酒が好きだと言うことで、中にそれを入れたトリュフチョコが入ってます」
なつきは答える。
「ありがとう。なつき」
彼は、なつきの頭をなでる。
坂崎は、一枚一枚の写真を見る。
「やはり、やるべき事はやる、か。それがたとえ小さな事でも‥‥」
小さな勇気に、支えられて彼は決意を新たにした。