タイトル:アキラの要塞1マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/10 02:44

●オープニング本文


 ウィルソン・斉藤(gz0075)が特殊組織『ファウンダー』を使い、とうとうアキラの拠点を割り出せることに成功した。一緒に手伝っていたアキラ・H・デスペア(gz0270)の妹たる、リリィ・コバヤシの助力もあったのだ。リリィが幼い頃の話をよく吟味した結果、様々なことが分かったからだ。
 コバヤシ家は裕福な生活を送っていた。一つぐらい別荘を持つほどは裕福だったと言える。夏になると家族でよくその別荘で遊んでいたとも言ったのだ。しかし、その裕福な暮らしは、バグアが両親を殺害したことによって終わりを見せる。その別荘は、バグア占領区域にある湖のある場所だった。いまではバグアの科学力で建てられた不気味な建造物が建っている。高さは30階建て高層ビルに相当する。この地域では目立つ建物だ。しかし、簡易光学迷彩を全体に使っているため、遠目では見えない。
 そこにアキラが居るという確信を、ウィルソン・斉藤もリリィも持っていた。すべてを消したとしても、懐かしい思い出は消す事は出来ないから。
「ここにいるな」
「は、兄さん。‥‥いえ、アキラはこの塔にいるはずです」
 斉藤とリリィは、見えない塔を見ている。一瞬ゆがむ空間でその建物が現れる。
 入り口は調べたところ、物資を搬入する特殊トンネルのみ。トンネルの幅は5mで高さは3m。異常があると直ぐに均等に配置されているシャッターが閉まり、キューブワームと同じような怪音波、そして本星ワームに近い強化フォース・フィールドを発生させる。バイク形態のAV−KVや能力者用に開発されたバイクならば入り込むのはギリギリかもしれない。

「‥‥来たのですね‥‥、斉藤に偽物」
 一方、塔にアキラ・H・デスペアが望遠付き監視カメラから2人を発見していた。幾度も計画をつぶされ失敗が続いている、アキラの地位はかなり落ちている。トリプル・イーグルとしても既にアルゲディや愛子はいない。特に、リリア・ベルナールがギガワームを駆って数の暴力でオタワに侵攻するような、目に見える派手さを重視した舞台では、謀略や潜入を得意とするアキラの出番は少ない。すでに北米バグア軍総司令官親衛隊と言う物は無いに等しく、本当の拠点である『塔』で計画を練るぐらいしかないほど彼の行動権限は狭まっていたのだ。
 フィアナの歌に何かを見いだした事も、『棺』による強化人間の大量生産も、デスペアも、傭兵やファウンダーにつぶされた。残るはこの塔とその防衛システムだけだ。



「さあ、来てみなさい」
 アキラは近くにあるカバーのついた赤いボタンを見つめるも、別の黄色のボタンを押した。
 塔が光学迷彩を解除し、静かに、塔内に警報を鳴らす。

 彼の最後の戦いを意味するかのようなサイレンであった。

●参加者一覧

ベル(ga0924
18歳・♂・JG
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
鹿島 灯華(gc1067
16歳・♀・JG

●リプレイ本文

●入り口
 搬送コンテナに居る人間とキメラは6人の傭兵の登場に驚く。その瞬間にキメラは倒され、人間は気絶した。外にいるのは歴戦の傭兵からすれば驚異と言うほどでもなかった。
(ついにここまで来たのね。アキラ‥‥いやヒデキ。貴方は、リリィとの決着をどうつけるの?)
 鹿島 綾(gb4549)がバイクのハンドルを握る。その後部座席には灯華(gc1067)が乗る。計画は、バイクのブーストを利用して一気にこの搬入トンネルを突破し、近くの制御装置をオフにすることだった。トンネルは異変を察知するとシャッターがおり、キューブワームの能力に似た怪電波や本星ワームが持つフォース・フィールドを展開する。つまり、周りの異変の対処をするより、誰か1人でも、このトンネルを突っ切るしかない。しかしアキラ・H・デスペア(gz0270)がトンネル内に何を仕掛けているか、何度もアキラと戦っている鹿島やベル(ga0924)、終夜・無月(ga3084)はある程度予想できる。
「じゃ、とっとと突っ切ろうぜ。乗れ、無月」
 ヤナギ・エリューナク(gb5107)がバイクにまたがりアクセルをふかす。無月は無言で彼のバイクの後方座席に乗った。ベルはハミル・ジャウザール(gb4773)を乗せる。
 アキラがどんな人物かを聞きたい傭兵はいたが、今は聞く余裕などなく、今回の任務に集中することにした。
「本当にどうしようも無い時だけ降りるのよ。いいわね?」
「ええ、分かってます。‥‥無理はしませんから」
 灯華が鹿島の顔をのぞき込む。鹿島は不機嫌な顔をしていた。
「‥‥不機嫌に、見えますよ?」
「不機嫌じゃないわよ」
「見えます」
「もう行くから。黙って。舌かんでも知らないわよ」
 灯華がしっかり乗ったことを確認してから、バイクのアクセルをふかす。
「じゃ、俺が先にいくぜ!」
 ヤナギがバイクを走らせ、搬送トンネルを走っていく。続いて、ベル、鹿島、リリィと続いてトンネルに入った。

