タイトル:【コミ】祭典マスター:タカキ

シナリオ形態: イベント
難易度: 不明
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/10 09:48

●オープニング本文


 バグアとの戦いは終わった。
 しかし、ヲタクの心は次なる戦いへと向かう。
 そう、コミック・レザレクション。ごく普通の同人誌即売会であるが、ヲタク傭兵にとって、大きな戦いの一つだ。
 『復興』を掲げ、今まさにその祭り(とかいて「たたかい」と呼ぶ)が始まろうとしている。


「小銭よーし。新刊よーし」
 エスティヴィア(gz0070)が念入りにチェックしている。少し化粧をしている。そして助手のコアーとともに大阪の会場へと向かった。
「終戦初のコミレザ。楽しまないとね」
「ですね」
 と、お互い今日の祭りを楽しみにしていた。

 一方一般入場列では、茶色のウィッグをつけ、帽子を被ってはサングラスをしているフィアナ・ローデン(gz0020)がいた。そして、ボディーガードのように彼女を警備しているリズ・A・斉藤(gz0227)がいる。
「相変わらず混んでますね」
「そりゃあ、色々ネタが入ったもの。皆、期待で胸を膨らましているの」
「関西地域の復興的な意味で?」
「どうだろ? そこまでは深く考えてないと思う」
「このお祭りがナッシュビルの復興の参考になればいいのだけどなあ」
「難しいとおもうよ〜。日本だから通用するんじゃないかな」
 フィアナはブランクがあっても一部では名が知れている。故にウィッグをつけて変装しているのだ。リズの方はと言うと一度ナッシュビルに戻って用事を済ませた後、フィアナに連れ去られるようにこの祭りに参加している。

『ただいまより、コミック・レザレクションを開催します』
 アナウンスが聞こえると拍手と同時に怒濤の足音が会場内に響いた。

●参加者一覧

/ ドクター・ウェスト(ga0241) / 葵 コハル(ga3897) / 辰巳 空(ga4698) / 秋月 祐介(ga6378) / 古河 甚五郎(ga6412) / アキト=柿崎(ga7330) / 葛城・観琴(ga8227) / リリー・W・オオトリ(gb2834) / 鹿島 綾(gb4549

●リプレイ本文

●快晴
 コミック・レザレクション開催には充分すぎ程の快晴である。最寄り駅は交通整理するほど人にあふれ、このイベントの盛況ぶりがうかがえる。行列を整理するのも一苦労だ。
 行列を並ばせる場所には進行方向や行列の幅を示すテープが貼ってある。カラフルなガムテープで。スタッフがいぶかしむのだが、それで行列整理がしやすいのでそれに従えと上の通達があったため従った。

 一方サークルでは【MODE−AUTUMN&ウェンラント工房】(【M&W】)ではスペース設置を無事終了し、購入者を待つだけとなった。
「LHから参加するのは最後なのに‥‥やっちまったのだぜ‥‥」
 リリー・W・オオトリ(gb2834)が口から魂を出して己の不覚を悔いていた。
「仕方有りませんよ。本当に何か思いつかなかったのですから」
 秋月 祐介(ga6378)(以降秋月P)は光の反射で眼鏡の奥が見えないような状態で答える。スペースには、『本日新刊有りません』と教授の達筆な時で書かれている看板をだし、別の看板で『スケブ受け付けます』とリリーの可愛い文字で書かれていた。
「それだよねー。でも、それでも在庫は残さない!」
 キリッと気持ちを切り替えるリリーであった。
「そうだね。私も頑張るよ」
 鹿島 綾(gb4549)が頷いた。
「わたくしもお手伝いできることがあれば」
 葛城・観琴(ga8227)がおっとりと答えた。

「声をかけてくる人はいないね〜。ま、そんなものだよね〜」
 幾度か姿が変化しない程度の覚醒をしては解除を繰り返しているドクター・ウェスト(ga0241)だが、周りはその行動に何の反応も示さない。全員が今回のコミレザに集中しているからだろう。彼の行動に異常を感じ取った何名かが避けているようにも見えるが。しかし彼は気にしない。覚醒の目的が『この会場にいる能力者を見つけ出す』ためだからだ。ペンサイズとはいえ超機械が他人の目に触れて騒ぎにならぬよう注意しながら、彼はしばらくそれを続けていた。
「後ろの方に、葵クンとリズという子だったかいるね〜。3km後ろには柿崎クンか」
 彼は背中に悲しさと、狂気にもみえる『信念』があった。

