●リプレイ本文
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咲いた桜も思わず蕾を閉じそうな程、冷えた空気が体を撫でる。
桜の木陰に揺れる提灯と、その下の軒を連ねる屋台たちは、好奇心と鼻孔をくすぐる。
その中のひとつ、炭火がぱちぱちと暖かい音を立てる屋台の中には、1人の女性が立っていた。
タックプリーツのふわんと広がる上品なフレアーシルエットは実に女性的なラインを現し、
白地に黒、ピンク縞の誂えられた春らしい7分袖、少し大人らしさを演出するグレーストールは肩に羽織り、
そんな春の大人の女を、ミステリアスに前掛けエプロンが隠してしまうのがまた彼女への興味をそそられる。
「はい、焼きたては熱いから気を付けてね」
百地・悠季(
ga8270)が小さな女の子に声をかけて、小豆餡の串団子を渡してあげる。
屋台の周りには、香ばしく焼けた団子の香りと、
甘辛・きな粉・小豆餡・ゴマ・インゲン餡・大根おろし醤油などのタレ、
食欲を駆り立てるバリエーションの鮮やかさに、花見客はかなりの人数が集まっていた。
「お代は安いわよー」
手軽に食べれてお値段もお手軽、そして何より悠季が店頭に立つというのが一番の客引きかも知れない。
男はもちろんだったが、それすら関係なく火の前であくせく甲斐甲斐しい悠季には惹かれていくのだろう。
客層も子供から大人、仲良さそうに手を繋ぐカップルや、手にエミタを付けるもの、排除した手術痕を足に残し、車椅子を押してもらう元能力者。
―――能力者。
(あたし自身『今』はまだ兆候が見られないけど‥‥)
戦争が終わり、落ち着くにはそれなりの時間が経っていた。
能力者、非能力者、混合した生活、コミュニティが形成されるのも、自然の光景となっていた。
(数週間も経てば懐かしき味覚の変化が訪れるのを確信できる。だから――)
「こうして屋台活動できるのは今の内なのよね」
「ん? お姉さんなんて?」
「いーえ、こちらの話」
ふふ、微笑みながら、団子を一つ多めに串に刺して、お客に渡す。
だからこそ精一杯楽しんで皆と一緒に思い出の一つとなれたら良いのよね、と、
揺れる桜のカーテンの向こうで、種々の見物客を眺めながら、悠季が心の中で呟いた。
美味しそうに自分の団子を食べていく客を見ながら、自分の小腹もぐずりだす。
良い照りを見せるみたらしをひとつ、パクつく。うん、甘辛加減はちょうど良し。
口に広がる納得の味に思わず目を瞑りうなずいた。
だが‥‥
風上から、熱く焼けた脂の良い匂いが流れてくる。
そして団子だけで甘ったるくなった口と胃袋をくすぐってくる、ソースの香り。
「‥‥うん」
何を思ったか、自分で頷くと、焼けるだけの団子を焼いて並べたら、
食欲を容赦なく刺激してくる匂いの元へと、団子のパックを持って歩き出していた。
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時間もちょうどお昼に差し掛かった頃。
お好み焼きやイカ焼き、ケバブにじゃがバタといったいわゆる惣菜系の屋台に行列が出始めた。
たくさんの袋とパックを抱えて歩く人、桜の下で座ってゆっくり団らんする人、
やはり美味しいものと一緒に家族や友人と過ごす時間こそもっとも華が咲く時なのだろう。
そんな中、次々と客をさばいている焼きそばの屋台が目に留まる。
鉄板の前で一生懸命ヘラを動かし、パックに詰めてはお客に渡すのは一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)
その隣では、神妙な面持ちの少女。
「藍風流‥‥八封七覆陣!」」
耳を掠めただけで斬れてしまいそうな、透き通った声の後、懐から繰り出される手が
