●リプレイ本文
※時間軸が若干前後することもあります。ご了承ください※
●準備前から
まだ、静まりかえっている会場。スペース設置をしているスタッフ、ボランティアで一杯だった。まだ、サークル参加者の姿が見えない位早い時刻である。
黒子(アルヴァイム(
ga5051))は渋滞を回避するために、先行して会場に入っていた。秋月やウェイラントのサークルの下準備をするために警備スタッフになってやって来たのは良いが、そうは行かなくなってしまった。会場に入ってすぐに遠くで悲鳴が聞こえたからである。
「‥‥キメラだあ! キメラが迫ってきてる!」
一般人スタッフが走り込んできた。騒然となる会場内。報告を聞いた警備スタッフがすぐに武器を抜いてそちらに向かって居るところだ。
「数は? 状況を教えてくれ」
黒子は人を呼び止め
「数えられない! 水牛の群の如く人面牛キメラが!」
「む、噂に聞いているヲタクキメラか」
車から武器を取り出し、黒子もそちらに向かう事にした。契約上従わないといけないなと思って。
「と‥‥」
おそらく戦いはかなりの時間続くと思うため、一応秋月には『準備できなかった』とメールを打った。
警備スタッフとしてこのイベントのバイトをしに来ているベル(
ga0924)はすでにフォルトゥーナマヨルーを構えて、一頭のヲタク牛を仕留める。
「‥‥数が多い‥‥」
どこかのマンガのコスプレをしているミリハナク(
gc4008)は嬉々として、神斬をもって両断している。
「こういう殺し合いが楽しいですのに‥‥ってきゃあ! 舐めないで!」
接近してきたヲタク人面牛キメラが、ハァハァ荒い息でミリハナクを舐める、数はもう沢山で。
「きゃあああ!」
肉体ダメージより精神ダメージが酷い攻撃だった。
「はああ!」
其処で彼女を救ったのが、修行の一環として警備スタッフになった和泉 恭也(
gc3978)である。
「大丈夫ですか?」
ただ、格好が例の伯爵の格好。マントをはためかせて鉄扇で攻撃しているために更に微妙さが際立っている。
「朝から来るとは! 着替えられないじゃないか!」
守谷 士(
gc4281)が腕や脚にコスプレの衣装らしいパーツを付けたままでキメラを撃ち殺している。
「長期戦になりそうだな」
水円・一(
gb0495)も更衣室に熊の着ぐるみを起きっぱなしにして真デヴァステイターで群を撃つ。
「まったく、祭りだって言うのに」
黒子が愚痴をこぼしながら、戦闘に加わった。
朝からの大事件であるが、まだ人が少ない事が幸いした。6人で群を会場から追い払い、殲滅していくのであった。
●一般入場者
伊藤 毅(
ga2610)とジェームス・ハーグマン(
gb2077)は先頭列に並ぶために近くのホテルで泊まるほどの意気込みでいた。その結果が、しっかり先頭に並べた。その隣にアラン・レッドグレイブ(
gb3158)がいる。この3人は秋月とウェイラントの買い出し隊であるはずだ。しかし、ハーグマンは今回個人で秋月達とは離れているようだ。ただ、伊藤と一緒に並んだというのは偶然でしかない。
「今回は一人で回ってみたいので」
「そうか。本当は手伝って欲しかったんだけどな」
と、ハーグマンは秋月達の打ち上げには参加する方向だという旨だけは伝えながらも、あとはヲタク談義になっていく。
「ウェイラントさん達との打ち合わせは昨日で終わりました‥‥しかし‥‥」
レッドグレイブは、この状況などを見て、
「凄い小隊だ‥‥」
と、半分感心、半分呆れたようであった。
風雪 時雨(
gb3678)は、何故か女装してフィアナ・ローデン(gz0020)とリズ・A・斉藤(gz0227)と一緒に居る。
「どうして女装?」
ウィッグなどを付けて変装しているフィアナに聞かれると、「妹にせがまれた」と言うしか無く、フィアナは苦笑する。
「まったく〜。ひっさびさにに遊べると思ったら、女装してるんだもの‥‥もう少し男らしくできない?」
フィアナも凄い困った顔をしている。フィアナの中では女装や男の娘のブームが去った訳ではなく、おそらくもう少し別の理由からだろう。
「す、すみません」
リズはというと、相変わらずの人だかりに圧倒されて緊張しているようだ。
