●リプレイ本文
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風の無い、冬の夜。
冷気は病院の時間を凍らせているようにすら見えた。
無機質に並ぶ窓からは微かに非常口の明かりが漏れ、
そのほの暗さは恐怖を通り越してどこか幻想的な空気さえ漂わせている。
鳴神 伊織(
ga0421)は、小隊員が何故か病院にいるという様子を聞きつけ、
少し様子を見ようと足を運んでいた。
「はてさて・・・・一体何があったのやら」
自動ドアは静かな音を立てて招き入れるように開く。
広いロビー、長い廊下、足音は遠くまで響く。吐く息は白く、消えず残った。
「こちら鳴神。どなたか取れますでしょうか」
持ち込んだ無線に問いかけるが、反応は無い。
軽く息をついてから、ゆっくりと暗がりへと歩きだした。
「う、うわああああああああ!!」
突如、廊下の奥から忙しなく駆け込んでくる影。
薄いパジャマ姿の若い男を追いかけるのは、どこか恍惚とした笑みを浮かべる女性の看護師。
「せっかくお酒が好きな貴方の為に、こっそりみんなに内緒で持ち込んであげたのに・・・・」
「点滴に入れろとは言ってない!」
「だってそうすれば、勝手に外へ出歩いたり出来なくなるでしょう? あなたは患者様なのよ、私の、私ダケノ・・・・」
点滴針を何本も指の間に挟んで振りかぶり、怯える男に飛びかかった。
すると、伊織が滑るようにすっと割って入り、霞を透過するように看護師と入れ違い、
頚椎へと手刀を振り下ろす。
ぐりん、と白目を剥くと、宙から看護師はどさっと床に落ちてしまった。
「大丈夫ですか?」
「た、助かりました・・・・」
腰を抜かしていた男が立ち上がる。だが伊織のことを警戒するように構えている。
「あの・・・・?」
「あなたは、感染していないんですか?」
感染、という言葉に首を少しだけ傾ける伊織。
院内に人を狂気に陥れるウィルスがばらまかれているという掻い摘んだ説明で、
巻き込まれる形になった伊織はようやく理解することが出来た。
「そうですか。それでは私は、とりあえずぐるりと院内を見て回ります」
「えっ、危険ですよ! それより俺と逃げた方が・・・・」
「ウィルスの駆逐を本格的に行うならきちんとした方々を揃えた方が良さそうですし、危険なら引き返せばよいことですし・・・・立ちはだかるなら、押し通れば良いだけです」
常人では計り知れない大胆さと自信。
確かに彼女なら出来る、かもしれない。
涼しい顔で答える伊織に、男はそれ以上の説得を試みる気はなくなった。
「そっか・・・・じゃあ俺はもう止めない。では、俺が助けてもらったドキドキで惚れて感染する前に、早いトコ別れましょ」
気をつけて、と一言だけ残すと、手を挙げて男は入り口の方へと去っていった。
「まあ、この状態なら他の方は意中の相手と楽しんでいるでしょうし・・・・ね」
まだ暗く続く廊下を見据えて、ぽつりと呟く。
白い床は氷のようで、空気は静かに漂っていた。
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「はーい、ヤンデレもツンデレも見るのが大好きやるのも大好き、自称エキパートのお姉ちゃん樹・籐子(
gc0214)よー」
等間隔に並んだ白色のライトが暗い天井を背景に輝いていた
窓の外には川が音も無く流れ、闇に沈んでいる。
「そしてやってきたのはなーんと、警報が高鳴って皆が右往左往してる病院なのよねー」
どこかで見ている誰かにナレーションするかのように、不気味な病院でも表情を崩さず喋っている籐子。
「それならばお姉ちゃんとしては、助けを呼ぶ可愛い子達を危機に駆けつけて、颯爽と救出活動に従事するわよー」
可愛い子達、が危機的状況に陥らないよう祈るばかりであるが、
ともかく、彼女がここに来たのは救助目的のようである。
「まさにDEFCON源と称されるだけに、さあーやっちゃうわよー」
意気揚々として、暗い廊下を練り歩いてゆく籐子。
どこか目が得物を狙う時のように感じるのは、きっと気のせいだ。
そして、早くも彼女の前に現れる、哀れな子羊。もちろん、Y−Virus被害者的な意味で、だ。他意はない。
年端もいかなそうな少年が、籐子を見かけると必死で近付いてきた。
「助けてください! 看護師さんが‥‥看護師さんが僕のことを!」
腕に思い切り握られたような青あざを生々しく残している少年。
籐子の探していた、ヤンデレを発症した『可愛い子』ではないようだ。
「ふーむ、じゃあ一応様子を見に行こうかなー。男の子か女の子だとよかったのだけどねー」
「‥‥じゃあ、僕なら、いいですか‥‥?」