幾迅もの風を巻き起こしてゆく。
風に巻きこまれた哀れな肉は、細切れに切り刻まれ原型をとどめず宙から落ちる。
業火の如く熱くなった鉄板の上に落ちた肉は、すぐに色が変わり実に野趣的な香りをあげ、
それをキャベツや人参といったみずみずしい野菜が優しく包み込み、
仕上げにスパイスと微かなフルーツの香りが実にたまらない特製ソースがねっとりと絡みつき、
湯気を立てたままパックに放り込まれていった。
「悪いわね、手伝わせちゃって」
「いいのですよー。あんなあぶなっかしいおねーさんみかけたら、おてつだいせずにはいられないのですー♪」
割烹着姿の藍風 耶子が下からによっと笑って見れば、
蒼子はうぐっ、と気まずそうに眼を逸らす。
顔なじみに会うついでに、と参加した屋台。
最初こそ悪戦苦闘し、生焼けと油ハネに四苦八苦だったが、
出店リストを見て立ち寄った耶子が、手を出さずにはいられなくなった、という現状だ。
後で顔を出す予定ではあったが、思いがけず肩を並べることになった客人に、
蒼子も心の中で微笑ながら、目の前のお客様に向き合っていた。
「そういえばこの手の依頼って少なくなったわよね‥‥」
「にゃ?」
ねこの手を向ける耶子に、蒼子が苦笑して三角巾で隠れた猫の額をつっつく。
「こういう、出店の出店とか、パーティとか、そういった感じの‥‥慰安系っていうのかしら」
「イアンはコーセキやドリョクがあってこそですからねー」
「バグアとの決着がついたら逆に寂しくなるってのも皮肉な話よね‥‥」
ほんとうはそれでいいんですけどねー、と聞こえた隣に視線を向ければ、
大人びたことを言う少女はつまみぐいした肉の美味しさに小躍りしていた。
「おいしくできてるですねー♪」
「おかげさまね。でも、そろそろ甘いものも食べたくなってくるかしら‥‥」
藍風さんといると余計に、と言ったところで、目の前にパックの串団子がとすっと置かれる。
「美味しいものはお互いにご馳走様ね」
意味ありげに微笑んで差し入れる悠季に、蒼子と耶子はもちろん、っといった形で喜んで焼きそばを差し出した。
しばしお互いの成果に舌鼓を打っていた頃、客の喧騒がなにやらざわつきへと変わっていくのを感じる。
「おい、向こうのたこ焼き屋すげーぞ」
「カメラもってけカメラ!」
「あのおねーさん、いいなぁ‥‥」
「あのおにーさんは、いいや‥‥」
口々に通行人から漏れてくる言葉に、悠季達が首をかしげる。
「そんなに面白そうな屋台、あったかしら‥‥?」
空のパックを綺麗にしまってから、耶子の出店リストを覗き込む。
「方向てきには、もしかするとー‥‥」
「‥‥嫌な予感しかしないけど、一応、見にいってみるのもいんじゃないかしら」
頬をかきながら言う蒼子、耶子が焼きそばのパックを袋に詰めてから、
客の流れに身を任せるように、3人は桜の下を歩きだした。
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人並みを縫うように舞い散る桜。
うごめく人の壁の向こうでは、ひとつの小さなたこ焼き屋台があった。
それはいたって普通の(もちろん味は絶品だったが)屋台とそこまで変わりはなく見える。
店員の、その恰好を除いては―――
ここで、時間は少し遡る。
朝方の澄んだ空気と桜の優しい香りを胸いっぱいに吸い込んで、
先を行く弓亜 石榴(
ga0468)と、その後ろを石動 小夜子(
ga0121)がついてゆく。
石榴が持つ旗には、たこ焼き屋さんと‥‥否、魔法のたこ焼きやさんと描かれている。
「あの‥‥本当にこれ、使うんですか‥‥?」
屋台の設営、幟を結びながら小夜子が言う。
背伸びして高所の紐を結わけば、胸元が豊かに主張する。
通行人の視線に慌てて体を屈めると、その視線の先には、段ボール。衣装入り。
