●リプレイ本文
※大凡時間順で書いていますが、会場入退場や、デートなどになると、一部時間系列と前後しているところもあります、ご注意ください。
●開場前
「今回は特別と言うことで」
スタッフがアルヴァイム(
ga5051)に事前搬送の手伝いで特別に許可してもらい、秋月 祐介(
ga6378)とリリー・W・オオトリ(
gb2834)の合同サークル【MODE AUTUMN & ウェンライト工房】(【MW】)に荷物を届けた。
「これが5万C分の小銭でそれから‥‥」
「ありがとうございます」
会場の搬送場でやり取りして、黒子は一般参加に並ぶはずだった。しかし、開場1時間前に武器携帯により、会場には入れてもらえなかった。警備スタッフとして参加しているか、たとえ持っていたとしても、直ぐに取り出せない状態であれば何とかなっていたのだろう。
葵 コハル(
ga3897)がアスタリスク大阪の入り口前で仁王立ちしていた。
「いよいよ2つの戦い、その一つが始まる‥‥いざ行かん! コミレザ!!」
拳を握りしめて、入場する。彼女は自分が有名アイドルと言う事も踏まえ(過去に一度御輿担ぎされて会場をフェードアウトした経験も)、名も変え茶色長髪ウィッグなどつけての変装入場だ。まず声を変えればばれることはないだろう。
一般入場者もかなりの数で開場前から長蛇の列だった。水円・一(
gb0495)はまずその列整理で忙しかった。
(「この忙しさでは、目当ての場所に回れるのだろうか?」)
と、不安になる。
「突然お邪魔してすみません。しっかり売り子させて頂きます‥‥」
葛城・観琴(
ga8227)が更衣室からコスプレ衣装で出てきて、秋月に声をかける。
「いえ、問題ありませ‥‥」
秋月祐介、固まる。
今回新刊の『聖レスト学園』の制服すがたの観琴に。
「おーすごいよね。いかにも『お姉様』みたいで!」
リリーが目を輝かせていた。思いっきり『逸材がここにいた!』と歓喜しているわかりやすい笑顔だ。
深緑色をベースに、赤と白のラインアクセントをつけたブレザーで、上着と同配色のハコヒダスカートだ。いかにもお嬢様学校らしい落ち着いたデザインである。制作は金城 エンタ(
ga4154)で各位に渡しているという。なので、モデルの『男の娘ズ』がそれを着る事が確定事項であった。
「覚醒厳禁だから‥‥覚悟は決めていたけど‥‥恥ずかしすぎる‥‥(やっぱり覚醒したい!)」
リリーの甥、ティム・ウェンライト(
gb4274)がまっ赤になりながら現れた。
「あれ? 秋月さんが固まったまんまですよ?」
作った張本人、ミスLH・エンタは堂々とこのレスト学園制服を着こなしている。絶対領域を確実に確保した姿で。その姿はどう見ても女の子であった。
「あの‥‥祐介さん?」
観琴がおどおど話しかける。我に返った彼は‥‥、
「あ、に、似合います。でも、今は寒いのでコレを」
観琴にコートを掛けてあげた。
「え、ありがとうございます」
(「コレは写真に納めておきたいし‥‥うん、僕だけに見せて欲しいな‥‥」)
とか、秋月は思っているのだが、顔に出ているのでリリーはニヨニヨしている。
「では、伊藤さん達に頼まれている物を買いに行きます!」
ジェームス・ハーグマン(
gb2077)が敬礼して、片手に目当てのサークルの番号や新刊のメモ、ウェスト&ベルトポーチに各種装備を備え、先発隊として出かけるらしい。
「うむ、行ってこい戦士よ」
眼鏡を光で反射させながら、祐介は彼を見送った。
「彼も立派なヲタクだよね」
リリーがジェームスを見送りながら微笑んでいた。
適応能力があるのってすばらしい見本である(ベクトルが違うかも知れないがそれは横に置こう)。
医務室では辰巳 空(
ga4698)が色々打ち合わせしている。急に倒れた人もしくは感冒症状の対応と、マスクや手洗いなどの指導などだ。気合いで何とかする人もいるだろうが、実際そうは行かない人が多いものだ。それに対応するのが彼の仕事だ。
「フィアナさんは自重して欲しいのですけどね」
と、仕事で来ている彼はたぶん嬉々と走り回るフィアナに会えないだろうと、溜息をついていた。
一般の列で一はある人物2人を見るが、見ない振りをする。
守原有希(
ga8582)とクリア・サーレク(
ga4864)が並んでいたのだ。
「エスティヴィアさん、大丈夫かな?」
