●リプレイ本文
・職員室−15:00
「グリムズさん、仕事を始める前に聞きたいんだけどいいかな?」
仕事の説明を終えたグリムズに周防 誠(
ga7131)が話しかける。
「えぇ、構いませんが、どうしましたか?」
「いや、実験動物っていうのは具体的にはどんなのがいるのかなと思ってさ」
「そういうことなら俺も確認したい事があるのだが、今回の仕事の現場となる地下4Fとは、元々どのように使われていたのだ?話を聞くにかなり多岐にわたって使われていたようだが‥‥」
周防の質問に白鐘剣一郎(
ga0184)も続く。
「そうですね、まずは周防君の質問から答えましょうか。実験動物の詳細ですね、残念ですが私にもどのような生物がいるかは知らされておりません。というよりは、分からないほど様々な種類の生物がいるといったほうが正しいでしょう。ただし、あまり巨大な生き物はいないようです。そして、白鐘君の質問ですが、それに関しては残念ながら、私には教える権限がありません。どうしても知りたいということでしたら、仕事の後で学園に情報の開示を申請してみるといいでしょう。もちろん、それが通る保障はありませんが‥‥」
「う〜ん、了解。とりあえずは現場で対処しろってことね」
「わかった。その件はひとまず置いておこう」
「よろしいですか?でしたら通信機、懐中電灯、地下4Fの簡易地図、それに目撃者の調書のコピーを渡しましょう。地図と調書は更にコピーしても結構ですが、コピーした分も仕事が終わった際に返すようお願いします」
「すまないが通信機は結構だ。皆それぞれ自分のがある」
「そうですか、それでしたらそれ以外のものをお貸ししましょう」
道具を渡すグリムズ。
「ありがとう、教諭。では、失礼する」
・教室−15:30
グリムズとの話を終え、仕事の打ち合わせの為に空き教室に集まった一同。
「して、作戦を立てる前に皆は今回の対象、幽霊の正体についてどう思う?」
一同に問いかける白鐘。
「俺は幽霊なんて信じちゃいないぜ。どうせ大方実験動物の見間違いだろ」
机の上に座ってめんどくさそうに答える須佐 武流(
ga1461)。
「ふむ、汝の意見も分かるが、我としては本物である可能性も否定できんな」
須佐の次に意見を言う漸 王零(
ga2930)。
「自分も漸さんの意見に賛成です。本物じゃないって確証はありませんからね」
「私は幽霊なんて存在は信じません。そんなものが現実にいるはずありません」
「そうです?俺は特殊な能力を持っていたり、拳で殴りかかってくる幽霊もいるって聞きましたよ?」
「そんな幽霊はいないでしょう。私も幽霊なんて存在は信じていませんね。それに、興味もありませんね」
それぞれに自分の意見を言う周防、神無月 るな(
ga9580)、立浪 光佑(
gb2422)、黒崎 夜宵(
gb2736)。
「なるほど、幽霊じゃないという意見が多いわけか。とはいえ、何であろうと正体を見極めなければならないのは変わらないのだが‥‥さて、作戦を立てようと思うのだがいい案を持っている者はいないか?」
皆の意見を聞く白鐘。すると、漸から意見が出た。
「ますは、誰がどの場所にいくか決めるべきだな。それから、実際の仕事の前の準備もしなければならない。また、緊急時の対処も‥‥‥‥」
話し合い始めてから約一時間、ようやく決まった作戦を確認する一同。
「では、まず班分けだが倉庫は俺が行く」
「実験施設は我だな」
「格納庫には自分が行きます」
「女子トイレは私が行ったほうがいいでしょう」
「彼女だけですと危険ですから私も一緒に行きましょう」
「出入り口は俺が守ります」
