タイトル:【決戦】煌めきの海マスター:墨上 古流人

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/09 05:18

●オープニング本文



 溶接か切断か、懸命な鋭い機械音がそこらじゅうでで響いている。
 僅かな合間では、慌ただしい足音と、現場監督の部下を急かすがなぐり声が聞こえてきた。
 真新しいオイルの匂いと重たい程の熱気が、広い空間一帯を支配していた。

「‥‥空調は、効いてないのか」
 ダークのスーツはさすがに上を脱ぎ、シャツをゆるめて顔をしかめる男、井上 雅。
 すでにぬるくなった結露だらけの缶コーヒーを一気にあおってから、一息を吐く。

「これでも効いてる方なのよ。でもみんな張り切っちゃってるから、そんなん気にも留めず目の前のものに大忙し、ってワケよ」
 オペレーターの制服をだらしなく腕まくりし、ラフな格好で端末をいぢっているのは柚木 蜜柑。
 二人の目の前には、黒くて大きな壁――――否、装甲。
 アリのように群がり熱心に作業を進める人々の前には、ユニヴァースナイト参番艦 轟竜號が威風堂々と鎮座しているのだった。

 轟竜號がいるのはインド南部の港町、ゴア。
 15世紀頃、ポルトガルのアジアにおける貿易拠点として繁栄を極めていたこの街は、
 そのヨーロッパ風の街並みの美しさから、東方一の貴婦人、と讃えられていた。
 今までの戦争のせいで、その美人を見る影というのはだいぶ無くなってしまったが、、
 港の拠点だけは時に傷つきながらも軍事という使命を加えながら発達を続けていた。
 そしてそんな港のドックに、先の戦いの修理と整備をすべく、轟竜號は立ち寄っていたのだ。

「この街を選んだのには他にも理由があるんだけどねっ」
「聞かせてくれ」
「今回、轟竜號は大型ブースターってのをがっつり取りつけていくわけだけど―――」

 多目的巨大潜水艦と称されるUK3。
 小さな島が動いているとも形容されるその巨体ゆえに、今まで宇宙での戦闘に投入されることはなかった。
 だが、この月面の戦いにおいて、UPC軍は永きに渡る戦いの終結を感じ取っていた。
 防戦傾向にあるバグアをたたみかけるべく、ここで轟竜號の使用が決定されたのだった。
 轟竜號のその大きさから、浮上する為には相当の距離と、付近に島等が無い場所への移動が想定される。
 そこで、インド洋南部沖がポイントとして見繕われたのだった。

「あの辺りは確か、軌道エレベーターの候補にもあがっていたか」
「そうそう、だからって事でもないけど、こと轟竜號にとってはおあつらえ向きな場所かなって」
 近くにあった機材の箱に腰を降ろし、パタパタと胸元を仰ぐ蜜柑。
 まったくと言っていいほどそんな色香には反応せず、雅は端末をひったくり作戦概要を読み始める。

「俺達の担当は、ゴアから出発し、インド洋南部沖で浮上するまで海上護衛‥‥か」
「うん。深海は別班が担当するから、こっちに集まってる人達は、海上。浮上してからの高高度と、宇宙に出てからはまた別の担当がいるからねっ」
「当たり前ではあるが、かなり大がかりな作戦だな」
「絶対成功させたいことだもの。だからこそ、バグアからの妨害は相当なものになるはずよ」
「了解だ。しかし、本当にでかいなUK3は‥‥ちょっと移動するにも一苦労だ」
「轟竜號」
「ん? だからUK‥‥」
「轟竜號って言ってよっ! せっかくこう、浪漫溢れる名前があるんだからさっ!」
「‥‥どちらでも意味は同じだろう」
「その発言っ! あんた轟竜號に失礼だと思わないのっ!? こんなにもでかくて威厳があって文字通り以上の超弩級艦なのよっ! これ程までに人類の希望を背負って宇宙の彼方を遥々臨むのにふさわしい艦があると思うっ?!」
 サウナのように喉が焼けそうな暑さにも関わらず、まくしたてるように熱弁を奮う蜜柑。
 そうだな、と、辟易とした顔で適当に流してから、端末を返すとその場を離れようとする雅。
 冷たいんだから、とため息をついてから、蜜柑がその後を追う。

「私達のこの作戦が、人類の勝利への発射台となるのよっ。光栄な作戦でしょ」
「光栄かと言われると‥‥な。名誉や評価に興味はない」
 ドックの隅、簡素な休憩所で煙草を取り出してからライターを数度擦る。