「大丈夫だけど心配ですよね。全くあの人は、健康面でリソース割り振って欲しいですよ」
エスティヴィア(gz0070)が倒れたと言う事を聞いて、心配していたのだが見舞いに行けなかったので今回この会場で回復祝いと見舞いを兼ね、やってきたという。しかし有希は元からヲタク家系なため、この祭り(戦場)は待ちに待っている自分の望んだ世界であり、わくわくしていた。
(「しかし、クリアさんとお出かけが一番嬉しいな」)
ミニスカサンタの格好をしているクリアを見て頬がゆるむ。
「このトナカイめと確り手を繋いでくださいね」
「うん♪」
クリアの微笑みが眩しかった。
10時会場の放送が響く。一斉に駆けていく戦士達。今年最後の聖戦が今始まった。
●会場模様
【西研】に一人の亡霊が居ると言う情報は、すでに伝わっていた。
「なに? 魂抜けてる?」
竜のきぐるみの一が心配でやってくると、折りたたみ椅子に体育座りして、口から魂をだしているドクター・ウェスト(
ga0241)が新刊のひかり本に「無料配布」とポップをつけていた。そのよどんだ空気で客がいない。
「どうしたのぉ?」
「エスティヴィア?」
エスティヴィアがやってきて、「ありゃあ」とドクターの姿に声を出してしまう。
「ど、どうしたの?」
「この2ヶ月は色々あってね〜」
魂から声が出ているような気がする。
「確かに、つい最近のドクターはハイテンションだったよねぇ」
考え込むが、エスティ側からすると余り事情は読み込めてない。
「その反動で、テンション高めに2ヶ月過ごしていたが、我が輩も疲れてしまってね〜‥‥」
どよーんオーラが凄い状態だった。
「だ、大丈夫?」
「我が輩も落ち込むことはあるね〜」
ドクターはかっくり首を落とす。魂は浮いたままだが。このまま幽体離脱完了→死亡に成りそうで怖かった。
「ゆっくり休んだ方が良いよぉ」
「そうだな。医務室に連れて行こう」
一がスタッフを呼んで、彼を運んでいった。
「あたしも、人のことは言えないけどねぇ。さてサークルに戻るか‥‥」
エスティは頭を掻きながら、自分のスペースに戻っていった。
『白熊屋』では、ジェームスが膝をついて項垂れていた。
「ええっ! 今回、買えないだって」
新刊はゲットできたのだが、改造したKV少女は飾ることは出来ても販売は無理だったらしい。基本的に、創作メインとなる。元々ここの店長(?)鈴葉・シロウ(
ga4772)は客寄せで飾っているだけだった。
「正規の物の改造品だけど、まだそのへんはね」
人間姿のヲタ☆クマが申し訳なさそうに言う。
どんどん、それを見ている人だかりと新刊を求める人が多くなってきたため、クマは「柿崎――っ!」と、助っ人として呼んだアキト=柿崎(
ga7330)の名を叫んで売り子をさせていた。
「あ、はい分かりました!」
(「エスティヴィアさんに会えるかな?」)
ちょっと、K−111さんとか人気が出てその問い合わせとクマとヲタクのアンケートな話が続くので、アキトは売り子に集中だ。
「うう、今度広場であったら買おうかな‥‥」
ジェームスは意気消沈するのも3秒、切り替えも早く別の戦場へと雄叫びに近い何かを叫びながら走り去っていった。
「強くなれ少年!」
クマは、涙を流して彼を見送った。もし覚醒厳禁じゃなければ色々絵になっていたかも知れない。クマ的に。
さて、【M&W】では、一般入場で入った売り子で賑わっていた。
(「本当ならこんな事をしたくないんだが‥‥」)
Anbar(
ga9009)も着替え、コスプレ男の娘でコミレザデビューである。しかし、依頼とあればやりきるのが彼の矜持であり、放棄することは許されない。そのため、
「ほわっ! いらっしゃいませ!」
笑顔を振りまき、ドジっ娘の口調のレスト学園に出る登場人物【琥珀】を演じきっている。
「なに、男の娘本だと?」
「しかもリアルで、コスしている男の娘も。あと、女教師が色っぽいという話だ‥‥」
女教師というのはたぶん理事のことだろう。冴城 アスカ(
gb4188)が理事のコスをしているのだから余計に目立つものだ。
「いらっしゃいませ。どう?」
「新刊と既刊を1冊ずつ‥‥お願いします」
すこし、アスカは色っぽく売り子を務めている。
ティム、Anber、観琴が売り子をしているころ。【エミカ】になりきっているエンタはというと、
「お待ちしていました」
「え? 僕ですか?」
入り口近くで、男の娘四天王の一人、ファイナ(