静かに、しかし語気に力を込めて、籐子を見上げる少年。
髪の影に隠れていた目は、色を失い完全に病んでいた。
そして、がばっと腰に抱きつき後ろに手を回すと、まるでサバ折りにかかるかのようにめりめりと力を込めていく。
「あらあら、あなたのDEFCONレベルは全く動じてないのかしらー?」
「DEFCON‥‥?」
かくっ、と病んでてもなお愛嬌よく首を傾げる少年。
そして少年の額へ指をあて少し押しやると、ぷち、ぷちと胸元を広げ上着を脱いでゆく。
晒されたのは、しなやかな肢体――ではなく、体に何個も括りつけられたクレイモア――対人地雷。
只<――説明しよう。
樹・籐子の存在は、
過去に多大な影響を及ぼした相手に取り、
気配を察知し近づくのを感じ取る毎に、
距離に応じて己の危機感の高まりを、
段階毎に区分けして胸の内に表示され、
まさにDEFCONアラームが鳴り響くのである。
故にこれが彼女を警戒源として遠ざける為に、
『DEFCON』と称される由縁である。
‥‥らしい。少年はその警戒が発動しなかったようだ。ゆえに、お姉ちゃんから飛び込む形ではなくなったが‥‥
救助活動を続ける以上、ここで敵が減ることに越したことはないに違いない。
「はーい、それじゃあまずは凛々しい男の子ー。お姉ちゃんの素晴らしい愛を受け取ってよねー」
がし、と男の子に負けじと捕獲するように抱きしめる。
柔らかく瑞々しい肌に包まれたかと思いきや、クレイモアから噴出すプラスチック模擬弾に一気に飲み込まれる。
色と実、重なり合う攻撃に少年はすっかり昇天しきってしまっていた。
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「んっ? 何かおかしい・・・・?」
キョーコ・クルック(
ga4770)が脱ぎかけた病衣の手を止める。
彼女は健康診断を受けにこの病院に来ていたのだが、
部屋の外の様子が何やら騒がしい事に気が付く。
急ぎ傍らに置いておいたメイド服に手を伸ばし、袖を通すと、そっと扉を開けてみた。
廊下の奥や、並ぶ扉越しから、悲鳴のような声、激しい乱取りのような音が聞こえてくる。
「おや、患者さん。いけないね、勝手に出て来ては」
真後ろの背中から声が振りかかってくる。
驚いて振り向けば、そこには体つきのよい医者の男性が見下ろすように立っていた。
「さぁ、次は心電図だったろう? 君の心の蔵、より鮮明に見せてもらわないとね‥‥」
医者の後ろに控えていた看護師達が、ずらりと構える。そして、キョーコを取り押さえんと腕を振り上げて怒涛の勢いで襲いかかってきた。
ばちん。
突如、医者達の近くにあったドアから弾けた音が聞こえる。
そして遅れて、少し焦げくさい匂いが鼻を突く。
それに隣接するように固まっていた医者達は、体をすくませたあとどたどたと倒れ込んでしまった。
「キョーコさん無事!?」
そろそろと開いた金属製のドアから姿を現したのは、狭間 久志(
ga9021)
手にしていたAEDを放り投げ、キョーコのもとへと駆け寄ってきた。
「狭間っ! いったいどうなってんだい? みんな様子がおかしいんだけど」
「探してたんだウィルスでキョーコさんがおかしくなる前に‥‥」
倒れている男達とは反対の方へ、キョーコの手を引いて逃げ出す久志。
肩で息をしながら、必死に逃げつつも状況をどうにか説明してゆく。
「そんな状況になってたのか〜‥‥狭間!」
T字路でキョーコが指さすと、種々の物騒な医療器具を振りかざしながら看護師達が襲い掛かってきていた。
「・・・・ッ!」
久志は急ぎキョーコを抱え上げ、微かな閃光を爆ぜさせながら迅雷で反対側へと飛び出す。
キョーコは落ちないように体を寄せて久志の体へしがみ付く。
貪るように酸素を求めながら、どうにかヤンデレの群れから引き離した頃には、全ての状況説明を終えていた。
そして壁のスイッチに手を置いて息を整えると同時に、ヤンデレ達が追って来れないように来た道の防火シャッターを降ろした。
「これで他に誰も居ない・・・・」
「助かった・・・・よ・・・・?」
ちゃり、と小さな金属音が耳に入る。
ゆっくりと床に足を下ろすと、キョーコの手首の片方には手錠がはめられていた。
その鎖の先を辿れば・・・・そこには、久志の手。
「手錠なんかして何を・・・・?」
思わぬ状況に後ずさってしまうが、ピンと張られた鎖に逃げ場が無いことを知る
「これなら感染してもキョーコさんが求めるのは僕だけだから」
まるでそれが周知の主張のように、さらりと言ってのける久志。
不意をつく大胆な言葉にキョーコは思わず顔が熱くなる。
だが熱で一時停止した思考を一気に冷ますような、鋭いシザーズナイフが久志の手に握られているのを見てしまった。
