タイトル:【ACE】釣りをするマスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/25 01:32

●オープニング本文


 ジェームス・ブレスト(gz0047)は、久々の数日にわたる休暇に何をしようか考えていた。
 自室の掃除はほぼこなして、満足のいく物になったし、洗濯などはそう言った業者に任せてみた。
「しかしすることねぇ」
 戦いばかり考えてきたので、何をすればいいかすぐに思いつかなかった。
 散歩してみたり、筋トレでジムに通ってみたり、フィアナから貰った音楽を聴いたりと、1日をゆっくり過ごしている。ただ、一人だったので、何となくだが寂しいし退屈だった。寂しがり屋って程ではないが、暇だと感じているのだ。

「アフリカの方も一段落ついたようだし、何人か少人数で遊ぶってのもいいな」
 と、物置から何かを取り出した。
 釣り道具一色である。
「竿の調子は良いか? 釣り糸やそのへんは足りないな。買っておこう」
 小さいときに親父と釣りに行ったっけ? いやおじさんだったか? と思い出しながら、釣り道具でつかえそうな物は綺麗にして、つかえそうにない物は、釣具屋に訊ねて補充する。
「ロスじゃなく話に聞くと、日本の‥‥紀伊半島あたりの魚が旨いらしいぞ」
 と、釣具屋のおっちゃんの話。
「ほう。それは良いかもしれねぇな」
 思い立ったが吉日。早速ラストホープ経由から紀伊半島の某所に数日釣りで休暇という計画を立てたのであった。

 ラストホープ経由にしたのは、父親にハリウッド土産とロスで有名な胃薬を渡したあとに、コミュニティ感覚にこう申し込むつもりだったからだ。
「ゆっくりしたいやつ。そのあと騒ぎたい奴。一緒に釣りをしないか?」
 と、依頼に紛れ込ませていたのであった。

●参加者一覧

高日 菘(ga8906
20歳・♀・EP
如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD
大槻 大慈(gb2013
13歳・♂・DG
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
エル・デイビッド(gb4145
17歳・♂・DG
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
八葉 白夜(gc3296
26歳・♂・GD
ハーモニー(gc3384
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

●潮風
 一面の『あお』と『しろ』。海を見渡すとその色しか見つからない。潮風が頬や髪を撫で、今日は楽しく遊べそうだと確信できた。紀伊半島の海。幸いにも晴れている。梅雨という時期から難しいのだが。ジェームス・ブレスト(gz0047)や教えてくれた釣具屋の親父が日本の季節の変化を詳しく知るわけもない。
「釣りなんて小学校以来やなぁ」
 高日 菘(ga8906)が海を眺めている。その隣では、
「海さん、こっちです」
「‥‥うん。ありがとう」
 澄野・絣(gb3855)が大怪我を負っている橘川 海(gb4179)を支えて、釣り船が来るのを待っていた。橘川は怪我で元気がないようだ。澄野がジェームス主催の釣り休暇に誘ったようだ。高日も澄野に誘われここに来ている。
「にゅっふふー。仕事が終わった後の、遊びほど楽しいものはないのです」
 如月・菫(gb1886)が笑い、この休暇を存分に楽しもうとしていた。鞄の中には色々遊ぶための道具や、水着も完備という徹底ぶり。もっとも紀伊半島は近畿内では南国っぽいから海開きは早いかもしれないが、この時期は微妙なところだ。
「韮、あいかわらず元気だっ‥‥ごふぅ!」
「韮って言うなっ!」
 と、如月を『韮』呼ばわりして挨拶したのは大槻 大慈(gb2013)。大槻は彼女のアッパーで吹っ飛んだ。龍の着ぐるみが港でぽよんぽよんとよくはねている。如月は青筋たてながら、拳を高く上げていた。
「ところで釣り初めてって奴はいねぇ?」
 ジェームスが全員に尋ねると、数名は手を挙げている。大槻は「漁師の息子の血がうなるぜ!」と元気いっぱいだ。先ほどの如月に殴られたダメージはなかったかのように回復している。
「釣りはいいですねぇ。昔から釣りは鮒釣りに始まり鮒釣りに終わると‥‥」
 八葉 白夜(gc3296)が赤い髪紐で束ねた髪を潮風になびかせながら語り出す。しかし、如月が、
「なげーな。ほかに初心者っていねえです?」
 と言い始め、延々語る八葉を放って置くことにした。彼も延々語っているのでその扱いに気が付いてない。
「そういえば釣りなんてはじめてかも‥‥」
 エル・デイビッド(gb4145)が手を挙げて言う。
「じゃあ大槻、レクチャー頼むぞ」
「まかしといて!」
「よろしく。まぁ気楽にやろうかな」
 大槻が胸を叩いて言うと、エルはニッコリと大槻に微笑んだ。
「今回はお誘いいただきありがとうございます」
 ハーモニー(gc3384)がジェームスにお辞儀をする。気持ちがいい海の風にお礼を言いたくなるものだ。
「なに、そうかしこまらなくてもいいぜ。気楽にゆっくりしてくれ」
「はい」
 ジェームスの言葉に彼女は微笑む。
 釣り船のスタッフ達に挨拶し、釣りに最低限の用具と念のためのSES武器を持って出発する。
 ふと疑問がよぎるため訊きたくなるのが人の性か、大槻の格好に突っ込みたくなるのだ。夏至もすぎ、そろそろ夏というのに竜の着ぐるみだ。
「というか、暑くないか?」
 ジェームスが暑そうにしてないか訊いてみるのだが、
「大丈夫!」
 大槻は爽やかな笑顔で答える。しかも元気よく尻尾を振っている様に見えた。
「そうか‥‥ま、いいか」
 そう言うなら仕方ない。深く追求はしないとおもいきや。
「海に沈めたろか」
「おおう、やってみるがいい! 韮」
「なにおー!」
「おーい暴れるなよ!」
「は〜い」
 船長に怒られ、2人はおとなしくなった。