●闇の中を疾走
 バイクのライトだけで、このトンネルをくぐり抜ける。後部に座っている傭兵数名は「探査の眼」を駆使して罠がないか調べる。バイブレーションセンサーも併用してより多くの情報を得るため、足を地面に付けようとする者もいたが、速度が速すぎて断念する。このトンネルの警備システムが完全に作動する前に走り抜けなければならないのだ。第一のシャッターは全員すり抜けた。同時に後ろの通路がシャッターで閉まる。
「これだけ速く走っているのに、もう感知するのか?!」
 ヤナギは驚くも、運転に集中した。
(‥‥これか‥‥カメラとセンサーは)
 無月は先にあるセンサーを発見し、射程範囲に入った後直ぐに銃で破壊する。そして、第二のシャッターを全員ですり抜けていく。ベルはこの先にあるアキラの罠を警戒する。しかし、セキュリティシステム以外に仕掛けられた罠の気配がないと思った。
(‥‥おかしいです‥‥)
 と、逆に不安を感じた。
 そのまま4台のバイクは進むが、頼りはバイクの照明だけ。先は全く見えない闇の中の疾走だ。先頭を走っているヤナギはかなり危険な走りをする事になる。
 しばらく進んだのち、かなり急なカーブにさしかかった。
「うおおおっ!?」
 ヤナギは後輪をスリップさせてしまい、壁に激突しそうになる。そこでスピードダウン。無月もバイクの一部を握って、飛ばされないように耐える。
 後列にいる、鹿島が前方のヤナギの異変に気づき、急カーブだと知る。
「灯華! しっかり捕まって!」
「はい!」
 鹿島は勢いを殺さず、そのまま壁伝いにそのカーブを疾走する。しばしバイクは宙に浮いた。着地は成功し少しバウンドしてから進んでいく。ヤナギのバイクは壁に激突は免れたものの、スピードを落として立ち直るのに時間がかかった。ベルのバイクも、リリィのバイクも何とかカーブを曲がりきる、灯華とハミルがセンサーを見つけて破壊する。これによって3つめのシャッターをくぐり抜けた。しかし、ヤナギの無月は間に合わずに閉じ込められた形となった。
 壁本来の耐久力はワームのそれよりも低いものの、本星型のフォース・フィールドが展開しており、無月の攻撃は悉くが威力を半減される。ヤナギの攻撃で強化フォースフィールドが発生することは無かったが、それでも破壊するには時間がかかりそうだった。いくつかセンサーを破壊したことで、能力者に不快な電波は発生していないようだ。
「たのむぜ‥‥」
 ヤナギは壁にもたれかかり、先に進めた仲間が成功するのを祈る。
「頼みますよ‥‥」
 無月は通り抜けた仲間がうまくいくことを祈る。
「ところで無月」
「‥‥なんで‥‥しょうか?」
「アキラについて詳しく聞かせてくれ」
「‥‥分かりました」

