●リプレイ本文
●前日
ローデン事務所では、様々な人がやってきた。衣装を借りるためである。いったん試着して、それを、事務所が借りている近くのホテルで着替えると言うことになる。フィアナ・ローデン(gz0020)は完全に変装してこのイベントに参加するため個人行動だ。
「衣装教えてくれませんか?」
恋人の風雪 時雨(
gb3678)が尋ねるが、
「乙女の秘密です♪ かくれんぼのイベントが台無しじゃない?」
と、ウィンクで返す。
「賑やかだね」
スタッフが、お茶を飲みながらウォーキングクローゼットの賑やかさに微笑んでいた。
「風雪君、風雪君。移籍手続きの書類の方だけど」
「あ、はい!」
彼が来ている理由は、IMPからローデン事務所へ移籍手続きがあるためだ。契約事項と様々な行動の規約などをスタッフが教えている。
基本的にチャリティだけで行う。危険区域でもフィアナは歌うため、そのガードを専門とするということが大きなことだ。IMPという経験を考慮するが、方針がかなり違うために注意する点があるそうだ。
「むむ、この衣装もなかなかだわ」
一方、妹の風雪 六華(
gb6040)はウォーキングクローゼットで、衣装の数々を見て、自分が着る物ではなく『兄が覚醒して着せる物』を探していた。もっとも、身長差もあまりない双子なので、エスティヴィア(gz0070)からは「もう、姉妹で良いじゃん」と言われるほどだった。そっくりは恐ろしい。
「六華さん、それきるんですか?」
「ううん‥‥兄が」
「きゅう‥‥」
「ああ! 義姉さん!」
どうも、女装する関係を見るとフィアナは気絶するそうだ。ショックなのか、『萌えて』気絶するのか分からないが。
他にも、イスル・イェーガー(
gb0925)も狼関係のつけしっぽや耳。仮装の状態で救護班をするそうだ。
「大事に‥‥使います。ありがとう」
「いえいえ」
スタッフに礼を言って彼は下準備に大阪・日本橋へ向かう。恋人が待っているそうな。
「ハロウィンパレードで会いましょうね!」
「あ‥‥はい」
窓からフィアナが声をかけたので、イスルは微笑んで手を振った。
さて、前回はネットカフェでそのまま寝転けていた葵 コハル(
ga3897)であるが、
「とんでもないドジを踏んだので、昨日もこの後もはよく寝て来ます、まる」
と、衣装を借りに来ていた。【ZOO】キャットスーツと猫耳などを借りるみたいである。サイズも測って暇になったので、いまはと言うと、
エスティと二人で、リビングにある大画面モニターを占領。『肉体言語』で遊んでいた。
「うわーエスティ強い!」
「くっくっく」
廃人ゲーマーらしいエスティ。何でそんなに強いのだと思うぐらいだった。
「そうだ。フィアナと一緒に回れれば良いんだけど‥‥打ち合わせしてなかった‥‥」
「完全変装で一寸したゲームだからねぇ」
エスティヴィアが、苦笑する。
「たしかに、前にフィアナとばれて人だかりが出来たとかで大変だったよね?」
「うんうん」
それを考えて、ひっそりお忍びらしい。
エスティに電話が来る。
「着信音『天国と地獄?』」
コハルや、フィアナ、六華が不思議そうに訊くと、「いいじゃない」と返答。
「あ、もしもしー」
『アキトです』
「おお、お久しぶりぃ。げんきぃ?」
『ええ、もうすぐハロウィンなのでご一緒できませんかね』
と、電話の主はアキト=柿崎(
