タイトル:【DD】破鎚マスター:墨上 古流人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/23 06:13

●オープニング本文



 頼りない日差しと、乾燥した空気。
 少し動けば、目はかすみ舌が痛い程に乾く。冬の落ちた気候とはいえ、激しく動けば服の下では汗が滲んだ。
 
 風は無く、舞う粉塵は散らずにカーテンのように目の前で広がっている。
 筒色の視界が晴れる前に、その中から、一人の少女が飛び出してくる。
 風切る刃に煙を散らせば、髪を揺らして藍風 耶子がそこにいた。

「ふぃー‥‥どーにかこーにか、ですー」
 ぺっぺっと口の中の埃を吐きながら、
 肌蹴た着物の裾を直す。
 残念ながら、周りの戦士達はその幼い体にはまったく目もくれず、敵とやりあっていた。

 ここはデリー近郊モラーダーバード。かつては真鍮の工芸品等の輸出でひっそりと栄えていた街だ。
 それも今や、人類側の攻勢に対抗すべく、バグア軍との衝突で激戦を繰り広げていた。

 デリーの周囲は高さ25メートル程のメトロニウム製壁が覆っており、外敵からデリーの町を守っている。
 そんな鉄壁の要塞デリーを包囲するように、バグア軍はデリーを囲むように周囲に展開していた。

 そして開始された――バグア包囲網破壊。
 デリー南部より進軍するUPC軍は、確実に戦線を押し上げていく。
 デリーまで一気に距離は縮まっていくが、もちろんバグア側が黙っているはずはない。
 バグア軍デリー攻撃総司令官ナラシンハ(gz0434)は、マールデウから南進を指示。バグア側の大部隊移動が開始された。
 UPC軍としても現在の戦線を維持できなければデリー奪還は難しくなる。
 両軍の思惑が絡み合いながら、デリーを巡る第二幕が上がったのだ。

「デリーの壁にはいかせるな! ここで俺達が、デリーの為の壁になるんだ!」
 士官らしき男が叫びながら、必死の形相でエネルギーキャノンを撃ち込んでゆく。
 荒波のように飛びかかって来た獅子のキメラの群れが、次々と宙で撃たれると地面に転がり、体を擦りながら投げ出されていく。

「なかなか減らないですねー‥‥っとー」
 空から急降下してきた鷹型キメラをすぱんと切り払い、何体目かの死骸の山を築いてゆく。
 人よりふた周りほど大きなガネーシャ型キメラに苦戦している小隊を確認すると、
 駆けつけて黒い刀身をひと振るい。丸太のように太く、龍の鱗のように堅い皮膚を、プディングのように切り落とした。

『うわぁああああああああああ! 誰か来てくれー!!』
 煩わしかったので首から下げていたインカム。
 耳に当てていなくてもわかる程に響く絶叫に、耶子の手が止まった。

「取り乱すな! 所属と状況を伝えろ!」
『こちら右翼3班方面! 不思議なキメラが近づいてきたので対処しようと近づいた味方が、見るも無残に潰された! 硬くて文字通り歯も立たない! 応援をようせいs』
 けたたましいノイズと共に、無線が途中で切れた。
 耶子は既に、場所を聞いた時点で地面を蹴っていた。

 血肉の弾丸、刃が飛び交う戦場を縫うように駆け抜け、ようやく右翼3班のポイントが見えてくる。
 敵の陰だけ視認すると、太陽を背に飛びあがり、短刀を3本抜き放つ。

 だが軽い音を立てて、3本とも突き立たず地面に零れ落ちてしまう。
 疑問を顔に出す間もなく、黒刀を抜いて大きく振りかぶる。

「いー‥‥っ!?」
 体重を高所から思い切り乗せて叩きつけた一撃。
 だが耶子の一刀虚しく、その敵の体を切る事はなかった。

「亀さん、ですー‥‥?」
 ふーふーと赤くひりひりした手を吹けば、耶子の目の前には、のそのそと巨大な亀が体をうごめかせていた。
 じろり、と転がっていた耶子に目を向けると、頭を殻へと引っ込めてゆく。

「危ない‥‥!!」
 耶子の横から、若い男がかばうように体に乗りかかってくる。
 突き飛ばされた耶子の眼には、男の胸から下が霧のように吹き飛ばされていく様子が映った。