●釣り
「よっしゃー、釣るぞ――っ!」
「よっしゃー、釣るで――っ!」
「おっしゃ、こいや――!」
 元気で威勢がいいのはジェームスに高日、大槻に如月だった。釣りというのは魚との駆け引きである。時間だけが経つこともある。餌は練り餌かゴカイ、もしくは釣った魚を餌として海に向かって釣り竿を振るう釣り人となった傭兵達。ただ、各々が違った休暇の楽しみ方をしている。ハーモニーは酒を片手に単に釣り糸を垂らしているだけだ、八葉も只単に釣り糸を垂らしている状態になっている。
「うがぁー、釣れねー!! いらいらするー!!!」
 如月は1分も持たなかった。彼女はイライラして暴れ出す。釣り船がその程度で揺れるわけでもなくが。
「おいおい、落ち着けって」
「おちついていられるかー!!」
 大槻になだめられるが、如月は本当に釣りに飽きたようだ。
「ジェームスをからかいに行くです」

 ジェームスの隣に橘川と澄野が釣りをしているのだが、澄野は元気のない海にどうすればいいか困っていた。この元気のなさは怪我だけではない何かに関わっていると友人達は考えていた。橘川はちらりと、ジェームスをみては、また別の方を向いていた。実は、橘川は友達であった高円寺の死に大きなショックを受け、ふさぎ込んでいる。
「そんなに、しょげてると、魚来ないぞ」
「え‥‥は、はい」
 ジェームスは元気のない橘川に声をかけるものの、彼女は元気のない返事をするだけだった。ジェームスは彼女から声をかけてくるまで黙っておくことにした。
「海さん」
「‥‥」
 釣り糸を垂らすジェームスをちらっとみては、橘川は又下を向いていた。
 ジェームスの釣りの成績は大漁というわけではないし、大物も釣れてもないので、ぼちぼちと言ったところだ。
「人類のエースは釣りもエースか‥‥なんてことはないか、ぷふふっ」
 今のジェームスの戦績をみて如月は笑う。
「うるせぇ。釣りとは己との戦いなんだよ」
「ほーほー。なら大物を釣り上げるのですよ。ほれほれ」
「静かにしろ‥‥ん?」
 ちょっかい出している如月だが、ジェームスは、釣り竿にアタリを覚え、竿を引っ張る。ニヤリと笑った。
「ふっふっふ。おおっと! 此は大物だぞ!」
「なにぃ?! くそう!」
 如月は思いっきり驚き悔しがる。釣れたのは活きのいい鯛だった! ジェームスの中では一番の大物だ。
「はっはっは、どうだ! 如月」
「ええい、畜生! くず鉄博士の息子のくせに生意気な!」
「おまえ、まて! 親父とどうつながるんだよ! 意味わかんねぇ!」
 悔しい如月は鯛を奪い取って逃げ出した。
「こら、自分で釣れ!」
「やなこったー!」
 はしゃぐ如月は、慣れない船の上で走った結果‥‥転けた。
「あまり暴れるな! 海に落ちるぞ!」
「ふぁーい」
 船長さんに怒られ一寸だけしょげる如月。しかし、彼女はめげないだろう。

