●リプレイ本文
●反動
島から、爆音と化け物の咆吼が聞こえる。島の周りで羽ばたく伝説の生物の周りを飛行形体のKV数機が飛び交っていた。KVが飛行形体で保てる限界の高度だが、現実離れしている戦いのために、特撮の怪獣映画を見ているように錯覚してしまいそうだった。
「このやろ、制御でぎりぎりだ」
移動しながら分かったことだが、『最強の護衛』は余り高く飛ばないし、機動性はよろしくないようだ。しかし、この巨体が迫ってくると、面積が広いために回避がままならない。掠ると吹き飛ぶ、炎のブレスで機体が焼けるなど苦戦を強いられた。
「くっ、手応えあったはずなのに、未だ飛ぶか!」
鹿島 綾(
gb4549)のモーニング・スパローが、出会いがしら十六式螺旋弾頭ミサイルを翼に目掛けて4発たたき込んだのだが、翼は思った以上に頑丈だったらしく、体当たりしてきた巨大ワームの接触を許してしまう。
しかも、ヘルメットワームはジグザクで飛行して、真上や真下からのプロトン砲を撃って来ればと思えば急接近して体当たりと、かなり激しく動いている。
「幻霧まきます!」
風雪 時雨(
gb3678)が危険と感じたのか翔幻で霧を発生させる。彼は必死にフォローに回る。
(「こうなったのは自分の責任‥‥」)
彼は本来、空陸両対応装備のフェイルノートで出撃するはずだったのだが、手続きを怠り、陸戦装備がメインの翔幻になっていたのだ。なので、何とか挽回しようと特殊能力を駆使し、20mmガトリング砲を撃ち、躍起になるのだ。しかし、それは報われることはなく、死角から迫ってきた有人HWのチャージにより、彼の機体は吹き飛ばされて海面に落ちた。
「風雪っ! ‥‥っく!」
人の心配はしていられない。いまは、この巨大な化け物とすばしっこいHWを引きつけることが優先だ。
「鹿島、HWは俺が」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)がディースでHWの攻撃を彼に回避しては、重機関砲で穴を開けていく。
「でかいくせに蝿のようにっ!」
ソードウィングで突撃しても、予想しない方向へ回避するHWに彼は苦戦する。しかし、相手の攻撃は掠る程度か、一番厄介なプロトン砲の餌食にはなってない。接近時は1対1になってしまうが、彼は仲間の援護で奮戦し、HW一機を鋭く研ぎ澄ました剣翼で両断し破壊する。
「このタイミング‥‥いまだ!」
さらに、陸戦に向かう残り6機からの援護と残りのHWの排除ができた(着陸のタイミングを見計らいながら)事もあり、鹿島は『最強の護衛』の下をすり抜け、急旋回。相手が旋回する前に、最後の十六式螺旋弾頭ミサイルを翼に打ち込んだ。その振動はこの巨大な生体ワームを墜落させるに十分な手応えであった。それは島から近い海に落ち、大きな水柱をあげた。旋回中にまだ立ち上がって陸に向かうのを見ると、鹿島はユーリと共に、連射の利く武装で牽制・挑発する。
「よし! 鹿島、でかいのは任せるッス!」
六堂源治(
ga8154)がコクピットから親指を立てて、鹿嶋 悠(
gb1333)の『帝虎』から煙幕がでて周りが真っ暗になった。陸からのゴーレム達の迎撃中は危険なのだ。
「数撃てば当たるっていっても、くっ! 有人機だけあるな! 煙の中は関係ないってわけなのか?」
重力レーダーを持っていると聞いているため、真っ暗闇で赤外線スコープを持っているような感じで、降下してくるKVを的確に狙い撃ってくるゴーレム。着陸時の援護もあるのだが、HW程にはないにせよアリもしない方向に『逃げる』のだ。慣性制御の嫌なところは其処にある。
中破までとは行かないが、ゴーレムを抑える鹿嶋、井出 一真(
ga6977)、六堂が降り、ゴーレムに接近戦を挑んだ。四足型の蒼翼号が着地すると、直ぐにジャングルの木々を影にして、まさに密林に住む狩猟生物のように一体に飛びかかり、隙を作ると、『帝虎』と六堂のパイパーが一気にブーストしてもう一機ずつにチャージした。最大の打撃を与えようとするが、相手も直ぐに慣性制御の能力で躱すか受けきってしまう。しかし、この強襲が功を奏したことは確かであり、必死に受けようとした相手が持っていた盾を破壊できたのだ。相手も負けじと見事な剣撃を見せる。3機とも躱したり盾で受け止め反撃にでるが、予想以上の衝撃に苦しめられながらの戦いになっていた。
「くっ! 隙がな‥‥くっ」
操縦桿を思い切り引き上げ、躱す。バイパーは盾で受けきったが半壊され、蒼翼号は思いっきり投げられ転がされた。鹿嶋はもう一機の鍔迫り合いで動けない。本当にゴーレムなのかと疑うほどだった。
「大丈夫か?!」
「盾がしばらく使えないだけッスよ」