 医務室では辰巳 空(ga4698)が他の医師・看護士スタッフと打ち合わせをしている。今回はスタッフの募集は行われなかったが、医師である以上、辰巳には彼らに協力する意思があった。急病人が出ないことに越したことはないが、おそらく体調を悪くする人は来るだろう。そのために自分たちが頑張らないと行けないという使命に燃えていた。

 一般列では葵 コハル(ga3897)とフィアナ・ローデン(gz0020)、リズ・A・斉藤(gz0227)が並んでいた。
「何処まで続いているのかな?」
 リズが辺りと遠くを見渡す。すると先の方の列で1箇所だけ目立つ人を発見した。イタイ白衣をきたドクターだった。
「あれはードクターだね。何してるんだろ?」
 コハルが首をかしげる。
「そうだ、コハルは何故サークル参加しなかったの?」
 フィアナがコハルに何故サークル参加しなかったのか訊いた。
「それは、ヲタク魂的に許せなかったから。だって、色々あって新刊無いんだもの」
「そっか」
「コスプレ広場に行っていろいろな人と話したいな」
「いいね。行きましょう」
 きゃっきゃとフィアナとコハルがどうするか話し合っていたが、リズだけはぽつねんとなる。
「楽しそうなのはいいのですが‥‥」
「もう、リズさんもこの道に入っちゃえ」
「そーそー」
「そ、それは、むりですー」
 何度も参加していてもこの空気には慣れないリズであった。


●開幕
「これより、コミック・レザレクション開催をいたします」
 放送と同時に地面を揺るがすほどの足音が会場内に響く。そして、戦士達が戦利品を買いあさっていく。お目当ての戦利品を買い求めて進む。
「おおっと」
「きゃ!」
「よっこいしょ‥‥あたしコスプレで更衣室行くから! 待ち合わせ場所どうしよう?」
「エスティの所!」
「了解!」
 コハルはすいすいと波をよけて更衣室のある会館を目指した。
「さて、一先ず回ろう」
「え、あ、はい」
 フィアナに連れられてリズはついていくしかない。この波に攫われないだけでも幸運だ。
 その道すがら、辰巳に会う。
「こんにちは」
「こんにちは。健康管理していますか? 今度は体力などを付けてくださいね」
「あってはいつもいつも‥‥もう」
「あはは、ごめんなさい。癖でして」
 と、辰巳とフィアナ、リズは握手して挨拶を済ます。
「これからどちらへ?」
 リズが訊ねると、
「気分の不調を訴える人がいないか見回ってます」
「そうですか。頑張ってくださいね」
 そこで、辰巳とフィアナ達は別れた。

「はい、スケブ描きますよ〜」
 と、リリーが必死に午前にためたスケッチブックと格闘している。
「全部描き上げること出来る?」
 鹿島が心配そうにしてリリーに訊くとリリーが、
「なんのこれくらい」
 と、燃えて描いていた。
「凄い気迫だ! 我々も負けて入られん」
 秋月Pは既刊を裁いていく。時には新刊がないことをお詫びする。多忙な一日となりそうだ。
 鹿島や葛城も手伝うが、様々な相乗効果か、【M&W】の既刊が驚くほどはけていった。


 ドクターが顔見知りの他能力者にあっては挨拶してさっていく。その表情は作った笑顔に近かった。しかし彼は気にしなかった。彼にはある信念があった。極力そのことを口には出さないようにすると白々しい笑顔になるのだった。そこで出会ったのは、フィアナであった。後ろにリズがいる。
「やあ、元気にしているかね〜」
「はい、こんにちは。ドクター。‥‥でも、体大丈夫です?」
「気にしてくれてありがとう。我が輩は大丈夫〜」
「それならいいんですが」
 フィアナは不安になった。しかしドクターは、「大丈夫だ」と言い張るのでそれ以上のことを追求出来ない。
「そうそう、この【OR】イタイ白衣いるかね?」
「え?! くれるのですか?」
 フィアナは目を輝かせた。
「このイベントが終わった後洗って渡すとするね〜」
「ありがとうございます」
「では、元気でね〜」
 そうして、ドクターはフィアナとリズと別れてた。

