●リプレイ本文
●自己紹介
「過去に護衛などで近くに居た事はあるが、こうして話すのは初めてかもしれないな。改めて、白鐘剣一郎だ。宜しく頼む」
白鐘剣一郎(
ga0184)は微笑んでフィアナ・ローデン(gz0020)と握手を交わした。
「は、白鐘さんがお菓子作りに興味あるとは知りませんでした」
「ああ、正直場違いと思ったが、いつも留守を任せている妻に何か用意出来ればと思ってな」
「なるほど」
「そういうことでよろしく頼むよ、フィオナ」
「フィアナです」
むすーとしてフィアナは答える。
「あ、す、すまない‥‥フィアナ」
白鐘は頭をかいて謝った。
「おたがい、頑張り、ましょう」
「‥‥そうだな」
ルノア・アラバスター(
gb5133)とウラキ(
gb4922)はどうもお菓子作り初心者らしく来た人に教わるつもりらしい。ルノアは恋人の事を思うと頑張ろうと気持ちでいっぱいになった。ウラキもそれは変わらないらしい。
「あの、料理、苦手、なのです、が」
「基本的なところは教えるよ。よろしくね」
「あ、はい、ありがとう、ございます」
「助かる」
(楽しく美味しいお菓子を作れたらいいなぁ)
緋本 せりな(
gc5344)はそう思っていた。
バレンタインに送りたい人がいるため準備をしておきたいと思っていた矢先、この話があった。だから参加してみた。渡したい相手はお菓子好きの家族と言うことだが、そういうことも大事だろう。
「分からないことがあったら俺に訊いてね」
安原 隼(
gc4973)は明るく初心者っぽい人に言った。
「お菓子作りをするって言うから、いい感じのお茶を持ってきたよ」
皐月・B・マイア(
ga5514)が一寸大きめの鞄を持ってきては笑顔でやってきた。
「マイア♪ ありがとう」
フィアナはマイアがくると優しく抱きしめる。マイアは嬉しく抱きしめ返す。お国柄の親しい人への挨拶だ。
「うん、お菓子が出来たらティータイムね」
「とっておきのお茶を用意しているからね」
と、和やかな会話をしている。
そのあと、二人は見知った人物が来たことを知る。
「‥‥こんにちは‥‥今日はよろしくお願いします」
「うん、よろしくだ。ベル殿」
「ベル君よろしくね」
無口な青年、ベル(
ga0924)であった。
「‥‥あの、今日はお菓子作りを教えてもらおうと」
「‥‥うん、喜んで。詳しい人も来てるから大丈夫だよ」
フィアナはニコニコして教えてほしいと頼むベルに言った。
「では、私は着替えてくるから」
と、マイアは更衣室を借りてメイド服に着替えた。
そのあと、各自自己紹介をすませては、早速キッチンでクッキーやチョコを作ろうとするのだった。
●キッチンに浮かれる
肉球マークのついたカフェエプロンで気合いを入れている緋本は、フィアナの所有しているキッチンを見て感嘆する。
「広いキッチンだね。こういう良い環境があると、うずうずするね。腕が鳴るよ。頑張っていいものをつくろうか」
と、腕を回して、
「何を作るの?」
「クッキーがメインかな? チョコの素材もあるよ」
と、クッキー関係の生地材料や、業務用のチョコの固まりがどんと置かれている。
「へー。これならチョコクッキーも作れるんだ」
「レーズンなどのクッキーに使う物も私が用意したから、色々レパートリーはあるんじゃないかな?」
マイアがメイド服姿戻ってきては言う。
「色々お菓子は作れるって事だね。よし頑張ろう」
と、材料を確認しては、緋本は頭の中にあるレパートリーを引き出していく。
●よそ見をすると大変
では、最初は和気藹々となるところだったが、戦場となっていた箇所がある。ウラキとルノアの班だ。
頑張って作ろうと思った物はチョコクッキー。
彼らは、人から聞いては頑張っている。頑張っているのだが、
「だめー! チョコは湯煎で溶かすの! 直火はだめー!」
「あ‥‥」
ルノアは直火でチョコを溶かそうとして鍋にチョコを焦がせてしまう。
安原とフィアナがちゃんと見てないと大失敗しそうであった。しかし、フィアナは白鐘の方を見なくてはならない。
何とか溶かしたチョコをクリーム状にしたあと絞り袋に入れる。そのあと、型に入れるかクッキーの生地に混ぜるかするわけだが、
「これはいったいなに? うわあ!」
と、ウラキが持つと勢い余って中に入れたチョコが吹き出す。
「あ、わぁ!」
一番近くにいたルノアが巻き添えになって、二人とも顔面チョコまみれだ。危険感知にかけては傭兵以上だと思うフィアナと安原は避けて被害は押さえられた。
「先に掃除だよね」
「一からですね」
二人は苦笑する。
「す、みま、せん」
「すみません」
ウラキとルノアはしょんぼりするのであった。
安原が二人を丁寧に教えることで、3人が仲良くお菓子作りに熱中することが出来た。何より初めてであるため、誰でもへたなのは当然である。出来上がったのは、オーブンの時間を少しオーバーし少し焦げたチョコクッキーだった。
●追い出される
風雪 時雨(
gb3678)は別の部屋でスタッフの仕事をしている。キッチン方面がなにやら賑やかだからと気になってきた。徐々にクッキーのいい匂いがするため、
「何をしているのですか?」
と、訊ねるのは普通だろう。
(どうするの?)
