●リプレイ本文
●闇夜の中
K地点をアキラ・H・デスペア(gz0270)の車が通りすぎる。
「斉藤少佐から話は聞いている。ミズ・リリィ、たとえ君の兄を捕まえたとしても、彼がまともである可能性は低い。危険な事態になれば、彼を殺すことになる。それを覚悟した上で、君はここに来た。‥‥そうだな?」
「ええ、‥‥かまいません‥‥これは‥‥戦いですから」
カズキ・S・玖珂(
gc5095)の問いにリリィ・コバヤシは頷く。しかし、肩が震えていた。
(無理をしているな)
「本当にそうなのか?」
鹿島 綾(
gb4549)がリリィに尋ねる。
「覚悟の上‥‥です!」
本当は真実を知りたいだろう。しかし、今私情を挟むことは出来ないから我慢しているとしか見えなかった。
「彼の過去は知らないが、そうするべき理由があるのだろうな」
「私もその理由をしりたい」
水円・一(
gb0495)の言葉にリリィはそう答える。
(まだ、決意が出来ていないのですね‥‥)
ベル(
ga0924)がリリィを見て思う。
(アキラを必ず倒す。そう決めている。しかし、リリィさんがいる事で‥‥俺はいったい何を‥‥自分で誓ったじゃないか!)
彼は決意の揺らぎに首を横に振り雑念を払う。
「誓いを‥‥果たしに‥‥」
終夜・無月(
ga3084)は明鏡止水を背中に担いでバイクに乗る。過去に誓ったことと心に繰り返しながら。
ハミル・ジャウザール(
gb4773)とエシック・ランカスター(
gc4778)が車を運転し、もしもの為にバイクも積んでハミルの車にはベル、エシックの車には水円とリリィが同乗する。無月と綾はバイクに乗り、綾の後ろにカズキが乗る形となる。
無月は数名に情報端末「月読」を貸し、ハミルから貫通弾を受け取る銃を使う傭兵に分け与えた。
「まずは分断をしましょう」
「OK」
輸送トラックを確保し、他の車とアキラの乗っている車ワームを足止めする。確保をするのはベル、無月、ハミルだ。主にアキラを相手する班が水円、綾、エシック、カズキとリリィである。
「君の腕を信じるぞ、カウ・ガール」
「任せろ」
8人はファウンダーのサインを確認して、
『アキラは奇襲地点到着』
「Go!」
車とバイクを発車させた。
●救出
夜道にライトを照らし、進むアキラの車の集団。そこの中央を分断するかのように、2台のバイクが突っ込んでくる。左右を囲い、道路をふさぐようにジーザリオが走ってきた。そして、各所から照明弾を撃って、敵全体の人権を把握する。
「っ!? 見つかったのですね?」
アキラはワームのハンドルを切り、戦闘モードに車ワームを切り替える。他の部下達が乗る車も何かしら攻撃態勢に入った。各車両ともボンネットからガトリングが出てきて、バイクやジーザリオを落とそうと撃つ。
「本気の攻撃だな。気をつけろ!」
水円がリセルシールドでガトリングの弾を受けきる。
しかし、エシックは重傷の上片手ハンドルが災いし、スリップする。
「くっ!」
「運転かわって! 通信に集中して!」
「す、すみません!」
リリィがハンドルを握る。
ハミルは距離をかなりとり、ベルのアンチマテリアルライフルが狙いやすいように動く。借りた貫通弾をつかい、灰色の車一台に狙いを定める。
「‥‥狙い‥‥撃つ」
見事運転席に命中し、その車は制御を失ったのか横道にそれて爆発炎上した。
「‥‥灰色はあと3‥‥」