「だが‥‥悪くない。この、戦いの終止符の礎となれるなら、やりがいも出ると言うものだ」
「‥‥やっぱり、あんた、変わったわよね」
 買ったばかりの冷たい缶コーヒーを額に当てながら、隣の雅を仰ぎ見る蜜柑。

「そんなに熱い闘志を隠し持つ男じゃなかったような気がするんだけどなー」
「バグアとエミタで、戦争は変わった。だが、戦争が人を変えるのは、どの文明のどの時代だろうと不変だ」
 ホルスターの上から銃の存在を確かめる。護るべき存在を、視界に巨大な轟竜號を捉えてなおその先へ見る。

「良い方に、変わっていくといいんだがな」
「変わったあんたなら、きっと同じ事、人とか世界に出来るわよ」
 立ち上る紫煙が、壁の上の換気扇から抜けてゆく。
 轟竜號は、人類の希望を背負って飛び立つその時を、唯々着々と構えて待っていた。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA

●リプレイ本文


「こいつが宇宙に行くとはねぇ‥‥絶対に守り切って、次に繋げないとな」
 遠く、深く、紺青が広がるインド海を豪快に断ち切って航進する黒き巨魁、UK3―――轟竜號。
 那月 ケイ(gc4469)のパラディンが甲板から艦橋を見上げる。
 外部カメラをなでる潮風をモニターで感じながら、目に力を込めた。

(人類の勝利への発射台、か。そういうのも悪くはないわね)
 一ヶ瀬 蒼子(gc4104)が風を切るヴァダーナフのコクピットから、眼下のUK3を見て思う。
 轟竜號が潜水母艦としての機能を果たしていた頃に、この艦の護衛に就いたことがある―――とは彼女の談。
 そして今回の護衛も何かの縁かと感じていたそうだ。
 
(ま、こんなクサいセリフ、柚木さんのようにおおっぴらには口には出せないけど‥‥)
『んー? なーんか2時の方向から何かの気配を感じるなー? 敵影はないけど‥‥』
 その2時の方向にいた蒼子がドキッと小さく体をすくませる。
 轟竜號の中にいた蜜柑からの無線が偶然か、野生の勘か。

『残り時間、轟竜號の打ち上げまで護れば良い、って事だよね』
 弓亜 石榴(ga0468)がオウガの中でレーダーと進路、時間を確認する。

「飛べるならいつまでだっていいさ」
 ソーニャ(gb5824)が愛機のロビン――エルシアンを駆りぽそりと呟く。

『飛べるならどこにでも行くし、なんでもするよ。あいてがバグアだろうが、人間だろうが』
 ふわりと羽のように握る操縦桿、軌道は気まぐれのようでいて、
 大樹に寄り添う小鳥のようにUK3の周りを飛んでいた。

『小夜子さんはよろしくね。お互い無理し過ぎない様にがんばろ』 
『ふふ‥‥一緒に頑張りましょうね。決戦に使う大事な船ですもの、無事に宇宙へ送り届けたい、です』
 石動 小夜子(ga0121)がコクピットのガラス越しに友人の石榴へと目を合わせる。

『雅さんがKVに‥‥珍しい。と言うか似合わ‥‥『何か言ったか?』
 いえ、何も。とシュテルンの中でほほ笑む立花 零次(gc6227)と、リンクスの画面の倍率をあげて警戒する覗く井上 雅。
『まぁ、私も人の事は言えませんが、銃の腕前は存じておりますし、頼りにさせていただきますね』
『任せろ。KVだろうと生身だろうと、スコープの中で1秒と生かすことはない』
 計器とレーダー、そして肉眼で警戒を続けていると、突如全員のコクピットにポップ音が短く響く。

『敵襲です、正面から、海、空、同時に多数来ます‥‥!』
 小夜子のデータがいきわたると、そこには魚群の如き赤い点滅の密集がレーダーに反映される。
 間髪入れずに耳に飛び込むポップ音――ロックオン・アラート。
 回避し後方で爆発する敵のミサイルが、宇宙に向かう轟竜號のゴングとなった。