マイアがフィアナに目配せする。
(うーん‥‥ごめん‥‥おいだして)
手を合わせてお願いポーズするフィアナ。
(分かった)
マイアとフィアナの数秒でアイコンタクト。
マイアがメイド姿で仁王立ちし、
「いまは大事な会議中でトップシークレットなんだ。時雨殿は事務所の仕事に専念してもらう」
「え? え? ええ〜」
マイアに背中を押されて、キッチンから追い出された。
「おーい、風雪。その荷物こっちになー」
「お菓子作りだと分かるけど、なんか悔しいな」
時雨はジェームスかエスティの所にいってやけ酒をしたかったが、二人はLHにいないと考えるとまたガックリうなだれるのであった。
●剣士と銃士、菓子を作る
「‥‥これがこうなのか?」
白鐘はクッキーの生地を混ぜている。力加減がうまくいかず、おっかなびっくりだ。
「うんうん、上手、上手」
「‥‥こっちはできました」
「おお、いい感じだね。型に流し込んでね」
「‥‥はい‥‥」
ウラキやルノアはもう、独学で何とかしよとしていた結果『ごらんの有様だよ!』展開になっていた。しかし、白鐘とベルはちゃんと人から教えてもらい不器用ながら丁寧に作っている。美味しいかどうかはさておき、形としてはかなり良くなっていた。
「実際のところ、こうした作業をするのは1年以上ご無沙汰だ。その時は初挑戦だったから振り出しに戻ったようなものか。フィアナはこうして何か作るというのは良くやる方なのか?」
「オフには作ってますよ」
「そうなのか」
他愛のない会話をする。
「そうだ、フィアナが作ろうとしている人はどれだけいるんだ? かなり多いんじゃないか?」
白鐘の問いに
「そうですね、先ほど追い出した人と、スタッフの分です」
フィアナはあごに人差し指をあてながら答える。
「それはかわいそうじゃないか?」
「女の子の気持ちが分かってないです!」
フィアナは、びしっ! と泡立て器を白鐘に向ける。
「‥‥あ、何となく分かります」
ベルは何かを察する。
「白鐘さん、女の子はこういう事を隠したいのです‥‥」
「‥‥そういう物なのか‥‥難しいな」
そう、そういうことなのだ。白鐘は「解せぬ」と顔つきになったが、深く追求することはやめる。レディに失礼だから。
初戦にしては、まあまあの出来で白鐘とベルのお菓子関係は出来そうだった。
「そうだ」
「?」
白鐘はフィアナにこう頼む。
「スタッフや本命にももう一人分作ってほしいんだ」
「? どうしてですか? まあ、キッチリ数を決めて作る物じゃないから1〜2人増えても問題ないですが」
「知人に君の熱心なファンがいてな。もし良ければ彼にもお裾分けして貰えるときっと喜ぶと思うのだが」
「なるほど‥‥事情でこっちに来られない方ですか?」
「そうだな。事情でこっちはこられない」
「ならお引き受けします。特別で内緒ですよ」
フィアナは快諾した。
●ティータイムへ
フィアナや、緋本、マイアがわいわい話しながらお菓子作りをしているなかで、少し時間の空いた安原は、
(こんなに女の子がいるって‥‥幸せだな。癒される)
癒されていた。
しかし、その癒され時間もルノアやウラキの料理へたっぷり指導でとれないわけだが、もっとも自分もお菓子作りをするからその瞬間は短い。実際こき使われることも覚悟の上だったので彼にとって充実した時間であったわけだが。
「できた!」
全員の分が出来る。またウラキのコーヒーやマイアの紅茶などが出来て、
「では、試食会も兼ねたティータイムと行きます」
フィアナが皆に告げる。
マイアがお茶を注ぎ、出来たクッキーやチョコ料理を食べては、評価をしていく。
「この焦げたクッキーは誰の?」とか「このチョコの形は面白いね」という話や、美味しいか旨くないとかの話になっていく。しかし、気持ちが込められているため、それほど形や味は気にしなかった。
「しかし、戦場より疲れた」
「そう、ですね」
疲れ果てているウラキとルノアがいた。
「このお茶を飲むと落ち着くよ」
「ありがとう」
「あ、ありがとう、ご、ざいます」
一方、時雨の方はというと、事務所の隅っこで拗ねていた。
「時雨〜」
そこで、フィアナがやってきて彼を呼んだ。
「重要会議は終わったからこっち来ていいよ」
「‥‥本当ですか?」
半泣きの顔になっていたので、フィアナは頬を掻いて困った顔になっていた。
「ごめんね。はい、早いけどバレンタインのクッキー」
「‥‥ああっ!」
なぜ追い出されたかの疑問がその場で氷解する。悲しさと寂しさはそれで吹っ飛んだ。
「時雨の方が上手だとは思ってるから‥‥美味しくないと思うけど」
「いいえ、美味しいと確信します」
ティータイムの間にも、安原や緋本、マイアがラッピングの仕方をルノア達に教える。
「ベルちゃん‥‥器用、だね」
「‥‥そんなことありません‥‥」
「む、細かい作業というのはやはり難しい物だな」
悪戦苦闘していたのは白鐘だった。
こうして、フィアナの自宅でお菓子作りはごく普通に終わった。