タイトル:Ops of Kathiawarマスター:墨上 古流人

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/23 09:02

●オープニング本文



 突き刺すような、何万ルクスもの太陽光。
 モンスーンがもたらす湿度を乾かしてくれそうな程に強い日差しの下にいるUPC軍は、
 それぞれ、胸元を扇ぐ、ただ耐える、軽くなった水筒を必死に傾けて水を飲む等して、
 この熱気に抗っていた。

「ほら、だれている場合じゃないわよ、そこ、さっさと起きなさいっ! 耶子は私のコーヒーを飲むな!」
 タープを張り、空き箱を並べただけの簡素な空間に集まる傭兵達。
 そこに、柚木 蜜柑が早足で現れる。

 ここ、インドはカーティヤワール半島の前線基地。
 物資はあちこちに積まれ、道は装甲車や人が縦横無尽にルール無しで動き回っている。
 粗野で慌しいが――緊張感が、張り詰めていた。

「集まってくれてありがとっ。もうすぐ移動開始だから、こんな場所しか用意できなくてゴメンねっ」
 腕や足には汗が滲み、
 ボブカットの髪から伝う水滴が、手元の電子端末に落ちる。
 
「ここでは、バーブル師団って人達が、国土の防衛や奪還に努めててね、半島や州周辺、ラクパトやマフバ、バーオナガル、バラベル、ボルバンダル‥‥などなど、色んな要所要所で活躍してくれてる人達がいるんだけど‥‥知ってる人も、いるんじゃないかしら?」
 私の。と力強い筆文字が表面に綴られた、かわいげのないタンブラーに口を付けてから、彼女は半島のマップを広げる。

「で、皆の協力もあって半島はほとんど攻略されてきてるの。残ってるのは、ここ。海に面した左上から、ドワルカ、カンパリヤ、ジャームナガル、ラインを引くようにならんだ、3つの都市」
 こぶのように出来た半島の上辺に、アラビア海に沿って3つのポイントに赤いマークが施されてゆく。

「半島のバグア軍が最も多く終結しているのが、ここ。真ん中のカンパリヤ。今回の作戦はね、このカンパリヤにUPC師団、左のドワルカには、ディアドラさんって人が率いてるディアドラ大隊、私達は、右のジャームナガル。ここを同時に攻略して一気に半島を取り戻そう! って言う作戦なの」
 三都同時攻略。
 一つずつ、時に躊躇し意を決し、確実に歩みを進めてきたこの戦いも、
 ここで火急の勢いに出る。
 その重ねてきた歴史と決断の重さを脳裏に感じながらの――困難にして、重要な作戦。
 
 
「概要は以上、覚えといてねっ。ここからは詳細、これは刻み込んでおくことっ」
 砂埃をかぶったA4サイズの紙が、傭兵達に配られていく。
 ヘッダーに掲げられたタイトルから、ジョードプル内部の情報だという事が伺えた。

「私達の具体的な目的は、この街の解放と、援軍が外に出ないように抑え込むこと。事前収集した情報は、そこに纏めてあるから目を通しておいてねっ」

 数人の傭兵が以前ここに潜入調査で訪れた際にわかったことが、紙の上に羅列されていた。
 この街は、アーユルヴェーダ、という人間の基礎回復力、免疫力の向上を目的とした医学を扱う大学や病院等が支配前からあり、
 そこを基礎として、今は半島バグア軍の軍事医療施設として機能している部分があるそうだ。
 レポートによると、その病院施設の地下に、何やら生物とも機械とも取れる不可解なもの――推定、キメラを研究しているところがあるという。

 街は基本的に、バグア側兵士が幅を効かせている以外は普通の暮らしが営まれているそうだ。
 レポートでは、前回、そんなバグア勢力に対抗すべく裏に隠れているレジスタンス組織とのパイプが作れたという。
 がが、協力してくれるか否かの詳細については、返事がもらえていないらしい。
 
 また、注目すべき事項の一つに、街を囲むように走る『列車砲』が配備されているという。
 道が広く、平野部もある事から、バグア軍がその他に使用する兵器は、車輪を伴う戦車や装甲車も多いそうだ。

「解放の為の条件としては‥‥抵抗する敵対勢力の無力化。それと、この街から医療や補給等の援軍が他の街へいかないようにする為の阻止。特に、うちが負けたりミスしたりしたら、援軍がカンパリヤに向かってって、そっちの戦いに影響するから、気を付けてねっ」
 同時攻略という重みを、再度傭兵達に乗せる蜜柑。
 どこかが瓦解しては、たちまち目に見えて戦況が大きく揺らいでしまう。
 三つ並んだ街の連携を断ちながら、各個撃破を進めていかなければならない作戦。
 見えない所、遠い戦地で戦う仲間を信じながら、目の前の敵を見なければならない戦いである。

「敵は主に兵器や強化人間、バグア軍、キメラ‥‥になるかしらね。海の方は、既に海軍を近海まで送ってあるから、皆の入りは街の中へ、ってことになるわよ」
 一通りの説明がすんだか、息をつきハンドタオルで汗を拭ったところで、
 軍服を着た男が蜜柑に声をかける。
 戻ってきた彼女は、移動開始よ、とだけ告げて、マップと散らばった小道具を集めだす。
 最後に、力と、思いの籠った眼で、傭兵達を見渡して口を開いた。

「ここでの戦いは、本当に長かったらしいわ。それが今、幕を降ろそうとしている。どうせなら、もう一度その幕を上げて、その裏から手を繋いで現れて、憂いを払って客席に礼が出来るような‥‥そんな、全てが報われる終焉にしましょうっ」