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厨房に舞う白煙からは、香ばしい肉の薫りもふくよかな野菜の香りもせず、
鼻をつき、喉を焼く消火薬剤が蔓延している。
その中からどかっ、と突き出た足が、目の病んでいる患者を吹き飛ばす。
消火器を抱えて出てきた人影は、タイトなドレスに身を包んだメシア・ローザリア(
gb6467)だった。
「Y−Virus? 冗談じゃありませんわ、わたくし、愛するより、愛されたい派ですの」
嘲るように鼻で笑うと、飛びかかってきた医者をステップで翻るようにかわす。
だが消火器ではY−Virus消滅条件の、急激な温度変化には至らない。
うら若き乙女の存在を嗅ぎ付け、倒れたドアから、破れた窓から、続々と押し入ってくる感染者達。
「追いつめられそうね―――どうやって脱出するか」
新しい消火器を持ち直し、辺りを見回す。
ふと、天井の煙探知機に目がついた。
悩んでいる暇はない。消火器を頭上に向かって噴きつけると、
散布された粉状の消火剤は、煙探知機に反応され、部屋のスプリンクラーから一斉に水が降り注いできた。
ばたばたと倒れていく人達を前に濡れた体に小さく溜息をついてから、
食堂を後にした。
服を乾かそうとうろついていると、視線の先で人影が曲がり角に消える。
銀色の長い髪が男に引かれるようにたなびいていた。
この状況下で、少し錯綜しているのだろうか‥‥だが、頭はいつになく冷静だ。
郷愁と、期待が、坂を転がるように勢いづいて足を早める。
まさか、という疑念は、まさか、という確信に変わるのに、そう時間がかからなかった。
「エイリアス!」
後ろから肩を掴み、振り向かせるよう強引に引っ張る。
ローザリア家に仕えていた執事、青い瞳、銀の長い髪、敬虔なクリスチャンにして―――彼女を庇い、命を落とした人。
戸惑いと喜びで、声が出ない。目の前の、失った筈の男は、空気を吐くようにして、軽く笑う。
証明はその表情に強い陰影を刻んでいた。
頭の中を、様々な思いが、感情が、隅々を駆け廻る。
冷えた筈の頭は、既に冷静な思考を失っている。
「贖いのつもりだったのかしら。愚かな人‥‥」
肩を掴んだ手は、確かめるように腕へと滑り落ちてゆく。
「答えられないでしょう、不完全なわたくし達の命の重みなんて。どれも平等、貴方の行動は、主から見れば間違いよ」
困った顔を浮かべてから、恭しく頭を下げる男。
メシアは、誘うように近くの扉へと腕を引いてゆく。
無機質な銀と白の世界。中央で照らされるスポットライト。ここは―――
「貴方に手術を施すわ、完全にわたくしに従順になるように」
生きて、と‥‥命令もきけない悪い子の治療は、わたくしが。
押しつけるように舞台の椅子に押し倒すと、備わっていた拘束具をゆっくりと締めてゆく。
逃げようと思えば逃げられる、抵抗しようと思えばできる、だが有無を言わせない、
女王の気品という迫力が、彼女からは感じられた。
「ああ、でも、たっぷりと躾けてからね。抗う心も起きないように」
noblesse oblige 力を持つ者は、持たない者に施す義務がある。
貴方とわたくし、対等ではないわ。
だから、此れは愛ではない―――
「そうでしょう、エイリアス。貴方は人形、それでいいの。ただ‥‥生きてくれればそれで、わたくしは良かったのよ」
時間は止まり続けたように景観を変えず、
ぼんやりとした明かりを保ち続けている
風がなくとも、顔面は穏やかに冷えていく。
滲むは、抑えつけた反動。静かな狂気。
誰もいない冬の夜、集中治療室は、勝手に二人だけの世界となっていった。
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「ふむ・・・・」
ひたひたと、静かな暗い廊下を歩くのは、リヴァル・クロウ(
gb2337)
すぐそこで買った二つのペットボトルを持つ腕にはじまり、その病衣の下では、生々しく包帯やガーゼが当てられていたりする。
大怪我を負い、この病棟に搬送されたリヴァル。
また恋人には小言を言われてしまうか、と吐く溜息は、どこか嫌な気もしない。
『よう隊長。生きてる?』
「ん‥‥?」
幾つかの病室を過ぎると、スピーカーから漏れてくる声。
隊長――恐らく自分の事か、そして、その声には心辺りがあった。恐らくリヴァルの小隊員、東 冬弥(
gb1501)のもの。
「なんとか、な。それより、何をしている?」
天井のスピーカーに問いかけてみるが、答えはない。
『なーんか最近隊長ってば腑抜けてる感じするんだよね。ラッキースケベの人とかいう認識がすっかり定着しちゃって、ったく嘆かわしいったらねーよ。だから怪我なんてするんだぜー?』