 水面を滑り、白い軌道を描きながら接近してくるゴーレム。
 ミサイルや粒子光の塊を撃ち込んでくるが、ゴーレムの数よりも攻撃が多い。
『海上からの長距離砲撃‥‥来ます!』
 素早く接近してくるゴーレムの後ろ、レーダーのギリギリの範囲内には、
 水上からプロトン砲、収束フェザー砲、様々な猟奇的な彩の光がUK3へと飛び込んできた。
 小夜子が急ぎリンクすると、ソーニャが飛び出し、石榴が後を追う。
 飛び込んでくる銃弾やミサイルに対して、機体を傾けて交わし、警告音の感覚が短くなれば、
 被弾しないようマイクロブースターでスピードを上げて回避。
 画面内をうごめく多数のレティクルを目で追い―――トリガー。
 海面に浴びせられるミサイルに何体もの亀が沈み、砲身は折れ、黒い煙が立ち上った。

『追わせない!』
 スピードを上げて離脱するソーニャを狙う幾つもの銃口、
 向きを変えたゴーレムや亀に向けて空からバルカンを叩きつけるように放つ石榴。
 海面を揺らされ、銃口をそらされと狙いを阻まれる敵の砲撃があっちこっちへと入り乱れていく。
 操縦桿を思い切り引き、機首を上に。めきめきと機体が悲鳴をあげながらスピードを上げると、
 突如前方に現れる龍型キメラ。急ぎ操縦桿を倒し、同時にトリガー。
 数本のレーザーが龍の羽根を焼くと、風をあおれなくなった龍はバランスを崩して海へと落ちていく。
 小夜子が石榴のレーダーに退路を展開、光るルートに沿って機体を動かしていった。
 
 だが、その後ろ姿を追いかける目、そして開かれた口。
 堕ちた龍は亀の上に体を倒し、震えながら懸命に口の中で焔を燃やし、それを石榴機のバーナーへ―――

 鋭い音と共に、首が爆ぜる。
 行き場を無くした炎は首の破れた穴から漏れ出し、その場でキメラの身を燃やす。
『沈黙確認、次のターゲットに移る』
 雅が最大倍率の画面の中で焼け落ちるキメラを確認、目線だけレーダーに向け、淡々と計器を操作する。
 その背中には、ケイのパラディン。
 ゴーレム達の陰に紛れて甲板に顔を覗かせる龍型を、次々と獅子王で切り伏せる。
 取りこぼした分を、甲板上をまるでKVがすり足でもしてるかのように滑らかに飛行してくる零次。
 斜線を確保、ぶれの少ないレティクル内に敵を収め―――トリガー。
 ガトリングで身をずたずたに引き裂かれた龍は、甲板に爪痕を引いて海へと落ちてゆく。
『損傷軽微、いけるわよっ!』
『軽微‥‥? そんなの‥‥!』
 守るからには、傷つけない。
 近づいてくるゴーレムに背中を取らせない、ドッグファイトはもどかしい。
 射程内に入ると同時にバルカン、そして敵が回避した先には、既に用意していた別の照準が画面内で展開していて―――
 モニターの中、静かに水面へと倒れるゴーレム。まるでそれが決まっていたかのように。
 近づいてくる敵をとにかく相手どり『攻めによる守り』を確立していた。

『これは‥‥迎撃対象確認。データを送ります!』
 約半分近くを減らしたところで、新たな敵の報告。
 レーダーを確認するまでもなく、コクピットガラス越しに遠くの空を見るとわかる。
 それは、隠す気もなく悠々と空を飛ぶビッグフィッシュ、そしてその周りに親衛隊の如く張り付くHWとタロスの群れだった。


『管制役だと思われたかしら‥‥小夜子にロック多数! 気を付けて!』
 艦橋の蜜柑から全員に通信が入る。
 急ぎキーの上をせわしなく指が走る。ロータス・クイーンが乱暴な音をたててフル稼働し、
 機体の性能を向上させる。緊急ブースターでスライドすると、コクピット横を眩い紅光が掠め、槍の様なフェザー砲が空を焼く。
 距離を詰めて槍を構えるタロスへ向けて、祈るように引き金を三回。
 鋭いレーザーがばら撒かれると、数本が空に張り付けるようにタロスの腕を穿つ。
 もう片方の手へ飛び込む無数の弾幕。石榴のガトリングがタロスの腕を払い除けて矛先を逸らす。
 その隙に小夜子が距離を取る。BFに決定打が入るかはわからない、が、露払いができるのなら―――
『ロックオン完了、いきます‥‥!』
 進路がクリアになると、GP−7ミサイルポッドのロックを解除。
 無慈悲に炸裂するプラズマに合わせて石榴もAAMを発射、ダメージが重なり亀裂の入った装甲へ衝撃がもぐりこむ。
 濁った爆炎から生み落とされるよう、タロスは真っ逆さまに落ちて行った。