「フィアナ〜」
「大丈夫」
何が大丈夫か。
「きたかね〜」
ドクター・ウェスト(
ga0241)が南 星華(
gc4044)と南十星(
gc1722)と待ち合わせして並ぶはずだったが、
「おはようございます。今回はよろしくおねがいします」
「ああ、入場してからしばらくは付き合うことにしようかね〜。しかし‥‥」
ドクターは、姉弟をみては溜息をついて、
「二人とも、武器は厳禁だね〜。近くの預かり所に行くべきだね〜」
「あ、そうだった!」
そう、コミレザは警備スタッフ以外SES武器の携帯は厳禁なのだ。破壊力が半端ではないため、恐ろしい凶器になるからだ。2人は預かり所で武器を預かってから並ぶ。かなり後ろになってしまったがそれは仕方ない。
「新刊落としちゃったから一般参加になっちゃったです」
金城 エンタ(
ga4154)がガックリと肩を落として並んでいた。パンフレットを斜め読みはしているが、重要な、最も重要なところは見逃していたことは、今は知るよしもなかった。
●サークル参加者
「これが、コミレザかぁ」
「緊張する〜」
初めての参加者が多い秋月のサークル。今回新作のスタッフは多かった。全員が一気に入場するのは難しく、まずは8人がサークルチケットで入る事になっていた。
悠夜(
gc2930)は春夏秋冬 立花(
gc3009)にその紙袋は何だと訪ねると、彼女は、
「あぁ。黒子さんが『ひととせは他人の好意は無碍にしないって言っていたよな。コミレザを楽しむための衣装だ』って貰いました」
「そうなのか」
「言い回しが激しく不安になりますが、折角貰いましたから役に立てないとですね」
と、彼女は言う。
しかし其処で中身を見ないことがどれほど罠か彼女は知るよしもない。
「む、黒子は戦いに出ている。では我々だけで支度をするか。売り子さんは着替えてきてください。自分とリリーさん、悠夜さんでセッティングしておきますので」
「はーい」
「了解」
秋月 祐介(
ga6378)と愉快な仲間達8名がサークル参加者としてスペースに陣取る。秋月のサークル【MODE−AUTUMN】とリリー・W・オオトリ(
gb2834)の【ウェンライト工房】は常に合体サークルだ。今回は壁に近い島の角だった。人通りが多い場所にあるのは知名度の上昇とも言える。
秋月の指示を受けて、着替えに向かったのは葛城・観琴(
ga8227)、シェリー・クロフィード(
gb3701)、そして流叶・デュノフガリオ(
gb6275)、鹿島 綾(
gb4549)、春夏秋冬である。悠夜はリリーと秋月の指示に従い手伝いをしている。秋月は妙にテンションが高かった。
「おいおい、衣装ってこんなに恥ずかしいものか!?」
着替え終えた女性陣での第一声は、頬を真っ赤にしている鹿島であった。ちなみに、彼女は武器を持っていたので、途中スタッフに注意され武装は一時預かりになっている。
今回の新作「鉄(くろがね)の騎士物語〜前編〜」で出てくる軍服である。そのデザインが結構秋月好みで反映されているのだ。前は大きく開いており、その下に、露出度が高めなワンピース状の服を着ている。あとスカート部分の丈は短く、生足成分はばっちりだった。
「何を言うか。『とりあえず、前閉めろ』と言われ続けていたくせに」
秋月は眼鏡をくいっと上げて言い返す。
「それと此とは別だろ!」
着替えてきた巨乳魔乳の女性陣の方はそうした格好だった。
「ふむ、なかなか良いですね。観琴さんはGJです」
教授大満足。
そんななか、春夏秋冬だけはいっこうに戻ってこなかった。「なんだこれはああああ!」と、更衣室で叫んでいたとか居ないとか。
「ほほう、こう見ていると爽快だな」
悠夜は、女性陣売り子の格好を見ては、新作ができあがっていることに実感する。
「とういうか、あまりじろじろ見ないでくださいですよ〜!」
シェリーが男共に言う。じろじろ見られるとかなり恥ずかしい。
戻ってきた春夏秋冬は、肩をフルフル振るわせながら、体操服にブルマ、背中にエンジェルフェザーという出で立ちで戻ってきた。
「おかえり‥‥って、それは黒子さんからの要望でしたか?」
「あとで黒子はったおす!」