●最終難関
(ここで降ろそうとすると、逆に灯華が危険だ)
 いま鹿島、ベル、リリィのバイクは、警備レーザーの攻撃に遭っている。バイクの後ろに乗っている灯華、ハミルも先の警備レーザーの一を運転手に伝えるしか行動は取れなくなった。
(‥‥なるほど、ここまで警備システムに自信があると言うことですか‥‥)
 ベルはハンドルを握り、レーザーが肩に掠っても悲鳴を上げることなくさらにスピードを出す。
「大丈夫ですか!?」
「‥‥大丈夫‥‥です!」
 ベルはバイクのブーストで一気にレーザーの雨を突破する。
(リリィはついてきてる?)
 鹿島がリリィはついてきているかを気にした。後ろでライトがついている。リリィのバイクからの信号だった。3台ともブーストし、最終難関のレーザーと急カーブのトンネルと抜け出す。シャッターが閉まる寸前、滑り込むようにして入る。
 トンネルを突っ切った3台のバイクをみた警備兵は驚き、銃を持ち剣を抜いて撃退しようとやってくる。傭兵達は、まず、制御コンピューターを目視で確認することと、襲ってくる警備兵とキメラへの対処を同時にしなければならなかった。
「「ここは任せてください!」」
 灯華、ハミルがバイクから降り、直ぐに動いた。直ぐに警備の人間を無力化する。ベルが「暗示にかかっているだけなので気絶で!」と叫んだので、2人はそれに従った。キメラが襲いかかってくるが、鹿島やベルからすれば危険でも何でもなく、持っている武器で直ぐに倒す。バイクを運転していた鹿島とベル、そしてリリィはコンソールがどこにあるかを探す。
「鹿島さん! これがコンソールのようです!」
「分かった!」
 そして、鹿島がリリィとともにコンソールを発見する。
「作りはバグア風で不気味だけど、人間が使えるようになってるな。停止ボタンは‥‥」
 鹿島はコンソールで停止するコマンドを探している間、ベルや灯華、ハミルは先に続く入り繰りを警戒する。増援が来た時、ベルは得意な射撃で手足を打ち抜き無力化し、ハミルは制圧射撃で寄せ付けなくした。
「これだ!」
 鹿島が停止ボタンを押してプログラムを起動。閉じたシャッターが開いていく。数分もしないうちに、ヤナギと無月がバイクでやってくる。
「やってくれると信じてたぜ」
 鹿島にハイタッチ。
「‥‥搬送トンネル、制圧です‥‥」
 こうして、搬送トンネル内の警報を止めることに成功し、制圧できた。これで今後この『塔』を自由に行き来できるだろう。

●小休憩
 ファウンダーのスタッフの何名かが搬送トンネルから入って、傭兵と交代する。ベースキャンプに戻った傭兵達の中で、
「トンネルの中で立ち往生してしまった時に、無月からはアキラについて聞いたんだが」
 と、ヤナギが口を開く。
「誘拐や洗脳を色々やっていたって事は軽く聞いたし、リリィと言うその子が、アキラの実妹に当たるって事も知った」
「あの、私もデスペア様の事をしっかり知っておきたいです」
「僕も」
 灯華とハミルもベル、無月、鹿島に訊いた。
「‥‥彼とは幾度も戦いました‥‥」
 ベルが、あまり喋らない彼がアキラと会った時と戦った時の事を語る。
「俺も‥‥」
 続いて無月も話す。
 誘拐や洗脳、そして、有る歌手を執拗に狙っていたことを3人は知っていく。
 ただ、リリィについての彼の反応が不自然な点だった。
「彼は‥‥本当にリリィさんが判らないんでしょうか‥‥? 彼自身‥‥洗脳されて『死んでしまった』と思わされているのかも‥‥。それとも‥‥本人だと薄々気付いてて‥‥でも認めたくない‥‥?」
 ハミルはアキラの反応をよく知っている3人から聞いて、考えてしまう。
「それは、俺も分からない‥‥ヒデキは何を考えているのか‥‥」
 鹿島はそのことについてかなり考えていたらしい。しかし、アキラの心の中までは分からなかった。
「今ここで話をしても、アキラをどうするかは分かりません‥‥。もし彼のあの忠誠心が洗脳であれば、洗脳が解けた時に真相が分かるとは思います‥‥」
「ああ、本心でリリィを認めたくないのかは、本人に聞くしかないな」
 無月が言うと、鹿島が要塞の最上階を見上げながら呟いた。

●要塞最上階
「‥‥やはり抜けてきましたか」
 アキラがディスプレイで要塞内部の状態を調べる。搬送トンネルと搬送区域は赤になっている。制圧されたとはっきり分かった。
 彼も、これが最後の戦いになるだろうと確信する。
 透明なカバーで覆われている赤いボタンを見ながら、傭兵達がこの部屋のドアを開ける時を待っていた。
――まだ、アキラと決着をつけるのは、遠いようである――