‥‥衣装。
「ふっふっふ、万事問題無し。まぁ私に任せなさいっ♪」
たこ焼き器に油を敷きながら、不敵な笑みでにやける石榴。
そこへちょうど、ひょっこりと二つの人影が顔を出した。
「はーい、おつかれさまっ」
春の陽気に自然と足取りも浮かれている、柚木 蜜柑とその横で涼しい顔をしている井上 雅。
二人がここに立ち寄ったのは偶然ではない、予め、石榴によって呼び出されていたのだ。
何か手伝って欲しいのかしら―――そう蜜柑の言葉が口をつく前に、
石榴は二つの衣装を二人に持たせていた。
「断る」
「まだ何も言ってないよ?」
不穏な空気と感触を感じ取った雅に、石榴がじりじりと詰め寄る。
「そう‥‥初夢で見たんだ。二人が協力してくれれば、何か凄い事が出来る、って!」
「夢‥‥?」
「大丈夫! 初夢曰く、この扮装なら大儲け間違いなしだって!」
「何が大丈夫なんだ」
「ダイジョーブ! 私もシスター風衣装を着るから!」
「全く等価な条件ではないな。蜜柑、帰るぞ」
呆れたように溜息を吐いて、隣の友人の腕を引っ張る雅。
だが、その腕は、足は、その場で固まり動かない。
「‥‥蜜柑?」
「のんのん。私はぷりてぃーきゅーとな蜜柑ちゃんなんかではありません」
「は?」
固まる雅と、動き出す蜜柑。
試着のように目の前で衣装を持って、ばきゅーん☆とポップでキューティーな決めポーズ
「今の私はーーーー‥‥! へぶんりーしょくにん・マジカル☆テキヤ、ミカン!
大人しく食べてかないと、あんたの鎖骨をフライドチキンにしちゃうぞっ☆」
そして決めポーズ。心なしか背景でどかーんと爆発があったようにも見える。
「頭がどうかしたのか蜜柑」
「いえ、至って正常よ。でもね、雅‥‥不思議と、私も、これで売れる。そんな感じが‥‥するの」
実は、自分も心のどこかでは‥‥そんなこと、口が裂けても言えなかった。
デジャヴや運命を信じる柄ではないし、そもそもとしてこのコスチュームがない。
でも、だが、心のどこかで、確かに、引っかかるのだ。
「小夜子も何か言ってくれないか」
「恥ずかしいですけど‥‥引き受けてしまったものは仕方がない、です」
退路は断たれた。
「ダメですか‥‥?」
上目使い、涙目、ミニスカシスターの3点コンボで雅に迫る石榴。
これは、色に惑わされたのではない。首肯した方がこの面倒から早めに脱出できると思ったからだ。
そう、自分に言い聞かせる。
そして首を動かすや否や、小夜子が後ろに回り、衣装を持って、雅の袖を促すのだった。
―――そして時間は巻き戻り。
「買え。買わなければ撃つ」
「そんな売り込み、初めて聞いたわ‥‥」
蒼子の前に、ズーンと佇むみにすか魔法少女・みやびん。
蒼子もそれなりの身長ではあるが、雅が上から影のかかった目で見降ろして、
ぷるぷると顔のスジと腕を振るわせながら、たこ焼きの試食を手に持っている。
今、ひとひらの花弁が、魔法少女のすね毛にぷすりと刺さった。
「わー、かわいいですよー♪」
「よせ」
「写真に収めておくべきかしら」
「やめてくれ」
きゃっきゃと騒ぐ耶子の横で、残念そうな顔で携帯をしまう悠季。
何気なく口に含んだたこ焼きは、ごろりと大きめの具で食べごたえがあり、
焼きそばとは違った鰹節と青のり、たこ、海鮮のうま味がすーっと抜けていくのが実に美味だった。
「はい、熱いから気を付けて食べてくださいね‥‥」
小夜子が子供の視線に合わせて、お店の前でたこ焼きを渡す。
小さなお友達から大きなお友達まで集まってきているこのたこ焼き屋は、
実に盛況な店舗となっていた。
「柚木さーん、井上さーん、小夜子さんのところへ集まってー、さん、はいっ♪」
『まじかる・まーしなりーず☆』
