タイトル:【AA】セイリングレイマスター:墨上 古流人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/01 07:20

●オープニング本文



 某所某日某時刻
 依然として戦禍に巻き込まれている地中海。
 魚や海鳥ではなく、異型のモノやHWが飛び交う戦域のその東部には、オーシャンブルーの澄み切ったエーゲ海が広がっている。
 そのエーゲ海に浮かぶ、キクラデス諸島に属するミコノス島は、世界でも有数のリゾート地で、
 特徴的な白い壁の建物に囲まれてバカンスを過ごす旅行客も多い。
 いや、多かった、というべきだろうか。知っての通り、世の情勢的に、海外へ旅行する余裕のある者や、
 そもそも、必然として自由に移動を出来る状態にない者が圧倒的に増えている事には、歯がゆい思いをした事があるのではないだろうか。
 にも関わらず、とある旅行会社では、無謀な企画が立ちあがっていた。

「エーゲ海クルージング‥?」
「そうなの。‥言っとくけど、あんたと一緒に行きたい、って意味じゃないからね」
 ラストホープの一角に小さく構えるスイーツショップ『スリジエ』にて、灰色の頭と茶色い頭が並んで会話を広げている。

「ギリシャ方面は確か‥バグアが海岸線を作ったチュニジアの向かいじゃないか」
「地中海の激戦区からは離れてるとはいえ、不安よね‥」
 茶色い頭の方、柚木 蜜柑が頬杖をついて溜息を吐く。
 一人用席のカウンターで、目の前の、外を見渡せる一枚ガラスが、吐息で少し曇る。
 袖を余らせて着こなすのは良いのだが、着ている服が上下赤いジャージというのは、年頃の女として如何なものか。
 もう片方の頭、井上 雅がそう思いながら懐から煙草を出そうとすると、

「うちは禁煙だよ。吸いたきゃ厨房行ってきな」
 コツっ、と灰色の頭に銀のトレーが振り下ろされる。渋い顔をして後ろを向けば、ちょうど視線の先には店主の豊かな二つの主張が視界に飛び込み、
 半ば気まずさからも逃げるように、雅は馴れた様子で厨房へと消えて行った。

「ホントに行くんだ‥このヤニ馬鹿っ」
 店主が持ってきたクレームブリュレを、スプーンに乗せるには大胆な量でがっつりとすくい、頬張る。
 焦げた砂糖の香ばしさと、バニラビーンズ香るカスタード地は、口の中に豊かな甘みを広げてくれる。

「今頃、野郎二人で仲良くしてるだろうさ‥で、何の話してたんだい? 私が代わりに聞いてあげるよ」
 雅の席に、勝手に座る店主。店内には他にもお客が居る中、薄汚れたコックコートを来た店員が席に着くと言うのも、無遠慮で少し違和感だ。
 最も、妙齢で美人という点では、他の男性客から視線で歓迎されているようだが。

「ぁ、うん。あのね、今度、とある旅行会社がクルージングツアーを企画したんだけど、それが今回の大規模作戦の現場に近くて‥って話」
 行儀悪くも、ブリュレの入っていたラメ金に張り付いた残りのクリームを、カチカチと取りながら蜜柑が言う。

「なんだいそりゃ。右手をご覧ください、爪がのびるでしょう? 実は私バグアなんです、とでもやるつもりかい?」
 自分で言っておきながら、想像して噴き出してしまう店主。
「違う違う、ホントに綺麗なエーゲ海と、見どころいっぱいのキクラデス諸島を周るらしいのよ」
「左手をご覧ください、ステアーが今まさに空中変形を‥」
「理那姉さん」
 蜜柑が呆れて冷たい視線を送れば、そんな目で見ないでくれ、とでも言わんばかりに理那と呼ばれた店主がうろたえる。

