●リプレイ本文
殺伐とする整備倉庫に違和感のある生物がいる。カビパラ達がジェームス・ブレスト(gz0047)の周りに固まっている。軍服をラフに着て1頭を抱きかかえている姿はシュールであった。通りすがる整備員は吹き出すが妙な目で見ているのは言うまでもない。カビパラ達はジェームスになついているように見えるわけだが、彼は本当に困っていた。
「どうして俺はこう、動物と縁がある」
豚やら犬やら猫やら出遭っては里親捜しをしていた。今回は野生のカビパラのようなで群に返すことになっている。ボランティアでやってくる傭兵達がくるのはもうすぐだ。
揺れながら少女が走る。『大好きなジェームスがいる』その気持ちを抑えきれなく彼女は走っていた。しっぽを揺らしながら。
「たーいいっ!」
「よう、橘‥‥かわ? なんだその格好?」
橘川 海(
gb4179)はけもみみつきパーカー(銀狐)とけもしっぽ風アクセサリ(銀狐)をつけていたのだ。
「こういう時にしか着られないですから! 今回は動物まみれのジェームスさんですね!」
にっこり笑う橘川に、ジェームスは
「ああ、こういう状態になっている。助けてくれ」
「任せてください!」
「ところで、それはどういう意味で着ている?」
パーカーやアクセサリのことらしい。
「動物に警戒心を与えないための変装ですよ!」
「なるほど‥‥可愛いな」
「え?」
ジェームスの言葉で橘川の頬は朱色に染まった。
「あの、にあって‥‥」
橘川がジェームスに尋ねようとした時、
「貴様がジェームスか!!」
マントをなびかせて何かどこかのヒーローアニメのポーズをとり、大声を出す男が現れた。
ジェームスはその男をみて「ああ、そうだぜ?」と答える。
「‥‥ふーん、ほう」
男は品定めをするようにジェームスを見て、
「イケメン度10だな、そこそこやると行ったところだな‥‥おっと、自己紹介がまだだったか! 俺は勇者! ジリオン! ラブ! クラフトぉぉお!」
特撮ヒーローのようなポーズを決めて、かっこつけているが、周りにカピバラ3頭がもきゅもきゅ口をうごかしながら固まっているので絵にはならなかった。ジリオン・L・C(
gc1321)は1頭を抱き寄せ、
「だがまぁ! 俺様の熱い魂で導いてやろう、ふはは!」
カビパラを撫でた。
手伝ってくれるんだなと、何となく理解したジェームスは、
「ああ、よろしくな。ジェームスだ」
と、いろいろなところをスルーして(カビパラを地面に起き)握手を求めた。ジリオンもその行動に、わたわたするも、握手をする(カビパラは地面に置いた)。
走ってきたのはこの2人で、残る6人はしばらくあとにやってくる。
「は、はじめまして! ギン・クロハリャです!」
ギン・クロハラ(
gc6881)は緊張のあまり、自分の名前を噛んでしまった。
「ああ、よろしくな。そんなに緊張しなくて良いぞ」
「ジェームスさんよろしくですよ〜」
山田 虎太郎(
gc6679)は、親しげに挨拶して握手を交わす。他の人もジェームスと握手を交わしながら、自己紹介を終える。そしてジェームスが今回の件について話し始めた。8人は頷きながら交互にカビパラを撫でたりモフモフしていたり。どう見ても話を聞いているようには見えない雰囲気でもあるが、ちゃんと聞いているようだ。うん、そうだと信じたいと思うジェームス。
「そんなに触ると人間の匂いで‥‥」
リゼット・ランドルフ(
ga5171)がおたおたして皆に忠告するが、
「何を言っている、なぜ撫でるか? もふるか? それはそこにモフモフがあるからだ!」
ザ・殺生(
gc4954)が思いっきりそのモフモフを抱きしめては頬ずりしていた。しかし、当のモフモフな小麦色の生き物は動じてない。されるがままだった。
「リゼット、お前も撫でたいのだろう!」
「え、それは、そうですよ。でも、群に返してあげるには我慢するしかないでしょう」
そういいながら下を向いた彼女。ちょうど向いた先にカビパラと目と目があった。
「がまん‥‥できません‥‥ちょ、ちょっとだけなら‥‥」
リゼットちょっとだけ抱きしめた。
「これが‥‥大尉がふしぎな力で引き寄せたというカビパラですか」
立花 零次(
gc6227)がカビパラをみて考える、ジェームスは「ふしぎな力なんてねぇよ」と否定するがスルー。
「一部の地域では食用とは聞いていいますが、野生なんですよね」
住吉(
gc6879)がそういうと、ちょっとだけ空気が固まる。立花の目が鋭く、
「食べ物を見る目は何ですか‥‥?」
「‥‥いや、今回は愛護精神で群に返しますよ。ええ」
住吉は目をそらす。
「まじか? 食用って」
あまり、カビパラのことを知らないジェームスは驚いた。
「ご存じなかった?」
「ああ、まったくしらん。動物を拾うことはよくあるが知識としては皆無なんだ」
「図鑑では、一部地域で魚扱いとして書かれていますね」
ギンが驚きながら図鑑を読んでいる。
「カビパラって予想以上に間抜けヅラしてますね〜」
「そろそろ本題に戻ろうよ」
