●リプレイ本文
●集合
大阪駅の集合場所として有名な某所で8人は落ち合うこととなった。
「にゅふふふふ、温泉なんてひっさしぶりー♪ それに復活したフィアナとエスティも一緒ならなおさら楽しいよねー」
葵 コハル(
ga3897)がフィアナに抱き付いては、猫のような口になって(いわゆるω)笑っている。
「お久しぶり、コハル」
フィアナ・ローデン(gz0020)はにっこりと微笑んで彼女を抱きしめ返す。
「わざわざ誘ってくれてありがとうね、フィアナさん。正直この頃殺伐とした依頼に出ることも多かったから、骨休めが出来るのはありがたいわ。フィアナさんからのせっかくのお誘いだし、一緒に楽しみましょうね」
「はい、カグラ」
小鳥遊神楽(
ga3319)がフィアナに挨拶して、軽いハグをする(コハルは直ぐに離れたが、また抱き付く準備をしているようだ)。
「エスティヴィアさんとは初めましてね。小鳥遊神楽よ」
「エスティヴィアよ。初めまして。エスティでいいわよぉ。呼びにくいし」
実は、神楽とエスティヴィア(gz0070)は初対面だった。フィアナが凄く驚いている事が少しおかしかった。
「フィアナさんとは、音楽で知り合った親友なの」
「ほほう。こっちはヲタク文化で知り合ったの」
と、知り合ったきっかけは違うのだが、固い握手をかわす2人だった。
そして、
「抽選じゃなく直接取りに来ても良かったのに」
「ねぇ」
フィアナはエスティと一緒によく知っている男性陣を見た。
「‥‥いえ、それだと抽選枠が狭まると思いまして‥‥」
「私より、ほら、相応しい人がいると思いまして」
「先日は悪い事をしてしまったかなと思って」
ベル(
ga0924)、辰巳 空(
ga4698)、鈴葉・シロウ(
ga4772)がそれぞれ事情を言った。辰巳だけは、全く違うルートできていた。
「でも来てくれてありがと」
フィアナが軽くベル達と握手する。
「あの、怒ってませんか?」
シロウはちょっと、おどおどとフィアナに訊ねるが、フィアナはきょとんとして首をかしげて、
「なにかありましたっけ? でも、先日はありがとう、クマさん」
「フィアナさん、なにかイイことあったのかな?」
白クマは彼女に尋ねると、
「気分が楽になってるって、所かしらね。充電長いけど」
フィアナは笑って答えた。
「お久しぶり。エスティヴィアさん。【西研】ジョー・マロウ(
ga8570)です」
「お久しぶりねぇ」
ジョーとエスティは握手を交わし、1年前の再会をする。少し顔を合わせた程度であまり面識はないが、ジョーにとって知っている人物は彼女ぐらいしかいない。ただ、『女性好き』として、すでにフサフサ白熊顔になっているシロウとは何か通じ合う物があるようだ。
「ところで、フィアナは歌姫として存じていますが、エスティヴィアとあのOTAKUイベントとしてどう言う関係が?」
ジョーは一見、何も共通点がないフィアナとエスティを見ては率直な疑問を口にした。
「それは、同じ趣味だって分かったからだよね」
「そうそう」
フィアナとエスティはHAHAHAと笑った。
「な、なるほど」
「そろそろ、電車の時間だし。それは旅をしながらでいいかもね」
神楽が、荷物を持って出発を促した。
「そうね。それでは、出発!」
フィアナが言うと、それぞれ返事をして旅が始まった。
ジョーはこの旅の間に、フィアナやエスティ、そして傭兵達の簡単に教えて貰った。
●温泉宿
8人がローカル電車から降りた。ラスト・ホープをはじめとする大都市や学園都市エイジアのような賑やかさが無く、自然にあふれた場所であった。降りた駅も無人駅だ。
「うひゃー。空気が冷たいけど美味しい!」
「ほう。アメリカでは見られない。これが日本の自然だね」
荷物を持って、旅館へとむかう。
その旅館は古びた建物だが、手入れが行き届いているため綺麗に見える。年を積み重ねたある種の気が、一見さんである8人を躊躇させた。
「こんにちは〜」
全員で挨拶すると。既に待っていた女将と仲居達に「いらっしゃいませ」と出迎えられ、心の中で圧倒された。特にアメリカ人勢は、あまり体験したことがないのでなおさらだった。
仲居達にそれぞれの部屋に案内される(もちろん、男性陣と女性陣を分けて)。
部屋はなかなかよく、窓からこの地域が一望できた。コハルとフィアナは急いで荷物を部屋の隅に置いてから窓を見て、
「うわー! すごい! すごい!」
子供のようにはしゃぐ。
「先に温泉に入る? それとも?」
神楽が訊ねると、フィアナはしばらく考え、