 大槻はエルにレクチャーした後、自分の釣りに専念し着ぐるみの尻尾を動かしながらアタリを待つ。
「何がつれるかな〜?」
 鯛かアジ辺りと聞いているので、それにあった仕掛けにして釣っている。釣り竿の強度からだと鰹も可能らしい。
「よっしゃきた!」
 ヒットして、竿を強く握る。引きが強い大物だと確信する。しばらく格闘の末に、見事鯛を釣り上げたのだ。
「おっしゃ〜! Getだぜ〜!」
 結構大きい鯛が釣れて、意気揚々となっていた。
「流石、漁師の息子だな!」
 ジェームスは彼を褒めて、
「ぬおー。私も負けられんのです」
 如月は闘志を燃やす。
 エルは悪戦苦闘をしながら売りを楽しむのだが、ビギナーズラックは訪れてくれなかったようで、アタリがなかった。
「うーん、難しい物ですね」
「まあゆっくりしましょう」
「そうですね」
 隣にいた八葉と暢気に話をするような流れになっているが、元気な如月と大槻と話すジェームスの姿を見てエルは首をかしげていた。
(「えーと、たしかUPCのエースさん、だっけ? すっごくバグア倒してすっごく尊敬されてる人‥‥なのに‥‥」)
 目の前にいるジェームスは、エースでも何でもない普通の何処にでもいる青年に見えたのだった。

●招かざる客
 如月が釣りを再開して、数分。
「よし、当たった! ほらほら〜!」
 しかし釣ってみたら、鱗が鍛えた鋼並みにきらめく、全長1mと大きな魚キメラだった!
「ぎゃあああ! キメラ‥‥っ!」
 如月が竿を放り投げて、覚醒して逃げる。更にジェームスを盾にした。
「こら、なにしてんだ!?」
「き、きめら! うわあ! こっちくんなー!」
「キメラを釣りやがったのか! それに、パニックおこしてんじゃねぇ!」
 船の上でじたばたするキメラは目から怪光線を出してくる。このままだと船が沈んでしまう!
 ジェームスがすぐにアーミーナイフを抜いて魚キメラの目を貫く。魚キメラは余計に暴れてジェームスは尾びれで肩を叩かれ、吹き飛ばされる。しかし、上手く受け身を取って構え直した。
「空気読め――っ!」
 高日は、フリージアを連射! 見事に命中して魚はまた暴れるがその反動で海に落ち、爆発した!
 水柱が間近にあがり、激しく揺れる! 船は安定したが、ほとんどの人はびしょ濡れになっていた。
「大丈夫かみんな?!」
 ジェームスが皆を呼ぶと、大丈夫と返事があった。
「無事だな‥‥よし」
 大変なモンが釣れたなと冗談を言いながらも、ポイントを変えて釣りを又楽しむことにした。そこでも、弱い小さなキメラを釣る如月。席順が自然と武装しているジェームスと高日の間に如月が居るようになってきた。彼女は何も装備してきてないためキメラを釣れば逃げるしかない。
「キメラ釣りの名人だな。確かに大漁だ」
「やかましい! 好きで釣ってんじゃねぇです!」
 残念ながらキメラ全部は食物としては無理と一目で分かった。

●準備
 釣りを終えて、バーベキューの支度に皆が働く。
「ほな、菫ちゃんに絣ちゃん魚や貝を洗うのお願い。大慈くんは魚捌いて」
 高日が指示を出して、如月、澄野、大槻に指示を出す。
「お恥かしいですが‥‥こと料理は特に不得手でして」
 八葉が頭を掻きながら高日に言った。
「ああ、それなら焼くか皿を並べてほしいかな」
「はい」
 ハーモニーはもうできあがっており、もし酔って怪我してはと言う事もあり、彼女にはビールやジュースなど簡単な手伝いを頼む。ただ、7人はある事情をそれとなく察しているようで、橘川とジェームスを2人にするように動いていた。釣りの時にしても、いまでも、橘川の行動がそれと分かっていたからである。
「ジェームスさんは炭が足りそうにないので、持ってきてくれる?」
「OK、まかせろ」
「海ちゃんも」
「え? う、うん‥‥」
「海さんいってらっしゃい」
 親友の澄野、高日達の計らいにより、ジェームスと一緒に橘川がついて行く。高日、大槻はサムズアップサインをして、澄野はうんと頷く。