●参加者一覧

/ ドクター・ウェスト(ga0241) / セシリア・D・篠畑(ga0475) / ケイ・リヒャルト(ga0598) / 地堂球基(ga1094) / 須佐 武流(ga1461) / 小森バウト(ga4700) / 緋沼 京夜(ga6138) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 蓮田 倍章(gb4358) / 鹿島 綾(gb4549) / ウラキ(gb4922) / 神棟星嵐(gc1022) / 鹿島 灯華(gc1067) / 一ヶ瀬 蒼子(gc4104) / 立花 零次(gc6227

●リプレイ本文



 ブリーフィング後、UPC軍を含めた前線基地の面々は、
 ジャームナガルへとその歩を進めていった。
 生活感ある街並みの残る、整った都市。

 そこに飛びこむ、一発の砲火。
 ロケット弾を足元に喰らった巡回中の装甲車は、炎を吹いて跳ね上がる。
 そして、幾つもの怒号と銃声が解放戦の始まりを告げた。

 まだ粉塵の晴れ止まぬ石畳の上を、一台のジーザリオが大きく唸りをあげて飛びだしていった。
 ハンドルを忙しなく切りながら、運転席でけっひゃっひゃっ、と笑い声をあげているドクター・ウェスト(ga0241

「親バグア派ならば、我輩にとってキメラと変らない、つまり敵だ〜!」
 まだ進路上に味方は展開していない。それを良い事に、道の上の敵は跳ね飛ばしながら進んでいた。
 ボンネットでバウンドし、フロントガラスの上へと転がってゆく人を、彼は一顧だにしなかった。

 その先陣を追うように、一ヶ瀬 蒼子(gc4104)がバイクで駆け抜ける。
 倒れていく人を器用に避けながら、飛び交う銃撃の中をくぐり抜けてゆく。
 後ろには、腰に手をまわしてがっしりと藍風 耶子がしがみついていた。

「この前はわらびもちだったから‥‥今度は宇治抹茶のかき氷なんてどう?」
「あずきは沢山欲しいですー♪」
 蒼子が耶子を釣れる、いや、連れる見返りの話をしながら体を傾け大きくカーブした。
 彼女がいままで走っていたラインに、真っ直ぐ銃弾の群れが走る。

「捕まって!」
 思い切りアクセルを捻り、車体が鎌首とスピードをあげた。前輪の先には、固定機銃を放つ男。
 男が慌てて銃口の先を向けるが、引き金に指をかける前に、蒼子の体が横を抜ける。
 そして次の瞬間には、耶子が男の手元に刀を振り降ろしていた。 

 ウェストは、狂気の笑みを浮かべながら、暴れるハンドルを片手で抑えつけるように動かす。
 サスペンションを軋ませたジーザリオが敵の装甲車の横へと潜ると、窓から半身を乗り出してエネルギーガンを放つ。
 敵の銃手が胸に光を喰らい、車内へと落ちた。

 ストッピングパワーが強い敵の出迎えを的確に沈め、開いた隙へとUPCと傭兵が突撃し、
 徐々に戦力は街中へと散開していった。


 池のほとりに開けた、屋台やベンチ、憩いのスペースが解放された場所、
 そこは今や戦車や装甲車、移動式迫撃砲等が跋扈していた。

 セシリア・D・篠畑(ga0475)が建物の影から戦況を伺えば、
 UPCの歩兵数人が戦力差ある兵器の前に立ち往生していた。

「‥‥終らせましょう‥」
 静かに力強く、両手で超機械の銃を構える横から、
 緋沼 京夜(ga6138)が大口径ガトリング砲を抱えて現れた。
 目の前のバリケードにどかっと砲身を支えるように置くと、静かな数拍のモーター音の後、
 龍の息吹が如く、大量の弾丸が一度に吐き出されていく。
 SESと彼自身の腕を前に、鋼鉄の戦車も発砲スチロールのように装甲をズタズタにされていく。
 反撃の機銃がこちらに放たれるとすぐ様身を伏せた。背中に押し付けている土嚢が、衝撃で京夜の体を揺らす。
 迫撃砲の定点射撃を警戒していた彼は、態勢を整えセシリアに目で合図を出す。
 
 戦車や装甲車間の隙間、装填作業を行っていた迫撃砲に、真っ直ぐ黒色のエネルギーが飛びこむ。
 膨らんだ知覚のブラックホールは、迫撃砲と兵士を巻き込み手元と狙いを狂わせた。
 
「怯むなぁ! 体格差で押しつぶせ! 鉄の魂を見せてみろ!!」
 戦車のハッチから顔を出して怒鳴る男、周りの戦闘兵よりも幾らか上品な軍服に身を包んでいた。

「少しでもここで防衛しろ! 時間を稼げ! 鉄壁のラインは恐るるにたr――」
 口角泡を飛ばし叫んでいた男の言葉が途中で途切れる。
 男の頭を巻き込んだ銃弾の嵐が、音と衝撃で言葉を遮っていた。
 傷口を抑えながら銃撃の先を見るが、何もいない。
 そして後頭部にまた叩きこまれる銃弾。
 振り向きざまに拳銃を抜けば、そこにはM−121小型ガトリングを構えた、ケイ・リヒャルト(ga0598)が、
 既に体を翻し背中を見せていた。