 それでも尚接近するBFとその一団に、蒼子がGP−9のポッドを解放。
 ミサイル、レーザー、持ちうる限りの全ての火器を放ち接近を拒み、高速のミサイルとプロトン砲のクロスカウンターが展開する。
 揺れるコクピット内にて、盾の如くどうにか操縦桿を抑えつける。

 その攻撃の狭間をソーニャが隼のようなスピードと、燕のような細かい軌道で、鉄の翼を広げ舞う。
 だが、雲のように前方で溢れかえる敵の群れ。敵機からのロックが豪雨のようにアラートを告げる―――
「エルシアンならやれる‥‥エルシアン! 行くよ!」
 コクピットで全ての兵装の火器管制が働き、画面上に大小様々な種類の照準が踊り、一つ一つ目で追い確認、修正。
 タロスのミサイルとほぼ同時に、倍以上のミサイルを展開するソーニャ。荒れ踊るミサイル、幾重もの光
 操縦桿をねじ切るように捻り、ミサイルで螺旋の軌道を描く。
 衝撃に機体が揺れ、壁のように前方に広がる爆煙を突き破ると、口をあけたBFへレーザーを叩き込む。
 巨人型等うごめくものが、内部の爆弾に引火したことにより滝の如く吐き出される。
 まともに喰らったBFも細かく震える挙動を見せながら宙にて装甲が瓦解していった。

『もう一匹が近づいてるわ!』
『承知しました、攻撃を合わせましょう』
 零次と蒼子がBFに狙いを定める。シュテルンの翼はまるでアイアンサイトのように真っ直ぐ伸び、
 ヴァダーナフのアセンションは既にアクチュエーターを鋭い音でフル稼働させている。
 タロスとHWが間に割り込むが、零次が操縦桿を勢いよく押し込む、Gが頭に上ってゆくのを感じながら、機首を上に。
 零次のミサイルと、蒼子のロケット弾による十字砲火がBFに突き刺さり、
 BFは黒煙を上げて高度を下げながらもなおUK3へと迫ってゆく。

「空も頑張ってくれてるんだ、こっちだって負けられない‥‥!」
 狙撃の雅の支援メインに動いていたケイも、段々と艦防衛に動きがシフトしてきている。
 地を這うキメラには甲板を傷つけないよう機槍で払い、タロスはライフルで動きを阻害、とにかく艦に牙を剥かせないように努める。
『BF止まらない! 爆弾、落ちるわよ!』
『くっ‥‥やむをえん、空中で処理する!』
 手元のホイールで兵装選択、その言葉でケイは忙しなくキーを叩き『システム・ニーベルング』を発動。
『カッコよく決めて下さいよ、っと!』
『俺もどちらかといえば援護系男子なのだがな‥‥!』
 背中に回り、リンクスに張り付こうとした巨人型を一刀で蹴散らす。そしてコクピット越しに背後から響く衝撃。
 一発の銃弾がBFを貫き、爆弾の降下ポイントをずらす。
『弾幕を張れ! 一発でも当てるんだ!』
 零次とケイ、そして小夜子が一斉に落ちてゆく爆弾を狙う。
 無数の砲火の嵐へと落ち行く爆弾は、ほどなくして眩い光と共に爆散した。

 喜ぶ間もなく、レーダーに明滅する数個の赤い点。
 爆弾を相手にしているうち、タロスとゴーレムが降り立ってしまったのだった。
 蒼子の援護で着陸した零次が飛び出す。杭打機のような武装を放つゴーレムの攻撃をいなし、腕を切り落とすと返す刃で足をすくう。
 切り捨てるよりもとにかく脅威を払うことを良しとし、降りかかるタロスの剣を受け止める。
 ケイが急ぎ駆けつけ、タロスの空いた脇腹へと機刀を突き込み、その勢いで海へと落す。
『気を付けてください! その下から‥‥』
 小夜子の通信が途切れる。見ればタロスに掴みかかられて無理やり海面へ落とされそうになっていた。
 だが援護に入るには、目の前の光景をどうにかしなければならなかった。
 今、ケイがタロスを落とした甲板、その淵から浮かび上がってくるHW。チャージを終えたプロトン砲の銃口から光が漏れる。
 雅も零次も銃を向けるが、引き金を引くには遅すぎた。

