●リプレイ本文
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真っ直ぐに伸びるアスファルト上を抜ける、冷たい風。
思わず縮むように足をそろえる。エイミー・H・メイヤー(
gb5994)は、
暖を取るように、雨霧 零(
ga4508)のいれたココアを両手でしっかりと包んでいる。
「サンタさんのプレゼントを守る、プレゼントガーディアンか‥‥気合入れていかないとな!」
「その通りだよエイミー君。 夢を壊すような夢の無い輩は我々夢のある大人が夢見る子供たちの為に頑張らなくては!!」
目を合わせて意気込む二人のココアの湯気が風で霧散する。
上着が乾いた音を立てて、風に棚引かれていた。
「縁が無かったが‥‥まさかサンタ役を貰うとは‥‥」
カララク(
gb1394)の視線の先には、寒さに震えているかのようにアイドリングしている二台のトラック。
「存外、似合うと思うがな」
その鈍色のコンテナに背中を預け、煙草をふかしていた井上 雅に、
茶化さないでくれ、と視線を逸らす。
自身は『得られなかった』側の人間。なので子供には楽しみを与えたい。
不器用なせめてもの、と言う思いが、ここまでの道程を進めてきた。
「むっつりんとみやびんのサンタ姿、楽しみですよ!」
傍のコンテナから、エイミ・シーン(
gb9420)がリズムよく降りて小走りで近付いてきた。
サイズもバッチリなサンタ服を笑顔で差し出せば、
むっつりんことカララクと、みやびんこと雅は、じとっとした目で睨みつけるのだった。
「サンタか‥‥幾つまで信じてたっけな‥‥」
眩しいだけで温かみのない日光を浴びて、御守 剣清(
gb6210)が呟いた。
「信じるものは救われる、ですよー?」
藍風 耶子がエイミからもらった棒付き飴をくわえながら、ドアの開いたトラックの運転席で足をぷらぷらさせている。
その姿を一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)が目を細めてみていた。
恐らくこれが今年最後の傭兵としての仕事、ちゃんとした仕事納めにしないと、と、
寒空の下で長く張りきったせいか、僅かに頬は赤くなっていた。
「よーしサンタ諸君。もう一息ついたらそろそろ出ようか? 合言葉は! メリークリスマス!!」
零が握っていた懐中時計から目を離して声を張る。
休憩に止まった彼らの先には、まだまだ長い道のりが残っている。
全く他の交通が無いハイウェイでは、
わずかな風音だけの静寂が漂っていた。
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「パシリには自信があるのさ」
自信たっぷりの顔付きで、幌を外したジーザリオを運転しているのはイスネグ・サエレ(
gc4810)
その横でくすりと微笑むのは、弓を携えた立花 零次(
gc6227)
横と行っても助手席ではなく、ベルトを後ろに回して、助手席と背中合わせになるように体を固定している。
ドライバーの眼が届き辛い後ろ180度をカバーするように警戒していた。
車両隊列は、まずカララクと剣清がバイクで先行し偵察、
その後の車両にエイミー、零の乗りこむジーザリオ、
雅と耶子が運転するトラックの直衛として、側面にエイミと蒼子、
そして殿にイスネグ達という、トラックをしっかり包み込み、進路上の危険に備えるという構えだった。
(藍風さんがトラックを運転する姿‥‥何だか凄く違和感を感じるけど、そういえば彼女私より年上だったっけ)
蒼子がふとトラックに視線を向ければ、しっかり運転席から顔を出した耶子が八重歯を見せてにこりとする。
どうやって運転しているのか‥‥足は届くのか、他愛もない事が次々と浮かび、