「さぁ、踊ってみせて‥‥」
 石造の花壇や縁、建物の壁、軽やかに滑り、渡り歩いてはガトリング砲を浴びせてゆく。
「狙え! 周り込め! これ以上好きにさせるな!」
 指揮の元、機動力のある装甲車や戦車の砲撃が彼女を追いかけるが、
 まるで好奇心で追いかけてくる子供をあしらうかのように、するりと遮蔽から遮蔽を渡り歩く様は黒猫。
 
 アクセルを全開にしてケイを追いかける装甲車へ、京夜が重いガトリングを振り回す。
 剣で袈裟斬りするかのように、弾を吐き出し続けるガトリングを振り上げ弾の柱を叩きつけると、
 薙ぎ払われた装甲車に後続の追跡車もぶつかり、派手にスピンして広場の外へと転がっていった。
 駆動音を上げて、ケイを狙い回る戦車の砲塔へ、セシリアが超機械を撃ち込む、
 砲身の進路上に現れた球状のエネルギーがスムーズな動きを阻害し、
 その一瞬の虚を逃さず、ケイが砲口へと抜いた銃で二発。
 暗い穴の奥へと飛びこんだ銃弾とエネルギー弾が、車内で誘爆し、黒煙を上げて爆発した。
 破片が幾つか顔の横を抜けるが、煙の向こうから聞こえたブレーキ音に、自ら足を向けて行く。

「援軍を街の中へ要請しろ! ここが落ちたらどちらにせよ半島の戦闘はつづk‥‥」
 涙が滲むのを堪えながら通信を送る指揮官の体が凍る。
 煙が止むより早く現れた二つの銃身、そして余裕綽々の笑みを浮かべる目――

「あたしと踊って頂けますか?」
 もはや、武器を抜くことは出来なかった。戦車の装甲上で、容赦なく叩きつけられる銃撃。
 力なくだらりと下がった腕から無線が落ちる。推定強化人間の指揮官は、最早ステップを踏める状態ではなかった。
 
 指揮系統が乱れ、逃げ出そうとした親バグア兵を、京夜が掴み引き倒した。
「‥アナタが知りえる情報を、コチラは求めます」
 セシリアが、ブラックホールの銃口を向けて、静かに告げる。
 その静けさと、後腰のベルトを掴まれる感覚に、逃げ場をなくした男は観念するより他はなかった。
「こ‥‥殺すな! わかった! 援軍のルートと集積所の場所! それを教えればいいのか?!」



 街中の一帯で、やけに敵兵が少なく、キメラのみの確認がとれるという部分があった。
 蓮田 倍章(gb4358)が連絡を聞いてかけつけると、そこには確かに、敵軍が展開していない広めの路地があった。
 ここを抑えれば味方戦力の導入が楽になると、傍にいたUPC兵のチームが警戒しながら進んでゆく。
 すると、道をゆく前方の石畳が鋭い音と共にえぐれた。
 視線を上げれば、建物の上を身軽に飛び進んでくる、推定猿型のキメラが複数。
 その半身は機械に覆われ、肩には細い砲身の様なものが乗っかっていた。

「おお、いいね〜、ヒリヒリするぜ」
 壱式を抜き、柄を握り直し、現状を楽しむ倍章。
「蓮田流先行術、穿孔! なんてな」
 屋根の上からUPC兵に飛びかかろうとした猿キメラを、宙で捉える。
 真っ赤な刀身を深々と敵の生身の部分に突き刺し、地面へと振り落とした。
 だが、倍章が着地すると、その足元が大きな音と共に爆ぜた。
 足を吹き飛ばされる倍章、能力者の体のおかげで、破片による裂傷と軽いやけどだけで済んだが、
 刀身を地面に突き立て振るい立ち、どうにか堪える。

「KOOLだ、KOOLになるんだ‥‥」
 見ると、前方より飛び跳ねながら向かってくる猿型キメラは、
 道の上に着地する度、爆発する地雷に体こそ揺らしつつも、何事もなかったかのように進軍してくる。
 ここは、地雷原と、そこを涼しい顔で通る事が出来るキメラが構える、一方的な戦略的進路だったのだ。
 敵の攻撃を壱式で受け流しながら、その刀の影から小銃フリージアを撃ち込んでゆく。
 攻め込むことは難しいが、防戦一方となっていた。

 その地雷とキメラの群れの中から、ひとつだけ現れる人影。
 トンファーの様な形状の武器を両の手に構え、まるでキメラの群れをけしかけているかのように、
 魑魅魍魎の中でも毅然とした態度でこちらへと歩いてくる。

 太陽を背にし、屋根の上から飛びかかるそれは、猿ではなくもう一つの人影。
 男がトンファーの峰で受けた先には、ドリルのようにねじ込まれる須佐 武流(ga1461)の飛び蹴りが圧し掛かっていた。
 バク転のように体を返し、壁を蹴ってソバット。
 砲弾の如く飛び込んだ踵は、クロスしたトンファーで防がれてしまった。
 そして、トンファーで絡め取るように蹴り足を取りこむが、武流は肩を地面へと捻り、空いた足で延髄を蹴る。
 男がよろけて数歩後退する、男が立っていた所に手をつき、ブレイクダンスのように体躯を回して足を降ろす。
 偶然か必然か、地雷原の中、壁等を蹴って多角的な戦法を繰り出すのは、とても理にかなっていた。
 男が踏み込み、手首のスナップで不規則にトンファーを回転させる。
 最小限のスウェーで交わし、ボディーにミスティックTを叩きこもうとするが、小手をトンファーに弾かれてしまう。
 敵が体を回す、回避をしようとスコルのブースター――は、攻撃時の機動だった。
 あと数歩足りず、トンファーの短い部分が武流の鳩尾にめり込み、それに付随するように拳の衝撃が襲う。
 一瞬視界が揺らぐが、こみ上げた液を路上に吐き捨て、ミドルキックを振り回す。
 トンファーをボディーへと持ち上げるが、フェイク。
 武流は軌道の途中で膝を高くあげ、振り下ろすようにハイからの可変キック。
 予期せぬ頭部への衝撃は意識の消散へと繋がり、
 棒のように倒れた先で、男は地雷の爆発へと巻き込まれてしまった。

