●リプレイ本文
希望砦の作戦会議室で傭兵達とリズ達義勇軍幹部がそろったときの事だ。
風代 律子(
ga7966)がリズ・A・斉藤(gz0227)に話しかけた。
「元気にしてた?」
「はい。お久しぶりです。律子さん」
「今までよく頑張ったね」
「律子さん希望砦偵察の時は助かりました」
「今回もお姉さん頑張っちゃうわよ」
と、風代は胸を叩いた。
「せっかく苦労して調べ上げたんだ。情報を無駄にせずにきちんと任務を成功させるように俺も力を尽くさせて貰うぜ」
Anbar(
ga9009)はそう呟き、ドローム製SMGを力強く握る。
「この作戦が成功できるように尽力するからね」
リズが集合している傭兵とリスターに言うと、傭兵は頷いているが、リスターはムスッとしたままだった。
「俺が、いや俺たちが絶対成功させて見せますよ。リズさん」
「悠さん」
鹿嶋 悠(
gb1333)がリズに話しかける。リズも深呼吸をして頷いた。信頼の目で彼を見る。
「ここでいいムードを作らないでくれ。独り身にはそれは結構厳しいんだ」
「「あ! すみません!」」
Anbarの言葉に、鹿嶋とリズは頬を朱に染めた。
そして余計にリスターがムスッとしている。
「前から気になっていたのですけど、どうして私たちを目の敵にするんですか?」
「どうしたの? 何か不満でもあるの?」
不破 霞(
gb8820)と篠岡 澪(
ga4668)がリスターに訊ねる。
「なんでもねぇ! 今回もあんたらの力が必要だと‥‥」
リスターはそっぽを向いた。
「私の勘が当たっていたら、男の嫉妬は見苦しいだけですよ? 押して後悔するか引いて後悔するか、貴方次第、ですけどね」
「!?」
リスターは不破の言葉に真っ赤になってさらにそっぽを向く。
「‥‥うんうん、そうよねぇ‥‥って、え?」
不破と篠岡はリズと鹿嶋、リスターを見る。篠岡は少し驚いたようだが、
(うそー? 思ったとおりなの?)
(ええ、おそらくは)
女性二名がため息をついた。他にも理由はあるだろうが、リスターは個人的感情が先に出るようだ。
風代はそんなこともお構いなく、
「あまり怖い顔をしていると、女の子に嫌われちゃうぞ」
「!? う、うるせえ‥‥仕事はちゃんとやってくれよ? リズが頼っているんだからな‥‥」
リスターはさらに顔を真っ赤にする。しかし大きな声ではなかった。
静かな夜だった。収容所はサーチライトを照らし、不審な存在がいないか周囲を見張っている。夜目の利くネコ科のキメラも周りを調べている、そのキメラはサーチライトの光を受けて不気味に輝いていた。500mには感知されるラインがあり、サーチライトやキメラの索敵能力により、警備機能は優秀だと思われる。
傭兵達とリズ・A・斉藤、リスターがその光景を数km先で見ている。それぞれ黄土色の布に身をくるみ、この周辺の荒野に溶け込むように作戦開始を待っていた。中には黒い布を体に巻き付けている者もいる。彼らの後ろには、突入制圧部隊として義勇軍が同じように身を隠し、待機していた。
作戦は、リズとリスターを含む囮班が敵の注意を引きつけ、潜伏が得意な版が少人数に中に飛び込みこの収容所の司令室を制圧するというもの。セージ(
ga3997)は、
「攻撃はシンプルに力強く、効果的な打撃を短時間に集中して加えること。それが分かっていればただの突撃も立派な戦術になる」
と言う。派手にやるつもりだ。囮としては派手に目立つ方がいい。それに関して異論を唱える者はいない。そろそろ夜明けも近い。囮班と潜入班は別れて、自分の仕事に集中する。先ほどのリスターの態度に難しい顔をする鹿嶋は、リスターを見ると先ほどとは変わって冷静さを取り戻しているようだった。既に戦う準備は整えていると確信する。
(何が不満なのか‥‥)
後で話しかけよう。そう彼は思う。そしてリズを見る。
「悠さん?」
「フロントは俺が、‥‥背中は任せましたよ」
「はい」
作戦はまもなく始まる。
正門にある見張り台を双眼鏡で眺めると、そろそろ朝が来るのか、兵士はのびをしてからあくびもしている。長時間同じ位置に立っていられるのは肉体的な強靱さより、姿勢と精神力が必要だろう。
「‥‥これは‥‥士気は低い方ですね‥‥」
「夜明けに攻めるのは間違ってないと言うことですね」
ベル(
ga0924)と辰巳 空(
ga4698)が確認する。作戦時刻の設定は間違っていない。今なら隙を作れる。囮班が飛び出す。潜入班は位置をずらして行動を開始する。後方の義勇軍が時を待って息を殺していた。
セージと鹿嶋、リズとリスターが飛び出しAnbarとベルは後衛、篠岡はその間に立ち位置を確保。500m圏内に突入した時点でサイレンが鳴り響き、門が開かれる。あくびをしていた見張りは急いでサーチライトを鹿嶋とセージに合わせた。まぶしさに一瞬目がくらむが、それを我慢し相手も接近することが可能な250〜300m付近まで走り混む!
