タイトル:恐怖巨大猪〜密林マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/23 10:39

●オープニング本文


 コロンビアの三大バグア軍基地が陥落した後。
 強固な防衛力を誇るキメラ闘技場を除き、国内のバグア勢力は続々と周辺国へ撤退して行った。
 しかし、彼らが国内に残したキメラの総数は数百体とも言われ、これらは物資の流通を妨げ、住民達の生活を脅かしている。
 また、コロンビアの重要な収入源である石油や宝石類の採掘をも困難にしているのである。
 広大な国土を我が物顔で跋扈するキメラに困り果てていたジャンゴ・コルテス大佐に助け舟を出したのは、意外な人物だった。
 UPC南北中央軍中将のヴェレッタ・オリム(gz0162)である。
 彼女は、北米のとある場所に隠匿された『UPCキメラ研究所』の所長を兼任しているのだが、エイジア学園都市にある付属研究員養成校で使用する教材用キメラが不足している。
 つまり、その調達場所としてコロンビアに目を付けたらしい。
 キメラ闘技場の影響か、それとも南米の変化に富んだ地形のせいか、そこに棲息するキメラはバリエーションに富み、未だ研究も進んでいない。
 生け捕りにする必要は無いが、出来る限り大量に調達して欲しい、とのオリムの命に、コルテス大佐は、傭兵を動員した一大キメラ狩りを計画したのであった。


 コロンビアのとある農村に、とびきり大きな猪が突っ込んできては、農作物や家屋を駄目にすると言う。
「ふむ、まさに猪。突っ込むしか芸はないのか?」
 調査をしている職員は事情聴取をしているのだが、
「カラフルモヒカンな猪で、骨がトゲみたいに突きだしている?」
 南国だから極楽鳥のカラフルな遺伝子でも組み込んだのか、その猪は色鮮やかな暖色モヒカンに、肩や関節部分にも牙やトゲのようなものが出っ張っているという。
 そして、突進する勢いは、傭兵のスキルで言うところの瞬天速か迅雷を思い起こすように速いらしい。加えて、これが走り去った後には何も残ってないというのだ。
「突進するにはしばらく時間がかかるようだが、当たるとベテランでもやばいかも」
 という、情報収集を纏めていく。
「南国のカラフル猪か‥‥ふむ‥‥突進さえ気をつければいいが、いきなり方向転換はするのか?」
「基本的にはそれはないようですが、物を壊した後に時折角度を変えることもあるそうです」
 避けたと思ったら実は角度変更のルートだったと言う事で地元能力者が怪我をしたという話もあるそうだ。うむ、ただ突進するだけではないらしい。
 こうした情報を纏め、UPCにキメラ退治としてUPCに送るのであった。
『巨大猪を数頭狩ってきてくれ。出来るだけ損傷がないように。時間は昼。最低2頭を狩ってきてくれ』
 という依頼がコロンビア関係依頼の通称『キメラ狩り』に載るのであった。

●参加者一覧

ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
明智 和也(gc0891
18歳・♂・DG
シィル=リンク(gc0972
19歳・♀・EL
鹿島 灯華(gc1067
16歳・♀・JG
バーシャ(gc1406
17歳・♀・ER
ホキュウ・カーン(gc1547
22歳・♀・DF
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG

●リプレイ本文


 全員が集まって作戦会議をしているときに、罠を作って其処に落とし込み、急所を狙うという作戦である。そのなかで、オルカ・スパイホップ(gc1882)が、
「なぁ〜んだ、たいしたことなさそう!」
 と、強がっていたものの、足の震えが止まっていなく緊張していることが分かっていた。
「‥‥ダイジョウブです」
 そういう、ことで幾度かキメラと戦っているかなり長身のムーグ・リード(gc0402)が彼に言うのだが、「へ、へっちゃらだ!」と顔を真っ赤にして反論する。
 しかし、ラサ・ジェネシス(gc2273)やホキュウ・カーン(gc1547)も「自分も初仕事だから緊張している」ことを言うと、「‥‥うん、じつはびびってた」と正直に答えるのであった。
 最初から楽勝と思う人は少ない。

 鍋の話もあったのだが、それは多く狩ることが出来ればとし、「上手く交渉して報酬金上げていこう」と考える傭兵もいた。
 作戦以外で一番話題になっていたのは、鍋である。
「日本の文化『鍋』には興味があります」
 シィル=リンク(gc0972)が言う。
「ポトフとかそういう感じなんだろうねぇ」
「しかし、狩りの余剰分でしか無理って事らしいよ?」
「ですよね‥‥そうですよね‥‥頑張って狩りましょうか」
 シィルは心の中で、舌打ちしていた。
(「タダで何かを食べられるなんて事はないですよね‥‥おのれ」)
 と。