 倍章が何体目かの猿を切り伏せると、大きな音が近づいて来ることに気が付いた。
 視線を向ければ、それは少し離れた所で線路を走る、大仰な装備を積んだ列車砲だった。 



「雅、いるか?」
『あぁ、なんとかな』
 無線の先から、最小限に潜ませた声が聞こえてくる。
 自身も体を揺らさず、声も漏らさぬよう直接マイクへ話しかける
「‥‥大丈夫なのか?」
『問題はない。引き金を引くぐらいならこなしてみせる』
 時折聞こえてくる、苦悶を堪えた声と不規則な呼吸に不安があるが、
 それよりも、自身の状況と体調を信じた相手を信じる事にした。
「この前‥‥僕は、銃持って戦えと言われた方が気が楽だ、と言ったが‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥こんな作戦だと知っていたら、あれは言わなかったね」
『皮肉なもんだな。 いきあたりばったりではなく、もう少し後々を見越した説明の出来るオペレーターに変えるべきかも知れん』
「‥‥確かに、彼女の無茶振りは本物だ。 さて‥‥良い一日を」
 細めた目の先で、スコープのレティクルが浮かんでいる。
 地に伏せ、物影からライフルを伸ばしているウラキ(gb4922)が、通信を終えて敵を見据えた。
 線路を警備するように走る、装甲車と戦車、ちょうどカーブし覗き窓が無防備に露出した所へ――発砲。
 派手なマズルフラッシュと共に大口径の弾丸が射出され、15cm程の窓に鋭く飛び込むと、防弾ガラスを粉々にして貫通した。 

(巨大なだけだ‥‥脆い)
 一発の威力で豪快に跳ねる対物ライフルを抑え込み、続けてもう一発。
 能力者のライフルは凄まじい威力で、敵の戦車に穴をあける。破った窓から、血飛沫が吹き出すのが見えた。

 ライフルを巻き込むように抱えて転がり遮蔽の裏へ。すぐさま起き上がり建物の中へと姿をくらます。
(同じ場所から何発も撃たない‥‥狙撃をわかっているな。 ‥‥味方でよかったと思える奴は、久しぶりだ)
 狙撃の方角を特定して進路を変えた装甲車を、スコープの中で捉える雅。
 血の気の少ない指でトリガーを引くと、機関部に巨大な穴をあけられた車は不自然な態勢で横滑りし、
 建物の壁へと激突する。地面と垂直になったサンルーフから、生きながらえた兵士が転がり出てきたが、
 立ちあがる頃には、胴体を弾丸で吹き飛ばされていた。
 複数個所からの狙撃に臆したか、警備の群れはそこから動きが鈍くなっていった。

「ん‥‥?」
 最後の一発を撃とうとして、ギリギリで何とか止める。
 雅がいる方向へ向けられた右拳。そこには、雅も見慣れたものがついていた。
 怪しまれないように適度な間隔で伏せ、遮蔽の奥へと滑りこんだのは小森バウト(ga4700)だった。

「多方面の敵の狙撃! 恐らく相当の数だ、一旦こっちへ!」
 味方――もちろんバウトにとっては敵だが――を自分の元へと呼び寄せ、高架の下へと誘導する。
 だがそこにまたしても流れ込む銃弾。移動したウラキにとっては絶好の射線だったのだ。
 またしても右手のエミタをわざと見えるようにし、逃げるように『振舞う』
 敵の軍服を奪ってきている彼は、敵の統率から簡単に抜け出せなくなっていたが、逆に様々な演技で敵の懐から翻弄していた。
 そして、倒れた敵からはさり気なく装備を回収していく。

「援護してくれ! 一気に駆け抜けるぞ!」
 今度は先陣を切り広場をかけていく。後ろから味方が黙ってついてくる所をみると、
 もしかしたら自分が奪った服は、それなりの位置の者の装備だったのかもしれない。
 壊れた戦車を通り抜けてから、手元で手に入れていた武器のスイッチを押すと、
 戦車が中から勢いよく爆ぜ、まるで巨大な手榴弾のように衝撃と破片をまき散らした。
 普通に攻撃するなら、爆薬や手榴弾よりも能力者のSESの方が純粋な威力では上だが、
 一気に敵を潰すにはこちらが効率的か。
 当然、後ろからついてきていた者達は吹き飛ばされていた。

● 
 高架の上を走る列車砲、それを下から猛スピードで追いかける二つの影。
 そのうちの一つ、AU−KVの上から、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)拳銃を構える。
 その先にはこっそりと移動しようとしていたバウトがいたが、右手のエミタを確認して、慌てて銃を下げた。
 広場の状況を確認し、ここは良いだろうと判断すると、
 目で隣の神棟星嵐(gc1022)に促し、また列車砲を追うことにした。

「前に得た情報がここに来てようやく活かす事が出来そうです」
 ウラキと街の調査に赴いた際入手していた路線図が役に立っていた。
 線路沿いに進み、警備の濃い所を後続の仲間達の為に相手どり、援護となしていた。