「しかし相手も‥‥強い」
間合いが離れて、お互い隙を狙うため動けない。
しかし、戦い慣れている3人は慎重にして大胆だ。反動による体の異変を何とか堪え、確実にゴーレムを仕留めていくのだった。
一方では、ベル(
ga0924)のサイファーがアキラ・H・デスペア(gz0270)と接近する。
「‥‥お前を‥‥仕留める‥‥確実に!」
彼は元々静かな性格の少年だが、これほど決意の目をもった事は恋人の水上・未早(
ga0049)も見たことはなかっただろう。
「その決意、意志、私を倒せる力となり得ますか?」
「なる‥‥ここで決着を付ける‥‥っ!」
「ではやってみるが良い!」
未早や煌月・光燐(
gb3936)の援護もあるなか、突撃したサイファーとアキラタロスが交差する。サイファーが構築した粒子フィールドが袈裟斬りに割れる様な光景を見た途端、開いている片腕が飛ぶ。一方のタロスの肩には一つの杭が突き刺さっているだけだ。
「‥‥まだまだ‥‥っ!」
「‥‥援護‥‥する‥‥。盟主の‥‥親友を‥‥守る」
火之迦具土レーザーガトリングで牽制、未早のワイバーンも機動力を生かした一撃離脱でアキラに隙を与えさせないように攻撃するも、タロスの性能かアキラの考えが上なのか、抑えているだけで精一杯だった。
(「‥‥みんな‥‥や‥‥未早のためにも!」)
ベルは苦悩している。この戦いに親しい人、愛おしい人を巻き込んだことを。それの決着がアキラを倒す事。もし、それが出来れば‥‥命に代えてもと思い仲間を信じてパイルバンカーをリロードし、突撃に備えた。
未早がはっと気づく。アキラの注意を引くことを煌月に行動だけで教える。傭兵の中での大隊規模の小隊に彼女はそれを理解し、弾幕をはった。「こっちが受け持ちます」と言わんばかりに。
(「何をするつもりですか。無駄なことを‥‥まさか、あの少年から目を話すため?」)
アキラはふむと考えて、二人の弾幕を躱すか盾で受けて、密林を浮いているように移動する。
「‥‥あきらめなさい‥‥え?」
「貴方があきらめるんです!」
機動性の高いワイバーンが急接近し、ロンゴミニアトの一撃と爆破により、盾を破壊する。未早は衝撃と反動で激痛に耐えて次の行動に移ろうとするが、アキラにロンゴミニアトを引っ張ってワイバーンを寄せて、蹴り上げられた!
「くっ! 其処までして、私を倒したいですか」
「‥‥いわれなくても‥‥! そのつもりだ‥‥!」
サイファーがタロスの突進し‥‥組み付いた。
「な!?」
「‥‥この距離なら、お前を‥‥倒せる‥‥!」
「この‥‥っ」
「ベル?! ‥‥だめぇ!」
装甲に密接した状態の機杭「エグツ・タルディ」を撃ち突ける! タロスも止めようと剣を刺そうとする! 同時に爆音と煙がまいあがった。
●決着は‥‥
鹿嶋と六堂と井出は、連携して何とかゴーレムを葬り去ったあと、急いで『最強の護衛』へ向かった。
「さすが、二人だ。うまく戦っていますね」
「後一歩って所ッスね」
「尻尾切断を試したいところですが‥‥今はそんな余裕はないですね」
鹿島は反対方向の爆発を気にしながら、一寸冗談を言ってみた。
『最強の護衛』とモーニング・スパロー、【ディース】が海岸沿いで戦いを挑む。
「柔らかいところは‥‥顔と腹かよ。狙い撃つか潜り込めと!」
「そうのようですね」
挑発で撃った時に肉質を調べていた二人。KV程度なら腰か足まで程度ですむが足場が悪く動きにくいことこの上ないため密林で狙い撃つ。
『最強の護衛』は咆吼を上げると、コクピットが振動していた。程度からして耳にキーンと来るかもしれない恐ろしい音量だとわかる。
「生身だと、耳栓無くてもきついな! チャージまでフォロー頼む!」
「わかりました」
鹿島はM−12のチャージをこめている間に、GPSh−30mm重機関砲で牽制する。
「援護します!」
「たすかる! 弱点は腹と顔だ!」
「分かったッスよ!」
ゴーレムを撃破した3機が龍の下腹に潜り込んで、強力な一撃をたたき込む。護衛は足下をすくわれたようになり、よろめいている!
「チャージ完了! 狙い撃つ! これで」
モーニング・スパローのM−12発射。見事顔に直撃し、顔毎粉砕した!
「あとは‥‥アキラ‥‥っ! これで終わりだ! ‥‥ぐ‥‥」
鹿島はM−12の発射時の反動が体に響いてきたのを堪え、急いでユーリと共に空に上がった。
機杭の衝撃でタロスが転がる。立ち尽くしているのはサイファー。機体に背中から剣が突き刺さった状態で倒れることがない。
「‥‥ベル‥‥っ!」
未早が直ぐに駆けつける。あのままだとサイファーが爆破する! 目の前で最愛の人が死ぬことだけは見たくない!
