タイトル:【リズ】空飛ぶ風船 1マスター:タカキ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/08 03:29

●オープニング本文


 ナッシュビル周辺はまだバグアに占領されている。
 しかし、数年前に傭兵達に救われたリズ・A・斉藤(gz00227)は、心を癒し傭兵となって力をつけてきた。そして義勇軍を構成し、数ヶ月前に強制収容所を開放。その功績がUPCに認められ、よりいっそうの援助を〜資金、軍の部隊の援護、SES兵器と能力者の育生等々〜受けることが出来るようになった。それによって、小競り合いは傭兵の力なしでも対応することが出来、周辺を徐々に解放していく快進撃であった。この結果、この数ヶ月で北半分を解放した義勇軍。この勢いに乗って中央に位置するナッシュビルをいつ解放しても誰も異論は唱えなかった。もちろん義勇軍の軍隊長であるリズを発足時から彼女を支えて来たジョセフ達が慎重に動いていた。リスターも軍に認められたことでか、頑なな傭兵に対しての非協力的だった態度も薄れていった(失恋したと言う話は、数が少ない義勇軍の中では周知の事実になっており、たまにからかわれる)。
 そして、この日。リズは幹部やUPCの兵士、そして傭兵を呼び、大きな作戦会議を開いた。
「リリアが死に、ギガワームも墜ちました。この気を逃す手はないでしょう」
「では?」
「はい、ナッシュビル解放作戦『フライング・バルーン』について作戦を練ります」
 と、リズは真剣な眼差しで全員を見つめた。

 ナッシュビルを支配しているガドルは面白くない話であった。
「なにをしている!」
 執務室のテーブルを叩き、目の前にいるアーベストを怒鳴りつける。
「命令したとおりに、あの小娘がつくったゲリラをどうして壊滅できんかったのだ!」
「もうしわけありません」
 アーベストはただ、無表情でガドルに謝るだけであった。そこで何かしら言い訳をし、自分の無能さをガドルにさらし出せば、ガドルの怒りはわずかだが収まるだろう。しかし、アーベストはしなかった。そう、既に彼はガドルに対して畏怖や忠誠といった物は無いのだ。
「リリア様は戦死なされ、我らが動かなければという時に!」
 ガドルはイライラと執務室を歩き回る。少し太った体は強化人間となったとは思えない見苦しさを見せている。
(何もせずにこもっていたくせに!)
 アーベストは心の中で怒りを燃やしていた。今までの作戦は確かに失敗した。おそらく自分に落ち度はないだろう。相手のほうが一枚上手だったのだ。そう、今ではリズを捕らえる事には何の意味もない。彼女はもう熟練の指揮官であり各地で暴れている傭兵と同じ力量を持っている。そして、故郷解放の思いが強い。ならば、殺し、その首を義勇軍に見せつけることが最もいいことだ。その後ここが解放されても知ったことではない。中米へ逃げる手もある。彼はそう思っていた。しかし、目の前の豚は許せないでいた。
 しばらく、ガドルの罵詈雑言を黙って聞き、退室を命じられた彼は恭しく去っていく。しかし、そこで全体に警報が鳴った。
「なにごとだ?!」
 ガドルは通信回線で警備に呼びかける。
「大変です! 義勇軍がKVと歩兵の混成部隊で向かってきます!」
「な、んだと!」
 ガドルはよろめき壁にもたれか掛かる。
「いかがなさいましょう?」
「ええい! ここを! わしを守れ! いいな! わしに指一本触れさせるな! リリア様に預かったこの土地を渡してたまるか!」
 ガドルは慌てふためきながらアーベストに指示を出した。しかし、支離滅裂に聞こえる。アーベストは心の中を隠しながら恭しくお辞儀をしてから執務室から立ち去り、持っている通信機で各部署に通達する。
「一般の人間は一度シェルターに避難。しかし強化人間は死を賭して戦いなさい」
 と。

 時間は作戦会議までさかのぼる。
 リズの立てた作戦は、一部隊が遊撃部隊として、ナッシュビルの防御を突破し血路を開くこと。UPCも義勇軍も一部遊撃部隊として参加している。ナッシュビルの防衛は初期(大規模作戦【PN】時)のHWやゴーレム、生態ワーム各種が総計で120あるかないかである。これら全部を撃破させる訳ではなく、重要なのは防壁であった。防御はCWの壁で成り立っており、能力者達を苦しめる一因となっている。故に、誰かがこの壁を破壊しないことには義勇軍は中へ入っていけない。KVの出撃許可も出ている。
「だれが、KVに搭乗してCWの壁を壊してください。他に良い案があれば、その案を採用出来るでしょう」
 つまり、各人が希望の役目を担い、全力を尽くそうと言うことだ。
 決行時間を明け方とするという事までまとめると、リズと義勇軍幹部は義勇軍全員を広場に呼び、作戦内容を伝え、檄を飛ばした。
「いまから、作戦名『フライング・バルーン』を開始します! 私たちはともに手を取り合い、故郷を取り戻しましょう! 力で支配してきたバグアを倒し、自由を勝ち取りましょう!」
 と。
 広場に集まった義勇軍、UPCの派遣兵が一斉に喝采を上げたのだった。