門が開いては一気に猟犬キメラとネコ科キメラが大量に出てくる。その後ろに自動車に乗った現場指揮の地位とおぼしき人間が乗っている。
「スポットライトって思えば嬉しいねぇ。そうまでして俺の剣舞をみたいか? ならば見せてやるよ!」
蒼いオーラをまとったセージが刹那で横に凪いで、襲いかかるキメラを切り裂き、瞬時真デヴァステイターで、死角から襲ってくるキメラを打ち抜く。怒りの黒いオーラに身を包む鹿嶋は鬼神のごとくトルマリンソードは落雷の様な音を出し、群がるキメラを叩ききった。
「後ろから、行かせない!」
鹿嶋の死角はリズが気づいてスコーピオンでキメラを撃破する。
「ソードダンサー・セージ、なかなかやるな」
リスターはソードの二刀流。その剣技一気に3体を仕留める。
背中合わせになってセージとリスターが話しながらキメラを仕留めていく。どうやらリスターは覚醒すると平常より心を開いていくような影響を受けているらしい。
2人の剣舞は異なるが、血が舞う戦場で栄えている。
半狼となった篠岡はベルとAnbarへ敵が来ないよう立ち回り、ロエティシアでキメラを切り裂く。ベルが制圧射撃と援護射撃を上手く使い分け、鹿嶋とセージが狙いやすいように戦況を作り、4人が倒し損ねたキメラをAnbarが仕留める。
敵側の人間はこの異常さに取り乱しているようだ。ベルは冷静にアンチマテリアルライフルを構え、撃つ。その弾丸は急所を捕らえて人間は車から落ちた。それを見逃す囮班ではない。あれは、強化人間でも下っ端の方だ。目当ての強化人間じゃない。車にもう1人が立ち上がって指揮を執り始める。その間にも、かなりの数のキメラを屠っていた。
潜入班はまだ物陰に隠れて、『機会』を待っている。
「なに? キメラでの迎撃で片がつかないですと?」
アーベストがこの収容所の所長からの報告に驚く。
「やはりリズは適正者ですね。私が向かいます。そして所長は内部で防御を固めなさい」
アーベストは奇妙な形のリモコンをもって、そのスイッチを押す。『完成品』といわれた拘束具を着せられた青年は軽々と破る。
「武装しなさい」
専用戦闘服を入れているスーツケースを3人に与えた。
「‥‥リョウカイ‥‥能力者を倒します」
その機会が来た。
「よくここまで暴れられますね。しかしもうこんな殺戮はおしまいです」
何名かは聞き慣れた声に驚く。
「‥‥アーベスト?! なぜここに?!」
鹿嶋とセージ、リズとリスターは驚いた。アーベストと黒いタイツに防弾防刃対策を取られた軽装鎧の青年3人が車に乗ってやって来たのだ。
「ここに貴様がいるとは!」
「絶対逃がしません」
3人の青年が跳躍し、一気に鹿嶋とセージ、リスターに肉薄する。
「我々の忠実なる僕である強化人間です。他の物とは比べものにはなりませんよ?」
ここで怒りにまかせて戦うという訳にはいかない。思いをかみ殺し、戦闘マシーンの攻撃を受けつつも、自分の間合いから離れるようにして、徐々に交代していく。
(あの青年達は犠牲者‥‥いま、この怒りをぶつける事は、リズの計画を台無しにする)
鹿嶋はリズの表情を見る。ネコの目からは、怒りがこもっていた。
「‥‥作戦通りに撤退を」
彼女の声は冷静だった。威嚇射撃でキメラと戦闘マシーン強化人間を寄せ付けないようにうごき、しっかり仲間を守る。その行動で、先頭組は後退していく。
「逃げるつもりですか? 追いなさい!」
アーベストの指示で残ったキメラと戦闘マシーンが囮班を追いかけていく。
それが合図だった。
風代と辰巳、不破が瞬天速と全力疾走をつかい、一気に500mを突っ切る。門が開いている。支給希望品であった爆弾は無かったが、この程度の門だとレールや蝶番などを能力者の腕力で壊す程度ならたやすい。それをワンパンチで破壊し、先を進む。
中は上空対策のカモフラージュのために、希望砦の前身である蟻塚拠点に似ているが、アリのキメラはいない。
「こっち?」
「いや、今の振動だと、あちらです」
辰巳のバイブレーションセンサーで、どこに人がいるか確認。風代はそのまま収容施設を開放したかったが、内部の構造から収容所中心より司令室が近いと、各所に書かれている標識で分かった。
「本当は収容所に向かいたいわ」
「それは危険ですね。相手も警備を固めているし、司令塔を制圧しないと危険です」
辰巳が地面から感じる振動、気配でどこが危険か教えた。
「了解。先に司令室を抑えましょう」
もし収容施設を開けても、まだ残っている敵に殺されでもしたら危険だと気づく。司令室まで走って中央を制圧すれば後でゆっくり解放できる。辰巳の言ったとおり司令室まで敵に出遭わず向かっていける。