「く、またしても‥‥またしても!」
タロスに刺さっていた鉄杭がずるり、と勝手に抜ける。途端にその穴が『治っていく』。
「レーダーでは、こっちの部隊が敗北ですか‥‥改良の余地がありますね‥‥ぐ‥‥。私もそう長くはこれに乗っていられないか‥‥」
吐血するアキラは退却を決めて、海に飛び込もうも走った。
「「ここまでだ(です)! アキラ!」」
鹿嶋と鹿島が叫んで囲もうとするが、いきなり激しく地面が揺れて、走れない。空を飛んでいるモーニング・スパローは止めようと爆撃しようとするが、タロスはそれも構わず走っている。
「まさか! こいつめ!」
「そのまさかですよ‥‥私が細工しないで決戦を望むわけ無いでしょう‥‥。有る『条件』で島自体が沈むように、内部動力炉を自爆させるようにしてますからね‥‥」
アキラは不適な笑いを含み、揺れの原因をほのめかす。
「人をおちょくりやがって!」
いま、アキラを仕留めるのは簡単かもしれない。口調から負傷していることがわかるからだ。しかし、このまま島が沈むのでは、『コフィン』に眠る人を助け出すことが出来ない。
「犠牲を出して私を倒す英雄か、人道的行為に酔いしれるかどちらにして頂きましょう!」
タロスは走っては海に飛び込む。すると鮫のワームに捕まって、その場から去ろうとする。
「まて! くそ!」
地面揺れているので走れないし、このままでは救出すべき人を助けられなくなる。
「こちら、鹿嶋、島全体に敵背無い、人の救出と救援を!」
『分かった、揺れはこちらでも確認しているため、直ぐに船など準備している! あいつのことだ。罠を再設置もしているだろう! 気をつけろ』
「絶対‥‥決着を付ける」
この場にいる全員はそう思いながら、『コフィン』施設に向かって救出活動に入った。
「動力炉の暴走はどうだ?」
「コンソールを見ると、あと15分と! 制御不可です!」
「ここの罠解除! いそげ!」
「コフィンのキー解除成功!」
「運ぶぞ! 施設に残ってる機材をフル活用しろ! 地下1階にストレッチャーぐらいあるだろ!」
大型ボートに未だ眠ったままの人々が運ばれていく。戦いに疲れている傭兵達も気力で手伝う。ファウンダースタッフの中に、ファルロスがおり、内部の案内をしていた。
「私も手伝います」
未早がベルを救助した後に参加する。
(「今は、感情に流されてはだめ‥‥」)
堪えて、今、するべき事をなそうとする。その姿が痛々しい。
全員がボート、またはKVで脱出したとき、島は爆発して沈んでいった‥‥。
●ロサンゼルス
一旦帰路につくにはロス経由が良いとわかり、要塞化した都市で救助された人の治療と身元確認を急いでいる。
「‥‥全員救助できて良かった‥‥しかし‥‥辛い」
喫煙コーナーでウィルソン・斉藤(gz0075)が煙草を吹かして短い休憩を取っている。
「あの斉藤さん」
「ああ、おつかれだ‥‥」
「すみません‥‥取り逃がしてしまいました」
「なに、最重要任務は救助の為の撃退だ。危険になったら爆破するのはヤツの性格だし」
「‥‥ですね」
少し沈黙の後。
「あの、大事な話があります」
「‥‥なんだ?」
斉藤は鹿嶋の真剣な顔つきを見て、彼の口が開くのを待っていた。
「俺は‥‥リズさんとおつきあいさせて貰っています」
それと同時に、斉藤は咳き込んだ。
「やっぱり、覚悟を決めていたけど言われると‥‥心臓に悪かった」
「だ、大丈夫ですか?!」
「大丈夫だ。ああ‥‥、り、リズはまだ世の中をしらない。だから、教えてやってくれ」
「はい」
斉藤は、鹿嶋の肩を軽く叩いてその場を去るが、背中は寂しくまた色々悩みをもってそうだった。まだ複雑な心境らしい。
病室では、ベルがぼうっと天井を見つめていた。
「倒せなかった‥‥」
体は言うことが利かない。麻酔の感覚がある。おそらく内臓損傷で手術をしたのだろうか?
「‥‥ベルさん」
「‥‥み、みはや‥‥ごめん‥‥」
ベルは未早の涙をみて、また自分を責めようとする。
「自分を責めちゃ駄目‥‥いまは休んで」
「‥‥」
彼女は最愛の人の手を優しく、強く、握っていた。
「‥‥うん‥‥」
(「‥‥必ず‥‥アキラを‥‥倒す‥‥」)
ベルは又麻酔の眠気に身を委ねる。
失踪事件の首謀者アキラを逃したが、誘拐されていた被害者の保護は成功を収めた。逃がしたことは残念であるが、事件が解決した事は喜ぶべきであろう。