●罠
 集落跡の開けた場所で、傭兵達が穴を掘っていた。オルカが事前に調べた猪の習性と狩り方を元に、イルファ(gc1067)、バーシャ(gc1406)、ラサが共に手伝っている。
 しかし、彼が見たのは一般の猪の狩猟方法のため、フォースフィールドをもち、巨大・強大化したキメラには調べた罠は小さすぎると始める前に気づく。吊り上げ式の罠ではなく、単純に突っ込んできた相手を落とす、落とし穴が最適だと言う事で落とし穴にした。イルファが用意したバトルスコップのインテークから蒸気が噴き出している。
「スポーツドリンクを持ってきましたが、作業が一段楽されたならいかがですか?」
「ありがとう」
 バーシャがイルファ達、穴を掘っているメンバーにドリンクを渡していた。
「罠の方が安全なのに、狩り班大丈夫かなぁ」
 オルカがつぶやくと、
「ムーグ様がおられますし大丈夫でしょう」
 バーシャがクスクス笑って、集落に残っていた網を拡げていた。

 一方、狩り班は集落跡に続くジャングルを探す。探す前に鬱蒼と生い茂るジャングルを見て、明智 和也(gc0891)は、
「む、これも試練とおもったが、ジャングルでバイク状態のAU−KVを運ぶのはきついか」
 彼は、集落まではバイク状態のAU−KVをおしていくが、道無き道になったジャングルでは嵩張り、仲間と距離が離れると感じ、覚醒してAU−KVを装着した。そのほうが、普通の獣は寄りつかないし、移動も楽だ。
 シィルは器用に木々を伝って進もうとするが、
「アマリ、サキニ、イク。サイン。ミエナイ」
「ごめんなさい。気をつけるわ」
 ムーグに言われ、ある程度スピードを落とす。
 2人とも無線機はあるが、目標に諭されないために身振り手振りで連絡し合う方法となっていた。故にそれほど遠くはいけないのである。
 途中、巨大な何かが猛スピードと恐ろしい力で周りを薙ぎ払いながら進んだ跡を見つける狩り班の4人は、地面にある猪の足跡と周りの惨状を見ると『近くに居る』と分かった。藪や障害物はバラバラになり、木々は折れて倒れている。石か堅い物体で破壊されたような跡が直線状に続いていたのだ。
「気を引き締めていきましょうか」
 ホキュウはマーシナリーアックスを担ぎ直し、警戒する。
「デハ、私ハ、コノ位置ニ‥‥」
「拙者がおびき寄せてくる。シィル殿」
「無線通じていたらムーグを呼びます」
 猪が造った大きな道をたどって、2人は上下から向かう。