「外からの生徒や肝試しを終えた奴が来るかもしれないからな。俺も出入り口で待機だ」
倉庫に白鐘、実験施設に漸、格納庫に周防、女子トイレに神無月と黒崎、最後に出入り口に立浪と須佐という班分けで決まった一同。続いて行動指針を白鐘が説明する。
「出入り口以外の班はそれぞれの場所を探索、もし生徒を発見した場合は速やかに仲間に連絡を取って、出入り口まで護送。そして、件の幽霊に出会った場合は仲間に連絡を取り、仲間が来るまでは対象の監視。くれぐれも単独で戦わないように。それと、何も無くても15分に一回は提示連絡を入れることだ。では、夜まで各自準備をすること。合流は19時ちょうどにもう一度ここにだ」
「「「「「「了解」」」」」」
それぞれ準備の為に教室を出て行く一同。
・出入り口−19:30
「ダメダメ。学園からの許可なしにこの階には立ち入れない。帰った、帰った」
「おぃ、そこのお前等、とっとと出て行くんだ。それがお前らの身の為だ」
準備が終わり合流した一同は地下4Fに来た。その後もう一度作戦を確認し、班ごとに分かれて探索に向かった。そして、出入り口に残った立浪と須佐。二人は生徒達の対処に追われていた。ここに来てから約三十分、二度の定時連絡をしたがその間に来た生徒達のグループは10を超える。更に元々中にいたグループが帰ってきたのもあわせると15を超えようかといったところだ。そのグループ一つ一つに二人は中への進入禁止と退去を伝えていた。
「ちっ、噂はどれだけ伝わってんだ。これじゃ、きりがねぇぞ」
「そうはいっても地道にやるしか無いと思うけど‥‥」
愚痴る須佐と半ば諦めた口調の立浪。二人が話す間に更に一グループ、肝試しを終えたカップルらしき二人が廊下の奥から歩いてきた。
「もうやってらんねぇ!」
我慢の限界に達したのか、須佐はそういうとカップルの元に急接近し、二人を片手で抱え連行してきた。須佐はそのまま二人を非常口から階段に放り出した。
「須佐さんすごいことするな」
「こっちの方が手っ取り早いぜ。これからはこうするか」
そう言って少しすっきりした顔を見せる須佐と須佐の挙動に驚く立浪。しかし、気が紛れたのも束の間、また新たな生徒の声が聞こえてきた。
「いったい」「まったく」「「どんだけ生徒が入ってるんだ!」」
まだまだ二人の苦難は終わりそうに無い。
・倉庫−19:15
「こちら、白鐘。倉庫に到着した」
倉庫に探索に向かった白鐘は一回目の定時連絡、その時間とほぼ同時に倉庫の入り口に到着した。目の前には倉庫の入り口。扉を開け、中を覗くとそこには目撃談のとおり様々なものが散乱していた。それらを避けながら奥へと歩みを進める。
チィッ、チィッ、
探索を続けていると、急に何かの鳴き声のようなものが聞こえた。白鐘はそちらに懐中電灯の光を向けるとそこにはネズミが一匹。いや、よく見るとそれはネズミではない。いくら何でも猫ほどの大きさのネズミはいない。生物は明かりに照らされたことで白鐘に威嚇の声を上げる。
「実験動物の一種か。こちらに襲い掛かるつもりか」
右手に持った刀を生物に向ける白鐘。しかし、生物は威嚇をしたまま一向に襲い掛かってこない。お互いそのままの状態で数分睨み続ける。白鐘が業を煮やして切りかかろうとする思ったとき、それらは来た。それらは生物の群れ、おそらくは番で逃げ出した実験動物が繁殖したものであろう、その数約10。やってきた群れを見ながら白鐘は呟く。
「これは‥‥面倒な相手だな」
白鐘の呟きを合図にしたのか一斉に襲い掛かってくる群れ。微かな明かりに照らされた倉庫内で戦いは静かに始まる。
・格納庫−19:20
ポタッ、ポタッ、