そのうち蒼子は考えるのをやめた。
タクティカルゴーグルの望遠機能を使いながら、先頭を行くカララクが何度目かの異常無しを無線で飛ばす。
フリーハンズ用のインカムは雅が用意した。
「おや、どうやら偵察部隊には恐れを成したようですよ」
零次が弓に弾頭矢を番えて、8時の方向の空に飛ばす。
山なりに描いた弓の軌道は、そのまま鳥の群れへと飛び込んでゆき―――爆発。
衝撃を浴びてもなお、小さな爆煙から赤い障壁を微かに残し向かってくるそれは、紛れもなくキメラだった。
「子供たちのため、キメラなどに邪魔はさせませんよ」
「ガンガンやっちゃってください」
次々と弾頭矢を射ち込む零次を横に感じながら、なるべく車体を振らないよう安全を心掛けるイスネグ。
間に挟むように通常の矢で『急所突き』が成される時は、イスネグが『魂の共有』を発動し、練力を肩代わりする。
戦闘に参加出来ない分、それ以外をフォローする様は、パシリと呼ぶにはもったいない気の利き様である。
「4時方向からも来ますよ!」
エイミが視線を移せば、ミラーに収まりきらない程の鳥キメラの群れが写っていた。
腕を後ろに突き出し、肘まで覆う小手型の超機械、ミスティックTから電磁波を何発か発生させてゆく。
「任せたまえ!」
前方からエイミーが慎重に減速させたジーザリオが下がってくる。
風に髪を暴れさせながら、帽子をおさえ後部座席に乗り上げるようにした零が片手で拳銃を撃ち込んでゆく。
「名探偵さん、ソリから振り落とされないように頼むよ」
「心配無用だよ、優秀な御者が手綱を握っているからね!」
最悪、追ってこなければ良いと。乱戦に巻き込まれながらも的確に翼を穿ち、色濃い群れの濃さを確実に薄くしていった。
それでも全ての群れを晴らす訳にはいかず、朧のように何体かの鳥が近付いてきた。
そして、一瞬羽ばたきを止めたかと思うと、翼をたたみ矢のように急降下してきた。
「私が!」
蒼子がアクセルを捻り、トラックに近付いてくる敵との間に割り込む。
「くっ‥‥?!」
腕部に構えた盾からのダメージはさほど大したことはなかった。
が、二輪の機動に側面からの攻撃はハンドルを取られ、
蛇が暴れたような軌道を前輪が描く。
「蒼子サン!」
耶子が急いでハンドルを切り、コンテナを蒼子に近づける。
倒れそうになった蒼子は咄嗟に肩からコンテナの壁に倒れこむ。
それを支えとして、体のバネで弾き返すと、どうにかバランスを取り直した。
今まさに急降下の姿勢に入った数体に、嵐のように銃弾が叩きつけられる。
カララクが前方から『先手必勝』と『制圧射撃』を用いて、敵の攻撃の出鼻をくじいている。
敵が落ちてくる間合いへ入ったものから、仕留めず攻撃を止めるように銃弾を撃ちこんでゆく。
そうして動きの鈍くなった敵は、剣清が確実に狙って撃ち落としていった。
「使え!」
雅が撃ち終えたタイミングで偵察班二人に貫通弾を投げ渡す。
風に煽らながら、空のマグは道路へと解き放ち、口にくわえた弾を直接スライドから薬室へ滑らせて―――トリガー。
二条の筋が、群れに綺麗な穴を切り開いた。
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目立った被害もないまま、更に2時間。
追う敵もほぼ無くなってきたが、続く戦闘に疲労の色も見えてくる。
「‥‥ん?」
「もうちっとかかりそうだけど‥‥休憩ですか?」
カララクが怪訝な顔をしてゴーグルを外す。
まだ果てしなく伸びているはずだったハイウェイには、ゴツゴツとした壁が立ちはだかっていた。
やむなく手前で静止する。高さにして3〜5mだろうか。地上から更に10m上のハイウェイなので、
全体だともっとだろう。
「仕方が無い。柵を壊して下りの車線へ‥‥」
雅が指示し終えるよりも早く、揺れる地面。
