●リプレイ本文
●午前と午後
ロサンゼルスのマンション。そこにジェームス・ブレスト(gz0047)が風邪をひいて寝込んでいると言うニュースで駆けつけた数名がいる。
白鐘剣一郎(
ga0184)と春夏秋冬 ユニ(
gc4765)、ハンナ・ルーベンス(
ga5138)がやってきてはインターホンを鳴らす。返事がない。
「起き上がれないほど酷いのか?」
白鐘はしばらく考えてからドアを開けた。
「寝てるのか?」
寝室はどこかと捜しながらゆっくりと入っていく。
寝室らしい部屋からうなり声が聞こえ、それが獣のようなものだから思わず身構えた。
「よほど苦しいのでしょうね」
「らしいな」
寝室のドアをノックすると、「いるぞ」と返事がくる。
「見舞いに来たぞ」
白鐘が言うと、
「‥‥おおうお前らか‥‥。こんな状態ですまない。あと初顔さん‥‥」
「春夏秋冬 ユニと言います。風邪を引いたと聞いて何か出来ることがあればと」
本当に元気がない状態のジェームスが片手をあげて反応した。その流れで自己紹介も終わらせる。
「他の方々も来られますので」
「どれだけ‥‥くるんだ?」
ジェームスが訊ねると、
「かなり来るだろう」
「私たちの他に後3〜4人は来ると思います」
白鐘とハンナが答える。
「おおいな‥‥」
7〜8名と聞けば見舞いに来る人数としてはかなり多い。
「子犬の里親を探して風邪を引いたって聞きましたけど」
春夏秋冬がニッコリ笑いながら、風邪を引いた経緯を訊ねる。
「本当はそうじゃないかと思うけど概ねそうだ」
「お馬鹿さんですわね」
「うるせえ」
「ふふふ」
ふてくされているジェームスをみては、春夏秋冬は微笑んだ。
「えっと、食欲有りますか?」
「腹は減ってるが動けないな‥‥ふう」
ジェームスは溜息ひとつつくと、どこかが苦しいのか表情をゆがめる
「では、おかゆにしましょうか。その間に洗濯もしなくてはいけませんね」
春夏秋冬はキッチンをお借りしますと行ってはそっちに向かった。しばらくするとキッチンと洗濯機の置いてある場所から音が聞こえる。
「では、私は他の来る方の対応を」
「ふむ、俺は1日いる予定だから」
ハンナが来る人への対応をする。白鐘はジェームスの様態を看る。ミネラルウォーターをベッドの横に置いて、
「水分補給も大事だぞ」
と、言った。
白鐘がジェームスの着替えを用意し、洗濯物を干す手伝いをする。
その間に、ハンナが春夏秋冬の作ったおかゆを持ってきてくれた。
「熱いので気を付けてくださいね」
「‥‥おう」
体を起こし、何とか口に付ける。
「‥‥うまい」
思わず声が出る。
「あら、それは嬉しいです。ありがとうございます」
丁度洗濯物を干し終えた春夏秋冬が顔を出してニッコリ微笑んだ。
「お代わりできる?」
「はい、出来ますよ」
昼ごろに北柴 航三郎(
ga4410)がインターホンを鳴らす。
「ハイどちら様?」
ハンナが対応するためにまずはインターホン越しで確認し、
「こんにちは〜。あ、どうも初めまして、北柴と言います。ジェームスさんの見舞いに来ました」
「あ、これはどうも」
と、ハンナが玄関のドアを開けた。
そして、
「初めまして、北柴と言います。ジェームスさん」
「あ、ああ、初めましてだな」
顔見知りが来るのは理解できるが、初顔合わせの春夏秋冬や北柴が来る理由が今ひとつ理解できなかったジェームスだったが、「橘川さんが『あとで来る』」という事を聞くと、おおかた納得した。
「えっとですね、今日はこれとこれを置きに来ただけなので」
空間除菌ゲルと空気清浄機を持ってきただけらしい。
「あら、それはありがとうございます」
「では、今日はこの辺で。又寄らせていただきますんで、何か困ったことがあったら言ってください」
「ああ、ありがとう」
と、北柴はすぐに帰って行った。