カビパラを愛でたりモフモフしたりとこのままでは話が進まない状態になりそうだったが、みんなで「さてどうやって群を探すの?」と言うところで、モフモフを止めている。カビパラは歩き回らなく、それまでされるがままだった。驚くほど大人しかった。
「まずはヘリで上から群を見つける」
ジェームスが今回の作戦を説明する。
「まぁてぇ! それでは群が逃げるだろ!」
ジリオンが割ってはいる。
「最後まで聞け。見つけたら、少し離れたところにおりる」
「‥‥ならいい」
生死に関わらないことなので、緊迫感はないが、ジリオンの言葉のテンションは高い。
カビパラをかごに入れてヘリに乗り、探査系スキルや双眼鏡を使いながら群を探す。そして見つけたら歩いて行ける距離まで移動して歩いて群に向かうという作戦になった。
しかし今回使うヘリについては、困ったことになっていた。
「かなり年季はいったぼろいヘリしか借りられなかった」
「そうなのですか?」
橘川がどれなのですかと、ジェームスに尋ねると、彼はあごで指した。その先に借りられるヘリが停まっている。
「わあ、すごいへこみや傷がありますね」
「物資がないからな、ここは」
ヘリの中で整備している整備員が顔を出していった。
「私も手伝います」
「ヘリを整備したことあるの?」
整備員が訊くと、橘川は首を横に振って、
「いえ、無いです。でもバイクはよく整備してます。どんな子でも痛いところは教えてくれます」
「ああ、いいけどな‥‥こいつがイタイと言っている場所ってのはな‥‥」
整備員がスライドドアを触ると、ガタッと音を立てて外れる。
「ドアが壊れてるんだ」
「‥‥」
さすがの橘川も驚く。
「ドアの部品交換も出来ない場所だからな、優先順位的に」
「そ、そうなのですか‥‥」
それでも内部の方の整備は出来そうだったので、橘川は手伝う。ドアの方は最初から外しておくことにした。
「カメラ持ってきたから記念撮影をしましょう!」
山田が使い捨てカメラにハンディカメラを持ってうきうきしていた。
ジェームスと皆が作戦(?)行動中を写している。ジェームスを中心に写そうとすると、別の男が割り込んでいる。
「勇者ジリオンは今からカビパラを群に返すために‥‥」
「邪魔! あまりにも邪魔!」
「どうした、山田ぁ。記念撮影をとるんじゃなかったのかぁ?」
「ぐっ」
ドヤ顔のジリオンの言葉に山田は言葉を詰まらせる。彼女の作戦は、ジェームスにあるのだ。
(この動画や写真で設けようと思ったのに!)
カメラの中にはジェームスじゃなくジリオンがはいって、彼女的に台無し感が半端無かった。
(これはサインで稼ぐしかない‥‥!)
他の5人は優しくカビパラの入ったかごをヘリの中に入れる。ドアを外しているためしっかり固定する。
「本当に大人しいですね、このカビパラ」
「そうですね。怖がって逃げそうなのですけど」
リゼットや立花はかごに大人しく入った、鼻をひくひくしているカビパラをみて言った。野生じゃなく、飼われていたかもと思うほどだった。
「ああ、カワイイ‥‥もふもふしたいです‥‥」
リゼットはもふもふはんたーとして、やはり、モフモフしたいようだ。
「本当に好きなのですね」
立花が訊くと、リゼットはハイと微笑んだ。
「ん、この狭さだとAU−KVは乗せられないですね」
10人とかごがやっと入るぐらい。実際人より大きいAU−KVを入れるには狭い。橘川はそう思った。
「今回はお留守番だね」
愛車を撫でた。
「ジェームスさん」
「ん? なんだ?」
「何かあったら大尉が守ってくださいよっ?」
橘川は笑顔でジェームスに言う。
「うん、まあそうだな。任せろ」
AUKVが無ければ行動に制限がかかるドラグーン系の問題だが、今回はそんなに危険はないと思われる。
(用心に越したことはないな)
そんな会話をしていると、ジリオンが2人の間に割って入ってきて、ヘリの座席に座った。
「そろそろ出発だ!」
ジリオンはジェームスをキッと睨む。
「? なんだ?」
ジェームスは首をかしげるばかりだった。
全員がヘリに乗って、探索を開始する。操縦はジェームスである。ヘリのプロペラの音がうるさいが、川を沿って調べれば良いだろうとまとまった。双眼鏡や探査の目をつかい、群の影を探すが、らしい群は見つからない。
「じゃっじゃーん。クッキー作ってきました。どうですか?」
「それは、美味しそうですね」
橘川が鞄に沢山のクッキーを皆に配る。リゼットがほんわかと微笑んだ。謎の自然な流れで助手席に座っている橘川。運転中のジェームスは手が離せない。
配り終えたところで、橘川はジェームスにクッキーを差し出して、
「はい、あーん」
「おい、病気の時にして貰ったが、割と勇気いるんだぞ!」
ジェームスは慌てはじめる。しかしそのせいで操縦がおろそかになるほどではない。
「だから変わらないですよー」
と、ニコニコ顔で食べさせてあげようとするわけだが、
それを思いっきり割り込んだ勇者(?)が1人。ジリオンが橘川の持っていたクッキーを食べてしまった!