 少し開けた田園地帯を線路が進んでゆく。
 広い道の前方で、兵員輸送用のトラックが走り、多数の敵軍が群がっていた。
 星嵐が片手を離し腕を突き出すと、籠手型の超機械から電磁波が発生し敵を包む。
 一撃で倒れなかった者を確認すると、ユーリはバイク状態から飛び出しリンドブルムを着装、
 装輪で衛星軌道のようにトラックの周りを回りながら拳銃を撃ちこんでゆく。
 敵の男は、大きな鎚を盾にして弾を防ぐ。多少を喰らっても倒れない辺り、推定強化人間か。
 リロードの隙をつき、運転手にブレーキを促すと、慣性の素早い軌道でユーリに近づき、黒金の塊を振り下ろす。
 鋭い音で装輪のタイヤが地面を削り、紙一重でかわした。
 掠っただけで自分の内臓をも揺さぶる程に、一撃は重かった。
 その避けた先に銃を構える数人の兵士。 
 煩わしさに歯噛みしながら、機械剣を抜き近づくと敵のライフルを焼き斬る。
 その隣の敵が、足元に星嵐の電磁波を喰らって荷台から落ちる。落とした銃はユーリが遠くへ蹴り飛ばした。

 向き直ったユーリの即頭部に、ズシリとした衝撃が飛びこむ。
 頭から横に吹き飛び、堅い地面を火花と共に滑り、酷い音が鎧内で鋭く響く。
 ハンマーの一撃を喰らって倒れたユーリに、振りかぶって飛び降りる強化人間。
 不敵な笑みを浮かべて今にも彼を叩き潰そうと振り下ろされた鎚は、途中から力を無くし質量に任せて地面に落ちた。
 アスタロトの竜の翼を展開し、男の背中に凄皇弐式を突き立てる星嵐。
 レーザーの刃が腹を突き破り、倒れたユーリの視界にも飛びこんでいた。そのまま止めを刺すべく機械剣を抜く。
 男ももがくが、血が溢れる体では重い鎚を抜けず、起きあがった勢いで突きこむユーリの刃に、息を絶たれてしまった。


「2時方向、あれは‥‥?」
「列車砲だな。使わせると不味い」
 バイクに跨りながら、ゴーグルの数倍率の先に巨躯の移動砲台を捉えるのは灯華(gc1067
 隣では、同じくバイクで鹿島 綾(gb4549)が寄りそうように横づけしていた。
 彼女らは、ユーリ達が線路の警備を足止めしたことと、ウラキ達の事前情報の路線図によって、
 列車砲の進路上に先回りすることが出来ていた。

「えぇ、少々厄介そうですね‥‥行きますか?」
「ああ。出る杭は打たないとな」
 街中のUPC軍へ、細かい銃撃と腹に響く砲撃を放ちながら近づいてくる列車砲。
 力強く見据えてから、二人は別々の方へ視線を向け、各々のバイクのスタンドを蹴って飛びだした。

 正面から近づいてゆくと、まずは副砲の機銃が綾の進路を邪魔するように斉射してきた。
 器用に蛇行で交わしながら、綾は拳銃で牽制してみる。
 だがまだ車両の上や側部に人影も見えず、不安定な挙動からの照準は安定しないので、敵の脆い部分を狙い辛い。
 すれ違う瞬間でUターン、土煙を上げて態勢を立て直し、どうにか列車と並行して走るような形に持ち込んだ。
 UPCの援軍が駆け付け、綾から少し離れて装甲車が現れた。
 すると、ロケット砲の様なものを構えて、列車上部のハッチから敵兵が現れる。
 エイムの猶予は無い、隙を逃さぬようあるだけ引き金を引けば、
 胸に三発喰らった男は、未発射のロケット砲と共に列車から転がり落ちた。

 UPC兵からの歓声を聞きながら一両目へ肉薄するが、どうにも次の行動へ踏み込めない。
 そのなりや本当に鉄の塊で、車輪も装甲の裏へと隠れ、覗き窓もこの姿勢では牽制程度にしか撃ちこめず、
 隙という隙が掴めない彼女は、歯痒さを覚え初めていた。

 そんな綾の前方から走ってくる一台のバイク。
 体を凸凹と上下に揺らしつつ、大胆にも線路上を走ってくるそれは、灯華だった。
 手首を少しずつ戻し、飛ばしてきたバイクのスピードを少し下げる。

「これでどうですか‥‥っ!」
 必死な面持ちで、正面から列車に突っ込んでゆく灯華。
 そして、数拍ギリギリのところで線路の横へと体を投げ出した。
 地面へ転がる灯華、そして残されたバイク――
 
 一瞬乗り上げるようにして、バイクを飲み込む列車。そして、聞こえるくぐもった爆発音。
 線路や機関部の振動では無い、激しく細かい縦横への揺れを見せる。
 まだ彼女らには見えないが、列車内部は相当慌ただしくなっていた。

 

「我々も死力を尽くします。どうか協力してください」
 むき出しの鉄骨と、打ちっ放しのコンクリート壁に囲まれた空間。
 色とりどりの瓶が並ぶライトアップされたカウンターと、幾つかのビリヤード台。
 地下に広がる静かなプールバーにて、立花 零次(gc6227)の声が響いた。
 彼の目の前では、それなりの人数の老若男女が揃い顔を突き合わせていた。

「軍が介入してくれないから、僕達が蜂起しようと思っていたわけだけど‥‥今更僕らが出て行って、何か出来るかい?」
 カウンターに一人で座る、レジスタンスをまとめているという男。
 静かだが、不思議と通る声で、零次に視線を向けた。