怒りと恥ずかしさで叫ばずには居られなかった。それでも着るという彼女の勇気を褒めてあげたい。
「いや、まあ中身を確認しとけよ」
悠夜が苦笑した。
「はいはい、お話も良いけど準備だよ〜」
リリーが手を叩いては、準備を進めていこうと言う。
わいわいガヤガヤとセッティングが終わってチェックする。
「小銭入れ、良し。札入れ、良し。身だしなみ、良し。全てOK。さぁーて、それなりに頑張って売り子ヤるとするか」
初めてのイベント参加にやる気を見せる悠夜であった。
警備スタッフの面々は何とかヲタク牛キメラを倒したものの、疲れ果てて少し休んでいる。休みながらも、どういった手順で警備をするかを打ち合わせ、汗を拭き、水分を取ってから動き出した。
彼らのお陰でこの会場の周りには、キメラは居ないようだが、まだ、倒し逃したものがいるかもしれないと、用心して仕事にかかることにする。
こうして、様々な準備の最中に会場のアナウンスがなされると同時に、人々の足音が怒濤のように流れてきたのであった。
●開場〜それぞれのドラマと戦い
「さあ本番だよ! おねえにシクルさん‥‥よろしくお願いします!」
椎野 こだま(
gb4181)、椎野 ひかり(
gb2026)の姉妹と友達のシクル・ハーツ(
gc1986)が『echos Heart』としてコミレザに初参加していた。
個人コスプレ写真集『echos Heart 1』を新刊にこだまは、大声で叫ぶ。
「新サークル『echos Heart』です! 見本誌見るだけでもいいので寄ってください!」
新サークルや中堅などが集まる島で彼女は叫ぶ。しかし、余り見てくれる人はいなかった。おそらく、壁側などの人気サークルの方を優先的に動いているからだろうとこだまは思った。しかし、声はずっとだしている。
彼女は元気いっぱいな姿を見ていつもの性格と雰囲気が違うことに、ひかりはほんわかと笑う。彼女はカンパネラ制服を着て一緒に売り子をしていた。
「どうぞ、見ていってくださいね〜」
ニッコリと笑う。
「‥‥凄い人だかり‥‥なんだか凄いところだな‥‥」
最初は人気がまばらだったと思った会場に沢山の人に埋め尽くされた風景をみてシクルは唖然としていた。そして、2人に習って呼び込みをしようとするが、恥ずかしくて声が出ない。
「あ‥‥、よ、よろしく‥‥お願い‥‥します」
一方、KV少女などの擬人化関連で名が知れ始めている、白熊屋では『新刊落としました。ごめんなさい。いやマジで』と、KV少女フィギュアなどにスケブを持たせて、鈴葉・シロウ(
ga4772)は思いっきり土下座をしていた。
「新刊落としてもサークルにはいるのですね」
「いや、待っていてくれた人に申し訳がないけど‥‥うおお、オッサンバグアとのフラグより、美少女タイプとのフラグが欲しかった!」
「落ち着いてください」
アキト=柿崎(
ga7330)に言われて徐々に落ち着きを取り戻す、白熊(覚醒はしてないが)。
「こんにちは、シロウさん! 新刊はありますか?!」
ハーグマンが走って来ては第一声。
「済まない! 無い!」
又土下座+心の吐血する白熊。いろいろ先の戦いでダメージを被っていたらしい。
「えーそれは残念です」
「そんなかんじで、おしゃべりモードになりそうな雰囲気です」
柿崎がハーグマンに言う。
「はっはっは、しかし落としたとはいえ新規のラフがあるぞ! これだ!」
と、ラフをもう少し綺麗にした絵をKV少女フィギュアに持たせている所を見せつけた。
「擬人化ブリュンヒルデ!」
「!!」
「そう、先の緊急時に私は慣性制御装置を付けたヴァルキリー級に出会い、『娘』と認識したのだ!」
きりりとして、白熊の説明は続く。
艦長譲りの金髪巨乳であり、白く大きな翼を生やした緑の鎧に包まれた、どちらかというと8bit時代ゲームを連想する姿であった。
「それ以外に色々あります!」
あとは、ミユをベースに作ったKV少女『アンジェリカ』やら、色々なKVの改造ものを展示している。
しかし、売る物が既刊の残りなので、あまり客が来なかった。
片隅には、ジェームス・ブレストフィギュアもあったが、彼から言うと「友達だからな、フハハハハハ」と謎の返事があった。確かに謎だ。
