タイトル:元復讐者と歌姫マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/08 15:30

●オープニング本文


 相当前の話になる。
 フィスト・ザ・アヴェンジャーと言う男が居た。家族をキメラに殺されてそのキメラを追い求めていた。
 その目的が果たされてから数年経った。
 いまでは、名前を単にフィストというコードネームのように使い、能力(ちから)を自分と同じ位目にあうような哀しい人を出さないために振るっているという。そう、キメラが現れれば其処に向かい倒し、怪我を治せばまたキメラを倒す。時にはKVに乗っては、戦っている。
 彼の目は昔のように憎悪に満ちてはなかったし、彼は報酬を‥‥意外なことに使っていた。

 そして、現在。
 フィアナ・ローデン(gz0020)の事務所では、「孤児院が新しく建ったようで、そこで子供達に歌って欲しい」という依頼が来たという。その孤児院とはキメラで家族を失ったか生き別れてしまった子供達だそうだ。
「はい、喜んで」
 早速、手続きに入って、日時も決定される。5月3日に決まった。

 孤児院にオルガン程度ならあるというが、大きな物はないため、電源をあまり必要としないものをもってその孤児院に向かった。
「はじめまして。フィアナ・ローデンです」
「はじめまして、ここの館長を兼任しているフィストと言います」
 もう、50かそこらの男性〜フィスト〜がフィアナと握手を交わした。

「楽しい一日になるように歌いますね」
「はい、貴方の歌は、素敵だと評判ですから」

●参加者一覧

ベル(ga0924
18歳・♂・JG
葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
キド・レンカ(ga8863
14歳・♀・EP
風雪 時雨(gb3678
20歳・♂・HD
鹿島 灯華(gc1067
16歳・♀・JG
悠夜(gc2930
18歳・♂・AA

●リプレイ本文

●さて、はじめよう
 フィアナ・ローデン(gz0020)のいるローデン事務所には傭兵達が集まっていた。
「‥‥お久しぶりです‥‥」
 ベル(ga0924)がフィアナに挨拶する。
「はい、ベル君、お久しぶり」
 会話をするうちに花見にいたことが分かってフィアナは驚いていたが、
「‥‥今回は一人でふらふらとしていたのです‥‥」
 とベルが言う。
 風雪 時雨(gb3678)は、ローデン事務所につとめている分、後ろで色々作業をしていた。
「フィアナさんこんにちは! 今回よろしくです!」
 椎野 のぞみ(ga8736)が元気よくフィアナに挨拶する
「はい! のぞみちゃんよろしくね」
 ニッコリと微笑みながら、フィアナはのぞみと握手をして挨拶する。

「初めまして。イルファと申します。このたびはよろしくお願いします」
 【Steishia】シリーズでおしゃれをしているイルファ(gc1067)が、フィアナに自己紹介すると、フィアナは微笑んで、
「初めまして。よろしくお願いします」
 優しい手で握手を交わす。
 今度は、長身ながらもおどおどしているキド・レンカ(ga8863)が、勇気を振り絞って、
「え、えと、は‥‥はじめまして! キド・レンカです! お願いします」
 自己紹介をした。フィアナは彼女をみて微笑みながら握手をする。
「はい、キドさんよろしくお願いしますね」
 優しいフィアナにキドは少し頬を染めて、こくこく頷いた。
「初めましてだな。俺は悠夜ってんだ。よろしくたのむぜ」
 挨拶すると、それに習って、悠夜(gc2930)も挨拶する。
「はい、よろしくお願いしますね」
 フィアナの笑顔に、イルファ達はすこし不安も出てきた。
 それは、のぞみやベル、時雨は子供が好きだと聞いているが、イルファ、キド、悠夜は子供の頃の記憶が分からないことや、子供と遊ぶことを苦手としているかだった。
「子供は苦手なんだ。でもそれを克服するために来たんだけど。そう言うのでも、いいのか?」
「はい、一緒に遊んだり歌を歌ったり楽しい時を過ごせれば。それに、何事も克服しようとする心は大事で立派なことですよ」
 悠夜がフィアナ達に事情を話すと、フィアナはにっこり答える。悠夜は「よしやるぞー!」と気合いを入れた。
「‥‥俺は、この人を知っているから‥‥」
 ベルは、久しぶりに会う仕事で出会った人物〜フィスト〜と会うのが楽しみであるらしい。