gb1342)が来るのをまっていました。にこにこ顔の【エミカ】が制服をもっています。
「僕も着るんですか?!」
「是非着てください♪」
「そんなことしたくない! 断固辞退します!」
断固拒否なファイナであるが、隣にいる恋人のアセット・アナスタシア(
gb0694)が上目遣いのウルル涙目で見つめていた。
「‥‥っ! アセット」
「大丈夫だよ、ファイナなら似合う‥‥と思うんだ」
「‥‥くぅ!」
そして、ファイナ落ちる。
「でもその前にエスティさんに顔出しに‥‥それから‥‥でも良いですか?」
ファイナは妥協案を提示する。彼が約束を反故にすることはまずないため、エミカもアセットも頷いた。
「そうだね。エスティヴィアお姉ちゃん所にいってから、例のソフトも‥‥でも、家に本物(ファイ娘)が居るし、どうしよう」
「ああ、アレですね‥‥気が重い」
ファイナは苦笑し、エミカが微笑んでいる。
「でも、コスプレなどすると、みんなの仲間入りしたことで、わくわくするね♪」
「僕は違うことでわくわくしたい」
涙目のファイナとうきうきしているアセットの対極な状態を【エミカ】は見送っていた。
リリーがスケッチブックに絵を描く事に集中しているため、会計関係は秋月が受け持っている。松葉杖をつきながらも彼は何とかやっていた。
「大丈夫ですか? マドリードの傷、癒えてないのに」
観琴が心配するのだが、
「大丈夫です。心配には及びません」
微笑んで痛みを堪えている。しかし決して彼女に、その傷の辛さを見せなかった。
スケブを描いているリリーは、その二人の空間をみて「昔は‥‥」 と思い出していた。
「ティムちゃんもがんばってるね」
売り子の小休止中の甥に声をかける。
「恥ずかしいけど学芸会と思えばと」
覚醒すれば嬉々としてきているんだけどという感じに甥は言う。
「こんにちは、ジェームス君は居ますか?」
伊藤 毅(
ga2610)がやってきた。今回は一般入場だ。
「彼は、まだ戦場の中だよ」
教授は答えると、伊藤は「そうか」とつぶやく。そして、
「では、私も代理購入行ってきます。追加メモありますか?」
「はい、これだよ。いってらっしゃい」
リリーが自分たちの追加分メモを伊藤に渡すと、男の娘ズはお嬢様のお辞儀で、彼の出撃を見送った。
遠くの方で、サークルを回るジェームスを見たとき、伊藤は、
「ジェームス君は、もう立派な戦士だな。さて、次に行くところは‥‥」
と、新たな戦士の登場に満足していたのだった。
人の波と熱意に、クリアが圧倒されて、有希の手を離してしまいそうなとき、有希がすっと彼女を引っ張った。人の波に押され、抱き合う様になってしまう。
「あっ」
「‥‥っ!?」
女性に余り(?)免疫のない有希は、耳までまっ赤になるも、何とか我慢して、
「だい、だいじょうぶですかっ?」
クリアを気遣う。
少し頬を赤らめるクリアは、うんと頷き、確り彼の手を握る。
「ごめんね」
「クリアさんが心配ですから」
何とか落ち着いた有希は、人の波から離れてエスティのスペースに向かう。その頃には顔の紅潮も引いていた。
「じんぐるべーる、じんぐるべーる、エスティヴィアさん、ハッピーホリデーだよー♪」
「おう クリア君、守原君! ハッピーホリデー」
エスティが二人を温かく出迎える。
「しんぱいしましたよー」
「ほんと、健康管理へのリソース割り振ってください」
二人に注意を受けるエスティは「きをつけまーす」と反省の色がないような返事をするが、
「心配してくれてありがとう」
ちゃんとすまなそうな笑顔で、お礼を言い直す。
「そうそう、差し入れです♪ シュトレンとSDKVマジパンですよ。自信作は試作型レーザーシールド展開のフェニックス♪」
「おお、巧くできてるねぇ。ありがとう」
「こちらは、一口蟹餃子に、蒲焼き入り饅頭、根菜のほっとサラダです」
有希がおかずを担当のようだ。
「差し入れ、ありがとう! ほんと助かるわぁ」
エスティの感激の笑顔に、有希もクリアも笑顔が零れた。
「さ、中に入って」
「はい、色々お話ししたいです」
クリアとエスティ、有希はしばらく歓談していた。
「でもその格好寒くない?」
ミニスカサンタの格好は結構寒い。
クリアは「ボクが駆け出しだった頃、サンタ型キメラを撃破する依頼で着ていたので、久しぶりに」と答える。
(「あのとき、ツリーに飾る短冊に『彼氏欲しい』と書いたけど‥‥良い思い出だな。でももう二年かぁ‥‥」)