「待て、それは理由と状況の説明を・・・・・・いや、怪我は事実だな、すまない」
申し開きしようにも、さすがに実害が及んでは、言い逃れは出来ないのだろうか。
少し目が逸れてしまうリヴァル。
『そこでよ。ここはひとつ隊長本来の神っぷりを皆々様に知らしめる為、そして隊長の目を覚ましてちょっくら懲らしめてやる為に、俺様が一肌脱いでやろっかな! ってね?』
「・・・・? どういう事だ、事態が飲み込めない。はっきり説明してくれ」
意図が読み込めない。だが、スピーカー越しに伝わってくる、明確な何かの意思。
いつもの語調のように聞こえ、その裏に潜んでいた、冷たい刃が背中をなでるような悪寒が走る。
「多少危ない事もしちゃうけど、俺様の上に立つ存在なんだし、これくらい乗り越えて当然だろ」
モニターの明かりに照らされ、妖しげな笑みが監視室に浮かんでいる。
画面の中のリヴァル。このまま思わず切り取って飾りたくなるような、崇高な目標、形を成している親愛。
祈るように、慈しむように、ぽち、と手元のボタンを押す。
リヴァルの前方で、がしゃん、と防火シャッターが落ちてくる。
そして、その下に置いてあった数々の薬品の瓶が音を立てて砕け散った。
種々の液体、気化した薬が奇跡的な化学反応を起こして、一気に目の前で炎の壁と化す。
「何‥‥?! 冗談ではない‥‥!」
通風孔も塞がれていた。
手元のお茶を投げつけるが、まさに焼け石に水。
仕方が無く来た道へと踵を返して一気に駆け出した。
「俺様に相応しい存在で在り続けろって事。すなわちそれがあんたから欲しい愛の形ってやつなんよ。あんだすたん?」
椅子に座り、全てのモニターを機動させて、指を組む冬弥。
隊長に正面から襲い掛かるような真似はしない。
それもまた、肩を並べるではなく、高みとして目指すが故の愛の形なのだろうか。
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「お兄様、ここは危険です!」
階段の上から落ちてきた大量の車椅子(冬弥のしかけた罠である)から、とっさにリヴァルをかばったのは、セラ・ヘイムダル(
gc6766)
「すまない、助かっ・・・・!?」
突き飛ばされて仰向けの態勢となったリヴァル、その手は、セラの胸元へ。指が埋まるほどの主張に慌てて起き上がる。
「いや、これは、不慮の事故であってだな、そもそもラッキーなどと言ってい場合ではなく・・・・」
慌ててあわあわと取り繕うリヴァルに、どこか安心した表情を浮かべているセラ。
目の前にいる彼はしっかりと、セラの慕っている、いつものお兄様、リヴァルだった。
「こんな時でもすけべなお兄様‥‥素敵です、ぽっ」
ふわりと染めた頬のまま、セラはただにこり、と優しい笑みを浮かべるだけ。
「セラは正気です、安心してくださいお兄様♪」
そして先に立ち上がると、尻もちをついたままのリヴァルへ、そっと手を差し出す。
その手を握ったまま、安全のためにと近くの部屋へ誘導した。
「とりあえず落ち着きましょう、お兄様、さぁ、おかけになってください♪」
「すまない、助かっ‥‥‥た‥‥?」
「ここに居れば安心デス♪」
そして更に安全にするため、リヴァルを手錠でベッドと繋げる。
・・・・・・安全?
「これはいったい‥‥」
「だってお兄様とセラは前世から結ばれた仲‥‥なのに現世ではお兄様を惑わすモノが多すぎなのです」
ふてくされるように、口を尖らせながら手錠の鎖をちゃりちゃりと弄ぶセラ。
「だから! お兄様と二人きりになるしか‥‥そう、二人でこの部屋のアダムとイヴになるのです!」
「何‥‥!? ま、待て!」
がしゃがしゃと抵抗するリヴァルを他所に、
するり、と身に纏っていた服を床へ落としてゆくセラ。
(セラ曰く)リヴァルが大好きだという半裸姿になり、
(セラ曰く)リヴァルが大好きだという胸を押し付けようと覆いかぶさり‥‥
そして、(セラ曰く)リヴァルが大好きだという(ぴー)を――――
「セラとリヴァルお兄様は一万年と二千年前から愛し合う運命なのです‥‥ぽっ」
「そいつは八千年過ぎた頃からそろそろ飽きてくるでぇー!!」
ガシャン! と窓から飛び込んでくる大きな体。
ごろごろと転がって部屋の隅で立ち上がったそれは、またしても小隊仲間なキヨシ(
gb5991) だった。
「助けに来たで!」
「大丈夫なのか?」
「問題ないでぇ!」
それは失敗するフラグな気もするが、すちゃっと巨大ハリセンを取り出すと思い切り振りかぶる。
「リヴァルには手は出させへんでぇ!」
思い切り体を捻り、竦んだセラへと振り下ろす!