「まず鬼ごっこや、一緒に遊ぶことをしようかな?」
「お菓子作りもしたいね。台所‥‥厨房なのかな? 借りられるかな?」
 集まった傭兵達で、計画を練っていた。子供達を楽しませるために。
 こうして、鬼ごっこやお菓子作りとフィアナを中心に歌を歌うという話にまとまった。

●鬼ごっこ
 小さな運動場に子供達がわいわい遊んでいる。ぱっと見ると7歳以上14歳程度で、遊び盛りな年頃の子供が多いと分かる。13歳ぐらい高い年齢の子供は、お兄さんお姉さん然として弟妹分を世話しているようだった。滑り台などの設置遊具ではなく、ボール遊びで盛り上がっている。それを眺めている、ジャージ姿にエプロン姿という不釣り合いと思う屈強の男が見守っている。
 一行が門の前に立つと、子供達は興味深く彼らを見ているが、近づくことはなかった。しかし、ジャージ姿の男だけが近づき、
「ようこそいらっしゃいました。フィストと申します。孤児院に来て頂きありがとうございます」
 優しい声で傭兵とフィアナの一行を歓迎した。
 女性の中で一番背の高いキドが一瞬怯えてしまうが、ここは我慢している。全員、フィストと握手して挨拶を交わす。
 フィストが子供達を呼んで、
「今日は、フィアナさんとお兄さんお姉さん達が、みんなと遊んでくれるんだよ。歌ったり遊んだり思いっきり楽しもう」
 と、説明すると、子供達は「わーい!」とはしゃいでいた。一行が敷地内に入って、すぐに静かになってから、傭兵達やフィアナが自己紹介をする。すぐにでも遊びたいような雰囲気が伝わってくる。
「よーし! ガキ共‥‥じゃなかった。子供達、何して遊びたい? それとも何か教わりたいかい?」
 と、威勢よく訊くと、
「ドッチボール!」
「鬼ごっこ!」
「野球!」
 沢山ありすぎて悠夜がたじろぐ。
「あーあー‥‥わかった‥‥わかった! まず‥‥」
(「‥‥ここは、みんなで遊べる鬼ごっこが良いですよ‥‥」)
 ベルがそっと助け船。
(「さ、さんきゅ‥‥」)
「よし! まずは鬼ごっこだ! まずは俺が鬼だぞ!!」
 悠夜がやりたい子供達をぞろぞろ連れてジャンケンを始めた。
「では、お菓子作りをしたい子は、あなた達ね?」
「はい。お菓子作りをやってみたいです。フィスト先生は、お料理苦手だから」
 のぞみが女の子(小学生高学年〜中学生あたり)達と厨房に向かっていく。
「‥‥っ!」
「私たちは子供達の鬼ごっこに向かいましょう? ね?」
「は、はい‥‥一寸嬉しいです」
 イルファはキドを連れて鬼ごっこの方に向かう。しかし、イルファは隅っこの方でどちらにも行かない寂しそうな子供を見つけていた。
(「今誘うのは‥‥様子を見てからでしょうか?」)
 と、思っていた。