彼女は、ちらっと有希をみると、思い出して少し頬を染めていた。
ファイナとアセットがやってきて挨拶する。有希もクリアも二人に挨拶した。
「こんにちは。エスティヴィアお姉ちゃん、今回は一般参加だけど、売り上げの貢献と少しの応援受け取ってね♪」
「ありがとう、アセット。ファイ娘もお買い上げ?」
「こ、これが『息娘弄り』‥‥」
ファイナが新作ソフトをじっと見ていた。
「お買い上げありがとう♪」
有無を言わせない笑顔が二つあって、ファイナも買うことに。
「あ、何本か秋月さん所にもって‥‥」
ファイナが、『自分がモデルになった』このソフトの事を訊ねると、
「委託なのですでに搬送されているわぁ?」
「ええっ?」
委託販売で再会できるというおまけ付きだった。
「プレス数が少ないから、一人一本までだけどねぇ」
「あ、はい‥‥では、向こうで売り子しないといけないので‥‥また」
「いってらっしゃい、ありがとうファイ娘」
エスティがにこやかに言うと、「ファイ娘って言わないでください‥‥」とがくりと項垂れるファイナ。
「ファイナさんがんばってください」
有希は同情の目で見ていた。
クリアが、二人にパンをあげて、「又ね〜」と元気よく見送っていった。
古河 甚五郎(
ga6412)はサークル参加者だったのだが、今は搬送で必死に働いて、やっと自分のスペースで一息ついていた。ガムテープ本が余り捌けなく、ガムテープの本来の使い方でしか、活躍できていない。ガムテープの貯蔵量は無尽蔵ではないが、彼の梱包技術は、ガムテープ愛好者としてかなりの物だったために、ボランティア的に梱包の手伝いをしていたことになていたのだ。
「あとで、お裾分けでいきましょうかね」
ガムテープを引っ張るばりばり音をだしながら、今後のことを考えていた。ここまでのガムテープ愛は賞賛に値する。
アキトがやっとの事でエスティヴィアの所に来られたが、他のサークルでの新刊を数冊買う時間も含めると、少し会話が出来ただけだった。
『息娘弄り』を買う時、本能で「コレは買ってはいけないのでは」と思ったのだが、自信作とエスティは言うので、買うことになった。
「エスティヴィアさんはこのあとどうされるのでしょうか? 予定あいていますか?」
アキトが訊ねると、
「秋月君ところでふぐ鍋をゴチに。ごめんねぇ」
「ああ、それは残念です」
残念そうなアキトだったが、其処で携帯に電話が。
「はい、もしもし」
『柿崎――っっ!』
クマからのSOSコールだった!
「では、シロウさんがテンパっているので、又今度!」
「柿崎さん、パン持って行ってください!」
クリアが彼にパンをクマの分も渡した。
「ありがとうございます!」
「アキト君も大変だねぇ」
エスティは苦笑していた。
有希が回りたいところがあるというので、クリアも一緒にとついて行く。
「デート? デート?」
ニコニコしながらエスティが見送っていた。耳までまっ赤になる有希だが、反論できない。しかし、
「今度、差し入れには納豆入れますよ」
「いやあああ! 納豆はいやああ!」
何とかやり返せたようだった。
(「こ、これがコミレザ‥‥前回はライヴからしか見てないから‥‥すごい‥‥」)
椎野 のぞみ(
ga8736)は、この創作活動の人だかりに圧倒されている。
赤いカチューシャを外して、ロングポニーテールのカツラを着けて、隻眼執事のコスプレをしている。そして、昼にあるライヴ前に「どんな物か見てみよう」と言う事で歩き回っているのだ。ある先輩の助言で変装も兼ねているという。
とある女性向けスペースの見本誌を読んでみると、その内容に本心ではまっ赤になるようで、色々新しい経験を満喫していると、いつの間にかコスプレ写真集の島に移動していた。
コスプレなどに力を入れている剣道着とシラヌイっぽい人がいるスペースの写真集『Gear Heart』を取ると、「う〜ん、どこかでみたような」という顔つきになった。
しかし、剣道の面を着けている素顔は見ることは出来ない。
剣道の面の少女はのぞみをみて(「ん〜?」)と唸ってしまった。のぞみが新刊を買ってから、お辞儀をして去ろうとしたとき、
「また、あとでね〜」
「!!」(「ああ、先輩だったのね!」)
声で直ぐ分かって、驚くのぞみであった。
KV少女「シラヌイ」のコスは実はコハルだったのだ。