 いま、ナッシュビルの大きな戦いが始まる。

●参加者一覧

ベル(ga0924
18歳・♂・JG
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
時雨・奏(ga4779
25歳・♂・PN
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

●遠くから眺め
 壁を突破するための戦いが今始まった。
 ほとんどの義勇軍と派遣UPC軍が、今からで言うと旧式のワームやキメラと戦っている。爆音と金属音、奇妙な音が戦場に響き渡っていた。
 傭兵達のほとんどが、壁に到達し破壊をする役目に乗り出していた。なので、突破口が開かれるまで待機の状態である。戦況は優勢。そろそろ出撃できるだろう。
「出逢いから決戦までのこの期間。長いのか短いのかは分からないが、充実していたことだけは確かだな」
 リゲルに乗っているセージ(ga3997)がリズ・A・斉藤(gz0227)に向かって言った。
『人は変わるものです。皆さんが勇気を与えてくれたから』
「そうか」
 リズの答えにセージは満足そうだ。
「ここからが踏ん張り時です。必ず解放しましょう」
「ええ、悠さんお願いします」
 鹿嶋 悠(gb1333)からの通信。リズは安堵する。心が落ち着き、冷静に群を指揮している。その声がKVのコクピットの中に届くと鹿嶋は嬉しくなった。
「リズさん‥‥をかならず‥‥まもり、ます」
 ルノア・アラバスター(gb5133)がRote Empressからリズに言った。
「ありがとう、ルノアちゃん」
「‥‥あ、はい‥‥」
 リズの優しい声にルノアは少し頬を染めた。期待されたことが嬉しいのだ。
 ベル(ga0924)というと無言で、リズがいる陣近くにシュテルン・Gを配置し、いつでも敵を迎撃するように構えている。
『鈴葉・シロウ(ga4772)です。これから壁を破壊するため、皆さんには守っていただきたいです』
 シロクマは、傭兵の壁破壊部隊の防御を担当する部隊に最終確認の通信をしていた。基本的に大きな盾などで防御して貰うのである。いくら高性能に強化したKVでも、1つの作業に特化した装備にしたら戦場の耐えられないためだ。
「はい! 了解!」
「わかりました!」
 男や女、いろいろな声で返事がくる。
『で、もう一つお願いが』
 シロウは、イメージしてある事に相応しい女性に通信を入れた。
「なんでしょうか?」
 声、口調、イメージ通り。
「『私があなたを守るから』と言ってください」
「?‥‥私があなたを守るから‥‥?」
 相手は不思議そうに思ったが、素直にシロクマに言うと、シロクマは満足そうな顔をして「ありがとう。元気出るよ」と返事する。
「クマさん。アホな会話を義勇軍にしないでください」
 リズが数名用の通信でシロクマにつっこんだ。
「さすが、フィアナさんやエスティさんに鍛えられていることはあるネ。冗談はこれぐらいにして、と」
 シロウはキリリと顔を引き締めては操縦桿を握る。それでも毛皮のふさふさは変わらない。通信からは鹿嶋とリズから苦笑が漏れていた。
「さて雷電・飛熊。士魂・飛熊へ全てを受け継いでいく、その前に。最後の仕事をしていこうか」
 彼は言う。
 シロウなりの冗談(割と本気だが)が終わったところで、セージが全体通信で言った。
「さあ、取り戻そうか。故郷を、誇りを。そして、希望を」
 セージ、シロウのKVが義勇軍とUPC軍の混成部隊とともに門へ向かって行く。
「リズさん、幸運を」
 と、鹿嶋はリズに言い、壁の破壊部隊とともに向かった。
「悠さんも。気をつけて」