●再会
「‥‥お久しぶりです、フィストさん‥‥」
「あのときの、少年か。世話になったな」
 フィストとベルは、室内から外が見える場所で話をしている。
 一度しか合ってはないが、印象が残っている人物との再会。ベルにとっては嬉しいことだった。
「‥‥凄いですね。孤児院を建てる事が出来るなんて‥‥」
「いや、そうでもない。今まで、視野が狭かっただけの話だよ」
 ベルは、フィストに今まで何をしていたのか訊ねていた。
 残っていた復讐心を何とか捨て、激情に身を任せることを止めるまでの苦悩と、『自分に何が出来るか』を戦いの中で知った事を。
「バグアと戦い、戦場跡に残るのはなんだと思う?」
「‥‥えっと」
「家族を亡くし、絶望している人達だ」
「‥‥」
「家は壊れても建て直せる。町はバグアからの危機が去れば復興という形で立て直せる。しかし、家族を亡くした悲しみは一生続いてしまう。私みたいに復讐にとらわれる者もでるだろう。私のような者がでないためにも、こつこつ貯めた資金で、子供達を救おうと思っただけだよ」
 フィストはベルを見て言った。それは、自分の使命はそれであるという風に。
「‥‥すばらしいことだと思います‥‥。まだ、俺は‥‥まだ、バグアに憎悪を抱いています。それで、自分を許せない‥‥」
「君はまだ若い。私が言うのも何だが、悩み苦しむのは人として当然のことだと思う」
 フィストの言葉は優しかった。
「フィストさん」
 厨房では、女の子達がフルーツタルト作りをしているわいわいと楽しい声が聞こえていた。
「‥‥では、俺も子供達の中に入っていきますね‥‥」
「そうだね。いってらっしゃい」

 別の所では、フィアナと時雨がステージらしいもののセッティングをしていた。
「子供達が笑って遊んでいるところは、いつ見てもいいものですね」
「可愛いですよね♪」
 時雨はアコースティックギターの音調を併せている中、庭で遊ぶ子供達を見てつぶやいていた。

「ひゃっほう! 今度はお前が鬼だな!」
「10数えるぞー!」
「わー」
 悠夜が一番子供達に溶け込んでいるのだった。もちろん、能力者の力は使わないように力はセーブして。
 キドも、子供達と悠夜の勢いで、アタフタしながらも笑顔で遊んでいた。彼女はしばらくするとパンダのぬいぐるみを使って、鬼ごっこに疲れた子供とお人形遊びをしていた。
 イルファが周りを見て、
「やはり」と、
 ひとりぼっちの女の子を見つけていた。
「悠夜さん、あと、頼みますね」
「OK、さて‥‥ほどよい人数になったな他に何してあそびてぇか?」
 彼女は鬼ごっこの輪から抜け出し、その一人ぼっちの子供に向かう。
「どうしたの?」
「‥‥」
 その子供は人見知りが激しかったようだ。
 イルファは、子供の頃の記憶が欠落している。しかし、人から聞いたことを元に‥‥、考えた。
 目線を併せるために屈んで、こねこのぬいぐるみをその子供に渡した。
「‥‥っ!」
 おどおどする子供は、無言でぬいぐるみを抱きしめる。
「一緒に遊びましょう。ね?」
 イルファが出来る限り笑顔で遊びに誘うと、子供はこくりと頷いた。
 流石にやんちゃな子供が集まった悠夜グループではなく、おとなしい遊びをしているキドのほうに混ざっていく。ままごとかおはじきなどを楽しんだ。
 室内で見ているベルは、
「‥‥子供っていいなぁ‥‥」
 と、癒されているようだった。


●お菓子と小さなステージ
 のぞみが仕切っている厨房は和気藹々として、フルーツタルトを作っている。初めて包丁を持つ子供は少なかったが、セラミック包丁でフルーツを切ったり、生地をこねていたりした。高学年の女の子ばかりだったのか、やんちゃな子はいないので、のぞみも教えやすかった。
「これはね、こうやってやると‥‥ほら!」
「なるほど! わかった! のぞみさん、やってみる」
 おどおどしていて丁寧語で喋っているときから、さらに心を開いてくれていることを一番実感する。
 タルトの生地を焼き上げて、フルーツを飾り付ける。外で遊んでいる子供達が帰ってくる頃には、フルーツタルトはできあがった。
「できた!」
「ばんざーい!」