どどーん、とラジカセから効果音が流れて、3人が店の前でポーズをとる。
いかがわしくならないように、と蜜柑の足の角度をくいっと少し修正する。
「ノリノリですー♪」
「ころしてくれ」
小さな子供に混じって拍手をする耶子と、もう既に目が白い雅。
そしてまーしなりーずご指名でたこ焼きを焼いてもらったり、
受け渡してもらうお客が増えること増えること。
悠季もさりげなく屋台に入って、はふはふとつまんでは手伝っている。
「神のご加護がありますように」
「すくわれたよ‥‥足元をな」
こうして、賑やかな屋台は桜に負けない昼時の華となっていったのだった。
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夜は更け、夜桜も闇に溶けてきた頃、
灯りも、熱も、屋台も、徐々に幕を引き始めていた。
「酒のアテになるといいけど」
缶ビールを傾けて一息ついていた蜜柑に、蒼子が自分のところの焼きそばを差し出す。
「上等っ♪ ありがとー」
代わりに、と蜜柑は缶チューハイを差出し、労いの乾杯をする。
頬を微かに赤くし、嬉しそうに焼きそばをすする蜜柑の横顔を、なんとなしに眺める蒼子。
思えば、蜜柑とこういう風にゆっくり腰を据えたことはあまりなかったかもしれない。
『「‥‥コンプレックスなんだよ、『持たざる者』であることが」 』
ふと、蜜柑について言及した、雅の言葉を思い出す。
以前、能力者が問題を起こしたという依頼でも、どこか取り乱しそうな、
落ち着かない様子を見せていた。
―――コンプレックス。
普段から慣れ親しんでいるこの能力ゆえに、改めて、意識しなければなかなか気づかないこともある。
かつては自分もそうだったはずなのに。
「気になる?」
自分のエミタを無意識になぞっていた蒼子に、蜜柑が声をかける。
「ぁ、いえ、野暮でしょ、こんな席で」
「んー、そうね。じゃあ独り言」
わざとらしくそっぽを向いて、蜜柑がひとりごちる。
「最初は羨ましいな、って思ってた。単純に出来る事が増える、強くなるってのもそうだけど、それだけじゃなくて。助けられる人が増える、沢山の人に手を伸ばすことが出来るってこと。
でも、それはただの言い訳だなって。隣の芝生が青く見えただけなの。自分のいる所で、自分が出来る事を最大限やってから――そうじゃないと、カッコ悪いなって」
ぽつ、ぽつ、と喋りながら、酒をちびりちびりと飲んでいく蜜柑。
「だ、か、ら、もうかーんぜんに吹っ切れてるの。私は私のフィールドで、これからも頑張っていくわよっ」
だからヨロシクね、と差し出す手に、蒼子もぎこちなく、そして握ってからは、力強く応えてみせた。
「蜜柑、トラックの鍵を貸してくれないか」
ほとんどの機材を積み込んだ雅と耶子が、2人へ近づいてきて声をかける。
「まったく‥‥井上さんはともかく、藍風さんまで黙ってLHを離れることないじゃない。水臭いわよ?」
「‥‥酔うには、早くないか?」
少し据わった目で、雅と耶子に言う蒼子。
「ゴメンナサイですよー‥‥根無し草がながかったものですから、ついー」
「とはいっても、もう随分長い付き合いなんだから‥‥気にかけてくれたっていいじゃない」
「そうですよねー、イロイロしましたよねー」
「KVにも乗ったし、熱い中補給部隊にもなったし、色んな戦地を共にして‥‥」
「おいしいものもいっしょにいっぱいたべにいきましたー」
「そうね、藍風さんと一緒にいくと、本当に楽しくて‥‥」
零れる思い出の数々、そして、溢れてくるのは―――
言葉が詰まり、か細く絞ったような声になってしまう。
何故だろう、と思う前に、耶子の藍色の手拭いが、暖かくなっていた目尻を拭っていた。
「ふふー、蒼子さんないてます?」
「な、泣いてないわよっ! ただ、その‥‥あれよ、花粉が目に入っただけなんだからっ!」