‥‥と、思いきや、そのハリセンの先は、どストレートにリヴァルの顔面へと振りぬかれる。
「あれ? 手元がくるったんかなぁ? よっしゃ、もう1回や!」
ばしん。ばしん。ばしん。
手元が狂っているワリには、ニヤニヤと何度もハリセンを振り下ろすキヨシ。
隊長の訴えは、軽快なハリセンの音と衝撃に掻き消えてゆく。
セラは既に、あぁ、見るも無残なお兄様もまた素敵‥‥等と、不思議な理由で頬を赤らめていた。
「敵味方構わずラキスケしてっから、そぉなンだよ」
キヨシの破った窓から、するすると伸ばした消化ホースを伝って降りて来たのは、ピアース・空木(
gb6362)
そして目で合図してからキヨシの後ろへと走ってゆく。
暴れるホースを振り回し、ドアのところまで迫っていた感染者の群れへ構えると、勢いよく放水した。
進路上に、リヴァルのみ巻き込んで。
リヴァルは髪から水を滴らせながら、濡れたままの眼鏡を、飛ばされないように抑えて、くいっと直す。
「おぉっと、リヴァル、うまいこと避けてや」
騒ぎに駆けつけてか、間髪いれず、ピアースの降ろしたホースから、次々と感染者が飛び降りてきた。
キヨシはM−121ガトリング砲を構え、一気に弾の嵐を吐き出していった。
進路上に、リヴァル、そして時たま背中合わせのピアースを『たまたま』巻き込んで。
激しいマズルフラッシュに、暗い病室が明滅してゆく。
しばらくして、大量の薬莢と硝煙の真ん中で、キヨシは佇んでいた。
「おまっ‥‥またかぁっ?!」
「大丈夫か、リヴァル! くっ、誰がこんな目に‥‥」
ピアースの方はさらりと流し、当の本人がしれっと隊長を気遣う。わざとらしい演技に、もはやツッこむ気力は残っていなかった。
「大変ですお兄様! お風邪を召される前に服を! さぁ!」
明らかに服を脱がせるには過度なボディタッチでセラがリヴァルを脱がしにかかる。
「おぉっと、どさくさに紛れてリヴァルをどうにかしようったって、そうはさせへんでぇ!」
どたばたと、ベッドの上が地獄絵図と化す。
服が、弾が、シーツが、腕が、次々と行き交い最早見るも無残な状態となり、
ぱたん。
静かに開ききった引き戸のそこには、伊織がきょとんとして立っていた。
そして、緩やかな微笑を浮かべてから、
「お取り込み中でしたか‥‥ごゆっくりどうぞ」
ぱたん。と、静かにドアを閉めていった。
これは違う、違うんだ! という訴えは最早聞こえていなかった。
「あーあー、勘違いされちまったねェ」
にやにやとしながら、キヨシの肩に手を回してリヴァルを見やるピアース。
時間もおかずに、今度は勢いよく病室のドアが開く。
現れたのは、伊織ではなく、彼らの仲間の月島 瑞希(
gb1411)
「皆本当にどうしちゃったんだよ‥‥!?」
伊織ですら笑顔でスルーするこの参上に、瑞希も悲鳴に近い訴えをあげる。
「ヤンデレだか何だか知らないが、僕の大事な仲間に危害を加えるなら容赦はしない。絶対に‥‥守ってみせる‥‥」
ゆらり、とライターを取り出し、リヴァルのベッドの周りの仲間を押しのける瑞希。視線の先は、天井の熱探知機。
ようやっと訪れたまともな援軍に、リヴァルも安堵の溜息‥‥と共に、くしゃみを一回。
「だから、リヴァルには下がってて欲しいんだ‥‥危ないからこのまま、終わるまでどこか鍵の掛けれる部屋にでも入ってもらって‥‥」
今日何度目かの違和感、そして、感じる悪寒は冷えのせいではない。贖罪なのか。一体自分は何人の愛を体感すれば‥‥そのうちリヴァルは考えるのをやめた。
「ちょっと痛いかも知れないけど、ごめん‥‥リヴァルのためだから、我慢して‥‥?」
そしてライターに火を灯してセンサーへ近づけるが、
『他の奴らの俗っぽい愛は根本が違うし大目に見て許してやんよ‥‥と思ったけど、どうやら瑞希は少し違うみてーだなぁ』
スピーカーから聞こえる冬弥の声、そして、反応しないセンサー。
「‥‥冬弥まで、リヴァルのこと傷つけるって言うのか‥‥?」
リヴァルの手錠をちらりと見やる。
外してくれという訴えにも関わらず、これなら大丈夫とでも言うように、瑞希はこくりと一度うなずいてから、急いで廊下を走っていった。
「ん? ピアース?」
キヨシは、耳元で段々と荒くなるピアースの息遣いに気づく。
次々と移り行く状況で、疲れたのだろうか。いや、それにしては。
「う‥・・あぁ・・・・」