「「!?」」
硬直する橘川、満足げなジリオン。ジェームスは大きなため息に、他の乗員も冷たい視線になっていた。
「美味いぞ!!! なんだこの‥‥俺様の為に誂えたかのような‥‥くっきー‥‥」
「あ、ああああ!」
ぶるぶる震える橘川。
「なんだジェームスェ‥‥俺様が食わせ」
ドヤ顔のジリオンが言い終わる前に、橘川の鉄拳が彼の鼻を砕いた。見えなかったがグーである。それでジリオンは沈黙する。能力者で無ければ即死だ。
「何してるんだこの男は」
ため息が深い。なぜこいつは自分に当たるのか理由がわからなかった。
「全く、とんだ勇者だな」
殺生もため息をついては応急処置だけにした、気絶して貰った方が他のメンバーが探索しやすいからだ。
「ギンさんそっちに気配は」
「無いですね。ジェームスさんが発見してから数時間経過しても大人しいからそれほど動かないはず」
「このさき数キロには池がありますがそこには‥‥」
リゼットとギン、立花はまじめに探しているが、
「カビパラちゃーん。食べて‥‥いえ、優しくするからでてきてー」
住吉は普段は大人しく優しいリゼットに睨まれた。女性は怒らせると怖い。彼女も女性だから本能的にわかる。
山田はカメラでジェームスを撮りたかったがシートに阻まれて取れなかった(橘川とジェームスの雰囲気のシーンはあまり金にはならない‥‥? いや、何か別の意味で‥‥とまでは考えたが諦める)仕方ないので、双眼鏡で周りを調べる。
1時間ほどヘリで探しているが、野良キメラがいるという危険はなく、群を発見した。ちょうど池になって水が豊かになっているところにいたのだ。
「2キロ先に降りよう」
ヘリを川岸に降りてから、ジリオンと住吉が先行する。ハズだった。
「勇者だからな! とう!」
ジリオンはなぜか川に飛び込んだ。
「これでカビパラの気持ちはわかる!」
鼻だけ出して泳ぎ始める。
「皆さん行きましょう」
そんな彼をスルーして、リゼットがかごを持って歩いて行った。残る3つのかごを橘川、橘、ギンが持って歩いて行く。住吉が先行している。
「ええ‥‥っ? 超絶スルー?!」
ジリオンは悲しくなって川から上がり、大人しくなった。
歩いて行ったが危険はなく、直ぐに大きな群を目視する。その群は一瞬警戒して逃げるかと思ったのだが、茶色の大群は人間達を見ても驚かずに、群自体は動かなかった。
「かごを開けよう」
一斉にかごを開ける。
中に入っていたカビパラが、ちょっと不安そうに周りを見る。そして群を見つけると、そこへとことこ歩いて行った。群の中にはいった4頭は大きな群に逃げられることもなく受け入れられたようだ。
「ああ、可愛いなぁ」
全員そう呟いた。
「探すのは苦労しましたが‥‥良かったです」
「食‥‥いや、こう大人しくてカワイイモフモフは良い物ですね」
「二度とはぐれるなよー」
と、一行はカビパラの群と別れを告げた。
ヘリで整備基地に戻り、 ギンのサンドイッチや各自で持っていた飲み物で休憩を取る傭兵達とジェームス。カビパラが可愛かったことを主に雑談が続く。山田がジェームスにサインを求めると、ジェームスは快く『山田へ、ジェームス』と書いてあげた。彼女の目的はこれで達成したと思った。
「みんなありがとうな。助かったぜ」
ジェームスがお礼を言う。そして、握手を交わす。橘川はジェームスを見つめて『なでてほしいなぁ』という表情をしていたので、ジェームスは握手のあとに彼女の頭を軽く撫でた。橘川は嬉しそうだった。
そして傭兵達は一度LHに戻って行った。
さて、山田の計画はジェームスの生写真やサインをオークションで売ろうとしていたのだが‥‥。
サインは名前入りで価値はなく、写真もカメラの動画も、ジリオンに邪魔されており小遣い稼ぎにはならなかったのであった。