ga7330)のようだ。
耳ざとい、コハルはニヨニヨしているが、エスティは気にもしてない。
「いいわよぉ」
即答。
後ろにいる、女性陣は『おおっ!』と歓声を挙げるわけだが、
『周りに人がいるんですか?』
「いるわよぉ」
『‥‥』
一寸考えたアキトであった。たぶん凄い誤解なのか、それともか。それは彼自身の心の中にある。
『では、この時間にメールで叉送ります』
「わかったわぁ」
電話を切ったあと、コハルとフィアナがひそひそニヨニヨしている会話をしていた。
「聴きました? フィアナさん、エスティさんに‥‥」
「ええ、青春ですねぇ。春ですね〜」
「あんたらっ!」
「きゃー!」
「‥‥楽しそう」
六華は余り面識がなかったので、その3人のじゃれ合いを見ているだけであった。
●当日
大通りに、カボチャ提灯に明かりが灯り、人混みがいっぱいに活気溢れていた。アニメのコスプレや伝統的に悪魔や魔女や妖精などの仮装をしている人がいっぱいの中、普通の服装で歩いている人も珍しくない。歩行者天国となり、色々な話し声が聞こえている。ヲタク街の中心地となる通りでは屋台がひしめき合っており、神社あたりまで伸びている。また、大きな交差点を整備して、大型ステージも出来ていた。そこにいるのは、普通のインディーズの人以外にフェイト・グラスベル(
gb5417)などIMP関係者もいた。
「営業♪ 営業♪」
インディーズが先に様々な歌を歌っている。彼女はクライマックスに歌うことになった。
「フィアナさんは飛び入りでもないのですねー」
と、ここの担当に確認をとった。
さて、借り衣装で更衣室をかりている一行やエスティとリズも出発するところで、ロビーで巨漢と可愛い黒猫姿の女性がいた。
「にゃー、リズさんすっごく可愛いのですにゃ♪」
「きゃあ」
シェリー・クロフィード(
gb3701)が、リズ・A・斉藤(gz0227)に抱きついた。
彼女の衣装は結構露出が多めの小悪魔だった。スカートの丈が短いために、見える(なにとは言わない)。それをみて、巨漢の男、鹿嶋 悠(
gb1333)は、石化に近い状態で硬直し、顔全体が赤かった。
「ほうほう」
エスティがニヤリとしている。
「だから、恥ずかしいって言ったんですよ」
真っ赤になっているリズであるが、鹿嶋を見ると余計に真っ赤になった。
「あ、その似合ってます‥‥とても」
「あ、そのありがとう」
大人の恋と言うより、子供の甘酸っぱい雰囲気にちかくて、お互いモジモジしているようだった。
「で、きみきみ」
「ほみゅ? なんでしょ?」
エスティがシェリーを呼んで、
「気になっているの? あの二人?」
「そーなんですよー」
「はい、其処で何を言っていますか‥‥」
鹿嶋が溜息をついた。
「‥‥幸せにねぇ」
エスティがニヤニヤしていった。
「どうして其処で飛躍を!」
着替え終えたコハルが登場し、
「さて、ぶらぶらしながら、フィアナを探すぞ、えいえい」
「おー!」
何名かはフィアナを探すことになる。
ちなみに雪風姉妹は「どっちが妹?」となるぐらいそっくりな魔女になっている。
「‥‥やはりこれ何ですね」
愕然としている方が兄貴らしい。
「男の娘流行ってるね」
「だねぇ‥‥ソフト作りたいわぁ」
コハルとエスティはウンウン頷いていた。
さて、先に行動したフィアナはどこにいるのだろう?
