●リプレイ本文
●倉庫
大きな白い布に覆われた、無骨な物体を傭兵達は見ていた。
「これがテストの新型かぁ」
薄暗い倉庫の中、その8機がある。
書類を持って、しっかり読み込むのは、水上・未早(
ga0049)と藤田あやこ(
ga0204)だった。
他に者も説明書などを読む。
「実際の理論値ってどれぐらい?」
ゲック・W・カーン(
ga0078)が、ドローム社の整備スタッフに尋ねる。
「理論では10〜20%のアップですね」
「そうか」
1機が布を取られ、あらわになる。
「あまり姿、変わってないね」
全員の感想だ。
特に、F−104を乗ったことのある、水上は言う。
「操縦性は良くなっていればいいけど」
「だよなぁ。SES強化って有るから、融和性有れば‥‥。でも乗ってみなくちゃ判らないな」
東野 灯吾(
ga4411)が言う。
「確か日本でも、昔にファルコンという名の機体があったような?」
シア・エルミナール(
ga2453)が、一寸呟くように言う。
「それは偶然でしょう。あくまでまだまだコードネームですから」
スタッフはそう答えた。
「速くとばしたい気持ちがありますからね」
「なるほど」
シアは納得した。
機体に手をあててから、うっとりして頬摺りするのは、レーゲン・シュナイダー(
ga4458)。
「ああ、この子、とても可愛い感じがしますう。あのう、テストが終わったら、この子持ち帰って良いですかぁ?」
「それは困ります!」
整備スタッフが答えた。
「残念です」
レーゲンはションボリする。
それをみて、クラーク・エアハルト(
ga4961)は、苦笑した」
「それはわがままだぞ。新しく完成した機体になるためのテスト機だ。改良されていくためなのだから」
香倶夜(
ga5126)は、KVを乗ることが初めての経験。
機体に手を当てて、
「これから命を預けるかも知れない機体だから、満足出来る機体になって欲しいな」
と、言うのであった。
そう、今回はテスト飛行とレースという戦闘は考えない。
しかし、これの完成機は、戦場に赴くことになるのだ。気楽な仕事といえども、真剣に考えていかなければならない。
そして、詳しい打ち合わせを始める。
経験者と初心者などが手を挙げていく。
「俺、KV飛行は初です!」
東野が言う。
それに対して、スタッフはこういった。
「安心してください。緊急自動操縦装置を付けています。よほどの深刻な失敗がない限り、コックピットから地面や海面に激突などはないです。よほど無茶なアクロバティック飛行をしない限りは大丈夫です」
と。
まずは基本のテストプログラムをやって欲しいと事だった。
1時間ぐらいの説明と質問もおわり、まずは指定通りのテストすることとなる。
●飛行テスト
それぞれが、思い思いの名前をこのテスト機に付けて、搭乗する。
水上が機体を優しくなでる。
「一寸粗っぽいことするけど、よろしくね」
と、言った。
光の反射で、その機体は『よろしく』と言ったように思える。彼女は微笑んだ。
藤田は位牌を持っていた。それをとがめる者はいない。正規軍人でも、家族の写真をどこかに貼っている事があるのだ。ただそれだけのこと。
「さて、皆さん。滑走路に順序よく進んでください」
指令塔から連絡が入る。
海に向かって、8機のテスト機が順序よく飛んでいった。
テスト機なので中には小さなレコーダもあり(ブラックボックス以外に、だ)、各所にそういたセンサーを付けているようだが、別にそれの所為でコックピットが狭いというわけではない。
「一寸、操縦桿が違うかな?」
F−104を乗った人は言う。
順序よく飛び立ち、通常にテストプログラムの飛行をするが、
「うわああ! 上手く曲がれない! 扱いにくいわ! 結構じゃじゃ馬ね!」
経験者の声。
「ひいい! Gってこんなにかかるの!!」
初心者の悲鳴。
流石にマイナーアップしただけでも、操縦は厳しかった模様だ。それでも、緊急AIによる補助は‥‥、変形時の安定化以外ではおきなかった。ロボットになったとき、着地に躓く事もしばしばだったが。
「スピード重視にしたので高速の安定性、変形時のバランスにやや問題がありますね」
というのが、データを取っている者と、テスト乗組員8人全員の共通の意見だった。
また、理論値の速度を出すにはもう少し慣れてからだという結論がでた。つまり、今回はM6.5をマークしていなかった。
変形安定以外で、急旋回や通常のテストで上手くやり抜けたのは、レーゲンと香倶夜、ゲックだった。 レーゲンとゲックの2人は、ムリに高度な操縦などはしないで、自分のペースを保ち、テストプログラムに従った事からかもしれない。ただ、香倶夜だけは、荒い操縦をしたのだが、かなり上手く扱えたようだった。流石に危険と判断した旋回方法などは、していないこともある。
「結構難しかったね」
彼女は笑う。しかし額には汗があった。
あと、東野は有る程度の速度で変形安定実験を成功させている。
藤田や水上、シアは、少し難しい飛行を試みようとして、少ししくじる。