「―――っ!」
 男を襲ったのは、顔を引っ込めた堅く尖った亀の頭。
 その杭打ち機のように繰り出される高速にして高インパクトな衝撃は、
 人が喰らってよいものではなかった。

「トーチカや戦車も全部こいつにやられた‥‥! 恐らくこいつはバグアの攻城用タートルワーム! 絶対、絶対にデリーの壁には近づけるな!!」
 そんな声を背に、自分を庇って事切れた男のタグを回収して、ゆらりと立ちあがる耶子。
 目は据わり、手には力が籠る。刃を天に向け、すっ、と顔の横で水平に構える。

「壊れちゃえ」
 弾丸の様に繰り出された刺突は、一歩も、一寸も逸れずに鎚のような頭突きに正面から挑んでいった。

●参加者一覧

アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
日野 竜彦(gb6596
18歳・♂・HD
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD

●リプレイ本文


 息をする度、鉄と土と硝煙の匂いが喉を焼きつかせる。
 それでも嫌な顔をする暇もなく、新鮮な酸素を貪り求める。
 激しい怒号と、悲痛の叫び、生への執着のみが、この戦士達の足を動かしていた。

「下がれ! ここはもう無理だ! 10時方向火力集中!!」
 一人の男の叫びを無線から聞き取ったものは、考える間もなく言われた方向へ銃撃を放つ。
 頼りない弾幕を後方から感じつつ、地面を登るように這いつくばって撤退していく兵士達。

「う、うあああああ―――」
 隣から聞こえてきた断末魔の叫びが、プロトン砲によって体ごとかき消されてしまった。
 すぐ前方には、巨大な亀。暗く深い砲口が、静かに舌なめずりするように自分へと向いていた。

「くっ‥‥!」
 弾の無い銃は最早体を支えるだけの杖となり、折れた剣は既に亀の足の下だ。
 神がいるなら、殴りたい。膝を付き、目を瞑り、己の運命を男は呪った。

『狙撃支援を。即盾として進路を取り前進』
 外れかけたインカムから漏れてきた声。
 刹那、鋭い弾道が亀の頭を叩いて砲口を逸らした。
 そして自分の背中から飛び出してきた人影は、大太刀を構えて迷わず真っ直ぐに亀へと猛進してゆく。

「危ない‥‥!」
 掠れた声は届かない。だが男の後ろから走ってきた光の線が『彼女』の背中へ繋がると、
 逆袈裟で振るいあげた紅の大太刀が、亀の頭を体ごと空へとさらう。
 浮いて垣間見えた首筋、腹へ、数発の衝撃が撃ち込まれると、亀は足を崩して斜めに倒れた。
 
「転倒はせず。手負いでこの頑丈さか」
 男の後ろから、アルヴァイム(ga5051)が静かに現れて倒れた死骸を一瞥すると、すぐに戦場へと目を向け無線をとる。
『次の亀さん、そこから2時の方が一番傷を負ってますわ』
『了解。狙撃は暫く待機、伏兵の無い限り進路は直進』
 通信が終わると、亀を切りあげた女性を前に、その後ろへとアルヴァイムがついた。

「す、すごいな‥‥気をつけろよ! 最初からそんなペースでもつのか!」
「心配感謝。まあ、これでも別段、いつも通りだ」
 慌てて戦場に赴く背中へ声をかけると、時枝・悠(ga8810)は大太刀を肩に、男にひらりと手を振って去っていった。

 その様子を高倍率のスコープからしばらく眺めていたミリハナク(gc4008
 男の周囲の安全を確認すると、二人の進路上の脅威を警戒し始めた。

「ふふ‥‥戦争をしましょう。 泥臭く無様で華やかさなど欠片もない地獄のような戦争を」
 彼女が気にする先は、身に纏った綺麗なドレスではなく、レティクルの中に収まる獲物。
 土の地面に伏した淑やかに猟奇的な戦意が、この戦場には潜んでいた。 



 状況は限りなく不利に近かった。
 投入された攻城用タートルワームは、遠くにいては砲撃を放ち、近付かれては頭突きの槌で人類側の兵器を砕く。
 そこに大小種々のキメラが縦横無尽に走りまわれば、歴戦の兵士達も経験という戦意を粉々に打ち砕かれてしまった。