●危険な偵察
 戦場は2km以上にも及ぶ。
 時雨・奏(ga4779)が1人で中腰になりながら戦場を迂回し、門の方へとすすむ。何があるかを知るためだ。
「ネット掲示板は無理で‥‥軍用の通信網だけか」
 ここには、人類側のネットレベルの通信環境は皆無である。純然たるバグア領故だ。
「あーあーどもーかなちゃんの実況チャンネルやでー。UPC、義勇軍、傭兵の面々、今から突入するんで、次のタイミングで一斉攻勢よろしくー」
 と、ある程度近くに向かっては軍用無線機で通信する。
 しかし、すすむにつれて、何かがおかしいと感じていた。
「ん? 返事あらへんな? いや、キューブ・ワームの妨害電波の所為か?」
 無線機自体に故障はなかった。情報が拾えてないのだろうか、不安になる。しばらくして、『偵察を続行せよ』とジョセフからの通信が入った。
「んじゃ、やりますか」
 彼は近づいてみていく。確かに壁は鉄筋コンクリートで出来ており、バラバラに四角い穴があった。そこにCWがうごめいているのだ。
「CWかあ、どうりで頭痛いわぁとおもったわ」
 見張り塔などがあり、そこに迎撃用の砲門があるのは分かった。しかし、大きさからすると初期KVには通用しそうな昔の物のようで、壁と門を壊す部隊にいる傭兵のKVでは傷一つ付けられなさそうに思えた。
「ふむ、隠し砲台発見‥‥。ほかには‥‥」
『他にはないと言おうかね?』
 聞き慣れない声が無線機から聞こえた。
「え?」
『情報は流しているのはかまわないが‥‥君は1人で出しゃばりすぎですね』
 慇懃な男の声。おそらくここを守る幹部なのだろうと時雨は思った。
「予想より早く見つかったようや‥‥」
 彼は冷や汗を掻く。
「ここまで、1人で来たことを悔やむがいいでしょう」
 砲門が開くがそれは迎撃砲が出てくるほど広く開かなかった。そこから、蚊が鳴くような音が数発。
 時雨は音の原因を肩、足、右胸に食らう。
「‥‥狙撃手‥‥?!」
 もし左胸に当たっていたらと思う前に彼は、獣の皮膚と瞬速縮地を使って狙撃範囲から離脱し、
『歩兵は危険‥‥隠し砲台のほか‥‥狙撃手‥‥あり‥‥』
 と、必死に報告しその場で気絶した。


●下からの驚異
 時雨からの報告を受け、情報管制担当のジョセフ達は狙撃に備えて遮蔽になるよう、KVを立たせたり、土嚢を積み上げたりしていく。リズはウーフー2に乗っているため、狙撃の心配はないが、砲台の犠牲にならないようにルノアとベルが前に立っている。軍はKVのスナイパーライフル系兵装が届く所まで迫る。しかし、それは相手も同じ射程距離に入ったと言わざるを得ない。隙を突かれたら終わりだ。
 軍の士官、義勇軍の士官クラスのリーダーが狙撃され内容に対策を取る物の、強化人間が狙い撃ち、次々と倒れていく。通常の砲台が地面を抉っていくため、土煙が舞いそれが遮蔽になって見えなくなっているのだ。
「‥‥このままでは‥‥」
 ベルがスナイパーライフルRを構えて、どこの砲門から狙撃をしているか、調べていた。
 Rote Empressが機盾「ウル」でワームの砲撃や壁の砲門からリズのKVを守る。相手は既にリーダー機を見つけたようなのだ。
「‥‥ベルさん‥‥はやく‥‥もたない」
 ルノアが操縦桿を握りしめて、止まらない砲撃からの衝撃耐えている。
「‥‥みつけた!」
 ベルはわずかに光った点を見逃さず、シュテルンがスナイパーライフルRを構え撃つ!
 砲弾は爆発して中破し、防護壁はなくなる。そこから人影が落ちていくのを見た。狙撃手を倒したのだ。補充要員がくるまで、あの壁の砲台は無力化されるだろう。
「では‥‥、CWを一つずつ狙い撃っていきます」
 ベルはシュテルンを操り、鹿嶋達がすすむルートにあるCWの埋め込まれている穴に狙いを定めていき、確実にうち倒していく。
「あったまいてー! って、だんだん収まってきましたね」
 シロウが雷電・飛熊のドリルなどでキメラやワームをなぎ払い、突き進む。
 鹿嶋の帝虎が、試作型「スラスター・ライフル」とファランクス・アテナイで邪魔なキメラとワームを一掃していく。その周りで、混成部隊が盾で防御したり、挟撃を阻んで2機を防御したり、連携のとれた行動を取っていく。
「あの地点だ!」
 軽やかにセージのリゲルが、周りの敵をなぎ払いながら、破壊ポイントを指し示す。帝虎がG44の1発を打ち込み、キメラを一掃。残ったワームやキメラは混成部隊の1部と交戦する。その隙に飛熊とリゲル、帝虎が走った。