コハルは剣道の面の暑さを我慢して、昼迄そのままのようである。
「冬なのにもう暑いや」
面は目立つために、『Gear Heart』を売り上げていくのがかなり忙しく撮影スペースに寄れそうになかった。目出度く完売し、やっと一息着けると思ったが時間はあと30分程度しかない。ある程度片付けて、ライヴに向かわなくてはいけなかった。
「あ、ここだ。ここだ」
「待ってください‥‥って走ると危ないです」
どこかで聞いた声がする。
そっちを見ると、可愛いゴス服にジャンボベレー帽と色つき眼鏡の黒髪女性と執事にメイドコスの人が目に入った。
「あれ?」
女性とコハルの目があった。
「コハルちゃん?」
「はい、そーでーす。もしかしてフィアナ?」
「うんうん」
フィアナ・ローデン(gz0020)が変装してやってきたのだ。前もってメールで、「オリジナルデザインのKV少女コスで写真集作ったので、良かったらあたしのトコにも来て欲しいな」と打っておいたのだ。
お互い小声で話している。
「まさか、先輩‥‥」
執事服の少年は実は、風雪 時雨(
gb3678)であり、周りをキョロキョロしているメイドが風雪 六華(
gb6040)であった。
「一寸変わったお嬢様と付き従う執事とメイドがテーマみたい」
と、フィアナは六華を見て言う。
「ふーん、今時間開いてる?」
「もちろん♪」
フィアナとコハルは、スペースの中でゲーム話や今知っている人の現状を話す。
「今度、LAでチャリティCDLするから。来てね」
「分かった。スケジュールが空いているなら調整していくよ」
そろそろ時間だとコハルは会場をあとにするためフィアナ達と別れる。
「だから、そんな大事なときにここに来なくてもと、辰巳さんも自重しろといってたじゃないか」
時雨が溜息をついてフィアナに言う。
「大丈夫だよ♪」
フィアナは笑って人の波を縫って進むのだ。本当に歌手なのかこの時だけは風雪兄妹は疑問を感じた。
このあと、『白熊堂』によっては、部隊長のクマと挨拶やら、エスティの所やら向かうため何かと忙しい。『西研』のほうはすでに本人がいなかったので、新刊だけ貰っていった(無料配布だった)。
「おおう、又、歌姫様に会えるとは感激の極み」
思わずクマの顔になりそうなところ、抑えるクマ。フィアナはクスクス笑う。アキトも挨拶を済ませると又手伝いに戻っている。
「メイド服も用意しているんだけど。義姉さん」
「着替える時間でばれちゃいそう‥‥うん」
「それは考えていなかったわ‥‥だから、すでに黒髪ウィッグなのね‥‥」
コスプレの話しをしながら、エスティヴィアの所に寄っていく。
「やっほー」
「新作おめでとう! エスティ」
「ほほう、恋人と一緒にデートですか。そうですか。‥‥すみません」
くっくっくと笑うエスティにフィアナはニッコリと無言の圧力をかけてみたら、エスティは黙り込んでしまう。時雨のほうは少し照れているが、六華は溜息が混じった笑みをしている。
「近頃あたし達あそんでばかりよね」的な他愛のない話をしてから、3人はエスティのスペースを去っていく。
のぞみがあたりを見渡すと、エスティのスペースから少し離れたところにリズ・A・斉藤(gz0227)を見つけたのだった。どうも、荷物を持って別の所を移動するらしい。
「リズさん!」
「ほわ?」
最初誰だか分からなかったので、妙な声を出してしまう。
「えーっとまさか、のぞみさん?」
普通の声言うので、のぞみが自分の唇に人差し指を当てる仕草をする。リズは首をしばらく考え込むと、思い出したのか。頷いた。リズは頭の中では故郷奪還が強いため、実のところ、この世界や芸能界はよく分かってなかったのだ。
「いまはのぞさんで」
「うんうん」
「このあと午後にライヴがあるから良かったら来てくださいね」
「うーん、どうしよう‥‥一寸ごめんね。行けるか分からないから」
「ありゃそうか」
リズは、あとでエスティのところで店番あると、残念そうに伝えると、のぞみはションボリする。
「でも、ライヴがんばってね」
「うん」
握手をしてその場を去っていった。
シェリー・クロフィード(
gb3701)は従兄に当たる鹿嶋 悠(
gb1333)を連れて(引っ張り回してが正しいか)、この戦場を駆け抜けていた。鹿嶋は先の依頼から元気がないため何かしらお祭りに誘って気晴らしをして貰おうという計らいだった。
「こら、シェリー‥‥俺は今そんな気分じゃ」
「いいのいいの」