おい、大丈夫か! と肩を揺さぶるが頭を抑えてうめくピアース。
ベッドに寝かせてやりたいが、リヴァルが縛り付けられている。いや、今なら並んで寝かせる事も違和感ないのだろうか。
「男というイキモノハこの世から全員ロストしてしまえばいいのデス」
どがーん。と、天井を突き破って漏れた声。
埃と瓦礫で部屋が満ちる。割れた窓から流れてゆくと、焦点はあってなく瞳孔が開いた、既に立派に感染しているラサ・ジェネシス(
gc2273)が部屋の中央に立っていた。
「我輩とお姉様達だけいればイナフなのです」
ピアース、キヨシ、リヴァル――男をその荒んだ目で確認すると、問答無用で丸太をフルスイングする。
「滅せヨ!」
「吸血鬼やないで?!」
ぐしゃ、ばきっ、ぐも。
とてもよろしくない効果音が聞こえ、とてもよろしくない量の血が飛び交ってゆく。
返り血を気にせず、寧ろ浴びるように病室を血の海に変えてゆく。
そして、くるーりと振り向くと、血眼は動けないリヴァルへと止まる。
「待て、その、今は病人だ。抵抗できない相手に暴行を働くとそれは」
「数多のオネエサマにセクハラを働いた貴方だけハ許さなイ」
念入りに、念入りに杭のように丸太を打ち付けてゆく。
ベッドから床の下へ落ち込んだりもしたけれど、私は元気です。
「隊長、お覚悟!」
既に動かないリヴァルに、丸太を振り上げる。
と、病室からひょっこりと籐子が現れた。
彼女を認識した途端、ずどむ、と手から丸太が零れ落ちる。
「ああ、お姉様‥‥我輩を迎えに来てくださったんですネ」
「あら‥‥あなたも吶喊突撃の対象かしらー」
よたよたと近寄る籐子、そしてロケットのように飛び込んでゆくラサ。
「もっと強く抱擁してくだサイ! 我輩だけを見テ!」
豊かな体に頬を摺り寄せて埋まるラサ。
なでるように抱き寄せると、籐子はこれまでと例外なく、体のクレイモアを放出させた。
ばすん。
体を突き抜ける衝撃がラサを振るわせる。
心から近付いていただけに、ダメージはもしや計り知れないのではないだろうか。
床に膝を付けたラサ。顔だけあげて、呆けたようにいう。
「貴方は我輩のオネエサマではない・・・・?」
「ごめんねー、お姉ちゃんは皆のお姉ちゃんなのよー」
「私ダケノオネエサマデハない・・・・ダッタラシネ!!」
爪を立てて飛びかかるラサ。
ひらりとかわされると、落ちた丸太を来た時よりも大きくでがむしゃらに振り回す。
「オネエサマオネエサマオネエサマオネエサマオネエサマオネエサマオネエサマオネエサマオネエサマオネエサマ・・・・」
丸太の勢いと、弾けるクレイモアが恐ろしい風を部屋で起こしている。
生き残りはどうにか巻き添えを食らわないように必死だった。
「キヨシ・・・・俺がお前を助けてやる・・・・くくく」
「お、おい? ちょっと、そこはちゃうんと・・・・」
姿勢を低くしたピアースが、床に押し倒されるような形となるキヨシに救急キットでの治療を施し始める。
だが、際どいその手つきにキヨシが抵抗するも、押さえつけ、しまいにはハサミでざくざくと服を剥ぎ取り始める。
「お、おい?!」
「お前とは生きるも死ぬも一緒だ‥‥ずっと、付いてくぜ?。
「あ、あかんやろー!!」
蕩けるように病んだ目つきのピアース、キヨシの悲鳴。
そして、セラはぴくぴくと痙攣するリヴァルの手を握りながら、その様子を必死に脳内に焼き付けようと食い入るように見ていた。
そんな光景が映るモニターを前にする、二人の人影。
「戦うしかないかな‥‥方ないよな、リヴァルを傷つける冬弥が悪いんだから‥‥」
「あぁ、悪いけど邪魔なんで消えて貰うわ」
監視室で武器を構える、瑞希と冬弥。
お互い、大切な仲間のはずだった。それなのに、何故こうなったのか。
「本当に残念だよ、傭兵になりたての頃からずっと友達だったのに‥‥ずっと友達でいたかったのに‥‥」
「俺様の崇高な愛の形を否定されるのだけは我慢ならんからな! 道が行き違う以上は、途中でぶつかるしかねーだろ」
「ああ、そうだ。そのいけないことをする手を使いものにならなくしちゃえば‥‥それで冬弥が悪戯しなくなったら、また仲良くできるよね?」
ふふ、と微笑んでから、銃口を腕にぴたりと向ける。
どうだかな、と冬弥のガンも銃口からエネルギーが迸り始める。
親愛、友愛、敬愛、熱愛。