バイクでトラックの前を走る無月はそのまま突進してくるトラックから逃げるように動く。しかし、ガトリングの砲撃にさらされない状態である。無月はバイクからトラックに飛び移り、無理矢理ドアをこじ開ける。トラックの運転座席と助手席に2人の人間。無月は運転手を蹴る。運転手も蹴り返す。助手席の男が銃を構えて無月を撃つが、額をかすめるだけだった。思いっきり拳で運転手を殴りつける無月。運転手はそのまま失神する。その瞬間車はバランスを崩すも、無月は落ち着いて助手席に座っていた男の胸ぐらをつかみ、気絶させた。同時にトラックは隣にいた灰色の車に接触する。彼もバランスを崩すが、なんとか持ち直し、トラックを確保する。
水円がもう一台の灰色の車めがけて機械巻物「雷遁」を使って隙をつき、カズキがSMGで運転席めがけて撃ち尽くす。その車のガラスはわれ、運転手を倒したことにより、車は大きく道をそれて近くの大木にクラッシュして止まる。別の車は遠くからベルの狙撃が今度はガトリング砲を命中させボンネットを貫通、大破し爆発した。トラックと接触した車は、持ち直してアキラの車型ワームに追いつこうと必死だが、これもまたベルにより運転席を狙撃され爆発炎上した。
「俺はアキラを追う」
綾が全員に言う。
「私も行きます!」
リリィがジーザリオで追いついてくる。水円とエシックが同乗をしたかったが彼女の決意の目に降りるしかなかった。それにエシックは重体だ。覚醒を続ける練力にも余裕が無く、ここで無理をすべきではない。
「後ろのバイクを使え。後から追いかける」
「はい」
リリィは水円の指示に従いバイクに乗り換える。
「大丈夫か?」
綾がきくと、彼女は頷く。
カズキは降りた。ベルからのアドバイスであのワームを追いかけるのには軽い方がいい。
アキラはそのまま逃げるつもりでワームを走らせていた。
●アキラと‥‥
「やってくるのですね‥‥」
アキラは今回の拉致計画は失敗に終わった。潔く負けを認めて逃げようと思った。
『今回は私の負けとしましょう。がんばっても私の車には追いつけな‥‥なに‥‥?』
「兄さん!」
「待て!『ヒデキ・コバヤシ!』」
と、無線に介入して今回の撤退宣言をしようとしたときに綾とリリィの声が聞こえ、宣言が遮られた。
『またきたのですか! 本当に殺されたいと!』
「ヒデキ・コバヤシ。以前、リリィと出会った時に見せたあの動揺。あれは何だ?」
『私をその名前で呼ばないでください!』
車ワームは方向転換し、綾のバイクに向かって火の玉を撃つ。綾はそれをすれすれに躱してバイクをブーストし追いつく。すぐさま拳銃「キャンサー」でボンネットを撃ち抜こうとしたがはじかれた。
『その程度の威力で私の車が壊れると思いますか!』
火球が再び撃たれ、綾を炎に包んだ。
「ぐうう! こんなところで負けるか!」
爆炎をくぐりまだ綾は耐える。
「兄さん! どうしてバグア側にいるの?!」
「ヒデキ・コバヤシ。以前、リリィと出会った時に見せたあの動揺。あれは何だ? お前は、リリィが死んだと思い込んでいた。そして、それはお前がバグアに身を置いている理由と絡んでいる――違うか?」
綾とリリィの言葉に、アキラは、
『お前は死んだはずだ! 愚かな人類の手によって! お前は偽物です!! 私は見た、既に殺されていた所を!』
叫ぶ。その言葉に綾とリリィは驚愕した。
「殺された? そんなわけないよ! こうして生きてる‥‥父さんや母さんは確かに亡くなったけど‥‥私はこうして!」
『うそだ! お前は偽物です!』
アキラは今まで見せたことがない激情で叫び、車ワームで綾とリリィのバイクに突撃しようとする。かすった衝撃で2台とも吹っ飛ばされるものの、何とか受け身をして持ちこたえた。ワームが止まりそこからアキラが出てくる。
「そこまで動揺する‥‥なぜだ」
綾が立ち上がり銃を構える。リリィも立ち上がり、銃を構えた。