エスティは途中で、アキトと合流し、冷やかしもスルーして別行動になった。
(エスティ「リズと鹿嶋の方をみようよ」)
(コハル「あーなっとくー」)
(シェリー「ボクはもうちょっといるかな?」)
●救護班1
ドクター・ウェスト(
ga0241)は顔や手など露出する箇所に包帯を巻き、コスチューム「パイレーツセット」を装備、幽霊船長に扮し、イタイ白衣を羽織っている。普通は違和感があるのだが、ハロウィンのために、違和感が全くない。あるとすれば彼の存在感である。そんな彼でも救護班のテントでけが人の手当をしているわけだ。
「ん? フライングダッチマンはオランダ人か、まあいいか〜」
彼は、ブリテン王国人であることに誇りを持っている。しかしこのお祭りの時ぐらいそのあたりのこだわりは抜きにしている。
「余りけが人が来て欲しくはないけどね〜」
と、テントでゆっくり祭りを眺めていた。
「先生、子供が怪我を」
スタッフが呼び出すと、彼はゆっくりと立ち上がって、子供を看ようとする。
「ど〜れ〜?」
しかし、今の格好でやると、
「びえええ!」
案の定子供が怖がって、泣き出してしまった。
「あー、これはたいへんだね〜。暴れるような悪い子は、コノ幽霊船長が包帯でグルグル巻きにしちゃうぞ〜」
「びええん!」
余計怯えさせてどうするかと。
それでも、何とか子供の治療をして、(自分に巻いていた包帯などをはぎ取って、吸気防護マスクをしてから、診察したわけだ)。
もっとも、この脅しでぴたっと泣き止む子供は、まずいないだろうが、『おもろい医者がいる』ということで見物人が出来ていることに、彼は気がついてなかった。
●夫婦でーと
漸 王零(
ga2930)、王 憐華(
ga4039)、赤宮 リア(
ga9958)の漸夫妻も各々の仮装をして、街を歩いていた。王零は中国の道士の様な格好に鬼の面をつけており、憐華は、猫叉の格好に襦袢をはだけるように羽織っている。リアはバニースーツでの赤い魔女である。3人揃ってデートと言うことで、周りのヲタクは羨ましそうに眺めているわけだが、実際2名はそんな事を気にもしない。漸が、眺めている男共を睨んで追い払っているため彼女たちに言い寄る人もいないわけだ。
「ほんとうは、ハロウィンは苦手なんです」
「そうなのか?」
「カボチャが‥‥カボチャが溢れているから」
食べ物としてのカボチャの味や歯触りが苦手らしい。若いのに好き嫌いはいけないよ?
実際あの西洋カボチャがずらりと並ぶわけではなく、作り物だけど、リアにしてみれば同じ事なのだろう。
練り歩いていると、憐華とリアはきわどい服装であるし、お互い胸がでかいので注目するわけだ。やらしい目で見るなと言うこと自体がまず不可能。さらに、両腕は二人の腕組みで自由が利かない。
「二人とも‥‥すごい格好だな。いや・‥似合ってるよ‥‥他のやつらに見せるのがもったいない位に‥‥‥‥夜に我の前だけ着てくれるとうれしいかな」
「もう、王ったら」
「零っ!」
「いたたた!」
二人は頬を染め、彼の腕をつねった。
「それにしましても‥‥、私の仮装も露出は大目ですけど、憐華さんの格好はそれ以上に大胆‥‥いえむしろ過激ですねぇ‥‥」
「そんな事ありませんよ」
あるある。
「小腹が減ったな食べるか?」
「そうですね」
「何か食べましょう」
3人は屋台で食べる焼きそばたこ焼きを頼んでいく。
もちろん、二人から「お口あーん」合戦があり、漸の腹がふくらむのは必定である。
飲み物はというと憐華が口移しという大胆なこと。教授がいると闘争物な事をする。幸いここには教授はいないわけだが。コレは幸運である。
●射的屋
屋台通りの別の所では、ルノア・アラバスター(
gb5133)が射的屋を営んでいた。ほとんどがぬいぐるみであるので、人気は上々。ただ、あぬびすが良くとられてしまったようだ。
「あぬびす、とれない、ように、していたけど、ここの子、上手」
と、感心する。
他にオルゴールやロッタのぬいぐるみも獲られる。しかし、誰もかもしゅてるんのぬいぐるみを狙っては敗北していた。
「そろそろ、悠ちゃん、くるはず」
と、彼女はある人を待っていた。
●教授と見た目は13歳?