「うーん、まずは散策かな?」
「わかった」
と、女子組は大方決まっていた。
「エスティはどうするの?」
コハルがエスティに訊ねるのだが、
「畳が気持ちいい〜。わたしはゴロゴロしてるから、好きにしてて〜」
彼女は完全にたれていた。
「本当にエスティはアメリカ人?」
神楽とコハルがフィアナを見て訊くと、フィアナは肩をすくめるだけだった。
「憧れていたんでしょう。畳文化」
「そっかー。それじゃ、温泉とご飯の時ね」
「あーい」
コハルと神楽、フィアナは旅館の周りを散策する。
一方、エスティだけがたれている訳ではなかった。
男性陣の部屋でも(間取りと景色は女性陣と同じ)、白熊顔の人間が一匹たれている。シロウであった。
「畳が極上だね〜」
もう、動く気がないシロクマ。タレクマ。鞄の中には仕事で出来なかった長時間プレイを必要とするゲームが詰め込まれていた。
「‥‥それ、2〜3泊で全部‥‥?」
「そのとーりだよ。ベル君」
たれながらしっかり返事を返すクマ。
「‥‥俺、一寸眠い‥‥。先に温泉入ろうかな‥‥」
ベルもクマのだらしない姿を見てか、目をこすり始める。
「おいおい、ONSENに来て、なにしてるんだよ?」
「旅館はゆっくりするところですから、くつろぎ方はそれぞれです」
ジョーが疑問に思っているところ、空が日本旅館での過ごし方を教えた。
●それぞれのくつろぎ方
ベルとジョー、空は先に温泉に入る事にした。
服を脱いでは、ジョーは一気に浴場を走って温泉に飛びこもうとするが、空に止められた。
「ここはプールじゃないです」
と、注意を受ける。
「ナ、ナンダッテー! ‥‥Sorry」
空がジョーに温泉の入り方を教えていると、彼は「ムズカシイネ」と答えて難しい顔になっていた。
「彼の通りにゆっくり入るのが良いですよ」
と、空がベルを見る。
ベルは湯を浴びてから体を洗い、ゆっくり入っては、ため息をついた。
「ため息も真似るのか?」
「いや、アレは自然に出る物なので‥‥。あ‥‥」
少ししたら、ベルがぶくぶくと沈んでいくではないか。
「おぼれる! おぼれる!」
気持ちが良すぎてベルは寝てしまったようだった。ジョーと辰巳で救い出す。
「OMG」
「ありがとうございます。きもちよくて、つい」
苦笑してベルが礼を言った。
一方コハルと神楽、フィアナは旅館の中庭を散策している。
「綺麗な日本庭園〜」
フィアナは、あまり見ない世界に魅せられて感激のあまり早歩きになっていた。
「温泉や夕食まで時間があるから焦らなくて良いんだよ?」
コハルがニコニコとフィアナに声を掛ける。
「だって〜、こんな綺麗な庭が素敵だもの」
フィアナは笑う。その笑顔が、2人の心にある種の不安をかき消してくれた。そう、ふさぎ込んでいた時の彼女がいない。
景色を味わった後、その庭を歩きながら、音楽の話になっていった。3人とも音楽関係者なので自然と音楽の話になる。
「いまは忙しいけど、じっくり楽しく歌えたらいいな」
コハルが言う。
フィアナは、今はレッスンを主にしとり、作詞作曲は今のところ順番を遅らせているという。声は出ても想いを伝える歌を作るまで回復はしていないのだろうと、コハルと神楽は思った。
「歌なんてどんなきっかけで生まれるかなんて分からないんだし、いろいろ普段とは違う風景を見てみるのも悪くないんじゃないかしら? まあ、これはあたしの流儀だし、フィアナさんはフィアナさんなりのやり方があるんだろうけどね」
神楽は微笑みながら、フィアナにアドバイスをした。
「だね。今日はゆっくりとしようよ」
「だよね!」
そして、エスティと浴場で合流し、温泉につかる。
「うはー! 気持ちいい!」
コハルが湯につかっての第一声。声がでかい。
「年寄り臭いわよ」
「気持ちいいもん」
「そうね、気持ちが良いわね」
神楽が小さくため息をつく。適温でかつ体が暖まる。
「気持ちいいー」
フィアナとエスティヴィアはくったりとなっている。コハルはその隙を突いては、フィアナに抱き付き胸を触ろうとする。
「きゃああ! コハルなにするの!」
「ふーむ、あまり成長してないね。ところでフィアナ‥‥」
「な、なに?」
フィアナは何か不安になる。
「エスティも含めて彼氏との進み具合はどうなのかなー?」
「それ、それは黙秘します!」
フィアナは真っ赤になって抵抗する。
「とりあえず、フィアナは爆破しろ。私はそろそろ失礼するわねぇ」
エスティはそそくさとコハルの質問から逃げる為、そそくさと逃げていった。
(1〜2年会えてないなあ。どうしようかしらねぇ)