「早く後ろへ!」
 AU−KVで駆け付け、纏うや否や兵士の盾となり貫通弾を撃ち込む日野 竜彦(gb6596
 予め軍で使われている施設やチームの特殊な呼称を把握しておいたおかげで、
 戦場で流れる無線を理解しピンチな場所へ辿りつく事が出来ていた。
 ガネーシャ型の大きな腹に貫通弾がめり込めば、渾身の掌底を何本もの手で突き出してくる。

「インドの神様っていうのはとにかく手が多いな!?」
「手が早いのも‥‥問題だと思います‥‥」
 腕の周りを滑るように避けながら懐へと潜っていくラナ・ヴェクサー(gc1748
 斜めに襲う鞭の様にしなる鼻も、スウェーで側面へ回り込むよう回避。
 拳を振るえない程の近距離に到達すると、四本の爪を突き立てる。
 痛みに叫ぶキメラをものともせず、そのまま回転して腕の繊維に沿うように肉を裂き、
 花びらのような血飛沫を後にして間合いを取り直した。

「TWを攻城用に改造するのはともかく、なんでわざわざ首を改造する必要があるのよ!?」
 太く穿たれた未だ煙を燻ぶらせている戦車の影で、その威力の跡をに悪態を突く一ヶ瀬 蒼子(gc4104) 
 拳銃のリロードを終えると、地につけていた膝を立てて一気に駆けだす。
 シールドを構えてラナの後ろにつくと、後方より迫っていた鷹の群れへと制圧射撃、
 敵の進行を鈍らせたところで、気がついたラナが振りむき、後を追うように銃を抜き放つ。 

「暴風となる‥‥!」
 数匹を撃ち落したところで、瞬天速。
 鷹の群れの中へと飛び込んでゆき、巻き込むように爪で薙いでゆく。
 蒼子の銃撃も拳銃ながら追い風のようにラナの周りを駆け抜け、
 二人の猛撃は、空を支配する鷹を払い落としていった。
 
 飛びかかってきた獅子を咄嗟に屈んで交わす竜彦。
 堅い爪がリンドヴルムの装甲を掠め、火花を散らした刹那、装輪でターンし刀で背中へ弧を刻む。
 自分の周りに骸が増えてくると、地を滑り移動して、風を切りながら銃撃を敵の群れへと叩きこむ。
 ある程度こちらに反応してきたら、そのまま下がり引きつける。

「こっちだ! うまく喰いついてくれくれよ‥‥」
 険しい表情で画策を行動に移す。
 装甲の下から覗く遥か先には、一人の仲間が亀を相手に立ちまわっていた。
 
『美具子! 今だ!』
「うむ、上出来じゃ」
 激しい砲撃を盾で凌ぎ、暴れるシエルクラインを片手で豪快に撃ち放ち亀を相手取るのは美具・ザム・ツバイ(gc0857
 竜彦がキメラを連れていったおかげで、亀の注意を惹きつけてもなお楽に立ちまわる事が出来た。

「のろまな亀よ、お前らはこの美具を無視できまい。そしてそれが貴様らの命取りになる」
 直前まで弾丸を叩きこんでいた亀に、改めて居直り威勢を張り『仁王咆哮』と成す。
 全ての砲口と目、足が美具に向いたのを確認する。
 亀が頭を引っ込めたところで、素早く横へ。構えていた盾の向こうで豪快な頭突きが伸びたのを感じると、即座に伸びきった柔らかい首へと銃撃。
 そして回り込むように移動しつつ、足の隙間を攻撃する等、確実に弱点を理解し狙っていた。
 特に、脚――膝の裏、と言うのは構造上『足』で移動する手段のものとしては、どうしても防ぎにくい場所であるのだ。

 一匹ずつ、確実に亀を減らしていく傭兵達。
 だが油断は出来ない。壁を粉砕する為の槌、喰らえばひとたまりもない。
 そのプレッシャーを意識しながらの戦闘は、思ったよりも体と精神を疲弊させていくのだ。

『獅子の群れ‥‥そちらへ流れました‥‥!』
 ラナからの無線にアルヴァイムが視線を動かす。
 悠とミリハナクで相手取っていた亀へと黒い塊のような獅子達が近付いてくるのを確認する。
 小型超機械を取り出して『攻性操作』を発動。目標は、亀の砲門から獅子―――
 