「ふむ、フィアナさんはいないですね‥‥」
秋月 祐介(
ga6378)は、あたりの人混みからそれらしい人影を探すのだが見つからない。彼の服装は大正初期の書生風着物に鳶コートという出で立ちだ。ある台詞を言わせればまさに似合うほどの着こなしである。
「完全変装とは聞いてたけどね。目立ちそうなんだとおもうんだ」
リリー・W・オオトリ(
gb2834)もフェアリーセットを着て、色々小道具もつけて魔法少女っぽくしている。
「あ、教授〜」
遠くから声がする。聞き覚えのある声だ。
「おお、エスティヴィアさん」
「こんばんは〜だよ」
エスティの隣にいるのは、アキトであった。
「こんばんは」
と、軽く挨拶してから、夏のコミレザの思い出や、今後の冬にかけての事を話しながら、街を歩く。
「今度の、コミレザなのですが、又ゲストお願いできますでしょうか?」
秋月が持ちかけると、
「まかせてぇ」
胸を叩くエスティであった。交渉は成立した模様である。
しかし、
「「ときに」」
リリーとエスティが、秋月を見た。秋月は寒気を感じぞっとした。
「えーっと‥‥?」
「「恋人さんは呼ばなかったの?」」
予想通りの質問だった。
(「こ、ここまでは‥‥予想できる‥‥自分は、ま、まだ、そんな状態ではないんだよ」)
0.05秒で彼は思考する。
「あ、そうだ、近くに焼肉があるから食べましょう」
「おなか空いてないー」
「肉も良いね」
「ほほう、コレは秋月さんのおごりで?」
アキトも乗っかってきた。
(「財布は厳しいがっ! あのネタで持ちかけられるより‥‥」)
秋月教授、究極の決断。
優柔不断すぎるのが仇となるわけだが、もともと、幸せに拒否反応を起こす歪な彼にとっては仕方ないと言えば仕方ない。
「フィアナが、出てくるまでお預けでいいかしらぁ」
「探したいし。他の人も呼びたいね」
「それは賛成です」
エスティの提案で、リリーもアキトも賛同する。
「じゃーボクはトリック・オア・トリートでまわりたいな!」
リリーがその間の遊びを提案。
屋台とかにそう言って反応を見るらしい。
「子供のすることじゃないんですか?」
秋月が言うと、リリーが睨んだ。
「いえ、なんでも‥‥」
エスティは黙して語らなかった。アキトはリリーの実年齢をしらない。
「そう言うことで、レッツゴー!」
現在自称13歳魔法少女リリーさんが先頭になって、屋台巡りを始めたのであった。
●救護班の恋
イスルと柿原ミズキ(
ga9347)は一緒に救護班のボランティアをしている。二人とも狼執事に猫メイドの格好だ。待機中は子供達がしっぽを触るという事件を除いて今のところ平和のようだ。
「あっ、しっぽにリボンするの忘れてた」
「リボンなら‥‥ここに。フィアナさん所から‥‥借りてきた」
と、イスルが、彼女のしっぽにリボンをつける。
「ありがとう」
「う‥‥うん」
微笑むイスルに、少し恥ずかしいミズキ。少し頬が朱に染まる。
「ね、イスル君それじゃ、行こうか?」
「ん‥‥わかった。‥‥そういえば」
「何?」
「去年も、一緒に回ったね」
イスルの屈託のない笑顔に、
「‥‥っ!」
ミズキは更に頬を染めていった。
(「思いも寄らなかったなぁ‥‥恋人同士‥‥なんだよね」)
と、思うと又恥ずかしいし、甘酸っぱい感情がこみ上げて、顔が真っ赤になっていく。
「どうか‥‥したの?」
心配そうに顔をのぞき込むイスルに、ミズキは少しだけ驚くと、