と、エスティは考えながら、指にはめている【OR】イルカのピンキーリングを見つめた。
「あー! エスティ酷い!」
「さあ! さあ!」
コハルの攻めに太刀打ちできないフィアナを神楽は苦笑して見ているしかなかった。
(こっちに向けられても、困るし)
シロクマの方はというと、ゲームをセットした後に温泉に入る事にする。しかし、そこで見た物は‥‥。
「‥‥1時間ぐらいつかってないかね? ベル君」
そう、ベルはいわゆるぽに状態でゆっくり温泉につかっていたのだ。
「‥‥湯あたりしようにしているから大丈夫〜‥‥」
ベルの性格は、平穏なとき、こうした脱力した感じなのかとシロクマは思った。
「‥‥覚醒していたらつかれますよ〜‥‥」
「なに、これは『ぽりしー』なんですよ」
キリリと返すシロクマ。
そこで、女湯の方からキャッキャと声がする。傭兵の耳を持ってすれば、かろうじて聞き取れるぐらいだ。
「コハルとフィアナさんか、‥‥これは胸のサイズを?」
「‥‥」
「こら少年。耳をふさぐな。これは重要な事だぞ」
「‥‥ききたくないです〜‥‥」
「ふむ、恋人との進展具合か‥‥黙秘とは。エスティは逃げましたね‥‥?」
変態紳士としては聞き耳を立てるところだが、シロクマは紳士故に無粋な真似はしなかった。
(そのあと、コハル君に訊けばいいからね)
●宴会と
一行が温泉につかり終えた頃には夕食時だった。男性陣の部屋に料理が並べられ、お酒やジュースもあり、ベルが苦手な炭酸飲料はなかった。好き嫌いはチェックインの時に訊ねられていたためない。肉推しのエスティの為にお肉料理が多めであるが、海の幸山の幸と沢山彩られていた。
「おいしそう!」
「Oh!」
コハルは食べながらもお酌をし、ジョーをねぎらう。
「おお! これぞジャパニーズ!」
「シロウさんもどうぞ!」
「手酌派なんですが‥‥少しだけ」
シロウは数回だけ、コハルの尺を受け取り後は手酌に変わった。マイペースに飲めるからである。
「日本の酒はこういう味か‥‥」
ジョーは初めて体験する日本酒の味に驚く。慣れないかなと思い、しばらくしてからビールに切り替える。
「WASABI、きっつー」
初わさびも体験。辛さで悶える。鼻に来る辛さはフィアナやエスティも慣れていなかった。わさび抜きでも良いように受け皿などから分けてはいたが、「体験したい」という訳でやってみたら、凄く辛かったのだ。
ベルは、始終無口にジュースを飲んではご飯を食べる、マイペース。空も酒が飲めないようで、ジュースであった。
「今年始まったばかりだけど、君たちのような女性と知り合えたことが最高の出来事だ。俺は運がよかった」
「それは、どうもありがとう」
社交辞令的な挨拶で女性陣は返すが、
「あたしが抜けてる」
「だって、きみはこど‥‥え?」
フィアナはビールを飲んでいて、ジョーを驚かせる。
「未成年じゃ?!」
「外見で見ないで欲しいです。お酒は大丈夫でーす。実年齢は乙女の秘密ですけど」
フィアナはウィンクして返した。
「な、なんと‥‥それはすまない」
このあと、カラオケをしたり(アニソンが多かったのは気のせいだ)、アナログゲーム大会をしたり、皆で楽しめる遊びをして、1日が終わる。
●ゆっくりな休日が終わり‥‥
残り1日は完全に自由時間になり、それぞれの休暇を過ごすことになる。シロウは積みゲーの消化にいそしむ中で、空やコハル、エスティとフィアナはゲームで楽しんだ。ベルはほとんど寝ている。フィアナの時間が開いている時は、神楽と散策に出かけている。ジョーも日本文化を知りたいために外を出歩いているようだ。
そして、宿を出る。
「お世話になりました!」
「どうもありがとうございます」
気持ちの良い休暇を取った8人はスッキリした顔になっていた。
電車を乗り継ぎながら、大阪の空港までたどり着く。
「みなさん、楽しかったです」
「こちらもね」
握手で別れを告げる。エスティもLHを経由してラボに帰るそうだ。
神楽が、フィアナにこう言って別れた。
「‥‥少しずつだけど、前みたいに歌えるようになってきていると聞いたわ。まだ予定も立っていないだろうけど、本格的な復帰の際にはあたしにも声を掛けて欲しいわ。フィアナさんの為なら時間のやりくりをして必ず参加させて貰うから」
「はい、その時には、声を掛けるからね」
「楽しみにしてる」
2人は微笑んだ。
それから、フィアナの生活に劇的な変化はない。しかし、焦らずに彼女は前を向いて歩いているという思いのこもった感謝の手紙が傭兵達に届けられたのだった。