「どこからか水が漏れているのかな」
格納庫の探索を始めて数分、周防は静かな格納庫に響く僅かな水音に気付いた。
「そういえば目撃者の話だと幽霊は湿った音を出してたんだっけ‥‥調べておこうか」
本能が静寂と闇を恐れるのだろうか、つい考えが口から洩れ出てしまう。水音の方に近づいていく周防。音はだんだん近く、大きくなっていく。そして、音の近くまで来た周防がその場所を懐中電灯で向ける。
「なんだ、ただの配管からの水漏れか‥‥」
そこにあったのはただの水溜りと、たぶん水道管か何かだろう、配管から漏れ出した水の雫だった。
「やれやれ、この調子だとここは外れかな‥‥っと、あれは?」
光に照らされた水溜り、よく見るとそこから続く水の道、まるで何か水を含んだ重い物を引きずったような‥‥
「これは‥‥幽霊の足跡‥‥?」
跡を光で辿っていくとそれは床から壁へと続き、通風孔まで続いていた。
「通風孔を使って移動してるのか‥‥とりあえず、連絡かな。この様子だと外れっぽいしね」
通信機を取り出す周防。格納庫にはただ水音だけが響く。
・女子トイレ−19:35
「幽霊さ〜ん、いますか〜?」
「神無月さん、幽霊なんて存在いるわけありませんよ」
女子トイレに着いた二人、神無月は入り口からトイレの中に声を掛けてみた。しかし、返事はない。いや、
シクシク、シクシク、
よく聞くと中から女性のすすり泣くような声が聞こえてくる。
「きっ、聞こえましたか、黒崎さん!?おっ、女の人の、なっ、鳴き声が!?」
思わず声が恐怖で震える神無月。しかし、黒崎は冷静に、
「大丈夫ですよ。たぶん肝試しに来た生徒か何かでしょう。保護をしなければいけませんね」と言いながらトイレの中に入っていく。
黒崎に続いて恐る恐る中に入っていく神無月。中に入ると女子トイレの個室が並んでいる。どうやら件の声は一番奥の個室から聞こえてくるようだ。黒崎は足音を立てないように静かに個室の前まで移動する。そして、少しはなれた場所にいる神無月に指で合図をする。頷き、万が一に備えて銃を構える神無月。扉を一気に開け中に拳銃を向ける黒崎。しかし、中の様子を見て銃を下ろした。
「あなたはこんなところで何をやってるのです?」
中にいたのは一人の女子生徒。彼女は泣いていたのだが黒崎に声を掛けられると彼に抱きついてきた。
「助かった〜、助けてよ〜!」
生徒の様子に顔を見合わせる二人。
「どうやら、一旦出入り口まで戻る必要があるようですね」
「その様ですね。神無月さん、連絡は私がしましょう‥‥こちら、黒崎、生徒を発見したので連行する」
「あの、私たちが安全なところまで案内しますので安心してくださいね」
「ありがと〜!」
二人は女子生徒を連れて出入り口まで引き返し始めた。
・実験施設−19:40
「しかしながら、怪しいものだな」
実験施設、その残骸を見ながら漸は一人呟く。ここまで実験施設の中の探索を続け、地図によると残りの探索範囲は約四分の一、更に探索を続けようとしたとき空のカプセルの向こうに燐光のような光を見つけた。
「ふむ、噂の幽霊のようだな」
ゆっくりと気配を消しながら近づき、光のほうを覗き込むとそこには目撃談と同じ光の塊、しかしその姿は人型ではなくスライムのように地面に広がっている。
ズズッ、
幽霊が動く。動いた後、そこには干からびた死体が一つ。たぶん実験動物か何かだろう。その姿と目撃談から漸の頭にある仮説が浮かぶ。
「水分を吸収しているのか‥‥?とりあえず連絡をするか」
通信機を取り出す漸。
「こちら漸だ。対象を発見した。至急集まってくれ」