 辰巳とアキト=柿崎(ga7330)とドクターにであったのはエスティがスペースを構えている会場の入り口であった。各々用事があって丁度であったと言っていい。
「やあ、ひさしぶりだね〜」
「お久しぶりです」
「おひさしぶりです」
 ドクター、辰巳、柿崎の順に挨拶する。
「ドクター。大丈夫ですか?」
 辰巳がドクターの様子がおかしいので、問いかけた。
「なにがだね?」
「顔色が優れないので‥‥」
「大丈夫だ。かまわないでくれたまえ」
「そうですか」
 と、少しばかり沈黙が訪れた。なぜ辰巳がドクターの体調を心配するかというとドクターの食生活にある。彼は一切の食事をカロリーバーとサプリメントでまかなっているからだ。異常なカロリーバーとサプリメント摂取は徐々に体を蝕む。それが表にでているのだ。
「「「これからエスティヴィアさん(君)の所ですか?(かね〜?)」」」
 ハモった。
「こうも同じ考えであると、不思議なおかしさがあるね〜」
 ドクターが少しばかり笑う。
「確かにそうですね」
「3人同時でと言うのは、あちらの迷惑になりそうだから、時間差で行きますか」
 柿崎が提案すると、
「それには異議はないね〜」
「同じく」
 と、ドクターと辰巳が頷いた。
「では、我が輩は別の所を遠回りでいくよ〜」
 ドクターは、笑いながら白衣をたなびかせて去っていく。
「では、私も迂回ルートでエスティヴィアさんの所に」
 と、辰巳も去っていく。柿崎だけが先にエスティの所に向かう事になった。

 そのまま、柿崎がエスティのサークルまでやってくる。
「おひさしぶりです」
「おお、本当におひさしぶりねぇ!」
 エスティは久々の友人に会い、嬉しそうだった。
「生きててなりよりよぉ」
 エスティは笑顔で柿崎に言った。
「心配してくれてありがとうございます」
 と、柿崎は少し照れた。
 柿崎は続けて、
「それと、その、今日は一段と綺麗ですよ」
 エスティヴィアを褒めた。
「え?」
 エスティがぽっと頬を赤らめる。
「あ、ありがと‥‥」
「は、ははは」
 大勢でいるところでの女性への褒め言葉、恥ずかしい! コアーが後ろで笑いをこらえている! 遠くでコハルと合流したフィアナがやってくる!
「えっと、その、この後教授(秋月P)の打ち上げまで、すこし付き合ってくれませんか?」
「え、ええ、いい、けど‥‥」
「はい、ありがとうございます! 今からコスプレしてくるのでまたお会いしましょう!」
 と、柿崎ダッシュ。早い!
「エスティ、なにがあったのー?」
 と、コハルとフィアナが声をかけると、
「デート誘われた‥‥」
 ぽかーんとした表情のエスティであった。
「ほうほう、春が来ましたか」
 KVシラヌイをモチーフにしたコスプレのコハルがニヨニヨしていた。

 直ぐに着替えて、ファントム仮面の柿崎が【M&W】にやってくる。
「お、久しぶりですな」
 と、秋月P。
「はい、久しぶりです。元気ですか?」
「ええ、元気にしていますとも」
 2人は握手を交わす。
「で、いつしかまた、一局お願いしたいですね」
 柿崎がそういうと、
「そうですか。容赦はしませんよ」
 秋月P、眼鏡越しに眼を光らせる。
「振り込みませんからね」
「あなたが振り込んだとき、国士無双で決めます」
 と、別の戦いの予定を入れていた。その戦いとは、麻雀のことだが。傭兵にはまだ戦いがあるらしい。

 一方、コハルとフィアナとリズはエスティのところで寛いでいた。スペースに入って。
「いやー、柿崎さんがまたキンチョーする姿を見られたらいいねー」
 と、コハル。
「そのためにここに居座るつもり?」
 エスティが怪訝な顔をする。
「冗談冗談!」
 と、一息ついたところで、コハルとフィアナはエスティと少し歓談の後、去っていった。


●コスプレ広場
 コハルと柿崎はコスプレ広場で再会する。
「シラヌイのコスですか?」
「うん、そっちは?」
「ファントム仮面というキャラです。ぶっちゃけると私のコスプレ姿がそれになるわけですが」
「ほうほう」
 と、2人はコスプレ談義にはまっていく。写真を頼まれると、2人は気前よくポーズして被写体になった。また、トラブルが起きそうになるとすぐさまスタッフを呼ぶなど迅速な対応をした。
「ところで、葵さんは将来どうするつもりですか?」
 柿崎がコハルに訊いた。
「ところでさ、コハルは大きな戦いは終わったけどどうするの?」
 フィアナもコハルに尋ねる。
 するとコハルは、
「しばらく、世界のゴタゴタが落ち着くまでは能力者続行かな。その後に大学行って資格をとるつもり、幼稚園教諭のね」
 コハルはにぱっと笑う
「そっか。たいへんだね。がんばってね」
 フィアナはコハルの手を握る。
「でも、フィアナのライヴの時は呼んでね。絶対手伝うから!」
 と、コハルはにこりと笑った。
 柿崎はフィアナ達にお年玉として幾らか上げて喜ばれた。