家事が終わった後、3人はジェームスを看ている。食欲があるなら治りは早いだろうと思った。
「本当に動物に好かれる体質なんだな」
「好きでそう言う体質になってるんじゃねぇ」
白鐘の言葉に、ジェームスはむすりとするが事実そんな事が多いのでそれしか言い返せない。
「本当は、エミタとリリアを連れてきたかったのですが‥‥」
「?」
ジェームスがなぜ、ハンナの口から今では『敵』である人物の名前を聞かされるのか首をかしげるのだが、
「ああ、前にジェームスさんから引き取った犬の名前でして‥‥」
ハンナはポッと頬を赤らめる。
「‥‥そ、そうか」
白鐘もジェームスもそうとしか返せなかったが、
「あの犬達が元気にしているならいいな」
ジェームスが安堵する。
「そうだな‥‥、元気になったら今度うちの娘を連れてこよう。言い遊び相手になってくれるかも」
白鐘が自分の子供のことを話す。
「そうだったな‥‥結婚して子供をか‥‥。元気な子なんだな」
「子供がいると楽しいですよ。おばさんが言うのも何ですが」
春夏秋冬がニッコリ微笑んだ。
「だから、好きな人が出来るといいですね」
「あーそれはねぇだろ。俺に彼女なんて‥‥ごほごほ」
ジェームスは春夏秋冬の言葉に笑って流す。
(「近くにいると言うことに気がついていないのですね」)
と、ハンナは微笑んでいた。
●午後〜夕方
一方カンパネラの授業が終わってロス行きの高速移動艇の空港では。
「荷物持ちをしますので、どうか連れて行ってください!」
沖田 護(
gc0208)が橘川 海(
gb4179)と澄野・絣(
gb3855)に願い倒していた。このままだと土下座する勢いなので、橘川も澄野も困ってお互いの顔を見合わせていた。
「どうしよ?」
「いいのではないでしょうか?」
二人は考える。
「どうなされました?」
そこで、果物が沢山入っている籠を持っている鳴神 伊織(
ga0421)と出会う。
「あ、伊織さん」
沖田は、『人類のエース』であるジェームスに会いたいが為今回の見舞いに行きたいという。しかし初対面なので、大丈夫かどうかもあったらしい。こちらは特に反対する理由はないのだが、ジェームスがどう思うかが問題であった。しかし、誰かと一緒だとそれほど違和感も覚えないだろうと言う事で沖田も来ることになる。
「荷物持ちをします!」
ハンナや春夏秋冬が帰る頃合いに橘川達がやってきた。
「やはり来ると思っていました」
「え、えへへ。ジェームスさんの様態は?」
「熱はありますが、食欲もあるようなので大丈夫のようです」
ハンナがニッコリ微笑みながら橘川に言う。橘川はほっと一安心した。
「洗濯物お取り込みお願いしますね」
春夏秋冬が橘川達にお願いして、去っていく。
「ん? 新しい見舞客か」
白鐘が客をみる。
「ジェームスさん大丈夫ですか〜?」
橘川と澄野と鳴神、そして沖田の姿を確認した。
「今は休んでいるところだ」
リビングで新聞を読んでいる白鐘は少しドアを開けて、ジェームスが寝ているところを確認する。
「じゃあ、静かにしていないと駄目ですね」
橘川と澄野は人差し指を唇に当てて「シィ〜」というポーズを取る。
女性陣は洗濯物を片付け(橘川はジェームスの下着を見て、一寸赤くなるところを我慢する一幕があるがそれは誰も見なかった事になった)、沖田は夕飯の支度をしている。
ジェームスは少し賑やかになるキッチンの音で目をさました。
「あ、起きたみたいです」
「大丈夫ですか? 見舞いに来ました〜」
「‥‥ん?」
ジェームスは寝ぼけ眼で全員を見る。橘川と澄野、鳴神だった。
「お前達も来たのか‥‥ありがとう」
「わあ、汗びしょびしょ」
「着替えた方が良いですね」
「そうだな。着替えを用意しよう。タオルもな」
「え、其処までしなくて‥‥」
「だめです! 汗をかいたらすぐに着替えないとっ!」