彼女の思いつきは突発だ。彼女は午後からimpalpのライヴに向かう。
「人が多いと‥‥余り今はそんな気分じゃ」
「秋月さーん」
すでにシェリーの足は【M&W】に向かっていた。鹿嶋の言葉はほとんどスルーというのか。彼女の元気っぷりと鹿嶋のテンションに差があったのだ。
「おお、来てくれましたか。では売り子を願いします」
「はい。で、松葉杖な秋月さんは大丈夫ですかー?」
「なに、大丈夫だ。問題ない」
「では早速着替えてきますね!」
シェリーはそのまま更衣室に。30分も立たないうちに聖レスト学園の学生服に着替えてきた。
「おお、似合うな」
イビルアイズ娘もあるのだが、今回の新刊宣伝も兼ねると、優先順位は制服という秋月の指示の元に、先に制服にしたのだ。スタイルが良いので、他の男の娘ズと観琴も加わって、なんとも賑やかになっている。これで、ティム達も休憩出来るようになっていく。しかし、鹿嶋だけは余り元気がなかった。
【エミカ】はしばらく撮影スペースで宣伝してから、【M&W】に戻ると、そこには恋人の御山・アキラ(
ga0532)が秋月と話しをしていた。
「アキラさん♪」
ぱっと明るくなる【エミカ】・エンタ。
「新刊1冊と、売り子を一人所望。コレが代金で。釣りは要らない。打ち上げの資金にしてくれ」
秋月に封筒で渡すアキラをみて、エンタは首をかしげると、アキラが彼をお姫様抱っこしていく。秋月は教授オーラを出しながらも、封筒の中身を見て、
「おお、これは助かりますよ。では、新刊と【エミカ】・エンタ君をどうぞ」
快諾する笑みを浮かべていたので、問題は全くなかったのだろう。
「ほわっ! アキラさんが新刊を買ってくれる‥‥って、ボクもお買い上げ〜っ?!」
自分もお買い上げされることに驚くことに無理はないが、この『お買い上げ』は雰囲気的な言葉だけなので、別段問題はない(新刊代を含めて、お疲れ様会の資金源なのだ)。
「一緒にデートと行こうエンタ。もちろん、その格好で」
「あわわ。コレはコレで恥ずかしいですけど‥‥うれしいです」
お互い頬を染めながら、スペースをあとにしていった。
「若いって良いよね〜」
見た目は13〜5程度のリリーさんはスケブを描きながら、二人の桃色を眺めていた。
「このお祭りが終わったら、一緒にふぐ鍋食べませんか?」
「そうだな、それもいいな」
仲良くエンタとアキラは話して、コミレザの戦場に桃色というか百合のオーラを醸し出していた。
鹿嶋だけ一人がぽつんとなりそうな中、リズが茶色い紙袋をもって、「エスティさんの『息子弄り』追加在庫分です」とやってきた。
鹿嶋は「何故ここに?!」と意外そうな顔をしているが、リズが「なんだかよく分からないけどエスティさんに呼ばれました」と答える。
「おおそれは。助かります。『聖レスト学園』と一緒に委託分が無くなりかけていたので‥‥」
秋月が受け取ると、直ぐに女性陣+男の娘ズがセットに入る。ブースデザインはティムとリリーが巧いのだ。ティムは鍛えられているためでもある。
「さて、売り子も増えて来たし‥‥あとは‥‥」
「さ、リズさん! 悠ちゃんと一緒に」
シェリーはニッコリ笑って、一仕事終えているリズを鹿嶋に向ける。
「え? ええ?!」
「こら、かってにきめ‥‥うぐっ!」
言い返す前に、リズがシェリーにおされて抱き留める形に。
「思いっきり気分転換してきてねー」
と、なんと言う従妹だった。
教授以外は、シェリーにGJとサムズアップ。
教授は、「む‥‥」と難しい顔をしていたが、心配そうな観琴の前なので教授モードは控えめだった。
彼らとすれ違うように、ファイナとアセットがやってきた。
「よし、ファイ娘‥‥着て貰おうか」
秋月氏の第一声がそれだった。
「覚悟は出来ています」
遠くを見つめて、開き直ろうとするファイナだった。
「ファイナファイト!」
「知ってたの?」
困った顔をするファイナにアセットはわたわたとこう言った。
「だって秋月さんが新刊をくれるっていうから‥‥と、とにかくファイナ頑張って、応援してるよ!」
ここで彼はアセットが、秋月に買収されていたと言うことを知るが、予想どおりだとおもったので項垂れる程度にとどまった。
「ファイ娘の格好も良いが‥‥。今回の新刊用として、【エミカ】から譲って貰っているはずだ」
教授モードのような本気状態で指示を出す。
10分かそこらで制服に着替えたファイ娘。
