●リプレイ本文
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「遊園地は子供も大人も楽しむ所だぜぇ。それを大人だけが楽しもうなんて、許せねぇなぁ そいつはよ」
魔津度 狂津輝(
gc0914)が、遊園地から少し離れたビルの陰で、パイドロスの座席に手を乗せ、気だるそうに体重をかけている。
「相手は元軍人さんですかい。それじゃあ、ちぃとばかり遊んで貰いやすか」
腰に提げた刀の柄に左腕を乗せ、東條 夏彦(
ga8396)が動かない遠くの観覧車を見上げて言った。
その横では優(
ga8480)が、今回も入念に事前準備を整えている。
彼女が両手で広げている来客者向けのパンフレットには、各施設の大よその高さや制圧予定ルート、緊急時の合流場所等が書きこまれていた。
「親バグア‥か‥」
頭の後ろで手をを組み、壁に寄っかかっていた黒瀬 レオ(
gb9668)は、、
初めて相見える思想への純粋な興味か、それともさほど興味が無いのか、ノリの良いリズムを響かせるヘッドホンを外し、そう呟いた。
「折角来るなら、遊びで来たかったもんだぜ」
片方の手では閉じた扇子を口に当て、もう片方の手でガイドマップを広げているのはウェイケル・クスペリア(
gb9006)―ウェル―だ。
広げたガイドマップの逆サイドは、エイミ・シーン(
gb9420)が担当して仲良く覗きこんでいる。
そんなエイミの隣には、購入したばかりのSE−445Rがサイドスタンドで停めてあった。
何やら、彼女の空いてる手の指は、先ほどから虚空を突くような挙動を繰り返しているようだが‥
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「うー‥?」
「どうした、悪いもんでも食ったか?」
声の響く狭く暗い道、一時のバディの体調を気遣う杠葉 凛生(
gb6638)に、飲兵衛(
gb8895)が気のせいか‥と腹をなでる。
彼らが息を潜めて歩いているのは、パークの地下水道、水を使う機会は多いので、それなりに整った作りだ。
「しっかし‥普通に休日でこんな所に来るのなら良いんだがなぁ‥可愛い子ちゃんとならだが」
「かわいこちゃんじゃない所悪いが、ここから先は敵の警戒も増える。用心してくれ」
彼らの後ろに付いて歩くのは井上 雅。傭兵達が潜入するまでに情報収集をこなし、結果、この地下で落ち合う事を提案していた。
「陽動班に突入するよう伝えてくれ。警備が減り次第、俺たちも動き出そう」
雅の指示に、凛生が無線を飛ばす。レシーバーから微かに漏れて来たエンジン音を合図に、男達も銃を構え、歩き出した。
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入場券も使わずに容易くゲートをくぐれば、探査の眼など使わずとも、沢山の敵を視野に捉えられた。
「家族連れ‥って雰囲気じゃねぇな。連絡入れ‥!?」
ゲートのすぐ近くで待機していた数人のテロリストが、傭兵達へゆっくりと注意を向ける、
が、気だるそうに手に取った無線は、夏彦の投げた蛇剋の軌道にかすめ取られてしまった。
まだメディアで情報が飛び交い混乱する中、傭兵達の早期対応に、占領を終えてひと段落したテロリスト達の士気向上は、追いついていなかったのだ。
「開始直前で潰されたものの変わりにはならないけど‥今からショータイムだ」
「ショーには不向きでしょうが勘弁していただきてぇ」
レオの黒刀炎舞と夏彦の妖刀天魔が、同時に鞘を走り、地を駆ける。
切り上げられた双刃は、敵のアラミド繊維のタクティカルベストを容易く切り裂く。
レオは炎舞の炎で着火を狙っていたが、炎が出るのは覚醒時の一瞬だけだった為諦め、残心を取る。