 ムーグ達が待機している場所から数十メートル先、モヒカンでカラフルなキメラが少し開けた場所に2頭居た。様子をうかがうと、餌がないか探しているようである。明智はそれを軍用双眼鏡から見ていた。サインで見つけたとシィルに言うと、彼女は無線機を使ってムーグに知らせた。
「こちらシィル。目標確認‥‥罠までは遠い‥‥」
「ナラ、コチラ、マデ、オビキ、寄セテ。私ガ、オサエ、コミマス」
「了解。‥‥ムーグが待ってる地点まで誘導しましょう」
「了解だ」
 しかしいっぺんに2頭を倒すのは難しいので、なるべく2頭の距離が離れてくれることを祈る。別の猪が、別の何かを見つけどこかに向かったところを見計らって、明智が近くにあった小枝を投げて気を逸らした。上手く1頭だけ気がついてくれたようだ。しかし、猪とは思えない謎の鳴き声で突進してくる! 明智は何とか躱すも、風圧が凄く、彼はAU−KVごと転がっていく。しかも、運悪く転がった先が、シィルが登っていた木だったため、彼がぶつかった後、シィルがその衝撃で落ちてしまった! 
「いったぁ‥‥なにをしてるのですか」
「すまぬ! 先に逃げるんだ!」
「あ、あ‥‥わかった」
 相手が蹄で地面を蹴っている。そなおとから見えない突進が来ると知らされている。今の内に逃げるときだ。シィルは来た道を走る。明智は牽制射撃をしながら相手の突進の向きを見極める。一瞬敷いて猪が消えた。彼は突進を躱すために横に飛んだのだが、強い衝撃と共に彼は宙を舞っていた。躱すのが間に合わなかったのだ。
「ぬおおお? うわああ!」
 中型トラックかそれ以上に匹敵するモノに轢かれて飛ばされた気分を空中で味わい、木々にぶつかる。吐き気と激痛が襲うが何とか耐えて起き上がる。AU−KVを着込んでいなかったら、ぞっとする物だった。
「なんとしてでも、限界を超える!」
 彼は起き上がった直後に、また突進してきた猪を何とか躱し、ムーグとホキュウが待っているポイントまで撤退していく。
「ポイント、散開!」
 ムーグが叫ぶ。シィルや明智、ホキュウは三方向にわかれて散った。走って来た猪は急ブレーキをして、すぐに見えたホキュウか、明智を狙いまた蹄で地面を蹴っている。
「来たな! 賞金首! 一発逆転の大当たりをもうらうよ!」
「油断するな! 突進するとまず確実にあぶないぞ! 反射が対応できない」
 あちこち凹んでいるAU−KVの明智が叫ぶ。
「わかった!」
 突進が来ると思ったときに、別の方向から、弾幕が来て猪はその場で足止めを食らっていた。
「イマデス!」
 ムーグの制圧射撃で行動を阻止したのだ。
 ホキュウと明智は接近する。ホキュウの斧では首筋を的確に狙う事は難しく、相手の肩を叩ききる形になった。
「首筋狙いたかったのに」
「はあっ!!」
 明智は刀を突き入れて耳の後ろを狙う。悲鳴を上げる猪が体全体を振り回して、2人をはねのけた。転がる2人は上手く受け身をとって立ち上がるが、腹に入ったようで吐血する。
「あーくそ! 結構痛いじゃねえか。でもな、この必殺を受けろ! ここでくたばりやがれ!」
 ホキュウが両断剣を斧にこめてから、瞬時に首筋まで回り込み思いっきり首筋を叩ききろうとする。キメラは悲鳴を上げてまた暴れ出す。牙でホキュウの服を引っかけて投げ飛ばした。
「うわああ!」
 ホキュウは吹き飛ばされ木に激突した。

 入れ替わりにシィルが飛び出し、二振りの剣を抜いてソニックブームを出す構えととった。
「拙者はおぬしで限界を超える!」
 明智はもう一度突き。こんどは耳裏ではなく掠った程度。毛皮の厚さに跳ね返されたかんじだった。
「くそ!」
「よけて!」
 と、シィルの声がしたので、明智は横によけた。シィルがソニックブームの真空波で猪の足を斬る。足自体は切断できなかった物の、かなり深手を負わせたようだ。そのまま彼女は突進する!
「これなら突進はないな!」
「デハ、援護制圧、イキマス」
「一斉攻撃!」
「レイズ分だ!」
 4人で一気に急所を狙い、1匹目を仕留めた。

●撤退の先
 ひとまず1頭を片付けた狩り班は一息を着く。狩り班には救急セットを所持していなかったが、ホキュウだけは活性化で怪我を治す。
「あと1頭見かけたよな」
「‥‥アア、気ガツイテ、コッチニ‥‥クルカモ」
 そう言ってる間に、オルカが遠くで「罠が出来た!」とサインを送っていたのだが。
 ドドドドドドドドドド。
「まさか‥‥よけ‥‥っ! うわー!」
「きゃー!」
「ウワッ!」
「わー!」
 モヒカンキメラが一気にこっちまで突進してきたのだ! かなり遠くから猛ダッシュで突進してきたようである。
 狩り班4人は猪に轢かれてしまい宙を舞っては木々に当たって地面に落ちた。カラフルなモヒカン猪は、何となく満足気な顔で次の獲物を睨む。オルカを睨んでいた。次の標的は彼だ!
「ニゲロー!」
 ムーグが叫ぶ。彼は負傷した状態でも制圧射撃で、なんとか猪を押しとどめようとしたが、躱されてしまった。
「は、はい!」
 全速力で走るオルカと後ろに猪の追いかけっこが始まった。
「いってー。くそう。見えない突進は読めないな」
 4人は立ち上がっては、明智はオルカが危ないと思い、竜の翼で先を急いだ。
「後を追いましょう」
「ソウ、デスネ」