 だが、アルヴァイムの手の中で超機械がばちっと弾けると、
 タートルワームのプロトン砲の光は、遠く地に伏せていたミリハナクへと伸びていった。

「何‥‥」
 すぐさま、飛びかかってきた獅子を扇に隠れるようにしていなす。
 生体パーツ扱いだったのか、亀の兵器の操作を乗っ取る事は出来なかった。
 当のミリハナクは、スコープの中で暗い砲口と目が合った瞬間、
 必死に横にごろごろと転がって回避していた。本人は至って本人的に『戦争』をしているのだが、
 ここだけ切り取れば、まるで休日の気だるい昼下がりを過ごしているかのようにも見える。
 光が太かったせいか、転がるだけでは回避しきれず、少しドレスの裾が焼けてしまった。

「普通に立って走った方が早いんじゃない、か‥‥!」
 遅れてくる援護射撃に味方の無事を把握し、抑えていたバルカン砲に刃を叩きつける。
 気合と共に、カボチャに立てた包丁のように力技でバルカンを切り落とすが、亀の体へのダメージは少ない。
 どうにかして態勢を崩そうと試みるのだが、肉厚な足は中々折れず、天地撃でもそうそう何度も体を傾けるわけではなかった。

 地道に削っていくうちにアルヴァイムが気づく。
 このままでは、傭兵達と戦うことによって足止めされている亀と、後方から迫り来る亀が、ひとつのラインに揃う。
 そのまままとめて攻撃を浴びれば‥‥対処に転じているうちに、漏れが出てしまうのは明らかだった。

「どうするのじゃ! 何か、状況を変える風が吹かないことには‥‥!」
 美具が一体の亀の相手をしているうちに、後方の亀の射程圏内に入ってしまった。
 ミリハナクの観測によりどうにかバルカン砲を避けるが、避けた先に塹壕が掘られていた。
 思わず足を取られてしまう、倒れた体に引っ込んだ亀の頭が向き―――
 
 やむなく『絶対防御』を発動。
 まともに喰らえば体の半分以上を持っていったであろう破城の頭突き、
 重い衝撃を打ち消した刹那、ミリハナクの弾丸が亀の目を晦まし、その隙に態勢を立て直す。
 だがなおも亀は二対、自分の方を向いていた。
 
 キメラ対応班は、既にほとんどのキメラを駆逐し終えていた。
 アルヴァイムからの計算により、亀からの被害を受けずして、
 最後のガネーシャ型に対応するラナ。
「図体が大きくとも、支えられなければ‥‥!」
 地面に縫い付けるように足へ爪を突き立て、屈んだ反動でもう片方の爪を顎へと突き上げる。
 固い皮膚など物ともせずに、すっと爪がガネーシャの体内へ入り、神経を裂いた。

 蒼子はその間、塹壕の中へといた。
 上からの攻撃には弱い塹壕も、盾を屋根のように上へと構えれば、地の利を生かした鎧となる。
 獅子型のみもぐりこんでくる事が出来たが、限られたスペースで直線的な動きしかないので、
 飛びかかってくる前に拳銃でねじ伏せた。
 
 蒼子の援護を受けながら、竜彦が迫りくる鷹の雨を潜り抜け、亀対応班へと合流した。
「数が多い、だけど‥‥行かせるわけにはいかない!!」 
 美具の背後へ背中合わせに滑り込み、首の隙間へ紅炎を突き入れる。

「ふむ‥‥のう、矛と盾、はたしてどちらが強いんじゃろうのう」
 え? という竜彦の声は、勢いで飲み込まれてしまった。
 ぐいっと竜彦の装甲を引っ張り、微かな雷を纏って高速でその場を離れる美具。
 彼女らが先ほどまでいた場所では、亀の頭突きが宙を裂き、そして、もう一体の亀にぶつかっていた。
 赤い障壁が弾けるように視界に現れ、頭突きの衝撃を受け止める。
 威力こそフォースフィールドに殺されたが、やはりそもそもの威力から、それなりに効いてはいるようだった。

 傷つき、ひび割れ、ボロボロになった武装の亀に、ミリハナクの狙撃が容赦なく叩き込まれていく。
 エースアサルトらしく、力とパワーでスコープの中の敵は身を絶たれていった。
『狙撃支援、一時中止を。上空より強襲注意』
 アルヴァイムの観測により、空から鷹型の残党が襲い掛かってきたことを確認。
 対物ライフルは地面に置いたまま、素早くハミングバードとシエルクラインを取り出すと、
 暴発したかのように銃を放ち、プディングを刻むように刃を運ぶ。
 一瞬にして怒涛の攻撃を繰り出し、地に鳥を落とす。
 しっかりと手に残る『命を断った』感触にうっとりとしてから、
 思い出したかのように、いそいそと地に伏せ、ライフルのストックへ頬を乗せた。