エイミのシャドウオーブを喰らった後方の敵が、苦し紛れにホルスターへ手を伸ばすが、走り寄った優の膝で肘を逆に曲げられてしまった。
そのまま肩の関節を極め、鈍く光る月詠を男の首筋に当てる。
「十秒時間を与えます。このまま逝くか司令塔の場所を答えるか選びなさい」
「知るか‥俺達ゃ警察も来ねぇの良い事にダベってただけだ‥」
収穫の無さに薄く溜息をつき、男の延髄に刀の峰を落とす。
「こいつは‥もうちょい中の方で聞きこむ必要があるみてーだな?」
ウェルがしょうがねぇ、という感じに先を見やれば、思わず心躍りだすアトラクションの方面も、徐々に騒がしくなってきているようだ。
「コシュタ・バワー‥戦場を‥駆け抜けるよ?」
「バイドロスの特性を殺しちまうが、しゃーねぇわな」
バイクに乗ったエイミがタンクを撫で、エンジンをかけた横では、狂津輝のAU−KVが既に振動を立てている。
両機はやがて、それぞれ派手にウィリーとマックスターンを決めて、予定していた制圧ルートへと駆けだした。
「あまり距離は開けすぎないようにしてくれよな‥」
追いつくだけで疲れちまう、とぼやいてから覚醒しなおした夏彦の横で、苦笑したレオが無線で先行く仲間へ伝えた。
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「上が始まった‥のか‥?」
依然地下水道を探索中の潜入班。
隠密潜行で先行し、様子を伺っていた飲兵衛は、固定して配置されていた敵が踵を返して行くのを見た。
飲兵衛の後ろの方では、凛生と雅が前方に注意を向けつつ、潜めた声で相談をしている。
「このパークの運営や事務に関わる中枢は、フードコートの地下にほぼ集まっているらしい」
「そこへ行こう。首謀者がいなくとも、防犯カメラの映像で位置を掴めるかもしれない」
「そうなると‥飲兵衛の先の敵を、排除しなければならなくなるな」
雅がそう言うと、会話を聞いていた飲兵衛が、敵を見張りながら親指を立て、後方の凛生達へ見せる。
二人が近寄り、曲がり角から顔を出せば、そこには銃を提げた二人の見張りが立っていた。
「声や音は響く。即殺を心がけよう」
雅がS−01を構え、飲兵衛と凛生が頷く。敵の一人が欠伸を始めた刹那、二人は角から一気に飛び出した。
テロリスト達は表情こそ変えるものの、武器を構えるまでには飲兵衛の発砲を許してしまった。
敵の腿に命中し、思わず苦痛の声を上げそうになった所を、近づいた凛生に口を押さえられ、駆け寄った勢いでそのまま地面に叩きつけられる。
凛生はそのまま、もう一人の敵を回し蹴る。首を刈り取るように放たれ、体重の乗った後ろ回し蹴りも、敵を地に容易く崩す。
飲兵衛が構えたまま近づき脈をとれば、まだ生きている事がわかる。敵はそのまま目立たないよう、パイプの陰に転がす事にした。
「とりあえず、フードコートだっけか? そこへ向かうよう言っておくよ」
飲兵衛がまた先頭に立ち、進む前に無線を繋ぐが、
『とりあえず向かうけどよ、今はそれどころじゃねー!』
『のんさん空気読めー!!』
静かな地下水路に響いた無線は、数々の銃声と、幾つもの敵の怒号。そして爆音と仲間からの苦情だった。
「く‥空気読めは無いんじゃないかっ!?」
「ま‥まぁ、向こうはイヤでも敵を惹きつけるからな、テンパってるんじゃないか‥?」
何がなんだか訳のわからない、という顔で無線を見る飲兵衛に、少し同情を覚えてから、雅がフードコートへ繋がる道を指示しだした。
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数分前の陽動班は、まさに孤軍奮闘と言える働きをしていた。
何せこのパークは普通の道でも、随所随所が混雑を緩和する為かなりのスペースを確保してある。
近づいて来た敵に囲まれないようウェルが扇でいなし、小手返す。