「‥冗談だよ。にしても、離れてるとはいえ、危険には変わりないんだろう? 何だってこんなご時世にそんな、会社のビルごと身投げするような企画出すのさ」
「だからこそ、らしいわよ。バグアの影響下でも、人類には気持ちの面で決して負けてもらいたくないから、我々は娯楽を提供し続ける‥‥って、やたらノリの暑い人が来たわ」
 思い出してなお暑くなってきたのか、ジャージの下のシャツの胸元をつまんでパタパタとあおぐ。
「心意気は認めるけどねぇ‥誰か申し込むのかい?」
「その為に、安全確認という意味で試験的運航をするらしいわ。その船に、今回傭兵達を乗せるらしいのよ」
「なるほどね‥地中海の外れとはいえ、流れてきちまうキメラがいないとも言い切れないわけ、か」
「その一員として、本部での募集と一緒に雅を乗せようと思ったんだけど‥」
「‥ふむ、なら、俺より良いアテがあるぞ」
 いつの間にやら、二人の後ろで微かに煙草の残り香を纏いつつ、雅が立っていた。
「耶子が正式に傭兵として配属になっただろう。今まで楽しい思いをしないまま大人になったようだし、連れてってやってくれ」
「あんたねぇ‥ちゃんと引き継ぎしてくんないから、私、前の仕事でヒンシュクかっちゃったじゃないっ」
「しょうがないだろ。俺だって推薦者であって保護者じゃない。本人が『覚えてない』と言うのだからな‥」
 店主の座っている背もたれに腕と体重を乗せて雅が言う。
「経歴もプライベートもさっぱりだ。名前だって、不意に全然違う名をを名乗ったりと、謎は多い。だが‥腕は確かだ。損は無いと思うぞ」
 ポーカーフェイスの雅が、珍しくにやりと微笑む。何を含んでいるのかと一瞬逡巡したが、やがて蜜柑は考えるのを止め、

「‥わかったわ。まぁ、HW程の酷い脅威が襲い来るとも思えないし、試しに彼女に任せてみましょ」
 足元のカバンを持ちあげて、席を立つ。
 彼女の視線は、日差しの差し込む透き通った窓に、遥か遠く、果てなる海上の白い宝石、ミコノスを虚ろに映していた。

●参加者一覧

社 朱里(ga6481
17歳・♀・FT
ロジャー・藤原(ga8212
26歳・♂・AA
加賀 弓(ga8749
31歳・♀・AA
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG
加賀 環(gb8938
24歳・♀・FT
獅月 きら(gc1055
17歳・♀・ER
エレシア・ハートネス(gc3040
14歳・♀・GD

●リプレイ本文


 通常の航行よりも遅いスピードで、ゆったりと地中海を豪華客船が行く。
 雲一つ無い晴天、カラッとした涼やかな空気の下、心地よい潮風をその身に切りながら、傭兵達は思い思いの時間を過ごしていた。

「この潮風、この肌触りこそ船上よっ!」
 ロジャー・藤原(ga8212)が、甲板の柵に足を乗せ、拳を震わせて叫ぶ。
 地中海といえば、広い海原を航海する技術がまだ無い時代は、海賊の本場だったのだ。 
 海賊の子孫(自称)ということもあるのか、本人のテンションはダダ上がりだ。
 そして武器と無線を傍らに、ビーチチェアに腰をかける。

「いずれ劣らぬ美女美少女ばかり。眼福眼福‥」
 スタイリッシュグラスがきらりと光るのは、日差しか、それともグラスの奥の怪しい視線か。
 そんな視線の先には獅月 きら(gc1055)と社 朱里(ga6481)が楽しげなガールズトークを繰り広げている。
 二人とも、船内でのショッピングを目論んでいたが、立ち並ぶ高額商品の数々に、目を白黒とさせてきたばかりだった。