●橘川、気付く
「怪我‥‥大丈夫か?」
 軽々と炭のはいった袋を担いでいるジェームスが、まだ元気のない橘川に訊ねた。
「‥‥あの、話聞いてくれますか?」
「いいぞ?」
「‥‥。大事な友達‥‥亡くしちゃったんです」
「‥‥」
 その言葉にジェームスは黙る。
 戦争だからと諦めるとは言い難い、悲しい現実。しかし、人を想うことはその中でも生まれる。
「高円寺さん、南米で戦っていました。ソフィアさんはグローグリムに乗っ取られて‥‥、それを知った彼女は戦って死んじゃった。せっかく友達になれたのに‥‥私のせいで‥‥」
 橘川は思いを大事な人が死んだ悲しさと理不尽さを吐露する。頬に熱い何かが伝う。
「‥‥どうして‥‥高円寺さん‥‥」
 ジェームスは彼女の心に詰まった言葉を只聞いていた。彼女が全てを言い終わった後、眼を赤くし、涙に頬が濡れていた。ジェームスは、黙って彼女の頭を撫でる優しく強く。
「あ‥‥ごめんなさい」
 ジェームスは首を振った。その目には哀しさを宿していた。橘川はジェームスの隣で泣いた。しかし、しばらくすれば元気な笑みを浮かべる。空元気と分かるが、何も言わなかった。
 そこで、橘川は何かに気付いた。
(「どうして、他の人に言えなかったことをこう、言えたんだろう?」)
 親友にも言えなかったこと。しかし、彼には言えた。何故だとおもう。感情が一気に溢れそうになった。
(「私‥‥ジェームスさんのことが好きなんだ」)
 しかし、その気持ちを抑えて‥‥自制する。
(「私は‥‥もう言えない」)
 作業着に隠れている包帯。其処に残る傷跡。それは、恋をすることも躊躇われるものだと、彼女は思ったのだった。

●宴
 そして、バーベキューが始まる。磯の香りと旨い酒にジュースが並べられる。
「よし、じゃんじゃん食え!」
 捌いた魚や地元の野菜のご馳走に舌鼓を打つ。
「海が青くて、お酒がおいしい。なんて幸せな休暇でしょう。またこんな依頼に参加したいものです」
「それが仕事の後なら格別だよ!」
 ハーモニーが酔いながら今回の休暇の感想を言うと、大槻が着ぐるみの尻尾を動かせて言う。というか又着ていたのと突っ込む人は居なかったが。
「魚うめぇ〜」
 如月が大槻の鯛を勝手に食べている。
「あ、それ俺の鯛! 韮! それは俺が目を付けてたやつだぞ!」
「なにおー! てめーが釣ったのは私の物! 私の物は私の物だ!」
「ほら、喧嘩しない」
「まだまだありますし」
 なだめるのはエルと八葉。
「はっはっは、キメラばっかり釣っていた如月は悔しいんだろう。キメラ釣りマスターだ」
 ジェームスが大いに笑う。
「キメラ釣りマスターいうなー!」
「それより、韮です。ジェームスさん」
「なんで、韮なんだよ」
「おまえら、韮韮言うなー!」
 じゃれ合い(?)になってきたので、エルや八葉は苦笑する。
 澄野や高日も笑い、如月を弄る大槻に笑う。ジェームスも大笑いしていた。そこで、橘川が吹き出して笑う。しかし、傷の痛みで笑いが止まる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫か?」
 澄野とジェームスが気遣った。
「へへっ。怪我に響いちゃった」
 笑顔で橘川は答えた。
(「私‥‥笑えるんだ」)
 と、彼女は思った。

●帰りまで
 予定は二泊なので次の日は、丸一日自由であった。思い思いに休暇を満喫する傭兵一行。砂浜でビーチボールをする如月と大槻、高日とエル。それを見守る八葉。又酒を飲んでゆっくりするハーモニー。昨日と変わって元気を取り戻した橘川と澄野は砂浜から海を眺めて他愛のない会話を楽しむ。
「さて、ビーチボールを思いっきり熱くしてやるか! ビーチバレーだ!」
 昼まで寝ていたジェームスが、わいわい楽しんでいるビーチボールのメンバーに加わる。
「げ、本気(とかいて覚醒と読む)禁止だかんな!」
「しねえよ!」
 そんな、やり取りをして遊んでいた。
「‥‥あ」
 橘川はそんなジェームスの顔をじっと見ていた。澄野は只、側で見守る。

 思い思いの休暇を楽しんだ後。ラスト・ホープに戻る。そこで、ジェームスの人柄をみてエルは自分の中に疑問を抱いた。
(「‥‥何か、らしくないな、他人のことなんてどうでもよかったのに‥‥何で気にしてたんだろ、僕‥‥ただ僕は偉い人のいうこと聞いてバグアを倒して認められればそれでよかったのに‥‥何なんだろ?」)
 と。
 しかし、それは自分で見つけ出すしかないな、とエルは考える。

「楽しかったな!」
「また行きたいね」
 と、はしゃぐ人も居るが、また新たな苛烈になる戦いに気合いを入れ直す傭兵達だった。