「装甲車や戦車といった、生身の人間にとって脅威となるものは積極的に排除しています。今、いえ、今だからこそ、皆さんの力を奮って欲しいんです」
 口に手を当てすこし考える素振りを見せる男。
 切れ長の目が横を向き、整った柔らかい髪が首を傾げた拍子に揺れた。
 彼が迷っているのは、恐らく、今更何か出来ることがあるのかという事。
 零次の眼を見直す。それは、せっかくだから自分の街は自分の手で解放してもらおうという、情けをかけた気づかいでは決してない。
 彼らが必要、彼らじゃなきゃ駄目なんだという力強い静かな訴え。 恐らく、誰でもいいという事なら、リーダーは腰をあげなかっただろう。

「自由への礎を築く為に、僕らも息を潜めて来たんだ。協力にはやぶさかじゃないよ。 ついておいで、軍がカンパリヤへ向かうルートを教えよう」
 裏口のドアを開け、招くように体を向ける男。
 その挙兵の合図に、レジスタンスのメンバーは威勢よく声をあげて各々が武器を握りだした。



「急げ! 運びだせ! 端末は軽いものだけ運んで他は壊せ!」
 とある街外れの倉庫では、金属板の上を走りまわる沢山の靴の音が響いていた。
 慌ただしく巻き上げられる大きなシャッター、
 その奥では装甲車と数台のトラック、それを守るように兵士が何人か乗りこんでいた。

 シャッターが開き切る前に、急いでトラックは飛びだすが、
 明るくなった視界の前に立つ、一つの人影。
 その男は、業火を握っているような剣を肩の上に振りかぶり――
 
 弧を描いた炎のオーラ、そして剣の軌道はトラックに飲み込まれていくように描かれる。
 動力と車輪をやられたトラックは横倒しになり、続く車両も乗り上げ巻き込まれていった。

「能力者がここを嗅ぎつけたぞ! 急げ! 火力を前に持ってこい!」
 頭を振って正気を保つ男が叫ぶ間に、京夜はすぐさま建物へと隠れる。
 窓ガラスを銃口の先で突くように割り、遮蔽を確保してから掃射。
 物理的火力の猛攻により、入口周辺から内部の戦力は釘づけにされていた。

 積まれていた転倒車による不作為のバリケードが、ゆっくりと倉庫前から外へと押し出されてくる。
 目を凝らせば、車と車の間から見える長い砲身。部品を力強く踏みつけるキャタピラ音。
 倉庫内の戦車が、活路を切り開こうと必死に力を込めていた。

「‥一気に吹き飛ばします‥」
 その出てきた杭、覗きこむ砲口に吸い込まれていく黒色の塊。
 掠った部分を破壊していく程に増強された威力の超機械は、
 装填されたばかりの砲弾に触れ、炸裂。
 キャタピラの隙間や砲身の継ぎ目から炎が漏れ、衝撃で様々な破片が辺りに散った。

「今だ! 出せ! 全員乗ってキメラを放て!」
 爆発で開いた隙間の様な道から2〜3台のトラックが飛びだしてくる。
 京夜が弾丸をばら撒くが、二台の男が大剣の鎬を盾に受け止める。
 
 そして、巣穴のように開いた隙間をこじ開けるように出てくる腕と、脚の様な巨躯。
 積み残された車両を道の端まで吹き飛ばし、大きな槍を振り回す半人半馬のケンタウルスが現れた。
 
 京夜が移動しようとした矢先、機械のような施しを受けた腹部から、
 煙の軌道を尾にロケット弾が発射され、窓に飛びこんできた。
 部屋の奥で着弾し、煙と瓦礫に視界を惑わされるが、急ぎガトリングを抱えて移動を開始。
 哮り立つと共に槍で建物ごと薙ぎ払う。だが崩れた壁の先には既に京夜はいなかった。

 前脚を上げて進路を変えるが、着地したその二本脚を二つの球体が襲う。
 膝を全て包み込むブラックホールのエネルギーが、ケンタウルスのバランスを奪う。

「邪魔しないで頂戴。ワルツに貴方達は必要ないの‥‥」
 屋根の上から弓なりに放たれる矢は、ケンタウルスの頸椎から背中の神経系、
 人体でも急所となり得る部分に降りつのってゆく。
 あまり相手にしている暇はない、味方の状況を確認すると、ふいっと顔を背けて軽やかに足場を降りてゆく。

 怯んだケンタウルスの横を虹色の光線が飛ぶ。
 セシリアが放った矢は、背後に回り込んだ京夜が受け取り――
 砲炎が京夜の顔を照らす。刺さった矢を薙ぎ払うように掃射されたガトリングに、
 全ての足と、半身を屈してその場に崩れた。

 思いがけず時間を割いたが、3人は警戒しながら集積所内へと突入して仕上げに入った。
 
 

 集積所から逃げ伸びたトラックは、広い道を避け、蟻の巣の様な細く入り組んだ道を行く。
 だが、戦闘をゆくトラックが、地図では伸びている道を何かの障害物に阻まれてしまう。
 首を傾げ、強化人間にどかしてもらうようけしかけると、
 開いた視界を、男が見る事はなかった。
 UPC軍と、レジスタンスによる一斉射撃。
 そのシメを弾頭矢の着弾が担う。

「行かせません。一台でも一体でも多く、落としてみせます」
 零次が次のターゲットを見据え、矢をつがえて言う。
 重装備の敵軍もどうにか沈めたので、レジスタンスとUPC軍の士気は最早前傾姿勢となっていた。