色々説明が多くなってしまったが、今の白熊屋の現状はこうであった。
「落としたのは、痛いですね」
「いや、すまん」
と、少しKV少女について語ってから、ハーグマンは別の所に向かっていった。
「ある程度、時間が経ったら、自由にして良いよ柿崎」
「そうですか? ありがとうございます」
一方、葵 コハル(
ga3897)のサークルでは、ラディア〜ペインブラッドのKV少女に死神+悪魔をテーマにしたコスプレ〜のコスプレをしてサークルに陣取っている。
(「うにゅ〜‥‥ライヴ明けに2時間一寸の睡眠じゃ、焼け石に水かね‥‥。コミレザは本当に地獄だぜ」)
と、心で呟きながら、ドリンクを買っては飲んで、新刊をセールスしている。
実は彼女は前夜祭のimpalpsライヴがあり、終了後にシャワーと軽食、短い睡眠というハードスケジュールであった。
今のKV少女コスじたいが暑苦しくてチョイスを間違えたと思うコハルだが、面が割れると騒がしいことになりかねないため我慢している。
前回に買っていく人も現れて、売れ行きは好調であった。
「いらっしゃい‥‥新作有るわよ‥‥」
「では、此を」
「ありがとう‥‥」
少し設定キャラの口調で接客。
ただ、少し離れたところで鈴葉が土下座している所を見て、コハルは「ああ、落としたのね」とドリンクを飲みながら思っていた。
「そうだ、あとでるかにゃんの所に顔だそう」
一般参加ではいったエンタはコスプレ衣装に着替えるため、更衣室に入ろうとする。しかし、周りの男性陣が驚いてしまった。
「? あの」
「こっち男子更衣室で、女性はあっちなんだけど‥‥」
「ええっ! 僕は男ですよ!」
本当に中性的で少女と間違われるエンタ。かなりの回数、男の娘をしていたから、その仕草が染みついたのかも知れない! いや、ミス・LHのオーラは伊達ではないと言うべきだろう。
誤解を解いて、着替えた姿はやっぱり女装。KV少女「ディアブロ」になる。この時点で更衣室に居る男性諸君はドキドキしたに違い有るまい。
フィアナがリズの手を引いて後ろから時雨がついていく感じに人の波を泳ぐようにしていく3人。途中、ドクターがそれを見るが時雨の存在だけはわかり、近くにフィアナが居ると知る。
(「騒がれるのを嫌がるだろうしね〜」)
と、彼は声をかけることをしなかった。
「あの、ウェストさん、出来ればはぐれないように手を繋いでもいいですか?」
南(姉)がドクターに言うと、ドクターは少し考えて、いいと頷いた。彼の考えでは色々ある。ただ、ある感情を持つことはないと思っているのだ。もっとも、この人混みの中は混沌としている。手を繋いで進んでもそう違和感はないだろう。それに、下を見る人はここには居ない。新しい作品を求めて走っている人が多いのだ。
エスティヴィア(gz0070)のサークルに最初に立ち寄ったのは、この3人であった。
「けひゃひゃひゃ! 来たよ〜」
「おひさしぶりぃ。ん? 南君と手を繋いで? ‥‥ドクター?」
「キミなら言うと思ったよ〜。エスティヴィア君。彼女がはぐれないようにと言うだけだね」
「そっか」
それだけでその会話は終わり、
「お久しぶり」
「星華君おひさしぶりねぇ」
「紹介するわ。弟の十星」
「初めまして」
「初めまして」
と、挨拶も済んで、売り子で十星を連れてきたという。
「お手伝いよろしくねぇ。もうそのままで良いから」
「あ、はい‥‥」
どうも時間が無いようなので、コスプレは無しになったらしい。
「時間があったら‥‥着替えてね」
姉が十星にいうと、十星は溜息をついた。
「またですか」
「? 女装趣味?」
エスティヴィアが聞く。
「本当は違うんですけどね‥‥」
十星は溜息をついた。
少しだけ会話してから、
「では、我が輩は色々ふらついてくるけど、セイカ君はどうするのかね〜」
「あとは1人でコスプレ会場などをみてくるわ」
「そうか、この戦場は暑い。熱中症にはならないように」
と、ドクターは1人でさって言った。
「じゃ、色々ネタを拾ってくるわ。またね」
星華も去っていく。
「じゃ、売り子お願い」
「はい」
十星はエスティヴィアと売り子を始めることとなった。時間単位でコアーと交代する感じである。