様々な形で、貪欲に相手を求める愛。それは、お互いの身を滅ぼしてもなお、貪り求め続けるのだった。
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力尽きたか、求める形に収まったか、段々と静まり返ってきた病棟。
そんな病室のひとつで、淡々と、それでいて穏やかに筆を躍らせている、サクリファイス(
gc0015) 。
自身は怪我で運ばれていたのだが、
正月も二人で過ごそうと約束していたのに、破ってしまったというサクリファイス。
お詫びも込めて、彼女の絵を描こうと思い立った。思いを馳せるように、持ち歩いている彼女の遺髪の香りを求める。
「赤い絵の具、一色でどこまで描けるか。愛は込めますよ、イーヴリン」
今は亡き婚約者の名前を呟く。当然――返事は、ない。
真紅しか広がらないキャンパス。水に筆を沈めれば、ぱっと広がる曼珠沙華。
鉄のような匂い・・・・血の香りが鼻を突くが、まだ自身の怪我が塞がっていないのだろうかと思うサクリファイス。
窓から落ちる柔らかな光の下で、
病人の筆は踊るようにステップを踏む。
それが、自身の血だとも、気づかずに。
黙々と、唯々絵を描き続けているサクリファイスの部屋の、ドアが静かに開きだす。
最早目もくれないほど一心不乱だが、近付き、ふわりと舞う髪と、香りを感じると、
はっとしてすぐ隣に来た女性へと振り向いた。
「イーヴリン! 来てくれたんですか」
投げ出すように筆を置くと、がたりと身を乗り出して立ち上がるサクリファイス。
「絵を描いたんですよ、貴女の絵を、あぁ、そんなに喜ばなくても」
喜びを隠せず、錯乱したかのように語りかけていく。
そして真摯に彼女の『遺髪』へと口付けする
「久しぶりですね、ふふ、心配していましたか? ・・・・俺の死亡通知が、ああ、それで」
彼女の傷ついた手を見て、ゆっくりと包み込むように自身の手を出す。
貴女の苦しみを知りたい―――ああ、でも、死んで後を追おうとしてくれたのか、それを責めることなく、受け入れてしまう自分がいる。
「嬉しいです、勿論、天国でも俺達は夫婦ですよ。え、ずっと俺の傍にいたいんですか?」
こくりと頷いた、ような気がした彼女。
「でも、俺は主に仕える身ですし、ああ、泣かないで‥‥」
うつむく彼女を覗き込むように、穏やかな、安心させる為の笑顔を浮かべる。
「解りました、じゃあ、一緒に・・・・いましょうね。これからも、ずっと‥‥」
そして、『遺髪』を呑みこんで、ニッコリと微笑む。
その目は、最早定まっていない。
その手は、誰の手も握っていない。 かも知れない。
どれが正解だなんて、もうわからなくなっていた。
きっと間違っているとしても、サクリファイスとしては正しいのだ。
それが選ぶという事だ。
呟く愛は微かにしか響かず、
悲しいほどにささやかで、世界に何も影響しない音だけが、病室で生み出し続けられていた。
●
「まって、落ち着いてっ! 狭間も例のウイルスにやられてるんだ。正気に戻って・・・・」
「僕は正気だよ。何処かの誰かに君が迫る姿なんて、あり得ない」
「ぅ・・・・」
距離が変わらないまま、進む一歩と、後退の一歩を繰り返す。
狭間の豹変ぶりと言葉に衝撃を受け、吸い込まれそうな力強い目を見てしまうと、
強く抵抗できなくなったキョーコは壁に追い込まれてへたりこんでしまった。
「それ・・・・冗談だよね・・・・?」
ナイフを見つめて言うキョーコに、久志は何も言わない。
見下ろす久志とキョーコの視線が交差する。
ナイフが服に触れた瞬間、びくんっと身体が震えてしまう。
キョーコの瞳には迷いが浮かんでいたが、抵抗は久志の袖を握る力だけだった。
服が肌蹴ていきながら、とうとう身動き一つとれず無抵抗になってしまう。
甘い林檎の皮を剥くかのように、優しく、逃さず、キョーコの前でナイフが振られる。
「こんなのは‥‥おかしいって‥‥だめ‥‥だよ‥‥」
時折久志の顔を見ては、目を逸らす。
細い肩と声のトーンが落ちた。
きっぱりと、跳ねのけるべきなのだ。
理解していても、久志の真剣なまなざしが、声を喉で止める。
視線だけを返される。その瞳が僅かに震えていた
「ダメだって? 今の僕は君のおかげで生きてるようなものなんだ」
常識の選択と、剥き出しの選択。
どちらが正しいかなんて、わからなかった。選べなかった。