「ううん、何でもない! 困っている子がいるかも知れないから、始めよう!」
彼女は元気だよとポーズをとって、小走りに先を進む。
「うん‥‥そうだね」
微笑みながらイスルも後を追った。
予想通りに、迷子は多く、無線の回線がパンクしそうだった。
「〜丁目‥‥で発見。服装は‥‥〜」
「お名前教えてくれないかな?」
もう、デートどころではない位の修羅場になった。
「お母さん!」
「もう、あれほど先に進んじゃだめだって‥‥でも、よかった‥‥。本当にありがとうございます」
「いえ、もう、ボク? お母さんから離れちゃダメだよ?」
「うん。ありがとうお姉ちゃん!」
ミズキは迷子と親と再会に、今の自分たちと重ねた。
(「ボク達の子供ってどんなかなぁ‥‥。どっちが良いかなぁ‥‥男の子? それとも女の子? って、まだはやいよ!」)
想像して真っ赤になるところを、イスルに見られて、
「大丈夫? 風邪?」
イスルが心配そうに声をかけると、余計に胸が高鳴った。
「ううん、なんでもないってば!」
ごまかしに一苦労だった。
しかし、こういう一時がとても大切に感じられ、去年とは違う物を見ていると実感できていた。
●132857
フィアナは黒髪のカツラをかぶった、カボチャの黒魔女の格好であった。
「久々に、誰にも気づかれなかった♪」
一寸勝ち誇ったような顔つきで‥‥、
「ひゃっほう! トリック・オア・トリート!」
コハルに抱きつく。
「ぎゃあああ!」
いきなりの抱きつきに、コハルは絶叫する。ちょうど、ステージで、シャウト系のアニソンが流れていたため、誰も聞こえてない。
「だ、だれ? って、フィアナ?!」
「あたりー」
「と言うことは、かくれんぼはあたし達の負け?」
「と言うことになるかな?」
にこにこ勝ち誇った様に微笑むフィアナだった。
「くそう、今度から負けないぞ‥‥」
「ふっふっふ。他に思いつくことはあるからね☆」
気のあった女の子同士の会話は、楽しそうだ。
「おお、こんな所にいましたか」
雪風姉妹が声をかけたときに、フィアナが又卒倒しそうな所を、耐えたようだ。
「似合いすぎです。時雨」
「‥‥ほめ言葉なんでしょうか?」
屋台で買い物をしていた鹿嶋とリズ、シェリーとも合流し、またぶらぶらするのだが、更に漸夫妻が来たので、
「まあ、一度、何班かに別れた方がいいよね」
と、言う意見が出た。
その意見を出すのは、ニヨニヨーズ女性陣。なぜかフィアナの含み。
「フィアナも時雨と一緒に‥‥って、ああ、無しにしよう。うん」
コハルが言うのだが、前言撤回した。いまの時雨の格好だと、少し問題がある。
「ふう、普通の服装だったらね‥‥」
「済みません‥‥妹が」
姉妹が仲良く、もしくは女友達で賑やかにという風に見えて、余り『デート』という感じではない。
「鹿嶋、隅に置けないな」
「何を言っているんですか!」
漸が開口一番、鹿嶋とリズとの関係を察してそう言う。溜息をつく鹿嶋に、「あうあう」とあわてるリズがいて、シェリーとコハルがニヨニヨしていた。
もっとも、鹿嶋とリズは何かもどかしい状態なのは、ずっといたコハルとシェリーは分かっている。
「あ、メール?」
コハルとフィアナ、鹿嶋達にメールが届く。エスティからだ。
『秋月が焼肉奢ってくれるそうよぉ』
「お! これは、参加しませんと! では、あたしはそっちいくね!」
コハルはエスティと再合流するらしい。
「えーっとボクは‥‥」
「シェリーお前は我とだ」