「すみませーん。トロピカルジュースお願いしても良いですか?あ、フルーツは多めですっ」
 リクライニングチェアにゆったりともたれたきらが、声をかけると、
 傍を歩いていたスタッフが、一礼の後すぐさま、彩り鮮やかなトロピカルジュースを持ってくる。
 ジュースの甘さと、きゅっとしたフルーツの酸味が何とも言えず、つい手足が軽くばたついてしまう。

「藍風ちゃんとプールで遊びたいなー」
 にこっと朱里が微笑む先には、藍風 耶子が黒い装束を来て、恨めしそうに日差しを睨んでいた。
「うぅー‥下に水着は着てきたんですけどー‥日焼け対策を、忘れましたー‥」
 がっくし、と項垂れる耶子。プールを目の前にして泳げないのは、人参を下げられた馬と似た境遇に違いない。
「あ、水着は、着てるんですかー?」
 朱里の問いかけに、こっくりと頷く耶子。それを見て、きらへにやりと笑みを投げれば、きらも何かを悟って、いい笑顔でこくりと頷く。
「せーの‥それーっ!」
「ひゃうあっ!?」
 きらは水着の上に羽織っていたけもみみパーカーを脱ぎ、
 二人で耶子の腕を両サイドからがっつり掴み、勢い良く目の前のプールに飛び込んだ。

 そんな様子を、海を一望出来るカフェから眺めているのが皇 流叶(gb6275)だ。
 アルビノの彼女にとって日差しは大敵、直射を避けられる室内で、テーブルに海図や資料を広げて海の監視をしていた。
 そんな彼女の手元に、ことりとアイスティーの入ったグラスが置かれる。

「君は、遊ばないでお仕事?息抜きも必要だよ」
 店の者だろうか。黒いサロンを巻いた青年が営業スマイルで話しかける。
「何となく、仕事に着てるのに遊ぶのは‥アレだしな。なんなら、そちらの仕事を手伝いたいとも思ってる」
 予想外の流叶の提案に驚いた顔をするが、青年は決まってたかのようにすぐに言葉を返す。
「気持ちはありがたいけどねー、一応、雇ってても君たちは『お客様』だよ。ぁ、何なら俺専属の給仕にでもなる?もちろん、船を下りてからも大歓迎っ」
「‥あいにくと、仕える人は一人だけだ」
 苦笑であしらい、アイスティーを口に運べば、スッキリとした旬のダージリンが喉を通る。
 カラン、と涼しげな氷の音と共に、窓の外の波間をのんびり見つめ、紅茶を淹れるのが上手いあの人へ、つい思いを馳せてみるのだった。

「‥海は綺麗ってのになぁ、キメラが出てくるんだっけか」
 階下の喧騒を余所に、微かな煙の香りを、潮風と共に纏うのは飲兵衛(gb8895)だ。
 不純物やプランクトンの少ない、透き通った海を見れば、ここを異形の者が泳ぐとは如何とも想像しがたいのかも知れない。

「‥仕事じゃなきゃ、こんな船、乗れないよなぁ」
 飲兵衛のデッキの下を見下ろせばプールが、そのプールの下の層の船尾には、
 ぶらぶらと、船内探検へと繰り出していた加賀 環(gb8938)と、妹に付き合ってついてきた加賀 弓(ga8749)がいた。
 彼女らも、休憩中はプールで泳いでいたのだろう。船が進んで出来る白い水泡を眺めながら、
 しっとりと濡れた髪を撫でる潮風は少し寒いぐらいだ。

「ケッ、なんで豪華客船でまでメイド服じゃなきゃいけねぇんだよ。俺はクルーじゃねぇぞ、ったく」
「あら、かわいいわよ?」
「嬉しくねぇよ‥」
 明後日の方向へ、煙草の煙を吐く環。そんな彼女は水着ではなく、戦闘用のメイド服に身を包んでいる。
「煙草は身体に毒です、幾ら能力者でも、いえ身体が資本の能力者だからこそ健康には気を付けないとですよ」
「折角のクルーズバカンスでまでグチグチ言われたくないってのに‥」
 紫煙を通して向こう側の妹へ、少しお説教してみる姉心。
 文句を言いつつも、とりあえず近くの灰皿へ吸殻を放るのだった。