固いアスファルトが波打ったかと思えば、滝のようにぼろぼろと崩れ落ちてゆく。
見れば、立ちはだかっていた壁は筋骨隆々な大男の体に、目玉は大きく一つという巨人型キメラだった。
「一つ目といったら、目玉が弱点なのがセオリーだね! そして目玉から」
ご明察。
ビームが出るね! という零の声は、アスファルトを焦がし砕いた音にかき消された。
「さすが名探偵さんだ」
「言ってる場合じゃないでしょう!」
蒼子が牽制しながら、バイクは急ぎUターン、車両も急ぎ後ろに下がっていく。
「?!」
トラックのコンテナ以上はありそうな太い腕が、道路上の車両めがけて薙ぎ払われる。
前身を掠められた雅のトラックは、乱暴にスリップして後ろへと飛ばされる。
渦潮のように後方車両も巻き込まれ、弾き飛ばされてしまった。
「井上さん‥‥!?」
「俺は大丈夫だ‥‥荷物は?」
横転してしまったジーザリオから急ぎ這い出る零次。
衝撃で喰い込んだベルトの痛みは食いしばって堪えて、動かない運転席のイスネグを引っ張り出す。
コンテナ、及びイスネグに目立った外傷は見受けられなかった。
「本当に目玉が弱点だといいんだけど‥‥」
ダンプが衝突してくるような勢いで振られる腕に接近を許してはもらえず、
剣清が弾倉内の銃を撃ちつくすと、超機械シャドウオーブに持ち替えて機動。
禍々しい黒球が吸いこまれるように巨人の瞳へと飛び爆ぜると、顔を覆うように目玉を抑え、苦悶の様な唸り声をあげた。
「まずいな。コンテナよりも道の方が壊れるのが早そうだ」
暴れ振るわれる両腕に、カララクが危険を察知する。
段々と削れ、穴の開いてくる道路。これ以上脆くならないよう、
振り上げられた腕を押し返すようにリボルバーを撃ち込んでゆく。
敵の凶眼から閃光が迸り始めたのを確認すると、蒼子が盾を構えてトラックとの間に入る。
受け止めて漏れる眩い光に目を眩まされるが、盾で敵の攻撃を追いかけるように構えて防ぎ抜く。
「車両は立て直せる!?」
「立花氏の車が‥‥?」
エイミーがドアに小銃を乗せて一気に弾を吐き出させている。
ミラーに映っている車両からは、機械の鼓動が感じられなかった。
「早めに戦闘を終わらせてから、ゆっくり修理するかね?」
エイミーの弾を追うように強弾撃を撃ち込みながら思案する零。
「動け、動けッ」
車の鍵の部分を取り出し、配線を何度も繋ぎ合わせて試すイスネグ。
「おっと‥‥」
イスネグの傍で彼を守っていた零次が、苦い顔をしてみせる。
後方から、人が通ることはないはずだった道を駆けてくる、何体もの群れを確認した。
「じゃあエイミサン、浪漫の星屑、イッパツいかがですー?」
豪力発現で持ちあげたトラックを地面に置かず、全身で掲げたままの耶子。
口よりも先に手が出て、エイミはアクセルを捻っていた。
斜めになったコンテナの上を駆ける。暴れるハンドルを押さえつけ、切れ目で跳躍―――
エイミのバイクは巨人の頭上スレスレまで接近すると、
両手を離し、上半身を捻ってロケットパンチを構え、発射。舌を噛みそうなので、必殺技名はお預けだ。
ダメージの重なった目玉を突き破り、拳が埋まってゆく。その勢いに折られるように、
巨人は後方の道路を巻き込んで倒れ込んでしまった。
「動いた!」
躍動感ある唸りをあげて、イスネグのジーザリオが復活する。
虎のような形のキメラが、既に車両の足元まで追いついている事に気がつくと、
耶子も自分のトラックに戻り、一同は蹴りつける勢いでアクセルを踏み込んだ。
「やれやれ、しつこいと嫌われますよ?」
ベルトをピンと張って足場の様にして固定して立つと、今まさに下で牙を剥いた虎の眉間に、矢を一本射ち立てた。
後方で転がっていくキメラを後に、傭兵達は全力疾走の輸送任務へとまた身を投じたのだった。