 その時だった。

 待っていたかのように、地面が揺れる。
「な‥‥なんだと!?」
 3機は転がり、受け身を取る。その先にあった物は‥‥。
 敵味方問わず不気味な口をあけて喰らい尽くす、アースクェイクの姿だった。見るからに餓えており、目に映る物を喰らわんとしている。3機や他のKVも回避はするが、暴れる体に当たっては吹き飛ばされてしまう。暴れ回っているために、一端間合いから離れるには伏せて移動するしかなかった。
「くっ! シロウさん下がって!」
 帝虎が前に出る。あの巨体が止める方法は分かる。しかしかなり分の悪いかけだ。あの巨体故にいくら強化したKVでもあの謎の皮膚から奥へ致命傷を負わせることはかなり難しい。あれがまた地面にもぐり、リズの方へ向かったら大変である。

「下への、警戒は、した。はず?」
 ルノアが義勇軍やUPCに地下からの対処を頼むと申請はしていたが、
「壁ギリギリの所で、かなりもぐっていたみたいね‥‥」
 リズが冷静に出た位置から見る。数機は地殻計測器を設置をしていたが、十分とは言えない数だ。その感知エリアはそれほど広くなく、また、直接感知できるのは設置した機体のみだったため、アースクェイク接近の警告が間に合わない場合もある。

 鹿嶋は動いた。
 暴れ狂うワームの口が目の前までに来る‥‥。
「鹿嶋!」
「伍長!?」
 食われる刹那、試作型「スラスター・ライフル」とG44を同時に発射! 轟音とともにワームの口と頭部は破裂する。しかし、帝虎の装甲は数多の牙でぼろぼろとなっていた。
「まだ動ける! いくぞ!」
 気合いを入れて帝虎が走る。あのワームが暴れた結果、門が丸見えだ。
「壁があるならブチ抜くまで。そう、私のドリルは道をつくるドリルなのだからっ」
 シロウが叫んで、そのままドリルを門と一緒に壁に突き刺した! その間に後方から来る残ったワームが襲ってくるが、リゲルと、生き残った混成部隊で抑える。
「まだだ!」
 流血しながら鹿嶋がC−200を壁に向かって全弾射出!
「「いっけええ!」」
 爆音と壁の崩壊音が轟く。
 その攻撃によって、見張り台もろとも壁が崩壊した!
 その時点で、ワームとキメラは急遽崩壊した壁へ向かうが、リズやルノア、ベルなどの後続KVや、リスターが率いている歩兵部隊が蹂躙し、外にいるバグア軍は散り散りになった。
 意外な敵に苦戦はしたが、壁を破壊する事で、他の所に埋もれていたCWは活動を停止し、無害な物となった。

 壁の破壊という任務は達成できた。しかし、予想より被害は大きかった。

●陣と小休憩
 壁の一部が崩壊しただけで、次は中央にある蟻塚塔を目指さなければならない。
 巨体のアースクェイクを壁にして、そこに拠点を建てるリズの義勇軍。何故そんなことをと言うと、「使える物は使わないと」と答えが返ってくる。
「夏場じゃないから腐るのは当分後とおもうし」
 とも。
 戦線を義勇軍とUPC軍の交代制で維持しては、各自KVの整備と怪我の手当を済ませていく。時雨だけは、直ぐに病院へ向かわなければならない大けがで、高速移動艇でラストホープまで緊急搬送された。
 鹿嶋は帝虎が大破しており、応急処置はした物のKVでの継続戦は難しくなっている。会議テントの中でリズが自ら彼の傷を手当てしてくれた。
「まったく、無茶するんだから‥‥」
「す、すみません」
「でも、迫る危機から守ってくれてありがとう、悠さん」
 優しく、鹿嶋の手を握る。
「今度も守ってみせます」
 鹿嶋はしっかりと、答えた。

 支給されたレーションで遅い食事を摂り、次の解放作戦について各々が考えて行く。
 リズはルノアとの再会を喜んでは、ゆっくりとお話をしていた。作戦会議はまだ後の話である(今は、義勇軍幹部が全体の指揮を執っているため、リズは休憩中なのだ)。
 シロウはと言うと、「守るから」と言ってくれた女性を見つけては、さりげない談笑を試みる。しかし、男達に囲まれて、談笑はかなわなかった。なにせ、壁を破壊した功労者なのだから男達にあこがれの対象となったのだ。
(わ、私は‥‥あの、あの女性と‥‥話が‥‥したかったんだ――っ!)
 シロウは心の中で叫んだ。

 まだ戦いは続く。