黒子が休憩時に【MODE−AUTUMN】と【ウェンライト】に向かったのは、一般参加でやって来たティム・ウェンライト(
gb4274)とエレシア・ハートネス(
gc3040)、アクセル・ランパード(
gc0052)、鹿嶋 悠(
gb1333)の4人と同時だった。
「手伝いに来ました。よろしくお願いします」
「ふう、戦闘は疲れた」
「ドリンクは沢山持ってきてるから、クーラーから取って黒子殿」
「ふむ、たすかる」
流叶がクーラーボックスをもって来て沢山の飲料を用意していた。
「‥‥あの、私も‥‥これを」
彼女も飲料各種の差し入れだった。
「じゃーティム君、ずっとその格好(軍服)ご苦労様だよ〜♪」
「恥ずかしいんだからね!」
実はティム君、会場入り前から「鉄の騎士」の軍服だった。胸は詰め物である。
「もう、今日は女の子で行きますから」
「その調子でがんばってね〜」
「‥‥頑張って‥‥ください」
シェリーは元気よく売り子をしている。
「どうぞ見てってくださいね〜」
「こんにち‥‥」
「あ、こんにちはですよ〜。はい、此を」
新作ソフトをアクセルに渡す(秋月Pの粋な計らいで、数枚は無料配布OKらしい)。
「ありがとう‥‥」
アクセルはシェリーのコスプレの可愛さに固まってしまっている。あと、胸の辺りの強調でどきっとしていた。
「? どうしたのですか〜?」
小首をかしげるシェリーに対し‥‥
「に、にあってますよ」
「‥‥ッ!」
シェリーも今この状況を理解して、ドキドキし始めた。
2人とも真っ赤になってモジモジしながら立ち尽くす。言葉が出て来ないらしい。
「ええい、そこ店番できなく、桃色展開するならどっか回ってこい。ティム君やエレシア君にお願いする!」
ハイテンション秋月Pがそこの、このカップル未満を追い払うことにした。
「若いっていいことだよね〜」
外見年齢13歳程度のリリーさんは四十云歳。若いこの初々しい姿を見ては和んでいた。
「さて、エレシア殿は着替えて貰わないと」
「‥‥うん‥‥分かった」
流叶はエレシアを連れて更衣室に移動する。
エレシアの胸は魔乳である。前にサイズなど測ってはいたが大丈夫だろうかと、流叶は心配になった。
黒子が来ていたことで、体操服ブルマ天使・春夏秋冬が駆け寄ってきて、
「黒子、一体何だ此はあああ!」
小さい体で長身の黒子にくってかかる姿は、何かとシュールな気がする。
「ふむ、なかなかにあっている。それと、例の動画は流しているので安心しろ」
「それは私の黒歴史――!」
勝手に流すなとギャーギャー言うことになるので、黒子は彼女と共に一度退散する。
しかし、動画ではそれほど知られてないし、一応こういった格好も需要はある。なので、大きく騒がれることもなかったのだが。
次にエスティの所に来たのは、守原有希(
ga8582)、クリア・サーレク(
ga4864)のカップルだった。
「「こんにちは」」
「こんにちはぁ。暑い中、ごくろうさん」
エスティは大喜びであった。
十星と挨拶かわしてから、一度2人はスペース裏に移動する。
「もう、体は大事にしてくださいよ」
「はーい。それよりその箱は? にく?」
「まったくもう。肉ばかりじゃ駄目ですよ。穴子です」
守原は溜息をつくが、持ってきたお弁当を楽しみにしてくれていたことが嬉しい。
「食べ易さ考慮の穴子の和洋御膳(押鮨とパエリア)に夏野菜の浅漬とマリネ、デザートはびわゼリーですよ」
「わーい」
エスティはまるで子供のように喜んでいる。
「あ、ボクの作ったお人形使ってくれてるんだね」
「ええ、便利だからねぇ」
エスティはクリアの頭を撫でて言う。彼女は少しこそばゆかった。
クリアはスープ類やアイス類を色々用意して、少しピクニック気分になっている。それでも、コアーを含めた5人でサークルの接客は続けていた。
「ところで、進展具合を聞きたいんだけど」
エスティヴィアが、2人に直球で聞くと、
「納豆持ってきますよ?」
「いやだ。でも聞きたい。減るもんじゃないし」
とか駄々をこねる。
「そんな事言えません!」
守原はエスティに冷やかされている。彼もやり返すわけだが。