 反撃に血を流す者達を、地堂球基(ga1094)が練成治療で回復してゆく。
 仲間のほとんどを回復の射程内に含むには、ほぼ味方の中央に居る必要があった。
 敵の流れ弾や砲撃に注意しながら、回復を進め、前線の猛攻をしかける味方にも、背中を押すように回復の援護。
 声をかけあいながら軍の唯一の能力者と回復のタイミングを連携し、非能力者の被害を抑えていた。
 
 零次は数発撃つと隠密潜行を使用、砲火や爆煙とは離れるように迂回し、
 また新たな建物、遮蔽から矢を放ってゆく。弾頭矢の衝撃は車両にはかなりの効果を発揮していた。
「あそこの窓だ!」
 自身に向けられる銃口に気付くと、急いで窓から飛び出し、一階の屋根を伝う。
 そして迅雷で路地に飛びこむと、その暗がりからまた鋭い一撃を撃ち込んだ。
 今、最後の一台のタイヤに矢を突き刺した。石畳の上にタイヤの痕を描いてスピンし、荷台から沢山の敵兵を放りだしてゆく。
 その男達を囲むように、レジスタンスとUPC兵。
 他の考え得る退路も、レジスタンスの指示の元、UPC兵が向かっていると言う。
 これ以上、援軍が街の出口へと近づくことはなかった。




 重量で押しつぶしたおかげで、即脱線には至らなかったが、
 バイクの燃料の爆発と、細かく部品を絡み込んだ列車の挙動からはスムーズさが消え、少し怪しい運行となった。

「ここまで来たらあと一歩。とにかく何とかしなくちゃな」
 線路の警備が減り、多くのUPC軍と傭兵達が列車砲に追いついた今、
 ユーリと星嵐も列車砲に追従するようにAU−KVを走らせていた。
 スピードが落ちてきた列車砲は、今や大勢の兵士達が武器を構えて外に飛び出し、
 近づく者へ猛砲火を浴びせていた。
 大きく車体を揺らしながら放たれる主砲や副砲も合わせて、必死に弾丸の嵐の中を掻い潜っていくAU−KV。
 列車の縁で手榴弾のピンを抜いた男に、急ぎユーリがP−38を発砲。
 スピード差で流れるように連射された弾は兵士の足に辺り、線路外へと落ちる。残された手榴弾は暴発し、列車の足場を一部破壊した。
 ユーリに仕留められた分の補充兵が扉から飛び出してくるが、拳を突き出し電磁波を放ってその扉を狙い続ける星嵐。
 その星嵐を静かに狙う、散弾の副砲。

「――ッ!」
 攻撃をしながらのバイクでの咄嗟の反応は難しかった。
 前輪から体の正面にかけてを、殴りつけられたような衝撃が星嵐を襲う。
 バランスを崩し方から落ちる、服と地肌が地面に破かれ、そのまま後方へと転がってしまう。
 銃をちょうど撃ち尽くしたユーリがこの場は任せ、スピードを落とし星嵐の回収に向かった。

 入れ違うようにウェストのジーザリオが前に出て列車砲と並ぶ。
 後輪が砂利を吹き出し、猛スピードで一両目、主砲のある所を狙っていた。
 ふと、その主砲が車をほぼ飲み込んでしまう程の大きさの砲口を向ける。
 ギラつく目を前に向け、更にアクセルを踏み込む。後ろから蹴飛ばされたような衝撃が遅い、
 数秒前ウェストがいたそこには、巨大な穴があき、土砂の雨が降っていた。

 装填までの隙を突き、態勢を整えるべく急ハンドル。サスが大きな音を立てて軋み、
 体が運転席のドアへと持っていかれて肩をぶつけた。
 ウェストがが狙うのは、換気部。戦車を攻める要領で鉄に閉ざされた内部の空調を乱すべく、
 目いっぱい伸ばした腕で、エネルギーガンの引き金をひく。
 排気口の網を突き破り、奥まで伸びていく弾道。
 そして次の瞬間放たれる主砲。
 排気口からは空気の流れが出てこない、しばらくして、ハッチやドアから煙と共に酷い勢いで兵士達が飛びだしてきた。
 主砲の排煙が操舵部に充満し、燻されてしまったのだ。

「さあ、今ココにいるのは誰か、分かるかね〜」
 いつのまにか横づけで走るジーザリオ。
 その運転席から、咳込んでいる兵士達に語りかけるのは、
 目のようなディスプレイの覚醒紋章を、羽根のように大きく広げた狂乱の紅孔雀。
 容赦のない猛攻を、最早竦み上がって動けない指揮官、下士官構わず浴びせてゆく男は、
 敵の悲鳴の中で一人たからかに慄然とする笑い声を上げていた。

 
 バイクを犠牲にして地に落ちた灯華は、綾が手を取り回収していた。
「にしても。無茶をしたなぁ、灯華」
 砲台の射角を把握した綾が、死角に潜り込み、灯華と共に車輪を攻撃していく。
 装甲に包まれた車輪は正面の際どい角度からでないと攻撃が届かず、合間で敵兵士がロケット砲やランチャーを放ってくるので、
 それも相手にしなければならない。
 だが、脱線への決定打に難儀していた訳では、決してなかった。

「一手は、先に‥‥ですね」
 灯華の合図で綾が線路から離れていく。
 敵の追い打ちを紙一重で交わしながら、周りの味方も巻き込まれないように連絡を入れる。
 数拍後、銀河へ駆けだす鉄道のように、列車砲が大きく線路から離れて空を仰いだ。
 その車輪の足元は、灯華がバイクを突撃させる前に、進路先で予め破壊しておいた線路の部分だった。