●夢破れる
「そ、そんな! がんばって、がんばって‥‥うおおお」
 古河 甚五郎(ga6412)が丁度会場の中心地になるところで愕然としていた。
 様々なガムテープを貼っては誘導をしていたのは彼だった。最後列プラカードをガムテープでつくり、誘導テープをガムテープでつくり、それに熱中していたあまり、新刊は売れているか、または各サークルは撤収しているかであった。つまり間に合わなかったのである。
 泣き崩れる彼の肩にそっと手をおいたのは、所用で席を外していた、秋月Pだった。
「君のしたことは、尊敬に値する。しかし、計画性を持って挑んだ方が良かったんだ」
「教授‥‥」
「例えば誰かに頼むとか‥‥いや、それも難しいかもしれませんが‥‥」
「‥‥」
「何も言わない方がいい。終わったら鍋でも食べようではないか」
「‥‥はい」
 うつむき古河は涙した。


●終わりのあとの悲喜交々
 ドクターは、一通りの知り合いに出会って挨拶を済ませた後、会場を背にしていた。
「これからどうなるのだろうね〜けひゃひゃひゃ」
 と、不気味に笑いながら去っていた。

 辰巳は秋月P達と合流し、宴会の鍋を行う前の、お茶会をしていた。
「フィアナやエスティヴィアさんが来るのは、あと少しありますね」
「私は飲めないけど大人しく」
「それは人生の半分を損していますね。日本酒は旨いですよ」
 と、秋月は言った。イベントが終われば、Pではなくなるのだ。
「よく言われます」
 辰巳は苦笑した。
 古河は泣くのを止めて落ち着いていた。リリーはスケブの山に勝利し、パフェを食べていた。足下にはそこそこの量の本が入った紙袋がある。
 そしてコハルとリズ、フィアナが合流してまた雑談になった。

 柿崎とエスティは海を背景に歩いている。潮風が寒くてエスティは身を震わせた。すると、柿崎がマフラーをエスティに巻いてあげた。
「え?」
「あの、聞いてください‥‥」
「うん」
「あなたのことが好きです」
 決死の告白。
「‥‥。もう、遅いんだから‥‥」
「え?」
「私も、あなたのことが好きよ‥‥これ以上言えない‥‥」
「‥‥ありがとうございます」
 と、自然と2人は顔を見合わせ、抱きしめ合った。

 そして、柿崎&エスティが秋月達と合流したのち、店の方に向かう。
 そこで、リリーは呟いた。
「何か疲れた‥‥。歳かな‥‥。でもボクはまたこの戦場に帰ってくるよ。ボクはまだ登り始めたばかりだからな。この同人坂という果てしなく長い坂をよ‥‥」
 このあと、鹿島が酔って暴走したり、リリーや葛城、コハルがかいがいしく酌をしたり、秋月がほろ酔いになってとんでもない事を口にしたりといつもの日常が待っているだろう。

 その宴が終わった後のLH。
 秋月と葛城だけになった。
「僕はね‥‥全部終わって戻ってきたらもう一度‥‥って、言ってたけど‥‥」
 と、訥々語り出す。
「その機会がこういう時になっちゃうっていうのは、やっぱり情緒が無い‥‥かな」
 苦笑混じりに秋月は言った。
「でも、戻ってこられました」
 葛城が微笑む。
「そうだ。こうして二人で戻って来られたからこそ、これから、二人で落ち着いていられる様にしたいかな‥‥」
「はい、わたくしもおもってます」
 葛城は笑顔のままで秋月の言葉を待っている。
「そうだ、僕にはもう戻るべき場所があるからさ‥‥」
 秋月は葛城を抱きしめた。
「ええ、有ります。わたくしの胸の中に‥‥」
 彼女は大事な彼を包み込むように抱きしめ返した。
 おそらく、2人は結ばれるだろう。これがプロポーズだと思うからだ。


 こうして、冬のコミック・レザレクションは終わった。しかし、この祭りが終わることはない、まだまだ続いていくのだ。創作文化が潰えることはない。