エンタは暑くなるディアブロコスで歩き回っていた。秋月の所にも顔をだしたが、多忙だったらしく挨拶のみで去っていく。そして、目当ての物を探そうとしたが、売り切れて愕然としたり、かなり遠方まで歩いて行かなければならないことにも苦労したりと散々だったが、エスティの方にも寄ったとき、最大の目的の品である『息娘弄り』をゲットできた。委託していた秋月のほうでは売り切れていたのだ。
「念願の、『息娘弄り』をてにいれました!」
彼女‥‥いやいや、彼は手に入らないとばかり思っていたのだ。なので、色々トラブルはあったが感激しているのだ。
暑くなったので、休憩してはヘルメット部分を外し、椅子に座って戦利品の確認などをしていると、なにやら視線がある。
「なんだか、やたらと熱っぽい視線が集まるような‥‥?」
首をかしげているエンタだが、丁度視界にある物が目に浮かんだ。
「あれは‥‥!」
荷物をもって、其処にひた走る。
『苦労屋』
砕牙 九郎(
ga7366)主催のグッズ販売サークル。今回の目玉は、
『傭兵リバーシブル抱き枕』
だった。4人位をモデルにしており、リバーシブルで別々のイラストが描かれてある。
一緒に手伝いで売り子をしている鳳(
gb3210)は平然とチア服でいた(しかし商品を見たときには、彼女‥‥いや彼も硬直し、「話は後で聞く」とドスを効かせて九郎に言ったのは言うまでもない)。
「おお、エンタ君、ニーハオ」
「あ、金城さんこんにちはだな!」
「! 苦労さん! な、なんてもの‥‥なんてもの売ってるんですか!」
真っ赤になってワタワタするエンタが可愛い。
エンタもこの抱き枕の商品に並んでおり、ライダースーツと胸まで覆ったバスタオルオンリー『めまいを覚えるような妖艶さをあなただけのものに』と宣伝文句が書かれていたのだ。
「なんて物をうってるんですかあああ!」
「ぐあ、こ‥‥こ‥‥これいじょうは‥‥息が‥‥」
エンタきゅんは砕牙の胸ぐらを掴んではぶんぶん揺さぶる。丁度服で首を絞めている状態になっている。
「‥‥九郎さん‥‥なんて物売ってるのかしら? ‥‥私としてもそれは言いたい台詞ですわ」
と、別のトーンの低い声がする。
どこかのファンタジーゲームの女司祭のコスプレの神咲 刹那(
gb5472)は、黒いオーラをだしながら九郎に詰め寄ってきた。
「あの、どちら‥‥まさか‥‥」
せっちゃんはその司祭が持っていると言われている十字スタッフのレプリカを掲げて、殴ろうとしている。彼もまたリバーシブル抱き枕のモデルとなっており、セクシードレスの赤襦袢というきわどい物だったのだ。
九郎の命危うし! なところで、割ってはいる人がいた。
「済まないが、レプリカでも武器系の使い方は遠慮願う」
警備スタッフの水円である。彼が言うと、せっちゃんは「すみません、ほほほ」とスタッフを後ろに隠して謝った。しかし、殺気は九郎に向けている。
「まあ、じゃれ合いでもぶん回すな」
水円は去っていった。
「‥‥では、じっくり‥‥話は」
エンタきゅんとせっちゃんが、さらに詰め寄る。
「はい、終わったあとで‥‥奢りますし、出来れば手伝ってほしいです‥‥はい‥‥」
九郎は正座して、男の娘3人に囲まれているのであった。
苦労屋はけっこう話題を集め、忙しく動く九郎達。
(「恐るべし、コミレザ‥‥」)
エンタ以外は初参加なので、そう思ったことは確かだった。
売れたモデルさんを握手できる特典付きなので、何か奢ることで渋々了承する男の娘であるが、せっちゃんだけは恋人に何言われるか分かったものじゃないとぼやいていたのだった。
ある程度捌けたときにはくたくたになり買い物に行く気にはなれなかった。九郎だけがエスティに所に行き、試作品と『息娘弄り』を交換して帰ってきただけという状態だった。
「エスティヴィアさんに良い出来と言われた」
「「「喜んで良いのかどうか分からないよ」」」
男の娘はそう口にする。
休憩に入った悠夜と着替え直した春夏秋冬はというと、
「なあ、俺こう言うの初めてなんだけどな。どこか回らないか?」
「有り難うございます。BLゾーンで恥辱を味わうがいい」
彼女は闇笑いを浮かべ彼を連れて行く。
「な、なんだ? そのBLゾーンって?!」
「すぐに分かります。くっくっくっく」