「お前にとって、彼女は掛け替えの無い存在のはずだ。だからこそ、あれ程に動揺し‥‥殺そうとはせずに、別れを告げたんだろ?」
「ああ、そうです‥‥家族は私にとって大事な存在です。しかし、私は人間の愚かさを憎む」
「それで、妹に牙を向けるのか?」
綾とアキラの問答は続く。
「それは偽物だ! 偽物なら私の敵だ。本物だという証拠はあるか!?」
アキラはリリィに向かって叫ぶ。証拠を示せと。
「目を覚まして兄さん!」
リリィはロケットを見せた。
「それは、家族の?!」
見覚えのあるロケットに戸惑うアキラだが、
「精巧な偽物ですね‥‥。そこまでして私を捕らえたいですか‥‥ならば」
「そこまで言っても分からないのか!」
綾とアキラが銃を抜いた。
銃声が二つ、闇夜に響く。
リリィには当たらず綾の左肩に命中する。アキラも同じ左肩に命中していた。
「‥‥痛っ‥‥だから、ヒデキ‥‥お前はどうしたいんだ?」
傷口をかばい、綾はまたアキラに問う。
「私は‥‥愚かな人類をバグアの統治下に置くことですよ。‥‥家族を滅ぼした人間を‥‥許しません」
盲目的な答えを彼はだした。痛みをこらえてアキラは車に戻る。
そこでバイクに乗ってきた無月が援護しに来た。
「逃がすわけには‥‥いきません!」
バイクでそのまま銃を向ける。
「私から逃げたあなたが何を言いますか! 手負いなれど相手にもなりません!」
車型ワームがアキラをかばう。火球が無月のバイク突進に向かって放たれる。
「熱っ!」
無月は火球の威力に突撃を阻まれる。その隙にアキラは乗り込みハイスピードで逃げていった。
「待って兄さん! ‥‥倒すしかないの‥‥」
リリィは悲しさのあまり涙を流す。
「いや‥‥まだ‥‥なにかあるはずだ‥‥」
綾は、傷口を押さえながらリリィに近づいて言った。
(あのリリィは本物か? いや‥‥偽物に決まっている‥‥家族は既にUPCに‥‥組織ごと)
アキラは車ワームを自動操縦にして自分で銃弾を抜く。激痛に耐えながら息を荒げる。
(家族は人間が殺したのでは? いったい?)
記憶が混乱していく。何か矛盾があるのか?
アキラは混乱の頭の中‥‥気を失った。
●戦いが終わり
トラックに囚われていた被害者達は軽い怪我程度で無事だった。車とクラッシュしたとはいえ無月がうまく操縦したからである。またこれを運転していたバグア側の人間は洗脳されていた能力者の人間で、目が覚めた後自分が何かをしていたのか覚えてないという。ウィルソン・斉藤(gz0075)曰く、「デスペアのよくやる方法だ」と。4台の灰色の車に乗っていた人物は死亡したそうだ。
応急手当だけをして各設備の返却や修理をしている中で、今後どうするかを話し合わなければならなかった。
「‥‥妹も殺すと言うことは捕らえるより、倒すしかないか」
「‥‥ですね‥‥俺は既にそう思っています‥‥」
カズキもベルはそう考えていた。
「今度‥‥会ったら‥‥必ず」
包帯を巻いて無月は再戦を誓う。
「‥‥ヒデキ‥‥」
「兄さん」
綾はまだアキラが迷っている事を会話の中を気づいた。しかし何か不自然な反応と言うことも引っかかる。考えられそうなことは‥‥。
リリィはロケットを握りしめる。
これは宇宙人との戦争だ。人類は本来手を取り合って戦うはずなのにと‥‥。
「何か見えたか?」
水円がファウンダーからコーヒーを持ってきて、綾に渡す。
「まだ見えそうで見えないな。考えられることがいくつかありそうだけど」
アキラを止めるにはどうすればいいか。彼女は考え、
「なあ、リリィ‥‥倒すと決めたのか?」
「‥‥はい‥‥兄の暴走を止めるにはもう‥‥」
「そうか‥‥」
綾は夜空を見上げる。忌々しい赤い星は幸い見えなかった。
まだアキラとの戦いは続いていく。