「こいつも貰ってぶっ飛べ!」
 宙に浮いた瞬間、ブーストでまた接近する。
 露出した車輪にめがけて、天地撃を突きだす。
 鋭い衝撃で車輪がバラバラに吹き飛び、綾の攻撃の威力で上手く線路に着地出来なかった列車は横に逸れ、レールに縛られない道を走る。
 動力が残る限り、最後の悪あがきを続けるようだ。挙動こそ既に車で真っ直ぐ走る方が早いが、敵も砲撃も、その手を休めてはいなかった。
 
 砕けた大きな装甲の破片等をバリケードに、陣を汲み最後の抵抗を見せる敵軍。
 UPC側が一度降伏を呼びかけたが、先頭で手斧を振り回し大立ち回りをしていた男が、やってはいけない指の仕草で返した。
 その男の胸元が抉られたように吹き飛ぶ。
 貫通せず、後ろに吹き飛ばされる衝撃を踏みとどまる男、
 だが間髪いれず、今度は顔面を襲う大口径の弾丸。
 進路上に回り込み、待ち受けていた場所より手前で脱線した列車を見て駆け付けたウラキと雅が、
 離れた場所にある線路の縁に伏せ、列車砲制圧の脅威となりそうな敵を順次狙撃し味方の援護をしていた。

 擦れる金属音を上げながら、震える砲身でなおも銃撃を続ける砲身を、
 列車砲へ駆け付けた蒼子が次々と魔刀『鵺』で刈り取ってゆく。
 弱った銃撃は彼女の盾でも凌げる程だ、接近し、勢いよく刀を降りおろして砲門を潰してゆく。
 ロールケーキのようにバラバラと切られていく銃身は、発射の直前にライフリングを無くして検討もつかない方向へ飛んでゆく。
 リロードの途切れた銃口には、盾を押しつけ、ガスの抜け道を無くした装填済みの弾を暴発させる。
 耶子も彼女に銃口やロケット弾を向ける兵士に、短刀を投げつけ安全を確保し、
 また次々と砲身が屠られていった。
 最後に、接近してきた敵につかう小窓のような散弾砲に刀を突き立てる。
 壁一枚を隔てて内部での暴発した銃声を確認してから、ゆっくりと刀を抜いた。
 
 キメラの群れと強化人間を倒して進んできた武流は、残りの強化人間らしき敵を相手どり乱脚を繰り出してゆく。
 倍章も持ち合わせて来た紺碧の剣や淡黄家の刀等を巧みに取り出しては振り回し列車砲までの活路を開いていた。
 段々静かになってきたところで、最後まで開かなかったハッチがようやく蓋をあける。
 倍章が異種刀の連撃で切りかかるが、腕の力でハッチから飛びだして男は警戒に避けた。

「あんたもやるねー」
 非能力者ではないと判断し、山の様な装甲の破片を蹴り跳びながら近づく武流。
 だがその男は慌てて右手をあげ――

「爆発するぞ! 出来るだけ遠くまで逃げろ!」
 エミタと、リモコンスイッチをチラつかせて大声をあげる。
 列車のスピードが落ちてから敵軍の服のまま潜入し、失敬した手榴弾や爆薬等をセットして脱出してきた、バウト。

 静かになった草原部、
 海風の爽やかさになれた土地には、今、鉄や火薬の匂いが重く広がっている。
 そして、見守るような視線を集めながら、低く、遠くまで地を揺らし響く爆発。
 高々とあがる列車砲の噴煙は、戦闘終了の狼煙となった。



「なぁ、灯華。こういうのも、人身事故って言うのかな?」
 すっかり冷たくなった列車砲を見ながら、
 慌ただしくなってゆく街を見下ろす綾と灯華。

 後続に待機していた軍が街へなだれ込み、
 細かい部分のクリアをもって、この街はほぼ制圧となった。
 人も少しずつ街に戻るそうだが‥‥。

「あれー、ここだけ残ってるんですねー?」
 どこから手に入れたか、蒼子にもらった宇治抹茶のかき氷を食べながら出歩いていた耶子が、
 白く大きな建物の前できょとんとする。 

 ひとつだけ。
 この、軍事医療施設にだけは能力者の足が及ばなかったようだ。
 だが削り合いの消耗戦となったこの戦い、
 事前に得ていた情報から敵軍はほとんどが倒れたか拘束されたかだった。
 施設を動かす者がいない以上はとりあえずの安全を判断し、
 油断せず厳重に周りに監視が敷かれている。

「‥‥一杯やってから、帰りたいね。 ‥‥祝杯に、なるか?」
 ウラキがとあるプールバーの前に広がる、タルや木箱の上におかれた酒や食べ物を見て思い立った。
 レジスタンスがささやかながら、戦闘に参加したものへの慰労を用意しているようだ。
 グラスを一つ手にとると風になびく前髪が目をさらう、
 空を仰ぐと、忙しなくヘリが飛び交っていた。
 見えず、会わずとも手に取るように行動を読みあったバディは、今頃あの中の一つにいるのだろうか。
 雅は戦闘が終了すると、一言ウラキに礼を言ってから、涼しそう(に取り繕った)な顔で、早々に戦場から下がっていた。
 
 月が、濡れたように輝いている。
 点在する星々を結んで一つを成す星座のように、
 一つ一つ、振り払われてもしがみついて光らせてきた実りが、
 いま大業となり、実感となる。

 カーティヤワール半島は、バグア軍から解放された。