漸が通信機で連絡を取っていると幽霊が動き出した。幽霊は辺りを見回すように体の一部を伸ばす。そして、急に漸の方に近づいてきた。体の一部を触手のように伸ばしてくる。
「ちっ、気付かれたようだ。急いで頼む」
通信機を素早く直し、漸は刀を構え臨戦態勢を取る。
「さて、汝の強さはいかがなものかな?」
・戦闘−19:50
幽霊が体から伸ばした触手のようなもの、それを避けることに専念する漸。避けられたことに対して、更に触手を増やして襲い掛かる幽霊だが、避けることに専念した漸には当たらない。漸がその様に時間を稼いでいるとやがて他の場所にいた仲間が集まってきた。
「これが幽霊‥‥どうやら話し合いは出来そうにないですね」
「当たり前です。あれはただの実験動物でしょうからね」
油断無く銃を構える神無月とナイフを構える黒崎。新たな獲物に対して触手を繰り出す幽霊。しかし、一本は外れ、もう一本は銃に迎撃されてしまう。銃が当たった触手は地面に落ちると不定形の粘りを持った液体に戻り動かなくなった。その様子を見てあることに気付いた漸が二人にそれを伝える。
「どうやら、本体から切り離されるとその部分は死ぬようだな。本体は狙わずに触手を落としていくのがいいであろう」
漸の言葉に頷く二人。その時三人の背後から触手が襲いかかってきた。どうやら幽霊が明かりの届かない暗い所から触手を伸ばしてきたらしい。触手は黒崎を狙う。しかし、その寸前、何かに打ち抜かれ怯んだ瞬間、黒崎のナイフで切り落とされた。
「あら、余計なお世話だったかな?」
触手を銃で打ち抜いた男、周防は冗談めかした口調で言う。
「いえ、助かりました」
黒埼も淡々と返す。
「すまん、少し倉庫で手間取った」
「こっちも生徒の対応が終わらなくてさ」
「うぜ〜奴らばっかりでな。無理やり外に放り出してきた」
白鐘、立浪、須佐の三人も合流する。その後の展開は一方的であった。幽霊は尚も触手を増やし襲い掛かるが、その幾つかは伸ばした瞬間、周防と神無月の銃によって落とされ、残りの触手も白鐘、須佐、漸、立浪、黒崎に切り刻まれる。時間が過ぎれば過ぎるだけ幽霊の体は削り取られていった。最後に残った本体が白鐘に飛び掛ってきたが、それも一刀の元に落とされた。戦いは終わり一同は気を緩める。足元には幽霊の残骸。それを見た須佐が自身の水筒の中身を捨て幽霊であった液体を水筒の中に入れた。
「コレクションにでもするんですか?俺にも分けてくださいよ」
立浪が尋ねる。
「そんな訳がねぇだろ。これをあの教師に渡せば正体が分かるかもしれねぇだろ。だからだよ」
「とりあえずこれで依頼は完遂ですね」
「そうですね。自分も疲れましたしとっとと帰りましょうか」
「うむ。我も賛成だ」
こうして、学園をしばし騒がせた幽霊騒動は一応の幕を閉じた。はずだった。
「あれ、そういえばさっきのあの子は‥‥?」
「あの子?」
「えぇ、さっき私と黒崎さんが保護した女の子です。危険だからここの入り口で待ってるように伝えたんですけど‥‥」
「きっと帰ったのでしょう。肝試しに来る生徒なんてものは勝手なものです」
黒崎がそう言いながら出入り口を開ける。そして、月明かりに照らされた一同が目にしたもの。それは、
「くっ、黒崎さん‥‥そっ、それは?」
神無月が恐る恐る黒崎の体を指差す。黒崎が神無月に言われて視線を下に向けるとそこには血まみれの服が‥‥
「それってさっきの彼女に抱きつかれた場所だけじゃないですか‥‥!じゃあ、あの子は‥‥‥‥!」
一同は自分達が出てきた出入り口を振り返る。暗い廊下から冷たい風が一陣吹き抜ける。背筋に嫌なものを感じる一同。どうやら、この幽霊騒動は当分終わりそうにないようである‥‥