そのあとしばらくそのブースエリアを回った2人。帰ってきた悠夜が精神的ダメージでぐったりして戻ってきた。
「あれだけは‥‥あれだけはあああ!」
正気度ががた落ちだったかも知れない。
「ふ、まだ若いですね‥‥」
勝ち誇った様な春夏秋冬であった。
鹿嶋は従妹であるシェリーに無理矢理連れてこられた病み上がりの人であった。まあ気分転換ということらしい。色々考えていたが、コミレザになれていないために出かけることもなく手伝っている。
「あ、悠さん」
「え?」
最初は誰が呼んでいたのか分からなかった。それほど何かを考えていたらしい。
「遊びに来ました〜」
フィアナとリズ、時雨の一行だった。
フィアナは変装しており、小声でスタッフと話をしてはソフトを買っている。
鹿嶋とリズはというと、
「もう大丈夫ですか?」
と、落ちこんでいたリズを気遣う鹿嶋だが、
「‥‥聞きましたよ? 重体になったって‥‥」
逆に心配された。
「あ、すみません‥‥」
「でも、生きてて良かった」
リズは微笑む。
「‥‥」
それを見ていた秋月Pはしばらく沈黙して、
「ええい、病み上がりは役にたたん。邪魔にならんようどこかいけ!」
と、追い出されてしまった。
「さてどうする? ダブルデート?」
フィアナが言うと、リズと鹿嶋は苦笑してしまった。
アキトがエスティに会えたのは結構前。
「たしか、今日は秋月さんのところで飲み会だとか」
「うん」
「楽しんできてくださいね」
「わかったわぁ」
と、ニッコリ笑うエスティだが、
「アキト君」
「なんでしょうか?」
「私に何か話があるなら、約束で取り付ければ何とかするわよぉ?」
と言う。その言葉は少し真面目っぽかった。色々タイミングが悪くて、上手く会話に入れない状態が続いていたからだろう。
「‥‥ありがとうございます」
アキトは礼を言って白熊堂に戻っていく。
シェリーとアクセルは、まだモジモジとして、色々なスペースを回っていた。
(「此ってもしかして‥‥デートっ?!」)
2人して思う。そのせいで余計緊張していた。
エスティのサークルに寄って来た時に、お久しぶりーと話が弾むのだが、
「ねえ、アクセル、このアイドルの子の彼氏?」
と言う問いに、
「「いや、そのなんていうか!」」
2人してユニゾンするほど顔が真っ赤になった。
そのあと、又2人きりになって、会場内の喫茶店で休憩を取ろうということで、向かう。そのとき、シェリーは彼の手を繋ぐ。真っ赤になった彼女の顔をみてアクセルも又真っ赤になってギクシャクし始めた。
「あの、アクセルさん‥‥」
「なんですか?」
少し沈黙‥‥。しかし、アクセルが続けた。
「‥‥前々から思ってましたが、俺は‥‥えっと、呼び捨てにして‥‥くれて‥‥か構いませんよ?」
「え、っとその‥‥」
「で、では‥‥俺から‥‥呼び捨てに‥‥しましょうか‥‥」
彼は、勇気をだして、
「シェリー」
と呼ぶ‥‥もう、恥ずかしさと彼女が大好きだと言う事で頭がどうかなりそうだった。
「‥‥アクセル‥‥」
又恥ずかしくなって真っ赤になってしまった。
遠くでは休憩中のリリーはそれをみていた。
「僕にもこういう時があったんだよね〜」
と呟きながら、自分のサークルに戻っていった。
【MODE−AUTUMN】と【ウェンライト】の売れ行きは順調で、他のサークルの方も新刊・グッズがある場所はかなり売れていた。
「あえて言おう、秋月Pであると!」
いまも、かなりテンションが高い秋月Pであるが、エスティや観琴からすると、空元気にしか見えなくて心配するほどだった。
「どうしましょう‥‥無茶をしているようです」
溜息をつく観琴に、
「あの状態を治すのは、あなたしかいないわよぉ」
と、エスティは言う。
●閉幕とその後。
『コミック・レザレクション閉幕します。本日、参加していただきありがとうございました‥‥またの‥‥』
放送が聞こえる。
帰り支度をするサークルや、帰る人々でごったがえす駅前やバス停にも、エレシアや初参加の人は驚きを隠せなかった。
別の所にいる、椎野とシクルも驚いている。
「うーん、人が多いですね〜」
「すごい人‥‥」
「いつもこういう感じみたいだよ。今日はありがとう。この後‥‥ご飯‥‥おごるよ‥‥。もう一人の姉も待ち合わせしてるし‥‥はやくいこう」