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「やぁやぁ、子供たち! 合言葉は!?」
『メリークリスマース!!』
荒廃した部分が目立つ、崩れたビル等が剥き出しの街。
そのオリーブ色のテントが並ぶ従軍キャンプに、何人ものサンタが降り立っていた。
「名探偵サンタさん、あれを見てくれ」
袋を担いだゴシックサンタがつんつんと促す。
「おやおや、ダメじゃないか二人とも。ほーらお顔を見せて笑ってごらん?」
入念につけひげをチェックしていたサンタのヒゲを取り、ゴシックサンタがもう一人の手を取り引っ張る。
上手く前に出れずにいたその二人は、むっつりサンタとクールサンタだった。
「いや、怖さを軽減できたらいいな‥‥と思ってな」
「優しくしてあげたいと思っている人のどこに怖さがあると言うんだい? 名探偵の眼は誤魔化せないよ!」
「どうしてもやらなきゃだめかしら‥‥?」
「蜜柑嬢も言っていただろう。子供は大人よりも正直だ、とね。逆に嫌々ならば我々の気持ちも敏感に感じ取るだろう」
表情が硬いのは寒さのせいだけではない。
むにーん、とヒゲの無くなった頬を伸ばすと、むっつりサンタは抵抗せず不思議な笑顔が作られる。
クールサンタも、仕事を中途半端にすることは許されない‥‥と自身のポリシーと葛藤しだす。
「サンタさん、プレゼントちょーだい‥‥?」
くいくい、とむっつりサンタ服の裾を引っ張る一人の少女。
ベストから自作のサンタ風ニット帽を取り出しかぶると、
静かに、けど丁寧に自分達の守った箱を渡せば、満面の笑顔でありがとう!とその子は駆けてゆく。
振り返って手を小さく振る様が愛らしい。その様子を見て、周りの子供達も二人のサンタにぞろぞろと群がってきた。
(‥‥ま、たまにはこういう仕事も悪くはない‥‥か)
その姿に、僅かに、ほんのわずかに口元が綻ぶサンタさん達だった。
「ほら、まだの子はこっちにもあるからおいで」
陽気なクリスマスソングを歌いながら近づいて来たパシリサンタがどさっ、と抱えていた大きい袋を降ろす。
子供の視線に合わせて話しかけると、自分も楽しそうにしてプレゼントを配ってゆく。
「子供は勿論だけど、大人もいい表情できる‥‥いいイベントだよな」
そんな様子を眺めて、ぽつりと語りかけるように呟く脱力系サンタ自身も、穏やかなカオを浮かべる事が出来ていた。
「お疲れですかー?」
壁に寄りかかっていた喫煙サンタの煙草を取り、代わりにチョコスティックを口に突っ込む妖精サンタは、
活動的なへそ出しホットパンツスタイルというサンタ服だった。
「‥‥寒くないのか?」
「子供達の笑顔が私達の活力ですよ♪」
ウィンク混じりで明るく答えると、
くるりと回って子供達の方へ駆けていった。
「じゃあ最後に、サンタの皆サンにもプレゼントですー♪」
幼女サンタが塔のように積んだ箱をふらふらと持ってくると、
傭兵サンタ達が各々受け取っていく。報酬扱いかと問えば、オレンジサンタからのプレゼント、という事だけが告げられた。
「そうだ、ではこちらも。誕生日おめでとうございます。探偵サンタさん」
和風サンタが、子供達へプレゼントを配る継ぎ目に、隣のサンタへ包装を渡す。
中にはコートと手袋が入っていた。
サンタからサンタへのプレゼントという光景も、またオツなものである。
「みんなたのしくメリークリスマス!」
プレゼントが溢れかえったところで、パシリサンタの掛け声で周囲はまた一気に沸き上がる。
戦災、貧困、寒空の下で過ごした時でも、せめて少しだけ、幸せだったと言えるように。
綺麗事だと笑われても、全ての人が、幸せになれるように―――優しく在れますように。
Merry Christmas & Happy New Year.