「『無茶しちゃいけないよ』と、お母さんに怒られそうですね」
藤田は苦笑してしまった。
1日だけ休憩とレポートを提出し、その間に、サイエンティストの藤田とレーゲンは、色々機体や、設備を見て回っていた。研究意欲が湧くのだ。藤田の方は、今な亡き母親のことを思い出しているのだろう。
次の日もテストをして、有る程度慣れてきた。確かにスピードなどはF−104より出やすいことは確かだが、やはり安定性に問題があることと、SES強化が中途半端と言うのが際だったことが判る。M6.5を出し、それを維持しようとしたときに、AIでの緊急装置が動く事も判明した。どうも、機械自体のバランス調整が必要になっているかもしれない。
「M6.5‥‥、壁ですね。大丈夫? ヒメルヴィルツ」
レーゲンは、テスト機の窓を優しくなでた。
●レース
そして、3日目。
F−104が2機現れた。それらを乗りこなす能力者達が来たのである。
「初めまして。よろしく。ほんじゃ、始めようぜ」
「はじめまして。こちらこそよろしくお願いします」
「ああ」
向こうも気さくに話しかけてくるので、全員もそれに緊張せずに話しかける。
「ま、テスト機に乗れるって言うのは、結構うらやましいぞ。今度こそ俺もバージョンアップのやつを乗りこなしてみたいぜ」
と、悪意はない笑顔で彼らは言う。
「ええ。フェアで行きましょう」
シアが手をさしのべた。
相手は微笑んで、握手をした。皆がそれに倣って、各人と握手をした。
「では、まず海岸線にそって、途中でカーブ、こちらに戻るルートです。途中では低空飛行する地点など有ります」
地図を渡され、再確認する。
滑走路が慌ただしくなる、全員が機体に乗り込んだ。
「水上、出ます!」
「ゲック、出る」
「Gut行きます!」
「ミストラル、バイキングディパーチャー、テイクオフ」
「ランタンいくぜ」
「いきましょう。ヒルメヴェルツ」
「クラーク行きます」
「香倶夜、いきまーす」
と、各々が無線で報告し、飛び立っていった。
10本の飛行機雲が綺麗に空を描いていく。
FX−104Bのテスト飛行をしてだいぶ慣れた8名は、勝ちに行こうとする人と、飛んでいることが楽しいからマイペースに飛んで、勝敗は関係ない人と別れていた。それでも、最大限に性能を出すように心がけて、FX−104B・ファルコンを操る。
まだ、F−104とは差が開いていない。追い越したり、追い抜かれたりの接戦である。
数10マイル先の折り返し地点が見えた。
調子は良い。だいぶ、操縦桿がしっくり手になじんでいる。
「そろそろかな?」
水上が、少しスピードを出す。右後ろにいるF−104も彼女を追い抜こうとする。
「そうはさせない!」
加速成功。今度は上手く勢いに乗る!
Gがきついが、耐えられる!
藤田は、目の前に飛ぶF−104を追う。
(「中の人を追いかけるんだ! と、母さんが!」)
叫ぶ。そして、相手の機体すれすれで追い抜いた。M6.0を出す。カーブする地点を通り過ぎそうになるのだが、急旋回で折り返す!
「ふうう!」
ある種の爽快感を彼女は感じた。
「ファルコンいけエエエ!」
折り返しから一気にブーストをする東野は、そのままM6.5に挑戦する。
が、M6.5を出したのは良いが、コントロールの甘さから、コースからかなり外れてしまった。
「うわあああ! もどらねぇと!!」
焦る東野。
しかし、M6.5を数20秒はキープできたが、かなり遅れた事になった。
「ほんと、空を飛ぶのが好きなんですね、皆さん。私もですけど」
クラークは、しっかり周りを見て、安定した速度で上手く空を飛ぶ。
結果は、FX−104B、5機が先に到着したのであった。あとは、ほぼ同順にゴール。コースアウトした、東野は後ろから2着。最後がもう1機のF−104である。
「うーん、むずかしいな! というか、恥ずかしい!」
悶える東野。
しかし、怪我もなく、安定したデータを手に入れた事で貢献しているので、彼をからかうことは出来ない。
無事、事故もなく、テストは終了した。
この機体に別れを惜しむレーゲンや、昔を思い出している藤田がいるが、空を飛んだ談義に花を咲かせる夕食。
そして、全てのデータを収集し、FX−104Bがドローム社に回収されるまえに、
「カメラの都合で、1機だけしか入らないけど、記念に集合写真撮りましょう」
と、提案するクラークだった。
「それはいいですね。撮りましょう」
「賛成! 女の子は前が良いかもな! はいはい詰めて!」
7人が1機のFX−104Bの前に全員が思い思いに並んで、待っている。
「はい、そこは一寸詰めて。一寸顔緊張している人、もう一寸リラックスして。いいよ、撮りますよ〜?」
タイマーセット。
クラークが位置に付いて座る。
丁度、皆の笑顔とテスト機FX−104Bと一緒に収まった。
FX−104Bが、さらなる進化を遂げ、再会出来るのかは分からない。しかし、再び会えれば、どれだけ嬉しいことだというのは、当然の気持ちだろう。