「では、みんな思いっきり遊んだかな? フィアナです♪ 今日はみんなに歌を歌いますね!」
 フィアナと時雨、のぞみは子供達に歌いはじめる。小さなステージだが、子供は歌の上手さに感激していた。それをベルやイルファ、キド、悠夜が子供に囲まれて眺めていた。イルファの膝にはひとりぼっちだった女の子がちょこんと座っている。
「さて、今度はみんなで歌いましょう! えっと、イルファさん」
 フィアナがイルファを呼ぶ。
「はい、え? まさか? 本当に、私もですか?」
「みんなでやりましょう♪」
 前に、イルファはピアノ程度なら出来ると計画の時に伝えていた。
「上手くはないですが‥‥」
 と、付け加えて。
 しかし、今回の慰問は大きな舞台に立つような上手い歌などではなく、ささやかに子供達を楽しませること。それだからフィアナは誘った。イルファは、戸惑いながらオルガンの前に座る。
「簡単な歌しかできませんが」
「うん、楽しく歌える楽譜だから、大丈夫」
 楽譜は、フィアナやIMPが使うものではなく、よく知られているみんながよく歌いそうな歌の楽譜だった。
「はい、がんばります」
 イルファが弾く。
 少したどたどしい感じはしたが、時雨ものぞみもそれにフォローして、楽器を弾き、歌を歌ってくれた。子供が苦手だと思っていた悠夜も、すでに子供と同じぐらい溶け込んで歌っている。キドは小さい声ではあるが頑張って歌っている。ベルはフィストと並んでその風景を眺めていた。

 小さなささやかなステージが終わると、待ちに待ったおやつの時間。
「今日は、みんなで作った、フルーツタルトです!」
「わああ!」
 子供達は甘い香りと、カラフルなフルーツの宝石箱をみて歓声を上げた。押し寄せそうな所をイルファ達が止めにはいる。
 自分で作ったと言うだけ合って、美味しさもひとしおらしく、高学年女の子組はのぞみに懐いて色々お話をせがんでいた。
「美味しい!」
「こりゃうめぇな! これだけじゃたりねぇ、お前達もおかわりしろよ!」
 悠夜が子供達に混じって言っていた。
 この後、悠夜は、やんちゃ盛りの男の子達にもみくちゃにされている。イルファとキドは、お菓子を食べながら、おとなしい子供達とゆったりした話をしていた。また、自然と裏方になっている時雨は自然と間が開いたベルとその光景をみていた。
「楽しんでいるようでよかったです」
「‥‥ええ、笑顔があることは、素敵ですよね‥‥」


●おわかれと
 夕日が周りを赤く染める頃‥‥、このささやかなお祭りは終わりを迎える。
 最後にお別れが来たとき、元気に「またきてねー」と子供達が言ったことが、『来てよかった』と一行に思わせた。
 イルファと一緒にいた小さな子は、ずっとこねこのぬいぐるみを抱いていた。
「気に入ったの?」
「うん‥‥」
「あげるね」
「ほんと? お姉ちゃん‥‥ありがとう!」
 子供はイルファに飛びつくように抱きついた。イルファにはその事がとても嬉しかった。

「本当にありがとう。子供の笑顔が見られて嬉しかったですよ」
「また、遊びに来ますね。フィストさん」
 フィストとフィアナは握手して別れを告げる。再会の約束をして。
「俺も‥‥ってひっぱるなー!」
 悠夜は子供に弄られている。やんちゃな男の子達にとても懐かれているようだ。
 ベルは、眼を細め眺めていた。

 この一日は、戦いばかりの傭兵達に一時の安らぎと何かを得られたと思うだろう。それぞれが思う気持ちを胸に、帰路につくのだった。