 どうにかして亀に対する有効打を思案していた悠。
 そこへ蒼子が塹壕を伝い現れ合流してシールドを構える。豪雨を凌いだような音で、バルカンの弾頭が地にぱらぱらと落ちた。
「あ、そうか」
「な、何‥‥?」
 蒼子をまじまじと見て、頭の上で電球でもついたかのように、すっきりとした顔で悠が呟く。
 傍にいたアルヴァイムも、悠が何を言わんとするかを聞く前に、行くなら、あそこの塹壕を、と座標で指示する。
 剣を構えて走りだす悠を追いかけるように、蒼子も首を向ける亀へ銃を撃ちながら後退していった。

 軽い音と共に背丈程ある塹壕へ着地すると、静かに曲がりくねった中を走っていく。
 クリティカルな戦法だと確信していた。成功すれば状況が覆る。
 普通の人ならば、成果に心が躍り、頬は緩み、手に汗握っていただろう。
 だが、悠は得てしていつも通りなのだ。涼しい顔で、やり遂げるのだ。

 竜彦と蒼子の双壁が殿の防衛ラインに立ち、銃を構える。
 もう何百発の弾丸を放ったかわからない。白蝋病を懸念するほどに、ボロボロの腕に厳しい振動が這う。
 デリーの壁には、行かせない―――猛攻にて、立ちはだかり、盾となしていた。

 そして、二人の役目は盾だけではない。
 不屈の銃撃に引き付けられた亀は、頭が伸び、足元が留守となり―――塹壕に、足を取られた。

 進路上の塹壕に到達していた悠が、天を裂く勢いで剣を突き上げる。
 今までのどの斬撃よりも、容易に深々と刃が沈んでゆき、雨の如く体液が降り注ぐ。
 体が傾いたことによりがら空きの腹に、ミリハナクもトリガーにて牙を剥き、弾丸にてその柔らかい肉へと喰らいつく。
 
 最後の一体へ、殴りつけるような距離でシエルクラインを突き出し放つ美具。
 もがき、どうにか脱出しようとする亀へ、アルヴァイムが超機械を扇ぐと、旋風が下手に暴れる体に傷を与える。
 ラナも、まるで翼で浮いたかのようにふわりと跳躍し、鳥が獲物を掴みかかるように鋭く降下、爪の軌道を体へ刻み、鋭く肉をえぐる。
 二の手で突き刺し、骨を断つ感覚が爪の先から伝わる。血のような体液をおびただしく流しながら、
 自身の甲羅を墓標とし、亀は塹壕へと埋まっていった。



 戦況は、最悪の事態は避けた、というべきか。
 脅威を排除する事は出来た。だが味方も消耗は激しく、
 人類側勢力は戦域を維持できそうにはないので、一時撤退、傭兵達はその兵士達の護衛、即援軍を呼び任せる、という応急策となった。

 兵士と物資を見つけただけ詰め込み、大きくゆれる幌の破れたジーザリオに乗りこむ。
 ふと、蒼子は通信回線が生きていないか尋ねると、無言で一人の男が背負っていた機械を弄り、視線で促した。

「藍風さん、聞こえるかしら。まだ、そちらは戦闘続いてる‥‥?」
 返事は無い。男に尋ねるが、確かに藍風のいる戦域に繋がっているそうだ。
 すぐにでも駆け付け、安否を確かめたい。だがその気持ちはぐっとこらえて、代わりにトランシーバーに力が込める。
 強く押しても、沢山思いが届くわけではない。わかってはいるが、そうせざるを得なかった。

「生憎援護には行けそうもないけど、そっちはそっち、こっちはこっちで頑張りましょう‥‥で、無事に終わったら何か美味しいもの、食べに行きましょ」
 心配こそすれ、憂う様子は声に乗せず、敢えて明るい語調で通信を終えた。
 それでも返事は無い。だが、微かなイメージだが、マイクの向こうで、余った髪の毛を揺らして頷いた‥‥ような気がした。
 きっと、無事だと信じて。

 荒んだ地には、敵も味方もない虚無だけを残して、
 時に、戦士は戦場を後にするのだ。