「君がいなくなったら僕はまた一人で消えてしまうだけ‥‥だから!」
撫でるようにメイド服の表面を、鋭利な狂気が這う。
そしてキョーコの体には傷ひとつつけず、メイド服がはらりと削がれてしまった。
狭間がそんな風に思ってくれてたなんて―――。
恐怖と狭間の想いで胸が締め付けられ、その思いは言葉にすることなく、視線を戻す。
その顔は真っ赤で、僅かに潤んだ瞳を覗き込むように、強い視線が彼女を射抜いた。
「そうだよね、最初からこうすればよかったんだ‥‥誰から見ても君が僕のモノだってわかればいいんだ。それなら誰も邪魔しない‥‥」
顔に影を落として、すっ、と懐から氷雨を取り出す。
「何‥‥を‥‥?」
はだけた胸元に、静かに刃を添えれば、ぷつ、と肌が薄く破れる感触が指へ伝う。
「んっ‥‥!」
「これなら血で汚したりしない。少し冷たいけど我慢して‥‥」
白く瑞々しい女の柔肌に、連剣舞を用いて恐しく正確に、エンブレムにも似た自分のイニシャルを刻んでいく。
胸元が露わになり、肌を赤く上気させる。
印を刻まれている時もなぜか身体が動かない。痛みなのか、悦びなのかもわからないまま思わず声があがる。
恐怖とも、安心とも、違う、自身を彼の前におさえつける何かが、働いていた。
「あぅっ‥‥うぐっ‥‥んっ‥‥!」
呼吸音すらはっきり聞こえる静寂に吐く息が躍る
これは、なんてことのない夜の逃走劇のはずだった。
傭兵ならばどこにでもある会話、どこにでもある光景のはずだった。
それでもキョーコは、この一秒を、一分を、感触を、思いを、
傷と共に無意識に体に刻むようになっていた。
次第に、久志の手が肌を滑り、包み込むように顔に触れる。
「どこにも、いかせないから」
けして狂気じみたり、光を失った目をしているわけでもない。
ただ心底安らいだ顔で、笑いながらキョーコの顔を覗きこんでいた。
比喩無しで、ただ久志しか見えない。ぼやける視界の中で、どうにか捉えた水道管へ、
足元からスローイングナイフを取り出すと力を振り絞って投げつけた。
「‥‥ッ!?」
天井から圧のかかった水が勢いよく拡散して降り注ぐ。
急激に体を冷やした久志は、まるで糸の切れた人形のように、そのままキョーコへと倒れ込んでしまった。
「おわっ‥‥た‥‥?」
息を荒げ、ずり落ちた服を引っ張り上げる。
だが、胸元へと沈む彼の体のせいで、上手く着直すことが出来ない。
その静かな顔を見たら、既に何も考える事が出来なくなっていた。
音の無い初春の夜。
漂う冷気の世界で、微かに触れあう接点だけが熱を伝えていた。
●
元旦の朝。
目を覚ました彼らがいるそこは、各々の寝床。
それが当たり前のはず、なのだが、言い得ぬ違和感が、彼らを眠気の後ろから襲っていた。
キョーコは布団からばっと跳ね起きて、慌てて胸元を確認する。
そこには張りと艶のある、いつもの自分の豊かな胸元だった。
「ゆめ‥‥か‥‥なんつう夢を」
ゆっくりと、元のベッドへと倒れこむ。
真っ赤な顔は、枕に埋もれさせて誤魔化す。
そして、腕と足を少しばたつかせて悶えていた。
時を同じくして、顔を抑えて朝日を浴びている久志。
「僕は‥‥そうなのか?」
去っていった女性ではなく、キョーコ。
それが初夢に現れていたというだけではなく、あんな―――。
「しばらくまともに顔見れないよ‥‥」
体を伸ばして、溜息を吐く。次あった時、何て言えばいいのか・・・・。
願わくば、彼女も同じ夢を見ていないことを。
リヴァルは昨晩まで風邪でずっと寝込んでいた。
変な夢はきっとそのせいだろう。と自分で納得するようにうなずき体を起こす。
と、思いつつ、今年は気持ちを入れ替えなければと思い、青ざめた顔を冷やしに洗面所へと向かっていった。
●
「‥‥やはり今回も駄目でしたよ。リヴァルさんは自重しませんので」
ラキスケと、という意味で、伊織が無線にぼそぼそと語りかけている。話し相手の声はよく聞き取れなかった。
「ってなんて夢を見てしまったンダ‥‥」
ラサも体を起こして体を捻る。
ベッドから降りようとした際、真っ白なシーツに赤い模様がついているのが目に留まる。
「あれ‥‥なんで我輩の手に血が」
どろりと、染まった褐色の肌に塗られた血。
どこまでが夢で、どこまでが現なのか。今、自分はどこにいるのか。
各々が目を覚ましたそこは――――――ラストホープの、病院。
目覚めた時の、空が白かった。