『やらせてたまるか、絶対に通さねぇっ!』
 突如ケイがブーストで飛び出す。パラディンのシールドを構えてヘルムヴィーゲ・パリングを機動すると―――
 狂気の波動にケイのパラディンが飲み込まれた。
 どうにか受け流すように直撃をさけたかった。が、如何せん距離が近すぎた。
 機体を乱暴に放られ、視界が回転する。上も下もわからないまま、とにかくレバーを捻り、バランスを取ろうと試みる。
 零距離の防ぎにくい猛攻に燃料タンクが破壊され、痛んだ装甲が内部から破裂する。
 けたたましいアラート、淡い紅光、それがケイが意識下最後に見た光景だった。

『これは‥‥BF、まだ落ちてません!』
 コントロールは既にないのかもしれない、が、併走しているタロスに妙な感覚を覚えた小夜子。
 もしかしたら、まだ爆弾を積んでいるのかも知れない。そして、向かう先は艦橋―――

 蒼子が兵装を撃てるだけ解き放ちながら接近してゆく。
 タロスの牽制を受ければ下がり、そしてまた、その脅威へとレティクルを重ねる。

『敵を落とす事にとらわれすぎないで。この戦い、落とすより、落とされない方が勝つ』
 既にケイという行動不能者が出ている。ただでさえ、という人数の中、ソーニャが必死になる蒼子へ言う。

『落とされればそれだけ仲間が危険になるのよ。出来るなら、最後まで飛び続けなさい』
 聞く耳は持っていた。が、奥歯をかみしめてなお、ガトリングを放つ蒼子。

『そんなことはわかってる! けど‥‥護衛対象が人だろうが物だろうが、人類の希望を乗せた艦だろうが! 全部まとめてきっちり守り抜くのが私の仕事の流儀って奴よ!』
 今か今かとスイッチの上で滑らせていた指を、今押し込む。
 石榴の弾幕に仰け反ったタロスの隙間をすり抜け、対艦用のロケット弾がBFを捉えた。
『艦橋は衝撃に備えろ!』
 至近距離で抱えていた残りの爆弾がBFと共に爆発し、装甲の雨がぱらぱらとUK3へ降り注ぐ。
 雅が叫び、ライフルを構える。だが、タロスの頭部が爆ぜるのと、タロスの斧槍が蒼子のコクピットを貫くのは、ほぼ同時だった。

『戦域の脅威の大幅な減少を確認、ケイと蒼子も無事よ‥‥こちらの部隊で回収するから、後は細かい残りの敵を』
 蜜柑のいつになく冷静なオペレートが通達される。
 キメラこそ未だ命知らずに轟竜號へと喰らいつくが、片手で数えるほどとなったゴーレムは、
 水面に浮かぶHWやタロスの残骸を縫うように滑り離脱していったのだった。



「この特等席の座標ももちろん言いふらしちゃダメだかねっ?」
 作戦開始から2時間後、帰投用の船に乗り轟竜號を見届ける一同。
 まるで谷から飛び立つ獣のように海面を蹴り上げ、
 雄々しい龍のように雄大に空を切り、轟竜號は宇宙へとその航路を向けていった。

 飛び立つ前、身を挺する犠牲を出してなお艦を守った傭兵達の勇士に、
 乗組員一同は一斉に彼らへと敬礼をしてから去っていった。
「また宇宙でな、轟竜號」
 飛んでゆくUK3をどこか物欲しそうに黙って見つめるソーニャの横、
 浮上時の迫力に、傷で軋む痛みに顔を歪ませるケイ。
 それでもこの手は、こうして最後まで、操縦桿を握っていた。
 そうある限り、宇宙での再会もきっと可能なのだろうと信じていた。

「後は空で、そして宇宙で待つ方々に‥‥流石に疲れましたが、休んでいる暇も無さそうですね」
 零次が苦笑しながら小さくなっていくブースターの炎を見送る。
 もちろん、ケガされた方は充分に回復してから‥‥と、小夜子に包帯を変えられていた蒼子を見て労わった。

 最終局面を迎えた、バグアとの戦い。
 この布石は、必ずや今までの戦史において名を残す任務となっただろう。

 人類の為に全力を投げ打った者達へ、心から最大限の感謝と、勝利の時まで戦い抜く勇気を―――