「L・O・V・E‥‥ファイ娘」
すでに、【シャルロッテ・デスティニ】のコスをしているアセットが、ファイナの男の娘姿に萌えていた。
●会場模様2
お昼ぐらいになると、シェリーやコハル、のぞみはimpalpのライヴで会場を去っていく。
「やほー、のぞみちゃん!」
「先輩!」
「「他の人にアイドルとばれなくて良かったー」」
と、安堵してから切り替えていざ自分たちのステージに向かった。
鹿嶋とリズは、このヲタクの世界についてよく知らない。
「ど、どうしましょうか?」
「エスティさん達にききましたが‥‥一寸したお祭り程度で‥‥うん、コスプレとか色々あるみたいだけど」
「そうですね‥‥少しぶらつきましょうか?」
「あ、はい‥‥」
微妙な距離を保ちながら、鹿嶋とリズはスペースを進む。
しかし、人の波がきつい場所ではぐれそうになったときに、リズがはぐれそうになりそうな所、鹿嶋に抱きついたのだった。鹿嶋は固まってしまうが、直ぐに彼女を守るように抱き寄せる。
「あ、ご、ごめんなさい」
「人混みが凄いですから仕方ないですよ」
お互いの鼓動が、伝わることに更にドキドキしながらも、波から離れる。少し遠くから見ると、大凡人の流れが分かるようになってきた。
恥ずかしそうにリズと鹿嶋はお互いの手を取って、本を読んだり、コスプレを眺めていたりしていた。
リリーはスケブでほぼダウンし、お茶を飲みながら休憩。
「売れ行きはどう?」
秋月に尋ねると、秋月は金庫の中身と、販売リストをみて
「ほぼ完売に近いかも知れませんね‥‥しかし、春那というコスプレ写真集が完売だとか」
「うわ、それは壁サークルの新たなライバル?!」
気合い十分のリリーは何かに燃えている。
「壁に成れば凄いことになりますね‥‥対策を考えないと行けません」
秋月は真面目に今後の計画を練ろうとする。しかし、客が来るのでその対応が忙しい。
「じゃ、俺たちは一旦このままで行くけど。ファイ娘、売り子任せたよ」
朝から売り子に徹していたティムと【琥珀】が休憩で抜ける。しかしこのコスプレで宣伝効果も狙うのだ。
「ファイ娘言わないでください‥‥」
開き直り、ファイナではなくファイ娘としてやろうとしたところに、その言葉が、彼の心をえぐる。
「がんばってファイ娘!」
アセットが応援している。
ここのサークルは非常に『面白い』と言うことで人だかりが出来ていた。
休憩にはいっている男の娘ズにアスカは、まずは委託元のエスティに挨拶する。エスティの方も忙しかったのか、コアーと一緒に売り子だった。
「挨拶行けなくてごめんねぇ」
「こっちも行けなくてと」
挨拶もして、本人と話して買ってみたい理由から、その場で買うアスカ。
「いくらかしら? 3000なのね。はい」
「ありがとうぉ。萌え萌えの男の娘が満載よぉ」
「それはまた凄い一品よね」
ティムは近くでヤンデレ本を見つけると「妻用に買おうかな?」と考えるが、すでにお金を払っていた。
伊藤・ジェームスの先行隊の分なども含めるとかなりの本を買ったことになった。移動中の飲食代と10冊を買えば、約1万飛んでいく‥‥。それを総計すると、一人4〜60冊になるだろう。
クリアと有希は、とても仲良く回る。クリアの事も考えて男性専用には寄っていない。本当は寄りたいのだが、今はクリアと一緒にいることが大事で嬉しいことだ。寒そうにしているクリアに、ダウンジャケットを肩にかけてあげる。
「あ、守原さんありがとう。暖かい」
「そろそろ、エスティさん所に戻りましょうか」
「うん」
●閉会と打ち上げ
『本日のコミック・レザレクションお疲れ様でした』
と、いう風のおアナウンスが流れると、ほとんどの交通網が人でごった返している。
「この場合ははけるまではしばらくどこかで時間をつぶす方が良いですね」
秋月が遠くの人の列を見ながら言う。松葉杖もついているために、人混みに入る事は駄目だろう。黒子が車で来ているが、打ち上げ参加者の人数をみると彼の車では足りないだろう。ガムテープ作家の古河も参加で、約20人規模だった。
シェリーも戻って来ると、予約していたてっちりの店に移動する。
「予算だいじょうぶなのかな?」
皆が心配すると、秋月は不敵な笑顔だった。
「アキラさんの善意と、今回の売り上げを足すと、凄いことですよ。舐めてはいけません‥‥」
売り上げ数字を見ると、前の既刊に比べると、ダントツの売り上げだったのだ!