「むー、ここはお姉サンとしてうちも誰か‥・・えいっ」
 装束を脱いですっかり水着となった耶子が、近くを歩いていたエレシア・ハートネス(gc3040)を、ざばっと上がって、どばっとプールへ引きずりこんでしまう。
「ふっふっふー。エレシアサンは水中対応という事前情報があるのですー。さぁ、観念して一緒に遊ぶのですよー」
 あまりの不意打ちと早業に、何が起きたのかと驚いているエレシアへ、びしっと指を向ける耶子。
「ん‥‥まだ、見張り中なんだけど‥‥」
 胸元をプールの水に揺らしながら、ワンテンポに落ち着いて答えるエレシア。
 誘われない限りは遊ばないと決めていただけに、どうしようかしばし逡巡するのだった。

 みな、思い思いの色を描いて、クルージングを楽しんでいた。
 キメラにも、この興趣を理解出来るものが、いればよかったのだが‥



 船の進路の真正面、空に複数の黒い影が現れる。
 ソナーよりも早く、敵の接近に気づいたのはエレシアだった。

「ん‥‥キメラが攻めてくる、乗客の避難をお願い‥‥」
 双眼鏡から目を離し、無線を飛ばすと、すぐさま水着になり、槍を携え海へと飛び込んだ。
無線を受けたきらは急ぎ駆け出すと、
 同時に、船長が予め言われていた通り、キメラの接近を猛々しく船内放送で促す。
 航行に関係のない人員は、もしもの時の為に、脱出口の付近に待機してもらうよう手配していた。

「避難訓練とでも思って楽にしていて下さい‥ね?後は私達のお仕事です。その為にお呼ばれしたのですから」
 こくり、ときらがうなずき、薄暗いドックの中上げた顔には、決意の視線が、強く乗組員達へ向けられていた。

 発見は早かったが、如何せん数が多かった。甲板では、既に何体かの魚人型キメラが、
 鱗を鈍く光らせながら、粗末な棒きれを振り回して傭兵達を威嚇している。
「ケッ、クルージングが羨ましいか?チケット手配して出直してきな!」
 環が派手に啖呵を切ってから覚醒し、アズラエルでソニックブームを放つ。
 正面から受け止め仰け反ると、魚人が地上の生き物には無いような声をあげるが、
 それもすぐ、声にならない声となる。接近した環の大鎌が、喉笛をざっくりと突き刺していた。

「‥何人足りとも、中へは、入れません」
 覚醒の効果で敬語の環、箒ではなく凶器を構えたメイドは、静かな威圧を魚人達へと向けていた。

 防衛ラインを妹に任せ、同じく甲板対応の弓は、これ以上彼女の負担にならないよう、文字通り水際対策を行っていた。
 勢いをつけて飛び上がってくる、肉食風体の魚型キメラ、船体に穴を刻みながら登ってくる魚人、
 甲板へ迫りくる敵影を、容赦なくスノードロップで撃ち落としていく。

『長い黒髪のお嬢さん!後ろにキメラが乗り込んだぞ!』
 弓の耳を貫く船長の声。スピーカーによる援護を聞くと、彼女は鬼蛍を振り向きざまに抜き、ちょうど得物を振りかぶった魚人の胴に刃を沈める。
 操舵室の窓からサムアップを見せる船長に、弓はニコリと微笑んで返した。