「無線持ってくればよかった!」
 必死に走るオルカは叫ぶが持ってきてない物は仕方ない。罠は完成しているため、突進で吹き飛ばされないよう、おびき寄せるしかない。猪が止まる。あの全てを薙ぎ払う突進を行おうとしている。しかし、後ろを余り見られない状態のオルカには走って逃げるしかない。
 何かが爆ぜるような音。オルカはそれでも飛び込むように避けようとした。ヘッドスライディングで地面に滑る。猪は彼より先の所にいた。
「あ、あぶなっ!」
 あのときの緊張が浮かぶ。震える体に気合いを入れ、彼はカジキランスを構え戦う覚悟を決めた。
「く、くるならこい!」
 蹄で地面を蹴る仕草の猪。狙いを定めるどう猛な目にオルカは今でも逃げ出したいと思う。しかし、そうはいってられない。
 しかし風が横から吹くと、目の前では明智が刀で猪の眉間に突き刺していた。
「ぬおおお!」
「明智さん?!」
「いいからはしれえ!」
 猪の悲鳴にはっきりと明智の声が聞こえる。
 オルカは走り出した。
 イルファはブローンポジションで、明智と猪の乱戦を見ている。もう少し近くにくれば狙える。
「まだですか‥‥」
 明智は猪から離れ、罠の方へ走る! 猪も追いかけてきた!
 オルカが、「今だ!」と叫ぶと、イルファは狙いを定めて撃つ! 猪が悲鳴をあげるがまだ突進は止まらない!
「もう一撃」
 4発は撃つ。それでも猪は叫び声を上げて前進していく。彼女がいる位置と、猪が出てきた場所からは耳裏は狙えないため、眉間や目を狙っている。しかし一発だけ牙に当たって牙が折れて飛んでいった。

 ラサは、サイエンティストのバーシャを庇うように、2人で猪の距離より遠くに離れている。明智とオルカが一定の位置まで走り抜けるのを待つしかない。イルファの射撃と、明智とオルカの誘導が、猪を逆上させる。
 明智も見た目でわかる落とし穴。オルカと頷き合って、突進してくる猪から何とか避ける。避けた瞬間、ズボッという心地よい音が集落跡全体に聞こえた。
「よし獲ったり!」
 オルカはガッツポーズをとった。
 藻掻く猪キメラだが、巨大すぎたのか穴はそれほど深くなく今にも上がろうとする。しかし、ちょうど後を追っていた狩り班の3人が戻ってくる。この猪を囲めば、何とかなる状況になる。ムーグが制圧射撃をすれば、相手はほぼ動きを止めることが出来るからだ。
「貴方ガ次に生まれるトキは、キメラではアリマセンヨウニ。Requiem aeternama」
 ラサが祈り、武器を取った。

 武器を持つ傭兵にバーシャは、『練成治療』も併用し生け捕りに出来ないかと訊くと、
「ジツハ、キメラ、生ケ捕リ、困難。殺スシカナイ」
 ムーグは悲しそうに皆に言う。その悲しみはバグアを許さない怒りも感じさせた。
「では、怪我を治すとかは」
「ムリ、デス」
 そう、キメラは凶暴故、通常の檻に入れてもすぐに破られる。また麻酔や毒なども効かないと言われているのだ。幾度かキメラと戦ったムーグは片言ながら説明する。
 悲しい事だが、殺すことしかできないと。

●鍋は出来なかったが。
 一行は倒したキメラが運ばれるトラックを見る。
 一部を狙って攻撃していたため、検体サンプルとしては上々のものだと判断されたらしく、若干報酬は上がるという。
「うーん、1割増しとは行かなかったか」
 ホキュウは1頭につき1割増を交渉していたが、さすがにそれはムリだったようだ。最低2頭がノルマなので、それで1割増で色をつけることは出来ないものである。

「注意ワンミニッツ怪我ワンライフです。気をつけてください」
「「いだだだだだ!」」
 負傷した傭兵達を見るバーシャとラサは怪我をした傭兵達の治療で慌ただしく動いていた。
 明智は、また己の限界を超えたという実感に浸る。
 あと、鍋を期待していた多くの傭兵だが、ノルマ分しか達成出来なかったために、悔しがるも、生きているし、報酬の割り勘で打ち上げみたいなのでどうかとか、いや、やっぱり無料とか只飯がよいとか雑談を交わしていた。

 ラストホープに戻った後、ムーグはこの戦いで残っていた猪の牙をもち、祈る。
「‥‥オヤスミ、ナサイ」
 と。

 猪の脅威は去った。しかし、南米にはまだ多くの野良キメラが居る。傭兵達の力はまだまだ必要なのだ。