アスカは思いっきり楽しみにしていたらしい。
「では、思いっきり飲める。いやあ、人の奢りの酒は旨いのよ」
「‥‥悪戯してやる‥‥」
ファイナとAnberは、今回の鍋で秋月に復讐しようと考えているようだ。
宴会の音頭を取り、乾杯で賑やかになる約20名。
「元気なかったですよ?」
「‥‥ええ、少しありまして‥‥」
その中で、リズが鹿嶋を心配して話しかけていたら、鹿嶋はぽつぽつと前にあった依頼での事を話す。リズは悲しい顔をしながらも、彼を抱きしめて背中をさする。しかし、励ましの言葉ではなく、行動で彼を励ましたのだ。
「‥‥ありがとう‥‥リズさん」
ティムやリリーとカオス話題にはいっていたシェリーは、ちらりと見て安堵した。
「今度はこんな恥ずかしい仕事は受けないからな」
Anberは不満を言いながらも、確りふぐ鍋をつつき、思いっきり食べる。
「ファイナ! ふぐを野菜の下に隠すな!」
「僕が全部食べるようですよ」
「汚い、ファイナ汚い」
ファイナ一寸暴走。
「アキラさん、あーん♪」
「うん、あーん♪」
アキラとエンタは、その戦場ではなく桃色のオーラで『お口あーん』の食べあいっこだ。
秋月はと言うと、マドリードからこちらに直接来たような物なので、疲労がピークに達しており、アスカが酌をすると、
「ありがとう‥‥観‥‥冴城さん‥‥」
観琴と間違えていた。
Anberやファイナはニヤニヤして秋月を見るが、秋月は慌てる元気もなかったようなので、からかっても彼は上の空だった。
「かなり疲れているようだな‥‥」
からかえそうにもないので、残念だったが、あとで又からかうことにしようと決める。
「観琴さんお願いします」
「はい」
看病は観琴に任せて又鍋に向かう。
「ふぐって美味いよね〜」
「毒に気をつけようとは思いましたが、確り免許があるのですね」
「でも、じつは‥‥」
などと、外国人勢に嘘を吹き込んだり真実を明かしたりという流れになっていった。
●恋模様
有希とクリアは夜空を見上げながら、祭りの余韻に浸っていた。クリアは彼の腕に抱きついて、暖かさを感じている。有希は、微笑んで、
「また、いろんな所に行けたらいいですね」
と、彼女に言った。
クリアはうんと頬を染めて頷く。
風雪兄妹とフィアナも直ぐにLHに帰って行く。
「さて切り替えて、ライヴがんばらないと!」
背伸びをするフィアナは時雨の腕を抱いている。
「フィアナ」
「がんばるからね」
「はい」
少し離れたところで、六華が今度はどんなコスをしようとかんがえていた。
秋月が酔いつぶれたようになったのを観琴が介抱して自宅までつれていく。
「あ、ありがとうございます‥‥」
半分眠っている彼に、観琴は(覚醒して力をだし)、彼をベッドに寝かす(即覚醒は解く)。
そのまま寝入った秋月に観琴は、
「メリークリスマス」
と、秋月の頬にキスをして、彼の寝室を出る。あとはまだ散らかり気味の部屋を軽く片付けて、朝ご飯の下ごしらえもしようかなと考えていた。大胆な行為に、頬を赤く染めながら。
アキラはエンタを(【エミカ】のまんまだが)で抱きしめて、
「じつは、ホテルを予約していたんだ」
エンタに言った。
「アキラさん‥‥はい‥‥」
まっ赤になるエンタは、幸せそうに答えていた。
ヲタクの祭りの中ではぐくまれる恋模様もある。こうして、怒濤の1日の戦いと祭りは終わったのであった。