 朱里は、高度を下げて接近してくる鷲型キメラを数体確認し、雪月花を下ろすと、
 甲板の床に氷雨と雲隠を突き立て、夜刀神を直ぐに抜けるよう懐へ差し込み、蛍火を腰に収める。
「私に居合をさせるんじゃない‥」
 鍔弾きから抜き身、淡く光る刀身を晒して、そのまま踏み込み、
 鳴き声をあげて滑空してくる鷲へ、逆手のまま居合抜く。
 感触で生死を確かめ、目もくれずそのまま後ろの鳥の羽を、すぱっと切り落とす。
 鋭い視線が的確に敵の影を捉え、無駄の無い軌道で次々と鳥型キメラを甲板へ落としていった。

「‥なんちゃってね♪』
 向こうから勝手に間合いへ飛び込んでくるのだ、これほど迎撃に向いた戦法は無いだろう。
 カチン、と心地よい音と共に刀が収められ、茶目っ気を取り戻してみる朱里だった。

「ふっふっふー、ここで、今週の耶子ちゃんの秘密兵器ですよー」
 耶子が懐から取り出すのは、研究用の強力な磁石。これを迫りくる鳥キメラへと向けると、急にキメラが変な方向へ進路を変え、
 その先にあった壁へと激突してしまった。 

「鳥サンは、地球の磁力を感じて飛ぶ方向を決めてるらしいですよー。キメラに効くかは、ちょっと実験でしたがー」
 えへへと加えて、暴れるキメラを一撃で葬る。
 どんな不足も充分補える純粋な力と、場数による経験やセンスが、彼女の戦闘力の要のようだった。

 水中でも、激戦が繰り広げられていた。
 ロジャーはシュノーケルをつけて、アロンダイトで水棲キメラを追い払うよう立ちまわっていた。
 水中でもキレのある豪快な振りは、船の上でカットラスを振り回す海賊をも彷彿とさせる。
 泳ぎ迫る魚人の爪を避け、そのまま水の刃で敵の肩をそぎ落とす。

(「!?」)
 と、不意にロジャーに下へと引っ張る力が働く。
 見れば、シャチのようなキメラが、彼の足に噛みついたまま、尾ビレを翻し泳ぎだしたのだった。
 そのままキメラはアクロバティックに体をひねり、彼を船底へと叩きつける。
 どん、と低く大きな音が響くと同時に、苦しさでロジャーの口から酸素が溢れだした。
 シュノーケルなので深く潜れない分、敵を船から遠ざける事に専念するにはちょうど良かったが、一度深くまで潜ってしまうと辛い。
 
 ふと様子を見かけたエレシアが、水中槍の蛟を構えて急ぎロジャーへと近づく。
 ロジャーもそれに気付き、盾は構えずアロンダイトを持つと、そのまま次の一撃へと備えた。
 巨体にも関わらず、力強く水を切り迫り来る頭部を、エレシアが間一髪、間に入り受け止める。
 予想以上の重さに顔をしかめるが、敵の押しに負けじと、目と腕に力を込めた。
 その隙に、ロジャーが影から泳ぎ出て、歯を食いしばりながら敵の腹部を流し切る。
 透き通った海水に血の霧を吹き出しながら、キメラは微動こそするものの、浮き上がり、船の底へ接触したら、そのまま後方へと流されて行ってしまった。
 
 胸をなで下ろし、見事な連携にお互い目を合わせるが、刹那、何かを思い出したかのように、ロジャーが急ぎ水面へと泳ぎだす。
 出来れば、吐き出した酸素分だけでも、エレシアが呼吸をしているレギュレーターを借りて間接‥
 等という軽い考えすら、彼にはする余裕がなかった。
 
「‥この船、自衛用の火器ぐらい付けた方が良いと思うんだがなぁ」
「ダメですよ。澄み切った地中海のクルーズに、物騒なものは似合いませんっ」
 よいせっ、と大口径のガトリング砲を柵に乗せぼやく飲兵衛に、きらが情緒というものを説く。
 彼らの前方からは、翼竜を思わせるような大きなキメラが接近していた。