「ええっ!」
シェリーは漸に首根っこ捕まれた。
「俺は‥‥別に」
と言うところに、漸は、リズのほうこうに鹿嶋を押す。そのまま抱きつく形になりかけたが踏みとどまる鹿嶋に(「強情な奴め」)と漸は思った。
シェリーはリズにこう小声で話していたわけだが、
「悠兄ちゃん、リズさんのことを話す時はすっごく楽しそうに話すのですよ。だから‥‥諦めずガンバレ女の子♪」
と。当然、リズは頭でお茶が沸かせるぐらい真っ赤になっており、そのことがまた思い出され、真っ赤になっていた。
「では、若い者は、若い者同士で楽しく。うひょひょひょ」
「コハル。まだ貴方も若いよ」
必然的に、漸は妻二名とともに、シェリーを拉致し、コハルとフィアナと雪風姉妹はエスティと合流、残ったのは鹿嶋とリズだけになった。
「え、えっと‥‥。いきますか」
「あ、はい」
お互い照れながらも、どちらからともなく手を繋いで、又人混みを進むのだった。
●フェイトステージ〜ルノアの射的屋
鹿嶋とリズのデートは、まずまず順調だ。
『あたしのうたをきけええ!』
と、聞き覚えのある声が、ステージで聞こえた。
「フェイトさんです」
「がんばってるようですね」
「はい、その格好いいお兄さんに綺麗なお姉さん聞いていってね!」
と、その視線は、紛れもなく、鹿嶋とリズに向けていたが、フェイトもIMPの一員、それを感づかせない、視線のやり方だった。
「聞いていきましょう」
「はい」
ステージは、ほどよく人が集まっており、皆ノリノリでフェイトの歌にモッシュなどで答えていた。まだ、歌手の卵なので知名度はそれほど無いのだが、がんばって行けば有名になれるだろう。地道な活動が功を奏するのだ。
『みんな、ありがとー!』
と、フェイトのステージが終わると拍手や歓声が響く。
楽屋裏では小さくなったフェイトがいて、緊張で、一寸休憩する。このままでは、鹿嶋やリズには声をかけるのは相当後かな? でも、二人だけだから邪魔しちゃ悪いかなと思い、まずは疲れを癒すことにした。
鹿嶋は、その近くで見慣れた少女の屋台を見つけた。
「いら、っしゃい」
にこやかにルノアが微笑み、射的の銃を持って「射的をしない?」と誘ってくる。
(「ここは、一つ遊んでみますか」)
と、鹿嶋は射的を始める。
「がんばって、悠さん!」
リズが応援する中、非覚醒での射的は、真剣勝負だった。
しかし、ルノアも商売(しかしサービスは考えている)だが、ある程度命中精度が良い物を渡していた。しかし、今回、鹿嶋の精神は安定していないため、それでもKVのぬいぐるみを揺らすだけでとどまり、一か八かのしゅるてんのぬいぐるみを狙うも、さすがに難易度を高くしているため、当たらなかった。
「残、念」
「難しいですね」
「でも、残念、賞で、これを」
と、猫のぬいぐるみを渡す。
「え? いいのですか?」
「悠ちゃん、がんばった、から」
ルノアは微笑んで、渡した。
もっとも残念賞で、お菓子などを渡しているために、大して変わらない。しかし、猫のぬいぐるみという所はかなり計画的な物だと思われる。
(「リズさん、へ、プレ、ゼント、すれば、いい」)
応援のつもりのようだ。
「ありがとうございます」
鹿嶋は、困ったようだが、ぬいぐるみを受け取った。
●教授への尋問
(「‥‥自分は、何をしているのだろう?」)
秋月は考えていた。
予想以上に人が多い。奢ると言ったのは‥‥エスティヴィアにリリーにアキトだけだった‥‥はず?