本来強襲目的で使うはずだったエイミのバイクも、取りに帰る暇がないので持ち込み、結果的にその目立つ様は陽動の要となっている。
駆け付けてくる応援部隊へ即座に突っ込み、ハンドルと一緒に構えた忍刀で敵を撫で切っていた。
「増援も撤退も‥中央の方から来てないですか? ‥もしかして、大事なものがあるのかも」
闘いながらも常に敵の動向へ気を配っていたレオが、シエルクラインで弾幕を張り、牽制しながら言った。
「あちらは確か‥パークの中央、フードコートですね」
「兵糧を削るっつー意味では、そっちも潰しとくべきかもな?」
優が敵のナイフの軌道を月詠の刀身へ走らせ、身体の横に逸らした後、凄皇で袈裟切りを浴びせれば、エミタらしきものを胸に埋めた男が倒れる。
ウェルも敵のしぶとさに嫌な予感を覚え、大鎌「紫苑」を取りだす。
石突を敵の下顎へ振るい、その反動で鎌を抉り込む。引き抜き、間髪いれずに蹴って間合いを取り、フルスイングで刃を横腹へ埋めると、彼女の倒した男にも、エミタが埋めこまれていた。
パイドロスを着込んだ狂津輝は、静かに構えたと思ったら、突撃し暴れ切り、豪快で華やかな新しい剣舞でも舞うかのように、敵を前線で斬り飛ばしていた。
竜の咆哮で飛ばされたテロリストが再び斬りかかれば、顔面クローで敵を宙に持ち上げる。
「無駄に抵抗するからよぅ だから紅い染みになっちまうんだよ ヒャッハー!」
彼らの周りから、徐々に敵が減ってきたように見えた。
が、それはただ減ってきた訳ではないと気づくのは数拍先だ。
突如、激しい爆音と共に地面が削れる。
何事かと態勢を立て直し、辺りを警戒すると‥‥パークの目玉のジェットコースターのレールの上で、2本の鉄の砲身と、数機のガトリングを備えたコースターが走っていた。
「スピード抑えて動かせば、列車砲として使えるってぇわけですかぃ、やっこさんも考えやすねぇ‥」
そして、前線で暴れて居た狂津輝の横を、高速の弾が駆け抜け、あまりの風圧に流石のドラグーンもよろけてしまう。
その弾を放ったのは、彼の数十m先で、列車砲よりも大きな砲身をこちらに向けている、煌びやかなネオンと派手なペイントに無理矢理武装を積んだ、パレード用のゴンドラだった。
「や‥やれるかなぁ‥?」
「戦車を相手にするようなものです、逃げましょう‥!」
浪漫の鉄拳をエイミが構えてみるが、優が冷静に戦力差を見切り、提案すると、ゴンドラが、パレードで見せるには早すぎるスピードで傭兵達に迫ってきた。
『こちら飲兵衛。聞こえるか? どうやらフードコートの地下がパークの中枢らしいんだが‥』
「とりあえず向かうけどよ、今はそれどころじゃねー!」
「のんさん空気読めー!!」
必死で駆け、逃げ、足を運ぼうとした場所は吹き飛ばされ、絶えず鉛の雨が降る恐怖。
一同、歩兵の敵の相手も最小限に、命からがらフードコートの係員通路に飛び込む事に成功した頃には、
春の陽気を恨めしく思う程に汗をかき、息を切らしていた。
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『地下3階には行かせるな!』『入口で食い止めろ!! 守備に能力者を周せ!』
「‥なるほど。地下3階にいるんだな?」
ウェルが敵から拝借していた無線から、ノイズ音に埋もれて貴重な情報が漏れてきた。
急いで降りて廊下を見やれば、飲兵衛が敵を組み伏せ銃口を当て、凛生と雅が両開きのドアに張っているのを見つけた。
「向こうも構えているだろう、油断するな」
凛生が親指でドアを指さし、閃光手榴弾のピンを抜く。
どうやらこの奥が首謀者の居場所らしい。9人で突撃するには多いので、雅と狂津輝が廊下の警戒に周り、ドアの向こうに眩い光が弾けた刹那、
傭兵達が部屋の中へと雪崩れ込んだ。
一番に飛び込んだ凛生が、ドアの両側で構えていた敵へ、両手を左右に伸ばし、それぞれマモンとラグエルの洗礼を浴びせる。