「魔創の射手の名に恥じぬよう‥」
 きらが小さく祈り、ガトリングよりも先に、射程に捉え矢を放った。
 長射程によるブレを、ものともしない狙撃手の命中率が、見事に片翼を穿つ。
 敵は姿勢をグラつかせると、苦し紛れに火球を口から飛ばしてきた。

「‥っと、まずい。避難場所だけは守りきるぞ‥!」
 姿勢を低くして直撃は避けるも、船の煙突を掠める。
 翼竜はそのまま、恐るべきスピードとタフネスで船に接近してしまう。
 飲兵衛が練力に気を配りつつ、急所突きを放つが、敵は気合いの如き咆哮をあげて勇み寄る。
 きらが制圧射撃を、と思ったが、銃を持っておらず、飲兵衛もメインアームのみだったので貸せないのは誤算だったか。
 急ぎ緊急の報せの呼笛を吹くと、船内のスピーカーからもサイレンが響き、全域の傭兵へと伝わる。

 刹那、すぱっと軽快に空気を裂く音。
 上向きの斬撃と共に、竜のもう片方の翼が一切の無駄なく真っ二つになった。
 きらの視線の先には、水面からワイヤーアンカーの勢いで舞い上がってきた流叶がいた。
「すまないな、水中の囮もしていたから、遅れてしまった」
 そのまま、光る飛沫を払うかのように円閃し、竜の背中を凄皇が焼き付ける。
 うめき声をあげて翼竜の体が船に落ちると、首がきら達の居るデッキの柵に引っかかるようもたれる。

「終わり‥ですか‥?」
 おずおずと、弓を構えたまま覗き込むと、おもむろに、目の前でがぱっと口が開かれる。
 不穏な熱気が、彼女の顔を照りつけると、飲兵衛と流叶もぎょっとした表情に変わる。

「た、畳み掛けるぞ!」
 がしゃん、と大きく開かれた口へガトリングを突っ込み、急所突き込みで全弾を叩き込む。
 頭部へ接近しようとした流叶に、竜のテイルスイングが襲いかかる。舌打ちで接近を諦めると、疾風で後方へ翻り、クロッカスを放った。

「大丈夫ですか‥!」
 駆け上がってきた弓が竜の鼻頭へ銃撃を放つと、横から環が飛び出していく。
「終わりです‥」
 淡とした台詞と共に、大鎌を振り下ろす。
 上顎から下顎を貫通し、禍々しい刃が床まで一気に突き刺さると、熱気の温度は上昇を止め、それ以上、竜も動かなくなった。



 煙突ではなく、甲板から豪快な煙が立ち上る。
 ツアーで名所を巡れない分、旅行会社と船から好意と労いを込め、
 乗ってる者全員が参加する、少し大きなBBQパーティが催されていた。
「ん‥‥美味しい」
「‥‥エレシアサンと同じの食べれば、おねーさんな体になれるでしょうかー‥」
 じっとエレシアの体を上目使いで見上げる耶子。
 その横では、弓が野菜や肉を乗組員の為に焼くが、環がひょいひょい口に運んでいったりしてる。

「あ、それさっき倒したキメラの肉‥‥」
 ロジャーの一言に、きらと朱里が驚き、口も手も止め彼を見る。
「‥‥嘘」
『ロジャーさんっ!?』
 若干涙目になりながら、鉄串を投げる二人。
 スナイパーとファイターの投擲はいささかシャレにならないが、いい薬だろう。

「あ、その肉折角育ててたのに!?」
「ん?あぁ、すまない。だが、野菜も食べないと、大きくなれないぞ」
 日傘の下、もきゅもきゅと涼しい顔で肉を食べる流叶に、
 いいんですよ、ジュースで摂ってるから‥と呟く飲兵衛。

 地中海の風を浴びながら、心地よい疲労を覚える。
 腹に響く程の、大きな汽笛が一回、傭兵達の戦闘を讃えるかのように響いた。