ああ、でも、自分の話が及ばなければ、問題ないはずだ‥‥ああ、問題ない。
「そこでね! あたしの考えたキャラが出来るから、超楽しみ!」
「楽しみ!」
「もう、落ち着きなさいよぉ。まだ発売延期何だしぃ」
と、肉体言語関係で盛り上がるのはコハルとエスティとフィアナだった。ゲームヲタクなのでそれは必然で会話になるだろう。時雨は、ちゃっかりフィアナの側におり、焼肉をフィアナの分もちゃんと焼いてあげていた。六華はここだけおとなしくしている。
リリーもたまにエスティとのマンガ談義に花を咲かせるが、お肉に目がいく。
実際エスティに興味を持つ人が多いので、エスティが眼を回しそうであった。ここまで『自分に話が向かない』ことで成功している。
しかし、
「「たしか、秋月さんに恋人いるって聞いたけど」」
コミレザの原稿作業に関わってない、コハル、アキト、フィアナから、まさかの質問で、飲んでいたビールを吹き出した。
(「ゆ、油断した! ど、どうする!」)
秋月の心理描写では、首つり人形みたいになったに違いない。
「いえ、だから、エスティさん‥‥原稿についてですけど!」
「それは、あと! ちゃんと書くから安心して」
「ええっ!」
策士焼き肉屋で溺れる。
●恋人達
「ふみゅ! こっちいきたいです!」
シェリーは漸夫妻に引きずられならが、まだ終わらないハロウィンパレードを満喫している。漸が彼女を連れて行く理由は一つあった。
「我に、子供が出来たら、ああいう元気な子が良いな」
と。
リアも憐華も顔を真っ赤にしてしまう。
(「ま、まけまんせんわよっ!」)
女の戦い(?)が始まろうとしているかもしれない。
イスルが救護室で疲れてミズキの肩により掛かって眠っている。
「イスルくん、寝ちゃったんだね。仕方ないな‥‥」
くすっと笑うミズキはそのままでいることにした。
もう、反則だよ、その可愛い寝顔と、つぶやきながら、この二人だけの時間を大切にしていた。
しかし、イスルはまだ完全に眠りに落ちてはない。
(「‥‥ミズキ姉さん‥‥いい匂いがする‥‥」)
ミズキの横顔がとても愛おしい、眼を細めながら‥‥彼は思う。
(「少しわがままだけど‥‥これぐらいは‥‥」)
「イスルくん? おき‥‥んっ」
イスルはミズキにキスをした。
軽くふれあうだけのキス。
「イスル‥‥くん?」
いきなりの事で、ミズキは目を丸くした。
「‥‥ふう、不意打ち‥‥、欲張り‥‥しちゃった」
彼は、顔を真っ赤になりながらも、微笑んだ。
「それじゃ、仕返し」
今度はミズキがイスルにキスをする。少し長いキス。
「絶対に居なくなったりしないよ。だって、ボクはキミを愛してるから」
ミズキは、目を潤ませ、彼を抱きしめた。
「あっ、またー今年もか‥‥ま、いっか慣れちゃったし」
二人の絆は、又深く強くなっていく時間であった。
リリーとコハルは、エスティとアキトと六華、秋月を連れて又別の場所に向かう。フィアナと時雨はすこし、その集団から離れている。
「あの、これ‥‥私そびれていたけど、受け取ってもらえませんか?」
箱をフィアナに渡した。
「わあ、ありがとう」
中を開けると、オルゴールであった。
「大事にするね!」
フィアナは時雨の腕を掴んで、とびっきりの笑顔で答えてくれた。その笑顔がとても愛おしいと、時雨は思った。
鹿嶋とリズは少し離れた公園で、
「あの、今は大規模作戦中ですけど‥‥コレを預かってもらえませんか?」
古びた懐中時計を見せた。
「それは、大事な物では?」
「必ず、行きて帰ってきます。そして、又会いに行きたいです。いいですか?」
彼の顔は真剣だった。
遠くの喧騒はさらに小さくなる錯覚‥‥。
「はい、待ってます」
リズは頷いて、その懐中時計を受け取った。
「ありがとうございます」
今は抱きしめるには足りない。まだ『其処まで』の気持ちが‥‥覚悟がない。鹿嶋は思った。しかし、鹿嶋がリズに対する想いを伝えるのは‥‥頭をなでる事だった。
こうして、今年のハロウィンパレードは終わりを告げた。
●乙女の秘密
さて、一番の謎。
それは‥‥フィアナの実年齢だ。
「たしか、お酒は(法的に)飲めると言っていましたから‥‥自分より‥‥2〜3つ上とは思うんですが‥‥フィアナ‥‥」
「それは乙女の秘密です☆」
微笑んで答えるフィアナであるが、目は笑ってないようだ。
「で、ですよね! はい、ごめんなさい」
いつ実年齢が分かるのかは永遠の未定である。