思い切り光を目に焼き付けてしまった室内の男達は、ほぼ奇襲に対処出来ずにいた。
部屋の隅で、銃を苦し紛れに乱射する男がいたが、舞うように弾を避け、歩み寄るウェルにあっさり意識を落とされてしまう。ドアの外では、狂津輝が近づく敵を片っ端から、竜の咆哮を乗せて弾き飛ばしていた。
「首領発見、かな‥!」
少し後ろから入ったレオは、素顔を晒した、首謀者らしき敵を相手どる事となった。
致命傷にならぬよう、ソニックブームを足元へ放ち態勢を崩した所へ、刀の峰を思い切り腹へ沈める。
「‥あ、れ?」
後ろでエイミがロケットパンチを構えて居たのに気付いたので、トドメを任せ次の敵へ向かおうとしたが、
首謀者らしきその男は、レオの峰打ち一撃で意識を失ってしまった。
思いがけぬ呆気なさには多少困惑したものの、その男が動かなくなると、残りの敵も動かなくなり、必然的に傭兵達も戦う手を止めたのだった。
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園内放送で敵に投降を投げかけると、意外にも素直に応じる者が多かった。
逆上し暴れ出す者も、投降した敵の有志が諌め、武装解除を促していると言う。
「逃げる人にまで銃ぶっ放しといて、何がしたいの?」
「親バグアになるからには、それなりの覚悟ができてるってことだろう?恨みっこなしだぜ」
園の正門前広場にて、連行してきた首謀者を見張る傭兵達。
宗教と同じ、誰が何信じてようが僕にはどうでもいいと言うレオと、凛生が、後ろ手に縛られ座っている男へ声をかけた。
無念そうに首を振り、やがて深い息を吐くと、二人を見上げ、言葉を紡ぎ出す。
「私は別に、バグアに理解を示したつもりは少しもない‥実は、すんなり取り入れてもらって、そこからバグアどもへ復讐を果たすつもりだった‥」
緊張が解けたのだろう。自責の念か、悔恨か、男は少しずつ、嗚咽交じりに言葉を続ける。
「軍人にもしもは禁物だが‥もし、私が能力者だったのなら‥もし、私が少しでも抵抗して、あのままバグアに殺されたのなら‥もし、私があそこで、妻をヨリシロにされなかっのなたら‥こんなことはしなかったんだ‥」
は、と息を飲む凛生。人には人の考えや事情があるゆえ、それを否定はしない。だが、否定もしないが容赦もしない彼は
今ここに、自身とほとんど同じ境遇の男を、目の前にしていたのだった。
同情か、励ましか、だが起こした事実に目を瞑る事は出来ず、複雑な思考の中、男の肩に手を乗せると、
「ただ‥ここに来てた人達は、少なくとも死にたいなんて誰も思ってなかったはずだよ」
レオが、言葉を続けた。
その一言に、男は何か恐ろしいものでも見たような表情になり、声にならないような声で叫び、
そして、少しずつ涙で地面を濡らしていった。
「そのまま動くな」
「ん‥!?」
飲兵衛が仕事納めの一服をしていた所へ、雅が近づく。
指で拳銃を形どって脅した後、そのまま自分の咥えた煙草を、飲兵衛の煙草の先へ当て、火を奪った。
「すまんな、丁度切らしていたんだ」
言ってくれれば‥とライターを出す飲兵衛に、面倒だった、と返す雅。
その後ろから、ベンチに座ったウェルの頭に顎を乗せるよう、後ろからハグしてまったりしていたエイミが声をかける。
「ショッピングモールで、最後にお菓子の許可くれたの‥雅さんでした?」
「‥あぁ、あの時も協力してくれたのか。感謝する。だが、それは恐らく俺の‥」
部下のような下僕だ、と返しながら不敵に笑う雅に、エイミとウェルはただ苦笑するしかなかった。
「内輪揉めしてる状況じゃないってのにな‥」
「全くだ。だが、全員が全員、YESと言う、そんな世界もありはしない。バグアの有無関係無しに、人間なんていつでもそんなもの、だ」
昇る紫煙をそこはかとなく見つめ、見放したようにも聞こえる言い方で、雅は呟くのだった。