そして司令室を風代が蹴り破り、辰巳が瞬天速で司令官を取り押さえ、不破が司令官の護衛数人を直ぐに気絶させる。
「き、きさま‥‥?!」
「名乗る者でもないです。しばらく静かにして頂きます」
「ぐは‥‥」
辰巳が司令官を手刀で気絶させる。
「全放送の設定‥‥っと? よし」
風代が外に向けてマイクから「突撃ぃ!」と叫ぶ。
その10秒もしない間に、この収容所周辺に隠れていた義勇軍が収容所に向かって走り出す。既に囮班がキメラや階級の低い士官クラスを倒している分、統制の取れていないキメラなど敵ではなく。門を閉じようとしても壊されていたため閉められなかった。
そして、アーベストと3人の戦闘マシーンは、この状況に気がついて舌打ちする。
「はめられた? 私が?」
『完成体』は鹿嶋とセージと互角に戦っている。もう1人はリズを捕まえようとするが、リズのすばしっこさに苦戦中である。当然ベルやAnbar、篠岡が捕まえることを阻止するよう干渉しているからである。
「敗因はリズばかり見ていた自分の愚かさとしれ!」
鹿嶋が怪我を負いながらも、大剣で敵を吹き飛ばす。そこから強化人間は動かない。セージも自分の剣舞でとどめを刺していた。残っている1人は逆にリズ達が気絶させてアーベストを睨んでいた。
「観念しなさい」
「それは断ります。今回は撤退しましょう‥‥『完成体』までこうも倒すとは‥‥。本当に悔しいですよ‥‥。今度会えば必ず‥‥」
と、奇妙なボタンを押すと、3体の『完成品』から小さい爆発音。自爆装置が働いたのだ。
「!? なんて残酷な!」
「使い物にならないならそれは捨てる。バグアに侵略される前から人間もしているでしょう! では、必ず私たちの仲間にして見せますからね! リズさん!」
アーベストは車を使って、その場を逃げた。今の装備では追いつくことは難しいだろう。
司令塔に義勇軍の旗が掲げられたのを見たのはそれから5分経ってからだった。
そして、数時間後。ベースキャンプで傭兵達は傷の手当てを受け、制圧と探索状況を聞いていた。囚われていた人間達は解放の歓喜の叫びを上げている。医者である辰巳は、義勇軍の医療担当班とともに義勇軍や囚われていた人々の手当をしている。
「解放はできたわけだが、バグアと強化人間専用の箇所だけはどうも開ける事はできない様だ」
「何かの研究施設見たいとは報告を受けています」
ジョセフとリズが地図とその施設のことで話し合っている。
「さて、今回おつかれさん」
セージが傭兵とリズ、リスター、ジョセフに言う。
「何とか死人や重体者が出なくて良かったと思うんだが‥‥」
鹿嶋がリスターを見て、
「自分から心を開かないと誰も心を開かない。信頼されないぞ?」
厳しい口調で言う。
「な、んだと?」
リスターは怒りをこめながら言う。
「いや、鹿嶋さん、貴方が言うと都合が悪いことになるのよ‥‥」
傭兵女性陣が鹿嶋をなだめる。
「どういうことですか?」
「鹿嶋さんは‥‥リズちゃんとっちゃったでしょ?」
「え? まさか」
「いうな! それ以上言うな!」
リスターは怒りから今度は赤面する。
「えーっと」
状況が分からない鹿嶋。リズも首をかしげる。
リスターは真っ赤になって頭をガシガシかきむしって‥‥、
「あんたらが色々な場所で活躍して強くなっていくのが羨ましいのもあるし、全体に頼られているッてことも憧れと色々ある。そして、義勇軍に志願して入ったときリズが‥‥」
「「まさか!」」
鹿嶋とリズが目を丸くする。
「ひとめぼれだよ! わるいか! 俺だって人を好きになってもいいだろー!」
と、恥ずかしすぎて叫ぶと、ベースキャンプから走って逃げた。
「あ、彼の年齢って?」
「15だな」
ジョセフがため息混じりで答えてくれた。
「ああ、そうかぁ。そうかぁ」
得心する女性陣と一部のAnbar。
「‥‥青春だったんだ‥‥」
ベルがぽつりと言う。Anbarとセージが遠くを見て「そうだな」と呟いた。
つまり、色々積み重なっていた傭兵への気持ちに加えて、『一目惚れした少女は実は既に彼氏持ち』という絶望感や今までの羨望で傭兵不信に陥ったらしいと考えられる。出会い方の早さと経緯からすれば鹿嶋が早い(鹿嶋の告白はロスでのカウントダウンライブであり、当時はまだナッシュビルの義勇軍はできていないからだ)。多感なお年頃でもあり拗ねていたわけだ。ジョセフから「力の差で苦しんでいたのは事実だよ」とフォローが入った。
「気がつかなかった‥‥」
リズもリスターにどう声をかければ分からなくなっていた。
収容所が解放されたことはいいことだが、いろいろな面で問題ができたようだ。