「じゃあ、シアワセがこぼれてる、ですよー」
落ちないように優しく受け止めてゆく耶子。
そんな健気な少女の体躯を、思わずそっと抱きしめる。
「わ‥‥」
「ありがとう、藍風さん」
「んー‥‥? どうしたんですかー?」
耳元にかぶる、濡れた吐息と、掠れた声に、思わず蒼子の頭をなでる耶子。
しばらく、そのままの時間が流れていた。
耶子の隣の小さな震えが収まってきたあたりで、また優しい声色が耳に戻ってきた。
「藍風さんの『帰る場所』‥‥見つかることを祈ってるわ」
「‥‥ありがとですよー」
言葉はシンプルに、でも 気持ちは行動で、小さな体で一生懸命伝える。
「藍風さんが旅に出たから食べ歩き友達がいなくなっちゃってね。美味しいお店見つけておくから‥‥また機会があれば付き合ってもらえる?」
「もちろんですよー‥‥つらくなったり、つかれちゃったりしたら『帰って』きても、いいですかー‥‥?」
もちろんよ、と笑って答える蒼子の顔は、今まで見た事がないほどに、
朝露の添えられた咲き誇る桜の如く、晴れやかな笑顔だった。
初夢の予言を信じたおかげか、実に良い売上をたたき出したまじかる・まーせなりーずたこ焼き店。
ほくほくとお金を数えている石榴のところへ小夜子が暖かい飲み物を置いて労う。
「石榴さん」
「あ、お疲れ様、小夜子さん♪」
それだけで、不思議な沈黙が流れる。
だが、それはあくまで第三者的に見たらであり、
二人の間では、何もない、それすら心地よいぐらいの信頼が既にあるのだ。
『「石榴さん」「小夜子さん」』
何気なく出た言葉が、お互いの名前を呼びシンクロする。
「ん? お先にどうぞ」
「あ、いえ‥‥石榴さんこそ‥‥」
譲り合いがくすぐったいような心地よさ。
そして、どちらからともなく、小夜子の方から口を開く。
「これまでありがとうございました、と‥‥これからもよろしくお願いします、ですね」
少し頬を赤らめて、そしてしっかりと言葉にする小夜子。
その言葉を聞いて、きょとん、とする石榴。
「あ、あの‥‥私、何か変な事‥‥」
「違うよ、驚いちゃって」
あはは、と笑ってペンを置く石榴。
「私も、同じこと言おうと思ってたんだよ。今までありがとう、と。これからもよろしくね♪」
にこっと笑って返す石榴。
(気の利いた言葉は無くても、小夜子さんには通じるって、私は知ってるから大丈夫♪)
それに、しんみりするのは私と小夜子さんには似合わない、と伝えない、言葉にしないことが美徳となる信頼の仲。
この屈託のない笑顔に、小夜子はずっと支えられてきたのだ。
そして、これからもずっと―――昔から一緒だった石榴さんとなら、きっとこれからも頑張れる、と。
「私達にはやっぱり、楽しく賑やかに過ごすのがぴったりだよ♪」
「ふふ‥‥きっと私と石榴さんなら『だいせんじがけだらなよさ』とはならないです、よね‥‥」
言葉の通り、巡り廻っても、別れがあっても、それだけでは終わらない歩みを。
「さーて、じゃあ今日の記念に写真でもとりますかっ♪ もちろんもう一度まじかるな衣装でっ☆」
「百地、ゴミを早くトラックに積んでくれ。一刻も早くこの場を去りたい」
「あら、残念。ちょっと重くて時間がかかりそう」
周囲を綺麗に片づけていた悠季が、わざとらしく重そうに地面に置いたゴミ袋を持ってみせる。
諦めろと運転席のドアに寄りかかる蜜柑、溜息を吐く雅。
思い出は、振り返るものばかりではない。意識して、築き上げていくものも、また思い出であるべきだろう。
過ぎていくものは、消えていくのではない。ただ、そこに残っているだけなのだ。
ならば、沢山の思い出を、残して行こう。そして、誰か一人でも、忘れないでいよう。
そうすれば、思い出は生き続ける。
これからも、ずっと。