と、こだまが2人を誘った。
買い出し部隊の伊藤やアランは一度リリーたちと合流して、宅配で戦利品を送る。かなりの出費になったのは言うまでもない。なんだかんだで、フィアナ達やコハル、エスティとコアーもそちらに合流し、このまま合同打ち上げに展開しそうであった。
「財布の貯蔵は‥‥!」
「あたしの方が無理を言っているので、3人分は出します」
フィアナが助け船を出してくれた。
「おお、それはたすかります」
「それにしてもコハルさん大丈夫ですか?」
「ねむいよぉ」
テンションのエネルギーが切れたコハルはボロボロだった。
一方、着替え終えた男の娘達に詰め寄られながら、財布の限界に挑む勇者・九郎がいた。
「約束通り奢ります‥‥」
「そうやなぁ‥‥とりあえず、イッパイ奢ってくれたら、商品モデルの件は不問や。美味いもん食べて飲んで、映画見て」
鳳が色々やりたいことを口にしていく。
「そうですね、近くのテーマパークで遊んで」
エンタが続く。
「欲しい道具もあったんだ」
神咲も続いて、
奢ると言うより、むしり取る勢いになっていく。
「ちょっと! 1つに絞ってください! そんなことされたら俺の財布が0になる!」
と、九郎がつっこむ。
結局近くのレストランでたらふく奢らされ、赤字になった苦労屋であった。
ドクターと南姉弟は再び合流し、道がすくまで喫茶店で色々他愛のない話をしていた。ドクターはかなりの数の同人誌やグッズを買い込み、宅配便で送った。
「沢山買えたしゆっくり見られたね〜。そっちはエスティヴィア君のところで別れたけど、どうだったのかね〜」
「私は、コスプレの所を見て回って、弟は売り子の手伝いをして貰ったわ。途中私も手伝ったけどね」
と、初めてだけど楽しかったという。
白熊屋の方も、土下座しまくっていた白熊の額が赤いほどだった。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。冬にはしっかり実現しますよ」
今回の失敗を糧に飛躍しようとする。出来るのか擬人化ブリュンヒルデ?
守原とクリアは海を見ている。
「ありがとう。素敵な物をプレゼントして貰って」
クリアはアクセサリに満足していた。
同人と行っても質の良いハンドメイドアクセサリがあり、彼はクリアを案内したのだ。そのデザインがとてもよくて、クリアは目移りしていたのである。決まるのに時間がかかったのは言うまでもない。
「ええ、だって8月10日はクリアさんの誕生日です、から」
「‥‥まさか」
「Happy birthday,my dearest」
ニッコリ微笑む守原に、クリアは嬉しくて抱きつき頬にキスをした。途端に真っ赤になる守原であったが、とてもデートは成功だと思った。
一歩秋月達はと言うと、ラストホープで予約を入れていた居酒屋で胸の話でわいわいしているメンバーもいたり、すでに疲労で撃沈しているとカオス振りは凄かった。しかし、それでも、きっちりかっちり未成年には酒を飲ませなかった。
秋月の財布を心配する人は誰もいないほど、みんなはよく食べ、呑みはしゃいでいた。
そしてその宴も終わり、各々が帰宅する。恋人未満やそれ以上の人は2人きりで帰って行くのはごく自然であった。シェリーとアクセルが手を繋いで帰っている姿はなにか初々しいものがある。
もちろん、秋月と観琴も一緒に帰っている。
「秋月さん」
観琴が秋月を呼ぶ。
「なんでしょうか?」
「無理をしてはいけませんよ」
と、彼を抱きしめた。
「‥‥!?」
動かない秋月だったが、抱きしめ返し、苦悩を吐露する。
「怖いんだ‥‥失うのが‥‥今まで何もなかった、僕には何もなかった。全てどうでも良かった‥‥。怖いんだ。君だけが、唯一‥‥僕を現実につなぎ止めてくれているのだから‥‥」
観琴は彼の心の叫びを聞いて、
「怖くなくなるまで‥‥一緒に居ますよ‥‥ずっと、絶対に」
と、微笑んで強く抱きしめる。
「‥‥ありがとう」
しばらく抱きしめ合い、秋月は眼鏡を外し、唇を重ねた。
(「僕には今、帰れる場所があるんだ‥‥」)
秋月は、一筋涙を流した。
悲喜交々の祭りは終わり、アスタリスク大阪は又眠りにつく‥‥。