橘川がびしっとジェームスを指さし、彼が言うところを止めた。
「‥‥わ、わかった」
彼はそしてそのまま脱ぐものだから、橘川が真っ赤になってしまう。
しかし、橘川が率先して彼の背中を拭く。澄野が全員に目で訴えるために、ひとまず2人きりにする方向になった。ジェームスの体はかなり傷が多くそして大きい。その姿に橘川は息を呑む。ドキドキが止まらない。
(「大きな背中‥‥そして傷」)
「ん? ‥‥どうした?」
「な、何でもないです。早く元気になってくださいね」
真っ赤になって橘川は一所懸命にジェームスの汗をタオルで拭った。自分のジェームスの思いを抑えるかのように。
「着替えを持ってきましたどうぞ使ってください」
「おう。ありがとう」
着替えを持ってきた沖田が、ジェームスの体つきを見て思う。
(「鍛えた体、刻み込まれた傷跡、これがエースの証か‥‥」)
と。
着替え終わった後、沖田が持ってきた耳温計で熱を測り、沖田や澄野が用意したおかゆを橘川が持ってくる。
「ふーふー、‥‥はい、あーん」
なんと、橘川がジェームスに食べさせようとする。『おくちあーん』で。
「ちょっ!」
流石にジェームスでもそれは焦る。
「とか、えへっ。冗談です。食べられるなら自分で食べてくださいね。フィアナさんが見ていますよ」
橘川は笑いながらフィアナ・ローデン(gz0020)のポスターを見る。
「いや、まあ‥‥そうだな。自分で食べる‥‥」
ジェームスは器を受け取って、自分で食べ始めた。
「ところで、フィアナさんのどこが好きなんですか?」
と、いきなりの質問にジェームスは、
「元気をくれる歌を歌うところだな。良い歌だ」
と、ジェームスは答える。
「そっか、元気な歌が‥‥。あの、CD借りても良いですか?」
「ん? いいぜ?」
「はい、ありがとうございます」
橘川はとびきりの笑顔で返事をした。
着替えを済ませて常備薬を飲んでからジェームスは又横になる。
そのときに、買い出しの話しもあり
「えっと、あの、又見舞いに来ますね。それで、えっと、何が好きですか?」
「食べ物か?」
「はい」
「特に好き嫌いはないな‥‥」
「どんなものでも!」
風邪を引いた経緯を聞いたとき、鳴神は、
(「大丈夫そうですね。しかし、今度から二つ名を『里親捜し』のジェームスと名乗った方が良さそうな気もします。こんなの事を口にしてはいけませんね‥‥本人も気にしているようですし」)
と思ったが決して口にはしなかった。
そのあと、沖田や橘川に色々聞かれたり話しかけられたりしていたが、ジェームスの様態を気遣ってほどほどに話しかけていた。世間話ではなく、どちらかというと看病に必要な要件程度である。
あと数日は、賑やかになるだろうなとジェームスは思った。
●数日
夜に様子を見ていたのは白鐘と沖田の2人になった。ジェームスは複雑な顔をする。
「可愛い女の子の看病であれば良かったんだけどな‥‥」
「男の付き添いですまないな」
ぼやくジェームスに白鐘が苦笑して言う。
「ビーフシチューやコーンポタージュあるからな。小腹が減ったら言ってくれ」
「お前結構世話焼きだな」
「一人暮らしだと、色々苦労するだろうし、不安でしょう」
台所で後片付けしていた沖田が顔を覗かせて答える。
「ああ、確かに」
熱でうなされていたとき、流石にヤバイとジェームスは思った。今なら憎まれ口は言えるほど気分が軽いのもこうして付き添いがいるからだ。
「サンキュ」
翌日には北柴が食料や涼感シートを持参して現れ、様子を見ながら他愛もない話をして帰って行った。
こうして数日、入れ替わりに人が来ては看病したり、往診が出来る医者を呼んだりする状態が続いた。うがい手洗いをしっかりして風邪予防し、誰も風邪はうつらなかったようだ。
その甲斐あってかジェームスは快方に向かい、数日後には現場復帰していた。